登場人物(1名)
おかでん:説明不要、突発的にあっちいったりこっちいったりする懲りない輩。
2000年09月09日(土)
[行程]
06:34八王子駅→(中央本線普通)→07:51塩山駅→(タクシー)→08:30勝縁荘08:35→08:55大菩薩峠→09:11賽の河原→09:33大菩薩嶺09:45→10:30丸川峠→11:50裂石11:57→(山梨交通バス)→12:27塩山駅[昼食]13:15→(中央本線普通)→14:36高尾駅
[総歩行時間3時間15分]

塩山駅-大菩薩峠のバスは、シーズンオフということもあって便数が少ない。面倒なので財力に物を言わせて林道行き止まりの勝縁荘までタクシーを使う。片道5,300円也。
「真の山好きたるものは、途中の林道歩きなどは無視するのだよ、無視。山そのものに専念しなくちゃ。林道歩いたところで、何も充実感ないし」
バス停のある裂石から先の道には、登山客が結構いる。その隊列を後目にタクシーは進む。
「ここで『けっ、貧乏人どもめ』とかいったら鬼畜だな、オレ様は」
勝縁荘までタクシーで乗り付けたため、2時間の時間短縮達成。
「それにしても・・・いいのか?こんな山登りやってて」

勝縁荘から大菩薩峠までは、キャタピラ車が通れるようになっており道は広くてなだらか。
「・・・楽すぎる」
遠くでガソリン発電器の規則的な音が聞こえてきた。ガスって何も見えない。
「こんなところに山小屋ってあったっけ?新しくできたのだろうか?・・・って、おい!もう大菩薩峠じゃないか!」目の前に、大菩薩峠にある山小屋・介山荘があった。

裂石バス停からコースタイムが120分程度の大菩薩峠に、徒歩開始から20分で到着。勝縁荘から計算しても、標準コースタイムの半分程度の時間で到着したことになる。激しく気が抜けてしまった。
「体がまだ温まってないんでスけどー。もぅ到着してもらっても、困るんだけどなあ・・・」
大菩薩峠の看板の前で途方に暮れる。
「タクシー使ったのが間違いだったのか?下から歩くべきだったのか?それともこの山行そのものが間違っていたのか?」
山小屋についたら一休みをかねてビールでも買って飲もう、と思っていたのにー。こんなに早く着いてしまうと、とてもじゃないけどビールでうひひ、という気にはなれない。却下。「ちぇーっ」

気を取り直してピークがある大菩薩嶺に向かう。
「霧がひどい。何も見えない。大菩薩峠から大菩薩嶺へは展望が開けているのがセールスポイントなのに・・・」
えいえいと霧の中で手を振り回して、なんとか雲散消霧させようとしたが糠に釘。馬鹿馬鹿しくなって座り込む。
「天狗のうちわでもなきゃ、霧なんて晴らすことできるかぁ!やめだ、やめ!」

「皇室アルバムって感じで写真を一枚。とほほ、それにしてもどうして花がこうも似合わないんだろうね、僕は」
大菩薩嶺への道は、お花畑状態。
「うむ。何一つ花の名前がわからん。とりあえず、お前は今日からおかでんワダチ草と名付けておこう。いいね」
「いいね、って同意もとめられてもどーしようもありませんがな」
「うーむ、一人の山歩きはどうしても独り言が増えてしまうな。一人で自分に突っ込みを入れているこの姿、他人にはとても見せられんな」

写真で見ると、あっちこっちで休んでいるように見えるかもしれないけど全然休憩は入れていないんである。
なぜって?まだ出発から35分しか経っていないからなのだな、これが。
「しかし、写真を撮ってもバックに写るは白濁した空だけ。電波少年のスタジオセットみたいなもんだ。記念にも何にもなりゃしない」

山の中腹にあった標識。立派で何事かとおもったら、「標高2000米地点」とのこと。塩山市が西暦2000年記念で立てたものらしい。
「塩山市の皆さん、税金はこうして無駄に使われているという典型例ですね、よく目に焼き付けておきましょう」
「大菩薩嶺が2057mで、あともう少しの時にこんな標識出されてもなあ。うれしくも何ともないぞ。そんなに標高2000mってウレシくて標識立てたくなるような地点かぁ?」

