道中、巨大な敷地を持つ立派な建物が見える事がある。「あれ何?」と思わず聞いてしまうくらいだ。聞くと、そのいずれもが「学校」という答えだった。台灣の学校、メチャ金かけとるやんか。いくらなんでもデカすぎだろう。これだったら耐震補強しなくても大丈夫、というぐらいごつい建物だし。
何でこんなに学校が立派なの?と聞いたら、Fishの見解としては「台灣は学校にお金をかけるから」ということだった。逆に、Fishからは「日本に来たとき、学校の小ささに驚いた」と言われた。確かに、このデカい学校を見慣れていると、そう感じるだろう。
もっとも、日本と比べて人口あたりの学校の数が違うはずであり、一概に比較はできない。学校数が少ないために学区が非常に広く、結果的にマンモス校となり巨大建造物になった、という事だってあり得る。
いや、でもその仮説はあまり正しくないようだ。校舎は兎も角、庭や門構え、全てが立派なのだった。これは生徒数の多寡ではなく、学校に対する基本コンセプトが日本とは異なっているためだと思われる。
真っ先におかでんが心配したのは、「これだけ学校が広いと、掃除が大変だろうなあ・・・」ということだ。毎日全敷地内を丁寧に掃除することなんて無理そうな規模なので、日ごとに場所をローテーションして掃除しているのかもしれない。
そんな景色を見ているうちに、立派な道路に出た。省道1号線、日本でいうところの国道1号線に相当する幹線道路だ。No.1の名前にふさわしく、北は台北の方から台灣西部を南下し、高雄を経由して恆春半島付け根までのびている。国土縦断の路線だ。
片側二車線ではあるが、路肩に相当する部分にバイク用レーンがあるのが特徴的。これはこの1号線に限らず、多くの道路で見かけられた。バイク天国の台灣ならではだ。
とにかく信号が少なくて、道は真っ直ぐだし、快適。警察がネズミとりをやったら捕まえ放題ではないのか?と思うくらいだ。ただ、日本の一般道が最高速度60km/hまでなのに対し、この1号線は70km/h制限の表示があった。快適な道だけに、制限が緩くなっている。
信号がないということは、即ちこの道を横断する手段が無いということだ。でもそれで特に問題が起きていないのだろうから、この辺りがいかに田舎かということがわかる。日本のようにだらだらと家や店が続くのではなく、ヨーロッパ的に集落と集落の間に「空白地帯」がある印象だ。
そんな1号線だが、感心させられるのは中央分離帯がしっかりしているし、街路樹がずらりと並んでいることだった。道路メンテナンスにそれだけ金をかけているというわけだ。素晴らしい。
でも、以前Fishの友達が台灣から来日した時の事を思い出した。その時は彼を車に乗せ、首都高速を走ったり横浜に行ったりしたのだが、「日本の道路がとても整備されていて素晴らしい」と絶賛していた。デコボコが少ない事に感心したとのこと。そうか、台灣の道路事情はそんなに悪いのか、とその時思った。
しかし、いざこうして走ってみると、日本よりむしろ立派でやんの。どうなっているんだ。友達氏の発言はヨイショだったのか。
Fishにその点聞いてみたら、「いや、台灣の道路はあまりよくないよ?バイクに乗ってみれば分かるけど、すごくよく跳ねる」と言っていた。そんなものなのか。確かに、バイクに乗ってれば路面コンディションの善し悪しには敏感になるな。
とはいえ、この道がそれほどデコボコしているとも思えない。謎だ・・・と思っていたのだが、その答えは後になって分かった。主要道路の整備に関しては日本とほぼ同等のようだが、言われてみれば若干うねりがある路面のような気がする。とはいえ、「気がする」程度だ。ただ、一歩路地に入るともう駄目だ。途端に路面状況が悪くなり、まさに「舗装されているけどデコボコ道」なのだった。日本の道路がなんとも平均的に優等生かというのは納得がいった。
そんな台灣の道路事情を眺めつつ、車は進む。「ほら、あれだ!」の声で、前を見ると「←林家猪脚免費停車場」という表示。ここから脇道に逸れれば、猪脚(=豚足)で名を馳せる集落、萬巒というわけだな。
猪脚で名を馳せる萬巒。
何軒もの猪脚料理店が軒を連ねているというが、中でも有名なのは「元祖猪脚」を謳う「海鴻(ハイホン)飯店」。あと、先ほど案内表示にあった「林家猪脚」。おかでんが「台灣再発見!」というTV番組で見たのは、「海鴻飯店」だった。ただ、事前調査していると、「最近は規模が大きくなりすぎて味が落ちた、と地元の人が言っていた」という情報もあった。これには少々迷わされた。
とはいえ、「少々味が落ちた」くらいで、客家風猪脚を食べたことがない人間が判断できるはずがない。やはりここは元祖だか本家だか知らんが、TVに出ていた「海鴻飯店」にしよう。
ちょうど車をゴトゴトと進めていくと、海鴻飯店の駐車場があった。「萬巒猪脚唯一創始店」とデカデカと書かれている。自信たっぷりじゃあないか。「創立於民國38年」と書いてあるので、創業60周年ということになる。飲食店の栄枯盛衰が激しい台灣の地において、これは大老舗であり、相当なものだ。
巨大な駐車場に車を停める。大型バスも停められるようになっているので、週末にもなると観光バスで猪脚ツアーなんて企画があるのかもしれない。
このでかい駐車場だが、3つあるうちの一つに過ぎなかった。案内板を見ると、第二駐車場に至ってはここから200mも先にあるらしい。飲食店で、ここまで延々と駐車場から歩かせるのって日本ではあまり例がない。それでも満車になるのだろうから、さすがとしか言いようがない。
駐車の際に、誘導員の方からチケットを受け取った。お店で飲食後、お会計時にお店のスタンプを押して貰えば駐車場タダですよ、ということだ。結構しっかりしている。
駐車場から出たところに、赤レンガの建物の残骸とともに「萬巒郷簡介」という萬巒の紹介看板があった。なかなか風情がある作りで、良いセンスだと思う。
えーと、何だかよくわからんが、客家の人たちが住んでますよ、ということと萬巒の猪脚は美味いぜ!ということが書いてあるようだ。
じっくり読みたかったが、Fish兄弟がどんどん店へと向かっていくので写真だけ撮って後で読むことにした。
Fish兄弟からしたら何のことはない「台灣のごく一般的な集落風景」なんだろう。しかし、異国人おかでんにとっては全てが珍しい。できることなら、路地裏まで入り込んで民家を眺めたり、人々の生活の様子を観察したいくらいだ。でも、地元の人からしたら「いや、そんな大げさなもんじゃ無いッスよ」って思うだろう。「せっかく日本から来たんだから、もっとイイものを見せるから!」と。
仮に、自分の外国の友人が来日して、日本を案内することになったとしよう。その友人が、「普通の住宅地が見たい」と言い出したらどう思うだろうか。「いやー、もっと別のところにしません?見るだけ時間もったいないですよ」と答えちゃうだろう。おかでんだって、そう答える。でも、庶民生活を見るのって、案外外国旅行の楽しみでもあるんだよな。あんまりギチギチに予定を詰め込まないで、ラフなスケジュールにしておいた方が楽しめそうな気がする。
