小笠原遠征

第一海堡

11:35

「そろそろ見えてくる頃だからデッキに行かんと」

といって、ばばろあが立ち上がった。何が見えるのかと思ったら、どうやら島らしきものが見える。

「島?」

「いや、あれは海堡といって、戦争のために作った人工の島なんよ」

「え、あんなデカいのが人工の島なの?」

「お台場にある台場と一緒。砲台を設置したりして、東京湾に侵入する船を迎撃するために造られたものなんよ」

ばばろあは戦跡巡りを趣味と言うよりライフワーク化しており、このあたりの話は凄く詳しい。

富津岬から横須賀にかけて、首都圏防衛のために明治時代に3カ所の海堡が作られ、それぞれに高射砲やカノン砲が設置されていたんだという。

「・・・あれは第一海堡だな」

第二海堡

11:35

で、そのお隣にあるのが第二海堡。

遠くから見ると、長崎県の軍艦島みたいだ。

「ばばろあみたいな戦跡マニアにはたまらん場所だろ?」

「いやー、勝手に上陸しちゃいけんのよ。立入禁止になっているんで。大久野島(広島県にある毒ガス工場のあった島)みたいに砲台跡を見て回ったりできりゃええんじゃけどねえ」

・・・で、第三海堡はどこへ行った、と思ったら、関東大震災の影響で崩壊してしまい、今や航路の邪魔にしかなっていないので撤去中なんだとか。海底30mから石を積み上げて作った人工島というのだからその建造力たるや素晴らしい。

これから向かう小笠原でも、至るところに地下壕や壕があるという話だ。何だか今回の旅は、「戦時中における大日本帝国軍の土木技術の高さ」を体感するツアーになりそうな予感。

三浦半島を通過

11:45

三浦半島を通過。ここで東京湾は終わり、いよいよ太平洋に船は突入することになる。

東京湾との端境水域は潮目が良いからか、乗り合い釣り船がたくさん出ていた。おがさわら丸は何度も汽笛を鳴らしながら、漁船を避けつつ時には追い払いつつ、進んでいった。

さあここからが揺れの本番だ。

薬は丁度効き始める時間だし、アルコールも摂取したし、たぶん大丈夫だと思うけど・・・。

煙突から黒煙

おっ、東京湾内の規制が取れたからか、ようやくおがさわら丸が本気を出して突っ走り始めた。速度が上がったぞ。いいぞ、その調子だ。

・・・といっても、あと24時間くらいあるんだよな、到着まで。「あと○時間で到着」と逆算するたびに、あまりの距離の遠さと小笠原の不便さに愕然とする。

本来、竹芝~父島間は国土交通省が鳴り物入りで作った「TSL(テクノスーパーライナー)」が導入される予定だった。フェリー型のホバークラフトみたいなヤツで、ウォータージェットにより海面を突っ走る。このため、船にもかかわらず時速70kmも出るというスゲー船だった。今われらが乗っているおが丸ちゃんが25時間半かかるところを、17時間で到着できてしまうとなれば、そりゃあ小笠原の衣食住観光環境は激変だ。誰しもがその登用を待ち望んでいた。

・・・が、こうしてわれわれはおが丸に乗っているわけで。

結局、TSLは就航しなかった。高速でブッとばすだけあって燃料代がバカにならず、誰がその費用捻出すんねん、というのがまず第一にあった。さらに運悪く原油がべらぼうに値あがった時期とかぶったものだから、「東京都が赤字補填してくれない限りは採用できません」と小笠原海運がギブアップしてしまった、というのが事の真相。つくづく惜しい。

ちなみに、引き取り手の居なくなってしまったTSLはいまだに三井造船のドックに係留されっぱなしだという。空しい・・・。

去りゆく「本州」

12:05

去りゆく「本州」を、ほとんど見えなくなるまで眺め続けるわれわれ。

これからはしばらく、360度海しかない。見渡す限りの水平線ということになる。

ビデオルーム

12:14

船内探検を続ける。まだ全てのフロアを探検しきったわけではない。

おや、こちらにはビデオルームが。

カップルシートみたいになっていて、受付でビデオを借りてくれば見ることができるらしい。

船での暇つぶしでビデオを見る、というのもイマイチさえないので、われわれはパス。

ラウンジ

12:15

おっと、「ラウンジ」なんていう場所もあるのだな。ちょっとおしゃれ?

