18:06
観音町の電停から市内電車に乗ろうと思ったが、ちょうど電車が行ってしまった後だった。何もない電停でずっと待つのは面倒なので、そのまま電車通り沿いに歩き続ける。
すると、前方に蕎麦屋の看板が見えてきた。出雲蕎麦を出すお店、「いいづか」だ。
蕎麦を食べようなんて全く思っていなかったのだけど、ばばろあに「東京界隈ではほとんど出雲蕎麦を出すお店がないこと、出雲から比較的近い広島でさえ、出雲蕎麦のお店は少ないこと」を語っていたら、「じゃあ食べていこう」という話になった。
えええ、広島で出雲蕎麦!?と思ったが、よく考えて見れば、じゃあ今度いつ島根県に行く機会があるの?いつ東京で出雲蕎麦を食べる機会があるの?と思うと、今食べるのも悪くない選択だということに気がついた。
というわけで、本日夕食二度目は、出雲蕎麦ということになった。
ホルモン天ぷらから始まって、次は出雲蕎麦。
・・・まあ、天ぷらを肴にして蕎麦前を楽しんで、その後シメに蕎麦をたぐるというのは珍しい話ではない。それを一店舗でやるのではなく、お店をハシゴしながら実現していると思えば納得だ。
そんなわけで、久々に食べた出雲蕎麦。「割子蕎麦」と呼ばれる独特のスタイル。
この蕎麦のレポートはこちらに詳しく書いた。
出雲蕎麦は、蕎麦の殻ごと粉砕して蕎麦粉にする、という特徴がある。そのため、麺は一般のものより黒っぽい。そして、小さなお皿に小分けにし、ダルマ落としのように積み上げるというのも独特のスタイルだ。このお皿のことを「割子」と呼ぶ。
通常は3段重ねで提供され、腹の空き具合で割子の量は増減できる。
食べ方は、つゆを割後に注いで食べる「ぶっかけそば」のスタイルだ。一枚目を食べたら、一枚目の割子に残ったつゆを2枚目に移すという「リサイクル」が一般的。食べ方を知らない人は、この独特のお作法に戸惑うことになる。
僕は2009年に松江で出雲蕎麦食べ歩きをやったことがある。そのときの記事がこちら。
珍しい食べ方と、味わい深いお店、そしてとても美味しい蕎麦。素晴らしい体験だった。松江で蕎麦歩きは、蕎麦好きには是非お勧めしたい。
18:45
「いいづか」を出たあと、ばばろあが
「やっぱのぅ、食後に甘いものを食べんといかんのよ」
と言い出す。確かに彼の場合、食後のデザートはおなじみの光景だ。しかしなぜいきなりそんなことを言うのかというと、目の前に洋菓子店っぽいものが見えたからだ。なんて都合がいいんだ。
「でも看板が『TOM'S HAIR』ってなってるぞ?美容院じゃないか?」
「いや!あれは洋菓子店じゃ。わしにはわかるで。美容院は二階じゃろ」
昔、小学生の頃、毎日のようにこの横を通り過ぎていたんだけど、あんまり覚えがない。その後も、このあたりは「自分の庭の一部」という認識だったんだけど・・・。その頃は、甘いものは目の敵にするくらい、全く口にしない「辛党」だったからだろう。
それよりも、このお店の横に本屋があったことの方が、とても印象に残っている。ちょうど天満町電停の目の前で、電車に乗っていると、お客さんの乗降がある間しばらく本屋の前に停車する。で、この本屋は店頭に堂々とエロ本を陳列していたので、青春に目覚め始めていた少年おかでん、いっつも目が釘付けだったのだった。
そんなことしか、覚えていない。
「ほら、洋菓子店だった」
目指したお店は美容院ではなく、洋菓子店だった。しかも、渡りに船とばかりに、このお店はシュークリームが名物らしい。食べ歩きにちょうどいい食べ物の代表格だ。
さすがに、ショートケーキをその場で買って立ち食いするわけにはいかない。
ホルモン天ぷら→出雲蕎麦ときて、3軒目はシュークリームとなった。
ばばろあに倣って僕もシュークリームを買い。二人して店頭でモソモソと食べる。
これでシメ・・・というわけではない。まだ前菜の域を超えていない。何しろ、二人とも広島の中心地を目指している。それは単に散歩目的ではなく、「ちゃんと飯を食うため」だ。今はまだ、その「夕食会場」に向けて移動しているだけだ。
シュークリームが食後のデザートにすらなっていない。例えるなら、午後3時のおやつ。
結局、電車に乗るタイミングを逸してしまい、そのまま平和公園までやってきてしまった。もうこうなると繁華街である紙屋町、八丁堀は目と鼻の先。結局今日はかなり歩いてしまった。
平和公園を横切って、元安川を越える。原爆ドームはもうすぐそこだ。
すると、何やら屋台らしきものが見える。すでに日が暮れて真っ暗な公園なのだが、ここだけこうこうと明かりが灯っている。なんだ、あれは。昔はこんなものはなかった。