それはそうと、先ほどから出ている「客家(はっか)」とは何か。もともとは後漢時代の漢民族に端を発しているとされるが、それ以降各地を転々とする「流浪の民」となった。そのため、たどり着いた地では「外部から来た客」とされ、「客家」と呼ばれるようになっている。漢民族をベースとしているが、独自の「客家語」をしゃべる。流浪の民であり特有な文化を持つため、行く先々で差別や迫害を受ける機会が多かったようだ。そのため、自己防衛のため高度な学力と商売・流通・金融の才能を身につける人が多い。「東洋のユダヤ人」と呼ばれる所以だ。教育熱心であるため、学校の先生になる人が多いというのは面白い。こういうところに民族性が出るのか。そういえば、おかでんの知り合いの客家の人も、小学校教師をやっている。
客家は全世界に3,000万人から5,000万人くらい居ると言われ、東アジアを中心に居住している。調べてみると有名な政治家が多く、中華民国建国の祖である孫文をはじめ、中国の鄧小平、台灣の李登輝、タイのタクシン、シンガポールの李光耀(リー・クァンユー)/李顯龍(リー・シェンロン)親子などが挙げられる。
客家料理の特徴は、さすが流浪の民だけあって、濃い味付けを好み、漬物を食べるらしい。漬物は特に高菜などが有名。おおお、何だか日本人と嗜好性が似ているぞ。少ないおかずでご飯ガッツリ系な料理というわけだ。
今回訪れたこの萬巒の地は、このような経緯がある客家の人たちの集落。
客家文化に基づいた、猪脚が食べられるということらしい。猪脚自体は広東料理でもあるし、中国全土を見ても特に珍しい事はない。しかし、客家料理としての猪脚、という点でこの地が有名になったようだ。
萬巒の紹介看板の横には、小さなほこらがあった。何が祀られているのだろう。
中のご本尊に「猪脚食べに日本から来ました」とごあいさつしようと思ったが、Fish兄弟に先に行かれたので、これも写真だけ撮って二人の後を追いかけた。この辺り、いかに地元民と外国人の興味の範囲が違うかということがよく分かる。
二人に追いついたところで、Fishに「あれは何が祀られているの?」と聞いてみた。すると、「多分地元の神様だと思うよ」だそうで。地元の神様?何だそれは。日本風に言うと、「氏神様」ということだろうか。
ご丁寧に柵が設けられ、ゲートを塞ぐ事ができるようになっている。恐らく、野良犬や野良猫がお供えものを盗んでいくので、それを阻止するためだと思う。
萬巒の猪脚ストリート。
単なる普通の道だ。萬巒郷のど真ん中にあるわけでもない。バスでここを訪れたとしても、バス停からこの通りにたどり着くまで若干戸惑ったと思う。
おかでんが見たTV番組では、「高雄から墾丁に向かう途中に萬巒に立ち寄った」なんてナレーションが入っていたが、そりゃむちゃってもんですわ。いや、そりゃロケバス移動であれば何ら問題ないけど、普通の観光客は公共交通機関利用だ。ここにたどり着くのはやっぱりハードル高いぞ。TVを見る限り、墾丁方面の主要幹線道沿いにある街のような印象を持ってしまうが、実際は相当違う。
ただまあ、その番組を見た結果、こうしていよいよ萬巒の地に足を踏み入れてしまったおかでんが居るわけで。何だか感無量ですわ。
この大地を踏みしめた足が、帰りの際には豚足になっていることだろう、きっと。さあ、豚足出てこい。一斤(600g)でも食べてやるぜ。
店に向かう途中、店頭販売をするお店が軒を連ねている。猪脚便乗ビジネスだ。
「ほら、これ」とFishが指さした先にあったのは、何だかトマトのような、パプリカのような、リンゴのような果物。日本では見かけない。「何だこれ?」と聞いたら、「レンムー」だという。知らん、そんな果物。聞いたことがすらない。昔、シェンムーというゲームがあったのは知ってるが。
なぜこの果物をFishが紹介するのかよく分からなかったが、後になって嫌という程思い知らされた。
先に答えを書いておくと、この果物の正体は「蓮霧」。日本語読みすると「れんぶ」となるが、中国語読みだと「リエンムー」に近い発音になるようだ。wikipedeliaでは「リエンムー」と記されているが、おかでんの耳では「レンムー」と聞こえた。まあ、そんな感じの発音だ。
何のこっちゃ、とFishに聞き返したら、「ワックスアップルの事だよ」との回答があった。ああ、ワックスアップルなら聞いたことがある。分かった、了解だ。・・・いや待て待て、聞いたことはあるが、実物は知らないし食べたこともないのだが。
ただおかでんは日常生活において果物を全く摂取しない。果汁ジュースすら飲まないくらいだ。間食やデザートを食べる習慣が一切ないので、結果的に果物を食べる機会がない。せいぜい、一年に数回くらい、実家に帰省した際に口にする程度だ。だからまあ、「ふーん」程度で一応この場はスルー。
それにしても4斤(2.4kg)100元(320円)だとか、段ボール一箱600元(1,920円)って量が多すぎだろ。段ボールのやつなんて、箱に入りきらないまで詰め込んで、上からラッピングされてるぞ。誰がこれをそんなに食べるんだ。
でも日本も、昔は大抵冬になるとみかんを段ボール単位で買ってきて食べていたもんだ。それに近い感覚がこの蓮霧にはあるのかもしれん。でもあんまり興味ないのでスルー。
その近くには、今度はバナナを売っているお店があった。日本でよく見かけるものと比べると、やや形や色づき方が違うようだ。「台灣バナナだよ」と言われ、ああなるほどと納得。今やフィリピンバナナが日本では圧倒的だが、一昔前まではバナナといえば台灣だった時代があったわけで、「昔なつかしい味」だと思う。いや、おかでんは食べたことないので「懐かしさ」を感じる事はないが。おかでんが子供の頃は、「Dole」というシールが貼ってあるバナナを良く食べたな。あのシールが何だかうれしかったんだ。意味もなくおでこに貼ったり、机に貼り付けたりしたもんだ。
フルーツ売りのお隣では、たくさんの瓶を並べた屋台が出ていた。何屋だ、これは。
店の親父がしきりに試飲を勧めてくる。あんまり興味無かったので辞退したのだが許して貰えず、小さなコップで何かを一口。
・・・葡萄ジュースか。
ここ、フルーツジュース売りの店か?それにしては色気のない瓶ばっかり並んでいるのだが。確かに見ると、葡萄ジュースだとか紫蘇梅というジュースが売られているのだが、それが1リットル以上の巨大な瓶だったり、ポリタンクだったりして色気がないことこの上ない。あと重くて邪魔だから瓶は勘弁してくれ。紙パックが良いのですけど。
そんな事を思いながら商品を見ていたら・・・うわあ!なんか瓶の底に沈殿物があるぞ、と思ったら蜂じゃないか!
