三瓶山の山麓を周回する道路を快適に走る。
このあたりは草千里とも呼べるくらい、草原が広がっていて心地よい場所だ。
「本当だったら雪がびっしりで、スキー客でにぎわっているはずなのにねえ」
そういえばそうだ。季節は1月末、一体何なんだこの光景は。見上げると、三瓶山の山頂にちょろっと雪がへばりついている程度だった。見るも無惨。
車は、小学校があったり、それなりの集落の中を走り抜けていくわけだが、だんだんと怪しくなってきましたよ、と。看板が時々出ているので間違いないはずなんだけど・・・
こんな奥に温泉?
いやー、ディスカバージャパン。
良いお湯が沸いていれば、立地条件なんて関係ないのね。
近くを走るバスも無し、道だってすれ違うのがやっとの幅しかないような、こんな道のその奥にある場所にだって温泉宿が成り立つわけだから。
これでこそ秘湯。そして、それでこそ、名湯なのだろう。
おっと、到着しました、「ようこそ!小屋原温泉」の看板。
いやー心細かったデスヨー千原温泉で免疫はついたけど。
小屋原温泉は、千原温泉とは異なり宿泊客を受け入れている温泉宿であった。正面の本館に位置するところが宿泊棟で、右奥に見える赤煉瓦の木造建築が温泉棟ということになる。
ここも人の気配が無かったので、「すいませーん」と大きな声を出して従業員さんを呼ぶ。やっぱ、秘湯に来るには平日に限るな。芋を洗う状態で風呂に浸かりたくはない。
ここのフロントには注意書きがあって、
「入浴は1時間のみ 温泉はどこも同じなので移動禁止」
と書かれてあった。この小屋原温泉は男女別の内湯、という構造になっておらず、小さい貸し切り風呂状態のお風呂が4つ並んでいるというスタイルをとっている。だから、やってきたお客さんは空いている4つのうちのいずれかのお風呂に入ることになる。家族で入るも良し、同性同士で入るも良し。
ただ、やっぱり「全部の風呂を制覇したいぜ」という秘湯心をくすぐられる人が後を絶たなかったのだろう、それで何か問題でもあったのか、現在は「移動禁止」になったようだ。すなわち、4つのお風呂に全部入りたければ、ここに宿泊するか、それとも4回分の料金を払ってその都度入り直すか、どっちかの選択になる。
さて温泉棟に向かう。
こちらも随分と味がある。たまらん人には垂涎の的だが、わからん人には一生わからん世界なんだろうな、と思う。
ちなみにおかでん両親にこの旅の写真を見せたら、「汚い」と一刀両断されてしまった。団塊の世代な人たちにとっては、一部温泉好きを除くと、やはり「小ぎれいな旅館で、大浴場があって、パウダールームも完備されてて」なんてのが良いらしい。「部屋付きトイレは当たり前!」だったりするし。
で、お風呂なんだが、縦一列に4種類、脱衣所と風呂場が用意されていた。使用中かどうかは、扉をガチャガチャやってみて鍵がかかっているかどうかで判断するしかない。
とりあえず「移動禁止」と言われている以上、最良の風呂に入らないと。誰もいないことを良いことに、4種類全てのお風呂を吟味してみることにした。
まず一番奥は・・・あらら、使用できません、か。
奥から二番目。
やぁ、析出物が床にびっしり。何だか古代遺跡発掘、っていう様相だ。やや広めの浴槽。
奥から三番目。
ばばろあ曰く、このお風呂が有名なんだという。何がどう有名なのかはよくわからぬが、析出物でまろやかな味わいと色合いを作っている浴槽は、まるで備前焼の景色のようで素晴らしい。大変に気に入った。
そして、一番手前のお風呂。
あんまり特徴なし。
ってなわけで、奥から三番目の、狭いけど味わい深いお風呂に入ることにした。
うう、こちらもぬるいぞ。
「しょうがないよ、三瓶山近辺の温泉ってみんなこんな感じ」
こりゃ、夏に来れば最高なんだろうけど、冬はちょっとキツいねえ。ただ、千原温泉よりは暖まる事ができる。というか、何だか免疫ができてきた感じ。
「うん、これくらいなら僕、耐えられる」
名湯に浸かりにきて、何が「耐えられる」だ。変なことを口走ってしまった。
