おもてなし三昧な世界【台湾南部滞在】

注文票に記載

お店にある座席に座り、早速卓上の注文票に記載をする。台灣のB級グルメ店舗はこのスタイルをとるところがおおい。言葉が通じなくても、「これください」と印を付ければよいので、楽だ。ただし、漢字のメニューは思ったよりも理解しづらく、悶々としてしまう。

メニューを個別に紹介すると長くなるのでやめておくが、小さな店舗なのに幅広い。汁物、炒めもの、ご飯もの、揚げ物など様々だ。日本だと、「ウチはこれ一本で勝負してます」というのが格好いい飲食店とされるが(例:ラーメン店)、台灣の場合は、手広く料理を提供できる店こそよいお店とされるそうだ。

メニューには啤酒もあった。40元。周囲を見ると飲んでいる人は皆無だったが、一応用意はしている店もあるということだ。日本人観光客仕様だろうか。

「人手不足なので、料金は先払いにしてね」という記述がある。注文票を店員さんに渡すと同時に、お金も払う。

・・・またJennyが払っちゃったよ。おいおい、一体いつになったら僕が割り勘できるんだ。

大雞排

蚵仔煎ができるまでの間、先ほど購入してきた大雞排をいただくことにする。

ビニール袋から取り出してみると、本当にデカい。事前知識があっても驚愕するくらいだから、いきなりこれを見た人は相当にびっくりするだろう。

多分、おかでんの顔の大きさくらいはあるんじゃないか。

でもこれ、一体誰が・どうやって食べるんだ?デカすぎて、一度に食べると飽きるしおなかいっぱいだ。モノには限度というものがあるだろう。日本では売れない代物だな。特にチキンカツってカロリーが相当に高い。ヘルシー指向になりつつある日本だと、とてつもないジャンクフード扱いになる。

とはいえ、Fishは「あれくれい一人で食べられるよ」と豪語していた。小柄な女性なのにどういうことだ。「あのチキンカツを食べたあと、別の店でも食べる。」なんて言う。えええ、マジっすか。

大雞排断面図

紙カツ、という料理があるのをご存じだろうか。ニュートーキョーや銀座ライオンなどのビアホールで食す事ができる名物料理だ。これは、豚肉を紙のように薄くし、それをカツにしたものだ。巨大だけど、それほど量は多くない。薄いが故にサクサクしており、ビールのおつまみに最高だ。

今回の大雞排も、その類だと思っていた。しかし、一口噛んでみて愕然。相当分厚いではないか。

デカくて、分厚い。これを「巨大」と呼ばずしてなんと呼ぶ。おいFishちょっと出てこい。これ1枚食べるのはおかでんでもしんどいぞ。

後日、写真を突きつけてFishを問い詰めたところ「あれー、昔よりも分厚くなったような気がする」と言っていた。ホントか?

Jennyが、「無理して食べなくてもいいよ。残ったら私が持って帰って、明日会社でお昼ご飯にするから」と言ってきた。そこで、一口二口食べた時点でもうやめておいた。さすがに満腹感が既に襲ってきている。

それにしても、こんな巨大チキンカツをお昼ご飯にするというのはちょいとしんどいと思うんだが、大丈夫だったのだろうか、Jenny。

蚵仔煎
蚵仔煎を箸で切る

蚵仔煎到着。

オアチェン、とカタカナで書いているが、人によっては「オアジェン」だったり「オアゼン」だったり「ウアゼン」「オーアージェン」だったりと表記がまちまちだ。それだけ台灣の言葉は、日本語の発音と構造が違うということだ。しっくりマッチする日本語が存在しない。

なお、「オアチェン」というのは台灣語であり、北京語ではない。基本的に北京語が日常会話言語である台北ではあるが、料理ではところどころ台灣語由来のネーミングが見られて面白い。

例えば、台湾人熱愛のスイーツ「愛玉子」は日本では一般に「オーギョーチー」と言うが、これも台灣語。北京語だと、「アイユゥツ」になる。

紛らわしいのが、「坦仔麺」。台灣名物の麺だが、台灣語で「ターミー」と言い、北京語では「ダンツーミェン」という。その両方が日本では混在して使われるので、つい最近まで全く違う料理だと思っていた。もともとは台灣語の「ターミー」なのだが、それを強引に漢字に当てはめてみて、なおかつそれを北京語読みにしたら「ダンツー」になった、ということらしい。台灣語には文字が存在しないため、筆記しようとするとこういう漢字での読み替えが発生し、ややこしいことになる。

