ためしにおかでんもやってみるが、明らかに不機嫌そうな顔をして逃げられた。こういう時だけは野良猫だな。しぶちょおに対しては飼い猫のように振る舞うのに。不公平だ。
こら、にらみつけるのはよせ。
宿に入ってみてびっくり。
6人がいっぺんに泊まれる部屋があるというので、それなりに広いんだろうとは思っていたが、まさか二段ベッドの部屋だとは。しかも、3つの二段ベッドが並び、まさにわれわれ6 名が泊まるのにあつらえたかのような状態。
「どこで寝る?」
一同、思わずうれしくなってしまって寝る場所をジャンケンで決めるありさま。
しかし、子供じゃあるまいし、上の段で寝るのは何かと不自由。下の段から順に埋まっていった。
それにしてもこの部屋、われわれが6名だったから良かったものの、それ以外の時はどういう使われ方をしているんだろうか?家族四人で泊まります、なんて時は二つベッドが空くということか。なんだかもったいない気がする。
まさか、単身者が泊まる際によくご利用になっています・・・ええ、もちろん相部屋です、なんてことになっていることはあるまい。
宿の風呂には全く期待していなかった。入る気がしない。なぜなら、松山といえば道後温泉があるから。それ、道後温泉まで繰り出してお風呂入るぞ。
しばらく歩いて電停まで行き、そこから電車に乗る。
途中電車を乗り換え、道後温泉駅へ。
このあたりは温泉と夏目漱石の「坊ちゃん」の世界。ほら、うどん屋の店頭では、多分坊ちゃんなんだろう青年が丼を手にしているぞ。
道後温泉。おかでんは初めての訪問。
入湯料をチャリンと払って中に入ればオッケー、なのかと思ったら、いろいろなコースがあってびっくり。あかすりコースとか塩サウナコースとか。いや、ごめん、そういうのはないんだけど。
まず、いっちゃん安いのが「神の湯階下(300円)」。東京都の銭湯よりも安いぞ。
次に、「神の湯二階席(620円)」になり、これだと神の湯の入浴+二階にあるお座敷でくつろぐ権利が与えられるらしい。
入浴格差社会はそれだけでは気が済まなかったらしく、お風呂そのものも別なプランが存在した。「霊(たま)の湯二階席(980円)」。霊の湯と呼ばれる神の湯とは別の湯に入り、しかもお座敷も別。貸しタオルまで付くぞ。手ぶらで入浴できるってことだ。でもお値段は相当よろしくなってきている。
そして一番高いのが「霊の湯三階個室(1,240円)」。なんと個室まで用意されていたのだった。すげー。お値段も4桁になってスゲー。そのかわり、お茶請けに坊ちゃん団子が出てくるぞ。
そういえば、夏目漱石の「坊ちゃん」でも、道後温泉でぜいたくしたって話があったような気がする。明治時代には既にこういう格差社会があったということだろう。
われわれは、風呂入ってハイさようならという「神の湯階下」じゃあ物足りないので、ワンランク上の「神の湯二階席」を選択した。
神の湯は人でいっぱい。芋の子を洗うようだ、という形容はまさにぴったりだ。松山に観光で訪れた人の大半がこの道後温泉に訪れているだろうから、混んで当然といえば当然。なるほど、その混雑がイヤならさらに高い値段払って、空いている「霊の湯」に入り給へ、というわけか。
風呂上がり、二階席でくつろぐ。お金を払っただけあって、浴衣がついてくる。宿で一泊するわけではないけど、風情ってもんがありますんで、浴衣は着用する。
クーラーなんてものはない。桟敷の外は大きく開いているので、自然の風が時折そよそよと入ってくる。後は人力。うちわをあおげあおげ。
お茶とせんべいが出てくるので、それを頂きながら、まったりとすごす。うん、やっぱり道後温泉に来たなら二階席(または三階席)に上がっておくべきだ。
しぶちょおとひびさん。
浴衣姿で、ひげ面のしぶちょおとその傍らにいる女性、ひびさん。
おかでんがこの様子を評して
「砦にいる山賊と、以前山賊に拉致されてきた小娘だけど、月日の経過とともに情が移って今や山賊の傍らにずっといるヒト」。
さらにそこから発展し、
「娘は両親を山賊に殺されて、最初は恨んでいたけど、山賊の生い立ちと信念を知るにつけ今では赦すように」
・・・この一枚の写真で妄想膨らませすぎだ。その辺でやめとけ。
でも、当時写真を撮影したとき、本当にそう思ったのだからしかたがない。
浴衣姿のアワレみ隊一同。