「できるだけ多くのお客様に御利用いただけますよう、お一人様2時間程度でお譲りください」「毛布・枕の持ち込みはご遠慮ください」

なんて怪しいことが書かれている。ラウンジという言葉が持つインテリジェンスな雰囲気とはちと違う。

ラウンジ内

12:15

中を覗いてみて納得。

単なるカーペット部屋だった。そこには、2等客室の狭さに我慢できず、逃げ出してきた連中が折り重なるように戦死していた。

こんな状態で、「お一人様2時間程度でお譲りください」ってのは無理だろうと思っていたのだが、夜になって様子を見に行ったら案の定、戦死した死体はそのまま放置されていた。しかも、毛布と枕調達済みで。

もう無法地帯だ。

ゲームコーナー

12:17

ゲームコーナーも一応はあった。

なんのゲームがあったか全く内容を覚えていないところをみると、恐らくしょーもない古いゲームだったに違いない。

軽食コーナー

12:17

Aデッキには小さいながらも軽食コーナーが用意されていた。まるで高速道路のパーキングエリアにあるお店みたいだ。

「展望喫茶スナック」という名前らしいが、確かに晴れていれば展望も良く、楽しめそうだ。そのまま料理や飲み物を持って、外に出ることもできるし。

夜9時までの営業だけど、コーヒーや軽食をはじめ、アルコール類も取り扱っていた。食堂でビールを飲むのはちょっとイマイチ盛り上がらないよね、という時はここでお酒を飲むとヨロシイかと。

ギネス生やコロナビールを扱っているというのはなかなか乙なもんだ。ただ、船内の自販機で買うと300円で済む缶ビールが、ここで買うと360円もしてしまうのでその点要注意。

とりあえず見ておくだけにしておこう、今は。いったんわれわれのねぐらに戻ろう。

槽汲み(ふなくみ)

12:22

いやもう、出航から2時間半で既にやることが無いのデスヨ?もうどうすれば良いのか。今ここで寝てしまうと、夜中眠れなくて悶々としてしまうに決まってる。それはそれでイヤだ。

とりあえず、未読の「ダ・ヴィンチ・コード」上中下巻3巻を持参してあるので、場つなぎはできそうだが・・・

と、思っていたら、「とりあえず酒呑むか、酒」

とばばろあがビニール製のクーラーボックスから4合瓶を引っ張り出してきた。「槽汲み(ふなくみ)」という久留米のお酒。発泡性がある生酒なので、瓶の口のところは厳重に密閉されている。

よくもまあ、広島から深夜バスでここまで運び込んだものだと感心。やることないので、ご相伴に預かることにする。

仮眠中のしぶちょお

12:54

お酒が飲めないしぶちょおは、2リットルの烏龍茶ペットボトルをラッパ飲みしたあと仮眠中。

怪しいおつまみ

12:56

友人から 台湾土産で貰った、何だか怪しいおつまみをおかでんからリリース。よくわからんのだが、漢字の雰囲気からすると鴨の肝を中華風に煮込んでみました、というものらしい。

見た目はしょうゆ味の日本風つくだ煮を思わせるが、何だかちょっと違う味で不思議。

でもごめん、これ、明らかにちょっと味が違うわ。もう一個貰っていて、それは既に自家消費していたんだけど、それと味が変わってる。そもそも、要冷蔵品で、本来パックは真空パックのようにぴっちりしていたハズなのに、今手にしているやつは常温保存しっぱなし、パックはなんだか膨らんでる。ちと発酵が進んでしまったようだ。

