さて、次の分岐はしゃれにならないくらい重要な場所になる。岡谷JCT。中央自動車道と長野自動車道の分岐点にあたるわけだが、名古屋方面に向かうか、東京方面に向かうかがここで確定してしまう。いっぺんここで方向が決められてしまうと、その後の軌道修正は非常に難しい。なぜならば、間に南アルプスを挟んでいるからだ。山越えルートは、ない。
ここで名古屋方面を出したら、もう根性据えて名古屋に向かわないといけないし、東京方面なら、東京方面に全力投球だ。二カ所あるゴール地点のうち、どちらを狙うか?という設問に対して、われわれは今までニュートラルな位置関係だった。しかし、これでいよいよ目指すべきモノがはっきりとするわけだ。非常に重要な分岐といえる。
おかでん「と、いうわけだ」
ひび「はい?何ですか?」
おかでん「いや、文章におこす事を考えてね。前振りの文章が多分僕の『と、いうわけだ。』の手前に入るはずなんで」
ひび「わからないですよ、ここじゃ」
おかでん「まあいい。とにかく、だ。今度の一投が非常に重い、ということは誰しもが分かってると思う」
ひび「はい」
しぶちょお「行き先、決まっちゃうからな」
おかでん「でも、気合い入れなくていいからな?どっちでもいいぞ、どっちがダメとかそういうのないからな?気楽に。サイコロに無理に負担をかけさせないで、サイコロが行きたい方向に行かせてあげようや」
ひび「大丈夫です」
見ると、ひびは内股にロードマップを挟み込んで壁を作り、自分の股間に「サイコロを転がすスペース」を確保していた。これならば、座席の下に転がり込んで不透明決着、ということはあるまい。よし、大丈夫だ。
おかでん「それでは運命の一投GO!」
♪何がでるかな、何が出るかな、それはサイコロ任せよっほいっ!!!
ひび「5!」
おかでん「5!奇数!とーきょおーほーめーーーん!」
ひび「うわー、東京かぁぁぁぁぁぁ」
おかでん「東京だよおっかさん!東京行き!ということで、われわれは諏訪湖方面に向かいまーす」
しぶちょお「そうかぁ、東京方面かぁ」
おかでん「名古屋在住のしぶちょお・ひびにとってはイマイチな結果になったかもしれないけど・・・ま、それもサイコロ任せなのだ」
行き先は決まった。後は、ゴールを目指して進んでいくだけだ。今までは、「もうどっちの目が出てもいいや。ピストンやサーキットさえしなければ」という、無気力試合をやっていたわけだが、目標ができた以上がぜんやる気が復活してきた。
岡谷JCTが見えてきた。
しぶちょお「左に曲がるよ?左に曲がって、いいね?」
最終的な念押しをしてくる。
おかでん「いいよ、曲がっちゃってください」
しぶちょお「諏訪・東京方面って書いてある方に行っちゃっていいね?」
おかでん「ぜひ行っちゃってください」
ぐいっ。
左折し、諏訪方面へ。いよいよ、長野自動車道は終わりで、中央自動車道に変わる。二日目午後にして、遂にサイコロ3、正念場に入ってきた。
早くも車中では東京に向けてのカウントダウンが始まった。この先、国道と直結しているインターや分岐が10ちょっとある。それら全てを無視して、中央道を直進し続ければ、高井戸インター、即ち東京23区へのゴールだ。
10の分岐?
・・・ええと、2,4,8,16,32,64,128,256,512,1024。
げげぇ、高井戸まで到達できる可能性って、実は1/1024だった。む、無理だそんなの。でも、高速道をぐいぐいと進めば、東京までは無理としても確実に新しいステージに足を踏み入れることができる。今日これからは、山梨を舞台にバトルは繰り広げられるだろうし、静岡といった可能性だってある。
おかでん「楽しい!」
思わず、車中で叫ぶ。
ひび「うん、楽しい!」
ひびも、思わず叫ぶ。今回、この「楽しい!」という発言は何度目になるだろう?一時、長野市街サーキットや菅平サーキットをぶちかまされ、へこんだ時期もあったが、これは楽しいとしかいいようがない。何だろう、ココロのそこからわき上がる高揚感は?