さてこの蚵仔煎、作り方はシンプルだ。油を塗った鉄板に玉子を落とし、そこに小降りの牡蛎を入れ、白菜かレタスか何だかわからん葉っぱを入れ、水溶きデンプン(片栗粉か、さつまいも粉)で固める。それを盛りつけて、上に台灣風スイートチリソースである「甜不辣醤」をかけて完成。

日本人には馴染みのない甘ったるいソース(しかも、「テンプラじゃん」という名前が面白い)と、デンプン独特のグミグミした食感は賛否両論あるところだ。

中を割ってみると、小さな牡蛎がいっぱい入っている。日本に店を構える台湾料理店のご主人に聞いてみたところ、この小さな牡蛎は日本では採れないため、シンプルな料理だけど日本での提供は難しいそうだ。確かに、日本の牡蛎は巨大だ。

食べると、餅のできそこないのような、もっちり感がある。ああ、これも台灣人が好きな「Q的」な料理なのだな、と思った。

日本人だったら、生玉子に抵抗がない。だから、デンプンで固めるようなことはせず、半熟状態で出すはずだ。しかし、台灣の人は生玉子は受け付けない。だから、このように意図的にもっちり感を演出したのだと思う。食文化が産んだ、知恵だ。

Fishは来日して結構長く、今では刺身も納豆も食べることはできる。しかし、生玉子だけは絶対に受け付けない。「玉子かけご飯(TKG)」なんて最高だと思うのだが、生理的にアウトらしい。まあ、食習慣ってのはそんなもんだ。そう簡単に変わるわけがない。だから、Fishの拒絶反応を笑うことはできない。われわれだって、故郷の味噌の味が一番美味いと思っているのと一緒だ。

なお、「甜不辣醤」は「不辣」と記されているように、辛さはない。甘辛になったものは「甜辣醤」という。

醇香烏酢

卓上に、「ほら!僕の名前を読んで!」と言わんがばかりの調味料入れwith名札、というのがあった。「醇香烏酢」と書いてある。何だろう。

試しに、お皿の片隅に垂らして舐めてみる。・・・あ、これ、ウスターソースだ。ウスターソースってこういう字を書くのか。それにしてもこれ、一体何の料理に使うのだろう。後日、日本の台灣料理店でもウスターソースを見かけたので、「?」と思った。日本だったら、揚げ物メインの使われ方の調味料だ。臭豆腐にでもかけるのか?

それよりも「?」なのは、このソースの写真を見たFishが「黒酢だね」と言った事だ。

な、なんだってー。

おい、黒酢はあんまりだろう。黒酢ってのは、蒸し米と、米こうじと、水を壺の中に入れて熟成させたもののことだ。これ、明らかに野菜とか果物などいろいろ混じってるぞ。

でもFishは続けて言う。「中国の黒酢は台灣のとちょっと違うね。あっちはクセが強い」と。どうやら、台灣の「黒酢」が違うものである、ということは認識しているようだ。

[後日談]
2009年3月18日付日本経済新聞朝刊に、黒酢を作っている坂本醸造を紹介する特集記事が組まれていた。それによると、もともとは「壺酢」と呼んでいたらしいのだが、1975年に5代目の坂本昭夫氏が「黒酢」と命名し、それが日本に定着したとのこと。

転じて、本場中国の黒酢は山西省が最大の産地であり、コーリャンや大麦も使用して作るという。なるほど、だから中国の黒酢はもの凄いクセのある味なわけか。以前、安かったので一瓶買ったまでは良かったが、使い切るのに大層難儀した。

そして台灣では、ウスターソースに相当するものを「黒酢」とみなす。

結局、「色が黒い酢」の総称が「黒酢」であり、国によってそれが意味する中身は別々だということらしい。

犬が闊歩する夜市


蚵仔煎を食べ終わったので、店を後にする。

既に時刻は23時30分近くなっており、さすがに人の数はやや減ってきた感じ。

それをいいことに、美食広場の中だというのに犬が走り回っていた。何だ何だ。

野良犬かと思ったが、首には鎖の首輪が付けられていた。飼い犬らしい。

誰だ、飲食店の中で犬飼ってる奴は。

こんなのが許されるんだから、台灣はおおらかだ。日本よりも温暖な気候ゆえ、衛生管理には特に気をつけるべきだと思うのだが。・・・というのは日本人的発想なんだろうな。「別に犬がいたくらいじゃ、病気になりゃしないよ」というのが台灣人的発想だろう。

