2002年10月06日(日) 2日目
夜が明けた。外は、霧がかかっていた。
案外、「キリンテ」の地名の由来は本当に「霧」と関係があるのかもしれない。白樺の雑木林の中に、テントがぽつんぽつんと見える。
あらためてキャンプ場を見渡すと、今日はがら空きだったようだ。
朝7時なのに、もう既にライダー達の一人用テントは撤収され、跡形もなく消えていた。今日もどこかへ遠出するつもりなのだろう。
困ったのは、ここが谷間であり日が昇ってくるのが非常に遅いということだった。ただでさえ朝晩の寒暖の差が激しいこの季節、加えて早朝の霧ということもあって 夜露がひどい。森羅万象すべてが露でしめりまくり、我らがテントもその例外ではなかった。水に漬け込んだかのようにびしょぬれになっていた。
地面に広げて干そうとしても、地面がぬれているので意味がない。しょうがないので近くの木にひっかけてみたが、水がぼとぼとぼと・・・と生地からしたたり落ちた。雨が降ったわけでもないのに、ここまで濡れたのは初めてだ。
しばらくしてお天道様が昇ってきたが、林に阻まれてあまり力が無い。ここで乾燥させるのは無理だと断念。濡れたまま片づけるのはカビが生える原因となるのでやりたくないのだが、仕方がない。
お手洗い方面から、自分達が陣取ったテントサイトを眺める。左側の建造物は、水場だ。
このキャンプ場は、尾瀬がシーズンである夏は結構混むらしい。ちょうど尾瀬の入り口にあたる場所でもあるため、ここを拠点にして尾瀬に行くらしい。
朝御飯の準備。
これも、昨日の夕食を調達したお店で見繕ったのだがイマイチいいものが無かったのが事実。みそ汁と御飯でも作ればいいのだろうが、わざわざ朝食だけのために米を買ってくる事自体面倒なので却下。かといって、パンを食べるというのも味気ない。
・・・ということで、100円で売られていた鍋焼ききつねうどん&鍋焼きたぬきうどん。実はパン以上に味気ないのではないかという事に今こうして文章を書いていて気付いた。
開封してみると、きつねうどんはうどん玉と揚げ1/2切れ、薄っぺらいレンゲが入っているだけだった。たぬきうどんの方は、揚げのかわりに揚げ玉。
「ううむ、ネギとかの薬味が入っているかと思ったが、すこぶるシンプルだなこれは」
「100円だからな、あまりぜいたくはできんのだよ」
「しかし、こうして見るとカップラーメンってすごく豪華だよな、具がたくさん入っていて」
「あと50円ほど高くてもいいから、具が欲しいよなあ・・・。パッケージの具だくさんの写真にだまされた。これが『調理例』ってぇ奴か!」
もそもそとうどんを食べる。
昨晩、ビール1リットルとワイン1本を飲んだので、今朝は顔がむくんでしゃーない。
周囲のサワヤカな雰囲気とまったくマッチしない絵づらになってしまった。
今日はこのまま帰京するだけのスケジュールなので、のんびりと過ごすことができる。どうしようか、と地図を眺めているうちに木賊(とくさ)温泉なる場所が近くにあることを思い出した。顔がむくんでいるし、温泉に浸かって体をすっきりさせることにする。
木賊温泉は、檜枝岐から車で1時間もかからない距離にある。檜枝岐よりは野岩鉄道の会津高原駅より近いのだが、主要幹線道からは外れているので非常にマニアックな印象がある。だから、「秘湯」などと言われていたりする。
ここは、男女別の内湯設備「広瀬の湯」と、混浴露天風呂(とはいっても、屋根付きの半露天)の「共同浴場」がある。有名なのは露天風呂の方なので、われわれもそちらにお邪魔することにした。
とはいっても、観光俗化著しい場所ではないので、気の利いた駐車場がない。しゃーないので、集落の外れに路駐。
露天風呂は、谷底でまさしく川の側にある。谷底への階段入り口には、このような看板がかけられていた。
露天風呂共同浴場に入浴の方にお願い
この露天風呂は川の側に有りますため維持管理が大変でございます。誠に恐れ入りますが入浴料として200円以上御寄附下さる様お願いいたします。寄附料金所に有りますからその箱にいれてください。何卒ご協力をお願いいたします。 木賊部落
入湯料なんて、使わせていただく以上当たり前だと思うのだがこの木賊部落はえらく低姿勢なんである。「御寄付」であり、「恐れ入」っている。しかも、最後は「何卒」なんてコトバまで使っている。いえいえ、そんなに恐縮なさらなくっても。すいません、遠路からやってきた部外者がお邪魔させていただきます。