われわれは、そのワクワク感を継続させながら、諏訪湖サービスエリアに降り立った。いい加減、お昼ご飯を手当しないといけない時間だ。
おかでん「えー、13時45分。諏訪湖サービスエリアでいったん休止・・・食事休憩にしようと思います。みなさん凄く前向きで、『先に行きたい、早く先に進みたい』と言っている状態です。ですから、さっさと飯食って、さっさと先に進みたいと思います。・・・今晩はどこに泊まる事になるのか、現時点ではさっぱり予想がつきません。どうなっちゃうんでしょう。以上、諏訪湖SAからおかでんがお伝えしました」
諏訪湖サービスエリアから眺めた、諏訪湖。ぱきーんと晴れた青空とあいまって、非常に美しい。
ああ、旅情だねぇ。
レストランでワカサギ丼でも食べようかとも思ったが、気分が急いていたため却下。結局、早く料理がでてきて、早く食べられるモスバーガーのお世話になることにした。
なぜわれわれがそんなに急いでいるのかというと、「東京目指して頑張るぞ!」というモチベーションもさることながら、「今晩どこに泊まるの?」ということがさっぱり見えてこないからであった。ルールにより、16時を過ぎれば宿探しをしてもOKなわけだが、その16時まであと2時間。一体われわれは2時間後、どこに居るというのか。できるだけ、可能性を広げるためにも、16時までの間に極力先に進んでおきたいというわけだ。
ハンバーガーをがっつくしぶちょお。
朝から運転しっぱなしだ。よく体力が続くもんだ。
14時17分、活動再開。まだまだ東に向かう。
おかでん「14時21分。諏訪インターが近づいてきましたので、そろそろサイコロ振りたいと思います。ここから僕が振りますよぅ。ええと、偶数で高速道路直進、奇数で高速を降りる。万が一降りちゃうと・・・」
しぶちょお「ここで降りたらいかんですよ。152号があるから。南に行けば高遠だし、北に行けば白樺湖経由で上田だ」
おかでん「うわ、せっかく前向きに東京方面に向かおうとしているというのに、それはイヤだ。上田に戻るなんてのは、絶対にイヤだ」
しぶちょお「今晩もラガーめん・・・」
おかでん「激しく拒否する!それ、行くぞ!」
♪何がでるかな、何がでるかな・・・それっ
おかでん「2!偶数!真っ直ぐだ!よし!おし!真っ直ぐ!とりあえず真っ直ぐになりましたぁ」
しぶちょお「おっけぇ」
おかでん「まだまだ先へ進むぞぅ。ここら辺はハイパーバイパス区間だからな。次の分岐は・・・ははは、ロードマップ、このページから外れちゃったよ。ぐいーっと先に進むなあ。ええと次のページで・・・いいね、こうやって読んでいるページが切り替わるのって・・・ああ、須玉。須玉まで行くよん。途中の諏訪南、小淵沢、長坂インターは国道直結じゃないのでパスだ!ロングゲイン!」
正面に八ヶ岳が見えてきた。
しぶちょお「おおおおー」
思わず、感嘆してしまう。われわれは、確実に前に進んでいるのだ。志賀高原を眺めているのでは、ない。
そうこうしているうちに、小淵沢インター手前で長野県と山梨県の県境となった。
アワレみ隊、遂に3県目に突入。長野、群馬、そして山梨。
おかでん「14時45分。須玉手前なのでサイコロ振りたいと思います。いやー、もうなんだかね、リラックスしちゃっててサイコロ振る事すっかり忘れちゃってたよー、って感じですわ。ええと、ルールはいつも通り。偶数で真っ直ぐ、奇数で降りる。それ」
♪何がでるかな、何がでるかな・・・
ほうれっ
おかでん「あ」
サイコロは、座席の隙間に挟まってしまった。
ひび「4!」
おかでん「偶数、真っ直ぐ!はははははは」
思わず手を叩いて喜んでしまった。
おかでん「はまったね、こんな狭い隙間に。・・・いやね、これがもし、奇数っぽい目が出ていたらだよ、『すまんすまん、隙間に挟まってよく判別つかなかったネ、もう一度サイコロ振るよ』って言ってたかもしれん」
ひび「はははは。卑怯なりー」
おかでん「良かったねえ。これで進めるぞぅ。山梨ステージの地位を、盤石なものとしたでしょ、これで。須玉で降りていたら、清里経由で佐久平、とかまたまた長野逆戻りの可能性があったわけだから。でも、これで長野とは完全に縁が切れた。さようなら、スタート地点の長野。もう逢うことはないでしょう」
しぶちょお「長野県庁にもな」
おかでん「ああ、もう十分だろう。宿に泊まったり食事したり、長野県にはさんざんお金落としたからな?これからは別の県にお金を落としていくからねぃ」
前方に、何やら高速道分岐の表示が見えてきた。何だ?
