15分経ってもカラオケ風呂が解放されないので、業を煮やしてフロントに対処をお願いして、ようやく20分遅れでカラオケ風呂に入ることができた。普通のカラオケと違い、「終わった後に体を拭いて、服を着て」という動作が入るために、計画的な行動を取っていないと時間がどんどん後ろに押してしまうようだ。特に、われわれの前の人は子供連れのファミリーだったのでなおさらだったようだ。
フロントのおじさん、脱衣場の時計を見て「あれー」と一言。「時計が遅れてますねえ。こりゃダメだ。ちょっと直しますんで」
時計がズレてたら、そりゃあ風呂からあがってくる時間を勘違いしちゃいますわな、なんてこったい。
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ、ここで時間訂正されちゃったら、僕ら賞味40分しか使えないって事スか?」
慌てて確認したところ、
「ああ、後の人にちゃんと説明しておきますから。20分遅れでどうぞご利用ください」
だって。ちょっと安心。
さて、そのカラオケ風呂なんだが、入口入ったところに脱衣所、その奥に六角形のジャグジーがあって、シャワーなどのカランが配置されている。ふむ?ごく普通の造りだぞ。
「サウナカラオケ、なのかと思ってたんだが」
では、どこがカラオケなのかというと・・・
あらー。脱衣所内に何だか黒い物体があるのぅ、と思っていたのだが、風呂側から見るとこれがテレビだった。
脱衣所と風呂場を仕切るガラス戸越しに、モニタ画面を見るという仕組み。しかも、横にあるのは・・・れ、レーザーカラオケ!今時こんなの、久々に見た。
ではマイクは、というと、これが風呂場の天井からぶら下がってるんだわ。もう笑うしかない。微妙な長さにケーブルが設定されていて、湯船に浸かりながら歌うには丁度良いけど、湯船に沈没しない程度の長さ。これで歌え、というわけか。
選曲本は、というと、さすがにこれは防水のしようがなく、水のせいであちこち破れた状態のもの。われわれも、貴重品を扱うがごとく、この本は扱うことになった。
しぶちょお、おかでんの2名であれば何ら問題のないカラオケ風呂であるが、1名女性であるひびさんが混じっている。
「ちゃんと水着は着用してるね?」
「大丈夫ッス」
「よし、じゃあ入るぞ」
と、ひびさんだけ水着着用させて、あとの男性二人は丸裸で風呂場に突入。この際、ジャグジーに浸かっていると、見えてはイカン部分がちゃんと気泡で隠れてくれるので有難い。
それにしても、ガラス戸越しに歌うというのは初めての体験だ。スピーカーは当然室内にあるので音響は問題ない。つーか、エコーかかりすぎ。最初はマイクを使って歌っていたのだが、途中でマイクはやめにした。マイク無しでも十分。
レーザーカラオケなので、選べる曲が80年代頃のものが中心。なかなか選曲に苦労した。
「それにしてものぼせるねえ」
ジャグジーなのでもともとのぼせやすいわけだが、それに加えて熱唱。これでのぼせないわけがない。のぼせたら、洗面器を股間にかぶせて絶妙に「見えてはいかんもの」を隠しつつ、涼む。
夕食は宿泊客全員、個別の個室で提供するという話だったので「へぇー」と感心していたのだが、夕食、確かになかなか凝ってましたわ。どうしても、カラオケ風呂とかお見合い露天風呂とか、イロモノっぽさや若干の時代錯誤感を感じさせる印象が強かったが、部屋は清潔にしてあったし、夕食もご覧のとおり。あら、何だかお酒が進みそうな状況じゃございませんか。
造り 戻り鰹 他時の物
焼物 尼鯛奉書焼
煮物 信州丸茄子揚げ煮
揚物 吹き寄せ信州牛蒡根深しんびき揚げ
蒸物 梶木と鳥の茶碗蒸し
そんなわけで、近年まれに見るテンションの高さで乾杯のご発生なわけですよおかでん先生。
なにしろ、お見合い露天風呂で待ちぼうけをくらいのぼせ上がり、その後引き続いてカラオケ風呂でジャグジー1時間+熱唱ときたもんだ。そして目の前にはおいしそうな料理の数々と、他人に気遣いしなくてもよい個室、しかも手頃なサイズでこじんまりとまとまっている。これは、モウ飲んで、注いで、注がれて、食って、語り明かすしかないじゃないか。まあ、語り明かすのは仲居さんの迷惑にならない時間までだけど。えっと、20時半くらいまでに食べ終わってればいいッスか?