階段を1,2分ほど下っていくと、掘っ建て小屋が見えてきた。あれが木賊温泉の露天風呂。何でも、1998年の台風によって川が増水し、小屋を押し流してしまった事があるらしい。だから、今こうして見えている小屋は、数年前に再建されたもの、ということになる。
露天風呂じゃないぞ、これでは・・・と思うが、両脇と川側が開けているので、まあ半露天、という事だろう。湯船は、崖に沿って細長く配置されている。10人入ればいっぱい、といったところか。川に面した場所に脱衣用の棚が用意されているので、服を脱ぐときは湯船に尻を向ける事になる。ちょっと不思議な造りだ。
しかし、これだと女性の脱衣が不自由。ということで、入り口脇に物置小屋みたいなものが用意されていて、どうやらこいつが女性用脱衣所ということらしい。・・・本当か?中を確認しなかったが、端から見ると、本当に物置小屋にしか見えなかった。
午前10時前だというのに、温泉にはオッチャンたちがいっぱい。結構熱いお湯なので、河原に裸のまま出て涼んでいたりしている。全部で15名程度はいた。今や、「秘湯」というコトバは人が少ないという事と同義ではなくなってしまった。
無色透明の湯船に浸かっていると、ちょうど正面に川が見える構図になっている。これが非常に気持ちが良い。人が少なかったら、言うこと無しだ。人がいると、川の風情を楽しむつもりが服を脱着しているオッチャンの尻を眺めてしまう羽目になるからだ。
さすがにこれだけ人がいて、ちょっと狭めの造りだととてもじゃないが「混浴」といっても女性なんて入ってこれるわけがない。まあ、事実上の男湯だ。
・・・と思っていたら、あれれ、若い女性が2名やってきましたぞ。まだ20代そこそこのギャルだ。しかも結構可愛い。その瞬間、風呂場全体の空気がどよめいたのをおかでんは肌で実感した。コトバはなくても、雰囲気でわかる。
そりゃ、気持ちとしては分かるけどねえ、おいオッサンら、お前らもう少しさりげなく接しろよ。期待感ばりばりなのを表に出すのはやめろ。
ある人は、さっきまで風呂から上がろうとして体を拭いていたのに、なぜか風呂に入り直す。
ある人は、脱衣棚に置いてあった眼鏡を取りにいく。
ある人は、これで風呂から上がるよー、と言っていたのに、のぼせた体を冷ますためにか風呂から出て河原に涼みに行ってしまった。時間稼ぎか。
これらは、コトバを発さない「むっつりスケベ系」の態度。あともう1パターンあるのは、積極的に女の子に声をかけるオッサン。
「風呂入るの?いいよ、俺達気にしなくてもいいから」
・・・とはいっても、気にするわな。
「いえ・・・入りたいんですけど、ちょっと」
「大丈夫だって、脱衣所ほら、そこに女性用のがあるから。そこで着替えれば」
とはいっても、この場の雰囲気、それからお風呂の条件を考えるととてもじゃないが入れる状況ではない。
「バスタオルで体隠せば、問題ないでしょ、大丈夫大丈夫」
「いえ、バスタオル持ってきていないんですよ」
「え?そうなの?じゃ、水着とかは?」
「そういうの、邪道だってもう一人の連れに教えた事があるんで・・・そういうもの、持ってきていないんですよ」
凄い女性だ。どうやら、オッチャンたちの受け答えをしている女の子が主導権を持っている温泉好きらしく、もう一人の女の子はその友達に引きずられてやってきた模様だ。バスタオルや水着は邪道、というコトバに温泉内にいた一同「ほー」と感心する(もちろん声は出さない、我関せずの振りをしている。含おかでん)
「そうなんだー、じゃあ、顔だけタオルで隠して入ったら?どっちがどっちだか俺らわかんないでしょ、だったら大丈夫。自分自身も何も見えないから、恥ずかしくないし」
なんつー論理だ。オモロいけど、メチャメチャだ。オッチャンが言うと、すごく助平に聞こえるからオモロい発想を誉めるというよりもたんにエロくて駄目駄目。
「私は凄く入りたいんですけどねー、あともう一人の方が・・・」
と、積極的な女の子がもう一人のほうを振り向く。もう一人は、風呂場から離脱して河原で水遊びをしているようだ。とても入る気にはならないらしい。
しかし、この発言を聞いてがぜん風呂場内のオッチャンが盛り上がったのは言うまでもなく、「ひょっとしたら待っていると彼女たちが風呂に入ってくるかも?」という期待感が膨らんでくるのが手に取るように分かった。確かに、この会話がやりとりされてから10分、15分が経過しても、女の子たちは帰ろうとしない。いまいる男共が居なくなるのを待って入ろう、という心づもりなのだろう。