・・・あっ、中部横断道って書いてある。そうだった、手元の地図には記載がないけど、中部横断道が一部開通しているんだった!
双葉ジャンクション決戦。
おかでん「ええと?どうなるんだ、これは?」
しぶちょお「ナビによると、中部横断道に入っても、その先の白根インターで終点になってるね。ピストンになると思う」
おかでん「その先に国道のバイパスが延びているみたいなんだけど・・・」
しぶちょお「わからんね。いずれは白根インターとくっつけるつもりなんだろうけど、ナビの情報だと、国道と高速は繋がっていない」
おかでん「もし繋がっていたら、そのまま山梨県下道ステージ突入、ってわけね。で、繋がってなければ、ピストン」
しぶちょお「たんなるピストンと思うなよ?ピストンした結果、諏訪方面に逆戻りしたら目も当てられないぞ」
おかでん「うわぁ、それは強烈!ここはなんとしてでも、真っ直ぐいかないと!真っ直ぐ、真っ直ぐ。ええと、イメージトレーニング完了」
ひび「大丈夫かなあ」
おかでん「うん、正直言って、イメージを膨らませようとすると『ピストンしちゃいました』とおかそんなのばっかりが頭の中をぐるぐると」
しぶちょお「こら!でも、今までが全てそんな感じだったからな、サイコロの歴史って」
♪何がでるかな、何がでるかな・・・それっ
「・・・。」
しぶちょお「まあ、お約束というかね、やっぱりなあって感じだよ」
いきなり片側一車線の対面通行になってしまった高速道路を走りながら、しぶちょおがぼやく。
おかでん「中部横断道。まさか走る機会があるとは思わなかった」
14時58分。白根インターまで到達したが、その先が国道になっていないことが判明したために折り返す羽目になった。
・・・まさか、高速道路でピストンに出会うとは。
どこに行っても、ピストンとは縁を切れないのがアワレみ隊、というわけか。
また、今来た道を戻る。
15時2分。また、中央道との分岐である双葉ジャンクションに戻ってきた。
右折:甲府・東京。左折:名古屋・長野。
どう考えても、右に曲がらないといけない。左行っちゃ、また長野だ。ぶるぶる。考えただけで恐ろしい。
おかでん「サイコロ担当者はひびさんにバトンタッチです。さあ、偶数で東京方面、奇数で長野方面だけど・・・分かってるよね?偶数出してよ。奇数出しちゃうと、今来た道戻ってしまって、何をしにきたのかさっぱりわからん」
しぶちょお「でも、その原因を作ったのは白根インターまで遠征させてしまったおかでんだぞ」
おかでん「おおおぅ、そういうことか。まあ、しゃーない。僕のミスはみんなのミス。ひびさんのミスはひびさんのミス、って事で」
ひび「ひどい」
おかでん「では行っちゃってくださいまし!」
はーい何がでるかな、何がでるかな・・・・ほーい。
ひび「2!」
おかでん「2!偶数!右!ありがとう!」
しぶちょお「ふほほほほほほ」
おかでん「引き強えぇなぁ、ひびさん」
ひび「わーい」
おかでん「おっけぇ!」
ひびが、脱力して笑っている。
ひび「ひゃははははは」
おかでん「いやねえ、今日はやっぱひびさんの方がサイコロ、目がいいんすよ。頼れるなあ」
おかでん「えー、どんどん着実に進んでおります。3時7分。15時7分、甲府昭和インターが近づいてまいりましたので、そろそろサイコロを振りたいと思います。ま、降りてもいいんじゃないですかね、そろそろ」
しぶちょお「うーん、ちょっと行き過ぎたかもね」
おかでん「そう、やりすぎ。高速道路に頼りすぎた」
しぶちょお「そう」
おかでん「ゴールを目指すという目的においては、これでもいいんだけど、ちょっと楽させて貰いすぎたかなと。そろそろ降りても、誰も文句は言わない。でも、乗り続けても、それはそれでゴールが近づくので誰も文句は言わない」
ひび「じゃあ、行っていいですか?」
おかでん「行ってください」
♪何がでるかな、何がでるかな・・・それっ
