おかでん「えー、何げに緊迫してきました。何でこんなところで緊迫なのか、といいますと・・・次の分岐が302号さんとの対決になるからですね。こんなところにも302号さんがいるとは。さすが環状線、というわけで名古屋起点のサイコロの旅である今回、どっち方面に向かってもこの302号さんとの直接対決は逃れられないわけです。さて、この次の分岐では、真っ直ぐ行けばいよいよ愛知県脱出、念願の三重県に突入することになります。左に曲がると、またもや302号ピストン。行き止まりを折り返してくることになります。右に曲がった場合は、環状線を周回し始める訳ですが、次の国道1号分岐で左に曲がることができれば、やっぱり三重県大接近ですし302号さんがわれわれを手放そうとしなかったとしても、常に「左折さえできれば名古屋引力からの脱出」ができるというラッキータイムな状態なわけです。これは確実にものにしたい!ということで、次こそは、おかでんがいい目を出してこれまでの屈辱を二倍三倍にして晴らしてくれようぞ」
ばばろあ「頼むで、ほんまに」
おかでん「では、サイコロの目はいつも通りで。1,4左。2,5真っ直ぐ。3,6右」
♪何がでるかな、何がでるかな・・・うぉりゃっ。
4!
おかでん「うぉっ!?」
しぶちょお「うっ」
おかでん「1,3。2,5・・・あれ?ええと」
混乱する車中。あまりに重要な選択だったため、一瞬4の目がどの道を指しているのかわからなくなってしまった。
方向を指さし確認しながら、反復する。
おかでん「ええと、左、1,4。まっすぐ・・・あ!4、左だ!ピストンだ!」
しぶちょお「ぬおおお。ピストンおかでんめ。やっぱり、やっぱり」
ばばろあ「ほんまねぇ、何でそっちの目をだすかねぇ。今日そんなのばっかり」
おかでん「ピストンだ。ごめーん・・・がっくり」
しぶちょお「まだ名古屋から逃げられないのか」
おかでん「やっぱりピストンか。302号さん、しぶとい!しつこい!」
しぶちょお「離してくれないのねぇ、302号さんってば」
おかでん「えーと。今、盲腸国道を不毛なピストンしてきたところです。なにやら殺風景な場所なんですが。先ほど、伊勢湾岸道路の下にひょっとしたら302号が延伸してりゃせんかと捜索してみたんですが、無駄足でした。また来た道を逆戻り、23号分岐の手前に戻って参りました。結局、今日午前中のうちに、302号さんの頭とつま先を両方」
おかでん「さて、左折は先ほど釣り逃した桑名。真っ直ぐは名古屋環状302号でぐるりと名古屋周辺散策。右折で、今来た道をエンヤコラと戻る、と。左折だとうれしい、真っ直ぐだと首の皮一枚つながった状態、右折で何やってるんですかアンタたち、ということになります。で、今、ばばろあは車外に出て、思いっきり気合いを入れてサイコロを投げるとのことです。確かに、今日はほとんど外でサイコロを振っていないので、ここらあたりで一発、お天道様の下でサイコロを振らなくっちゃ」
おかでん「おーい、準備はいいかー」
ばばろあ「えーでー」
おかでん「じゃ、行っちゃってください・・・って、おい!まだサイコロの目を決めてないじゃないか。相変わらずばばろあ早すぎ!ええと、じゃあ、通常通りで、1,4で左折、2,5で真っ直ぐ、3,6で右折ね。左折よろしくー」
おかでん「いくぞー」
♪何がでるかな、何がでるかな・・・遠くで、走り回るばばろあ。サイコロが投げられた。
おかでん「・・・?」
ばばろあ「2ぃ!」
しぶちょお「真っ直ぐか!」
おかでん「うわ、微妙だなあ。三重県に入ること、できず」
しぶちょお「やっぱり、302号さんと戯れるわけね、わしら」
おかでん「うーん、やっぱり、かぁ」
結局、302号を北上開始。
ここまで302号さんに翻弄されると、笑い話では済まなくなってきた。本当に、302号さんに魅入られているとしか思えない。はっきり言って、恐怖だ。このまま、今日も1日名古屋から脱出できないんじゃないか・・・。まだ午前中にも関わらず、そのような恐怖が周囲を包み込む。
おかでん「えー、今、国道1号線の手前までやってきました。これまた運命の分かれ道。間違って右に曲がってしまうとまたもや熱田神宮手前まで引き戻されてしまいます。ぎゃふん、という擬音はこのためにあるのではないか?というくらいダメージでかい選択です。真っ直ぐいけば、まだまだ302号さんと遊ぶことになります。しばらく進んで、岐阜方面の分岐が見えてくるはずです。でも、やっぱり環状線を走っている限りは、常に名古屋強制送還の恐怖に震えていないといけないわけです。となると、やっぱり左折、もう一度三重方面の目を出すしかないわけですな。ということで、相変わらず1,4で勝負をかけないと」
ばばろあ「頼むで、今度こそ」
おかでん「今度は、順番として僕・おかでんがサイコロを振る訳ですが、今日は一回もいい目を出していません。何とかここでオトシマエをつけてやります。覚悟!では、バス停の外に出て、サイコロを振ってやろうと思います」
外に出るおかでん。周りに何もないので、国道を走る車から丸見えだ。こんなところに駐車しているだけでも目立つというのに、大の大人が踊っているのを目の当たりにしたら、一体何をやっているように見えるんだろうか?