「・・・まさかとは思ったが、山頂についてしまった。ああ、山頂まで58分。裏山登ってる感覚だよこれじゃ」
「しかも、展望は開けておらず。もっと指摘すると、さっきの2000m地点の標識よりも小さくてこじんまりとした山頂の標識。とほほ」
「もっと言うとこの標識、建立主は山梨県じゃないか。山頂の山梨県よりも山腹の塩山市の標識が立派っつーのも、やっぱりとほほだ」
さあ大休止だ。リュックからパンを出し、もぐもぐ。水分補給・・・といってもあんまり汗かいていないんだよなあ・・・ごくごく。うむ。
す、する事がない。
「せっかく塩山までやってきて、せっかくタクシー代大奮発したのにこの状況ってあんまりだ。えいこうなったら時間との勝負だ、下山!下山じゃ!」
山頂滞在時間は、食事の時間含めて8分ほど。この場所とこの時間を過ごすために費やした時間は東京から2時間以上、費用にして1万円以上。うーむ、山にコストパフォーマンスを求めるのは野暮だけど、でもねえ・・・。

大菩薩峠側に戻らずに、稜線沿いに西に向かい丸川峠から下山することにする。大菩薩峠はひろびろとした岩と高山植物の道だったが、こちらの道は展望が全く開けない森の中を歩く。
「皇室アルバムごっこの次はC.W.ニコルごっこというのはどうだ、ええ?」

「あっ、何だこりゃ?」
コメツガの木にくくりつけられた看板曰く。
山を汚す登山客に 熊も呆れて困(熊)ったと 空き缶・ゴミ・良心は持ち帰ろうね
こんなつまらないギャグを思いがけぬ場所で発見して、こっちの方こそ困(熊)ったと。
さらに言うと、こんなギャグを作るだけにとどまらず看板にまでしてしまった人に対しても困(熊)ったなと。

カエル「おいらはおいらなりに生きてるんだ、ほっといてくれ」
おかでん「いや、そんなこと言わないでつきあってくださいよ、都会暮らしの僕はあんたが珍しくって」
カエル「しるか、そんなの。あっ、カメラ勝手に撮影しちゃいかんぞ、こ、こら、いかんって言っとるだろうが!」
道端にはカエルがたくさん。あと、蛇も何匹かいたな。

「丸川峠が見えてきたぞ」
ここら一体もお花畑。大菩薩嶺一帯においては、お花畑というのはごく当たり前のように存在するものらしい。
「お花畑きれいだけど、山小屋(写真真ん中の青い屋根)が埋もれてしまっているぞ・・・大丈夫か、おい。中に入ると縦横無尽に張り巡らされた植物の根っこやツルで身動きがとれなくなってるとかないだろうな?」

「丸川峠とうちゃーく」
「といってもやることがないのだ。うむ、おかでんぴんち」
「しゃーないので標識の前で一人記念撮影。セルフタイマーだ。・・・あっ、山小屋の人がこっちを『ひとりぼっちで記念撮影かい?』って目で見ている。おかでんダブルぴんち」
結局丸川峠にある山小屋には立ち寄らずに素通り。ビール買いそびれた。あああ。

「やー、ようやく林道歩きだ。早かったなあ・・・というか、楽だったなあ」
「記念撮影しておこう。自分の先にカメラセットして、セルフタイマーで。それっ、急いで元のところに戻って何気なく歩けっ!」
(さりげなく下山してきたふり)
「我ながら見事なやらせ写真だ。どれ。・・・あっ、勢い良く逆走しすぎた。はるか遠くに自分が写ってる。とほほ」
写っていた写真は、周りの木々に埋もれかかるくらい遠くにいる自分の姿だった。これでは、山歩きを楽しむにこやかハイカーではなく、「大菩薩山系で謎の猿人発見!」という塩梅。