なんか白い奴だったり、どす黒い奴だったり、こりゃあグロの世界です、完全に。
「ほら、これはスズメバチ」とFishが言う瓶を見ると、「虎頭蜂」と書いてある。なるほど、確かに虎の模様をしているよな。うわあ、瓶の中のスズメバチさんとご対面してしまった。すんません、眼を合わせた私が悪うございました。
他にも「土蜂王」(土蜂の女王バチのことか?)と、白い「蜂蛹」(ハチのさなぎ?)が並んでいるし、看板を見ると龍眼蜂というのもあるようだ。龍眼という植物があるので、その蜜を吸ったミツバチの事らしい。
「うわあ」なんて言いながら蜂とご対面していたら、ますます親父、元気付いちゃってこれも試してみろ、とコップを差し出す。いやいやいや、もう結構です。勘弁してください。
以前、奈良県の十津川温泉に泊まった際、宿近くの食事店で「そうか、東京からわざわざ来たのか!じゃあこれを飲め」と言われて、知らずに焼酎のスズメバチ漬けを頂いた事がある。その後、宿に戻ってひっくり返ってしまったのは鮮明に覚えている。だから、スズメバチと聞くと腰が引けるのだった。
でもおかしいな、本来こういう「お試しする機会」があれば、絶対に試してみる性格なのに。今回の台灣訪問は、あまりに情報量が多すぎて頭で処理がしきれていない。その結果、これ以上想定外の事態が起きたら脳が拒絶反応を示すようになっているらしい。
そんなわけで、結局蜂の飲み物(お酒なのかどうかさえ不明)はお試しする機会無しで終わった。
海鴻飯店にほど近いところに、「大人物川菜・客家菜館」というお店があった。
おお、客家料理を出す店か。さすが客家の集落。しかし、「川菜」とは何だろう。聞いてみると、四川料理の事を指すんだそうで。なるほど、それは知らなかった。まさか四川料理と客家料理が並んで売られているとは。
ここは猪脚と無縁の店かと思ったが、店先にはお持ち帰り用の猪脚売り場がちゃんとあった。「紅麹萬巒猪脚」と書かれている。色づけと保存性を高めるために紅麹(どんなものかは見たことがない)が使われているらしい。
気になって、帰国後このお店について調べてみた。公式サイトがあるあたり、時代は進んでいますなあ。でもこのサイト名に笑った。「topgreatman.com」だって。
この通りは「萬巒猪脚街」と呼ぶらしい。確かに、大人物館を過ぎた辺りから急に猪脚の店が出てき始めた。しかしその中でも特に目立つのが、今回お目当ての「海鴻(ハイホン)飯店」だ。台灣は間口が狭い店が多いというのに、ここは堂々とした間口を誇る、目立つお店だった。その奥にある隣の店は、今回訪問店の対抗馬として上がっていた「林家猪脚」。この街全体を歩き回ったわけではないし、この店と駐車場しか徒歩で往復していないので街の他の様子は全くわからない。「萬巒猪脚街」の名の通り、この先にも猪脚店だらけなのだろうか?われわれが車を停めた場所は、中心地とは逆の方向なので、状況が把握できていない。
海鴻飯店の店先には、たくさんの女性従業員が働いていた。赤いポロシャツにワイン色のエプロン、赤い帽子と赤で統一されているのでとてもよく目立つ。この人達は、お持ち帰り用の猪脚を売っているだけでなく、その場で猪脚をさばいているのだった。調理場の都合もあるのだろうが、店頭調理で店の賑わいを出し、猪脚さばきのパフォーマンスを披露し集客しようという事だろう。今まさに猪脚がまな板の上でさばかれていて、だーん、だーんと猪脚をさばく包丁の音が響き渡っていた。結構な迫力だ。週末にもなると、この「猪脚さばきパフォーマー」の数とさばく量が増えるはずで、すごい事になりそうだ。
ただ、猪脚さばきのパフォーマンスだけでおかでんがこの地を選んだわけではない。猪脚そのものがもの凄い迫力なのだった。
見よ、この金だらいの中に積み上げられた豚の足。でけぇことでけぇこと。
日本で見かけるいわゆる「豚足」とは全く違うものだ。日本の豚足(韓国文化の影響?)は、蒸したもので色白。酢味噌なんぞで食べるとよろしい。淡泊な味わいだ。サイズはあまり大きくなく、両手でつまんで骨の周りの部分を薄く食べる。
しかし、こちら客家風猪脚となると、醤油と砂糖と八角を中心とした甘辛いたれで煮込まれ、濃厚な味を予感させる色合いに仕上がっている。そして、そのデカさたるや特筆ものだ。日本で見かける豚足、ありゃ一体なんだったんだ?子豚か?と思うくらい、こちらの奴はでかい。足に見えないくらいだ。
これだけデカいので、さすがに「両手でつまんでかじる」というわけにはいかない。そこで先ほどの「調理人」がいて、この身をバラしてくれるというわけだ。来た甲斐があったなあ。これを見ることができただけでももうけモンですわ。
萬巒の猪脚が有名になったのは、60年前にこの店の創業者「林海鴻」さんが独自の味つけの猪脚を出すお店を出したことに端を発するそうだ。だから、この店から萬巒猪脚の歴史が始まった、というのはあながち間違っていない。一軒のお店が、街のイメージまで作ってしまうに至ったのはすごいことだ。
タレは「秘伝」なんだそうだ。ただ、創業以来一度も鍋の火を止めずにひたすら煮込み続けているというから、鰻屋の秘伝のたれ以上にすごそうだ。何しろ、ぐらぐらやりっぱなしなわけだから。豚エキス、どれだけ凝縮されてるんだよ。盗難や災害にあったら、大変だ。金庫で保管したくなるな。