♪何がでるかな、何がでるかな・・・とうぅぅおぉりゃっ!
おかでん「お願い!1,4!」
・・・・
おかでん「3!」
サイコロを拾うのも忘れ、呆然と立ちつくすおかでん。
しぶちょお「バカーーーーっ!!!ばかーーーーーーーーっ!」
絞り出すような声で絶叫するしぶちょお。その横で、一人冷静なばばろあが
「はい、じゃあ行こうか熱田神宮へ」
と淡々と語る。
しばらく沈黙がながれる。
おかでん「ああーーー。」
しばらくして、しぶちょおが気が狂ったかのようにゲラゲラと笑いだした。
おかでん「ああー。・・・えぇ?本当か?」
しぶちょお「うそだろー?うそだって、いくらなんでもこんなことあるか?なんてことを!」
しぶちょおの笑い声は、だんだんひぃーひぃーという声に変わっていき、声が引きつっていった。
おかでん「ご免よぉ。今日はもう駄目だ」
しぶちょお「だめぽ、か」
おかでん「1/3の確率なのになあ。それをまんまと引いてしまうんだもんなあ。今日のブラックホールは302号じゃないぜ、熱田神宮だよ陰のフィクサーは。302号は熱田神宮の手先に過ぎんのかもしれない」
しぶちょお「で、どこまで戻るって?」
ばばろあ「熱田神宮の手前、154号線の分岐まで」
ここでしぶちょお、また悲痛な大爆笑。
おかでん「うわぁ、これでまたわからなくなってきた!名古屋逆戻りだ」
途中、スポーツ用品屋のアルペンが1号線沿いに発見された。「閉店セール」の垂れ幕が下がっている。ストレス溜まりまくりで発散したくてしょうがないばばろあが、「ちょっとでもええけえ立ち寄ろうや、もう我慢できん!」と叫んだので、15分の限定付きでアルペンに立ち寄った。
しぶちょおはここで黒のナイキポロシャツを購入、早速着替える。
これで今までのイヤな流れが変わればいいのだが。
しぶちょおが「もうお前ら駄目。わしに振らせろ」とハンドルを握りながらジタバタしたので、次はしぶちょおにサイコロを振ってもらうことにする。今度は、また154号線の分岐だ。ここで何げにサーキットが完成してしまているのだが、兎に角二周目に突入して、もう一度桑名方面にベクトルを向け直さなくてはいけない。
おかでん「さあ!」
・・・と気合いが入ったところだったが、154号線に右折合流ができないことが判明した。このまま、真っ直ぐ1号線を進まざるを得ない羽目に。
おかでん「・・・ということは、本日3度目の熱田神宮確定、ってことだな」
しぶちょお「ぎゃああああ」
おかでん「昨日は302号ピストン、そして今日の台風の目は熱田神宮で決まってしまうのか。本日三度目の熱田神宮前の交差点でございます。さあ、今日午前中は一体何をしてきたんだアワレみ隊。もう一度運命の分かれ道で、一からのしきり直しと参りましょう。はい、あらためてしぶちょおがサイコロを振ります。しぶちょお、気合いを入れて投げるということなのでわざわざ交通量の多い1号線ですが、停車場所を見繕っております。さて・・・しぶちょお、サイコロ、赤と白どっちにする?」
しぶちょお「白」
おかでん「よし、託した。いつも通り、1,4が左折北上。2,5が直進東。3,6で南下だからな。1,4で頼む。それ以外はもうウンザリだ」
しぶちょお「わかった。1,4ね」
♪何がでるかな、何がでるかな・・・
