潜入、湯治宿【大沢温泉】

2014年12月の那須湯本温泉、翌年1月の四万温泉と温泉療養を繰り返してきた僕だが、2月期もまた出かけることにした。

温泉宿でゆっくりすることを通じて、チューニングしすぎてカリカリしていた僕の脳はいくぶん和らいだ。これは間違いない。「全てのことがデフラグされ、最適・最短化」されていないと苛立っていた気持ちはひとまず落ち着いてきたと思う。

「服の右袖から着るべきか、左袖から着るべきか。いや、その服を取るためにクローゼットに向けて振り向いた際に、手前の洗面台にある綿棒を一本取って右手でそれを使った方が効率的なのでそうしよう。ならば左手が空いているはずだ。左手で服を手にすることになるので、やっぱり右袖から服を着たほうが正解だろう。いや!でも服を今着るよりも先に、トイレに行った方が!?」

みたいな事を本気で、四六時中何をする時でも考えていた。とにかく、もっとも効率が良いと思われる行動をとらないとものすごく損した気分になる。明らかに強迫観念だ。で、生きることだけでクタクタになっていたのがこの数ヶ月間の出来事。

温泉療養を2泊以上やっていると、そういうゴチャゴチャした事を考えるまでもなく、「風呂入って寝て飯食って」しかない時間を過ごすことになる。これが随分と療養になった。

「あ、自分の行動を効率化させなくてもいいんだ!」って気づく。

やっぱり、こういうのは「気づき」が大事だ。どんなにセラピー本を読もうが、高邁な心理学の知識を仕入れようが、最終的に「自分自身が腑に落ちる」というプロセスがないとダメだ。そのためには、長い期間のトライ&エラーがあって、時には挫折なんかしないと「真に腑に落ちる」ことはないと思う。いくら認知行動療法の本を読もうが、アドラー心理学の本を読もうが、この「気づき」ばっかりは「悟り」に近い。もう、何かをきっかけに「悟る」しかない。

わずかながら悟りの境地に達した不肖おかでんは、生活様式を変えてみた。

「宿に泊まると朝飯夕飯の時間がきっちり拘束され自由がなくなる。飯の量もある程度決められてしまう。なので、昼飯を食べる時間も量も、必然的に決まってくる。そうなると、夜何時に寝て朝何時に起きて、昼間何をするかというのも固まってくる。あれこれ自分の行動に選択肢がないということは悩むことが少なくなることであり、とても気楽で素晴らしい」

というのがこれまでの僕の実感。で、それを自宅での日常生活に埋め込んでみると・・・

アラーム。

アラームを一日のうちあちこちで鳴らすことにしてみた。

起床時間にアラームが鳴るところから一日が始まる。これは誰しも一緒。

朝、休みの日ならついついゴソゴソしてのんびりしたり、テレビをぼんやり見たりしてしまいがち。しかし、起床時間から30分後にはまたアラームが鳴る。朝食を食べる時間だよ、という合図だ。

11:50になるとまたアラームが鳴る。そろそろお昼ご飯の時間だから今やっていることの区切りを付けなさい、という予告だ。で、12時になったらアラーム。お昼休みだ。ここでお昼ご飯を食べよう。

13:00にアラームが鳴るまでは、意識的にのんびりとする。午前中にやってきた、娯楽でもブログ更新でもなんでも一時中断。で、13時になったら再開してよろしい。

17:50にまたアラーム、18:00には「今やっていることを打ち切って風呂に入れアラーム」、19:00には「夕飯食えアラーム」。

24:00になったらルータの設定によりネットが自動的に遮断される。以降、翌朝7:30までネットは使えない。さらには、頭上のLEDシーリングライトが24:30に自動消灯されるので、だんだん24:30に向け部屋が暗くなってくる。強制的に、だ。なので就寝準備を進めないといけない。24:30にはお休みなさい。

