長崎の過去と今-44

朽ちていく建物、護られる建物(その44)

08:56
「見てみい、すごいで」

先に四方山の山頂に着いていたばばろあが声をかけるので、振り返ってみたらこの光景。

四方山からの景色

うわあ・・・なんだ、これ。

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兵どもの夢の跡、というのが目の前に展開されていた。見渡すかぎり、ほぼ廃墟。視界の片隅に見える学校だけが現役で、あとは全部コンクリートの置物だ。

正面に、屏風のようにそそり立つのが「8階建て高層アパート」群。池島の象徴とも言える建物だ。このあと、あの建物の近くまで行く予定だが、遠くから見てもものすごい存在感だ。

これが全部、昔人が住んでいて賑わっていたんだぜ・・・

そして今、誰も住んでいないんだぜ・・・

信じられない。

そもそも、東京23区内に住んでいる僕は、「無人になった建物が放置されっぱなしになっている」という光景を見る機会が滅多にない。そんな土地があったら、すぐに売却され、再開発されるからだ。もちろん人口減で空き家率が全国的に増えているのは知っているけど、身近なところで空き家や廃墟に慣れ親しんでいない。

だからこそ、こうやってガツンと廃墟を見ると、唖然としてしまうのだった。

炭鉱の島・池島だから廃墟があるんだ・・・なんて他人ごとじゃない。この光景は明日の日本全体の光景でもある。そしてそれは現実的に迫ってきる話だ。そういう「予感させるリアル」がこの光景にあるからこそ、ゾッとする。

廃墟となるマンション

8階建てアパートをズームしたところ。

さすがに8階建てだと、上層階に住んでいる人の昇り降りがしんどい。なので、背後の丘にある道路から5階部分に渡り廊下がつながっていて、そこからも人が出入りできるようになっている。つまり、4階建ての建物が縦に2つ、連結されている形だ。

そんな構造が、ここからの眺めでもよくわかる。

アパートの隙間から、5階部分の渡り廊下がちらっと見えている。

場所によって色が違う、というのが面白い。

右側の建物は、港付近にあったアパートと同様のクリーム色をしている。しかし、左側の建物は下半分がクリーム色、上半分が「いかにもコンクリート!」な灰色だ。廃墟カラーとでも言おうか。

左の建物のうち、上のほうが築年数が古い・・・なんてことは物理法則上ありえないので、おそらく「もともと灰色だったけど、ひび割れとか水漏れがあるので大規模修繕で外装をクリーム色に塗り直した」のだろう。

左上の部分が塗り直されていない、ということは、大規模修繕をした時点でそのエリアには人がすでに住んでいなかったのかもしれない。

四方山からの景色

8階建てアパートから視線を左に向けていったところ。

足元に学校の校舎がちらっと見え、校庭も見える。そしてその奥にずらっと並ぶアパート。ここは昨日、銭湯に入るために散策したエリアだ。

なので、うっかり「見渡す限り全部廃墟」とか言ってはいけない。この界隈はまだ住んでいる人がいる。

四方山からの景色

ズームしたところ。

「かあちゃんの店」がある小売センターと、アパート群。

「池島ストアー」があったとされる場所は完全にさら地。かなり大きな建物があったことが伺える。あとで池島の過去を伝えるwebサイトを探してみたら、池島ストアの建物自体は10年くらい前までは残っていたようだ。しかし、毎年いくつもの台風にさらされる九州なので、建物の劣化が早い。ボロボロになって危険なので、壊したのだろう。

その他の建物が廃墟になっても残っているのに対し、この池島ストアーだけは壊しているところをみると、よっぽど危なかったのかもしれない。

昨日、かあちゃんの店界隈のアパート群を見て「廃墟だ!すごい!」と興奮したものだが、8階建てアパートを見たあとだとまだまだ全然こちらは整然としている。

四方山からの景色

なにしろこの迫力だもの、8階建てアパート。

アパートの背後に、第二立坑がちらっと見えた。

第一立坑のようにやぐらの形をしていない、変わった形だ。しかし、立坑独特の大きな滑車はついている。これで地中深くに潜っていったのだな。

四方山からの景色

8階建てアパートと、かあちゃんの店の間にも4階建てのアパートは建っているのだけど、そのあたりは緑に覆われていた。

早い段階で人がいなくなったからなのか、それともこのあたりだけ日当たりが良いとか土地の状態が良いとかで、植物が繁殖したのだろうか?