ソレは兎も角、乾杯なんである。
すごい。
くちびるが、舌が、喉が、鼻腔が、咽頭が、胃袋が、「きたっ!ビールが来たぞっ!」と歓喜の声をあげているのが、体中から伝わってくる。あまりの喜びっぷりに、体がミシミシと音をたてて膨張するかのような感じを受ける。
うまい!ここまで旨いビールはなかなか無いぞ、なあひびさん。
「そうですねえ」
ひびさんという酒飲み仲間がいる旅行だと何かとこういうやりとりができてよろしい。一方、お酒が飲めないしぶちょおはお茶をぐいぐいと飲み干し、「ご飯を先に持ってきてもらいたいんですが」などと仲居さんにお願いしている。彼の場合、「風呂入った、歌った、さあ腹が減ったぞ、食うぞ」という点で、僕らがビールに対する欲求とほぼ等しく白米を要求するのであった。スレ違ってはいるが、ちょうどデコボコが合致する良いコンビだと思う。
ただ、ご飯については、蒸籠蒸しのご飯を出すということなのでちょっと時間がかかるんだそうで。「古代米にしますか、それともしめじご飯にしますか?」なんて聞かれて、三人とも激しく迷う。
ビールが旨いんである。
瓶ビールを注文したら、大瓶で持ってきてくれたのがまずうれしいことだし、グラスが大きいというのも素晴らしい。
時々、中瓶をしゃなりしゃなりと持ってこられたりするが、これは激しく興ざめだ。あと、グラスがチェーン居酒屋の大学生コンパ用ですかこれは、みたいな小さな、ぐいっと飲めてしまうくらいの小さなやつってのも多々あるが、あれも興ざめだ。
もちろん、冷たい、泡が残っている旨いビールを飲むためには小降りのグラスが良いに決まっているのだが、こうやって僕らは汗を流し、歌い、そして宴もたけなわではありますがそろそろお時間となりましたので・・・いや、まだ早い。まだ宴はこれからだ。
おっと忘れてた、5種類の利き酒も注文しなくちゃ。
仲居さんに何度も「えっと、1番って何でしたっけ?」と確認を取りながら、それぞれ飲み比べをする。
しかしこれがキツいんだわ、どれも結構。そういえば、「しぼりたて生原酒」だの「生酒」って書かれてたっけ、銘柄リスト見たら。聞くと、多くのお酒が度数が19度だの20度だの。
ひびさんと二人でシェアしつつ飲み比べたとはいえ、これは結構酔った。
しぶちょおお待ちかねのご飯がやって参りました。
おかわりできないのはしぶちょおにとって何とも残念なことではあるが、それにしてもわざわざ蒸籠蒸しのご飯を出すとは趣向を凝らしている宿だ。左のしめじご飯、「かぱ」と蓋を開けた瞬間、一同「おおおおう」と声をあげてしまった。なんとも立派なシメジが鎮座。神々しい姿に見えた。
あとは、おみそ汁とデザートで終了。
水菓子 林檎寄せ
なんだか脱力しちゃっている人一名。
にもかかわらず、部屋に戻ると・・・
「なぜか、ギネスビールとスパークリングワインがあるんだよなあ。誰が飲むんだよ、これ」
毎度おなじみのパターン。
「いやだって、ギネスビールの瓶ってあまり見かけないもんだから、ついつい」
「私はスパークリングワインが好きだから」
購入した本人(おかでん、ひびさん)がそれぞれ言い訳する。
「分かった、お互いの言い分は分かった。とりあえず飲もう」
何がとりあえずなんだろう。
しばらくすると、首が据わらなくなってきてしまい、顎を机の上に載せた状態でお話をしていたのだが、結局このまま寝てしまった。
とはいっても何だか話し込んでしまい、寝たのは夜の2時過ぎ。疲れを取るはずが、何だかますます疲れてしまった予感が。
初日終了。
コメント