日が暮れてきた。そろそろ夕食の時間だ。
「おなかが空いたときが、食事時」なのではない。香港に来てから、頻繁に何かを口にしているような気がする。飯時だから、飯を食う。
今日は、初日JCBプラザで予約をとっておいた北京料理のお店「鹿鳴春(スプリング・ディアー)」だ。ジーニアスが「北京ダックが安くて美味いらしい」という情報をつかんでいて、ぜひ行くべし、企画段階から行くことが決まっていたお店だった。
尖沙咀の雑然とした街中を、傘をさして歩く。到着したのは、何やら怪しい雑居ビルだった。
「おい・・・ホントにここか?」
「看板がでているから、ここしかないだろう」
確かにそうなのだが、秋葉原の裏通りにありそうな雑居ビルだ。しかも、フロアの一階にあるのではなく、狭い階段を登って二階に上がるようになっている。階段の近くには、インド系のオッチャンが何やら何名かで立ち話をしている。北京ダック=高級料理=いい場所にお店がある、という印象だったのでちょっと怯んでしまった。
ま、中国人にとって中華料理は日常食。あんまり「高級」だのなんだの、気にしなくてもいいのだろう。気合いの入った場所ではないところにお店がある、というのは、庶民的である証拠。ではお店に入ってみよう。
中は結構広い。奥行きは無いのだが、幅があるお店の造りだった。席の予約が入っている事を確認し、指定された席に通された。
周囲を見ると、「予約席」と書かれた札が乗っているテーブルが結構ある。そういば今日は土曜日、家族総出でディナーでも楽しもうという人が多いのだろう。
メニューに日本語の紙が貼ってあった。
「トクトククーポンJCBスペシャルメニュー」だそうで、JCBカードで支払うことを条件に3パターンからなるコース料理を割安で食べることができるらしい。
ちゃんとJCBの日本人スタッフが添削をしたらしく、変な日本語は全く見あたらなかった。
「北京ダックセットメニュー(3-4名様)」で450HKD(6,750円)+サービス料10%というのがお手頃だったのだが、ジーニアスとあれこれ相談した結果コース料理は頼まず、単品で頼む事にした。
「単品だったら、北京ダックを一人一匹頼むって事もできるねパパ!」
「お前、絶対にそれはやめとけ。北京ダック1匹でも4人前くらいあるんだぞ、一人一匹って、それだけでおなかいっぱいでゲームオーバーになるぞ」
やはりこのお店にもお酒のメニューは置いていなかった。やっぱりお酒を飲みながら食事をする習慣って無いのかねぇ、といいながらビールを注文。
銘柄はサンミゲルだった。
お酒の肴用に、というわけではないが、「料理がでてくるまで暇でしょ、おたくら。これでもつまんでなさい」という意味合いの豆が出てきた。
相当堅くゆでてあって、「こりゃ歯の鍛錬になるわい」とかいいながらつまむ。
箸は、密閉された箸袋に入っている状態(要するに、コンビニの箸みたいなもんだ)になって配膳されていたのだが、店員が袋を破って中の箸を取り出してくれた。
気が利いている・・・と褒めたいところだが、箸の取り出し方が乱暴。いきなり、思いっきり箸袋を机にドンとつきたて、中の箸が袋を破って飛び出したところを引きずり出すといったオペレーションだった。
「おい・・・なんかこのお店も、丁寧なんだかそうじゃないんだかワカランサービスをやるなあ」
「席に座る際は椅子を引いてくれたし、ビールは頻繁につぎ足しにくるし。基本的には対応いいんだよな。しかし、肝心なところであんな事やる。昨日のフカヒレの店だってそうだったじゃん、対応いいんだけどハエを潰そうとパシン、パシンってやってるという。ところどころ『ええ?』という応対が混じるんだよな」
「恐らくね、香港人にとってのサービスとか礼儀ってのは日本人と微妙に違うんだよ。だから、ああいうのは全然オッケーなんだろうな」
最初の一品がやってきた。
白菜とブロッコリーを炒めたものに、あんがかかっている料理。
いや、そんなに盛りつけなくても、というくらいお皿からこぼれそうな状態。
中華レストランにおいては、テーブルクロスは当然のごとく汚すものである、という事を再認識。何しろ、スプーンを持ち上げただけでスープがたらたらと零れる。
料理としては非常にシンプルだし、食材はスーパーで簡単に手に入るシンプルなもの。しかし、一口食べた二人が思わず渋い顔をして、「ああ、美味いなあ」とため息をついてしまう味だった。
味の素のクックドゥにしても日本ハムの医食同源シリーズにしても、こういうシンプルな料理を次々と開発してくれればうれしいのだが、案外売られていない。やっぱり、見た目派手な料理でないとウケないのだろうか。
ジーニアスと、ビールを飲みながら中華について議論をしていると、ジーニアスが一点を見つめたまま動かなくなってしまった。
「何だ?」
「いや、後ろを見ろよ、とりあえず」
振り向くと、シェフが何やら給食の運搬にでも使いそうな台車を転がしてきているところだった。その台車の上には・・・こんがりと仕上がった、茶光りする北京ダック様がご光臨なさっていた。
「おおお。で、でもよ、まだココロの準備ってヤツが」
うろたえるおかでん。
「だよな。俺ら、今さっき食べ始めたばっかよ。早いよな。メインのお楽しみのつもりだったのに容赦しないよなー」
「ほら、物事には順序ってヤツがですね、あるわけでして。やっぱり、何品か料理を食べながら、来るべく北京ダックに思いを馳せるってのが恋愛プロセスってヤツじゃないかと思うわけで」
「じゃ、君食べんでよろしい。俺だけ食べてるから、『うわ、ジーニアスさん美味そうなもの食べてる!』って見てなさい」
「あっ、いや、僕も食べます」
「食べます、じゃなくて、食べさせてください、だろ?もう一度言って見ろよ」
「何でアンタに懇願せにゃならんのだ。それにしても、デカいな。あれで一匹280HKDって・・・ええと、4,200円か。やっすぅ。一人280HKDとかじゃないだろうな」
「一匹でこの値段だよ、間違いない。まあ、北京ダックって皮しか食べない料理だから、あれだけまるまると太っていても量は少ないんだろうけど」
お皿いっぱいに盛りつけられた肉。
「・・・誰だよ、量が少ないって言ったヤツは」
「多いな。日本だったら、これで一家4人分って感じじゃないか?」
「だよな。北京ダックって、せいぜいあの皮でくるんだヤツを2-3個食べればお仕舞い、っていうのが普通だと思うんだけど・・・これで一体何個食べられるんだ?」
「いや待て、これで終わりじゃないみたいだぞ。後ろを見ろ」
「えっ?」
ジーニアスに言われて、後ろを振り向く。すると、そこにはまだ先ほどのシェフが居て、ひたすらアヒルを捌き続けていた。
「あれ、まだあるのか!さすが一匹丸ごと」
「一人ひと皿ずつの配分になるな、これだと」
「うへぇ。アヒル地獄。こっちが食べ過ぎで北京ダックになっちまいそうだ」
で、結局2皿に盛りつけられた北京ダック。既に少し食べてしまったので、手前の皿は量が減っている。
それでも、こんなにある。
「おいジーニアス。俺んちそんなに金持ちじゃなかったからよくわからんのだが、こういう光景って見たことがあるか?」
「・・・いや、ないな。二人で食べるというシチュエーションにおいて、この量は半端じゃないな」
「ということは、アレか。僕ら、人生に勝った、という事でファイナルアンサー、って事か?」
「まあ、どこで人生の勝ち負けを決めるか、ってのはあるけれども。でも、有る意味狭い範囲では勝ったのは間違い無いだろうな」
「じゃあ、われわれの人生の勝利を記念して、北京ダックで乾杯をしようではないか!」
二人で、皮にくるんだ北京ダックを、まるでグラスで乾杯するかのごとく接触させ、乾杯をした。
「うむ。勝利の味って感じがする。ま、人生勝ったといっても、単に安く北京ダックを食べることができました、っていうだけの事なんだが」
「じゃ人生に勝ってねーじゃん。お得情報をゲットして、安く食べることができましたっていうだけじゃん。生活の知恵ってやつ?」
「おいそれを言うな。生活の知恵でもなんでも、賢く、お得に人生生き抜けばそれで勝ちなんよ」
この至福の時を、記念に撮影しておくことにした。
「おいジーニアス。うれしそうに北京ダックを箸でつまむ瞬間の写真を撮りたいんだ。協力してくれ」
「ええ?そんな写真を撮るのか?」
「いいか、うれしそうにしろよ。この世の春、俺の人生楽勝、っていうのを全身から発散させつつ」
「どんな状態だよ、それ」
といいつつ、撮影したのがこの写真。
「よし今度はお前の番だ」
ということで攻守交代。
「・・・なんかおかでん必死だぞ。『お、俺の人生の中でこんなに美味いモノ食べたの初めてだ』って顔して写ってるんスけど」
「余計なキャプションをつけんでよろし」
北京ダック相手に至福の格闘を繰り広げている間に、酢豚がやってきた。
これも、お皿にてんこ盛り。