射的屋台

美食広場を後にする。

次が食べ歩き最後の場所となる、薬膳のお店だ。

先ほど安否を気遣ったFishからおかでん宛にTELがあり、そこでJenny-Fish間でミーティングが行われたのであった。その結果、薬膳で締めるのがよろしかろうというご提案を頂戴した次第。それは大変興味深いので即座に了承したのだった。

ついでにFishからありがたいやら恐れ多いやらの申し出も受け取った。「明日、萬巒に行くなら屏東まで迎えに行き、同行する」というものだった。Fishがいる恆春から屏東まで車で1時間半くらいかかる距離。とてもじゃないが「迎えに行く」距離ではない。歓迎光臨しすぎだってば。でも、交通手段はどうするというのだろう。聞くと、「弟が車を運転してくるので、それで移動しよう」という。なんと、いよいよFish弟まで動員か。何だか怖くなってきたぞ。そろそろ、台灣流おもてなし文化炸裂の予感。

以前、台湾風という本を読んだことがある。台湾に嫁いだ日本人女性著者からみた、台灣文化の紹介本。それを読むと、台灣の人づきあいは「家族」がすぐ登場することがわかる。日本人のつきあいとは全く発想が異なる。

既に、高雄のFish妹宅に一泊させて貰う、という点でFish(友人)の家族が登場しているわけだが、これはFishがFish妹宅に寄宿するのに同伴させて貰う立場だ。

しかし、今回の申し出は、わざわざおかでんを迎えに、片道1時間半かけて、弟が車を運転して迎えにくるというのだ。そこまでしてくれるのか。

弟にそのような「日本人的発想からすればむちゃなリクエスト」をするFishもFishだが、それをあっさりと承ってしまうFish弟も弟だ。それが自然体なのだろう。恐縮の域を越え、あぜんとするしかない。

この辺りの話はまた翌日にするとして、とりあえずは目線を街に戻す。ぼんやりしていたら、人とぶつかる。

士林夜市は飲食店とワカモノ向けショップばかりではない。昔なつかしい、スマートボールや射的もある。

射的は、日本のようにコルクの弾を銃身に詰めて発射するタイプではない。エアガンでBB弾を撃ち、膨らませた風船を割る。規定弾数のうち何個割れたかで、景品が決まるというものだ。BB弾が出る銃が置いてあるなんて、日本だと多分警察から指導が入ると思うが台灣的にはOKらしい。

拳銃型の銃が多い中、一つだけM16があったのが面白かった。明らかに銃身が長く、弾道が安定するし風船に近づけるし、圧倒的に有利じゃないか。この辺りのおおらかさが面白い。

Jennyから「やってみたら?」とさんざん勧められたが、貰ってもうれしくない景品を抱えて帰国するのは荷物になるだけなのでやめておいた。

いけすがある屋台

屋台といっても侮れない。

中には立派なものもあった。写真に写っているのは、活きた海老がいるいけすがある屋台。海老をその場でとっつかまえて調理してくれるらしい。海老は結構大きい。

メニュー札を見ると、「インドカレー」「黒胡椒」「日本式のり」「七味唐辛子」「タイ式レモン」「にんにく」などいろいろある。

ただ、お値段はそれなりにする。セットメニューにすると、400元~600元くらいの価格帯になっている。つまり、2000円弱の値段というわけで、屋台として、特に台灣屋台としては信じられない高値になっている。こういう高級屋台もあるんだね。

順来十全排骨

じばらく通り沿いを歩いていったところに、目指すお店はあった。夜市からは僅かに外れている場所だ。看板には「正牌老店 順来十全排骨」と記されていた。

なんでも、学生時代JennyとFishは夜市遊びの締めでこのお店を使っていたという。

あれ、でも待て。「排骨」?要するに骨付きあばら肉の事だよな。排骨飯(麺)とかいったものを想像するんですが、今更こってり系なの?しかもそれが薬膳?えーと、想像がつかないんですが。これから行く店は薬膳だとばかり思っていたけど、違ったかな。Jennyとは完璧な意志疎通ができていないので、勘違いしたかもしれない。