GO!一同、固唾を飲んでサイコロの目を凝視する。・・・2!おかでん「うわぁ!2か!直進!」
しぶちょお「ちょ、直進!?」
おかでん「さあ、12時14分。車中は、昨日の夕方よりもさらに濃いまったりムードに包まれております。なぜか僕らは、見慣れた三河知立に向かって走っています。さあ、どうなんでしょうばばろあさん?」
ばばろあ「どうなんでしょうって言われても。もうええで、わしいつどこで車から降ろしてもらおうか考えとるところじゃけえ」
おかでん「あ、きたねぇ。よし、そんなばばろあのためにも、できるだけ山奥で交通の便が悪いところに逃げ込んでしまいたい今日この頃」
ばばろあ「昨日今日とそれらしき場所にすら行っとらんじゃない」
おかでん「うう。まさにそうなのだが、今度こそ。まもなく、国道155号線との分岐になります。もう昨日今日とおなじみの交差点ですね。で、ここからちょっとしたルール変更をします。今日は、朝から「交互にサイコロをふる」という形式だったんですが、これからは『ヘたれな目を出すまで同一人物が振り続ける』ことにします。何しろ、おかでん、しぶちょおと立て続けにヘタレな目を連発してしまっている現状を考慮すると、調子のよい人間にサイコロを託すのは当然、ということ」
しぶちょお「うーむ」
おかでん「ということで、ばばろあ、頼む。今んところ、サイコロを託すことができるのはアンタだけだ。とりあえず、今回は右折して23号方面に入らなければいいや。できれば真っ直ぐでお願い。サイコロの目の割り振りは、いつもと同じで。さあ、いけ!」
♪何がでるかな、何がでるかな・・・そりゃ。
おかでん「ん?1?」
ばばろあ「左折だ」
しぶちょお「左折かー。また豊田市なのね」
ばばろあ「豊田もいまいちそそらないなあ。また六叉路スーパーチャレンジやるの?」
しぶちょお「待て、豊田市街に入る前に盲腸作りかけバイパスとの分岐があるぞ。まずそこと対決してからだ」
おかでん「うわ、盲腸対決か。今までの実績をふまえると・・・逃がしてくれはしないんだろうなあ、たぶん。昨日は逃げ切ったけど、今度こそ年貢の納め時か」
おかでん「不本意ですねぇ。誰が豊田市方面にいくって思った?そりゃ、今朝熱田神宮を出発するときは、豊田の可能性も捨てきってはいなかったですよ。しかし、23号を西に向かっていざ、三重県!なんてなったら、もう頭の中は松阪牛ですよ。これ、人間の全うなキモチだと思うんですけどねえ。間違ってますか、僕は。にもかかわらず、豊田ってアンタ。いや、豊田が悪いわけじゃないんですけどね、もう時刻は昼飯時ですよ昼飯時。一体豊田で何を食べろというんですか。車食えってか。エンジンオイル飲めってか。もう勘弁してくださいよ、って感じですよ全く」
ばばろあ「はよぅせい、もう分岐で」
おかでん「ああ、大変失礼しました。まもなく盲腸国道の豊田バイパスとの分岐に差し掛かっています。真っ直ぐ進めばバイパスで行き止まり、世界のTOYOTAの工場見学を道路からお楽しみください、というよい子の社会見学ルート。左折で、豊田市。どっちもイカさないルートではありますが、盲腸はどう考えてもイヤなので豊田市街に向かいたいところ。豊田が1,3,5。盲腸国道が2,4,6で行きます。では、ばばろあが行きますー。車の中で振ります」
♪何がでるかな、何がでるかな・・・そりゃっ
3!