「だからぁ、どうして料理の量とお皿のサイズが微妙にマッチしていないのかね。お皿のギリギリまで盛る、というのが中国ではおもてなしの証拠なのかねぇ」
具は、豚肉、赤ピーマン、ピーマンといたってシンプル。しかし、これが激しく美味い。豚肉は唐揚げというよりも、フリッターのような揚げ方になっていた。これが、絶妙にあんとマッチして美味い。
「うーん、今まで食べた酢豚の中で一番美味いかも知れない。いや、確実に美味い」
思わずうなる。素直に、「北京ダックよりもこっちの方が僕、評価高いんスけど」とジーニアスに告白したら、ジーニアスに「ふーん」と鼻であしらわれた。
それにしても恐るべきは北京ダックだ。食べても、食べても量が減らない。
甘味噌をつけて食べるので、味は単調だしこってりしている。そもそも、北京ダックは悶絶するほど美味い食べ物ではないので、食べていくウチにだんだん食べっぷりが雑になってきた。
最初は、一枚一枚ありがたく頂戴していたのだが、いい加減お皿の上が片づかないことに業を煮やし、皮の上に複数枚の北京ダックを載せて食べはじめた。
「おい、日本でこんなぜいたくな食べ方、できるだろうか?」
「恐らく無理だろうな」
「じゃ、せっかくだから、肉ダブル・・・ええい、トリプルで勝負だ。ああ、これ以上は皮からはみ出る。どうだ、皮からはみ出そうになる北京ダック!」
最後にチャーハンが出てきた頃になると、二人とも結構な満腹感でややぐったり気味。
チャーハンも非常においしく、またもや一口食べて感嘆の声を上げてしまった。しかし、やはりあの北京ダックは量が多かった。
最後のひとすくい、チャーハンをよそうジーニアスの顔。何かお通夜の時みたいに神妙な顔になっている。
そういうおかでんも、既にこんな状態。
激しくスローダウン。
結局、突き出しの豆料理は食べきる事ができず、この日の夕食を終了。うう、おなかいっぱいだ。明日目が覚めたら、北京ダックになってるんじゃないかってくらい食べまくった。ごちそうさまでした。
ちなみにお会計は、チップを入れて600HKD(9,000円)。二人でこのお値段だから、格安としか言いようがない。この程度の出費で、「人生勝った」と思えるのだからラッキーだ。
雨の中、腹ごなしに尖沙咀西部を歩いてみる。
しばらく歩くと、何やらキャバレーらしきネオン街が広がっていた。
派手な電飾が、パチンコ屋のようだ。
このお店は、「金碧輝煌酒城」というお店らしい。
そんな片隅に、「青樹」という日本料理店がひっそりとたたずんでいた。
ぶら下がる赤ちょうちんが郷愁を感じさせる。
メニューは、ガイジンが期待する日本料理、っていうやつだった。
牛刺身、カリフォルニアロール、魚刺身、天ぷら、ラーメン、イカの丸焼き。
基本的には居酒屋っぽいメニュー構成だ。日本式の、ノリが外側にある巻きずしではなく、ノリ内側・御飯外側のカリフォルニアロールが置いてあるのが興味深い。香港人も、黒々としたノリが外に巻いてあるのは気持ち悪いと思うのだろうか。
それにしても、メニューの中に「二人前定食」というのがあるのには笑った。どうやら、大皿料理が3品ほどでてきて、それを二人でシェアしながら食べなさいという趣旨のものらしい。てっきり二人前の盛りの料理なのかと思ったのだが、違った。
日本において、「定食」と名の付く料理は大抵トレイの上にきれいに収まる、一人用の食べ物だ。一つのお皿を二人でつついて食べなさい、という定食は見たことも聞いたこともない。面白い発想だ。でも、香港では至って当たり前の発想なのかもしれない。
BBOSS(ビーボス)というナイトクラブ。香港ではナイトクラブの事を夜總會と呼ぶらしい。しゃれた名前だ。日本もそう名乗ればいいのに、と思う。日本でクラブ、と言えば既にDJブースがあるハコの事を指しているわけで、混同を避けるのにちょうどいいと思う。
それはともかく、カタカナで「クラブダイフゴー」と書くのはちょっと安っぽくてイヤだ。
僕はこのお店の存在を知らなかったのだが、香港で最大級のナイトクラブらしく、席数は3,500もあり、店員も100名規模で存在するらしい。店の奥が見えないくらい馬鹿でかいスペースだとも言う。
ジーニアスと「どする?せっかくだから香港の夜を満喫してくか?」という話をしていたのだが、結局何となく乗り気がしなくてヤメた。雨がそろそろ止んできた事だし、今日こそビクトリアピークに登らなければならないことだし。
DFSギャラリアというもっぱら日本人向けのデューティーフリーショップを覗いてみる。
ざっと見ただけだったが、印象深かったのは女性用マネキンに乳首がついていたことだった。でっぱりが、肌着から盛り上がって見える。
なぜわざわざこんな演出をしているのだろうか。香港人女性は、基本的にブラをしない民族なのだろうか。
・・・と思って、翌日以降女性の胸元ばかりを集中して見てみたところ(変態)、特にブラ無しという文化は存在しないようだった。全員、日本人同様ちゃんとブラをしている。
あんまり意味無いなあ、というのがこのマネキンの乳首なのであった。
この写真を撮影しているところを店員に見つけられてしまい、慌てて逃げる。
「逃げなくてもいいのに!」
とジーニアスに笑われたが、何となく逃げたかったのだから仕方がない。
今日は信和中心のアニメショップに続いて、写真撮影後逃走を図るのは2回目だ。
海沿いの遊歩道を歩きながら、スターフェリー乗り場に向かう。
天候が回復してきたことだし、これから香港島に渡って、昨日果たせなかったビクトリアピークに登る事にしたのだ。100万ドルの夜景とやらを見せてもらおうじゃないの。
ところで、100万ドルって、米ドルだろうか、それとも香港ドルなのだろうか。それによって7倍も価値が違ってくるのですが。
ま、米ドルだとしても1億円ちょっとの値段にしかならないワケで・・・とお約束のつっこみを入れてみる。
今の香港にとって、100万ドルなんてはした金に過ぎない。
写真は、尖沙咀側から香港島サイドのワンチャイ周辺を撮影したところ。
こちらは、香港島サイドのセントラル方面。
昨日接近を試みた、国際金融中心がひときわ目立ってそびえている。
ジーニアスが思わず
「なんという高さだ」と感嘆の声を上げる。
「圧倒的じゃないか、我が軍は」
と、どこかの総統が口にしていた台詞を叫んでいた。確かに、圧倒的だ。
昼間見てもそうだったが、夜景で見るとどうしようもなく、絶望的に圧倒的な偉容を誇るビルディングだ。周りのビルと国際金融中心の対比が、ビグザム対ジム、みたいな感じに見えてくる。
あっ、この辺りのたとえは、ガンダムを知ってる人じゃないと分からないのでご容赦。
海沿いの歩道にはベンチが並べられていて、カップル達の格好のデートスポットになっていた。この夜景を眺めながら、みなさま熱心に愛をはぐくんでらっしゃる。アジアで一番キス密度が高い地点じゃなかろうか、ってくらい、もう。
「お前ら、この圧倒的な状況について何も感じる事はないのか?キスなぞしている場合か?」
と日本語で言ってやりたかったが、中に日本人が混ざっていたら恥ずかしいのでやめておいた。
九龍のシンボルである時計台。
昔、ここに鉄道の九龍駅があったらしい。その名残。
スターフェリー乗り場。
5分間隔くらいでフェリーが発着しているので、いつも待たずに乗れる。今回も、記念撮影後すぐに船は出発した。
もう既に21時近いのに、感心させられる。
フェリーに乗って、セントラルに近づくにつれて、「圧倒的」な我が軍はますます圧倒的になってきた。
やっぱり、このデカさは尋常じゃない。
その他の50階建てくらいのビルが雑草に見える。
やりすぎ、っていう事について香港人は感覚が鈍いのかもしれない。何もそこまで高いビルを建てなくても、と思う。
セントラルからバスにのって数分で、ビクトリア・ピーク行きのピークトラム駅に到着する。
バスは二階建てで、二階部分に屋根がないオープンタイプのものだった。道がくねくねしている事もあり、前列に座ると結構なスリルを味わえる。
なぜなら、自分の位置よりも後ろに前輪があるため、「あっ、ここで曲がらないといかんのに!」という地点から2-3テンポ遅れて回頭するからだ。道路脇の電柱にぶつかるような錯覚を抱きながら、バスは進んだ。
ピークトラムの中。
ピークトラムは二両編成になっている。
乗客の人種はごった煮。日本人、中国人、白人などよりどりみどり。
夜9時をすでに回っているのに、山の上に向かうケーブルカーは満席となっていた。
いや、ここの場合、夜だからこそ混むわけだ。百万ドルの夜景を見るためだ。
