メニューすらないようなシンプルな店だが、テーブルには調味料がずらりと並んでいた。調味料でお好みの味に調整するのが台湾では一般的とはいえ、その種類は立派なものだ。瓶ごとテーブルにどん、と置いているあたりがやはり台灣風だ。日本では醤油差しなど、小さな容器に移し替えるものだが、そんなのは面倒、以上、というわけだ。大変に潔くて背筋がシャンとしました、ええ。
調味料、右から胡椒(これはなぜか小さな容器に移し替えている)、唐辛子の酢漬け、烏醋(ウスターソースみたいなもの)、辣椒醤、そして香菇素蠔油。
烏醋、一体何に使うんだ。麺にかけるのはちょっと冒険だと思うのだが。想像してみて欲しい、ウスターソースをラーメンにかけて食べるぜ、ということだ。うーむうーむ。揚げ物以外の用途がなかなか想像できん。でも、でかい瓶が据えてあるということは、消費量が多いのかもしれない。・・・考え過ぎか?消費量が多いから大きな瓶、なんて細かい事は考えていない可能性大。単に、瓶のサイズがこれしかなかったからそのまま卓上に置きました、という事かもしれん。
香醋と辣椒醤の瓶は、栓がついたままになっている。まだ未使用なのかしら、その割には結構歴戦を乗り越えてきた瓶に見えるが・・・と瓶の口を触ってびっくり。おい、べたつくぞ。
あわてて瓶の上を見ると、そこには缶切りで穴が開けられていた。なんだこれ。
「栓を開けると異物混入するかもしれない、だったら開栓しないで、小さく穴を開けてしまえ」という事なんだろう。いい加減だなあ。別の容器に移し替えろよなー。
それ以前に、いまだに重たい瓶、そして一度開けたら元に戻せない栓を採用しているメーカーも少しは考えろよ。ペットボトルで、何度でも開け閉めできるキャップにすればいいのに。
そんな中、「うちはプラスチックキャップでござい」と一人涼しい顔をしているのが、左端の「香菇素蠔油」。何、これ。「香菇」というのはシイタケだというのは何となくわかるのだが、それ以降がさっぱりわからない。
Fishが「素食の人のための調味料だよ」と教えてくれた。台灣には宗教上の理由で肉食を禁じている人が結構な割合いる。そのため、「素食(日本でいう精進料理のようなもの)」の店やメニューがあちこちにあるのだが、まさかこんな町中の小さな飲食店でもやっているとは。(実際は、麺のスープの出汁が何でとっているかわからんので、本当に素食になるかどうかは不明)。
素食の人って、調味料まで拘るんだな。
原料を見てみたら、黄豆、小麦、食鹽、砂糖、澱粉、水、香菇となっていた。食鹽とは塩のこと。これ、要するに醤油ですな。醤油だけど、砂糖や澱粉などが混じっているので、どろっとした甘い醤油になっているはず。味見はしなかった。一応現地では、「精進オイスターソース」という位置づけになるらしい。
机の脇にあるピンクのプラスチック製品。
メニュー立てにしては大きいし、何だろうという風体だが、これは箸袋を捨てる場所。ビニール製の箸袋はちょっと風が噴いただけで飛んでいってしまう。それを防ぐため、この装置にかちゃんとはめ込み、逃がさないようにするというものだ。なるほど生活の知恵だ。日本にもないのが不思議・・・と思ったが、日本の場合箸袋の多くは紙であり、うっすいビニールと違い飛んでいかないという事情がある。あと、扇風機がぶんぶん回っていたり、外の風がダイレクトに吹き込んでくるような飲食店は日本にはあまり多くないので、こういう「飛ばされないように」するものは必要ないのだろう。
おかでんが頼んだ、「幅広のビーフン」を使った麺。後でFishに聞いたら「粿仔條」というらしい。客家名物だよ、と言われて「へぇー」と感心することしきり。
見た目はベトナムのフォーと同じ。味ももちろん同じ。厳密に言えば違うのかもしれないが、分からなかった。
スープの味は忘れた。日本人の好みからすると、ややピンぼけな味、といえる。塩っ気が良くも悪くも足りず、そのため旨みが引き立っていないのだった。でも、健康を考えるとこの程度の塩分で良いと思う。
薄いとはいえ、チャーシュー(煮豚)が乗っているのがうれしい。ここは日本と同じなんだな。台灣でもチャーシュー乗ってたらちょっとうれしいんだな、きっと。
その他に青いのがトッピングされているので良く見たら、ネギとセロリとキャベツだった。意外なトッピングだ。セロリが結構クセが強いんじゃないかと思ったが、細かく刻まれているので全然気にならなかった。あっさりしているけど、おいしいいっぱいだ。