おかでん「奇数!ということは、豊田市!偉い!」
しぶちょお「違うなー。ばばろあは違うな~。」
おかでん「ということで、豊田市街、あの井桁国道に向かいます」
おかでん「155号を進んできて、豊田市街に入ってきました。ここで、今回も豊田スーパーチャレンジということで、6つの国道分岐に対してサイコロの目を割り振って、一発勝負に出たいと思います。すなわち、右折153号名古屋方面を1として、その先時計回りに目を割り振って行きます。2で、155号瀬戸市方面、3で419号・・・ええと、いまいち大きな町がないな・・・田舎道爆走ルート、4で153号、これも山ん中走って長野県方面、5で301号・・・これも山ん中だな、6は248号南下で岡崎方面、と。ま、僕個人の希望としては、3か4を出していただきたい、と思っているわけですが、5もぎりぎり許容範囲かなと。1は最悪、またもや元祖302号さんに引きずり込まれてしまう。これだけは、身を挺してでも阻止しないといけない」
しぶちょお「ううむ、1が出てしまったら、今日の昼飯もブロンコビリーでステーキだな」
おかでん「またか!?昨日2皿食べたから、今度ブロンコビリーになったら3皿食わないといかんじゃないか」
おかでん「六分岐ということで非常に重要なこのサイコロ。ばばろあが今まさにサイコロを振ろうと、外に出たところです」
しぶちょお「気をつけろ、あいつ誤魔化すぞ。しっかり監視しないと」
おかでん「現在、ばばろあは猛烈に1の目を出したがっています」
ばばろあは、明日の入院に備えて今日中に神戸の家に帰りたがっていた。しかも、この不毛な企画から脱出したい、という気持ちも大なり小なり持っていた。だから、ここで長野をはじめとする山間部へ車を導いてしまうと、がぜんばばろあの帰宅が危うくなってくる。万が一、とんでもない山奥にはまりこんでしまったら帰りたくても帰れない。「企画したからには一蓮托生よ」というおかでん・しぶちょお連合としては、できるだけJRの駅に近い場所には寄りつきたくない、という腹づもりがあった。ばばろあを逃がすものか。そういう気持ちだ。
転じてばばろあの方は、豊田市から153号さん逆戻りで、名古屋市街に入ってそこで「もうええじゃろ、この企画は。いつまでたっても先に進めんことがわかったじゃろうが」と僕らを諭し、企画ジ・エンドというシナリオを描いていた。だから、名古屋方面の1の目を切望していたわけだ。
おかでん「ではいきます」♪何がでるかな、何が出るかな・・・そらっ
5!
しぶちょおが思わず「中途半端な目だなあ」と呻く。
おかでん「うわぁ、ホント中途半端だなあ。・・・あれ、ばばろあいつの間にかアワレみ隊のTシャツ着てるぞ」
後部座席に乗っていたばばろあは、いつの間にか「アワレみ隊お遍路チャレンジ」企画の際に作ったTシャツに着替えていたのだった。
おかでん「この場合、縁起でもないぞそのTシャツは。ぐるぐるとお遍路で回りまくる、すなわちサーキット満喫するぞ宣言に他ならんではないか。でも、久しぶりにみた」
ばばろあが車内に戻ってきた。「5じゃった」
おかでん「5かぁ。5が出ました301号。うーん、非常に微妙なんだよなこの路線。山奥に入るでもなし、かといって人口密集地に入る訳でもなし」
しぶちょお「うーん、でも途中で473号があるから、そこで北に向かえば・・・ところで、次の分岐はもう静岡県か?」
おかでん「えーと、ここが県境で・・・いや、全然だめ。まだ相当先」
しぶちょお「出られないのか、愛知県を!」
ばばろあ「じゃけえねぇ、ここでおとなしく1出しておいてよ、『やっぱ駄目でしたー』で終わらせた方が面白いじゃん。それでええじゃん、もう」
おかでん「企画を壊すようなことを言うのはやめぃ。とりあえず豊田から東に向かえるということを喜ぼうではないか。この301号線、まっすぐずっといけば浜名湖にぶつかるし。ということで今日の昼ご飯は」
ばばろあ「そんなこと言いおったら、いつまで経っても飯くえんようなるで。とっととそこら辺で飯食える場所探して食おうで」
おかでん「あらら・・・身も蓋もない」
横で、カーナビを確認しながら県境を探してたしぶちょおが、ようやく県境を発見した。
しぶちょお「ここが県境か。うわ、遠いなおい。愛知、広すぎ」
おかでん「さあ、豊田市を越えて一路東へ!ですぞ。われわれ、相当無駄なルーティングをしているけど、実は徐々に活動範囲を広げていっているんだよね。さっき、『この企画での最西端』として岐阜県境直前まで行ったでしょ?で、今度は最東端記録を更新、ときたもんだ。玉子から生まれてこようとするヒヨコの胎動、って感じ?やばいな、今度という今度こそ突き抜けるぞ。ついに企画の趣旨通りの旅が始まるぞ」
ばばろあ「そうはうまくいかんのがこの企画じゃろうが。わからんで?このまま302号さんが黙っているかどうか」
おかでん「302号さんの話はやめてくれ!そんな話をしていると、どこかで302号さんが聞きつけて『ん?聞いてないぞ?ちょっと顔出せや』って言ってきそうだもんな。こっそり脱出しようや、もう」