壺のような鍋がずらりと並んでいた

店頭には、なにやら独特の形状をした壺のような鍋がずらりと並んでいた。

おお、やっぱり薬膳っぽいぞ。なんだか楽しみになってきた。

店内の様子

店内の様子。

繁盛店ということで、週末になると混雑するらしいがさすがに今日は月曜日、しかも深夜だ。客足はまばら。

美食広場の方にも、十全排骨の店があるらしく(全くの別店舗)、観光客がもっぱら立ち寄るのはそちらの方。こちらの店がセレクトされたのは、さすが地元民の情報力ということになる。観光ガイドには多分掲載されていないと思う。

基本的に円卓しか店内には無いところが特徴といえる。少人数での来店に配慮し、カウンター席や二人掛け席を作るのに腐心する日本とは大違いだ。お一人様での来訪だと、多分円卓で赤の他人とニーハオ状態になる。それが許容されるのがこの国の人付き合いということになるのだろう。

セルフで小皿など持っていく

店内入ってすぐのところに、調味料他が置かれてあった。箸と、レンゲと、調味料用の小さな皿。箸とレンゲはどこのB級グルメ飲食店でおなじみのスタイル。箸はプラスチック製で、透明なビニール袋に入っている。使い捨てとは思えない質感なので再利用されているのだろう。しかし、レンゲはさすがに使い捨てっぽい。ぺらっぺらな薄さだからだ。スープを入れただけで不安定だというのに、小籠包のような重いものを載せたら相当バランスが悪くなりそうだ。持ち手の部分が危険。もう、これ以上薄くできませんという限界に挑戦したかのような薄さだ。

箸がリサイクル(?詳細不明)で、レンゲが使い捨てというこの使い分けがよくわからない。あと、箸がわざわざビニール袋に入っている理由もよくわからない。清潔さを主張したいなら、レンゲも袋入りであるべきだし、レンゲが剥きだしでもOKならば箸も剥きだしでOKではないか、と思うのだが・・・。

調味料

調味料は、詳細不明ではあるが、ごまだれと醤油だれっぽい。

なんかよくわからんが、調味料や箸なんかは自分でとってねー、というセルフサービスのお願いをしているようだ。そういえば、各テーブルには箸立ても調味料も一切ない。

ナマズさん

壁いっぱいにメニュー看板が掲げられていた。

一番に目を引くのは、ナマズさんのお姿。地震が起きそうだ。その横には「土虱」と書いてある。どうやら日本ではナマズを「鯰」と書くが、こっちの国では「土虱」と書くらしい。すごいネーミングだ。「虱」って、訓読みすると「しらみ」だぞ。害虫のようなイメージを抱いてしまう。どうしてこういう言葉のズレが生じているのか、とても興味深い。

この店はひょっとしたらとんでもないものを食わせる店ではあるまいか、と一瞬危惧したが、ナマズさんの絵の後に続くメニューは魯肉飯、鶏肉飯、蚵仔煎、香味麺線・・・と続き、至って普通。別にゲテモノ屋というわけではなさそうだ。

注文票

このお店も、他のお店の例に漏れず注文票がテーブル上に置いてあった。

相変わらず素晴らしい品そろえで感心する。麺類、炒め物、ご飯もの、なんでもござれだ。一体台灣のお店はどうやって食材の在庫管理をしているのか、人ごとながら心配してしまう。これだけ多種多様な料理を提供しようとすると、それなりに食材をスタンバイしなければならないわけで、食材廃棄のリスクを背負うことになる。まあ、でも台灣人の気質を考えると、非常に厳格に在庫管理をしているとは到底思えない。台灣の料理は原則火を通して調理されるので、生ものを出す日本と比べて鮮度管理が甘くても良いのかもしれない。

そうだとしても、多様な食材を確保するためのキャッシュは必要なわけであり、それなりの回転資金がないと営業できないとも言える。感心させられる。

しかし、よくメニューを見ると、結構同じ食材のバリエーションでメニュー数が増えているということは伺える。麺有り・無しで2バージョン。さらに肉の違いで数種類。あっというまに10種類くらいのメニューは作れてしまうというわけだ。

このお店の注文票のトップを飾るのは、「十全土虱 70元」だった。先頭に来るということは、看板メニューなのだと思う。やっぱりナマズさんここでも登場ですか。この「十全土虱」に10元足したら、麺線付きのものになる。同様に鶏肉、羊肉、排骨などが「十全」シリーズであった。