かなり剛毛になっている。アパートが迷彩塗装状態だ。ここから狙撃されても、きっとわからない。

四方山からの景色

かあちゃんの店、銭湯、団地・・・とさらに視線を左に向けていく。正面に見える低い建物は、宿泊した池島中央会館。その奥には、団地ではない、工業的な三角屋根が見えてくる。

あのあたりが、池島炭鉱閉山後にリサイクル事業を手がけていた「池島アーバンマイン」の跡地だろう。

あのあたりから斜坑が伸びていて、地中から石炭を運び上げていたはずだ。閉山時に現役で利用されていたという第二立坑は、人を運ぶ程度の施設に見える。8階建アパート周囲をダンプカーがひっきりなしに行き来し、石炭を運んだようには見えない。なので、石炭はこっちから陸揚げしていたのだろう。

そして、視野を遮るように、斜めに一直線に伸びる灰色の建造物が見える。ホースのように見えるが、コンクリートで固められた通路のようだ。窓もついている。空港のボーディングブリッジみたいだ。

しかし、人が歩くためにあのような巨大なものを作るとは思えないので、これは推測だけど、おそらく斜坑から運び上げた石炭を山の上にある選炭場に送るためのベルトコンベアが中に入っているのだろう。

四方山からの景色

08:58
一旦池島の集落に背を向けて西北方面を見る。ひたすら青い海。・・・いや、うっすらと大きな島影が遠方に見える。あれが五島列島だ。

四方山からの景色

島の西南には、小島がある。

無人島だけど、何かちょっとした人工建造物が見える。

第二立坑から潜った鉱夫たちは、トロッコやらマンベルトと呼ばれる装置で海底奥深くまで進んでいったのだけど、実際に採掘していたのはあの島のもっと向こうだったらしい。恐ろしく、遠い。「通勤時間」がかかりすぎて、これじゃ効率が悪すぎる。

しかも坑道の距離が長くなればなるほど、落盤や爆発事故のリスクが高くなるわけで、そういうことも閉山理由の一つなのだろう。

ちなみに島にある人工建造物は、空気抜き用の穴だそうだ。このあとの炭鉱ツアーで教えてもらった。

四方山からの景色

池島の北側には、大きな松島がある。

元はといえばここから石炭を掘り始めたわけだが、開発技術が未熟で水没事故を起こしてしまい、短期間で閉山してしまった。しかし、未だに「三井松島産業株式会社」という名前で会社が継続しているように、松島という名前とブランドはこの界隈では現在進行系だ。

今日、炭鉱ツアーを主催してくれるのも「三井松島リソーシス」という会社だ。「池島リソーシス」ではないのがちょっと不思議。

松島の玄関口となる港やメインの集落はこちら側ではないので、人の気配というのはあまりわからない。しかし、白い煙突のようなものが大きくそそり立っているのが見える。灯台にしてはデカすぎるので、何かと思ったらJ-POWER(電源開発)の松島火力発電所だった。

100万KWの発電能力を誇り、こいつだけで長崎県全域の電力を供給できちまうんだそうだ。で、そのエネルギー源は、よりによって「石炭」。もちろん、松島や池島からはもう石炭が採れないので、輸入石炭を使っている。

形は違えど、未だに「石炭の島」として松島は現役なんだな。

アワレみ隊in池島

09:05
蛋白質が全く山頂に上がってこない。三人の中で最後尾だったとはいえ、遅れるにしてもほどがある。

ばばろあがしびれを切らし、

「おい、何やっとるんや!?」

と足元の貯水タンクあたりに声をかける。すると、貯水タンクあたりから蛋白質が

「どうやって登ればいいんか、わからん」

と情けない声を上げてきた。

「タンクの横に道があるで。そこから登ってこいや」
「いや、もうわからん」
「わからんことあるか。すぐ見つかるけえ、ちゃんとタンクの横まで行け」
「もうええよ、ここで待っとる」

ここでいらっときたばばろあ、ちょっと語気を荒らげ、

「山頂まですぐなんじゃけえ、ちゃんと探せや。登ってこい、アホ!」

と怒鳴った。大きな声でやりとりをしなければならないほどの距離ではない。普通の音量でやりとりができる程度の距離だ。それでも蛋白質は道がわからないし、登れないという。いや、声がする方向に向かっていけば、自然と道がわかると思うんだが・・・。少なくとも、上に登れば山頂というのは、幼稚園児でもわかる事実だ。

「頭がぼんやりしてて、よくわからんのよ、もうここでええわ」
「まっとれ、迎えに行く!」

ばばろあが貯水タンクのところまで下りていった。

「知るか、勝手にやってろ」

と突き放さないのは、この山頂からの眺めが圧倒的であり、これを見ないで帰るという選択肢は絶対にありえないからだ。「道がわからないから諦める」にしてはあまりにもったいない。

ばばろあが苛立ったのは、「この光景を見ずして、お前はあっけなく池島を立ち去ろうというのか?」という理由でだ。ちなみに貯水タンクからでは、木々が茂っていて何も眺めはない。貯水タンクマニアでもない限り、来るだけ無駄な場所だ。

すぐにばばろあが蛋白質をキャッチし、山頂に戻ってきた。ばばろあにお説教されながら。目と鼻の先の距離だ。

「ほら見てみい、ばばろあはお前にこれを見せたかったんだぞ」

蛋白質が振り返ると、そこには島を一望する光景が広がっていた。

「おお」

我々から遅れること数分で、彼も若干テンションが上った。

(つづく)

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