しぶちょお「でも、さすがにここまでくれば大丈夫だろう?」
おかでん「まあな、ピストンになるルートもないから、302号さんに引きずり戻されることはなかなか無いとは思うんだけど」
車で10分も走れば、道はすっかり田舎道になってしまった。今回の企画で初めての、山間部を走るルートだ。
おかでん「こういう道をずいずいと進んでいく、っていうのがこの企画の醍醐味(だいごみ)だよな。ようやくらしくなってきたじゃないの」
ばばろあ「それはそれでええけど、いい加減飯食うところ無くなっとらんか?」
おかでん「あ!しまった。やばい、豊田市街でえり好みしすぎた。よし、次に店を発見したら入るぞ。たとえブロンコビリーでもびっくりドンキーでも入るぞ」
しぶちょお「こんなところにびっくりドンキーがあったら、そりゃ本当にびっくりだな」
なんて会話をしていたら、ちょうど街道筋に「麦飯とろろ」という看板を発見した。千載一遇のチャンス、ここを逃すと次はどうなることか、ということで早速おじゃますることにする。
とろろ飯だったら、なんとなく旅情っぽい感じがするし、どうにか満足できそうだ。
おかでん「ウナギは駄目だったけど、とろろだったら全然OKだろう!?こういう山あいで食べるとろろご飯。ううん旅情だ」
しぶちょお「でも、名古屋市街から20キロくらいしか離れてないんだけど」
おかでん「・・・。」
上はしぶちょおが頼んだとろろご飯。下は、ばばろあとおかでんが注文した、ちょっと品数が多い定食。しぶちょおのものより500円くらい高かった(と記憶している)。
若干コストパフォーマンスが悪いお店だったので、しぶちょおが頼んだ定食で我慢してもよかったのだが、昨日同様「食わなくちゃやってられん」という気持ちになってしまい、ついつい高いメニューを注文してしまった。
高い料理を食べるということで、人生ウィナーな気がしたが、安いメニューだったしぶちょおが「おかわり」をするという荒技に出て、しかもそのおかわり代金をプラスしてもしぶちょおの方が安かったということが判明し、何となくルーザーになった気分。
まったりと過ごす。
前向きな進路の途中だから、まだいい。
これが、「これから名古屋に戻ります」なんてシチュエーションだったら、きっと『もっと休んで行こうや、あと30分くらい』なんてことでなかなか行動再開ができなかった可能性大。
結局、13時37分に再出発。気分を新たに、301号を東へ。
しばらく、快適な田舎道を走る。そうそう、サイコロの旅ってぇのはこうでなくっちゃ・・・。知らない道を走る、新鮮さ。そしてそこで展開する新しい出会い。やっぱり、同じ場所をぐるぐる回っていたり、サイコロを振ったと思ったらすぐ次のサイコロ、なんていう慌ただしさは企画の主旨に反する。
車中の全員が、「これこそ、新しい展開だ!」という実感を肌に感じていた。「一体どこに連れて行かれるのだろう」という気持ちが、嫌悪感からわくわく感に変わっていく。
しかし、「二日目午後になって、展開してもなぁ」という今更感があったのも事実だ。この時間から高飛びしたとしても、今日夕方に一体どこまで行ける?今までの展開を考えても、「いやぁ、今日はえらくはかどったねぇ」というところまで行けるとはとても思えない。
この企画、本意か不本意かを問わず、遠くまで来てしまって、そこで泊をすることでモチベーションを維持するという性質がある。いくら名古屋市街から逃げだすことができたとしても、やっぱり愛知県脱出ができないままで二日目を終了、となるとがぜん三日目へのやる気が削がれる。三日目は、正午をもって強制ゲーム終了となるルールになっているわけで、三日目は実質3時間程度しか時間がないということになる。だから、今日中にできるだけ遠くにいかないといけないわけだ。
その点、今進んでいる道は前途有望だった。次は、国道413号線が横断する分岐があって、三叉路となるのだが北に向かえばますます山奥、旅情たっぷりのルートになる。まっすぐ進めば三ヶ日に向かい、夢の浜名湖も遠くない。一番イマイチな選択肢となる南下ルートも、蒲郡近辺に到達するということでいずれにせよ新境地なのだ。そうそう、選択肢というのはこのように希望に満ちあふれていなくちゃ、いけない。
しかし、カーナビを操作しているうちに、大本命・北上ルートの国道473号線に、変な表示があることに気がついた。なぜか、道が黒いのである。国道はふつう赤く表示されるのだが、その赤いルートの両脇が、黒く汚い表示がオーバーレイされていたのだった。カーナビの所有者であるしぶちょおも初めて見る表記に、一同首をひねる。しぶちょおと同じナビを使っているおかでんも、この黒い表示には見覚えがない。ナビの描画がおかしくなって、画面に欠損が出たんだろう、とそのときは結論づけていたのだが・・・