二人は店頭の様子にも特に興味はないらしく、店員さんと何かやりとりをした後さっさとお店に入っていった。恐るべし台灣人。この光景が「日常的で、珍しくない」ものなのか。おかでんなんか、この店先だけで5分は最低居座る事ができる。というか、これだけでご飯食べることができそうだ。
猪脚は最低1斤(600g)からの注文となり、以降1両(=37.5g。16両で一斤)単位で価格が決まってるという。多分どこかに、電車の料金表みたいな細かい価格早見表があるはずだが、先に入店した二人を追いかけないといけないため、調査できなかった。
店頭には、猪脚200元との表記。すぐ下に350元という表記もあるが、何のことかよくわからん。どうやら「小」と「大」の金額の目安ということらしい。
その他に、「真空包装」されたものだと350元、「豪華精美ナントカ」というのが410元。
海鴻飯店、店内の様子。
大きな円卓がずらりと並んでいる。ピンク色のシートがかぶせられているのがちょっと華やか。
日本で円卓を囲んで食事、なんてのは宴会の席か、中国料理を食べるときくらいしかないなあ、とこの光景を見て思った。
ただそれは非常に納得がいく。このテーブルを見ていると、とても客さばきの効率が悪い。一卓で6名~7名程度は座ることができる大きさだが、少人数で訪れたときに空席ができてしまう。日本のように、いかに客の回転率を上げるかを重視する店だったら、絶対に四角いテーブルにするだろう。その方が、柔軟にグループ毎に席の増減ができる。テーブル同士をくっつければあら不思議、大きなテーブルに早変わりだ。その点この円卓は全く拡張性がない。
平日昼前でほぼ満席状態なのだから、週末は一体どうなってしまうのだろう。待ち行列ができそうな予感。
まさか、円卓で食事するのに「相席」はないだろうし・・・。
繁忙期と思われる時の訪問は、時間をずらした方が良さそうだ。猪脚しゃぶりつくお店で、ばんばん客が回転するとは思えない。いったん待ち行列になると、結構待つことになりそうだ。
あと、この様子じゃ、一人旅で食事ってのはちょっとしんどいな。無理ではないと思うが、相当場違いな感じになりそうだ。
入口すぐ脇には、「櫃台」という看板がぶら下がったカウンターがあり、おばちゃんが山積みにされた伝票を前にデンと座っている。その傍らには「収銀台」の文字も。どうやらレジの事らしい。
レジカウンターの横には「包装部」というスペースがある。赤い、なにやらおめでたそうな袋がたくさん並べられいる。お持ち帰り用の猪脚をスタンバイさせているわけだ。
なるほどこれを見て、先ほどの価格表に納得。「真空包装」は、そのまんまその通りで、真空パックに猪脚一本がまるごと詰められたものだ。シールもロゴも愛想もなにもないシンプルなもの。それに対して、恐らくこれが「豪華精美」だと思われる方が赤い手提げ袋入りだ。袋だけで60元(192円)違うとは思えないので、中身もちと豪華になっているのかもしれない。
よく見ていたら、宅急便で送ることもできます、なんて書いてある。あれれ、宅急便だって。それはヤマト運輸の商標であって、通常は「宅配便」という表現を使うべきなのに。そもそも、宅配便という言葉が台灣にあるのかどうかすら謎だが。
しかし、おおっと驚いたのは、本当にあのクロネコヤマトのロゴがあったこと。ヤマト運輸、いつの間に台灣進出しとったんだ。やるなあ。ということは、「宅急便」というのはまさに正解だ。
帰国後、海鴻飯店のサイトを調べてみたら、ネット通販も受け付けている事が判明。「猪脚50個以上もしくは10,000元(32,000円)以上買ったら、送料無料にしますよ」と書いてある。冗談じゃない、誰がそんなに大量に買い付けるんだ。そうなると業者じゃないか。送料の関係からか、「台灣本島」向け価格と「非台灣本島」価格がある。やった、ということは日本にも送ってもらえるということか。自宅で海鴻飯店の味を再現。素敵な事だ。
しかし、良く読むと「非台灣本島」とは、台灣内の離島の事だった。さすがにサプリメントみたいな海外通販はやっていないのだった。まあ、確かに食品を外国に送ったら、検疫手続きや税関があったりしてややこしいことになるから、無理だな。
包装部脇の天井近くには、ディスプレイが何台も並んでいた。まるでビルの警備室のようだ。あちこちの客席や店頭、果ては厨房までを映している。食い逃げ防止のためなのか、店員の目が行き届かないテーブルがないようにするためのサービス向上策なのかはわからない。
画像を見る限り、この部屋以外にもテーブルはあるようだ。さすがに、ここだけだと店の知名度からすると規模が小さすぎる。とはいえ、100席はあると思うのだけど。
よく見ると建物と建物の間の、狭い隙間にテーブルを押し込んでいる様子。なんとも強引だ。さすがにそのテーブルは小さい。おお、少人数でもこれなら大丈夫だ。ということは、少人数だと優先的に「店の外の怪しい路地」に連れて行かれるということだろうか?
なお、少人数卓であっても円卓であることにはかわりがない。そこだけは譲れないところらしい。
おや。隣の人がちょうど食べ終わったようだ。3名で訪れていたが、それぞれの目の前にはうずたかい豚骨の山ができていた。やあ、たらふく食べましたな?
