2003年08月30日(土曜日) 2日目
しとしと降っていた雨は、夜明けと共に止んでいた。まだ雲は重くたれ込めていたが、それでも清々しい夜明けの高原湖畔。
起きてテントから出てくると、すぐ正面に湖が見えているのがなんとも非現実的で、幻想的だ。騒がしい車の排気音が一切しないというのも素晴らしい。
静かだ。
すばらしく静かだ。
起きたら早速朝食の準備に取りかかる。恐れたとおり、昨晩の夕食が結構残ってしまったので、もっぱらそいつらをやっつけることにする。とはいっても、おみそ汁はぜひ頂きたいところだ。「食べる健康みそ汁」を作ることにしる。何でも、5種類の海草が入っていて、大豆イソフラボンアップなんだと。
山に来て海草。まあ、いいじゃないか。
いいじゃないかの勢いで、さんまも焼いてみました。新さんまが安かったもので。あと、せっかくの炭火なので、こういう時こそぜひに。
でき上がったおみそ汁。揚げとねぎは独自追加だ。
さすがに朝からはスパイシーにはしなかった。おみそ汁に唐辛子を投入して、目覚めよ我が体、とやっても良いのだが、この清々しい空気のなかそれはちょっと毒っ気が強すぎるインパクトがある。
・・・とはいっても、昨晩のジャーマンポテトがほとんど手つかずで残っているのだった。スパイシーナイツならぬスパイシーモーニング(なぜか朝だけ単数形)を満喫しなくちゃいかん。
昨日まではほくほくした感じに見えたが、一晩明けて、さらに再加熱したせいもあって、なんだか干涸らびて見える。しーっ、気にするな。オレも気にしないことにするから。
明るいところでよく見ると、具の至るところにガーリックチップの姿が見える。入れすぎだ。さすがスパイシー。朝からこれかぁ、濃いなあ。とはいっても、これぞ二人っきりのキャンプの醍醐味(だいごみ)ぞ。
昨晩からの生き残りとしては、菜めしも健在。さすがにしぶちょお一人であれだけの量を食べ尽くすことはできなかった。
ということで、本日朝はご飯を新たに炊くことなく、昨晩の冷や飯で対応。
おっとそうこうしているうちにさんまが焼けてきましたよと。
素晴らしい焼き色だ。ちょっとやけすぎたとも言えるが、ご家庭のグリルではなかなかこうはいかない。ひゃっほう、といいながらしばらくこのさんまを記念撮影。
さんまの顔が無念そうだ。「何でこんな状態で写真撮影されるんだ、わしら」という感じ。すまぬ。あともう少しでありがたく食べるからもう少し待っててくれ。
これだけでも相当多い朝食なのだが、豆腐が1パック余ったので、それも食べてしまうことにした。
朝から食い地獄。
というわけで、ようこそヘルズゲート(煉獄の門)へ。いただきます。
さんまの焼き色を確認しつつ、網の上から直接身をほじくるしぶちょお。
「ぜいたくな一時だねえ」
火にくべられた食材を、直接箸でつまむ料理が一品あるだけで、なんてぜいたくな食生活なんだという気にさせられる。
「気を付けろ、もう焦げるぞ」
「いやいや、骨まで完全に火を通して、骨を食べるんだ」
しぶちょおがさんまの骨をしつこく地獄の業火(他人が食べたら火を噴くようなスパイシーな料理を作っている火なので、地獄の業火と呼んだ)でいたぶり続けているうちに、なにやらバサバサっと音がして地面に舞い降りる生き物が。
そちらを見やると、あら、山鳩さんではないですか。
われわれの料理のにおいをかぎつけたのか、それとも「人がいるところには残飯がある」と経験上知っているのか。われわれに激しく注目されているのを物ともせず、我が物顔で「ぽっぽー、ぽっぽー」と唸りながらそこら中を千鳥足で歩き回り始めた。
「おーい、そっちには食べるものはなにもないよー」
われわれが声をかけているが、知らん顔でそこら中を動き回る。
「奴、ひょっとしたらこの秋刀魚を食いたいんじゃないのか?」
「さんま食べる鳩なんて聞いたことがないぞ」