おかでん「でた!2!偶数!真っ直ぐ!」
しぶちょお「ははははははは」
おかでん「まだまだ真っ直ぐ行きますよぅ?」
しぶちょお「今回は長いなあ、好きだねえ高速道路」
ひび「驚いた!」
おかでん「一体どんな確率で高速道路をひた走ってるのよ、わしら」
しぶちょお「まあ、そうは言っても、中部横断道ピストンってのがあったわけでしょう?」
おかでん「そうか。ずばびゅーっと一直線で走ってきているわけでもないのか。それにしても!」
しぶちょお「長いねえ。何か異例だねえ」
おかでん「次はどうなるの?」
ひび「甲府南、ですね」
おかでん「うわ、この先甲府盆地内はインターだらけじゃん、国道直結型の。甲府南、一宮御坂、勝沼。どう間違っても、このどこかで降りる事になるんだろうなきっと」
ひび「さすがに全部突破は無理ですぅ」
おかでん「だよな。甲府南か・・・」
(1分くらい、車内黙り込む)
おかでん「上九一色村が見えてくるんだなあ・・・」
(また、黙り込む)
おかでん「朝霧高原っていうのも手だな、アッチの方に国道走ってるし・・・」
(沈黙30秒)
おかでん「いやぁ、甲府南!面白いじゃねぇか。降りてやろうじゃないの、甲府南。上九一色村、行こうぜ。富士山だよ、富士山」
そこから、車内は「富士山をぐるりと回った場合どうなるか」というシミュレーションが開始となった。
おかでん「富士山回り込んでよ、太平洋岸に出てきたらあっちこっちに中規模都市があるだろ。それだったら、ビジネスホテルくらいなら確保は簡単にできると思うんだよな」
しぶちょお「うーん、ビジネスホテルねえ。ちょっと箱根や伊豆は遠いか?」
おかでん「いや、無理じゃないと思うけど。でも、沼津とか富士とかになりそうな気がしなくもない。じゃ、今日は『太平洋の海の幸』を満喫するってことで?」
ひび「はははは。昨日は日本海の海の幸でしたけどねー」
おかでん「今日はまだ、可能性が高いと思わんか?太平洋!カツオでもマグロでも何でもいいぞ。お昼モスバーガーだったし」
・・・
おかでん「お待たせしました。甲府南インターを降りるかどうかのサイコロ選択になりました。偶数で、直進。奇数で、インターを降りるという割り振りは変わらずです。車内はそろそろ高速を降りよう、という気分になってますね。甲府から南下して、富士山を周回して」
しぶちょお「富士山サーキット」
ひび「にゃはー」
おかでん「おう、いいじゃないの富士山サーキット。日本一の山だったら、サーキットしてやってもいいぞ。ま、ここで降りて、太平洋を目指そう、という流れになってきています。太平洋に出たら」
しぶちょお「実は名古屋へも帰れる、という事になるのね、これ」
おかでん「えっ?ああ、そうか。静岡県のお隣って愛知県だもんな。おっと、東京名古屋、どっちのゴール地点にも向かう事ができる、というニュートラルな立場であることが判明。さて?ひびさん、サイコロ振っちゃってくらはい」
ひび「はい」
♪何がでるかな、何がでるかな・・・それっ
ひび「6」
しぶちょお「ふほほほ。真っ直ぐ」
おかでん「うわ。6。偶数。真っ直ぐ。強えぇなぁ、中央道!まだ真っ直ぐ行かせるつもりか?おいおいおい、一体どこまで行くんだ、これは?段々僕、不安になってきたんですけど」
しぶちょお「じゃ、甲府南は通過って事でいいね?」
おかでん「サイコロがそう言ってるからね、いいよ」
ひび「次、一宮御坂がありますんで」
おかでん「いい加減、もう降りるだろ?薄気味悪い、ここまで高速乗り続けてると」
しぶちょお「薄気味悪いねえ。今日午前中まで、さんざん長野市街をぐるぐると回されていたのに、午後になると途端にこれだもんな。何かたくらんでいるとしか思えん。サイコロの神・・・」
おかでん「えー、3時17分。一宮御坂インターチェンジが迫ってきたので、そろそろサイコロを振りたいと思います。そろそろ降りようぜ?居心地悪いわ、高速道路は。さ、奇数出して降りましょう!」