それにしても、ここの流儀は「食べた骨は机の上にそのまま捨てる」なんだな。日本的感覚からすればお下品だが、ここではこれが正当なら、おかでんもそうしてみよう。
なるほど、様子を見ていたら、店員さんがお皿を片付け、その後机の上に敷いてあったビニールシートをわっさーとかき集めてそのまま持っていった。便利にできているな。そのままゴミは捨てられるというわけだ。ビニールシートは洗って再利用されるのか、使い捨てなのかは不明。
ちょっと待て、今写真見て気がついた。この椅子の数はなんだ。さっき、「1つの円卓で6~7名」という書き方をしたが、どうやらそれは訂正しなければいけないようだ。最低でも10名、ひょっとしたら12名くらいは詰め込む気満々な椅子の数なんですが。ということは、やっぱり相席ありってことか。でも、相席させたら、いつまで経っても「ビニールシートをわっさー」ができないぞ。どうするんだろう。
店員さんがオーダーをとりにきた。
ここは、昨日見たような「メニュー表の欲しいものに印をつけ、その紙を店員さんに渡す」というスタイルではない。店員さんがちゃんとオーダーを承る。ただ、手にしているのはやっぱりよくあるメニュー表だ。伝票端末だったり、手書き伝票ではない。しかし、お客に手書きさせないところが「若干高級感ある」のかもしれない。
猪脚一本槍で、その他のメニューはお飾り程度だと思っていたが、品数の豊富さにびびった。さすが台灣。「うちは猪脚一筋でございます」とはせず、たくさん料理を作れるところでお客を圧倒している。
さあ困ったぞ、一体何を頼めば良いんだ。Fishから「何が食べたい?」と聞かれても、この漢字だらけのお品書きから何を読み取れるというのか。さすがに、ジャンル毎に料理が分類されているのでなんとなくは分かるが、全体を見渡して判断するのは無理だ。だいたい、猪脚が既にどれだけの量でオーダーされているのかすらわかっていない。自分に選択権は与えられているものの、状況が把握できないので完全に「まな板の上の鯉」状態だ。実は自由があまりない。
とりあえず、肉がメインで来るので、野菜が食べたいし、あと湯(タン。スープのこと)が欲しい。それからまだ余裕があるなら、せっかくなのでこれぞ地元料理というものを、ぜひにとお願いしてお任せにした。
お品書きを全て列記して紹介したいくらいだが、さすがにそれは長くなるのでやめておく。大分類だけ紹介。
猪脚類:ご存じ、豚足。その他、尻尾だとか舌もあるようだ。
熱炒類:肉、魚、貝などの炒め物。
青菜類:青菜の炒め物。
冷盤類:定義はよくわからんが、中華料理屋で「すぐに出せるビールのつまみ」としてよくある系。ピータン豆腐などがある。
限量特菜:数量限定や季節限定もの。肉野菜など問わず。
湯類:スープ。
其他:米類、麺類。
お品書きを見ると、「客家~」と名前の付く料理が散見される。さすが客家の街だけあって、客家料理を積極的に提供しているようだ。
※いま、この店員さんの写真を見て気がついた。店員さんの背後に、奥の部屋に通じる廊下が写っている。なるほど、繁忙期以外は店の入口付近だけ客席を利用して、繁忙期には奥の部屋が開放されるのだな。そりゃそうだ、席数が少なすぎだからおかしいと思ったんだ。
Fish兄弟が何事か店員さんにオーダーし、店員さんがひっこんですぐに猪脚が届けられた。早い。既に作り置きしてあるので、オーダーが入ればトーントーンとさばいてほら客席に持っていって、という事ができるのだろう。
それにしても量が多い。どれだけの量がオーダーされたのかはわからないが、恐らくこれで最小注文単位である1斤(600g)なのだろう。山盛りではないか。
というよりこれ、本当に豚足か?という肉肉しさ。豚足って、骨とひづめの僅かなところの肉をこそげ落として食べる、というイメージだったのだが、何だこれは。肉だらけではないか。一体この豚、何食べてこんなに足を太くしたのだろう。
日本では、足が太い事を「大根足」という(特に女性の場合)。逆に足が細い事を「カモシカのような足」と言う。でもこれは撤回だな。今後は足が太い事を「萬巒猪脚」と呼び、足が細い事を「日本豚足」と呼ぼうではないか、諸君。
うおおおお。
急に啤酒が飲みたくなってきた。この料理を眼前にして啤酒を飲まないなら、おかでんの名前を返上しても良い。・・・誰にだ?
Fishに勢い込んで「啤酒注文したいんだけど」って聞いてみた。お品書きには啤酒の記載がないからだ。すると、どうやら飲み物に関しては冷蔵庫を開けて勝手に持っていけ、という事になっているらしい。本当かよ。そこだけはセルフサービスなのか。というか、伝票にちゃんと反映されるのか、それ?まさかドリンクバーではあるまい。
なぜドリンクだけ「自分で持ってこい」なのか、全く理解できない。
恐らく、一人で訪れていたらこのシステムを理解できずに途方に暮れていた事だろう。カタコトのやりとりと身振り手振りで、恐らく店員さんは「自分で持ってこい」と言っているであろうことを理解するだろう。しかし、それを理解できても、日本人の感覚ではあんまり無い事例であるが故に、納得しかねて立ち往生しそうだ。
店の片隅にある、コンビニ風冷蔵庫に行き啤酒を取る。ここには、水、野菜ジュース、コーラ、お茶などが置いてあった。そういえば着席時にお冷やが出ないんだな。あ、そうか、水道水はそのままでは飲めない国なので、飲み物は買って飲むものだ、という大前提があるのか。
ええと、啤酒瓶は一番下に見えるぞと。もちろん台灣啤酒を選択。もう一種類置いてあったのは、ハイネケン。うーん、台北にしろここにしろ、ハイネケンは強いな。日本ブランド、全然駄目じゃないですか。もっと頑張れ。まあ、海外に行ってまで日本ブランドの啤酒を飲もうとは思わないが。
ああ我が愛しの台灣啤酒。
といっても昨晩も少しだけど飲んだのだが。でもやっぱり瓶で来ると何だかうれしくなって小躍りしたくなる。
よーく考えるとそんなに絶品なビールだとは思わないんだが、でも台灣の地で飲むビールといえばこれ以外考えられない。台灣は暑い国だから、もっとさっぱりした味の方が合うんじゃないか?と思うが、炒め物、煮物などが料理に多く出てくるので、ある程度どっしりしている方が相性が良いようだ。その証拠に、スーパードライがいかにこの地で受け入れられていない事よ。