台灣の麺といえば、台南の担仔麺のようにすごく小さなお椀で出てくるイメージがあった。安いけど、小さい。食事の最後のシメに最適、という。しかし、ここのお店のは結構大ぶりで、日本の丼とサイズはほとんど一緒だった。
「あれれ」
Fishのところに届けられた麺は、全く様相が違っていた。スープがほとんどない。聞くと、「汁なし麺にした」とのこと。そういう選択肢もあったのか。
台灣には、スープ有りの「湯麺」と、スープ無しの「乾麺」があって、どちらかを選べるんだそうで。
この麺、具はおかでんのものと一緒だが、どろどろしたたれが底に沈んでいる。このたれを和えながら食べていくらしい。麺は幅広。
食べさせて貰ったが、麺もたれも口にあった。何だ、ラーメン系は日本の独断場であり、中国台灣の麺ってのはコシもなくいまいち、という思いこみがあったが、案外いけるではないか。この麺、どさくさに紛れてコシがあるぞ。もちろん、もちもちとかシコシコというものとは違うが。
たれは・・・ええと、沙茶醤的な味だったと記憶しているので、海老を出汁に使っている様子。
料理名をFishに問うと、「麻醤麺」だという。確かに少しピリ辛だったな。
なお、料理名だが、この店にはメニューがないために正確な名称かどうかはわからない。Fishに、「敢えて名前を付けるなら何?」と聞いて命名してもらったものなので、実際は違うかもしれない。
この二つの麺、いずれも30元(約96円)程度だった。
・・・と総括しようとしたら、おばちゃんがやってきて卓上に小椀を置いていった。中にはスープが。えっと、これは何?
「汁無し麺を頼むとスープがついてくる」
あ、そうですか。面白いな。日本の中華だと、炒飯や中華丼などのご飯ものを頼むと、スープがつく。それと同じ感覚なんだな。
またおばちゃんが何かを持ってきた。
ああ、滷味だ。
「何これ?」「麺だけだったらおなか空くかなと思って」
そんな台灣の地に、「ラーメンライス」という素晴らしい日本文化をぜひ教えてあげたい。あれは大層腹持ちが良い。しかし、炭水化物に炭水化物を合わせる文化は日本にしかなく、中国なり台灣の人というのは、そういう食べ方をしない。もちろん、餃子ライスもない。
滷味作るの、楽じゃなかろうに・・・ご飯炊いた方が安くて楽だぞ、と思うが、それは日本人的発想ならでは。
出てきた滷味は3品で、昆布と玉子(滷蛋)、として豆腐(豆乾)だった。その上にどろっとしたたれがかかっている。豆乾は、豆腐を押し固めて感想させたものだそうで、食感はかまぼこみたいになっている。これ、酒の肴にもちょっとした料理の具にも、いろいろ利用できそうだ。日本でも普及しないかな。
店を後にする。まだ13時半だが、Fishは15時のベルーガショーが気になって仕方がない。「早く海洋生物博物館に戻ろう」とワクワクテカテカしながら言う。まだ1時間半あるぜ、その前にどっか立ち寄ってもいいんじゃないか。「いや、行列ができるから早く並ばないと」・・・はあ、そうですか。
海洋生物博物館に戻る途中、ふと思った事があったので聞いてみた。
「そういや、恆春って玉ねぎが名産なのに、玉ねぎを見かけないなあ。売っているのを見ないし、昨晩の食事だって玉ねぎは出てこなかった」
「売っているところはたくさんあるよ?道路走っていたらあちこちにある」
「あったっけ。檳榔売りの露天しか見た記憶がない」
そんな会話をしながらスクーターで進んでいくと、ありゃりゃ、本当にあった!玉ねぎ露天商があった!日本同様、赤色のネットに詰め込まれた玉ねぎが山積み!ここは玉ねぎ卸売り市場か、というくらいどっさりだ。
「あったねえ」
「あったでしょ?」
そうこうするうちに、またもや玉ねぎ屋が。「わっ、また玉ねぎだ!」
慌ててカメラを取り出す。二ケツのスクーターの後ろで、デジカメ持ってゴソゴソやっているので大変に危ない。万が一落車して怪我でもしたら、地元民に末永く物笑いにされるだろう。
「日本から来た観光客が、玉ねぎ屋を見て興奮してスクーターから落っこちたってよ」
「何だい、日本には玉ねぎが無いのかい?」
「さあ?しらねえなあ。がはは」
なんて言われるに違いない。それだけはイヤだ。
なお、売られている玉ねぎだが、どれも一袋がばかでかい。大人の男性の胴体くらいはある袋だ。一人暮らしの人だと消費しきるのは無理だ。プロ用途かと思うくらい、多い。でも、現地の人はこの量をなんなく使い切ってしまうのだろうな。凄いことだ。
国立海洋生物博物館に戻ってきた。ブラックライトで手の平の再入場スタンプを確認したのち、施設に入る。