ひび「はい!」
おかでん「じゃ、ひびさんお願いします!」
♪何がでるかな、何が出るかな・・・ほい
ひび「2!」
おかでん「2!ぐうすう!真っ直ぐ!・・・進むねぇ、おい!また偶数だぞ!」
ひび「にゃはははは」
しぶちょお「どういう事ですか、コレは?」
おかでん「ひょっとしたら、このまま真っ直ぐ進んで、東京ゴールインせよ、という神のお告げなのかもしれん」
ひび「しかも今日中に」
しぶちょお「まさか?いや、でもどこまでこの運が続くのか、ちょっと気になってきだした」
おかでん「一宮御坂をパスしたので、次は勝沼。そのまま進むと、大月JCT、大月、ええと、上野原、相模湖、八王子、国立府中、稲城、調布、高井戸。えー、いくつ数えた?9つか。高井戸はゴールになるので、実質あと8回の分岐をこなせば、そのままゴールというわけだ」
しぶちょお「それは近いのか遠いのか、わからんな」
おかでん「確率でいったら・・・2,4,8,16,32,64,128,256・・・ああ、いかん、1/256の確率だ」
しぶちょお「まあ、結論から言うと、このまま高速道路を真っ直ぐ走り続けるってことはまずあり得ないって事だな」
おかでん「そういうこっちゃ。いずれどっかで降ろされる。だったら、自分たちにとって都合のいいところで降ろしてもらわないとな」
しぶちょお「たとえばどこだ?」
おかでん「大月JCTで河口湖方面に向かう、っていうのも、風光明媚でいいんじゃないの?あと、太平洋側に出る可能性もあるし、御殿場から東名高速に乗る可能性もあるし」
しぶちょお「なるほど」
東京に着実に向かっているにも関わらず、われわれのもっぱらの関心は太平洋側だった。このまま真っ直ぐ行けるわけがないので、目指せ東京、という機運は高まっていないからだ。どうせ中央道から降ろされるんだろうから、そうしたらどこに行けば楽しいか、心地よいかって事ばかりを考えていた。
そうこうしているうちに、アワレみカーは釈迦堂PAを過ぎ、そろそろ勝沼インターチェンジに近づいてきた。
おかでん「えー、15時22分。勝沼インターチェンジが近づいてきました。車内の意見の総意として、今回ここはパスしていい、という話でまとまっています。『そろそろ下道に降りてもいいんじゃないか』というムードには変わりがないのですが、勝沼で降りても、高速道路と併走する20号に合流するだけです。何ら下道の面白さがないです。ここは偶数出して、大月ジャンクションまで進みたいところです。じゃ、ひびさん振ってください」
♪何がでるかな、何がでるかな・・・ それっ
おかでん「えっ?2。真っ直ぐ。」
しぶちょお「強い!」
ひび「強い」
おかでん「やるなあ。でも、このサイコロさっきから2が出る頻度が高いような気がするけど。まあいいか。勝沼インタースルーで、まだまだ車は東に向かいます」
勝沼インターを横目に、アワレみカーは時速100kmで快走。これで、サイコロによって高速をひた走るのは6連勝ということになる。
おかでん「うわぁ」
思わず、声をあげてしまう。同じところをひたすらグルグル回らされるサイコロの旅は、「俺一体どうされちゃうんだろう」という運命の渦に巻き込まれてるっぽさがあって精神的に参るのだが、こうやってぐいぐいと一方的に車を前進させられるのも、何か恐怖に近いモノを感じる。幸い、ゴールに向けて一直線、という状況だから救われているが、これがゴールとは全然違う方向・・・たとえば、日本海沿岸をぐいぐいと北上するとか・・・だったら、もう堪えようのない恐怖だったと思う。
笹子トンネル通過中。日曜日午後ということもあって、車の量が増えてきた。このまま大月を超えて行くようなことがあれば、確実に渋滞にドはまりになるだろう。それはできるだけ避けたいところだが・・・。
大月ジャンクションが近づいてきた。そろそろサイコロを振らなければ。