しばらく進むと、道路状況を伝える電光掲示板が道路脇にあり、「国道473号線・通行止」という表示がされていた。つ、通行止・・・。北に向かうことを切望していたわれわれは、著しくがっくりきてしまった。しかし、土木屋であるしぶちょおが「いや、でもこういうのって案外通れたりするもんなのよ」と励ます。
おかでん「えー、そろそろ分岐が近づいてきました。本当はここは、473号線を南に行くか・まっすぐ行くかという選択肢があって、その後北に向かうか・まっすぐ行くかという二段階の分岐になっているのですが、面倒なのでここもスーパーチャレンジということにして3分岐を一回で決めたいと思います。ちょうど、このあたりの地名は『三つどもえ』っていうみたいですし」
おかでん「473号線北上ルートは、われわれの大本命なんですが、通行止めになっているという電光掲示が先ほど発見されていますので」
しぶちょお「おい!今473号を左折していく車、いたなあ。行けるんじゃないか、案外」
おかでん「おっと?ま、行き止まりであっても、行けるところまで行くというのがこの企画の主旨ですんで、いずれにせよ三叉路でのサイコロとなります。それでは、サイコロを・・・」
そのとき、すでに外に出ていたばばろあがサイコロを振るモーションに入っていた。
しぶちょお「待った!待った!おい!」
おかでん「待て!早いってば!・・・ということで、サイコロの目はいつも通りで、1,4で左折473号北上。2,5でまっすぐ浜名湖方面。3,6で右折、南下ということにします。はい、お待たせばばろあ、もういいぞ」
♪何がでるかな、何がでるかな・・・
よいしょぉっ1! しぶちょお「左だ」
おかでん「おや。ってことは行き止まりに向かって?」
しぶちょお「いや、さっき左に曲がっていきおった車おったし。案外いけるぞ、これ」
おかでん「おっとぉ。ちょっと緊迫してきたぞ、これは。うまいこと通行止区間をぐわっと片輪走行とかで逃げ切ることができれば、通行できちゃったりするかも?でも、できなけりゃ、えらいこっちゃ」
車は、疑惑の473号線北上ルートに入った。
国道に470番台があること自体オドロキだ。
この先、通行止があるとは思えない。「やっぱりガセネタだったんじゃないか」という楽観論が車内を支配する。
・・・が。
カーナビの画面に黒々とした表示が見えてきたら・・・あれ、通行止マークがナビ上に表示されている。さっきまで表示が無かったような気がするんですが。
さっきまでの楽観論はどこへやら、急に車内の空気が重くなる。この通行止区間まで、さっきの分岐から何キロ走ってきたと思ってるんだ・・・。10キロ以上は走ってきたぞ。そう簡単にハイそうですかと引き下がれるものか。
幸い、今回のレギュレーションには「道路交通標識には従え」とはかかれていないわけで・・・うふふ。
ナビの表記だと、郵便局の手前から通行止になっていた。しかし、肝心の郵便局を通過しても通行止になっていなかったので、また車内は安易な楽観論が支配する。
「戻りたくない」
その気持ちが、現実を直視する能力を奪っていたとしか言いようがない。しかし、現実はかくも悲惨なのであった。
おかでん「ああ!惜しすぎる!あとたった数キロで、国道420号に合流するというのに!たった数キロのために!」
しぶちょおは、通行止の理由を素早くチェックしていた。
しぶちょお「法面崩壊?ああ、そりゃ駄目だ、無理できんよこれじゃ」
「回り道」用の左矢印案内を恨めしく睨み付けながら、すごすごとUターン。道はあっても、そこが国道でない限り通るわけにはいかないのだ。
おかでん「しかし信じられんな、昨日の302号さんみたいに『作りかけルート』によるピストンだけじゃなくって、こうやって大自然の妨害によるピストンまで発生するなんて」
しぶちょお「302号さん、恐るべしだな。天変地異まで味方につけるとは」
ばばろあ「こういうのは、どうにかならんの?道路自体は繋がっとるんじゃけえ、通過してもいいっていうルールにするのは」
おかでん「・・・駄目だろう、さすがに。筋は通ってるけど、そのルールを適用したら、一時的とはいえ国道以外の道を走らないといけないんだから。この車は、いわばレールバス。国道という決められたレールの上しか走ることしかできんのよ」
がっくりしながら、先ほどの三巴まで戻ってきた。往復、数十分のタイムロスだ。くそ。
おかでん「えー、時刻は14時17分。行き止まりまで行って、戻ってきました。さっきと同じ、三つのルートについての選択となります。すなわち、左折で浜名湖方面、直進で蒲郡方面、右折で豊田市逆戻り。さて、先ほどのばばろあの一投が、結果的に行き止まりのルートを選択してしまったということで、サイコロは僕の手元に戻ってきました。というわけで、今日は一回もいい目を出していないおかでんが勝負をかけます」
おかでん「左折、でいいよね?ええと、三叉路なので、1,4で左折、2,5でまっすぐ、3,6で右折といういつものルールで行きます。左折して、浜名湖に行きましょう!」
GO!