ピークトラムは、高層マンションの脇を通りながらどんどん標高を上げていく。標高を上げていくと、そこにもまた高層マンションがあって・・・さらにその先にも・・・。車道がつづら折りになっていて、そのヘアピンカーブの都度、マンションが建っている。山そのものは結構急な斜面で、日本人だったらこんなところにマンションを建てようとは、絶対に思わない場所だ。マンション同士でドミノ倒しが始まってしまいそうだ。でも、山の上に行けば行くほど「高級」ということになるらしく、このあたりの価値観はよくわからんところだ。確かに、気温は若干下がるし願望が良くなるのだが、山の上になると徒歩や自転車で移動することがほぼ不可能だ。買い物一つするのでも、車が無いと絶対に無理。それくらい、坂はきついし道はくねくねしている。
8分ほどで、山頂駅に到着。
山頂駅の駅舎から外に出る場所が非常にわかりにくく、建物の中を右往左往してしまった。他の客も、同じようにうろうろ。
駅舎内に蝋人形館があった。日本では東京タワーに蝋人形館があるが、観光地で高い場所と蝋人形というのは親和性が高いのだろうか。
「外に出るにはお金がいるんじゃないか、この表記だと」
「まさか。終点まで来たのに、駅から外に出るのは有料です、って詐欺じゃんそれ」
と勘違いもしつつ、ようやく外に出ることができた。
眼下に広がる100万ドルの夜景。
・・・いや、これが案外眼下じゃないんだよなあ。写真だと、左上に明るい雲が写っているが、この雲は例の「圧倒的」な国際金融中心にかかったものだ。天気が悪くなるとき、山にかさがかかるのと一緒で、このビルのまわりにだけ雲が発生している。
で、その雲を、見下ろすわけではなく水平位置に眺めているわれわれ。
ビクトリアピークの山頂駅は標高373m。ということは、それと同じかさらに高いビル、ということになる。なんつー高いビルを建ててルンですか、一体。
「やっぱり圧倒的ではないか、我が軍は」
しつこくジーニアスが自慢する。
アドミラリティ~ワンチャイ~コーズウェイベイあたりを眺めた写真。
こうやって写真で見るとイマイチっぽいのだが、実際はなかなかなモンでした。
「ええもんみさせてもろたわぁ」
とスケベな声を出しながら、感心する。
山頂駅構内に喫茶店があったので、一杯頂いて帰ることにした。さすがに、夜景見ました、ああ楽しかったです、サヨウナラというのはもったいなさすぎる。
二人で56HKD。
思わずメモってしまったが、こんなコーヒーの値段をメモる必要は何も無かったような。
ジーニアスから
「せっかくなので、このコーヒーは何点で評価する?」と質問されたが、こんなの、フカヒレとかと一緒に採点できるもんかぃ。
夜景を眺めながら、テラスでコーヒーを頂く。結構優雅だ。
十分満喫したので、下山してホテルに帰ることにした。もう11時近い。
セントラル駅から始発の地下鉄に乗ったが、乗客がほとんど居なかった。
ゆえに、こうして車内を撮影してみたりなんかする。
ご覧のように、車両のつなぎ目とはいっても段差やドアが全くない。バリアフリーが実現されている。
ホームがまっすぐということもあって、車内は気持ち悪いくらいに先を見通すことができた。
「地平線が見えそうだな」
「ううん、あともうちょいなのだが」
などと、遠くを見ながら語る。
本日も結構歩いたので、疲れた。シャワー浴びて、さっさと寝よう。二日目、これにて終了。
2004年04月18日(日) 3日目
香港、3日目。
いつも通りの時間に起きだし、外に繰り出す。まずは、朝食探し。
昨日は麺を食べたので、今日はお粥にすることにした。三日目になると、いい意味でも悪い意味でも気負いがなくなってしまい、
「まあ、適当に店見繕って入ればいいんでしょ」
なんてやる気のないコメントを出していた。
「どこで食ったって変わりゃしないって」
なんて、身も蓋もない事を言ってみたりなんかして。
さて、そんなわけで道をぶらぶら歩いていたら、昨日の朝ご飯を食べたお店の前を通り過ぎた。すると、昨日われわれを独特の重力で引き寄せた親父が今日も客引きに余念が無く、「おい、お前らどこへいく?ここだろ?ここ!」と大きなリアクションで手招きをしていた。
「やっばぁ。通り挟んで向こう側なのに、俺らロックオンされてるんでスけど」
「まさか、昨日のヤツだって覚えてはいないだろうな?」
「覚えてないと思うけどな」
「見なかったふり」をして、そのまま素通り。結局、ホテルからほど近いお店に入った。
「潮發粥麺」というお店だ。「潮」とついているところから、恐らく潮州料理のお店なのだろう。店頭には、「多謝光臨」なんて字が掲げられている。そうか、ワシら「光臨」したんか。よーし、シモジモの虫けらども、お前らが食うゴミみたいなエサを食べて進ぜようぞ。
・・・オコラれるぞ、そんな不遜な態度だと。
昨日とうってかわって、シンプルなメニュー。写真もなく、日本語もない。広東語と英語だけ。まあ、何となく分かるのでこれで十分。
値段は、20HKD台が主流。300円~500円といったところか。
隣のテーブルで、若いお姉さんが粥と麺の両方を食べていて、圧倒される。朝からパワフルだ。
店員は英語が通じない。ジーニアスはメニューを指さしながら、「This one」と注文していたのだが、どーせ英語も通じないんだからどーでもいいや、ということでおかでんは「これ、一つね」と開き直って日本語で注文してやった。ちゃんと意味は通じたようだ。
さて、やってきたお粥その一。
名前、不明。忘れた。適当に頼んだので、名前まで覚えていない。
アーモンド、くらげ、レタスが具に入っている。日本のお粥では、ありそうで無い具だ。
しなしな=レタス
こりこり=くらげ
かりっ=アーモンド
ずるずる=お粥
と、いろいろな食感が楽しめて楽しい。そして、味はまあまあおいしい。
こちらは、レバー入りのお粥。至ってシンプル。しっかし、レバーをこういうところに入れるのか。すごいな。
日本人的発想だったら、ジャンクフードと結びついて、「ポテトチップを砕いて散らす」とか「ウィンナーを入れる」とかやりそうだが、レバーという発想はなかなか至るまい。
それにしても、お粥というのはいろいろ具で工夫ができる面白い料理だ。日本でも、本格的お粥チェーン店ができればそこそこ流行ると思うんだが、どうなんだろう。
おかゆだけのシンプルな朝食だった。本当は、揚げパン(油器)をセットでつけたかったのだが、メニューをよく理解できなかったため注文しそびれた。
それから、この後出かける上環(ションワン)でガチョウのタレ煮の名店にいく予定があったため、ジーニアスの強いプレッシャーにより朝食を控えたという事もある。
パートナーとしてジーニアスのように歯止めをかける人間がいると、助かる。でも、「腹10分」まで食べるわけにもいかなくなるので、やや寂しくもある。
さて、そんなココロの葛藤を香港の濃い空気の中で発散させつつ歩いていたら、フルーツ屋を発見した。
よりどりみどりのフルーツが並んでいる。そして、後ろにはミキサーもずらりと並んでいる。
なるほど、ここは果物屋ではなく、フレッシュフルーツジュースのお店なのだな。
まるで肉屋のショーケースみたいなガラスの中に納められたフルーツは、何やら美味そう煮見える。
せっかくだからフレッシュなヤツを絞ってもらうことにした。
私めはスターフルーツを。
無知につき、実物を見るのは初めてだった。なるほど、断面が☆の形になるからスターフルーツなのだな。
カタバミ科ゴレンシ属、というのが学術的な正式名称らしいが、聞いたことがない名前だ。
お値段、10HKD。150円だから、安いもんだ。
ジーニアスはストロベリージュースを飲んでいた。
「あー、ストロベリージューチュ、オイチイなぁ」
となぜか幼児語で感想を述べる。
「お前も写真撮ってやるからカメラよこせ」
とジーニアスに写真を撮られたのがこの写真。
いや、ジュース飲んでる時にどんなポーズをすればいいのかわからなかった。
右手が手ぶらで暇だったので、ついつい腕を組んでしまったが、あまり見栄えはよくなかった。
やはり、腰に手をあてて飲む、というのが日本人の正しい喫飲スタイルなのだろうか。
ジュースを飲みながらふと見上げると、果物屋の隣にこんな看板がでていた。
中華脚底理療中心
やっぱり、「中心」という名前がつくとものすごく大げさな印象を受ける。日本人だって、すぐ「○○センター」という名前をつける癖があるが、あらためて「中心」と漢字で書かれると違和感を感じる。
さてこの中心さんだが、日本人観光客を狙ったマッサージ屋で、尖沙咀じゃ珍しくないのだが、目を惹かれたのが誤植の多さだった。香港は日本語併記の看板が結構多いのだが、そのほとんどがどこかに誤植がある。だから、こちらも慣れっこになっていたのだが、ここは結構強烈だった。
足マツサーヅ
・・・わ。SARSがどうしたって?待つSARS?やばいだろ、それは。
全身ソサーヅ
なぜ、「足」では「マツサーヅ」と惜しいところまできていたのに、「全身」になると「ソサーヅ」と正しい日本語とのズレが大きくなっちゃったんだろう。よく字を見ろ、明らかに違ってるだろうが。
眞空吸引カーワ゜
??元の日本語が理解できない。あと、「ワ゜」の発音方法をおしえてください。一体何を間違えたのだろう。カーブ?
