ビックラーメン

『男性専科』
(東京都港区虎ノ門)

特に美貌の盛りなお店を探していたわけではないのだが、先日ネットサーフィン中にあるお店の情報をキャッチした。虎ノ門に、「ビックラーメン」というお店あり、そこのラーメンの盛りが素晴らしいというのだ。

虎ノ門?

虎ノ門にお客さんがいた事もあり、私は頻繁にあのあたりをうろうろしていた時期があった。そのときの虎ノ門の印象といえば、古い建物が多く、飲食店も歴史を感じさせるものが多いというものだった。全体的にくすんだ町という感じで、飲食店は多いのだが、私自身は食事の場としては認識したことがない。そんな中に盛りの良いお店があるというのは、意外な印象を受けた。 地道なフィールドワークをしていないと、こういうお店は発見できないのだなと自分の見込みの甘さを痛感。

ただ単に「麺の大盛り無料」であるとか、麺の多さを自慢するのであれば食べようという気にはならなかった。しかし、私の興味を惹いたのは、このお店の場合ラーメンに乗せる野菜の盛りが素晴らしい、という事だった。その量、最大で1,300g。キロ単位で野菜を盛るというのだ、これは驚かずにいられない。

ラーメンの野菜といえば、このサイトでもおなじみのラーメン二郎がラーメン界の横綱だ。横綱、というより対抗馬がいない状態だ。あんなに暴力的にヤサイを盛りつけるお店は、他にはない。真空地帯を我が物顔で進むラーメンだ。

・・・と、思っていた。

しかし、探せばあるものだな。1,300gの野菜が盛りつけられるとなると、十分に二郎の代替食になり得るのではないか。お店に行ったものの臨時休業で涙を飲んだ「二郎難民」の救済場所候補の可能性もある。これは、ぜひ現地調査をしなければなるまい。

ビックラーメン外観。

年期入ってます仕事の都合上、お昼時より早い時間に現地に到着した。

狭い路地の中に、「ビックラーメン」はあった。そうか、「ビッグ(big)」ではなく「ビック(bic)」なのだな。ビックカメラみたいだ。

いかにも古くから営業してますよ、という感じのお店だ。建物そのものが既に味がある。

外観の写真を撮影しようとカメラの用意をしていたら、まだ昼食時でもないのに次々とお客さんが店内に吸い込まれていった。結構な繁盛店らしい。この調子だと、お昼時は行列ができそうだ。

そういえば、入口脇には、道路向きにテレビが設置されていてテレビ番組が流されていた。街頭テレビ状態だ。力道山の試合でも放送しているかと思ったが、さすがにそんなことはない。どうやら、待ち行列を作っているお客さん向けのサービスらしい。ということは、行列が常態化しているということなのだろう。恐るべし虎ノ門。

中央左側がビッグラーメン。

UFOみたい店名に「ラーメン」がついているものの、基本的には中華料理屋らしい。お昼時はラーメンを中心としたメニューしか扱っていないようだが、13時を回ると炒め物料理などがメニューに加わり、にぎやかな品そろえになる模様。

さて、そんなメニューだが、まず目を惹くのが中段左、ビッグラーメン。おっ、こっちはbigラーメンなんだな。店名がビックで、ラーメンはビッグなんだから紛らわしい。

このビッグラーメン、野菜大盛850gと書かれている。素晴らしい。遠目で見ると、てんこもりにしたご飯に見える。しかし実際はこれが野菜で覆い尽くされた丼、というわけなんだから楽しいじゃないか。これで680円は相当お値打ち品だ。おなかいっぱいになること、請け合いだ。

これが男性専科の写真。

ボリューム感が伝わってこないしかし、私が今回逢ってみたいと思っていたラーメンは850gごときの野菜ではない。

あった。「男性専科」。

麺2玉、野菜1,300g。お値段は1,000円。

さすがにお札が必要となる値段になってしまうのだが、それにしても1,300gって一体どういう基準で選定したんだか。中華鍋に野菜が入る限界の量、とか丼に盛りつけられる限界の量、を測ってみたら1,300gでした、という物理的制約と思われるのが、何やら怖い。

以前、CoCo壱番屋やインドのとなりで、「ライス1,300g+ルー700g=2,000gのカレーライスを20分以内で食べ切れれば無料」というのを食べた事がある。あのときは、白米が1,300gだったわけだが、今回はそれが野菜に置き換わる。どちらの方が胃袋に厳しいかというと、恐らく野菜だろう。野菜はかさがあるため、胃袋を完全に塞いでしまうからだ。

まあ、今回は大食いチャレンジをしにきたわけではない。美貌の盛りに出会うためだ。無理はしないで、食べられると思ったら注文するし、無理だと思ったら大人しくビッグラーメンに留めておくべきだ。それが大人だ。

あの、すいません、男性専科お願いします。

やっぱり注文するんか。

入口でおねーさんに注文し、前払いするという制度だったので、「メニューを見て悩む」「ぎりぎりまで優柔不断で悩む」なんて暇を与えてくれなかった。「えっ、ここで注文っすか」って驚いているうちに男性専科をオーダーしてしまった。