さすがに女性のひびさんは浴衣をの着脱が大変だからか、普段着のままだ。
「と、思わせておいて、この服を脱ぐと浴衣が!」
なんてことはない。
アワレみ隊各位の身長差を知るうえでは貴重な資料だ。アニメ化するときにはぜひこの写真でキャラクターデザインをどうぞ。アニメ化?何をトチ狂ったことを言うか、君は。
もう夜なので、夕食を食べることにする。
今回の宿も、高知の夜同様夕食なしの一泊朝食付き。
特にここで食べたい、という要望はなかったし情報もなかったので、道後温泉のすぐ近く、まさに道後温泉の向かいにある「道後麦酒館」というところに入った。
「道後ビール」のほかに、「漱石ビール」「坊ちゃんビール」「マドンナビール」などがあって面白い。しかし、がっつり飲み食いしたいぜ、というお年頃の人たちにとって、こういう地ビールのブルワリーパブはやや敷居が高かった。料理も、ビールも若干お値段が高めだからだ。
酒を飲まないしぶちょおや前日の余韻がまだ残るしうめえ、ひびさんがいるのでお酒は全体的に控えめ。
電車に乗って宿に戻る。
宿の最寄駅で降りたところで、ラーメン屋の灯りを発見。
道後麦酒館で満足いくまで食べていなかったおかでん、がぜん気になる。しかも、「地獄ラーメン」というのがあって、「一丁目、二丁目・・・」と辛さを段階的にあげることができるというのがいい。昨日はアルコール地獄、今日はカラさ地獄。いいアイディアだ。
・・いや、なんで「地獄」に自ら足を突っ込んで「いいアイディア」なんだか。でも、こういうのは一度気になると仕方がない、やめられない。
結局、「そのまま宿に残る」3名と、「おかでん+自分の小腹を満たす」3名に分かれて行動することになった。小腹を満たす組はおかでん、ばばろあ、しぶちょお。もっとも、この3名のうちおかでんを除く2名は、地獄ラーメンを食べたいわけでもなく、「地獄ラーメンを見てみたい」というほうだ。だから、2名は普通のラーメンを注文。
地獄に突撃したいおかでんが注文したのは地獄ラーメン・5丁目。出てきたラーメンはネギやコーン、バターなどが乗っかった札幌ラーメン。でも、色が若干不穏な気配。
汗はかいたけど、おいしくいただいてしまった。
地獄ラーメンを食べきった人にはデザートとしてアイスクリームが進呈されるので、それも頂く。うん、よいお夜食になった。
壁に貼るから何か一筆を、と店の人に言われたので、渡された紙にこう書いた。
「全然辛くないと思った僕は味覚障害?」
とぼけて書いているけど、たぶんその推測はあまり間違っていないと思う。でも、それだったら10丁目とか20丁目とかにしとけばよかった。
いや、待て待て。われわれは車で移動する放浪の旅の最中。あまりにも激辛なものを頼んでしまうと、翌日おなかがゴロゴロしてしまうのでピンチだ。車の中で「トイレ!お手洗いを早く!」なんて叫んでいる図はあまり美しいものではない。
宿に戻って、あれこれ話す。
二段ベッドからひょっこり顔を出しながらおしゃべりをするのは、なんだか楽しい。
さすがに昨日のことがあってか、テーブル上にはソフトドリンクのみが並ぶ。すっかりおとなしくなってしまった。
ここで清酒飲むぞ!といっても、昨日すでに一升瓶を空けてしまって存在しない。あとはウィスキーということになるが、ウィスキーを飲むとあっという間に昨日の二の舞になるからやめておこう。
うっかりウーロン茶を布団にこぼしてしまったおかでん。
「おもらししてしまったみたいではないか!」と慌てる。
1999年07月19日(月) 3日目
三日目の朝。
昨日ほど朦朧とした感じもなく、かといってさわやかな朝というわけでもなく、全員起床。朝風呂を一発かませばしゃっきりするのだろうけど、宿としてはそんなユーザーフレンドリーなつくりになっているわけでもない。寝癖そのままで朝ごはん。
朝ごはんは箱型の器に間仕切りがついたもの。ここに伊勢海老やらかまぼこを入れたら、おせちっぽくなるね・・・というものだ。食器洗いを簡素化するために導入したものらしい。
こういうの、山小屋でも時々見かける。
でもさすがにこういうお皿を使っていても、お茶碗までは一体化していないのが通例だ。ご飯が日本人のソウルフードであるならば、お茶碗はソウル食器だと思う。
めいめいもくもくと食べる。