「十全って何?」と聞いたら、Jennyはメモ帳に筆談で「十全=all=薬膳」と書いた。なるほど、そういうことか。いろんなものが入ってますよ、という事を指して、「十全」というらしい。

Jennyは迷わず、「十全排骨」の欄にしるしを付け、店員さんに提出した。「何で排骨にしたの?ナマズが目立つメニューだけど?」と聞いたら、「このお店は十全排骨の元祖だから」ということだった。なるほど、そういえば店名が「順来十全排骨」だったな。それにしても薬膳でスペアリブって一体どういう料理なんだろう。

十全排骨

一連のJennyとのやりとりは、ほとんどカタコト英語で済ませた。訪台前は大枚はたいて購入した電子辞書の活躍に期待していたのだが、全く出番無し。

そもそも、夜市を歩きながら電子辞書を使うのは無理だ。とっさに自分の思ったことや意向を伝えるのには、全く不向きな機械だ。そもそも、電子辞書に収用されている事例集は「○○をください」などといった「店員対俺様」のシチュエーションが多い。友人との日常会話で使える事例があまりないのであった。

では筆談で、となるわけだが、筆談も夜市散策中にできることではない。結局、こうしてお店に入って一段落した時点でようやく筆談ができるのだった。「漢字圏だと筆談できればある程度言葉が通じる」というのは真実だが、あまり過信しては駄目だ。

特に、いざ筆談しようとすると自分が漢字をど忘れしている事に気付き愕然とする。日常、あまりにPCでのタイピングに慣れてしまっているからだ。漢字を忘れたのでひらがなで許して、とかローマ字で、なんて代替がきかないので辛い。

筆談を交えてやりとりしていたら、高雄で一泊すると聞いたJennyは「愛河」と「Coffee」とメモ帳に記述した。高雄には愛河という運河があるが、そこの川岸のカフェでコーヒーを飲むのが大層よろしいそうだ。その他、いろいろやりとりがあったが、いちいち書いているときりがないので割愛。

そうこうしているうちに、到着したのが十全排骨。かき氷でも入れるかのような紙カップに、黒いスープ、そしてたくさんの骨付き肉だ。この黒さが、いかにも「漢方」な感じがする。あ、いや、漢方って何だか正直よく知らないんですけどね。

それにしても無骨だ。彩りの薬味もなにもない。黒いスープ、骨付き肉、以上。これが「十全」とまで称する漢方だというのか。にわかには信じられないが、見たことがない料理なので楽しみだ。

十全排骨

さっそく、その名物とやらの十全排骨を頂く事にする。

ええと、調味料を入れる小さい器はあるんですが、取り皿に相当するもの、もしくは骨を捨てる器がないんですが。これはどうしろと?

Jennyが店員さんのところに行って、かけあってくれてプラスチックの小皿をもらってきてくれた。

排骨を食べてみる。・・・むう、この手の骨付き肉料理って濃厚な味を想定することに慣れ親しんでしまっているため、この薄味はちょっと意外だった。どんな味かって?いや、表現できない。何しろ、「十全」だもの。日本語で適切な言葉が見あたらないし、あったとしても混然としていてうまく表現できないと思う。ただ、肉料理として考えると物足りなさを覚える味だった。

肉は全部取り出す
漢方スープ

Jennyは、筆談と英語を使って「肉は全部取り出すんだよ」と指示してくれた。

ん?肉、スープから引き出しちゃうの?

Jennyの様子を見ていたら、次々と排骨をスープから引き上げ、取り皿に積み上げていった。器に残ったのは、「単なる黒いスープ」。葱などの薬味すら、入っていない。ただひたすら、黒い。

どういうことだろう、と首をひねっていたら、Jennyはメモ帳に「湯底=中薬」と書いた。ますますわからん。スープの底は中の薬?なんの謎かけだ。

後で知ったのだが、日本では「漢方」というが、そのことを本場中国では「中薬」と言うらしい。要するに、漢方として楽しむべき本体はスープであり、肉ではないのである、といいたいらしい。危ない。普段ラーメンを食べている感覚で、「麺を食べたらスープを飲まない」ように「排骨だけ食べてスープはほとんど飲まない」で終わりにするところだった。

