幸い、大日寺からそれほど離れていないところに郊外型スーパーがあった。「これも何かのご縁」とかなんとかいいながら、そこで食材を買い求める。食材の選定はアワレみ隊の料理長であるばばろあにおまかせ。おかでんは酒選び、酒が飲めないしぶちょおは自分専用のソフトドリンク選び。
ここまでは良かったのだが、キャンプ地選びでもめた。基本的にばばろあとおかでんは指向性が異なる性格なため、「さてどうしよう」となったときに意見がかみあわない。しぶちょおは中立的立場で二人の仲裁役になる。一人が「この道右に行った方がいいんじゃないか」と言えば、もう一人は「左じゃないか」と言う。しぶちょおは「どっちか早く決めてくれ。ハンドルが切れん」という。
つきあいが長い間柄なので仲が険悪になるというわけではないのだが、初日夜にしてすったもんだをしまくってしまった。まだまだ修行が足りないのぅ。それでこそ遍路しがいがある、とも言えるが。
うろうろしているうちに、真っ暗なのでよくわからんがなにやら公園らしき場所の駐車場を発見。というか迷い込んだ。車が一台も停まっていなかったし、トイレがあって便利なのでその駐車場の片隅に大本営を設営することに決定。
暗闇の中、車からテント類及び食材の搬出を行う。
風でガスストーブの火力が弱まらないように、駐車場端の側溝にストーブを設置、調理を開始した。
ばばろあが野菜を切ったり炒めたりしている間、おかでんとしぶちょおはテント設営を担当。
ランタンをできるだけ高いところに設置して、広い範囲を照らしたいところだが・・・
「こういう手段があるぞ」
しぶちょおが、金剛杖を持ち出した。車のキャリアに金剛杖を挟んで横棒とし、そこにランタンをぶら下げるというものだ。
非常に塩梅がよさそうなナイス提案だったが、金剛杖はお大師様の化身。「ランタンホルダー代わり」に使ったら失礼にあたるってえもんだ。しばらく「良心の呵責」と「利便性」を天秤にかけて迷ったが、実施はやめておいた。
そんなことをしている間に、ばばろあはフライパンいっぱいのナスをヘッドライトの明かりの下で炒めていた。
1時間弱ほどででき上がった、栄えある初日の晩餐。
さっきまでフライパンでナスを炒めていたはずが、いつの間にかフライパンは姿を消して大鍋になっていた。
ばばろあが自信満々に言う。
「麻婆茄子と、麻婆豆腐と、麻婆春雨をドッキングさせた」
単品を3人前作るくらいだったら、3種類を混ぜたらどうかという逆転の発想だ。ベースとなる麻婆味は一緒なのだから、確かにこれは賢い。いろいろな食感が一度に楽しめる。
あとは、スーパーで売られていたお総菜2品と、ごはん。
お酒はビール。あと、「すだち酒」というのが珍しかったので買ってみた。
ご飯を3人で食べるにしては大量に炊いているが、これはしぶちょお用だ。しぶちょおは酒を飲まないかわりに、白米を大いに食らう。酒飲みの立場としても、「もう僕食事終わりました、暇です」とされるよりもご飯をもりもり食べてくれていた方がありがたい。しぶちょおの食いっぷりを肴にビールを飲む。
三人で初日を振り返る。
「まあ、ほぼ予定通りの進捗状況だったんじゃないかな」
「徳島ラーメン、食べたかった・・・今徳島市なんだよな。明日、朝から開いてるラーメン屋さんないかな」
「そもそも遍路でうまいもの食おうとしとる段階で間違っとるで」
「そりゃそうだけど」
「言っとくけどこのペースじゃ危ないで?明日からはもっとペースアップしないと」
今日は13札所まで行って大変よく頑張りました、ではある。単純計算すると7日間で91番までは行けることになるので、八十八カ所巡りは順調な出だしと言える。だが、ばばろあが危惧するのは
「この先『修行の高知』が待っとるんで?室戸岬、足摺岬の先端までいかんといかんのじゃけえ、今日みたいに調子よく行けるとはかぎらんで。行けるうちにどんどん先にすすまにゃあ」
「いや、でも大丈夫なんじゃないの?僕、できれば佐田岬にも立ち寄ってみたいな、くらいの感覚なんだけど」
おかでんは楽観主義だ。「八十八カ所に間に合わなくてもそれがアワレみ隊」くらいの認識なので、お気楽。一転、ばばろあはもっとストイックに先へ進むことを考えていた。恐らく、「1日前倒しで巡礼終了しても構わない」くらいの意気込みだったと思われる。
いずれにせよ、今日は初日。スタートが遅かったということもあるので、まだ「われわれはどこまで1日で進むことができるのか?」という事がつかめていない。実態を知るためには明日の夜を待たないといけないだろう。
明日は二番目の県、「修行の高知」に突入予定だ。
2001年04月29日(日曜日) 第2日目
2日目の夜明けを迎えた。
空はよどんでいる。いつ雨が降ってもおかしくない状態だ。
明るくなって、ようやく自分たちがどんなところにいたのかがわかった。本当に駐車場の隅っこに陣取ったのね、自分たち。
車は一台もないのだから、もっと堂々と店を広げても良かったんだが、やはりそこは「こじんまりしている方が安心」というやつだ。
あと、「暴走族がたまり場にしていたら怖いな」という懸念も提起されていた。だから、できるだけ目立たないように、隅っこに。
「あれ、あんなところに」
明るくなって気付いた事のもう一つが、駐車場の奥には弥生時代の住居が建てられていたということだった。夜だと全く気付かなかった。
ここは昔の遺跡跡なのだろうか。それを整備して、今は歴史民族公園にしたとか?