地図を見ると、まず大月ジャンクションで川口湖方面に向かうか・それとも東京方面を進かの選択肢があるようだ。その後、ジャンクションを通過した場合は大月インター出口を降りるかどうか、の選択肢だ。複合的な作りになっていてややこしい。そういえばここって、川口湖方面から中央道本線に合流するレーンと、大月インター出口に向かうレーンが交差していて結構危険だった記憶があるな。
おかでん「えー、15時36分。大月・・・ジャンクションに向かいます。大月ジャンクションでは、偶数がでればまだまだ東京方面に真っ直ぐ向かいますよぅ、という事で、奇数が出たら川口湖方面に向かう、と。そろそろ降りてもいいぞ?河口湖向かってもいいぞ?ということでひびさん、よろしく」
ひび「あい」
♪何がでるかな、何がでるかな・・・
ほいっ
ひび「2!」
おかでん「2!真っ直ぐ!うわぁ、うわぁ!まだ真っ直ぐ行くのか!うわぁ!鳥肌立ってきたかも!?」
ひび「あ、でもすぐ次のサイコロ振らなきゃ。ジャンクション過ぎたすぐのところが大月インターだから」
おかでん「あ、そうか。すぐ次の分岐か」
ひび「急がないと」
おかでん「ええと、偶数がでたらまだ高速真っ直ぐ、奇数が出たら大月インターを降りる、ということで。ゴー」
♪何がでるかな、何がでるかな・・・
それっ
ひび「あっ!」
おかでん「5!」
・・・
しぶちょお「降りる!」
おかでん「わはははははは。降りる!ついに来たか、下道。うわあ、大月にて、連勝記録は遂にストップ!いよいよ下道、山梨ロード編の開始だな、こりゃ!」
いよいよ、「出口」と書かれた方向にアワレみカーはすり寄って行った。高速移動編はこれにて終了。国道20号・甲州街道に入り、先へと進むことになる。
でも、大月という、山梨の東側まで一気に進めたのだ。これ以上のぜいたくはない。さあ、ここからは下道を使って、自力で東京を目指すだけだ。車内のアワレみ隊隊員のモチベーションは、非常に高かった。
しかし、一人おかでんだけ、出口に向かっている最中に違和感を覚えた。
おかでん「あれ?・・・インターの形、変わったみたいだな、昔からこうだったっけ?」
しばらくして、インター手前でひびがあることに気がついた。
ひび「このルート、違ってませんか?大月インターに出るために、あたし達って一度大月ジャンクションに入ってから、出口方面に向かいましたよね?」
おかでん「ん?ああ、そうだったっけ」
ひび「だとしたら、大月ジャンクションでは直進、というサイコロの目を出していたんだから、大月インターという選択肢はそもそも無かったって事になるんじゃ?」
しぶちょお「あれ?そういえばそうだ」
その後、車内で、サイコロの目と進行方向について大激論となった。
当時のわれわれは何の気なしに「ああ、大月インターを降りなければいけなかったんだ」と、出口に向かっていた。だから、うっかりしていたようだ。
後になって、写真を整理していたら、大月ジャンクションの構図が看板になっているものの写真があった。
これを見て欲しい。
大月出口に向かうためには、ひびの指摘通り、一度本道から左に逸れて、そこから河口湖方面への道を右に見送って行くことになる。即ち、大月ジャンクションの時にサイコロの目「2」を出して、直進が決定している以上、大月出口という選択肢はあり得ない、というわけだ。
数年前、大月インターは改修工事を行って構造が変わってしまったのだが、その際の改修だろう。手元のロードマップにも、アワレみカーのカーナビにも、こういう表記にはなっていなかった。あくまでも、ジャンクションを通過した後に、インターがあるという作りだった。だからうっかりしたのだった。
と、いうことは・・・
まだ、高速道路を東に向かうのは続行。大月インター通過、だ。
うわ、これは偉いことになってきたぞ、まだ先に進むのか。このまま行けば、本当に今日中に東京着、というのもあり得る。うそだろ、おい?