「あともう少しでバス停だ。いや、今日は早かったな。まだ11時半だし。よーし、この後はバス停近くにある『大菩薩の湯』で一風呂浴びて、そして待ちに待ったビールをきゅーーーーーーっ、をやるぞやるぞやるぞ」
裂石バス停到着、11時53分。次のバス出発時刻を確認すると、なんと11時58分発だった。これを逃すと、3時間近くバスが無い事が判明。
「ええー、ほんとかよオイ、僕の温泉、僕のビールが楽しめないじゃないか・・・あっ。」
ぶろろろろ。 バスがやってきた。
運転手さん「塩山行きでーす」
おかでん「ぐは」
定刻通り、バスは無情にも裂石バス停を出発。
「おい、いいのか?大菩薩。何かやらなくちゃイカン事があったんじゃないのか?おい!まだ汗も引いていないのにもう大菩薩から撤収かよ、なんなんだこの山行は!」
「大菩薩の湯」が車窓を横切っていく。
「あああああっ・・・」自分一人しか乗っていないバスに空しい響きが。
無念のあまりバスの最後尾席でごろんごろん悶絶しているうちに、塩山の市街地にバスはやってきた。乗客もそろそろ増えてきたので、みっともないから大人しく外の風景を眺めることにした。
そうすると、肉屋が何軒か目に付く。そのいずれもが真っ赤なのぼりに「馬肉」と書かれたやつをかかげているではないか。
「しゃきーん。決まりだ、大菩薩のカタキは塩山でとる。温泉とビールの組み合わせがダメなら、今度は馬刺とビールで勝負だっ!」
勢い込んで塩山駅でバスを降り、まずは電車時刻を確認。電車の時間まで思う存分うさを晴らさせてもらう所存。
「あっ・・・あと15分で特急かいじがやってくる・・・おい、なんかえらく接続良く東京に追い返されているって感じじゃないか。いいのかあ?このまま帰れってことなのかあ?」
次の便まではちょっと時間がある。悩むこと5分(時間の無駄)、結局馬刺の魅力には勝てずに東京戻りは断念し、塩山駅前の食堂に入ることにした。

「いやぁまいったね」
にへらにへら。
「絶対美だね、ビールの泡って」
にへらにへら。
さっきから、冷たーい生ビールを見下ろしながらニヤニヤしている。ここまで待たされた以上、最後のおあずけでココロを極限状態にもつれ込ませているところ。マゾだ。
「はい、飲んでよし」
自分で自分に許可を与えて、おもむろにビールジョッキを手にする。
ぐいっ。
どーん、と大砲が撃ち込まれたような衝撃。体が一瞬緊張するのがわかる。しかし、その緊張も、一口目が喉を通過したら途端に歓喜で打ち震えた。(ああ、こういう表現を使っているとアル中みたいで自分自身が嫌だ)
突き出しがプチトマトっていうのもまた気持ちよい。お昼なんだし、ここでひじきの煮物とか切り干し大根とか、そういうものが出てきたらちょっとサワヤカではないから。

「どはー、来たよ来たよ、馬刺し!」
もうこの頃は、独り言しゃべる余裕もなく馬刺しに武田の騎馬隊のごとくむしゃぶりついていっていた。
「ふひ。おいしいなあ。駅前の店だからまずくて高いだろという推測をしていた私が無知でごぜぇました、とってもおいしゅうございます。・・・あっ、すいませんビールもういっぱいお願いします」
結局、時間的塩梅によって普通列車で帰ることになった。食堂を出たときは、ビール2杯頂いたこともあってもう列車到着時刻が迫っている。
馬刺のうまさに感激した僕は、お土産に馬刺を買って帰ろうとして駅近くのスーパーに向かった・・・のだが、時計を見るともう間に合いそうにない。途中で断念して引き返す羽目になってしまった。
「おい、いいのか!塩山!というか俺!なんか今日は全部やりたいことを交通機関に阻害されているような気がするぞ!おーい!」

帰りの電車の中で、向かいの席に座っていたおばさんが「あんた、これ、これっ!」と寝ていた僕をたたき起こしてすねのあたりを指さした。その指の示す先を見ると、大きなカマキリが。
「お前は大菩薩から来たのか?それとも塩山からか?」と問いかけてみたけど、大将はカマを振り上げて僕を威嚇するだけだった。
「ふっ、大菩薩は最後まで大菩薩だったな」
と意味不明なコトバと共に、彼を外に逃がしてやった。決してうまくない飛び方で、彼はどこかへと飛んでいった。大菩薩に戻るのだろうか。
「嗚呼・・・もう、秋だな」
まだ日が高い空を見上げながら、季節の移り変わりを感じている僕であった。
(この項おわり)
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