座席は、お金を払ったおねーさんの指示する場所に座ることを義務づけられた。いや、そこテーブル席で相席じゃないですか、と思って空いているカウンター席に行こうとしたら、「ああ、そっち駄目、こっち」とやっぱり相席を強要された。どうやら、端から客を詰めていくスタイルのお店らしい。テーブル席カウンター席いろいろあるが、お客さんに選択の権利は無い。

ビックラーメン。至近距離すぎてボリューム感が伝わらないのが残念

待つこと10分ほど。厨房を眺めていると、調理人さんが何やら重そうに中華鍋を扱っている。順番からいって、どうやらあれが男性専科になるようだ。このお店の場合、ラーメン二郎と違いちゃんと野菜を中華鍋で調理するようだ。スープと一緒に煮込むので、スープに野菜の味がしみ出てウマー、なわけだ。

・・・だったっけ?そういえば、スープってほとんど飲まなかったな。

何しろこの盛りだ!

「はいお待たせしました、男性専科!」
「男性専科ですぅー!」
「ほい、お待たせぇ」

厨房の調理人さんが、いつものオーダー完成時とは違う気合いの入った声で宣告する。カウンターの奥からどん、と出てきた丼は、他の人が食べているものよりも一回り以上大きいものだった。うわ、重そう。

考えてみれば、野菜だけで1.3キロあるんだっけ。麺、スープ、丼の重さをあわせると3キロ近くあるのではないか。そりゃ重い。

目の前にどかっと置かれた丼は、誰がどう見ても「ラーメン」ではなかった。メンマが添えられているので、かろうじてラーメンっぽくはあるのだが、麺の気配がどこにもない。ひたすら野菜の山。いや、そもそも「これが料理だ」という事すら、にわかには信じられないくらいだ。何か別の料理を作るために、あらかじめ材料を下ごしらえしておきました・・・っていう感じだ。ちょっとショックな盛りつけだ。

早速カメラを取り出して撮影を行うのだが、狭い座席であるが故にこの盛りの豪快さをうまく写真に収めることができない。もっと引きの画をとりたかったのだが、これが限界。

この丼からはみ出た盛り全部が野菜と思ってください

横から見た図。丼が大きいので、チョモランマがごとき険峻な山を形成していない盛りだ。しかし、このどっぷりとした山裾を見よ。なるほど、確かにこれは量が多い。最低でも、この丼のすりきり部分より上は100%野菜なわけだ。麺なんて全体の量からすれば微々たるものだ。これは凄い。

野菜は、キャベツを中心にしてもやし、にら、にんじん、めんま、わかめ。あと、ランチタイムサービスで無料で数種類の中から無料トッピングを選ぶ事ができたので、コーンを追加で乗せている。

これだけ食べたら、翌朝の便通はどうなるんだろう。繊維だらけだから、相当かさが増えそうな気がする。

食べる前から、そういうところが気になってしまう。

分厚いチャーシュー。

箸を動かすとコーンが転がり落ちるのが難しいチャーシュー。無造作に、大きめの肉がスライスされて1枚、野菜山に張り付いていた。値段の割には良心的な大きさだ。

さて、早速食べる。野菜をスープに浸して食べたいところだが、スープははるか下層にあるため、当然無理。あまり味がしない野菜を延々と食べることになる。まあ、この辺りはラーメン二郎と一緒だ。

しかし、似て非なる点としては、ラーメン二郎の野菜マシマシ状態よりもさらに食べにくいということだ。いろいろな野菜が、堅さが違う状態で盛りつけられている。野菜を引っ張り出す際の箸の侵入角、そして離脱角度とスピードを気をつけないと、野菜の山が土砂崩れをおこす。しかも、山のてっぺんにはコーンという凶悪なトッピングが。まさに将棋崩しだ、そーっと野菜をほじらないと、上からコーンがころころと転がり落ちてくる。

しばらくラーメンと格闘していたが、一つ忘れものをしていた。そういえば、ラーメンが出てくる前にゆで卵が1個、サービスされてたっけ。箸休めでゆで卵をいただく。そして、またラーメン、いや、野菜と格闘。

食べ終わった時点で満腹感はあったけど、野菜尽くしの料理による満腹感だったためになんだか変な感じだった。胃袋に風船を入れて膨らませて、満腹になった気になる、みたいな。

1,000円払ってラーメンを食べる、というのがコストパフォーマンスとして妥当なのかどうかはわからない。しかし、1,300gという異形なる野菜盛りを目で楽しみ、そして実際胃袋で楽しむという機会はなかなかないことだ。実際、お店としてはこの盛りの割には良心的な価格設定にしているわけで、とても気持ちよくお店を後にすることができた。

男性専科、女性でも頼めるのかどうか不明だが、「ここ一発ガツンと野菜が食べたい!」という人にはお勧めしたい。

(2005.06.22)

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