ラベルを見ると、「暑天飲時:適温為6~8度、冬天飲時:適温為10~12度」と書いてある。結構ぬるめの温度を推奨している。台灣のビールって、結構ガツンと冷やして飲まれるものだと思っていただけに、この温度設定にはびっくりだ。二桁台の温度でビールを飲むって、本場ドイツですかここは。ちなみにただいま2月中旬、一応冬とは言えますがやはり10度~12度が推奨なんでしょうかどうでしょうか。冷蔵庫の温度設定は5度になっておりましたが。お店の人に感謝。日本人は基本的にぬるいビールは口にあわないんですわ。メーカー推奨を無視してでも冷えてる方がうれしい。
そういえば、ディープな中国料理店に行くと、大抵ぬっるいビールが出てくる。店の人に「冷たいヤツを」と言えば、ちゃんと冷えたやつが出てくるので、意図的にぬるくしている気配。これはおかでんが知っている事例に限らず、本場の中国本土でもそうらしい。理由は不明だが、「冷たい飲み物を多飲すると体が冷える」という漢方的発想が背景にはある予感。
この漢方的発想というのは結構彼らの常識としてあるようで、まさに「医食同源」だ。Fishを例にとると、彼女は女性ということもあって、「体が冷える」とされる食物を避ける。だから、キュウリとか大根といった野菜はあまり好まない。そして、水を飲む際は冷水ではなく、常温もしくはお湯を飲む。それが当たり前になっているあたりが感心だ。意外なことにお茶はあまり飲まない。お湯の方が良いそうだ。
ラベルについてもう少し良く読むと、「飲んだら乗るな」的な事が書かれている。日本では「未成年の飲酒は駄目」ということが必ず書かれているが、こっちではそれは書かれておらず、飲酒運転への警告がされているのが面白い。台灣でも飲酒運転が社会問題化しているのだろう。
とかなんとか言っているうちにどんどん料理が運ばれて来たー。待て待て、せっかく萬巒猪脚と台灣啤酒の素敵なマリアージュが実現して記念撮影、というのに、ファインダー内にあれこれ料理が写りこんでしまっているではないか。早すぎだよ、オーダーしてからまだ数分しか経っていないんですけど。厨房、調理師が総力戦でわれわれのオーダー品に取り組んだな、さては。
あんまり待たせてはまずいので、慌てて啤酒をコップに注いで、一応食事開始とする。Fishはおかでんの特性を知っているので、料理の写真を一つ一つ撮影するまで、取り分けたり食べ始めるのを待っていてくれる。ごめんなさい、すぐに写真撮りますんで、もうちょっと待ってて、弟さん。
ちなみに啤酒を冷蔵庫からセルフで持ってきたらそれでOKというわけにはいかない。ええと、栓抜き。栓抜きはどこだ。まずこれで店員さんを呼び止めないといけない。そして、さらに今度はコップを貰わないといけない。啤酒一本でちょっとしたコミュニケーションが必要なんである。まあ、啤酒のためなら何でもやりますというおかでんなので、ここは度胸試しのために一人で店員さんとボディランゲージやってみた方が良かったかもしれない。全部Fish任せにしてしまった。
グラスではなく、出てきたのは紙コップ。なぜここで手抜きをする。全ての料理が、後片付けが楽な皿で出てくるなら兎も角、コップだけ紙製ってなぜ?
グラスにすると、油ものと一緒に洗った際にガラスが曇るからかもしれない。
猪脚は既にじっくりと醤油で煮込まれているが、つけだれも用意されていた。
おおよそつけだれを入れる用とは思われない、どう見ても湯飲みみたいな器になみなみとたれが入ったものが届けられた。これを取り皿に各自取り分け、食せというわけだ。
で、その取り皿だが・・・おい、これも紙製か。日本じゃ、野外バーベキューをやるときか、物産展などの試食の時にしか見かけないぞ。ますますわからなくなってきた。何て手抜きなんだ。というか、手の抜き方が中途半端だ。
さすがにこの段になって「これは変だ」と思って、帰国後に台灣における紙コップ・紙皿事情について調べてみた。多分Fishに聞いても、「さあ?特に意味はないんじゃない」という答えが返ってくるだけだろう。台灣ではごく普通で当たり前すぎる光景っぽいからだ。
調べてみると、あの吉野家でさえ、台灣では飲み物を提供する際には紙コップを使っている事が判明。「台灣文化に合わせた」結果、わざわざ日本にはない紙コップ文化を受け入れたということだ。その他、家庭でもごく普通に紙コップを使う事が判明。「台灣の家庭にはほとんど食器棚というものはないので、来客があった時などは平気で紙コップを使う」という記述も見受けられた。そうなのか。結局、台灣人のおおらかな性格+横着したい気持ちが融合してこうなったようだ。
あと、現実的な問題として、グラスは口につける食器であるので、水道水(=飲めない)で洗浄したものよりも紙コップの方がよっぽど衛生的、という考えもあるのかもしれない。
※後注:
Fishからこの件について、指摘があったので追記しておく。一時、台灣ではB型肝炎が多発したため、感染予防の観点から食器類の使い捨てが政府から推奨されていたとのこと。その名残で今でも飲食店は使い捨て食器を使うらしい。
もっとも、B型肝炎が「食器(=少量の唾液)経由で感染する」事例はごく稀である。そこまで神経質になることはないのだが、神経質にならざるを得ないくらい昔の台灣では頭を悩ませる病気だったのだろう。
何はともあれ、紙コップで飲む啤酒はなんとも味気ないものだ。時間が経つにつれ、だんだん紙がへたれてくるし。
若干がっかりしつつも、目の前の猪脚にかぶりつく。
なんですか、これは。猪脚、というよりもトンポーローに近い料理だ。もっとも、トンポーローは豚バラ肉なので、あれほど油でぶるんぶるんはしていない。萬巒猪脚は、柔らかいけどもっとしっかりした食感。ほろほろとほぐれるトンポーローとは違う。
うん、これとても美味いです。
裁断が上手なのか、単に肉厚なだけか知らないが、骨と格闘しまくるということはあまりなかった。ぱくぱくと食べられるのが、大層ありがたい。骨がない肉片も多数存在し、至って食べやすい。今まで食べてきた豚足は一体何だったんだ。「食べやすい豚足」なんて、想像したことすらないのだが。
よく日本のバラエティ番組で、芸能人が「豚足食べたら翌日お肌ぷるぷる~。コラーゲンたっぷりで素敵」なんて言っているが、ここ萬巒の猪脚はあんまりコラーゲン感がない。もっとどっしりとした肉だ。コラーゲンを期待して食べにいかないこと。