Jennyは続けて、「肉は食べなくてもいいから」とまで言う。せっかくの排骨なのに、そこまで扱いが低いんですか。

ただこれは、意志疎通が正確にできていないからおかでんが困惑しているという側面もある。Jennyが「肉は食べる価値はあまりない」と言っているのか、「もう既にいろいろ食べておなかいっぱいでしょ?だったらスープを優先させるべきで、肉は余裕があったら程度で構わない」と言っているのか、どっちかまでは判別つかなかった。

ありがたくスープを頂く。うん、中薬です。とはいえ、苦いだとか渋いといった、大正漢方胃腸薬的なものではない。ちゃんとした料理であるだけあって、何ら問題のない無難な味に仕上がっている。中薬を名乗る以上、それなりにクセのある食材を使っているはずであり、「無難に仕上げた」時点でご立派と言えるのかもしれない。よくわからないけど。

体へ配慮したのか、味つけは薄味。前述の通り、肉を食べるには物足りない。とはいえ、体を労るのが目的と考えればこれくらいがちょうど良いと思う。

24時の夜市

既に時刻は24時。

もう一度、今まで通ってきた夜市の通りをざっと回ってみる。
違法路上店舗はほぼ居なくなり、飲食屋台も店じまいを始めているところが多い。Jenny曰く、週末はもっと夜遅くまで活気があり、店が開いているそうだが今日は平日なので夜が早いのだそうだ。

とはいえ、まだまだ何事もなかったかのように開いているお店は多い。固定店舗を構えているところは、大抵お店を開けていた。一体この店の人たちの生活リズムはどうなっているんだろう。

この時間だと、ゆっくりとお店を見て回る事ができる。一番混んでいる22時頃に士林夜市にやってきて、飲食店屋台を見て食べて賑やかさを体感し、その後24時過ぎてからゆっくりとお店の売り物を物色するというスタイルはナイスだと思った。

吐司

ゲームセンターの店頭を彩るのは、UFOキャッチャー。それは別に珍しい事ではない。しかし、びっくりしてしまったのが、その「捕まえる対象」だ。クッションというかぬいぐるみというか、それが「食パン」だったのだった。6枚切りくらいのサイズの、食パン。もちろん本物ではないのだが、食パンが山積みになっているUFOキャッチャーは見たことが無かったので思わず見入ってしまった。一瞬そそられてしまったし、Jennyから「やってったら?」と勧められたが、やめておいた。食パンそっくりのものが家にあっても、どうするんだ。飾りにならないし、邪魔になるだけだ。

ショーケースには「取れる事を保障します」みたいな事が書かれた張り紙が貼ってあり、プレイするときは店員さんが側についてくれる。で、UFOキャッチャーの落とし口ぎりぎりのところにわざわざグッズを配置してくれるのだった。どうぞこれで気持ちよくゲットしてください、というわけだ。

そんなものを見た後、今度はおもちゃ屋(?何屋だったか忘れた)の店頭で同じ物を見つけた。人気あるのか?この食パン。「吐司」と書いてあり、お値段199元。600円以上する代物で、予想以上に値段が高い。というか相当高いぞ。強気な価格設定だ。携帯のストラップにでもどうぞ的なヒモが付いていたが、さすがにこれを携帯に付けると「携帯」できぬので激しく嫌だ。せいぜい、ヒモに押しピンをつけて壁に刺して自宅のインテリアにする程度だろう。とはいえ、食パンがぶら下がっている家というのもあまりわくわくしないな。

隣には、同様に丸いパンがあった。こちらこそ地味すぎて煮ても焼いても食えない代物だったが、あら不思議、鼻を近づけてみるとパンの臭いがする。変な商品だ。

両方とも面白い賞品だし、日本では見かけないので興味深い。とはいえ、欲しいかといえば一刀両断で「いらん」と言える。誰かにプレゼント、といってもこんなのを貰って喜ぶB級マニアはそうたくさんはいないだろう。

変なマスクを買う

ひととおり、少し大人しくなった夜市の道を歩き回った頃にはもうMRTの終電時間。そろそろ帰らないと。まあ、タクシーを使って帰っても大してお金はかからないと思うので、終電を逃しても構わない。

そうしたら、Jennyが「スクーターで送っていってあげる」と申し出てきた。そう来たか。台灣人おもてなし文化は今日一日で少しだけ分かったが、まさか最後そう来るとは思わなかった。日本人的感覚に基づく合理性だと、