店頭では、ヨーロッパのマルシェのようにオレンジが山積みになって陳列されている。そしてその奥には、テラス席のレストランがある。優雅にテラス席でワインを傾けつつ、くつろいでいるお客さんが結構いる。
「驚いた!いつの間に広島はこんな洒落た場所になっていたとは!」
今日は驚きっぱなしだ。広島駅の変貌ぶりにも驚かされたが、それだけでは終わっていなかった。広島、覚醒したな。
僕が知っている広島(5年ほど前)は、「せっかく豊富な川(市内中心部に6つの川が流れる、日本でも珍しいデルタ地帯)があるのだから、リバーサイドを有効活用すべし」という機運が立ち上がっていて、銀山町あたりの川沿いに、屋台店舗が実験的に出店していた記憶がある。それがいつの間に、原爆ドームと平和公園をつなぐ道路脇にまで進出していたとは。しかも、めっぽうおしゃれだ。
川沿いというのは、国とか自治体とかいろいろ権利が絡むし、防災やら治水の観点でおいそれとお店を出せるものではない。そのあたりを調整したということなのだろう。
「川」を観光資源として再認識している広島は、このような川沿いの屋台だけでなく、いろいろな取り組みを行っている。「世界遺産航路」として、原爆ドームから川を下り広島湾に出て、宮島に向かう定期船を就航しているのもその一環。
この屋台は、まさにその「世界遺産航路」の船着き場たもとにある。
「ええのう、ブルジョアっぽい人が飯食っとるで」
我々は優雅に食事を楽しんでいる人たちを遠巻きに眺めるだけだった。観光客としてこの地を訪れた人ならば、平和公園の夜景を眺めつつ広島のアーバンナイトライフを楽しむ、というのもよかろう。でも、広島出身者としては「今更」な光景なので、ここでご飯を食べようという気にはならなかった。デートならばまだしも、腐れ縁の二人でなら、ちょっと。
そのかわり、テイクアウトでオレンジジュースを売っているのを発見したので、それを注文することにした。なるほど、店頭に山積みになっていたオレンジは単なる装飾ではなく、れっきとした商品だったのか。
スモール500円、ラージ600円。けっこうお高い。観光地物価か。
しかし、目の前でオレンジを搾ってくれる。絞りたてジュースは、気分的にちょっとうれしい。
二人して、店頭でチュウチュウと繊維たっぷりの絞りたてジュースを吸う。
「あれっ?『かなわ』がこんなところにある」
世界遺産航路の船着き場からわずかに下った場所に、川にせり出した建物があった。「かなわ」と書かれている。
「かなわ」といえば、広島人なら知らない人はいない、牡蠣料理のお店だ。「かき船」を標榜していて、まさに船がお店になっていた。昔はもう少し下流・・・平和大通りの南側に停泊していたと思ったが、いつのまに便利なところに移ってきていたのか。
しかも、川の上にあるとはいえ、「船」の範疇を超えている。ほとんど、「建物」だ。ただ、係留するための杭があることから、一応「船」なのだろう。むしろ、船という形態を取っていないと、川を不法占拠しているということになるのかもしれない。
昔、この「かなわ」は台風がやってきた際に流されたことがある。そういうこともあって、移転に伴ってしっかりと固定することが求められたのだろう。船が流されると、護岸や橋脚に激突して破損させてしまう恐れがある。
そういえば広島市は長年、不法係留のプレジャーボート撲滅にかなり力を入れていたっけ。広島は日本一不法係留の船が多い土地で、昔は川に鈴なりにモーターボートが並んでいたものだ。今日はそういう光景を全く見かけなかったので、不法係留は駆逐されてしまったらしい。
「かき船」というのは、もともと冬の時期になると牡蠣を積み込み、各地に運んでそこで営業をするスタイルをとっていた。主に西日本界隈に出没し、僕の祖母曰く昔は倉敷にもかき船がやってきていたそうだ。さすがに今ではそういう営業はやっておらず、ごらんのように岸にがっちり固定された形になっている。
店の入り口まで行ってみると、車椅子用のスロープまで用意されている。「隙あらば、出港」という気はほとんどないらしい。もっとも、飲食店である以上出港する意味がまったくないので、「隙あらば」もへったくれもないけれど。おそらくこの「かなわ」、船としての動力も積んでいないと思う。使う機会がないから。
「ここで牡蠣を食うんか?」
ばばろあから聞かれたが、いやいや、ここは無理だ。思いつきで入るような場所じゃない。コースを頼んだら、4,000円以上からスタートというお店だ。
「牡蠣1つだけください、って言ったら怒られるかな?」
「さすがにそれは駄目だろ、恥ずかしすぎる」
しばらくこのお店の様子を外から観察する。
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