とまあ、揚げ足取りの要領で読んでいたのだが、最後もきっちりとネタをご提供してくれた。
エしペーターでー階にどラざ
「エシペーター」というのも素敵なのだが、「どらざ」という言葉の響きも味がある。こういううさんくささ、大好きだ。でも、こういうお店には行きたいとは思わないが。
地下鉄に乗って、上環(ションワン)に向かう。今日一日は、香港島サイドの散策が目的だ。上環は、中環(セントラル)の西側に位置する場所で、古くから栄えた街だ。今では、セントラルなどの繁栄から取り残されたかたちになっているらしいが、その分古くからの香港の文化に触れる事ができる、という。
地上に出る前に、地図で入念に現在位置とこれからの行程についてミーティングを行う。あてもなく歩くため、ある程度範囲を決めておかないとどんどん遠くに行ってしまいかねない。
上環。
ずいぶんと街がおとなしくなっているのが、ひと目で分かる。あの強引な看板の数々が、ここでは質、量ともに少ない。
街をゆく人の数も少な目で、なんとなく穏やかな雰囲気を感じる。他の地とは大違いだ。
香港では、よくこの「三角形型ビル」を交差点で見かけた。日本ではあまりお目にかからない形状だ。
要するに、道路が直角に交差しておらず、Y字型に伸びているところが多いということだ。
永樂街と呼ばれる通り。朝鮮人参を売っているお店が多いということは看板から伺い知れたが、お店のほぼ全てがシャッターを下ろしていたため、中を確認することはできなかった。
考えてみれば、今日は日曜日。定休日なのだろう。
道路の真ん中で、犬がひなたぼっこをしていた。
上環の風景(1)
上環の風景(2)。
路面電車がよく似合う街だ。
上環は乾物屋が非常に多い。
軒先に、フカヒレや椎茸、貝柱などが山積みになっている。周囲は、ダシの臭いが充満している。乾物の量が尋常じゃないので、ダシ汁ならぬダシ空気になっている状態だ。体にダシの臭いが染みついてしまいそうだ。
値段は、確かに安い。
安いのだけど、貝柱買って帰ってもねえ・・・ということで、パス。
裏道に入ってみたら、今度は線香屋街になっていた。通りごとに、売られているものが違うというのが面白い。
仏具屋にしては、どうも明るく楽しそうな外見だ。日本だと、白と黒を基調とした厳かな雰囲気なものなのだが、こちらじゃ赤と黄色ときたもんだ。なんだか興奮してくる色だ。
たくさん紙製品がぶら下がっていたが、これはどうやら「死者への贈り物」にする飾りらしい。
上環の風景に似つかわしくない、新しいマンション。
この街も、じょじょに近代化が進んできているようだ。
それにしても、強烈な高層マンションだ。一体、何階建てなのだろう。途中まで数えてみたが、首が痛くなってやめた。恐らく、30階建てくらいはあるだろう。
このマンションも、ご多分に漏れずベランダはなし。そして、L字形になっているため、お隣の家の中が丸見え状態。こんなんでいいのだろうか、香港人。
ためしに、中に入ってみよう・・・と提案して、エントランスに向かったのだが、中には屈強なガードマンが二人待ちかまえていた。断念。
やはり、こういう処に住む人っていうのは金持ちで、入り口の警護くらいは当然つけるんだろうな。妙に納得。
われわれは、上環の街を歩きながら、「ガチョウのたれ煮」の名店「ええと、すいません、漢字がうまくタイピングできませぇん。店名は写真記載のとおり。すまんがタイピング放棄だ。
で、だ。
到着してみたら、シャッターが閉まっていて激しくショック。営業時間よりも早く着いてしまったか、と「地球の歩き方」を読み返してみたら、「定休日日曜」なんだと。あらー。
われわれ旅行客というものは、「会社をお休みして行く=毎日がホリディ」な状態なので、曜日感覚が欠如する。しかし、そのおかげでうっかり今回のようなしっぺ返しを食らうことになる。
気を取り直して、町歩きを続ける。
ある路地の入り口にて。なぜか、おかでんが「お化けだぞー」みたいなポーズをとっているのだが、ここは「キャットストリート」という場所。「ネコ」にちなんでみた、というわけだが・・・アンタねえ、いい加減30なんだから、とジーニアスに言われた。ふん。
ここは、骨董品やがらくたが売られているお店が並んでいるらしい。どれ、どんながらくたが香港には売られているのか、見極めてやるぞ。
道路の入口には、早速イギリスの衛兵さん人形がお出迎え。こんな人形、買う人がいるのだろうか。単なる場所の無駄としか思えない。
衛兵さんの隣には船の舵、そしてその横には望遠鏡。一体どんなコンセプトでここの店主は品物を買い集め、そして陳列しているのかさっぱり分からない。
そして、ついでに言うと、勝手に道路の半分を陳列物でふさいでしまっている店主にぜひコメントを聞いてみたいものだ。
お皿、蓄音機、中国人民軍の救急バッグ、帆船の模型、舵、ボンボン時計。どのお店も節操がない。
古い通過を売っているお店もあったが、無造作に積み上げてあるものだから「単なるゴミ」にしか見えなかった。骨董品的価値、本当にあるのか?
売られている商品のほとんどが、日本のフリーマーケットでもお目にかかれない「誰が買うんだよ、これ」というような物ばっかり。でも、商売として成り立ってるんだから素晴らしい。
小物ばかりかと思ったら、こういう大きな人形も売られていた。
日本で言うところの仏像みたいなもんか。右側におわすのは、関帝・・・かな?
一瞬、ミイラが飾られているのかとおもってぎょっとした。
奇妙なラインナップはまだまだ続く。
ここは・・・人形コーナーなのだが、おお、その全てが毛沢東主席ではありませぬか。
手を挙げているもの、後ろ手のもの、胸像、もうありとあらゆる毛先生がいらっしゃる。
「・・・でもよジーニアス。香港という自由主義経済の国がだ、共産主義の権化である毛沢東を支持してるとは思えないんだけど」
「ギャグじゃないの?真剣に崇拝対象として人形並べてるわけじゃないと思うぞ、さすがに。日本で、オウムの麻原とか北朝鮮の金日成とかをおもしろがってウオッチしてる人がいるのと同じ感覚じゃないか?」
毛沢東の背後にある小さな人形は、みな拳を振り上げて革命の成功を喜んでいる。
恐らく、文化大革命を記念しているものなのだろうが、ありとあらゆるものを持ち、ポーズをとっている。ラッパ、拳銃、タオル、本・・・。
それらの「暑苦しい情熱」人形の最前列にいたのが、「公憲大会」とかかれたテーブルに座る3人の人形だった。二人がガッツポーズを決めている。恐らく、「反革命的である」資本主義の犬を捕まえて、公開裁判にかけているのだろう。
その隣では、まさに反革命的な方が土下座させられ、頭には何か書かれているとんがり帽子をかぶっている。よくは読めないが、恐らく「私は革命に否定的なダメな人です」みたいな内容になってるんだろう。
その犯罪人をはいつくばらせているオッサンが、でっかい刀を構えている。これから断罪に処すのだろうか。しかし、その横では人民服を着たおねーさんが、三沢光晴のエルボーのごとく肘をつきあげ、歓喜のラッパを吹き鳴らしている。よくわからんシチュエーションだ。まあ、みなさま満足そうな顔をしてらっしゃるので、われわれが口を挟むのはやめておこう。われわれまで断罪されそうだ。数の論理で、こいつらに勝てっこねぇ。
香港最古の廟という、「文武廟」に行ってみることにした。キャットストリートからすぐそばだ。
こじんまりとしているが、ごつい門がある建物が、文武廟だった。鄙びてはいるが、日本の古典建造物を見慣れているとこの程度だと「古い」という印象はあまり無い。
ひょっとすると、これまで香港でオンボロビルをたくさんみてきたので、「古い」という事に対して相当免疫ができてしまっていたのかもしれない。
時代の移り変わりを如実に教えてくれる光景。
古びた文武廟の背後には、高層マンションがそびえていた。このギャップは相当なものがある。
中に入ってみる。写真撮影はOKということなので、遠慮しつつ撮影をさせてもらう。
中は、外のシンプルさとうってかわっていろいろな飾りが施されていた。日本の仏教装飾に似てはいるが、こちらのほうがゴテゴテとしている印象を受ける。
お参りしている人も何人かいて、若い女性が深々と頭をさげていた。信仰は世代を越えて浸透しているのだな。
記念にジーニアスの写真を撮ってみたのだが、何を撮影したかったのかよくわからないできばえになってしまった。ジーニアスが薄暗いところで立ちすくんでいる写真、というキャプションしかつけられないぞ、これだと。
天井からは、何やらスズメバチの巣みたいなものがぶら下がっていた。装飾品だろうか。ランプのかさとして、エスニック調な家具として使っている・・・いや、おい!煙が出てるぞ、火がついてるじゃないか。
ようやく、この巨大な「何か」が線香であることに気がついた。この線香を使えば、2週間は燃え続ける事ができるらしい。何ともお得だ。日本の線香とは大違いだ。
「60日交換不要のアースノーマットみたいなもんだな」
「たとえが風情なさすぎ、それだと」
隣の廟は、お偉いさんの像がまつられていなかった。お墓・・・なのかな、これは。
普通、ああいう宗教的な場所にお参りすれば「ありがたい気持ち」になるものだが、やっぱりお国が違うと言うこともあって、特に有り難くもなく、そのまま文武廟を後にした。
「やっぱ、御利益が明確になっていないと、拝み甲斐がないよな」
と酷いことを口にする。
さて、丘の上から降りてきたところは、文華里(マンワーレイ)という地区で、この辺りは印鑑掘り屋が軒を連ねているという。印鑑屋・・・?ああ、このキオスクみたいな屋台がそれか。日曜日ということもあって、ほとんどのお店が閉店していた。一部、オープンしているお店もあったのでジーニアスが
「せっかくだから、『アワレみ隊』の印鑑でも掘ってもらったらどうだ?」
