2004年04月17日(土) 2日目
香港の夜が明けた。
カーテンを開けると、そこは・・・ううん、しみじみと味のある光景が広がっていた。
普通、おかでんが宿泊する場所といえば温泉旅館が多い。だから、窓を開けたら山が見えます、海が見えますというのが普通だ。ま、要するに風光明媚、というわけだ。
しかし、この光景。強烈ですな。一晩明けてあらためて目の前のビルを眺めると、なんとなく愛着がわいている自分に気づく。昨日はあれだけ、「うひゃー、廃墟みてぇ」とかさんざん悪口を言って大喜びしていたのだが、今日になってみると「人間って頑張る生き物なのね」と、なんとなく人間賛歌に近いヨロコビと感動を覚えてしまっているような気がする。
歩道を見下ろすと、まだ朝7時なのだがせわしなく歩いている人たちがたくさんいた。今日も香港は活気の渦になるのだろう。街の雰囲気に負けないように、こっちも気合いを入れていかないと。
まずは、朝ご飯を食べに尖沙咀の街をうろつく。今日のターゲットは、お粥だ。やっぱ、中国の朝といえばお粥を食べてみないといかんだろう。
「地球の歩き方」で目星をつけていたお店に向かったが、該当する住所にはそのようなお店は存在しなかった。
「まあ、どこでも味は一緒だろ」
と身も蓋もない事を言って自分自身を納得させ、適当に通りすがりにあったお店に入ることにした。
さっき、この店の前を通り過ぎた際に、店頭にいたオッチャンが
「お前ら朝飯だろ、こっちこい」
「おい、なぜ通り過ぎる。飯食うならここしかないだろう」
「あっ、通り過ぎるのか!待て!どこに行こうというんだ!」
とロックオンの上赤外線ホーミングで勧誘しまくっていた(おかでん訳。実際は広東語なので何を言ってるのかは不明)。しかし、われわれがすごすごと戻ってきたのを発見すると
「ほら、やっぱりお前ら戻ってきただろ。俺の言うことを聞けっつーの」
とオッチャン大満足げな顔。こっちは何だかとっても悔しい気分になる。
店内の様子。
香港の店特有の、間口は狭いが奥行きがあるという作りを踏襲。厨房は店の入り口脇にある。まあ、手打ち蕎麦屋が蕎麦を打つときは道路に面したガラス張りの部屋でやるのと一緒なんだろう。調理の様子を見せることで、集客効果を狙う。
壁にはべたべたとメニューが貼りだしてあり、あまりの情報量の多さに困惑する。街に反乱する広告の量の多さも凄いが、店内においてもその香港パワーはとどまるところを知らない状態。
すわ、また昨晩の屋台と同じ事態に陥るのか!とドキリとする。昨晩のあの「途方に暮れてしまった」状態はもうこりごりだ。
テーブルの上には、びっしりと感じがかかれたメニューが下敷きになっていた。しかし、ジャンル毎に分類されているので、何となくどんな料理なのかは理解できた。まずはほっとする。ま、それ以前にこのお店の場合、メニューの多くが語尾に「飯」「麺」と書かれているので、わかりやすいという下地もある。
それにしても、なんという数のメニューだ。昨晩の屋台もそうだったが、このお店も容赦のない品数。お粥と麺の専門店だというのに、こんなにたくさんだから呆れる。おそらく、これだけの膨大な食材を在庫として持っているとは思えないので、同じ食材でも微妙に調理法が違ったりする「亜種」がたくさんあるのだろう。「中華料理のコックは、1000通り以上のレパードリーを持っている」という話を聞いたことがあるが、この品数を見れば納得だ。
ありがたいことに、ここのお店は写真入りの英語/日本語メニューが用意されていた。よかった、これなら間違いは無い。昨晩の屋台のような・・・って、さっきから屋台の話ばっかり引き合いに出しているな。よっぽどトラウマになったか?