ただ、われわれは現在大月インター出口のレーンを走っている身。まずは中央高速に復帰しなければならない。
料金所のところで、ゲートのおっちゃんに「すいませーん、道間違えちゃったんですけど、折り返していいですかぁ?」と聞いてみた。そうしたら、すんなりオッケーを出してもらえたので、上り線と下り線を仕切っているついたてをひび・おかでん二人がかりでのけて、アワレみカーを通れるようにした。
ただいまUターン中
おかでん「きっと、大月インターのおっちゃん、『ははーん、河口湖方面に向かおうとしていたんだけど、間違えてこっちに紛れ込んだな』と思ってるんだろうな。でも実際は僕ら、東京方面に向かうんだもんね。まさかこのトリックには誰も気づくまいフフフ」
さあ、目の前には「東京・上野原」の字が見えてきたぞ。
確実に、着実に東京は近づいている。
おかでん「15時48分。今、ちょっと法解釈によって混乱していたんですが、結局真っ直ぐ中央高速に向かうべきだ、という結論に達しまして、ただいま東京・上野原方面と書かれた看板の下をくぐり抜けて高速道路復帰です」
東京方面!GO!
日は傾いてきたが、まだ宿についてあれこれ検討する気にはならなかった。高速道路を走っている限り、一体どこで放逐されるかが全く分からないという事情もあるし、われわれ自身が相当やる気になっているからだった。ちょとでも前へ行きたい、というこの闘志は、過去サイコロの旅で感じたことがない。しかも、おかでん一人のガッツではなく、車内にいる3名ともに一致団結している。何とかして、この旅の結末を見たい・・・そんな気持ち一心だった。
しかし、目の前に立ちふさがるのは、渋滞の列。談合坂サービスエリア手前で、完全にストップしてしまった。
一度、お手洗い休憩を兼ねて談合坂サービスエリアに避難。この後、どういう展開になるかわからないし、お手洗いに行けるうちに行っておかないと。
おかでん「えー、談合坂サービスエリアで、休憩とハイカの買い出しをしてきました。現在の時刻は16時14分。この先、東京23区内にある高井戸出口まで向かうのであれば、この渋滞が継続するので時間が相当かかりそうです。今日このままゴールインできるかといえば、非常に難しいか・・・それとも無理か・・・微妙なところです」
次のインターは上野原だった。しかし、この上野原インター、よく見ると国道20号と直結していなかった。微妙に、僅かに、国道ではない道を走っている模様。
おかでん「と、いうことは?」
しぶちょお「もちろんスルーというわけだ」
おかでん「と、いうことは?」
しぶちょお「神奈川県突入ですねえ」
ひび「すごい!」
16時50分。ついにアワレみカーはこの旅で通算4県目となる、神奈川県に突入した。
しぶちょお「うぉー」
おかでん「うぉー」
ひび「うひゃー」
三人とも、妙な雄叫びをあげる。昨日、2県目となる群馬県突入したのと同じくらい、興奮が大きい。神奈川県・・・その隣は、東京都だ。ゴールがある、県だ。遂にサイコロ3、終わりが見えてきた・・・のか?
