

会場の奥には、ステージがあって今まさによさこいの演舞が行われていた。
雪が降り、まばらな観客に見つめられながらの演舞は、一歩間違えると罰ゲーム的ではある。それでも演者は一生懸命パフォーマンスをしていた。その迫真の踊りに、見ていた観客はパラパラとまばらな拍手を贈っていた。
・・・いや、演舞がしょぼかったんじゃない。見ている人が少ない上に、雪が音を吸収するので、爆音でもなければ音が消えてしまうんだ。

「隊長隊長、あれが明日の障害物じゃないっすかねー?」
よこさんがちょいちょいと舞台右側を指さす。熱いダンスが繰り広げられる舞台を尻目に、ひっそりとそこにはフェンスらしきものがあった。
フェンス?いや、フェンスにしては、ごく一部分しか覆っていないから意味をなしていない。野球やサッカーの球避けだったら、もっと大きなフェンスを設置するだろう。そういえば、このフェンス周辺には、冬季五輪ではよく見かける「コースを仕切るための赤いネット」が張ってあるぞ。ああ、ということはこれが「のっとれ!松代城」のコースであるというのはほぼ間違いあるまい。そうかー、この壁を乗り越えていかないといけないのか。

「立ち入り禁止、とかなってないし、近づいてもいいのかな?」
「そうっすねえ、ダメとは書いてないですし、いいんじゃないんですかー」
じゃあ、ということでおかでん突進。しかし、このあたりは雪が踏み固められてないのでつぼ足になる。長靴を履いていないおかでん、最初は「わー」と冗談っぽく突進していたのに、途中から「ひゃあああ」という悲鳴に変わる。足首から靴の中に雪がぁぁぁ。
とはいっても、引くに引けないのでそのままの勢いを駆ってフェンスまで辿り着いた。

これが「騎馬止め破り」。明日はこの向こう側からよじ登って、こっち側に下りてくることになるはずだ。高さでいったら4メートルほど。縄で網目を作っているので、滑りやすいということはない。だから、先ゆく人が足を滑らせて滑落、下にいる人が巻き込まれて転落・・・ということには多分ならないだろう。これが鉄ばしごみたいなものだったら、危険度MAXだが。

赤いネットで作られたコースを目で追っていくと・・・

ピラミッドのように段差がある、人工的な山が待ち構えていた。高さは、4段。これが、「第1砦」という名前らしい。
「主催者もやりやがる。観客が大勢いるところに障害物を並べて、参加者が苦戦しているところを見せ物にする気だぞ」
「なるほど、だからいったんここをスタートして、ぐるっと回ってまたここに戻ってくるルートなんですねー」
参加者がわーっと出発してしまい、残された会場では「さて・・・どうするぅ?」というのも間抜けな話だ。だから、いったんぐるっとその辺を走らせて、疲弊して集団がばらけた頃合いでまた会場内にルートを戻し、障害物競走を3つばかりやらせて、観客の皆様に喜んでいただこうという算段だ。そこから先は、ひたすら松代城目指して無観客試合ということになる。
遺恨渦巻いていた昔のプロレスは、相手レスラーが憎くて憎くてモウ、となると「観客がいないところで白黒つけちゃる」といってノー観客マッチをやったものだ。宮本武蔵をなぞって、巌流島にリングを持ち込んでそこで時間無制限一本勝負をやったり。で、完全に無観客試合だとそれは「プロレス」ではなく「単なる暴行」になっちゃうので、スポーツ新聞記者やプロレス雑誌の記者だけを招いて、それで試合をやったものだ。その結果を週刊プロレスなんかで読んで、少年おかでんは大いに燃えたものだ。
話がずれた。で、ショウとしての「のっとれ!松代城」はその大半が、「越後まつだい冬の陣」の来場者からは見えない場所で行われる。なので、場つなぎとしてアイドルとか演歌歌手がやってきて、レース終了までの間歌謡ショーをやっているらしい。
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