長崎の過去と今-38

朽ちていく建物、護られる建物(その38)

池島散策

17:22
日没になる前に、公衆浴場に行くことにした。なにせ街灯などないので、夜になると真っ暗になってしまう。

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チェックイン時、「懐中電灯が必要ならありますので」と言われていたが、さすがにその前に島内観光がてら、行ってこよう。

池島小中学校

17:23
ほとんど人が住んでいないし、往来もない島なのに信号機があるぞ?と思ったら、そこが池島小・中学校。学校授業の一環として、信号機を設置したのだろう。「赤信号のときは、止まれ」とか「右見て、左見て、また右見て」という交通の基本動作は、この島にいる限り習わないと身につかない。

児童がほとんどいなくなった今でも、ちゃんと点灯している。授業のときだけ点灯させればいいのに、と思ったが、「あっ信号だ!青だろうか赤だろうか?」と一瞬身構える癖、というのを身に着けさせるためにも常時点灯なのかもしれない。

全校児童数名とはいえまだ現役の施設。さすがに、ここはまだ生活感を感じさせる。

それにしても掃除はどうしているのだろう?児童数に対して、敷地の広さが尋常ではない。日ごとに掃除場所を変えたって、全部回るのにかなり時間がかかってしまう。

公共トイレマップ

17:25
真新しい看板があるな、と思ったら「公共トイレマップ」だった。親切だ。

この島には6カ所にトイレがあるそうだ。公衆トイレとしては1カ所だけで、残りは公共施設や店舗のトイレを使わせてもらうことになる。

島内散策のために訪れた観光客が、トイレに困らないようにという配慮はありがたい。

ツタに覆われた団地

意外なことだが、この島には銭湯が2カ所現存する。逆に言えば、アパートの各部屋には風呂が備わっていないのかもしれない。

とはいえ、島民の数の割に銭湯が多い。

一カ所は、港の近く、池島総合開発センターの近くに「港浴場」の名で営業している。そしてもう一カ所が、我々が今目指している島中央部にある「東浴場」だ。閉山前はあともう一カ所あったという話をどこかで聞いた気がする。

それにしても、なんだこの圧倒的なインパクトの光景は。ツタ系の植物に完全に覆われてしまったアパートが並ぶエリアに差し掛かってきた。これは・・・さすがに人は住んでいないよな?

アパートの階段に通じる入り口は、木の引き戸になっていた。歴史を感じる。金属だと潮風で劣化するから木を使っているのか、それとも昔は木の引き戸が当たり前だったからなのかは不明。

先ほど中央会館のフロントで見せてもらった、「池島マップ」を撮影してあったので、それをデジカメの小さな画面でチラチラと見ながら場所を確認する。ええと、東浴場に向かうには、「池島ストアー」のところを左に曲がらないといけないんだけど・・・

なんか、目の前に広がるのは廃墟アパート。行き過ぎたんじゃあるまいか。いくらなんでも、この先にお店やら公衆浴場があるとは思えない。

かあちゃんの店

少しだけ戻る。

そういえば、何か団地とは違う建物が見えていた。よく見ると、「長崎市設食料品小売センター」と書いてある。あー、地図上で「食料品小売センター」と書いてあるやつか。

この中に、島唯一の飲食店「かあちゃんの店」があると聞いているが、さてやっているだろうか。

池島・かあちゃんの店

お。館内は電気がついているぞ。営業しているらしい。

そういえば、先ほど車で送ってくれた人が、「今晩は『かあちゃんの店』で食べるの?」と聞いてきたっけ。

かあちゃんの店内部

長崎市設食料品小売センターの中に入る。

入ってすぐのところに「かあちゃんの店」があり、入り口正面にはちょっとした食料品と日用品が売られていた。

売られているのは、これだけ。

ううむ、と思わず唸ってしまった。人間、最低限の文明的な生活を営もうとするとこの程度でやっていけるのだな、と思ったからだ。もちろんここにあるだけでは不足だろうが、「これだけは置いておかなくては」というものが、ここに凝縮されているのだろう。

棚8段のうち、スナック菓子が2段を占める。そしてカップラーメン、袋麺が3段。日本人の主食であるコメは、生米としては売られていない。「サトウのごはん」形式で売られている。

あれ?肉とか野菜はどこだろう。

ひょっとしたら、別のところに冷蔵棚があって、そこで生鮮食料品が置いてあったのかもしれない。冷やかしで入った我々なので、長居はしなかったので見落とした可能性がある。

建物は広いのだけど、ベニヤ板で仕切られてしまいほとんど使われていない。そして今いるエリアも、シャッターが閉まっているところが多い。

昔は行商人が本土から100人ほど毎日やってきてここで物を売っていたそうだ。なるほど、民間スーパーじゃないんだな、この建物は。だから「長崎市設」なんだ。長崎市は行商人に場を提供していた、というわけだ。

しかし閉山して人がいなくなったこの島では商売が難しく、行商人の高齢化も相まって次々と規模縮小。今や「かあちゃんの店」だけになってしまった。

かあちゃんの店メニュー

その「かあちゃんの店」だけど、朝8時から18時くらいまで営業しているそうだ。不定休、客がいないときは早じまいしてしまうこともあるとか。

「しまった、飯はここにしとけばよかったな」

ばばろあがぼやく。僕も正直、ちょっと悔しい。

今日の日程上、ひょっとしたら船に乗り遅れてしまい島への到着が大幅に遅れる可能性があった。そのため、18時「頃」と言われている閉店時間に間に合う自信がなかったし、そもそも不定休なのでやっていない場合もあり得る。島に来て何もなかったら、飢えを凌ぐ手はずがもう何もない。自販機でジュースを買って飲むしか、残されていない。そういう危険性があったので、食事はすべて本土から運び込んだのだった。

日持ちする食料ならば、「今日はかあちゃんの店のお世話になって、買ってきた食料は明日にでも食べよう」と機転をきかせることができた。しかしなにしろ、買ったのはお刺身だ。キング・オブ・なまもの。明日の朝食べるのでさえ、よろしくない。「うーん」といいながら、この場を立ち去るしかなかった。ちなみにかあちゃんの店はしっかりと営業中だった。

今こうやって文章を書いていて気がついたのだが、営業は朝8時からだというなら朝飯をここで食べればよかった。朝飯は各自菓子パンを買っていたのだけど、そんなものは保存がきく。池島の大スペクタクルな光景に圧倒されて、そこまで頭が回らなかった。

ちなみにこのかあちゃんの店、「うどんとそばと、丼ものと、とんかつ定食くらいならあります」というよくありがちな定食屋とは一味ちがう。人気メニューとして、長崎ご当地グルメである「トルコライス(900円)」が鎮座しているから全くあなどれない。しかも、ちゃんぽん(750円)や皿うどん(750円)といったメニューもあり、観光客を歓喜させる内容になっている。いいなあ。トルコライス、人生で一度も食べたことがないんだ。池島で食べてみたかった。

昔はスーパーがあった場所は今、更地

せっかくだから何か買おうか?とも思ったが、極めて日常的な商品しか売られていないので観光客が買うものは何もなかった。さすがに便所掃除用の洗剤を買ってもねぇ。「あっ、ウチで使っているのと同じヤツだ!」とは思ったけど。

小売センターをあとにする。

「それにしてもおかしいな、確か『池島ストアー』を目印に曲がるはずだたのに」

そして現実を目の当たりにした。

地図上で「池島ストアー」と記されているその地は、跡形もないさら地だった。

(つづく)

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