オッチャンが何人かがかりで、コンクリートの堤防に腰をかけている女の子を両脇から挟み込んで、「どこから来たの?」とかあれこれ質問攻めにしていた。そして、もう一人のオッチャンが「早くお前ら風呂から出ろ」という目で、風呂に浸かりっぱなしでゆで蛸になりかかっている男共を睨み付けていた。
おかでんは純粋にもう少し長湯したかったのだが、これ以上風呂に滞在し続けるのは、他のオッチャン同様エロガッパみたいなので風呂から上がることにした。
風呂から上がって、車に戻る。
「今頃になって、『あっ、忘れ物!』って言って風呂場に戻ったら、ちょうどあの女の子たち風呂に入っているのかなあ」
「そんな簡単にはいかんだろ、オッサン達はまだ居続けているだろうし」
まっすぐ帰京するのも面白くないので、鬼怒川経由で宇都宮から東北自動車道に合流することにした。
宇都宮で昼食といえば、やっぱり餃子を食べておきましょう、ということで宇都宮インター近くの「宇都宮餃子館」へ。それにしても、何というベタな名前だ。
あと、謎のマスコットキャラクターが気になる。アンパンマンなら頭があんパン、ならば宇都宮餃子のマスコットは頭を餃子にしてみました・・・という感じ。少なくとも食欲がこの姿でかきたてられるわけではなく、かといって可愛くもなく、非常に不思議なキャラだ。あと、なぜ胸に「K」と書かれているのかもわからない。餃子だったら「G」ではないのだろうか。まさか、ここは「ぎょうざ」と発音しないで「きょうざ」と発音する地方なのだろうか?
※後で調査したところ、このマスコットキャラは「健太くん」という名前であることが判明。だから「K」なのだった。
インター近くのお店ということもあって、駐車場が広く、しかもトイレも駐車場内に設置されていた。
そのトイレの壁には、「おいしさには理由があります」と題して、なぜ宇都宮餃子が旨いのかということを力説していた。曰く、栃木産のニラ、青森産のにんにく、嬬恋のキャベツ・・・なるほど。
そのうんちくはどーでも良いのだが、トイレの壁にこういうものを表示するという違和感がすこぶる楽しい。
あと、もう一つ付け加えると、こういう「素材に拘りました」ということを力説するお店って、その努力に見合っただけのおいしさを感じない事が多いような・・・。どきどき。
いや、味がどーのこーの言う前に、待たせすぎ。結局食事にありつくまで1時間以上待たされた。空席があっても、店員の数が少なすぎた。団体客用の食堂に人員を割かれたのか、それとも売上見込みを勘違いして、バイトの人員配置を間違えたか。いい加減うんざりしてしまった。
とりあえず席に通してくれりゃ、ビールでも飲んで時間を潰すんだけどこういう飲食店の鉄則として「空席があっても、店員が少ないときは中に入れちゃいかん」というのがあるので入れてもらえない。
お客の心理として、座席についたら「早く水持ってきてくれ」「早くオーダー聞きにきてくれ」「料理まだ?」と矢継ぎ早にいろいろ要望を出してくる。だから、店員がさばききれないときにむやみに客席にお客を通すと、お客が「いい加減にしろ!早くしろ!」と逆上してしまう。これを防ぐために、いくら空席があってもお客を外で待たせる。
という理屈を分かってはいるんだが、目の前に空席があるのに待たされている身としては相当忍耐力を要求される。
しかも、待合い席のすぐ脇にあるレジでは、会計を済ませたお客が「えーと、餃子の持ち帰りをやりたいんだけど。野菜餃子を○個と、舞茸餃子を○個と・・・」なんて個別に生餃子のオーダーをはじめるもんだからますます店員さんは忙しい。
ようやく座ることができて、われわれが注文したのは「焼き餃子」「蒸し餃子」「水餃子」がそれぞれ楽しめるというセット料理。これで800円だか900円。まあまあなお値段。味はおいしかったような気がしたけど、オペレーションの悪さが目立ってしまったので覚えていない。
しかし、宇都宮に来て、こういうチェーン店で食べるってあんまり意味がないような気がする。「餃子の王将」で食べるのと何の違いがあるんだ、と言ってしまえば身も蓋もないが、まあいいや。
この後、宇都宮ICから高速道路にのり、東京へと戻っていった。
山よし、温泉よし、食事良し、風情良し。檜枝岐方面はお奨めだ。
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