と水を向けてきた。ちょっと魅力だったが、掘りあがるまで2時間以上かかるらしいということがイヤだったのと、掘りあがった印鑑が『マフしみ隊』なんていう悲しいできばえだったらイヤなので、遠慮しておいた。
歩きながら、セントラルに戻ってきた。さすが、香港の経済中心地だけあって、高層ビジネスビルが軒を連ねている。一気に、日本的光景になっていった。
しかし、ビルとビルの隙間にある路地は、このように・・・道をふさぐような格好で、屋台が出ていた。
近代的な空間の中でも、どっこい庶民は生きている。
ヒルサイド・エスカレーターで丘の上に上がってみることにした。このエスカレーターは、全長800mの長さを誇り、ミッドレベル地区までを20基の屋外エスカレーターでつないでいる。屋外でここまで長いエスカレーターなど、見たことがないのでちょっと想像がつかない。あのビルの向こうにある山のあたりまで、続いているのだろうか。
スタートしてしばらくは、商店が建ち並ぶビルの狭間をすり抜けていく。わざわざ陸橋を造って、そこにエスカレーターを走らせている金のかけようだ。さすがに、地べたにエスカレーターを作ったら、雨が降ったときに浸水して壊れてしまうからだろうか。
エスカレーターで丘をのぼっていくにつれ、景色はめまぐるしく変わっていった。思わず、東京ディズニーランドの「カリブの海賊」を思い出してしまった。
骨董品屋の脇をすり抜けたら、SOHOと呼ばれる地区に入った。この辺りは、オープンテラスのお店が多く、洋風なお店が並んでいる。とたんに白人密度が濃くなっており、昼間っからエスカレーターに面したテラスでワイン飲んどる。エスカレーターで流れてくる人たちを酒の肴にしとるな、さては。
SOHOも問答無用で過ぎていくと、だんだんと光景はマンション群の中を通過していくようになった。この辺りから、住宅街になるらしい。住宅街といっても、もちろん一戸建ての家ではない。高層マンションだ。
こんな急角度の丘の上に建っているのだから、あきれる。法面崩壊して、マンションが海までドミノ倒しにならんのだろうか。
いい加減、800mは長い。
しばらく、無機質なマンションの横をすり抜けていく光景が続くこともあって、ジーニアスがウンザリとした顔でこちらを見る。要するに、「もうやめて降りようぜ」という合図だ。見なかったことにする。
このエスカレーター、行きはよいよい帰りは怖い、で下りは階段しか存在しない。片道運行なのだ。朝の通勤ラッシュ時のみ、エスカレーターは下りになるらしい。即ち、上まであがってしまうと、あとはひたすら階段を使って今来た道を引き返さないといけないわけだ。
おかでんもやや不安になりながら、エスカレーターをさらに進むと車道にぶつかった。どうやら終点らしい。
地図でみると短い距離のようだが、実際は相当おなかいっぱいになる行程だった。
しかし、全行程を踏破した、という満足感は全く無かった。なぜならば、このエスカレーターのゴール地点よりもさらに上に、当たり前のようにマンションが建ち並んでいたからだ。一体どこまで山の斜面にマンションを作れば気が済むんだ、香港よ。
そろそろお昼時。今日はセントラルにある飲茶の名店、「陸羽茶室」に行くことにしていた。
そうは言っても、現在地はヒルサイドエスカレーターのてっぺん。歩いて降りるのは相当面倒だ。結局、通りがかりのタクシーをつかまえて、店の前まで樂をさせてもらうことにした。
タクシーに乗り込むや、ジーニアスが行き先を告げる。
「りくうちゃしつ」
運転手、「は?」という顔をして振り返る。おかでんも、びっくりだ。それ、日本語読みじゃないか。広東語読みだと、「ロッユーチャーサッ」になるらしいのだが。
冗談かと思っていたら、もう一度、自信たっぷりにジーニアス、「りくうちゃしつ、プリーズ」と言う。通じるわけがない。
結局、地図を見せながら、「ここだ、ここ」と指さして納得してもらえた。
「何やってンのよ、アンタ。『りくうちゃしつ』で通じるわけないだろうが」
「お前今さっきすごくびっくりした顔してたよな。『りくうちゃしつ』って何だよそれーッ、って顔してたよ。いや、ひょっとしたら通じるかな、と思ったんだけど。やっぱり無理だった」
当たり前だ。
ジェットコースターのような斜度の道をタクシーは転がり落ちていく。当たり前のような急斜面なので感覚が麻痺するが、信号待ちになって、ふと道路脇の建物を眺めるといかに自分たちが水平とはほど遠い角度でつんのめっているかがよく分かった。
「おい、下りの場合って、動力なくても下に降りることができそうだな。ブレーキとハンドルさえあれば事足りるぞ」
「これでお金取ろうってんだからせこいよな」
と、よっぽどこっちの方がセコい事を言う。
陸羽茶室は、セントラルの繁華街の中にあった。創業1933年、老舗の味わいってやつだろうか、重厚な雰囲気がある。「ちょっと点心食べにきたんですけどー」という感じで店に入るのははばかられるような気がする。
建物の造りもそうなのだが、威圧感を感じさせるのは、入り口にインド人のドアボーイがいるということだった。ガードマンとして十分成り立つ、体躯の良さ。
「食い逃げとかしようもんなら、こいつにブン殴られて引きずり戻されそうだな」
と、入店前から不穏な発言をする二人。
店内も、外装と同様どことなくノスタルジックな造りとなっていた。
決して豪華絢爛というわけではないのだが、黒みを帯びた木の色が、歴史を醸し出している、ような気がする。
まだ昼食時にはちょっと早かったみたいで、お客さんの数はそれほど多くは無かった。
席に着くや、「お茶はどうする?」と聞いてきたのでポーレイ茶を注文。
陸羽茶室の飲茶メニュー。良くも悪くも年期が入ったメニューだ。紙の色は、もともと・・・というよりも色あせたんじゃないかと思われる。ところどころ、シミがついているというのも年期を感じさせる。これらのメニューで、どれだけの人たちを魅了し、垂涎させたことか。
しかしだな、メニューの一つに鉛筆で×印をつけるのはやめようや。いくら取り扱い中止メニューとはいえ、もう少し見栄えってものを考えてもいいんじゃないのか。こんなところにも、香港的ざっくばらんさが伺える。
香港風に、まずはお茶で食器類を洗ってみる。昔は、食器は不潔だったので、食前にはこうしてお茶でゆすぐという習慣があったらしい。
見よう見まねでやってみるが、何やらアライグマになった気分だ。食前に食器を洗う、というのはちょっと日本人には馴染みの無い発想だ。
さて、待つことしばし、料理がやってまいりました。
まずは、伊府麺(いーふーめん)。きしめんのような幅広の麺の、焼きそば。
相変わらず、盛りが豪快だ。やはり、この地においては皿いっぱいに料理を盛りつけることがおもてなしと考えられているに違いない。
と、書いているうちに、段々この料理について自信がなくなってきた。豚肉入り炒麺、だったかもしれない。うわ、全然違うメニューじゃん。
味は、あっさりとしていて、しいたけのうま味があんによく滲み出ていてとてもおいしかった。やや薄味で、人によっては物足りなく感じてしまうかも知れない。
五目鳥餃子スープ付き。
メニュー名のとおり、スープがついてきたのだがさて、どうやって食べればいいんでしょうか。
スープに浸して食べてみたが、どうやら食べ方が違ったらしい。そのまま餃子にかぶりいて、後でスープを別に飲むのが正解だったか。
これも薄味。
マヨネーズと海老の巻き揚げ。
焼き豚まんじゅう。
味噌が入っていた。
海老入り五目飯の葉包み蒸し。
なにやら淡白に料理名だけ告げて、さっさと次の話題にもっていこうとしているのはあまり感動が無かったからに他ならない。
「悪くはないんだけどね・・・欠点は特にないんだけど」
「昔ながらの味付け、なのかね。全体的に味が薄い。あそこまで画一的に薄いってことは、偶然ってわけじゃなさそうだし。店の方針なのかね」
「で・・・お会計は?」
「チップ込みで300HKD。約4500円かぁ」
「えっ、300HKD?たけぇ。昨日の飲茶、150HKDだったんだぜ。昨日の倍かよ」
「きっと、あの入り口のインド人雇ってるお金だろ」
「うーん、値段と満足感のバランスがうまく取れていないような気がするなあ、このお店は」
陸羽茶室の真向かいにあったレストランに、こんな看板がでていた。
日式大碗飯餐 JAPANESE STYLE RICE
で、写真に写っていた丼飯はというと・・・御飯の上に、ええと、これは豚カツと、ウナギと、いんげん+鳥そぼろ。それにサラダとジュースがつくらしい。なんじゃ、そりゃ。
えらく奇妙な取り合わせだ。ヤキトリが乗っているならまだジャパニーズっぽいが・・・あ、でも、豚カツしかり、ウナギしかり、とりあえずは日本なのだな。でも、日本じゃ絶対こんなどんぶり飯ありゃしないぞ。
大体、豚カツ食べながらウナギ食べるって発想がわからん。リッチだからいいけど。
お値段、32HKD。480円でこれだけ具がありゃ、文句はない。でも食欲はわかない。
セントラルの街を歩いて、HSBCビルを見に行くことにした。香港のビルは風水に基づいて作られているのだが、このHSBCビルの場合、1階フロアが波打って作られているという。
荒俣宏によると、ビクトリア・ピークから降りてくる「竜脈(大地を流れる気)」をキャッチするために、そのような不便な床にしたらしい。これは一度みておかねば。
写真は、HSBCビルの脇で発見した作業用マシン。何やら蜘蛛のような足をもち、そこからクレーン状の手を伸ばしてなにか作業をしていた。
「驚いた。香港でこのような近未来的なレイバーに出会うとは」
思わず、写真を撮ってしまった。
で、肝心のHSBCなのだが・・・
うわぁ、なんだこれは。フリーマーケットをやってるかのごとき人の数。コンサート会場入りの待ちをしている、追っかけか・・・?