ばばろあが、この朝食のメイン料理である小魚のつくだ煮を鼻に入れるというボケをしている。だからどうした、と言ってはいけない。
宿の前で記念撮影。
なんだか、誇らしげなのはなぜだろう。
3日目の午前は松山城に登ってみることにした。
全体としては平たんな松山市中央部だが、その真ん中には小高い丘がある。そこが松山城。
上に登るためにリフトに乗る。スキー場でもないのにリフトに乗るのは初めての体験。これはこれで結構楽しい。
もちろん徒歩でも登れるのだが、20分から30分程度かかるということなので、リフトやロープウェーが完備されている。もちろん有料。
松山城は日本に十二か所残されている、江戸時代から残る天守閣のお城。
天守閣の上に登ると、丘の上ということも相まって眺めがよい。とはいえ、この日は夏特有の霞んだ天気だったため、感嘆の声を上げるほどではなかった。
松山城で記念撮影。
この旅行では記念撮影が多いな。
お金をおろしたい、という人がいたので、地図で見つけた郵便局に行ってみることにした。
するとびっくり、ここの郵便局、「ドライブスルー」という看板を掲げているぞ。
うそだろう?と疑心暗鬼になりながら車を進めてみたら、驚いた。本当にATMが運転席から操作できる。
これはすごい。いや、大してすごくはないのだが、初めて見たのでそういう観点ですごい。
試しにお金をおろすしうめえだたったが、運転席から身を乗り出して操作するのでやりにくいったらありゃしない。ちゃんと車を幅寄せしていないと、操作しづらいだけでなく盗難の危機でもある。物陰に隠れていた盗人がばっと現れてお金を奪っていくかもしれない。
なんでこんなものを作ったんだ、と思うが、駐車場スペースを確保するよりもドライブスルーATMを作った方が楽、と思ったのかもしれない。しかし、いわば金庫が野ざらしになっているようなものなので、車をATMに激突させて壊して中身を盗む、といった強引な泥棒が出てきてもおかしくない状況ではある。
お昼に開通してまださほど時間が経っていない「しまなみ海道」を渡ろう、という話になったので、お昼ご飯は今治で食べることにした。しまなみ海道の途中にある島で、海産物を使った料理を食べるというのは魅力だったが、やはりここは今治で。
というのは、今治には「10円寿司」というお店があるからだった。2カン105円の回転寿司屋はあれど、10円というのはないだろうどうだどうだ。
お店は大通りに面していないので、しばらく今治の街をうろうろしたが、発見。お店は若干古ぼけた感じだが、看板が目立つので「目の前の通りを素通りしてしまった」ようなチョンボは発生しないので安心。
10円寿司とは、ミニサイズの握り寿司1カン10円×25カン=250円という料理。1カンから売っているわけではなく、25カン一皿250円で売られている。
ミニサイズとはいえ、25カンもあるのでトータルではそこそこボリュームはある。ミニサイズになったのは、「10円」に固執したから、という理由もあるけど、小ぶりでも美味くて安い地魚をネタに使っているかららしい。
ご主人がマシーンのように寿司を握る。なにせ一人前25カンだ、1カン握る手間はノーマルの寿司でも10円寿司でも大差はない。もうけの割に手間がかかりすぎる、ご主人泣かせの品だ。客としては申し訳ない気持ちになるが、店頭には「今治名物10円寿司」という看板が出ているし、お店の売りにしているのであまり気にすることはなさそうだ。
とはいえ、10円寿司だけでお店を後にするのはなんとも申し訳ない。だから、ここは利ザヤが大きく儲かりそうなメニューを注文しなければ。すいません、大生ください。
ビール大、700円。これはお店の人は労せず儲かるのでよいだろう。これをぐいぐい飲んで、お店にお金を落とそう。それがせめてもの、10円寿司に対するお礼。
ついでに、吸い物200円も。これもお店としては比較的利益が出るだろう。
ちなみにこのお店、上寿司というものが10円寿司とは別にあり、お値段は8カンで350円。25カン250円の10円寿司と比べるとずいぶんゴージャスに感じるが、なにせ寿司のサイズが違うから当然といえば当然だ。ゴージャスとはいえ、1カン40円ちょっとなのだからこれでも鼻血ものの安さ。
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