でも、高速を直進しつづけてゴールする可能性は、相変わらず奇跡に近いくらい低い。とてもじゃないが、このままゴールできるとも思えない。妙な興奮が、車内を包み込んできた。
おかでん「それではですね、そろそろ車は相模湖インター出口から300mほど手前のところまで来ています。渋滞しているので、サイコロ振るのも出口ギリっギリで大丈夫なんですね。さあ、ここで降りるか降りないか、運命の分かれ道。さあ、ひびさんに振ってもらいましょう。偶数がでれば、まだまだ高速。奇数が出れば、インターを降ります。さあどうぞ」
♪何がでるかな、何が出るかな・・・ほいっ
おかでん「4!」
しぶちょお「おっほっほっほっほっほっほ」
おかでん「うぉう、強いなあ。まだ偶数出し続けるか?」
ひび「いや、でも今のは2じゃなかった偶数ですよ?」
おかでん「うん、今のは全然問題なしですよ。2ばっかり出るんじゃないか、というサイコロの偏りについて疑問視されていたんだけど、今回はきっちり違う数字だったもんな。しかも、振り方も全然やましくない。ちゃんとサイコロがコロコロと転がって出た数字だもんな。・・・あっ、ひびさん、悪い、4の写真撮らせて。・・・あ、ガッツポーズしてもらっていいかな」
ひび「やったーッ」
渋滞の中を車はゆっくりと進む。
次は相模湖東出口だが、このインターは下り線限定の、「降り口専門」インターだった。すなわち、われわれがいる上り線では存在しない、ハーフインターというわけだ。
おかでん「と、いうことは?」
しぶちょお「東京都入り、決定!」
ひび「信じられない・・・」
遂にアワレみカー、東京都に入る事が確定してしまった。最終目的地がある県、東京都。そして、われわれにとってこの旅、5県目となる都道府県。
小仏トンネル通過中。
ここで、いよいよ東京都に入った。
最後の都道府県・・・となるのか?それとも、途中で降ろされて、埼玉県あたりに飛ばされてしまうのか?
いずれにせよ、ハッピーエンドにはそう簡単にさせないのがアワレみ隊の企画だ。何かもう一波乱ありそうなのだが・・・。
この時点で、高速道路を真っ直ぐ走り続けて東京23区入りするためには、
八王子→国立府中→稲城→調布
の4つのインターを素通りしなければならない。すなわち、確率としては1/16だ。
あっ!もうそこまで可能性は高くなってきているのか。これは、あながちあり得ない数字ではない。
しかも、八王子インター以降のインターは、国道20号甲州街道と単独で併走している区間になる。たとえ降りてしまったとしても、その後国道20号でゴールを目指せば何ら問題はない。ゴールの可能性が低くなることは、ない。
ただし、問題なのは八王子だ。東京の場合、都心は都道が発達しているので、国道の数が少ない。おかげで、一度都心方面に向かうことができると、すすすっと前進できる。しかし、八王子あたりは、環状線としていろいろな国道が走っており、方向を間違えてしまうと一気に山梨方面に引きずり戻されたり、湘南の方に向かってしまう。広大な環状線というのも、それはそれで困ったもんだ。
即ち、次の八王子インターをなんとしてもクリア・・・即ち、直進しなければいけないわけだ。
おかでん「八王子インター手前にやってきました。17時33分。ここを過ぎれば随分とイージーになることが分かっているので、ぜひ真っ直ぐ行きたいところです。高速にこれ以上お世話になるのは申し訳ない、とかそんなことは言ってられません。ここはぐいっと真っ直ぐ、行きたいところです。偶数で直進、奇数でインターを降ります。お願いします」
♪何がでるかな、何がでるかな・・・それっ。サイコロが逸れた。もう一度。それっ!
おかでん「1!」
ひび「きゃーーーーーーーーーーーっ」
しぶちょお「キター!!!!!」
おかでん「ああーーーーーっ」
しぶちょお「この人は・・・」
おかでん「やっぱりなあ。うーん、やっぱりそう来たかぁ・・・」
ひび「やっちゃった・・・」
しぶちょお「なんて事を」
ひび「今、サイコロがちょっとヘンな回転をしてですね、予想外な数字を」
おかでん「何て事だ・・・よりによって、一番降りちゃいけないところで・・・。今日ゴールインの夢が随分揺らいだなあ・・・」
ひび「そろそろ降りてもいいんじゃないか、っていう気持ちが今頃になってサイコロに反映されて」
おかでん「遅すぎる。今更、遅すぎる。おーい、もう6時近いんだぞ?今晩の宿は町田でビジネスホテルです、とかそういうのイヤすぎ。一体どうなっちまうんだ、俺ら」
しぶちょお「サイコロの面目躍如」
おかでん「全くだ。肝心の所でポカするという。・・・まあ、ここまで連れてきてくれただけ、感謝しないといけないんだろうけどねぇ・・・」
みんなで手を振りながら、本線から離脱する。八王子インター出口へ。
いよいよ、2日目午後、われわれは一般道に放たれた。東京郊外でのバトルが、開始だ。
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