写真のおかげで具体的料理のイメージはつかめたが、今度は目移りしてしょうがない。どれも美味そうだ。
「僕は当店のお勧めっぽい、4種類のだんごスープ麺(潮州四寶湯麺)にするよ。君はどうする?」
「俺はねぇ、やっぱりエビ雲呑にする」
「どれだ?ああ、鮮蝦雲呑湯麺か。・・・待て、日本語訳が変だぞ、えびワソタソ麺になってる」
「ええ?ああ、ホントだ」
まるで2ちゃんねる的な書き方だ。ワソタソ。ううん、いい響きだ。
メニューの数々。だいたい、28HKD~45HKD(420円~675円)程度。あれっ、思ったより安くはないんだな。具がたくさん乗っているので、それでもお得なのは間違いない。が、店の作りがざっくばらんなので、もう少し安いイメージがあった。
相変わらず調子が悪いデジカメと格闘しながら、全メニューの写真を撮る。我ながら変な客だ。
「えびワソタソ」という強烈な誤字が発見されたので、うれしくなってしまい他の誤植を探したが、案外マトモだった。ちっ、つまらん。
それにしても、「ソ」と「ン」の違いなんて、日本人以外は理解できないだろうな。ふっ、奥が深いのだよ、日本語は。
と、油断していたら強烈なのが壁に貼りだしてありましたぜ、旦那。
「牛三寶麺」 牛バブ肉煮ごみ、牛フジ肉煮こみ牛の胃袋フープ麺
一体何の料理だかワケがわからん。しかし、パズルの要領で「香港人が勘違いしたであろう字」を連想していくと、何となく想像はついた。
ま、要するにバラ肉、すじ肉、胃袋の3種類の牛肉が入った麺、って事でしょ。よく考えると奇妙な組み合わせだが、美味そうではある。
あはは、変な間違いだねえとジーニアスと二人して笑っていたのだが、後になってもっと変な事に気づいた。英訳だ。
Beef Brisket,Tendon & Stomach Noodle
牛バラ肉=Beef Brisket はいいとして、その後に続く「牛すじ肉」がTendonって一体なんだこれは。
「ひょっとしたら、香港人は天丼という食べ物を、牛すじ肉と勘違いしているのかもしれん」
とんでもない食文化の誤解があるおそれありだ。いや、待て、日本語訳では「牛フジ肉」とされているこいつが、実際はエビ天とかししとう天とかなのかもしれない。じゃ、御飯はどこに?・・・ますますわからない。
注文してみようかと思ったが、ジーニアスから
「内臓肉とか、そういうのやめといた方がいいぞ。おなか壊しても後の祭りだからな」
と諭されて、なるほどそうだと思って諦めた。だから、実際に天ぷらが乗っているのかどうかは確認できなかった。
※筆者中:日本に帰ってから、tendonを調べてみたところ、ちゃんとした英語で「筋」という意味だったんスね。単にこっちが無知なだけでした。すいません。それにしても、紛らわしいネーミングだ。
しばらくして到着した料理がこちら。
左が例のえびワソタソ。右が4種肉団子。
一緒に、小皿に何か調味料が添えられて出てきた。
嘗めてみると、辛い。ラー油だ。みじん切りの唐辛子が入っているのが日本では珍しい。
辛いのだが、日本のものよりも香りが高く、油のせいか味がマイルド。いっぺんで大好きになってしまった。
どうやら、これをお好みでスープに加えろ、という事らしい。日本で卓上に七味唐辛子が置いてあるようなものか。
では、朝食開始ー。
麺は、非常に細い縮れ麺。「幼麺」という種類らしい。かん水を強く使っているのか、食感が日本のラーメンとはちょっと違う。コシが強い、というよりもゴムを食っているような印象がある。日本では、ありそうで見かけない麺だ。スープがあっさりとしているので、麺がこれくらいシャッキリしてる方が食べていて気持ちいい。
肉団子は、イカや魚のつみれが主体だった。魚肉団子、というわけだ。潮州風という事になるらしい。
「で?味の方はどうなのよ」
「うん、朝のスタートダッシュを切るには良かったんじゃないかな。おいしかったよ」
「点数で言うと?」
「点数ねえ・・・6点、ってことでどうよ」