二人とも、あぜんとしてしまった。よく理解ができない光景だったからだ。この人達の特徴としては、人様の敷地に勝手にシートを広げ、ある人は食事をし、ある人はしゃべり、めいめいくつろいでる。あ、ここにいるのはほぼ全て女性だ。しかも、フィリピン人だ。
どうやら、フリーマーケットでも何かの行列でもなく、単にここでピクニックをしているということらしい。それにしても、何やら変な空間だ。ここだけ、香港ではなくなっている。
ジーニアス曰く、フィリピン人は香港上流家庭のメイドさんとしてよく雇われていて、そのメイドさんが休日の日曜日はここにやってきて友達とだべっているのだとか。
「でもよ、何もHSBCの敷地内でやらなくてもいいのに」
「雨天決行できるからじゃないのか?」
「HSBC、よく文句言わないな。邪魔じゃん、この人ら」
ひょっとしたら、HSBCにとってフィリピン市場は非常に大きな意味を持っていて、いまのうちに恩を売っておこうという腹なのかもしれない。
トラムに乗って、ずっと東に行ってみる事にした。とりあえず、あてもなく、終点まで。
トラムも、フィリピン人だらけ。
「おい!一体この国どうなってるんだよ。昨日まで、いや今朝までこの人らどこにも居なかったはずなのに」
「急に出てきたな。ほら、道路歩いてる人たちもフィリピン人だらけ」
確かに、電車通り沿いの歩道を歩いている人もフィリピン人が多い。
「さっきジーニアス、この人らメイドさんで、上流階級に雇われてるって言ってたよな。一体この国には上流階級の人が何人いるんだよ。べらぼうに多いんじゃないのか?」
「いや、実際に多いんだろ?」
「げぇ。そういう事か。いいなあ。別にメイドさんが欲しいとは思わないが、メイドさんを雇えるくらいの稼ぎは欲しい」
「お前のすぐ脇にいる・・・うん、そのフィリピン人。見ろよ、レジャーシート抱えてるぞ。きっとこの人、HSBCでピクニックした帰りだぞ」
「満足げな顔をしてるな」
「ささやかな楽しみだったんだろうな。しかし、ホントこの電車ガイジン多いな。金持ちは地下鉄で移動し、トラムは貧乏人と観光客だけ、って区分けが自然にできてるっぽいな」
トラムと地下鉄は香港島内ではほぼ同じルートで走っている。トラムの方が安いが、スピードは非常に遅い。
銅鑼湾(コーズウェイ・ベイ)を通過すると、段々と街が穏やかになってきた。北角(ノースポイント)を過ぎると、完全に住宅地へと町並みが変わっていった。住宅地、といってもマンションが並んでいるわけで、あまり田舎っぽい印象はうけない。
トラムの東の終着点、ええと、漢字変換ができないのでカタカナで書くと、ショウケイワン、に到着。
トラムという乗り物は、前後に運転席がついていてリバーシブルに運転ができる造りにはなっていない。前と後ろ、が明確になっている。ゆえに、終点になると写真のようにぐるりとレールが円を描き、一周するようになっている。
「と、いうことでとりあえず終点まで来てしまったのだけど。何があるんだ、ここは」
「地球の歩き方には、何も書かれてないぞ。単なる住宅地だろ」
「単なる住宅地、か。じゃ、とりあえずシモジモの人たちのリアルな生活風景を見物させてもらうかね」
あてもなくこの地を歩いてみる事にした。
街を歩いてみる。
人の数は多いが、どこかのんびりとした雰囲気がある。不思議な空間だ。
中心街におけるてんこ盛りの人間とざわめきに慣れてしまったから、感覚が麻痺したのだろうか。
ここでも屋台がずらりと並んでいた。
しかし、今まで見てきた屋台街と違うのは、食料品屋が多いということだ。やはり生活に密着した場所だからだろう。
見慣れた食材6割、見慣れない食材4割といった感じか。
街の向こう側には、高層マンションが乱立。
「うわ、シムシティみたいだ」
いずれ、この辺りもああいう建物に覆い尽くされるのかもしれない。
特に観光名所があるわけでもない場所だったので、ざっと町並みを眺めたら引き上げることにした。バスで香港島の商業中心地、コーズウェイ・ベイへ。
バスを降りると、こりゃまた強烈な人の数。さっきまでの穏やかな街と大違いだ。これだけ人が多いと、歩くだけで・・・いや、立ち止まっているだけでも疲れる。
「何でこんなに人が多いんだ、どこもかしこも。日本だって、こんなに人が多い場所なんて全国でも数カ所しかないのに」
「馬鹿言っちゃいかん、人口密度が香港と日本じゃ全然違うんだから、比較するだけ無意味だ」
「それにしても、これだけ人がいれば、一人一人の価値って相対的に下がりそうだよな。天安門事件で、戦車が人をひき殺してました、っていうのも何となくわからんでもない。たくさん人がいると、『一人くらいやっちゃっても、問題あるまい』って気分になっちゃうかも」
「おいおい」
あちこちの店に行ってみて、おみやげ用のお香を探してみた。香港といえば、「香る港」と書くことからもわかるように、昔は香木の産地だった。だから、お香は売られているだろうと思ったのだが・・・発見できなかった。残念。
ジーニアスが「お茶を買いたい」とのことだったので、地図を見ながらお茶屋に行ってみた。
裏通りにある、「遊月」というお店。
中にはいると、お茶っ葉を売るお店というよりも、喫茶店という様子だった。
「ちょっとあてがはずれたけど、ま、いっか」
ということで、一杯お茶を頂いていくことにした。
ええと、メニューには「緑茶」「白茶」だの、まさに「いろいろ」なメニューがあったのだが、すっかり記憶から抜け落ちてしまった。
何を飲んだんだっけ。
お店の人が、茶葉が入っている器にお湯を注ぐ。そして、すぐにフタをして、フタをちょっとずらしたところから湯飲みに注ぐ。「えっ、早すぎるんじゃないスか」というくらいのタイミングで、素早く注ぐのがコツらしい。
お茶受け。何かのフルーツだが、あまり見かけた事がない。これをつまようじで頂く。
「二人で食う分にしては量が多いけどなあ。香港人は一般的にこんなに食うのか」
「そうなんじゃないの?何なら持ち帰ったらどうだ」
「いらない」
このお店のお支払い、182HKD。なんと2,730円だ。
「わ。めっぽう高い!どうなってるんだ、たかがお茶だぞ」
「たかがお茶、で済まない高級茶を飲んだって事だな、多分。俺らあんまりわからんかったけど」
「ひょっとして、あの茶菓子が・・・」
「まさか」
結局、このお店でお茶葉は買わず、別のお店で入手することにした。地球の歩き方で調べてみると、宿泊しているホテルのすぐ脇にお茶専門店があることが分かったので、そちらに向かう事にした。
「お茶屋?あったっけ、そんなお店」
「さあ・・・記憶にないなあ」
と言いながら、向かってみると、確かに存在した。香港のお店は間口が狭いので、よっぽどインパクトがある店構えでないと、記憶に残らない。
お店の名前を「茶藝楽園」と言うらしい。
店の中で、いろいろ試飲させてもらいながらお茶を選択。片言の日本語は通じるので、楽だ。
ま、お茶の試飲なんて、「これ飲ませてくれ」と指さして、飲んで、美味いかまずいか、買うか買わないかくらいだからそれほど言語コミュニケーションを必要としない。
あれこれ飲んだものの、「どれも美味い。」という結論に達してしまい、困ってしまった。
結局、お土産用、自家用含めて3種類のお茶を購入。左の高山烏龍は、100g270HKD(4,050円)。うわ、高いなあ。でも、美味かったんだから仕方がない。真ん中の家蔵ポーレイ(漢字が書けないので、カタカナで失礼)が、25年貯蔵もので170HKD(2,550円)、右の・・・ええと、これも漢字が書けない。20年もののポーレイが100HKD(1,500円)。いずれにしても、相当いいお値段がするんである。
「観光旅行」という名目がないと、絶対にこんな出費はしないだろうな。旅に出ると、どうしても懐が緩くなる。
さて、本日の夕食は四川料理のお店だ。ジーニアスは過去香港に来たとき、四川料理を食べたことがあるらしい。その際に、日本での四川料理とは全然違う、ハードな辛さに卒倒しかかったという。今回も、四川料理に対しては及び腰だった。
「いや、おかでんが食べたいっていうならいいけど・・・四川、本当に辛いぞ。容赦ないぞ」
と、ややオドオドしながら言う。よっぽど辛い目にあったらしい。
JCBプラザで予約を入れる際、スタッフの方に「本場のヤツが食いたいんですけど」とアドバイスを求め、紹介してもらったお店に予約を入れておいた。その名を、「雲陽閣川菜館」という。何でも、辛さの段階を表すトウガラシマークがメニューにはつくらしい。それだったら、辛い料理を避けつつ食べる事ができるだろう。安心だ。
お店が入っている「美麗華商場」というビルのエントランスには、テナントの広告が並んでいた。目指す雲陽閣の看板は・・・あった。
おおお。川、という字に赤唐辛子が使われているぞ。これを見ただけで、口の中に唾液が溜まった。
「おい、これは容赦なく辛い目に遭わせるぞ、という犯行予告と捉えていいんだな?」
「間違いない。こりゃ覚悟しないと」
お店の入り口。中国なので、赤を基調としたお店は特段珍しくないのだが、店が店だけに「辛い」印象をより強くさせた。一瞬、入るのを躊躇してしまったくらいだ。
店内の様子。商業ビルのテナントとして入っているお店なので、それほど味のある造りではない。シンプルだ。
香港では、昼食、夕食ともにわれわれ日本人と比べて1時間くらい食べはじめる時間が遅いようだ。昼だと、13時頃から店が混み、夜だと19時をまわった頃から混み始める。・・・って、前に説明したっけ。
現在は18時過ぎなので、日曜日の夜とはいえ店内はガラガラだ。
まずは、ビールを頼む。
突き出しとして、キムチのようなものが出てきた。
単品で、あれこれ頼んでみる。確かに、メニューには唐辛子マークで辛さ表示がされていたが、最強を意味する唐辛子3つ、を避ければいいかといえばそうでもなさそうだ。多分、唐辛子1つでも相当辛いと思われる。
まずは、四川料理の王道である麻婆豆腐から。
味は、スーパーで売られている「丸美屋麻婆豆腐の素」なんかとは比べものにならないくらい(比べる方がおかしいのだが)、味に奥行きがあって、美味い。
美味いのだが、やはり、か、辛さが・・・。