♪何がでるかな、何がでるかな・・・ ほいっ
おかでん「頼む!1,4!・・・・・・・・6!」
一同、あぜん。6。すなわち、豊田市に逆戻りだ。
最悪の目を出してしまった。今までの時間は一体、何だったんだ・・・。さっきまでのウキウキ旅情ムードはどこへやら、急にサイコロの旅の怖さを突きつけられたありさまだ。
しぶちょお「と、豊田市・・・また豊田市か・・・。」
絞り出すように呻く、しぶちょお。豊田市に戻るなんて、昨日から何の進展もしていないに等しい。
おかでん「ご、ごめん。俺、本当に今日はいい目が出ないわ。どうにもならんな、これは」
さすがに全員、失望のあまり「このバカモンが!」とふざけて叱りとばしたりする声もない。また豊田市井桁スーパーチャレンジに逆戻り。ここでちらつくのが、そのまま引きずり戻されてご存じ本家本元・302号さんのお膝元に・・・という予感だ。いや、まだその確率は1/6だ、落ち着け、落ち着け!
おかでん「しゃーない、まだ希望を捨てちゃ駄目だ、次の豊田スーパーチャレンジで、もう一度北の目を出そうぜ?そうすれば、すべて問題ないって」
精いっぱい一同を励ますが、このシチュエーションにおいては「悪いサイコロの目を出したのを誤魔化そうとする人」という姿にしか見えない。
非常にまったりとした声で、ICレコーダーの録音が始まる。テンションが明らかに低い。
おかでん「えーーー。14時59分。見慣れた道を延々と引き戻され、301号線をひた走った結果、さらに見慣れた豊田市に戻ってきてしまいました。車内一同、相当疲労困憊してきています。そろそろまた、スーパーチャレンジトヨタカップのお時間がやってまいりました。えー、今回は、左・・・岡崎方面に伸びる248号線から時計回りに、サイコロの目を振りたいと思います」
1:岡崎方面、248号線。
2:毎度おなじみ、知立方面、155号線。
3:302号ピストンまっしぐら、153号。
4:一度通りましたよねぇ、尾張瀬戸方面155号線。
5:新境地の北上、明智村方面、419号線。
6:これも新境地の北上、足助方面、153号線。
おかでん「というわけで、1,2,3は出しちゃマズイ目、4,5,6がセーフの目ということになります。4もあまりお勧めではないけど、まあOKでしょう。特に、2と3は絶対に出しちゃいけない選択ですね。もう、うんざりだこのルートは。さて、今回のサイコロは、先ほど僕がポカミスをやったのでしぶちょおに渡りました。しぶちょお、よろしく!」
しぶちょお「おう」
ばばろあ「ミュージック、スタート」
♪何がでるかな、何がでるかな・・・そりゃっ4!しぶちょお「ぬぅぉあ。ぎりぎりセーフ!」
おかでん「ぎりぎりセーフ!ぎりぎりセーフだ!危ない!ぎりぎりセーフで、瀬戸です!でもまだ怖いなあ、名古屋に戻る可能性、捨て切れてないもんなあ」
しぶちょお「155号線北上ルート、になりました」
おかでん「はい。1回すでに通ったことがあるルートなので、新鮮味はないけど・・・」
しぶちょお「直撃は避けられた」
おかでん「うん、302号さんに突き刺さる、っていう事態にはならなかったのでまずは良し。尾張瀬戸は岐阜県の県境の町。このまま岐阜県に向かいましょう!」
車は、一路尾張瀬戸に向かう。
おかでん「えー。ただいまの時刻、15時32分。かれこれ1時間以上、見慣れた道路しか走っていません。いい加減新鮮なルートに飢えています。さて、われわれは瀬戸市の分岐にやってきています。瀬戸市街は、本当は二分岐が二つある複合交差点なんですが、ここもスーパーチャレンジということで一度にサイコロの目を割り振ってしまいたいと思います」
ばばろあ「おう」