「昨日のフカヒレが7点とか言ってなかったか、おかでん。たった1点しか差がないのかよ、この料理は」
「あれー。採点基準がふらついているなあ、確かにおかしいな」
「要するにだ、大変申し上げにくいわけだが、おかでんの舌はB級、C級に過剰に反応して、金持ちが食う食べ物には反応しうわなにをするやめろ」
実力行使で黙らせてやった。
今日は、これから地下鉄で九龍を北上。深水歩(シャムシュイポ)に向かう事になっている。
深水歩は、高登電脳中心という電気屋街がある場所だ。香港の秋葉原、という形容がされることもある街だ。ここで、旅のしょっぱなから絶不調であるデジカメの代替品を探そう、というわけだ。
尖沙咀近辺の電気屋でカメラを探してみたのだが、どうも「写ルンです」系のレンズ付きカメラが見あたらない。香港では売られていないのだろうか。
「あれ、独特の回収~再利用ルートが必要になるから、香港じゃまだ売られていないのかも・・・」
写ルンですが無いなら、安いカメラを探すしかない。しかし、電気屋で売られていたのは最低でも5,000円はするカメラ。デジカメに慣れ親しんだ身としては、5,000円とはいえフィルムカメラに金を払うのはバカバカしい。ということで、最後の願いを託して電脳中心でカメラを物色することになった。
尖沙咀の駅に向かう途中、ホテルの正面にある例の安ホテル集合ビルを写真で1枚。何度みても味があるビルだ。
地下鉄尖沙咀駅。ここから佐敦(ジョーダン)→油麻地(ヤウマティ)→旺角(モンコック)→太子(プリンスエドワード)→深水歩(シャムシュイポ)と進んでいく。
英語だったり広東語だったり、なかなか中途半端っぷりが面白い。
約10分ほど地下鉄に乗って、深水歩へ。
地下鉄の車内放送は、広東語の放送のあと英語でアナウンスされるので便利。電車壁面の電光掲示案内板も同じ。見渡す限り、イギリス人の存在はほとんど見あたらなかったが、やはり占領統治時代の名残で英語はごく普通に使われているようだ。
地下から地上に出たところの風景がこれ。
おっ、中環や尖沙咀とはまた違った光景が広がっているぞ。相変わらずの香港の景色と香りなのだが、ちょっと庶民的になった感じがする。地方都市、という感じがありありと伺える。しっかし、どこに行っても建物、ぼろいな。均等にボロく見えるということは、ある時期短期間に急激に街が発展したということなのだろう。雨後のタケノコみたいなものか。
この辺りにくると、さすがに広告看板が減ってきている。ちょっとほっとする空間だ。しかし、数は減っているものの、路上に必要以上にせり出す「香港スタイル」は相変わらず。空いた空間があれば、そこを使わずにはいられないのが香港人なのだろう。
しまいには、道路の上にすっぽりアーケードを作り、アーケードの上から看板をぶら下げたりアーケードの天井に広告を描いたりしだすに違いない。
それにしても、香港の街は近代的な風景からこのようなちょっとボロい風景まで、そのいずれもが写真の撮影しがいがある。こういうとき、デジカメは便利だ。とりあえず撮影しておいて、後でイマイチな写真は削除すればいい。
ここ深水歩には、巨大なショッピングセンターがある。名を「西九龍中心(サイガウロンヅォンサム/ドラゴンセンター)」という。地下鉄の中でも広告を出していたので、ただ今売り出し中のお店なのだろう。
なるほど、いざ現地に到着してみると、周囲の古ぼけたビルとは一線を画した、立派な新しいビルだった。「ビルディング」と呼ぶにふさわしい建造物だ。他の古いビルは「たてもの」と呼ぶにふさわしい。なんとなく、そんな気がした。
「驚いた。香港でもこういう建物、あるんだな」
「馬鹿言っちゃいけない、昨晩中環のあの高層ビル群を見ただろ?新しいビルだって、あるんだから」
「でもよ、いずれこのビルも・・・この辺りのビルと同化しちゃうのかねえ」
「恐らくな。案外数年で、古ぼけたビルと大差無くなってるかも」