まあ、この辛さはおかでんにとっては心地よいのだが、花椒(ホワジャオ)が情け容赦なく入っているのが強烈。しびれるなんてもんじゃない。抜歯の麻酔を口中にかけられたかのように、完全に口腔内が麻痺してしまった。口だけじゃない、喉まで麻痺だ。辛さとは違う、ヒリヒリ感が支配する。
「辛さマーク2」であった麻婆豆腐を前に、完璧に打ちのめされて参っているジーニアス。
やらせ写真ではなく、本当の苦悩の表情。
昨日までは、「うっわぁ、うまいなーこれ」と、美味さのあまりに苦悶の表情を浮かべるという事をしてきたのだが、今回だけは、本当に苦悶の表情だ。
料理名は忘れた。酢豚みたいな料理。
これは、見た目大したことなさそうだし、実際辛さマークは1だったと記憶している。
しかし、赤ピーマンに見せかけて実は赤唐辛子よん、という具の配置から見てもわかるとおり、唐辛子のかっらいエキスが料理全体に行き渡ってしまい、なかなかな辛さなんである。
ジーニアス、だめ押しでダメージ増大。
辛さとシビレを緩和させるため、かえるのフリッターを頂く。
骨が多く、あんまり食べるところがない。うまいか、と言われれば・・・まずくはないが、あえてこの肉を食べなくちゃいかんほど美味いとは思わなかった。
ただ、げてものな感じは全然しない、素直な肉ではあったよ。
この料理は、素直に辛さが無かった。つけだれが辛かったが、まあこれは大したことはない。
今回は、シメとして毎回チャーハンでも芸がないので、麺にしてみた。
やはり、四川といえば担々麺。
ジーニアスが注文したのだが、何やらそうめんのような麺が出てきた。具は、シンプルにひき肉とネギ程度。
しかし、これもしっかりと辛かった。スープもので辛いと、今まで蓄積したダメージが倍増する。しかも熱いときたもんだ。ジーニアス、最後の最後までひぃひぃ言っていた。
辛さランク2でも、おかでんにとっては結構平気だったことに味をしめ、辛さ3の牛肉麺を注文してみた。
出てきたのは、こちら。
おおお。唐辛子がゴロゴロと具として乗っているし、なによりもスープの色が明らかに危険信号を発している。これは、やばいのではないか。
食している最中のおかでん。
何やら顔色が悪くなっているような気がするが、きっと気のせいではない。
食後、周囲を見渡していたジーニアスが
「おい、俺らの周りのお客を見ろ。誰もこのテーブルみたいに赤っぽい料理を頼んでないぞ。うちらだけじゃん、あえて辛い料理ばっかり選んでるの」
「えっ、そうだったのか?」
確かに、周りを見渡すと、明らかに辛そうには見えない白や緑を基調とした料理をぱくついていた。食卓を囲む人たちの顔からはやわらかな笑みがこぼれている。転じてこのテーブルは、「うう」とか「ああ」とか言いながら、妙に怖い顔をしながら辛い料理を食べていたわけで、このギャップたるや相当なものがあった。
「四川、奥が深いなあ、ってことでここは一つ」
「何がここは一つ、だよ。わけわかんねぇよ」
四川料理の強烈な辛さにあてられて、二人ともフラフラしながら尖沙咀の街を歩く。
真っ正面に、何やらモノリスのような巨大なマンションが見えた。
「で、でけぇ。何なんだ、あのマンションは」
「何階建てか想像できんな。まるで機動隊の盾みたいだぜ」
「ところで、あれって・・・一つの建物なのかな、それとも3つの建物が折り重なるように建っているから一つに見えるのかな」
「一つだろ?いくらなんでもあんなに接近しているわけないだろ。部屋の窓から隣の家、丸見えじゃん」
・・・違う角度で見てみたら、3つのタワー型ビルでした。いくら建坪率という概念が無い国でも、ビル同士を近づけすぎだってば。
恐らく、マンション同士で、昔のマンガでよくあった王道パターン「幼なじみの女の子が隣に住んでいて、窓を開けたらすぐそこに女の子の部屋の窓がある」という萌えなシチュエーションになっているに違いない。ああうらやましい。
・・・本当か?
廣東道上部の陸橋からスターフェリー乗り場方面をを見下ろす。
香港の道は微妙に日本人の感覚と違う。「ここでこう行けばあそこに出るだろう」と思って進むと、変なところに出てしまう事がよくある。これを文化の違いと解釈するのか、単に香港の道の作り方がへたくそなのかは分からない。
陸橋を渡って、下に降りようとしたのだが建物の中に入ってしまい、迷ってしまった。どこに出口があるんだ、ここは。陸橋から地上に出るのでさえ、困るありさま。
気がついたら、フェリー乗り場に到着していた。漢字表記の電光掲示板が面白かったので写真を撮っておいた。
カメラを身構えて、まさに写真を撮ろうとしたときに、電光掲示板の下にくたびれた顔をしたオッチャンがどっかと腰を下ろした。
「おい!オッサン!ちっとは遠慮せんかコラ」
ジーニアスが叫ぶが、おっちゃん全然気づかず。マカオで全財産をすって、精魂使い果たして戻ってきたところなのかもしれない。そっとしておいてあげよう。
フェリー乗り場の中にあったマクドナルド。
将軍漢堡、なるハンバーガーがどうやらお勧めらしい。12HKD、180円。将軍バーガーとは一体なんだ、と思ったら、よく見ると日本のてりやきマックだった。TERIYAKIは外国でもウケるんだな。日本じゃあまり人気がないバーガーだと思うのだが。
ちなみに、将軍バーガーのポスターが壁に貼ってあったが、そちらには「SHOGUN FOREVER(将軍よ永久に)」と書かれていた。えらく大げさなんである。
ジーニアスが「四川料理で口が麻痺してたまらんので、香港スイーツを食べに行こうではないか」と提案してきたので、デザートタイムを設けることにした。
甘いものは全く口にしないおかでんなので、香港甜品の存在すらよく知らなかったのだが、ジーニアスに連れられて「糖朝」というお店へ。
「糖」という字からしても、甘そうだ。
広東読みは「トーンジウ」というそうだが、英語表記では「The Sweet Dynasty」という。なるほど、「甘い王朝」という意味で、まさに「糖朝」だ。日本語風に意訳した名前だと、さしづめ「甘味天国」といったところか。あんまり意味のない意訳だが。
この糖朝、東京の青山にも出店しているとは知らなかった。
店の中はほぼ満員。めいめい、丸テーブルを囲んでいろいろ料理を食べていた。女性だけの連れが比較的多いのは、スイートを食べるために来ているからだろうか。
地元の人たちは、結構御飯を食べに来ている人が多く、何やらたくさんのお皿を卓上にならべて談笑している。
逆に、スイートだけ食べているのは何やら日本人観光客が多いような気がする。
ここは日本語メニューも当然のように用意されていて、数多くのスイートを選ぶのでも苦労しなくて済む。
ジーニアスはタピオカ入りココナッツミルク。15HKD。
おかでんは・・・えっと、なんだっけ。忘れた。
マンゴ果肉入りライチ味ゼリー、22HKDだったような気もする。
今日が香港最後の夜。明日の飛行機で東京に戻ることになる。
香港のナイトライフを楽しもうじゃないか、というジーニアスから鼻息荒い提案があったので、われわれはまたセントラルに戻ってきた。スターフェリーに乗るの、何回目だろう。1日1回は必ず乗っていたから、3回目か。
セントラルのやや山側のところに、「蘭桂坊(ランカイフォン)」という夜遊びスポットがある。そこに行こうという事になった。
途中、HSBCビルの前を通りがかったのだが・・・
呆れた。まだピクニックやっとるヤツがおるぞ。もう、夜の9時になっとるのに。しかし、さすがに大半のフィリピン人さんはお帰りで、残っている人も片づけを始めているところが大半だった。明日から、またお仕事。頑張ってください。僕らはあともう一日お休みがあるけどね。
蘭桂坊。
急に看板に英語が増えた。
周りに居る人たちも、白人比率が高い。日本における六本木に相当する場所なのだろう。
バーやレストランが、せいぜい100m四方くらいの狭いブロックにひしめき合っていた。
蘭桂坊の町並み
街頭では、蘭桂坊グッズとして、何やら光るアクセサリーを売っている人がいた。
BAR GEORGE。
今晩はここで時間を過ごすことにした。
バーがあって、DJブースもあるらしい。
室内は、いわゆるロックが流れていた。
「おい!俺はクラブ系ミュージックが聴きたいのに、何なんだこれは」
とジーニアス立腹。
「DJはどこにいる。ダンスフロアはどこだ」
と店の奥に探しに行っていたが、結局見つけられず諦めて戻ってきた。
「タイミングが悪かったのかねえ」
といいながら、お酒を飲む。店内は観光客っぽいアジア人(日本人?)と白人が半々といったところ。地元民っぽい人はあまり居なかった。キャッシュオンデリバリー。
「香港のですね、クラブ事情ってのを調べないとイケナイと思うんですよ僕は」
とジーニアスが力説するので、ワンチャイにあるヒルトンホテル併設のクラブにまで遠征してみた。しかし、なぜか営業をしておらず、無駄足になってしまった。
しゃーないので、ワンチャイから出ている尖沙咀行きスターフェリーに乗って、ホテルまで帰還。ホテルのバーで仕切直しを図る事にした。
まったりとした時を過ごす。
隣にやってきたきれいなオネーサンが娼婦なのかどうか、というどうでもいい話題で盛り上がる。
1時間ほど、バー内における人間観察を行い、12時過ぎに部屋に引き上げた。さて、明日はいよいよ帰国。おやすみなさい。
2004年04月19日(月) 4日目
最終日。
今日は特に予定が入っておらず、せいぜいお土産ものを買って、早めの昼食を済ませるくらいの行程になっていた。
飛行機は14時30分。ということは、遅くとも13時にはエアポート・エクスプレスに乗っていないといけないわけで、逆算するとあまり時間があるわけではない。
そうは言っても、連日の歩き回り日程から考えると、随分のんびりとしたものだった。早めの昼食をとらなければいけないということもあって、朝食は抜き。昼食に胃袋を備えておいた。
今回の昼食は、「中国四大料理」の締めくくりとして、上海料理を食べる事にした。これで、とりあえずは全種類の料理を食べたことになる。