途中、軽食コーナーがあったのだが、そこにはセイロがたくさん並んでいた。飲茶ビュッフェだ。セイロから好きな小吃を取り、お会計する仕組み。「へえーいいなーいいなー」と感心し、思わず写真撮影。ただ、おかでんが「いいなー」と言っているのは、「酒飲みにはたまらんなあ」という意味あいが強い。
でもこうやって並べられていたら、すぐに料理が乾燥するのではないかと思う。そこはさすが手慣れたもので、このセイロが置かれている下から蒸気が出るようになっているようだ。
おかでんが立ち止まっているのに気付かず、先に進んでいたFishが怪訝な顔をして戻ってきた。
「Fishよ、こういう写真を撮っているおかでんが不思議に見えるだろう」
「うん、見える」
「でもね、日本人からしたらこういうのが面白いのだよ」
と教えておいた。しかし、わざわざ写真を撮るような日本人はあんまりいないと思うが。
こちらの軽食コーナーにも視線釘付け。
釘付けもなにも、150センチはあろうかというでかいパネルに、ヤクルトが。水族館でヤクルト売っているの、初めて見たぞ。
そして、ヤクルトって漢字で書くと「養楽多」となることを初めて知った。
これだけデカいヤクルト看板だが、お店のカウンターを見ると星条旗が。可口可楽(コカコーラ)を中心に売っている店らしい。
ジュースサーバがカウンター内には見えるが、その脇になぜかコカコーラのペットボトルが並んでいるのが気になる。どういう事だろう。
メニューにある「奶油焦糖爆米花」は何だろうと思ってしばらく店内を物色してみたら、ポップコーンのことを意味している事を悟った。なるほど、漢字で書くとそうなるのか。でも、水族館でお魚見ながらポップコーンってあんまり日本じゃ見かけない光景だな。
そして設問はもう一つ。「美國超大熱狗」って何だ。
「美國」はアメリカのこと。そして残りは・・・ホットドッグかな、と思ったら、微妙に外れ。これ、アメリカンドッグだった。
グッズ売り場の前に、ぽつんとバケツが置いてあった。
その中には白い鯨のおもちゃが入っていて、時々泳いではぴゅーっと水を噴き上げていた。「噴水鯨魚」というらしい。
うかつに「わーかわいいー」と近づくと、思いっきり水をひっかけられるので注意。
ベルーガショーが行われるプールの入口には、既に長蛇の列。開演40分前だというのに大変な人気だ。
みんな大人しく行列を作っている。台灣の人は行列耐性があるらしい。国によっては行列が苦痛でかなわんところもあるようだが、この国の人はじっと待っていた。
開場。全力疾走でナイスポジションの争奪戦になるかと思ったが、そういうみっともない事は無かった。はやる気持ちを抑えつつ、やや早足で席を確保。台灣の人は恥と外聞をわきまえている国民性だった。
・・・なんて人間観察をしていたら、われわれは最前席の席となった。ベルーガに一番近くて良いなんて最初は思ったが、後になってみると手すりが邪魔して若干見にくい場所だった。少々遠くても、ひな壇の後ろで高い位置の方が見やすいことを勉強。
開演時間になると、司会進行役のおねーさんが出てきてなにやら観客を煽る。前説をしているのか、それとも注意事項を説明しているのかはよく分からない。
ひととおりなにやら北京語による話が終わったところで、「それ、イー!アー!イー!アー!」となにやらかけ声をかけ始めた。観客全員も、それにあわせて「イー!アー!」と叫ぶ(イー=1、アー(アル)=2の意味。いちに、いちにと声を合わせている)。
すると、イケメンのおにーさん二人が登場してきた。調教師・・・と呼ぶにはイケすぎているが、ここの水族館はビジュアルで職員を採用でもしているんか。それとも、ショー要員としてイケてる人を雇っているのか。
そんなイケてる二人だが、大型ディスプレイには「○○老師」と紹介されており、なんだか年寄りのようだ。中国語では日本語で言う「先生」のことを「老師」という。ちなみに中国語の「先生」は「○○さん」という敬称の意味。
ベルーガは他のイルカや鯨と違って首が動くため、頷いたり首を横に振るといったお茶目な行動ができる。賢いこともあって、老師の笛や手の合図で面白いようにいろいろな動きをしてくれた。よくやるなあ。
こういうショーを見るにつけ思うのだが、一体どういうモチベーションで動物自身は動いているのだろう。もちろん、指示通り動けばご褒美の餌が貰えるわけだが、餌欲しさに動くほど、空腹で逼迫しているとも思えない。よっぽど調教師との信頼関係ができているのだろう。