よくわからない。
テントをばらすしぶちょお。
相当湿度が高くなってきており、テントは雨でも降ったかのようにびっしょりと濡れていた。
その横で、おかでんの寝袋が裏返しにされて干されているのだが、この湿気の中じゃ全然無意味。返って湿気を含んでしまった感じ。
二日目の朝食。
目玉焼きと、そば雑炊。
そば雑炊は良くできていて、大変においしかった。
ばばろあは機転がきくし、料理が上手いのでキャンプに居てくれるとありがたい存在だ。
小雨が降ってきはじめたので、アワレみ隊一同は食料とmy皿を持って洗面所に避難。ここには屋根があるし、ご丁寧にベンチまである。
ベンチを机代わりにして鍋やら食器を並べ、食事をする一同。
洗面所なので、食器洗いがすぐにできるというのが利点。
使った食器を水でゆすぐ。
便利だなあ、とそのときは思ったが、考えてみればこの先水が確保できる野宿場所ってどれだけあるんだろうか。今回はたまたま幸運な場所で宿泊できたけど、この先5泊は一体どうなっちゃうんだろうか。
・・・という心配をこの段階でしていなければならなかったのだが、特に心配せずに「食器片付けたら出発するぞー」くらいのノリだった。
荷物をまとめ、われわれは今日もお寺巡りを開始した。
まず目指すは、14番札所の常楽寺。昨日最後に訪れた13番札所大日寺からは2.5キロしか離れていない場所だが、われわれは宿を求めてへんろ道から大きく逸れてしまっている。カーナビでこれから先訪れる数カ所の札所を行き先登録・立ち寄り地点登録して出発。
ほどなく、常楽寺に到着した。
駐車場から境内に向かう道の傍らに、池があった。
そこには、溺れて必死の形相をした子供の絵と「あぶない!ちかよるな」と書かれた看板が。あまりに子供が水しぶきをあげて悲惨な状態になっているので、「こりゃ近寄る気にならんよなあ」とつくづく思った。でも、あまのじゃくな人は逆にこの絵を見て池に近寄りたくなるかもしれない。劇薬指定な絵だな。
[14番札所 常楽寺(じょうらくじ) 徳島県徳島市国府町]
本日一番目の札所となる常楽寺。
ここは山門がなく、門柱だけだった。
ややや。
この境内、岩盤の上にあるぞ。土ではなく、岩がむきだしになっている。石段から本道へと続く石畳があるのだが、岩盤のところにくると「もうダメです」とそれ以上の建築を放棄してしまっている。
岩の上を歩く。当然ぼこぼこして、不安定で歩きにくい。うっかり転ばないように足下注意。
本堂も岩盤の上に建っているのには驚いた。よくバランスとれたなあ。というより、よくこんなところにお寺を建立したなあ。
[15番札所 国分寺(こくぶんじ) 徳島県徳島市国府町]
常楽寺からたった1kmのところにある国分寺。
入り口の石碑を見ると、曹洞宗のお寺だそうだ。でも、ちゃんと大師堂が境内にはあるところが不思議。
国分寺にあった、このあたり周辺の札所地図。
この看板に4カ所の札所が描かれている。昨日初期の頃同様、この徳島市内ステージも札所密集地帯だ。どんどん先に行こう。
観音寺まで2km。近い。
ただしこのお寺、駐車場を発見できなかった(実際はあるらしい)。このあたりは住宅地であり、車の往来がそこそこある上に道幅がそれほど広いわけではない。
「んー、どうしたものか」
とか言ってると、しぶちょおがちょうど良い場所を発見。
観音寺にほど近い交差点に、無駄に広い歩道スペースがあった。そこに停めちゃえ、と。ぐいっ。
「まあ、車にも歩行者にも迷惑がかからない場所だから良しとしよう」
それにしても、なぜこんなに歩道が広いんだ。区画整理の際何か寸法ミスがあったのだろうか。車一台停めても、まだあと2台は並列駐車できる幅があるぞ。
観音寺への道の途中、お地蔵さんとともに道標があった。古くてよく読めないが、「あっち」と指さしている絵が彫り込まれてあった。恐らく歩き遍路の人向けの道標なのだろう。
歩いている人はこういうのを頼りに、そして心強く感じながら一歩一歩を踏みしめているわけだな。
[16番札所 観音寺(かんおんじ) 徳島県徳島市国府町]
山門に到着してみると、「お遍路ツアー御一行様」用のものと思われる、マイクロバスがどかーんと入り口を塞いでいた。
「呆れた。こんなに堂々と路駐するなんて」
いくらなんでも下品だろう、と思う。車から降りて徒歩3歩で山門、山門をくぐればすぐに本堂と大師堂だ。お経をあげて納経帳に記帳してもらったらすぐに次へGO、ということか。
われわれも似たようなことをやっているので人の事は言えないのだが、ちょっとこのマイクロバスはやりすぎ。
なぜご立腹なのかというと、記念撮影ができんではないか、ということだ。仕方がないので、斜めの角度から撮影した。
何を撮影したいんだか、何の記念撮影だかさっぱりわからない写真に仕上がった。
[17番札所 井戸寺(いどじ) 徳島県徳島市国府町]
JRの線路を越え、3kmで17番札所井戸寺。
これで、徳島市内の「札所固め打ちスポット」終了。次の18番恩山寺までは20kmのやや長丁場。
井戸寺境内。
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