まあ、そうは言っても、東京で韓国料理やタイ料理を食べているのと一緒で、本場で本場の料理を食べているわけではない。きっと、香港風にいずれもカスタマイズされていて、実物とは若干違っているのだろう。でも、美味くてそこそこリーズナブルで食べられるのだから、言うことなしだ。本場でそれぞれの料理を食べようなんてすると、たとえ中国国内だといってもとんでもない移動距離を要する。
さて今回訪れたのは、「香港老飯店」というお店だった。
ミラマー・ショッピングセンターの4階にあるお店だが、実はこの同じフロアに昨日食べた四川料理のお店「雲陽閣」がある。
11時の開店直後に訪れたので、客は他に誰もいなかった。
恐らく、一番いい席なのだろう、窓側に通してくれた。窓からは九龍公園を見下ろすことができた。
「わ。泳いでる人がいるぞ」
「え?4月なのにか」
確かに、プールでは水着姿の人が何人も見受けられた。そうか、確かに季節は春だが、十分に泳げる気温にはなっている。
店内の様子。
けっこうぎっしりと席を詰めていてゆとりが無いが、恐らく夜にでもなるとこれがいっぱいになるのだろう。こんな狭い隙間をすり抜けながら、ウェイターは料理をサーブしなければならないわけだから大変だ。
どこかに足をぶつけて、お客様の頭からスープをぶちまけたとかそういう逸話が絶対あるはずだ。
壁には、上海の町並みを模した絵、というか切り張りした風景が飾られていた。よく見ると、金茂タワーもちゃんと描かれていた。
さて風景にみとれていても始まらない。食事だ、食事。
このお店はきれいな写真入りで料理が紹介されていたので、非常にわかりやすかった。これなら、出てきてびっくりという事は無い。
適当に頼む。
「あれ?おかでんビールは?」
ジーニアスが、いつもと違うおかでんに気がついた。
「さすがに昼から飲むわけにはいかんだろう」
「うそをつけ。昼から飲んでも全然罪悪感覚えていないだろ、お前。あ、さては帰りの飛行機でビール飲むつもりだな」
「分かったか。ま、そういう事だ」
「野菜炒めが食べたいよな」
ということで注文した野菜炒め。
炒め物、というよりもあんかけ料理に近い者が出てきた。けっこうこってりとした色をしている。
マッシュルーム、さやいんげん、もやし、ヤングコーン、きくらげ・・・。
日本人がイメージする野菜炒めとは、キャベツが主体な料理であるが、こちらでは決してそういうわけではないようだ。
しかし、ヤングコーンという外来の食材ががっちりと使われているのが面白い。
香港の思い出に、ということでショーロンポーを注文しておいた。
出てきたショーロンポーはちょっと数が多い。数えたら10個もあった。こりゃいい思い出になるわい、と開き直って食べる。
さっきの野菜炒めもそうだが、想定人数は3-4人前といったところなのだろう。
蒸籠にくっつかないようにするために、下に薄くスライスしたニンジンを敷いていたのが面白い。試しに食べてみたが、当然問題なく食べることができた。
チャーハン。このタイ米独特の味わいと、パサついた食感をしばらくは味わえなくなるのかと思うと残念。人によっては好き嫌いが分かれるが、おかでんはタイ米が大好きだ。
これも二人で食べるにはやや量が多い。最後の最後で、食い地獄になってしまった。
チャーハン食べていたので、てっきり料理はフィニッシュかと思っていたが忘れた頃に豚の角煮がやってきた。
それにしても立派な角煮だ。ほれぼれする。
たれの中には、何かが入っている。食べてみると、漬け物っぽい酸味がある。ええと、日本で言うと、開田高原の「すんきそば」に乗っかっている、「すんき」みたいなヤツ(京漬け物における「すぐき」)みたいな感じだった。肉のアブラブラしたところを中和してくれて、これはとてもよく逢う。おかげで箸がどんどんと進・・・
おなかいっぱいです。とてもじゃないが、二人で食べる量じゃあございません。最後は、持て余し気味になりながらなんとかフィニッシュ。
ハイアットリージェンシー香港のチェックアウトは12時だった。おかげで、昼食を食べてもまだ荷物を部屋に置いておくことができた。レイトチェックアウトは、朝寝坊の人向けという印象があったが、こういう活用方法もあって素晴らしい。
エアポートエクスプレスの九龍駅に向かう。この駅では、各航空会社が受け付けカウンターを持っていて、チェックインと荷物預かりを行っているから非常にありがたい。
見ると、確かに幅が狭いカウンタがびっしりと横一列に並んでいて、天井からは航空会社のロゴを表示したプラズマディスプレイがぶら下がっていた。
「ホントにここで荷物預けて、大丈夫かね。ロストバゲッジするんじゃなかろうな」
とやや不安になりながらも、荷物を預ける。当たり前だが、向こうは自信満々に荷物を預かってくれた。これなら大丈夫そうだ。
香港国際空港到着。
例のごとく、「気がついたら駅のホームから空港内に入っていた」というパターンで、出発ロビーに到着。あまりにバリアフリーな造りに、あらためて驚かされた。
それにしても、広い。
さあ、おなじみのサーモグラフィだ。
ジーニアスがうれしそうな顔をして、さっさと通過していった。何をしたいのかと思ったら、おかでんが通過する様を画面で確認したかったらしい。
「おい、お前の股間がいかに赤く反応しているか見てやるからな」
「まだそのネタ引きずってたんかい。いいよ、呼び止められたら、係員に『こいつ、いつもこんな感じなんです。許してやってください』って懇願してくれよ」
「イヤだよそんなの。いつももっこりさせているヤツと同類と思われたくない」
アホな会話をした後、サーモグラフィを通過してみた。画面を見ていたジーニアスがえらく失望した顔をしてこっちに近づいてきた。
「ダメだ、服を着ていたら反応しないわ。肌を露出させていないと、測定できないらしい。とりあえずおかでんサン、もう一度股間を剥き出しにしてですね、あの機械の前を歩くというのはどうだろう」
「いや、どうだろう、じゃないだろ。違う意味で呼び止められるぞ、それ」
出国審査中のジーニアス。
成田空港だと、このゾーンは写真を撮ってはいかんのだが、香港では特におとがめ無し。一体何の意味があるのだろう、成田の撮影禁止は。
審査官と、言葉を一つも交わすことなく通過。
審査官は何やらPCをカタカタ操作していた。入国と出国のタイミングを調べているのだろうか。
「これで全部お前の性癖とか寝相とかほくろの位置まで調べられたぞ」
「どこで調べてるんだよ、そんなこと」
出国を済ませたら、その先は巨大な広場になっていて、土産物屋、喫茶店、レストラン、本屋、ブランドショップといろいろなお店がずらずらと並んでいた。成田空港が、なぜこのような造りになっていないのか理解に苦しむ。出国審査をしてから実際に飛行機が出発するまで、大抵の旅行客は1時間近くの時間を過ごすことになる。だからこのような「ちょっとくつろげる場所」というのは必須だと思うのだが。
発着口は、Yの字をした造りになっていた。このYが長い、長い。「地平線が見えてしまうんじゃないか」というくらい、長い。この写真は、「Y」の分岐点に相当するところから、今来た道を振り返ったところ。
14時30分発のJALが既に駐機されていた。あれに乗って、成田に向かう。
関西国際空港に向かうジーニアスとここで別れ、機上の人となった。
さてお待たせしました、機上のお楽しみといえば、やっぱり機内食でしょう。
最後の最後、機内食でこの旅を締めくくりとさせて頂きましょうか。
とは言っても、まださきほど大量の上海料理を頂いてから4時間弱。そんなに食欲なんて湧くもんじゃない。
しかも、料理が配られる前に「お飲物は?」とフライトアテンダントが水を向けてきたので、ついついビールを2本飲んでしまったし。
座席は、ばっちり通路側。これで、いつでもお手洗いに行くことができる。ビールを飲み過ぎても平気、平気。
しかし、この深謀も「お客さんの数が少ない」という現実の前に意味を成していなかった。通路から窓側まで、誰も居ないんでやんの。この飛行機の中は一列一人、というお客様配置になっていて、窓側だろうが通路側だろうが、不自由なくお手洗いに行く事ができた。
ということで、高度1万メートルの飛行機の上から、下界を眺めつつお昼御飯・・・いや、これは夕ご飯・・・ええと、まあいいや、おやつって事で。
メニューは以下の通り
・海鮮釜飯 又は 牛肉ホイシンソース ヌードル添え ・和風アペタイザー ・韓国風牛肉冷麺 ・ピーチ デニッシュ ・杏仁豆腐 ・コーヒー 紅茶 緑茶
日本航空にとって不幸だったのは、こちらは数日間の美味美食に馴染んでしまった身ということだった。ううん、まずい。
一言で一刀両断されてしまった。可哀想だが、これが現実。
・・・いや、本当にまずいわけではない。普通に食べられるし、大量提供の給食として考えると上出来だと思う。しかし、食べ物ってのは絶対評価されるもんじゃなくて、相対評価されるものだ。これまで数日の「美味なる思い出」を背負ったおかでんからすれば、「相対的に、おいしくない」となってしまったのだった。
とかいいながら、ピーチデニッシュまで含めて全部平らげたのは誰だ。
ビールでやめときゃいいのに、ワインも飲む。
今回の旅でいうと、「お酒が欲しくてしょうがない美味」との出会いであったにもかかわらず、どうも勝手が違ってあまりお酒を飲むことができなかった。だから、この飛行機でその欲求を満たしている、という感じだ。ま、早い話けんかで負けた後に負け惜しみを言っている弱虫と一緒だ。
この写真を見ると、顎のあたりに結構なダブつきができているような。さすがにあれだけ食べまくれば、体重は増えるか。
明日から仕事に復帰。現実と非現実の境界線が曖昧な感じがする街、香港からの復帰、うまくいくだろうか。
今回、「30歳にして人生2度目の海外旅行」となった香港。しばらくは海外に行くことはないんだろうな、というのが当初の思いだったが、何となくこの香港には近日中にカムバックしそうな予感がする。それくらい、魅力的で、刺激的で、そして格安の場所だ。
とりあえず、母親をダシにして、「親孝行」名義で香港行きを企画しようかね、と。
非常に長い間の連載におつきあい頂き、ありがとうございました。これにて、香港編は終了です。
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