長崎の過去と今-08

朽ちていく建物、護られる建物(その8)

ジャイアントカンチレバークレーン

14:06
船の進行方向右側に、若干不格好なクレーンが見えてきた。これはグラバー園などからもよく見えるクレーンで、「ジャイアント・カンチレバークレーン」という名前がついている。

三菱の造船所内にあり、現役で動いているものだけど、これも世界遺産。

「えっ、世界遺産?」

いったいどこに世界遺産が潜んでいるか、油断も隙もあったもんじゃない。これから行く軍艦島も世界遺産だけど、目の前にも世界遺産があったとは。

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昔は、世界遺産を巡る旅というのは対象がごく少なかったから「よし、全部回ろう!」という気にもなった。しかし今じゃ、狭い日本でもいたるところに世界遺産があって、しかも一つ一つが(歴史的意義はともかく)小粒なので、さすがにありがたみが薄れてしまっている。

「どうせ新しい観光名所を作りたいっていう地元の思惑でしょ?」と薄ら笑いを浮かべて、世界遺産という言葉を眺めてしまう始末。(これはかなり偏見に満ちている、よくない物の考え方であると自分でも思う)

しかしこのジャイアント・カンチレバークレーン、見る人が見ると大変に素晴らしい遺産なのだそうだ。100年以上も前のものが現存し、しかも今でも現役で動いているというのが凄いし、この手のクレーンは今では世界を見渡しても殆ど残っていないのだそうだ。

そういえば、原爆や空襲の被害に遭ったはずなのに、まだ動いているというのはとんでもない強靱さだ。改めて考えてみて、「戦前からの大型機械が未だに動いています」ってあんまり記憶にない。なるほど、確かにこれはすごい。こういうのを「稼働遺産」と言うらしい。納得だ。

ちなみにこのジャイアントカンチレバークレーン、「ハンマーヘッド型起重機」というカテゴリに入る機械らしい。ハンマーヘッド!言われてみれば、カナヅチに似ている。

LNG船

14:07
しばらくは三菱重工長崎造船所の景色をお楽しみ下さい、状態。

こいつぁいいや、軍艦島までひたすら海を突っ走るだけじゃなく、港の町・長崎を海の上から楽しめる。まさに「クルーズ」だ。軍艦島に興味がない人でも、乗る価値はあると思う。

目の前に、巨大な冬瓜みたいなのが乗っかった船がある。LNG船だろうか?そしてその後ろには三菱のマークが目立つ建物。

巨大なドック

14:09
軍事機密とかあったもんじゃない。護衛艦が停泊していても丸見え。

いや、「見られたぐらいでアウト」な情報って、そもそも軍事機密じゃないな。

むしろ、専守防衛の組織である自衛隊の場合、周辺国に自国の装備を見せびらかし、「攻めてくるなよ?攻めてきたらコイツで反撃しちゃうからな?絶対来るなよ?」とPRしておかないといけないのかもしれない。

それはともかく、戦時中に戦艦武蔵が建造されたドックを通過。護衛艦か駆逐艦かわからないけど、現在は灰色の船を作っている真っ最中。あそこで働いている人は、身辺調査を公安にされたり、日本国籍でないとダメとか制約があるのだろうか?

丘の上のマンションと、丘の下の民家

14:10
「すごい差があるな」

丘の上に巨大な、屏風のようなマンション。そして丘の中腹に民家が密集している。何か押井守の世界に出てきそうな構図。

マンションは風光明媚だとは思うけど、車が必須だと思う。ちょっと買い物に行こうと思っても、自転車ではしんどい。ちなみにこのマンション、2004年築。3LDK67平米で1,850万円。おひとついかがでしょう。

橋をくぐる

14:12
ガイドさんの喋りが若干聞き取りにくいのに加え、我々は進行方向とは逆向き、さらには視界が非常に悪いところに座っている。常にガイドさんの解説から時差があって、その景色を見ることになる。なぜなら、ガイドさんは進行方向の前方に見えてくる景色について、先回りして解説しているからだ。

ガイドさんの解説から遅れて1分ないし2分くらい経って、ちらっと隙間からそれらしき景色が見える。

「多分これだよな?さっき言ってたのって」
「じゃろうねえ」

推理ゲームと化している。

橋の下

14:12
船は、「女神大橋」という橋の下をくぐっていった。

とても高さがある橋だ。無駄ともいえる橋脚の高さだけど、豪華客船でも下をくぐっていけるように、という配慮なんだそうで。

そういえば、東京でもレインボーブリッジを豪華客船が通過できないので、東京ビックサイトの先に新しく客船ターミナルを作るとかなんとかって話があったな。横浜も、ベイブリッジをくぐれない客船対策で、大ふ頭を新しく別の場所に作るとか。豪華客船対策に全国各地余念がないな。

そもそも東京のレインボーブリッジは、当時の豪華客船の代表格「クイーン・エリザベスII世号」が通過できるように高さを考慮して作ったものだ。しかし豪華客船の巨大化は留まるところをしらず、レインボーブリッジの都合なんてお構いなくデカくなっちゃった。

いずれ、船が独立国家を宣言するようなことが出てくるんじゃないか?今、既に1つの船でお客さんだけでも3,000人以上収容するものがいくつもある。ちょっとした自治体だ。

三菱の客船事業を壊滅させた因縁の船

14:15
あーッ!