でもここ、夏にやってきたとすると、秘湯ハンターな人たちがたくさん訪れていて、ごった返していてがっかりするだろうな、きっと。まさかこの湯船の広さで、「相席」ならぬ「相風呂」をお願いされることはないと思うが、一人1時間まで、という制約の中、ずっとロビーで行列を作って待つっていうのはなんとも風情がない話だ。
鼻水が出るくらい寒いが、だからこその独り占め感がたまらない。
天井を見上げると、立派な屋根が作られていた。湯気抜き対策万全。道理で快適に過ごせるわけだ。
でも、そこまでするほど湯気が立ち上っているわけではない。
それにしても、析出物が素晴らしい。雨水が石を穿つこともあるけど、温泉がこうやって石を作り上げていくこともある。自然って不思議だよねえ、と温泉に浸かりながら物思いにふける。
ぜひ、沈没寸前の沖の鳥島にもこのような豊富な成分を含む温泉を掘り当てて欲しいものだ。そうすれば、島が徐々に大きくなっていく。
・・・ボーリングしている時点で、島が沈没しそうだ。国土消滅のピンチだからやめろ。
壁をごらんなさい、なんだぁ、このキノコみたいな模様は。
これ、全部析出物。湯気が水滴として壁についたんだろうけど、それが固まって、積み重なって、何だかキノコを培養しているかのような、なんとも不思議な光景を作り上げていた。
これを女の子に見せたところ、「気持ち悪い!こんなお風呂は入りたくない!」と一刀両断されてしまった。うーむ、やっぱり一般的にはそう思われるか。こういう文様が壁一面に覆われている風呂場で「良い湯だな」と言えるにはそれなりの「マニア心」が必要なのかもしれん。
風呂あがり、体の水分をぬぐおうとタオルで体をふいたら、こんなに茶色になった。
タオルをお湯につけていて、あらら茶色に染まっちゃいました・・・というのはよくある話だけど、体を拭いてこんなに茶色になった経験は初めてだったので相当びっくりした。
温泉成分表が見あたらなかったので確認できなかったけど、ここも相当濃い成分なんだろうな。
さて、次は池田ラヂウム鉱泉だ。小屋原温泉からそう遠くない、ここも三瓶山近辺にあるマイナーな鉱泉宿。
ただ、この鉱泉を有名たらしめているのは、ラドン湧出量が有数の源泉を持っているからだ。
池田ラヂウム8号泉、というのがそれで、6,640マッヘもある。マッヘという単位はあまり聞き慣れないが、ここで説明をくどくどとはじめてもつまらんので割愛。
まあ、ラヂウム温泉といえば山梨の増富ラヂウム温泉が非常に有名なわけで、一時は12,000マッヘという驚異的な数値をたたき出したらしい。しかし、年々枯渇しているという噂もあり、いまんところ池田ラヂウム鉱泉がまあ、「日本有数」ってことで間違いないんだろう。
ただ、放射能泉の難しいところは、湧出や加熱と同時にどんどん気体として成分が逃げ出してしまうということだ。循環風呂であるとか、ボイラー加熱していたら、いくら源泉では濃度の高いラドンであってもほとんどスカスカになるという。まあ、言っちゃなんだが、あまり放射能泉そのものの効果には期待しない方が良いのかも知れない。(あっ、放射能泉の宿を経営している人で怒っちゃったらごめんなさい、間違いがあったら訂正しますので指摘してください)
駐車場、と書かれている看板はあるんですが、えーと、これって高速道路なんかでよく見かける緊急待避場みたいなところなんですけど。ここに止めちゃっていいのかしら。多分いいんだろうな、ここしかないから。はーい、到着。
立派なトンネルが掘られ、良い道が造られていたので小屋原温泉からあっという間だった。
こちらが池田ラヂウム鉱泉。
石門がお出迎えをしてくれて、何だか一昔前のサナトリウムというか、威厳を感じさせる作りになっている。
放射能泉、ということもあって、癌治療の為に訪れている人もいるだろうから、ちょっと神妙な気持ちになって坂を下る。
んん?
坂を下ったところには、単なる民家。これは・・・違うな?
ああ、民家の入口脇に「ラヂウム鉱泉玄関←」という掲示があった。
もっと奥なんですねそうですか。
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