なお、このお店では豚の前足のみを猪脚として提供しているそうだ。前足の方が美味いんだそうで。
つけだれは「おおぅ」と思わず唸ってしまうくらいにんにくが良く効いた味。あと、生姜も入っているな。このパンチのある味はおかでん的には大好きだが、多分日本ではあまり受けないだろう。にんにくの臭いを気にするからだ。それを言ったら、そもそも八角が効いた味つけのこの萬巒猪脚自体、あまり受けないと思うが。美味いんだがなあ。ああ、たまらんなぁ。
猪脚を頂きながら、おいおい料理の説明など。
説明、といっても食事している当時は全然状況が把握できていない。何だかさっぱりわからないまま、状況把握にあっぷあっぷしながらの食事だ。全く理解できていないし、頭に入っていない。一応その当時簡単にFishが説明してくれたはずなのだが、全然覚えていない。
写真は、「客家滷大腸」。モツの醤油煮込み、という和名で良いと思われる料理。頭に「客家」という冠がついた名前なので、何だかわからないけど客家風の味つけなのだろう。「滷」という漢字は日本にはないので、意味を調べてみたら「あんかけ」という言葉が出てきた。ただ、実際この料理はあんかけではないので、煮込むという意味合いもあるようだ。
彩りとして香草が上に乗っているあたりが素敵。
味つけは非常にしっかりしている。濃くて重い味。これはご飯に合う味だ。思わず「素晴らしい!」と絶賛してしまった。前回訪台時、台灣料理を食べさせてくれる店に行ったが、どこも味が薄くて物足りなかった。台灣人って薄味が好きなのだな、ちょっと日本人からすると物足りないぞ、と思ったものだ。しかし、この味はいける。日本人の口にも、あう塩分だ。台灣が急に身近な存在に感じられるようになった。
ただ、重たい味なので、啤酒にはあまり合わない。白米と食べた方が幸せかもしれない。ほら、焼肉屋と一緒。ビールで焼肉は素敵だが、白米で焼肉の方がひょっとしたらもっと素敵かもしれないと思う、この感覚。「俺様の体に必要な炭水化物は、全てビールから賄う」と豪語するおかでんでさえ、そう思わせる焼肉の魔力よ。それと同じ事が、今この目の前のモツ料理で展開されているのだった。
こちらは、「客家鹹蛋苦瓜」。ゴーヤとゆで卵を炒めたものだ。「ゴーヤかぁ。沖縄にはゴーヤチャンプルーがあるし、特に珍しくないよな・・・。萬巒でわざわざ食べるにしては、味が想像ついて平凡だな」と思いながら箸を伸ばしてみたのだが、あれれ、いやちょっと待った、全然違うぞ。なんだか玉子がざらざらした食感で、味が違う。よく見ると、黄身の色がやや黒ずんでいる。あと、白身が結構堅い。
「これ、何?」とFishに聞いてみたら、「多分ガチョウの玉子」だという。そうかー、ガチョウの玉子ってこんな味がするのか。知らなかった。
「鹹蛋」について調べてみたら、「塩漬け玉子」の事だそうだ。なるほど、その辺りが客家チックということなのだろうか。
空心菜。
これはさすがのおかでんでも、解説を待たずにすぐに分かる。「おいちょっと待てFish。これ、アンタの個人的趣味だろ。特にこの地の有名料理でも何でもないだろ」と突っ込む。
Fishは空心菜が大好きだ。彼女とタイ料理店に行く事があれば、大抵空心菜炒めと、ソムタムと、トムヤムクンを頼む。もうこれだけで結構な量になるので、他の料理を頼むことができず、毎回似たような食事になる。「おいたまには違うもの頼もうぜ。タイ料理ってもっと別のものがあるだろう」と言うのだが、空心菜の誘惑には勝てないようだ。
別の機会にFishと中国料理店に行った時も、空心菜炒めを頼もうとした。その時、店員さんは「今だったら豆苗の方がシーズンで、空心菜は時期から外れるので豆苗がお勧め」と言ったのだが、「でもやっぱり空心菜!」と空心菜を頼んだほどの空心菜バカだ。彼女曰く、「豆苗は日本のスーパーで買えるけど、空心菜は滅多に手に入らないから」だそうだ。まあ、確かにそうだ。あと、おかでん自身も空心菜は好きだ。「またかよ」と愚痴りながらも、毎度おいしく頂いている。
さてこの空心菜なのだが、味は特筆すべきところはない。ただし、やっぱりにんにくが強く効いている。よく見ると、みじん切りにんにくじゃ物足りねぇ、ざく切りにんにくでどうだ、と結構大きいのがゴロゴロ入っている。いやー、うれしいですねえ。でも大抵の日本人は嫌がります。少なくともお昼に食べるものじゃあない。
客家小炒。
おかでんの頭では既に情報処理能力がキャパシティオーバーになっているので、淡々と食べた料理。なんだっけ、これ。ぐにぐにした怪しい食感で、何だこれはと思ったら、スルメイカだった。あらこんなところでイカに出会えるとは。後はもう何が何だか。スルメイカ以上に存在を主張している、謎の物体があったのだがよく分からなかった。
とにかく皿数が多く出てきて、あれもこれもと目移りするので一皿に集中できない。しかも、初対面のFish弟と何を話そうか常に悩んでいるし。やっぱり場を和ませるために、いろいろ話しかけなくては。
肝心のFishだが、通訳としてこの場に同席しているわけではないので、全ての会話や質問を通訳してくれるわけではない。しかも、Fishは料理専門家でもないし、台灣文化の研究者でもない。こちらからの質問に対して、正しい回答が返ってくるとは限らない。だから、こちらはますます訳が分からなくなるのだった。
仮に、外国から友人が来て、焼鳥屋に連れて行ったとしよう。友人大喜びで、「すごい!ところでハツって何?ぼんじりって何?どて焼きの作り方教えて」なんて質問責めされて、アンタ答えることができるか?多分無理だ。
さてこの「客家小炒」だが、後になって調べてみると「これぞ客家料理を代表する伝統的一品」なのだという。えっ、そうだったのか。そんな料理をセレクトしてくれたFish兄弟にまずは感謝だが、ええと、どこがどう客家料理なんでしょう。
なんでも、正月のお供え物を、正月明けにおいしく食べる工夫料理なのだという。
主な材料はスルメイカ、豚(五花肉と呼ぶ部位)を油で揚げたもの、豆干(豆腐を干したもの)。これらは全て保存がきくので、お供えが終わるまで日持ちするというわけだ。これに野菜類(にんにくの芽、葱、セロリ、唐辛子等)を併せて醤油味でじゃっと炒めてでき上がりというわけだ。お供え物の有効活用に加えて、調理も簡単ということで素晴らしい料理だという。
