長崎の過去と今-10

朽ちていく建物、護られる建物(その10)

トロッコ1

14:47
軍艦島のミニチュア模型の説明が終わったら、ツアー客はうわーっとその場を立ち去っていった。我々が呆気にとられるくらい、あっという間に、だ。

「ああ、やっぱりみんなブラックダイヤモンド号に戻って、眺めの良い席を確保したいからなんだろうな」
「どうする?完全に出遅れたぞ」
「もう開き直って、じっくり展示を見ていこうぜ」

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というわけで、ミニチュア模型横に展示されている、石炭を運搬するための2トントロッコをじっくりと観賞するわしら。

トロッコ2

周囲にはもう殆ど人が残っていない。僅かに、のんびり屋さんがミニチュア模型をしげしげと眺めているくらいだ。

折角の展示物なのに、殆ど相手にされていない。

そりゃそうか、ツアー客は「世界遺産」であり「珍しい光景」の軍艦島が見たいのであって、「当時の石炭採掘の仕組み」について、工業的な観点での興味はないのだろう。

おっと、そうこうしているうちに、石炭資料館を見終わった人たちが足早に船着き場に戻って行き始めたぞ。早いなあ、僕らこれから石炭資料館の中に入るんだけど。

トロッコ3

本当なら、この高島に一泊してのんびりしたいくらいだ。でもそれはさすがに無理なので、今回のツアーには入っていない。

安心しろ、明日の夜は炭鉱の島だった「池島」で一泊だ。こっちで存分に在りし日の栄華に思いを馳せよう。

こちらの展示は、鉱夫さんたちが現場に向かうのに使ったトロッコ列車だろう。木の座面と背もたれで、幅が狭い。地下トンネルを走るものなのに、天井がついている意味ってあるんだろうか?と思うが、地下水が上から降ってきて「冷たい!」とならないようにするための工夫だろうか。

石炭

14:52
石炭資料館に入る。

展示されている黒い塊、これが「塊炭(かいたん)」。これを掘り当てるために、九州北部のあちこちで鉱山が開かれ、男達が潜っていったわけだ。

埋蔵量はまだまだあるのだけど、なにせトンネルを掘って掘って掘りまくって、地上からかなり深いところまで坑道が続いている状態だ。効率が悪すぎる。2日後の池島で聞いた話だけど、1日3交替制で鉱夫は働いていたけど、実働は5時間程度だったという。地下に潜ってから、採掘現場に辿り着くまでの「勤務時間内通勤時間」が片道小一時間かかるからだ。

これじゃ、採算があわない。結局、ダイナマイトで爆破して露天掘りをしているような外国の炭に太刀打ちできず、今じゃ日本で採炭している鉱山は全滅した。「資源枯渇」ではなく、「割に合わなくて」というのがグローバル化というか、なんというか。

高島の写真

今我々がいる高島の航空写真。

港が二つあるけど、我々がいるのは島の下側に防波堤が伸びているところ。

島右側は山があって、いかにも「島」という形。でも、左側が不自然に平らで、直線。人工的に島が拡張していったからだろう。

すぐ隣の端島が「軍艦島」として名高いのに、同時期に操業していた高島は全く知名度がない。他の軍艦島ツアーだと素通りするくらいだ。特に観光資源としても、鉱山跡や住居跡を巡るようなものはないようだ。鉱山、というのは完全に過去の歴史として、今は今なりに生活をしているからだろう。

むしろ、軍艦島のように時間が止まったまま取り残されている方が珍しい。

じっくり見る蛋白質

石を熱心に観賞する蛋白質。

このあたりは、鉱山で使われたいろいろな工具が展示されている。

一つ一つ見ていけば十分楽しい筈だ。しかし、さすがに我々も若干「早く船に戻らなくちゃ」という気がするので、落ち着いて見ていられなかった。

既にこの資料館には殆ど人がいなくなっていたけど。

軍艦島の地図

軍艦島の紹介もあった。

軍艦島を上から見て、どこにどういう建物があったのかを示す地図。こういうのをじっくり読むだけでも楽しい。本当に、楽しい。

理想としては、5年刻みくらいに、軍艦島がどう拡張して建物が増えていったか、時系列で見せてくれたらいいのだけど。

今や廃墟となって無機質な鉄骨とコンクリートだけになっているけど、ここには人の営みがあったし、だからこそ合理的な理由があって建物が建てられ、配置されているわけだ。「どうしてこういう形になったのだろう?」って考えるだけでも楽しい。

ちなみに、青色の建物は鉱山関係で、緑色の建物は居住関係だ。船着き場は青くて丸い建物が示されている下のあたりにあり、そこから時計回りに島の左端までの間に遊歩道がある。

島の核心部ともいえる、マンション密集エリアには全く入れないし、近寄ることもできない。崩壊の危険があるからだ。上陸しても、見ることができるのはごく一部、さわりの部分に過ぎない。

とはいえ、昔は全く上陸が認められていなかったのだから、歩道が整備されて上陸できるようになったのは大きな進歩だ。

以前、軍艦島の専門家たちによるパネルディスカッションを聞きに行ったことがあるのだけど、そのときある教授が語った一言がとても印象に残っている。

「軍艦島は、今が見頃です。」

これは、別に紅葉のように「今がちょうど一番美しい時期だ」という意味で言っているのではない。島の建物は急速に劣化が進んでいて、みるみる崩壊している状況。なので、今見ておかないと、数年後にはもう今の姿は残っていないですよ、という意味だ。

なんとか保存する、という議論ももちろんあったそうだけど、さすがに規模が大きすぎてコストがとんでもないことになる。数百億円かけても保存できるかどうか怪しく、あとはもう朽ち果てていくのを見ていくしかないそうだ。実際、過去と今の写真を対比して見せてくれたが、この10年くらいでもかなり外観が変わってしまっていることがはっきりとわかる。

「昔は名前の通り軍艦の形をしていたんですが、今はもう、軍艦の形ではなくなってきていますね」

という話をしていた。それで僕が焦って、「死ぬまでに軍艦島に行ければいいや」という考えを改め、早々にこの地を訪れようと考えを改めたわけだ。そして今回実現に至る。

岩崎弥太郎と

高島炭鉱は三菱による開発だったので、岩崎弥太郎の像がデデーンとそびえていた。

何を指さしているのかよくわからなかったけど、とりあえず同じポーズで記念撮影。

・・・いかんな、歳のせいなのか、ポーズがうまくとれていない。右端の蛋白質はほぼ真似ができているんだけど、真ん中のばばろあは右手が挙がっておらず水平を指さし、左のおかでんは手を掲げているものの背中をのけぞらせていて、やっぱり肩が上がっていないことがバレる。

四十肩をやった右肩だからなあ、とこの写真を見てため息をついてしまう。これがアワレみ隊2017。

(つづく)

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