でも今更「腐ってるかもしれん」とも言えないので、胃袋の中の酒で消毒しつつ食べる。つまみには最適。

寝ていたしぶちょおも起き出す

13:06

食い物がリリースされたので、寝ていたしぶちょおも起き出してこの怪しい鴨の肝を食べていた。

父島・母島の1/25,000地図

14:51

べろんべろんに酔っぱらうわけにもいかないので、「味見程度」にお酒はやめておいて、あとはめいめい寝るなり、本を読むなりして時間を過ごす。

ばばろあは、事前に調達しておいた父島・母島の1/25,000地図と、「小笠原戦跡案内」という本とを見比べながら、どの砲台を見に行くかという検討と、場所の同定を必死になって行っていた。

彼がわざわざ広島という遠方から小笠原まで行こうとして動機づけは、まさにこの小笠原の戦跡にあった。

「ほんまは金もかかるし、行かんでええじゃろーって思っとったんよ。じゃがの、小笠原の戦跡について調べてみたらこれがもう凄いんよ。こりゃー一生に一度しか行けん場所じゃろうし、ぜひ今回いかんと、って思って」

だ、そうで。彼は、「小笠原滞在中ずっと戦跡巡りをしていてもいい」とまで口走っていたが、戦跡にはほとんど興味がないしぶちょおとおかでんに遠慮し、結局「戦跡巡りツアー半日コースに参加」で妥協していた。本人としては非常に悔しいところだろう。

興奮してばばろあが言う。

「ほら、見てみ?この高射砲。こういうのが、森の中にまだ現存しとるんよ。こんな場所、日本中どこ探しても無いって。こういうのが見られるだけでも凄いのに、もう、小笠原中が陣地だらけで、一体どこから見ていけば良いのかワケわからんくらいで」

彼の興奮を全て受け止めてあげるだけの趣味の許容範囲を、あいにくおかでんには持ち合わせていなかったのだが、それでもその熱気に圧倒されてわくわくさせられたのは事実だ。小笠原、ますます楽しみになってきた。

おが丸二等客室はごった煮状態

16:28

2等客室の惨状。

何かの天変地異で避難場所に待避してきたのではないか、というありさまだ(実際にそういう被害に遭われた方、変な喩えを使ってごめんなさい).

みんなやることがないので、元気のある若手グループはトランプをやったりしてうるさく盛り上がっているし、元気があまりない人たちは寝ているか、ぼーっとしているかのどっちか。

よく見ると、毛布と毛布の隙間に、ところどころ金たらいが置いてある。船内禁煙のハズなので、灰皿ではあるまい。これは、気分が悪くなった人用ということか。

船が揺れる

16:36

狭い船室にいると、どうも揺れが気になる。凝視物が至近距離にあるからだろうか、ぐぐぐーっと船が傾くのがよくわかる。こりゃ、船底にいると酔うぞ。

以降、できるだけ自分の本拠地には戻らず、できるだけ開放的な外にいるように心がけた。酔い止め薬を追加で飲んだけど、それだけでは不安だ。

天気は一向に良くならず、小雨がぱらついている。風も結構強い。

お菓子の自動販売機

16:38

お菓子の自動販売機を発見。

これがあれば、売店が閉まっている深夜でもお菓子を買うことができるね!ラッキー・・・なんだろうか。

売られているのはチップスター、カール・・・とお菓子の王道がずらり、と思いきや、さきいかとかちくわとか魚肉ソーセージとか。ははーん、要するにやることなくて酒盛りする人用の酒肴ってわけだな。

ソフトクリームを売店で購入

16:39

それにしても本当にやることが無くなってしまった。まだ、「何もしないで過ごす」時間のぜいたくさ、優雅さに慣れていないわれわれは外に出たり中に戻ったりウロチョロしていた。

ばばろあが「わし、オヤツ買うで」と宣言し、ソフトクリームを売店で購入した。

自分もソフトクリームを買う

16:41

なんだかとっても悔しい気持ちになったので、自分もソフトクリームを買う。間食はしない主義だし、甘い物は好きではないのだが、やることが無くなると人間趣味嗜好ってあっけなく変わってしまうものだ。

うん、うまか、うまかとよ。

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