ま、そんなことはないだろう。われわれが感嘆してやまないボロビルの特徴は、1階がテナントで2階以上は住居、というスタイルがほとんどだ。このドラゴンセンターは、完全に商業ビル。古くなったらさっさと建て替えてしまうだろう。
「おい、あぶねーな。ビルの中にジェットコースターがあるぞ」
最上階には、屋内ジェットコースターのレールがぐねぐねと張り巡らされていた。このドラゴンセンターの名物らしい。看板によると、名を「天龍過山車」というらしいのだが、まだ朝10時時点では運転されていなかった。
ジェットコースターといっても、高低差は2フロア分くらいのものだし、狭いところを走っているのでカーブが多い。恐らくあまりスピードは出ないものと思われる・・・が、違った意味で怖そうだ。ホントに安心かよ、大丈夫かよ、っていう点で。
フードコートを覗いてみた。既に営業を開始しているところもあって、いい臭いがする・・・
と形容したかったのだが、香港のにおいが濃縮されただけ、という状態。要するに、例の八角に代表される五香粉の臭いが強烈。
どこから臭っているのかと思って周囲をぐるりと見渡したら・・・ああ、あそこだ。鶏肉やら豚肉のローストがぶら下がっているお店だ。
「各式焼味一律特価13元」と書いてあった。要するに叉焼飯どれでも13HKD(195円)というわけだ。安くてうらやましい。お客さんが次々とやってきて、テイクアウトしていた。
ただし、御飯の上に焼き豚が乗っかるだけのシンプル料理なので、栄養バランスとしてはイマイチすぎる。こんなのばっかり食べていたら、安くて満腹にはなれるが栄養失調になりそうだ。野菜食え、野菜。
ドラゴンセンターの壁に貼ってあった警告文。
引至他人死亡
最高刑罰 終身監禁
切勿以身試法
だそうで。こんな事を警告しなくちゃいけないくらい、香港人はモラルが無いんかい、とちょっと気になるが、どういうことだろうか。
ドラゴンセンターは、ダイエーやイトーヨーカドーのように「総合スーパーマーケット」の営業形態を採っていなかった。後日、この他ショッピングセンターと呼ばれる場所には何度か訪れたのだが、いずれもが同じくショッピングモールの形態をとっていたことからも、一つの会社が衣食住を売るという概念があまり香港に馴染んでいないのだろう。小さなお店がテナントとして入るスタイルが一般的らしい。
そのため、イマイチ探したいものが有機的に配列されていなく、ちょっと不自由。使い捨てカメラ、みつからず。
ドラゴンセンターを上から下までうろうろしている時、「日本城」というテナントを発見した。日本の商品を売っているらしい。ここだったら、取り扱いがあるかもしれない・・・と、お店に入ってみた。
中は、どうも100円ショップみたいな品そろえ。お目当ての使い捨てカメラなどは売られていなかった。お皿やプラスチック製品を、興味なく眺めて素通り。しかし、10HKDで手のひらサイズのレシピ本があったので、友達の土産物として購入した。
「何でそんなの買うのよ」
「いやね、長期入院で退屈しまくっている友達に贈ろうと思ってるんだよ、これ。ほら、このレシピ、文字ばっかりで写真が無いでしょ。だから、漢字だけでこの料理を推測しなくちゃいけない。・・・格好の暇つぶしになると思わないか?」
「はあ、そうスか。どれ・・・うわ、ホントだ、何の料理を作ってるんだか、漢字だらけで理解できねぇ」
そんなやりとりをしていたところ、ジーニアスが何やら聞き耳を立てだした。
「おいおかでん。どうやらこのお店の名前は『ヤップンセン』というらしいぞ」
「は?何でわかる?」
「さっきから館内放送で流れてるんだよ、何かもごもごもごっ、と広東語でしゃべったあと、♪ナンチャラカンチャラ、ヤップ~ンセン♪って。それが繰り返されてるから」
「あ、ホントだ。へえ。恐らくこういう意味じゃないか。『しまった、今日は友達が遊びにくるのに、何も家の準備ができていないや』『♪そんなときには日本城♪』みたいな。これがいろいろなシチュエーションで何パターンもある」
「まあ、そんなもんだろうな。ああ、このジングル頭に焼き付きそうだ」