そんなことを考えていたら、笑っちゃうくらい巨大な豪華客船が見えて来た。

しかもこれ、三菱造船が慣れない豪華客船事業に手を出して大失敗をしてしまい、経済ニュースとしてはかなり大きく取り上げられた曰く付きの船「アイーダ・ペルラ」ではないか!!

世界的な豪華客船クルーズ企業として名高い「コスタ」の傘下、アイーダ・クルーズからの受注で2隻の客船を手がけた三菱重工。しかし、度重なる納期遅延で累計2,450億円もの大赤字を計上してしまった。本来なら、ここで培ったノウハウを糧に、豪華客船を量産していって赤字を解消するべきだった。しかし、そんな体力が残っていないほど消耗してしまったらしい。この目の前に停泊する「アイーダ・ペルラ」をもって、三菱重工は客船事業から撤退、という結論になっている。もったいない・・・。

でも、どこかの中堅国家予算くらいの大損失をやってしまったからには、もうどうにもならなかったのだろう。

12.5万トンの超巨大船

それにしてもデカい。常識的なデカさではない。マンションや商業ビルと比べたってデカいので、もうこれはノアの箱舟ではないか、という規模だ。世の中の全部の動物を収容できるんじゃないか?と妄想してしまう。

だって見てくれよ、どれだけ部屋があるんだよこれ。1階の高さが低く見える。

12万5000トン。中には映画館やダンスホールがあるのは当たり前として、なんとビール醸造所まであるというのだから呆れる。

船はドックの外に出ており、しっかりと浸水していた。最終点検でもやっているのだろうか。

・・・と思ったら、なんとこの翌日5月3日に、スペインに向けて出航していったのだという。この船を見ることができたのはラッキーだった。

この船を作っていたのは、三菱重工長崎造船所香焼工場。

三菱の造船所はあちこちにある。

一カ所にまとめた方が効率が良いだろうに、と思う。あちこちに工場がバラけていると、資材や人材の融通が面倒だろうに、と。・・・でも、あれだけデカい船を延々と時間をかけて作るわけだから、「融通」なんて概念はないのかもしれない。もう、船を作り出したら当分かかりっきり。

ドックのサイズも桁違い

香焼工場のドックは100万トンドックだという。

「えっ、100万トン?」

思わず隣にいるばばろあに確認してしまったくらいだ。

「ちょっと待て、僕ら広島にいる時、マツダの宇品工場に『1万トンバース』があります,って習ったよな。で、車を運ぶ巨大な1万トンの船を見てびっくりしたよな。あれが100隻入るサイズなの?このドック?そんなにデカい船ってあるの?」
「実際に100万トンの船を作るんじゃなくて、ドックの中を分けたりすることも出来るんじゃろ」

だとしても、デカい。さっきのアイーダが12.5万トンだから、あれが8隻同時に作れるということか?ありえん。

聞くと、世界最大のドックなんだという。

やっぱりいずれは、「海上独立国家」を作るにちがいない。北朝鮮の脅威にさらされたら、ミサイルが届かないところまで移動するとか。

島

14:23
船上ではしばらく見どころがなくなったが、前方右手に島が見えて来た。沖ノ島と伊王島だ。橋で本土と繋がっているので、車でいくことができる島。

遠目で、教会の建物が見えた。

「おい蛋白質、教会だぞ教会!」

蛋白質に声をかけたが、写真を撮る間もなく通り過ぎてしまった。まるでシンデレラ城のような、白くて奇麗な建物だった。フォトジェニックな教会が、こんなところにひょっこりあるのだから長崎恐るべしだ。

高島

14:30
船は軍艦島の手前にある、高島に近づいてきた。

高島も、隣の端島(軍艦島)同様に炭鉱の島として栄えたが、現在はもちろん閉山してしまっている。しかし、閉山は軍艦島よりも遅く、1986年だ(軍艦島は1974年)。

最盛期は端島・高島あわせて2万人以上が住んでいたというのだから、とんでもなく「都会」だったということになる。しかし今では、遠目で見る限りは静かな島だ。

地図を見ると、高島港ターミナルがあるあたりから南側は、不自然に平らであまり施設がないエリアになっている。おそらく、鉱山で掘り出したボタ(石炭と一緒に掘り出してしまった、利用価値のない石)を捨てて埋め立てていった場所なのだろう。

船は一旦ここに立ち寄り、ターミナル近くにある石炭資料館を見学することになっている。これはとても嬉しい。

もともと、軍艦島のツアー予約ができなかった場合、我々は高島に日帰りで行ってくる計画だった。せめて軍艦島的な雰囲気を味わいたかったからだ。しかし結果的にツアーの予約はとれたし、高島にも立ち寄れたので一挙両得。

寝る蛋白質

深夜バスで疲れが溜まっていたのだろう、蛋白質は壁にもたれかかってうたた寝をしていた。

高島上陸直前

14:36
そうこうしているうちに、船は高島港に到着。

船着き場の近くに、「たかしまフルーティートマト」とトマトの絵が描かれた倉庫があった。石炭という主要産業がなくなってしまったので、かわりにトマト栽培に力を入れているのだろうか。

そういえば、方や軍艦島は閉山の後無人島になった。しかしこの高島は閉山後もちゃんと人が住んで生活をしている。定期船も本土から就航している。この違いはなんだろう。恐らく、島の大きさ、なんだろうな。フルーティートマトを栽培できるような土地がある。一方軍艦島はというと、人の住むエリアか、鉱山か、しか場所がない。しかも不便だ。閉山してしまうと、そこに住み続ける理由なんて無かったのだろう。水や電気といったインフラを維持するのも困難だし。

(つづく)

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