「でも、雑食だろ、鳩って。あの鳩、野生の分際でやたらと毛並みがいいぞ。キャンパーのこぼした食べかすを食べて成長したんじゃないか?」
鳩が一向に飽きて立ち去ろうとしないので、われわれのほうが根負けした。食器類の後かたづけのため、炊事場に向かった。
一晩放置されていたダッチオーブン。
あー、さっそく錆がついてしまっている。本当であれば、使用した直後にちゃんと洗い、空焼きして水分を飛ばし、油を塗っておくという手間をかけないといけない鉄鍋だ。しかし、ずぼらなわれわれは「料理ができ次第、温かいうちに食べるのが一番」というポリシーのもと、鍋の後始末は完全に後回しにされてしまうのであった。
お皿類の洗浄を終え戻ってきてみると、まだ鳩がうろちょろしていた。
あ、昨晩転がしてしまったご飯つぶが、後始末後も僅かに残っていたのだが、それをぱくついていらっしゃる。めざとい生き物だ。
「ほれ、あっち行け」
と、しぶちょおが自分の居場所を確保するために鳩を追いやったが、しばらくしたらしぶちょおの足元に鳩が戻ってきた。
「なんだか飼い慣らされたペットみたいだな」
足元をうろちょろするペット山鳩を、慈愛に満ちてはいない目つきで眺める。
「野生だから人に慣れない、という単純な構造じゃないんだな。野生だからこそ、食物にありつけるときはどん欲に食べる」
鳩が満足して立ち去ったあと、湖畔を散策する。
とてもすがすがしい。
その後は、読書。
何しろ、やることがない。
薪拾いであるとか、薪割りといった作業も無い。あまりに朝食のボリュームが豊かだったため、二人とも「お昼ご飯は抜きでいいや」と珍しくチキンな発言。そうなると、もうひたすら暇なんである。
この暇な時こそ幸い、と、二人とものんびりとした時間を過ごす。アワレみ隊イベントで、ここまでのんびりとした時間を過ごしたのは、後にも先にもこの時しか無い。
おかでんは読書、しぶちょおは斜面に設置したがためにややゆがんでいるタープの張り直しに余念がない。
テントサイト奥の茂みがガサガサ音がすると思ったら、草の間からぬっと黒い生き物が顔を出してきた。ラブラドール・レトリバーだ。
遠くで、ご主人様と思われる「クロ!クロ!」という呼び声がするが、当の本人は全然意に介さず、こちらのタープの下で一休み。
毛が濡れているところを見ると、はしゃぎすぎて湖にも突入していたらしい。
鳩よりもはるかに楽しい動物が現れたので、しばらくこのクロちゃんと時を過ごす。
それでも暇なので、「ガンダムエース」を読み始めるしぶちょお。
昼下がり、草津温泉に今晩と明朝の食材買いだしに出かけることにした。あわせて、温泉入浴だ。草津の近くにまできて、温泉に浸からないという選択肢は存在しない。
大滝の湯の強酸性のお湯で体を溶かし、さっぱりしてから買いだしをする。
「うーん・・・案外欲しいものがない」
食材が豊富過ぎるスーパーというのも困るものだが、あまり無いというのもそれはそれで困る。
「いいか?必ずスパイシーでなくちゃいかんぞ。それだけは忘れてはいかん」
スパイシーであること、を肝に銘じつつ、食材を購入。その後、キャンプ場に戻る。
また雨が降ってきた。
日が高いうちに雨が止んでいたのは大変にありがたい事だったけど、せっかくだから夜も雨降らないで欲しいんだけどなあ。
こちらとしては、たき火用の薪を二把も買ってきてあって、これを一体どうすりゃいいのまたく。
「最悪、おうちに持ち帰りだな」
「うえー、重いよ、これ」
夕食の準備に取りかかる。できるだけ濡れないように、タープの下で身を縮めながら。
タープの中で作業が完結するわけでなく、ときどきひさしの下からでなくちゃいけないので、レインウェア装着は必須。
さすが高地だけあって、雨が降ると気温がぐっと下がる。
「うう、早くスパイシーなものを食べて、体を暖めたい」
とうめく。
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