われわれはそのまま、甲州街道を真っ直ぐ走って新宿の街へと出た。
きらびやかなネオンサイン。
その中を、クルージングする。もう、サイコロは振らなくても、いい。
この日、名古屋在住のしぶちょお・ひびの両名は東京で一泊して、翌朝帰宅する運びとなっていた。板橋に宿を見つけ、そこに向かう。
「こっちの方が近道じゃないか?」
「いや、そこは今工事中で車の流れが悪い」
などといいながら、これから走る道を決めていく。サイコロにお伺いを立てなくても良い、ということがどんなに開放的な事か!
宿にチェックインした後は、打ち上げをするために板橋の街を歩いた。すると、何やら遠くから太鼓の音が聞こえてくる。
何事だろう。
音のする方に向かってみたら、そこはお祭り会場だった。お盆はとうに過ぎた時期だったが、みんなが盆踊りを踊っていた。
まるで、われわれを祝っているかのようだ。
この、偶然だけどサイコロの神の気配りに、われわれは深く感激し、感謝した。
みんなで、炭坑節を踊った。
夏休みの始まり・・・7月下旬に、悲惨なサイコロ2があった。そして、夏休みの終わり・・・9月下旬に、このハッピーエンドのサイコロ3。トータルで見たら、いい夏を過ごせたんじゃないだろうか。
屋台の焼きもろこしや焼きそばにも激しく惹かれたが、今回は「完走記念の打ち上げ」なのでガツーンと飲み食いしなくちゃいけない。お祭り会場に後ろ髪を引かれつつ、その場を立ち去った。
結局われわれが選んだのは、焼肉屋だった。入場料として800円かかるが、その代わりに肉の値段が安い、という時々この手のお店で見かけるスタイルのお店だ。カルビ100g280円、というのだからまあ安いだろう。
このお店は大ジョッキがメニューにあった。
うれしくなって、自分用として2杯、同時に注文してしまった。なに、どうせすぐ空く。最初の乾杯、で1杯がカラになるわい。
「乾杯!」
腹の底から、腹筋の力をフルに使って乾杯の声をあげる。三人とも、必要以上に力強くガツーンとジョッキをぶつけ合い、ぐいーっとビール(及び烏龍茶)を飲み、そして、笑った。
肉を焼きまくる。
思い起こせば、サイコロ2の時は「食べずにやってられるか」という雰囲気が濃厚だった。サイコロの旅でヘロヘロにさせられて、楽しみが食べる事しかなかったし、旅そのもののやるせなさを晴らしてくれるのは、食事だった。
だから、ブロンコビリーでアホ食いしたりしたわけだ。
しかし、今回はどうだ。全然、そんなことがない。大体、昨晩は温泉旅館の食事だったし、今晩はご覧のように焼肉だ。しかも、みんな顔が穏やかだ。「食わずにはおれん」という雰囲気は、みじんもない。
「いやあ、いい旅だったねえ」と、おおよそ今まででは考えられなかったような会話をしながら、和やかに肉を焼いた。
「あっ、そこもう焼けてるぞ。ほら」
なんて配慮もしたりなんかして。気が立っていると、他人が焼いている肉なんて構ってやる余裕なんてないし、隙あらば盗んで自分で食べちゃおう、くらいのぎすぎすした関係になるものだが。
お酒が飲めないしぶちょおが頼んだご飯は、大ぶりなドンブリいっぱいのものだった。
うれしくてガッツポーズするしぶちょお。
自棄食い、ではない。今回は、勝利の美食だ。ドンブリ飯もうまいうまいうまい。
肉をやきつつ、酒を飲みつつ、2日間の激走を振り返るわれわれ。何が勝因だったのだろう、とかあそこはキツかった、といった話が際限なく交わされた。
その会話のいずれもが、ニコニコしながらだ。そして、随所に「いやぁ~」といううれしさから来る溜息が混ざる。
いまだに、ぽーっとしている。
いや、それ以前に、一日中車に乗っていたので、体がまだ微妙に振動しているような気がする。じんわりと、車の振動が体にまとわりついている。
お酒を飲んでいたおかでんも、ドンブリ飯を注文した。肉がのっかっている、丼料理だ。酒飲みのおかでんは、締めでご飯は食べないのが普通だが、今回はワハハと笑ってご飯をかきこみたい気分だった。ご飯をたらふく食べる幸せ、というのを感じたかった。そんな、気分。
最後、みんなに聞いてみた。「次、サイコロ4、やるか?」と。
三人とも、一様に「もういい」と答えた。サイコロ3でこうしてハッピーエンドを迎えた訳だが、この結末がものすごい奇跡によって成り立っている、ということは誰しもが理解していたからだ。今回と同じ事を、また次回に実現させるのは絶対無理だ。即ち、「最高峰」のシチュエーションを今回味わってしまったので、これ以上はあり得ないのだ。それが明らかに、あからさまに、実感できるからこそ、「もう次はいいや」となる。
サイコロ3で、大成功を納めたからこそ、「次」はもうない。
アワレみ隊・国道走破サイコロの旅。3回に渡る迷走の旅は、今こうして終わりを告げた。
なに、がっかりすることはない。どうせまた、近いうちに、サイコロとは違った形でむちゃな企画を持ち出すに決まってるんだから。
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