おかでん「363号線に左折して、まっすぐ行って302号さんの胸元に飛び込むルートが、1,4。そして、春日井方面に向かう155号線が2,5。さらに、これが今回の本命、われわれが行きたい248号多治見方面が3,6。そういう三分岐で進路を決めたいと思います。1/3の確率で昨日同様、302号ピストンに突撃してしまうという恐怖の選択肢でもあるわけですが、うまくいければ新境地、っていうことでもあります。なんとか2/3の確率の方に期待、しようじゃありませんか。さあ、今回もしぶちょおがサイコロを振ります。道路状況が好転するまでしばらくお待ちください」
車は、信号待ちで停車した。早速サイコロを振ることにする。
おかでん「じゃ、サイコロいきまーす。3,6でお願いします」
しぶちょお「はい」
♪何がでるかな、何が出るかな・・・ おりゃっ
1!
一同「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
ばばろあ「でたねぇ、やっぱり」
おかでん「うわぁあああああ。これ駄目だ」
しぶちょお「駄目だったねぇ」
おかでん「俺、今日東京帰ろうか、ホントに」
ばばろあ「だからサイコロの目を考えろって」
おかでん「いや、考えるも何も・・・あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
この後、ばばろあが「だからゲームバランスが」ということを後部座席から話しかけてきたが、あまりに放心状態となっていたしぶちょおとおかでんが、「うるさい、ちょっと黙っててくれ」とばばろあを黙らせ、二人そろって呆然と無言の時間を過ごした。
あれだけ東まで行ったんだぜ?
・・・それが、何でまた、302号に引き戻されているんだ?
・・・・・・また、昨日と同じように302号のピストンが始まるのか?
・・・・・・・・・何をどうやっても、われわれは302号から逃げることはできないんじゃないのか?
恐怖だった。誇張でも何でもなく、足がふるえた。何か、巨大な意志が働いて、われわれを302号に連れ戻しているんじゃないか。ここまでくると、笑い話ではない。
おかでん同様、しぶちょおもこの「偉大なる意志」みたいな現実に恐怖したらしく、しばし虚ろな目で無言だった。直面する現実を、受け入れられなかった。理解が、現実に追いついてこなかったのだ。
もうこうなってくると、三日目まで旅を続行する必然性、というのがあまり感じられなくなってきた。どうせ302号に捕まってしまい、今日は終わってしまうんだ。今晩も名古屋に一泊して、明日朝出発して一体どこに向かうというのだ?三日目の数時間、頑張ったところでどうせまた豊田だとか知立だとか、熱田神宮をうろうろして終わりなんだろ?
ばばろあは、すでに302号沿いで鉄道の最寄り駅がないか、地図の探索をはじめていた。最後の企画の防波堤にならなければならないおかでんでさえ、「今日中に東京に戻ろうか」と弱音を吐くようになってきた。今日、東京に戻ることができれば、三連休の最終日をゆっくりと過ごすことができる。こんな苦しい思いをしなくて済む。
何となく、車は「死に場所を探す」という雰囲気に傾きつつあった。それだけ、強烈な一撃だったのが、先ほどの「302号さんにあいさつしに行け」というサイコロの目だった。
「名古屋19km」の青看板を発見して、車中引きつった笑いが起こった。また、名古屋に戻るのか。もう何度目になるのか、わからない。たった2時間前までは、意気揚々と山奥に向かっていったのに・・・どうして、こうも展開が急激に変わってしまうのだろう。
おかでん「えーーーー。今、非常に車中を重い空気が覆っています。後部座席のばばろあはネガティブな状況になればなるほど、なぜか生き生きとしてきているんですが、前の座席の二名は痛々しいほど意気消沈しております」
しぶちょお「ははは・・・はぁ」
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