「ララララララララ~ヤップ~ンセン♪ああ、ホントだ、頭にこびりついてしまった」
ヤップンセンの曲を口ずさみながら、食料品売場に向かった。香港庶民の食事情を見てやろう、というわけだ。
入り口に、一方通行の入場ゲートがあるのが特徴的。レジを通らないと帰らせないぞ、という防犯意識の現れか。
野菜売場は、見慣れたにんじんやキャベツの傍らで見慣れない野菜も顔を覗かせ、なかなか楽しい。おかでんが愛してやまない香草(シャンツァイ/パクチー)が山積みされていたので、悶絶してしまった。日本のスーパーでは、高い上に取り扱っていないお店が多い。よっぽど買い占めて日本に持ち帰ろうかと思ったくらいだ。
肉売り場では、豚肉が種類豊富に売られていた。やはり中国人は牛肉よりも豚肉をよく食べるのだろう。いろいろな内臓肉が種類豊富に売られていた。
売り場全体を見渡すと、香港独自のもの、欧米由来のもの、日本由来のものがごちゃまぜに売られていて相当楽しい。サッポロ一番が日本語のままで売られていたし、お菓子売り場は結構日本製の菓子が多かった。飲み物はさすがに香港独自のものが多かったが、売られているお茶の多くが砂糖入りというのには参った。
朝食のときに見かけたラー油を探していたのだが、調味料売り場で「恐らくこれだろう」というものを発見。大喜びで購入した。名前を「潮州辣椒油」という。
日本に戻ってからさっそく使ってみたが、まさにどんびしゃ。美味い美味い、と使いまくっているうちに335gを1カ月で使い切ってしまった。
これ、ホントお勧めです。辛さはそれほどきつくないし。ただ、「李錦記」ブランドの調味料は日本の一般的なスーパーでも売られてはいるものの、大抵が豆板醤程度しか取り扱っていない。このラー油は本格的なお店に行くか、通販で手に入れるしかなさそうだ。見つけたら即ゲットすべし。
ちなみに、ドラゴンセンターでは10HKDで購入。150円だ。日本で購入する場合、どうやら税込で650円~750円くらいする。4倍以上中間マージン取られてるぞ、おい。
レジでお会計をするため並んでいたが、レジ担当の女性店員が初心者らしく非常にもたもたしていた。おかでんの前に並んでいた婆様がたくさん食材を買い込んでいたこともあり、レジを通過するだけで15分近くを要してしまった。
会計時、1,000HKD紙幣を出したのだが、確かに店員は右往左往していた。隣のレジの店員に応援を求めたり、もう一体なにやってるのアンタ状態だった。どうやら、高額紙幣はニセ札チェックが義務づけられているらしく、レジに取り付けられていたブラックライトのようなものにお札をかざしていた。これでニセ物かどうかのチェックができるらしい。
ドラゴンセンターの近くに街市(ガイシー:市場)があるというので行ってみることにした。
比較的新しいが、無骨なビルが目的地街市だった。近づくだけで、何やら生臭いにおいが漂ってくる。
人の多さは香港のどこに行っても変わらないので特に驚きではない。しかし、これだけ強烈に臭うのはちょっとただごとではない。
入り口脇で、豚がお出迎えしてくれた。
血が首からしたたり、床をぬらしていた。人によっては、もうこの段階でギブアップかもしれない。
なるほど、生臭い理由はそういうことか。
一歩足を中に踏み入れると、こんな状態。肉のカーテン。
肉と肉の間を、人間が歩くという構図。
その肉のカーテンも、オーダーメードのようにそれぞれ形状が違う。肉の部位のデパートだ。生物学や医学を勉強している人は、ぜひここを視察することをお勧めしたい。
入り口脇のお店では、豚2匹がまさにさばかれているところだった。がつん、がつんと鉈みたいな刃物を豚に突き刺していた。凄い迫力だ。さすがの香港人も、何人かが見物していた。まあ、日本人がマグロの解体ショーをみるような感覚なのだろう。
冷蔵なんて概念はこれっぽっちもないディスプレイ。今日中に売れなかったら、この肉どうするんだと他人事ながら心配になる。もちろん廃棄する・・・んだよな?