  1. Jennyの家は台北車站とは逆方向である。
  2. まだMRTの終電はあり、所用時間はたかがしれている。
  3. スクーターで移動した方が、MRTよりも所用時間が長い。

という3点において、「じゃあここでサヨウナラ」とした方が良いと判断する。

しかし、ここは台灣。そういうお別れの仕方はしないらしい。

「台灣男性はとてもマメで、彼女とデートするときは家までバイクでの送迎は当然だし、場合によっては毎日の通勤でも送り迎えをしてあげる」

というのを聞いたことはある。すごい世界だねえ、日本男性にゃそこまでマメにはできんよ、と思っていたのだが、まさか今回男女逆の立場でお見送りされることになるとは。

「いいよ、悪いし」

と言おうと思ったが、うまい英語が浮かばなかった。あと、多分台灣の人の頭脳においては「送ること・送られること」が「手間かけさせて申し訳ない」という概念がすっぽり欠如していそうだ。なぜ僕が「悪い」と思ったか、理解できない可能性がある。そこをさらに英語で説明しようとすると、完璧に語彙力が足りない。仮にうまく説明できたって、向こうは「悪い」とは思っていない以上、「そんなの気にしちゃいないですよ」の一言で終わりだろう。

ここはありがたく、というよりおとなしく仰せに従う事にした。疲れているのでMRTでとっととホテルに戻りたい、という気持ちもあったが、バイクに乗った経験が人生で一度もないのでこの際乗ってみるのは楽しそうだ。しかも二人乗りin台北。貴重な体験になりそうなので、楽しませてもらおう。

そうと決まれば、ということでJennyに一軒のお店に連れて行かれた。アクセサリーやハンカチなどを売っているお店だったので何事かと思ったら、店内にはずらりと並ぶ、マスクの束。マスクだらけだ。マスク屋、と名乗っても良いくらいの品そろえだった。マスク屋稼業なんて、メキシコのプロレス会場近くの屋台くらいかと思っていたが、意外。

台灣はバイクが多いため、都市部の空気はとても悪い。そのため、バイクに乗る際はヘルメットは当然として、マスクもマストアイテムとなっている。そういう用途のために、派手なデザインのものが多くて驚かされる。

日本だと、「衛生用品」としてしかマスクを考えていないので、白が基本、せいぜい水色やピンクがあるくらいだ。しかも、発展の形態は「顔の形に密着して花粉対策ばっちり」とか「ウィルスの侵入を食い止める」という細かい工夫と細工の連続だ。その点、台灣のマスクは「デザイン重視。以上。」だ。

以前、来日してまだ2-3年くらいのFishが、冬寒いからと台灣マスクをはめていてびっくりしたことがある。そして、「それは大変に斬新ではあり結構だが、日本でそのマスクを装着していると変人に見られるから止めた方が良いと思う」とアドバイスしておいた。それ以降、彼女は日本では白マスクを装着している。

日本にはないファッションなので、台灣マスクを日本に持ち込めば流行を先取りできるかも・・・と一瞬妄想したが、多分無理だ。バイク/スクーター乗りがそもそも日本では多くないし、冬はインフルエンザ対策用のもっとかっちりした奴が必要だ。絵柄重視マスクが流行る余地はなさそうだ。

ちなみに、マスクは1枚30元。2枚だと50元だった。Jennyから「Fishの分とあわせて2枚買ったらいいよ」と言われ、今更Fishにマスク上げてもねえ、と思いつつ柄を選んだ。

派手なマスクが多いなか、このお店のものは比較的モノトーンのものが多かった。逆に、ありがたい。おかでんは、写真上のものを選んだ。台灣ナイズされた日本風漫画女の子のイラスト入り。何かのパクリではないと思われるのでオリジナルだ。萌えるほどのものではないが、まあ面白いので買ってみた。

Fish用は写真下のハート模様の奴。どんなのが好みなのか知らないので、まあ無難なものを。これだと地味っぽくて良かろう。どうせ贈っても喜ばれないだろうし。

案の定、翌日Fishにこのマスクを渡したが、お礼の言葉は賜ったものの全然うれしそうではなかった。女心をわからないおかでん故の選択ミスなのか、それともマスクというアイテムを贈る事自体に限界があったのか。

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