なるほどー、この「なにやら怪しい食感の食べ物」は豆腐を干したものだったのか。従来日本人が慣れ親しんできた豆腐とは全然違うので、豆腐とは全く気がつかなかった、帰国するまで。「干した豆腐」といえば、高野豆腐を思い出すが、あれとは全然違う。あっちはザラザラだが、こっちはなめらかで、かまぼこを食べているかのようだ。もっとも、かまぼこほどの弾力はないので、うまく形容しきれないのだが。
たくさんの皿に、多数盛られている。料理は大抵「大」と「小」の2種類を選ぶことができて、人数とそのメンバーの食欲にあわせて変化させることができる。多分これらは「小」を頼んだものだと思うのだが・・・それにしても多いな。
まさか昼から食い地獄に近くなるとは、と思いつつ、うっかり油断していたらもう一皿テーブルに届けられた。なにやら丼だぞ。あ、忘れていた。「湯」をお願いしようという事になっていたんだっけ。
・・・いやー、お茶碗いっぱい分くらいの湯で良いんスけどね。ほら、日本の中華料理店でチャーハンとか丼物頼むと、スープがついてくるじゃないですか。あの程度の奴。でも、この店容赦しねぇなあ、でかい丼で持ってきたぞ。
そういえば、ちゃんとした中国料理店でスープ頼むと、こういうでかいのが来るよな。中国料理文化圏の人ってスープをメチャ飲むのか。
中には、なにやら怪しい魚の姿が透けて見える。若干濁り気味のスープで、具は葱と巨大魚のみのようだ。なんだ、これは。丸ごと入っているぞ。
「これ、サバヒーだよ!」とFishがうれしそうに言う。えっ、これがサバヒーなのか。
サバヒー。おかでんが訪台するにあたって、ぜひ食べてみたいと思っていた魚だ。おかでんに台灣行きを決断させた番組、「台湾新発見」。そこで萬巒の海鴻飯店の事を知ったので今こうしてこの地を踏んでいるわけだが、それと同時に台南の「サバヒーを使った粥で朝食」というのも番組内で知り、大変に興味を持ったのだった。
番組内では、「サバヒーは台灣南部で食べられる魚」「足が速い魚であり、早朝に仕入れて、朝のうちだけに食べられるものだ」「皮も身も食べられ、余すところがない」などと紹介されていた。その屋台で出されているサバヒー粥が美味そうだったのと、「台灣南部限定(?)」で、強い印象を持っている。特に、美食の都・台南を紹介する際に取り上げた食材なのだから、スポンサーである台灣観光局としても「これはお勧め」と言いたかったのだろう。
訪台前に、Fishに「サバヒー、知ってる?」と聞いてみたが、最初は「・・・知らない」と答えていた。が、番組を実際に見せ、魚の画像を見せたら「ああ、サバヒーの事ね」と急に納得したのが何だか面白かった。「いやだって、サバヒー知らないってさっきまで言ってたのに」「発音がちょっと違うからわからなかったし、台灣語だからゴニョゴニョ」と弁明していたが、何のことかよくわからない。
問い詰めてみると、サバヒーは台灣語だという。北京語だと別の呼び方(スームーユイ)があり、そちらの方が一般的なので、まさか番組内でサバヒーという言葉が出てくるとは思わなかったようだ。しかも、日本語風発音による「サバヒー」だったので、理解できなかったようだ。疑問型的に尻上がりに発音するとそれっぽくなる。
それは兎も角、「傷みやすい」と言われている魚が今こうして昼飯時に、内陸部の集落で食べられるとは一体どういうことだ。冷凍技術が発達しているから、魚なんてどうにでも保存が効くと思うんだが、どうか。
よくわからんが、なんとも怪しい魚なので後々の調査課題としておく。
それにしてもなんとも無骨にスープにぶち込まれたものだ、サバヒー。あっ、忘れていた、この料理の名前は「虱目肚魚湯」です。
大きなレンゲですくい上げてみると、スープに入れるにはデカすぎだろう、という半身が出てきた。これをがっつりと食べるのがこの料理の醍醐味(だいごみ)というわけか。いやしかし、もう少し細かくしてくれた方が食べやすいし、みんなに行き渡るんですけど駄目ですかそうですか。料理名に「肚」が付く魚料理は、基本的に「丸ごとぶちこんでやりました」という意味になるらしい。
スープを飲む。あれっ、薄味だ。今までのしっかりした味はどこへいったの、というあっさり味。というか、味があまりなくて物足りない。魚からのダシもあまり利いていないような。意外だった。臭み消しなのか、生姜の風味がする。
そして肝心のサバヒーなのだが、身どころか、外も白い。生っ白い、と形容した方がよろしい。日本人にとってはあまり食欲をそそらない色だ。どう見ても脂が乗ってなさそうで、味気ない雰囲気。というより、その白さがなにやら気色悪い。その割には、ニシンのような鱗をしていて、ますます乗り気になれない。ニシン、というより色白なボラといった方が正しいか。
実際に食べてみたら、案の定味気ない。サバの煮付けに失敗したかのようなパサパサ感だし、味は淡泊。これだったら、バターソテーなどにして濃いめの味つけにした方が良いのではないかと思うが、駄目っすか。
それよりもむかつくのが、小骨がやたらとあることだ。こいつ、なよなよした外観をしている割には結構骨のある奴だぞ。サバを食べたときに遭遇する骨のようなものが結構な量あって、とても食べにくい。骨ごと練って揚げ物か蒲鉾にした方が良かったんじゃないか。
などと、あれこれこの魚に疑問を抱きつつ、食事を進めていった。
なお、不思議な事にこのスープ用に別の容器は用意されなかった。よって、スープを飲んでいる間、取り皿になるものが無いのだった。不自由だ。
でもそれくらいでちょうどいいや。とにかくいい加減おなかがいっぱいになってきた。食べきれないのは間違いないので、だったら最優先で猪脚を食べる事に集中しようではないか。・・・まあ、猪脚の場合、店員さんに「打包」と伝えればお持ち帰りにしてくれるんだが。でも、恆春に行ったら行ったで、その地の美食を食べる気満々であり、今後猪脚を食べるチャンスなんてあるかどうか。これだけは心残りのないよう、しっかり食べておこう。はっきりいって、空心菜なんてどこでも食べられるわけだし、こういうのは優先順位低。
とはいえ、濃い味付けのものが多いので、野菜料理は随分とありがたい。ついつい空心菜に手が伸びてしまう自分が悔しい。
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