しなさそうな気がする。
いや、ひょっとすると安く屋台などに売りさばくのかもしれない。
それにしても、捌きたてなのか、どの肉もつやつやしている。うまそう・・・には、見えないが。
ハエがブンブン飛んで不衛生そうな印象があるが、実際はハエは全く見かける事が無く、衛生面で対策が打たれているようだった。夏になるとどうなるかは知らんが。
街市の「肉ゾーン」から離れると、そこは野菜ゾーンになっていた。山積みになった野菜がひしめいている。
・・・下敷きになっている野菜、つぶれて痛んでいるんじゃないか。
ま、いいか。どうせ買うわけじゃないし。
こちらは短期の観光客。いかに安くて美味そうな食材があっても、買って買えるわけにはいかない。
二階に上がってみたら、そこは「鳥ゾーン」だった。ニワトリがわさわさと檻の中でうごめいていた。
「わっ、これが鳥インフルエンザ温床の原因か!」
鳥屋のオッチャンが聞いたらぶん殴られそうな事を日本語で口走り、物色する。
たくさんニワトリがいるのだが、どれが美味いのか、個体差がさっぱりわからん。やっぱり気性が荒い方がおいしいのか?
物色していると、一人のオッチャンが鳥を購入していた。店の親父が、ニワトリを一匹檻の中から掴みだす。思ったよりニワトリはおとなしく、これからの自分の運命について何も理解していない事がうかがい知れた。
まさか、オッチャン、あの生きたニワトリをそのままビニール袋に詰めて持って買える気か・・・?
しばらく遠巻きで様子をみていたら、店のオッチャンがいきなりニワトリの首筋に刃物をすっと突き刺した。あっ、と思う間もなく、ニワトリを逆さづりにして、後ろにあった青いポリバケツの中に入れてしまった。早業だ。恐らく、ポリバケツの中にしばらく吊しておいて、血抜きをするのだろう。
てっきり、ニワトリの首をぐいっとひねって絞め殺すものだとばかり思っていたのだが、案外スマートなやり方だった。
こちら、食用蛙コーナー。
カエルの上にカエルが乗っかっている状態。こんな状況で保存されているカエルはたまったもんじゃないだろう。生き地獄だ。
ちなみにお値段は20HKDということなので、1匹300円。香港の物価からすれば、相当高い食材だ。そんなお金を払ってまで買いたい食材かねぇ・・・と呆れたが、実際に買い求めている人は皆無だった。
先ほどまでデジカメが使い物にならなかったのだが、この数分間は奇跡的に撮影が可能となったため、先ほど豚の解体をやっていたお店に急いだ。
しかし、到着してみると、豚の姿はどこにもなかった。さっき、解体しはじめて10分も経っていないのに・・・。恐るべき早業だ。
街市を後にする時、入り口の豚は既にどこかに運ばれた後だった。きっと、その豚も今頃は解体されて肉は軒先につり下げられているのだろう。
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