ベルーガに関するクイズがあったり(正解・不正解はベルーガが首を振って判定)、プレゼント企画があったりするうちに、「イー!アー!」のおねーさんがなにやら人を募集しはじめた。数名、前に出てきて欲しいらしい。
「おかでん、行ってきて!」
Fishがわくわくしながらリクエストしてくる。
「やだよ、何が始まるのかさっぱりわからん、何だ何だ」
人数が集まったところで、なにやら音楽が流れ始めた。
どうやら、「ベルーガと一緒にダンスしましょう」という企画らしい。
音楽にあわせてベルーガがくるくる回る・・・のだが、実際は調教師のイケメンの指示に従っているわけで・・・それを見た志願兵たちがへろへろと回っていた。
「うわ、挙手しなくて良かった。薄ら寒いぞ、これ。ベルーガと踊ろう、というより調教師と踊ろうではないか」
まあそんな企画もありながら、約30分のショーは終わった。面白いショーでござんした。
ベルーガショーが終わったところで、まだこの施設の中で見ていないところを見て回る。まだ全体の1/3しか見ていないから、先は長い。
まずは「台灣水生館」に行く。台灣に生息している生き物を紹介している専門の建物だ。
魚の紹介の中に、「日本禿頭鯊」というのを発見した。一体どうしてこういうネーミングになってしまったのだろう。「鯊」は、「はぜ」の事。
多分、「日本禿頭」の「鯊」なのではなく、「日本」の「禿頭鯊」という文節に区切るのが正解なんだと思う。そうでなければ、日本人独特のハゲ面っていうのがあると台灣では認識されているとういことになる。・・・波平の頭だろうか。てっぺんに毛が一本。
「台灣養殖業的奇蹟」と銘打って、養殖されている魚が紹介されていた。
確かに、台北から恆春にくるまでに養殖いけすをたくさん見かけたな。
もともと中国では草魚などの淡水魚を空いている田んぼで養殖する事が盛んだったが、台灣では鰻や海老などの養殖も積極的だ。説明書きを見ると、伊勢海老や蟹まで養殖されているらしい。
Fishが指さす先には、「虱目魚」と記された魚の絵があった。あ、確かにそうだ、一匹丸ごとは昨日見ていないが、この胴体の感じ、まさにサバヒーだ。そうか、漢字で書くと「虱目魚」なんだな。シラミの目の魚・・・って、あんまり気持ちの良い物ではないが。でも、英語になるとmilk fishとなるそうで、これだとなんだかうまそうだ。なぜ「ミルク」なのかは不明だが。外見が真っ白なのと、中も白身だからだろう。
サバヒーは「国姓魚」(台灣建国の父、鄭成功にちなんだ名前)と呼ばれるくらいポピュラーかつ愛されている魚だそうで、台灣における水産物養殖の代表格。特に台灣南部で養殖が盛んで、サバヒーを食べるなら南部へ来い、と言うことになる。
養殖だけど足が早い魚で、朝収穫された魚は昼までに食べるのが一般的だという。朝収穫するのは、サバヒーがご飯を食べる際に海底の泥を吸い込んで味が落ちるから。まだサバヒーが眠っている深夜に奇襲をかけ、泥くさくないうちに捕まえてしまう。そのため、朝からヨーイドンでどんどん鮮度が落ちていく。もっとも、最近は冷蔵技術が優れているから1日くらいは余裕で保つとは思うが。台南には24時間営業のサバヒー粥専門店があるというから驚きだ。そんなにサバヒーを愛しているのか。
やはり身がぱさつくのと、骨が多いと感じるのは誰しも一緒のようで、専らすり身にして団子スープにしてしまうか、細かく切って粥の具にしてしまうのが相場だという。
うーん、そういう解説を聞くにつれて、もう一度サバヒーを食べてみたくなったぞ。何度食べても、日本人の口にはあわんと思うが、せめて「台灣人の口にあう、一番のサバヒー」の味を確認してみたい。次回訪台時への申し送り事項だな。
前方に修学旅行生の人だかりができていたので、何かと思ったら、浅瀬に棲む生き物たちを触ってみようコーナーだった。
ウニ、イクラ、トロ、穴子などがずらりと並び
すんませんうそつきました。ウニは事実だけど、それ以降はヒトデ、ナマコ、サザエなどが「ほっといてくれ、もうわしゃ疲れた」という風情で水槽に沈んでいた。いい歳をした大人だが、ヒトデを触って「おおおぅ」と思わずエロい顔になる。周りを見渡すと、みんな一様にエロい顔だった。何でそういう顔になってしまうのだろう。
なお、「触るのはオッケーだけど、持ち上げたりするのはダメ」なんだそうで、その点注意。施設の職員がつきっきりで水槽の横にいて、「持ち上げちゃダメー」と指摘していた。
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