この様式を会社に行かない日は取り入れてみたが、とても具合が良かった。ダラダラと過ごす、ということがないからだ。メンタルの不調を正すには生活リズムを整えるのが最優先の鉄則だけど、まさにアラームによるがんじがらめでその環境を作っているというわけだ。「やばい、あと20分でアラームが鳴る!今やっていることをケリつけなくちゃ」なんて気合いが入ったり、「ああ今日は時間があるからゆっくりでいいや」と気を抜いたり。時間を細かく区切ることで、こういうメリハリが自動的に作られていった。

もちろん、こうやってアラーム三昧の生活というのは、あらためて文章にしてみると相当にキモい。コミカルでさえなく、ヤバさを感じる。こういう行為もまた強迫観念の賜物であり、強迫観念を強迫観念で対処しているだけのことだ。

でも、これで日々ソワソワしなくて済むようになったのだから、一定の効果があったと思う。

というわけで、これらのことを「おかでんメソッド」として名付けてみた。おかでんメソッドとは、

(1)温泉に連泊して、その間はアホみたいに風呂入ってのんびり過ごせ。余計な事は一切すんな。何日か過ごせば、温泉でクタクタになるし、規則正しく飯を食うことで栄養も取れ、生活リズムが整う。

(2)日常生活にアラームを鳴らすタイミングをたくさん作り、生活リズムを自らガチガチに固めてみろ。窮屈だけど、自分の欲望に甘んじてダラダラ過ごすより遙かに楽。むしろメリハリのある楽しい生活になるだろう。

(3)ただし、急性期の鬱などには(1)も(2)も全く効かないので、ちゃんと医者に行け。回復期になると、運動療法と薬物療法、精神療法を行いつつだめ押しでこのメソッドを取り入れろ。

と言うことだ。

そんな「おかでんメソッド」を開発した僕だが、そろそろ自分自身が総仕上げの時期だという予感がする。それは自分の体調が上向いたということもあるし、そうそう平日に温泉泊なんてやってられるほど特権階級の住人ではないからだ。

なので、次の温泉療養はちょっとこれまでよりスケールアップしても良いのではないか、という気がしていた。具体的には、日数を3泊4日に増やす。ここで、これまでの「おさらい」と、これからに向けて「生活のクセを再認識して修正する」ことを徹底したい。

さて、例のごとく「楽天トラベル」で宿探しだ。これまで同様、「欲張らない、でも地味すぎない」という絶妙な行き先を決めるのは難しい。しかし、これまで過去2回の温泉療養のために検索してきた蓄積があるので、今回はその中から選ぶことにした。

前回同様、鳴子温泉の「一泊1,700円の湯治宿」も考えたのだが、2月で寒さが厳しい折、湯治宿で「あれがない、これがない」とドタバタするのはイヤだった。当日ドタバタしたくない、というより「何を持っていけば過不足ないのだろう?」と事前準備の段階であれこれ思案し、作戦を練り、あーだこーだと荷造りするのがイヤだった。そういう「いろいろ考えること」を放棄したいから温泉療養に行くというのに、むしろ余計な考え事を増やしてどうする。

しかし、これまで毎月温泉旅館に連泊する、ということを繰り返してきたので、金銭面で随分と罪悪感が蓄積されていた。赤字で生活が困窮するなんてことはないけど、「こんなことしてていいのか?ワシ」という気持ちがじわじわと強くなっている。だから、安宿大歓迎だ。

となると、湯治宿、というのもあながち捨てたもんではないな、という気がしてきた。もちろん、「便利な湯治宿」という都合のよい条件が適合するところに限るけど。なにせ3泊4日しようというんだ、1泊2日とは訳が違う。うっかり「すべては自己責任で!」というそっけない湯治宿に泊まって、モノ不足に苦しめられるのはイヤだ。

最近、すっかりアメニティ完備の宿ばっかり泊まっているからなぁ。自分であれもこれも持ってきなさい、というスタイルに適応できるかどうか、自信がない。

で、結局腹をくくったのは、岩手県花巻市にある「大沢温泉」だった。

大沢温泉は、湯治宿としては全国区の知名度を誇る有名な宿だ。とても開放的な混浴露天風呂があることでも知られている。以前、同じ花巻市にある「鉛温泉」に泊まった時、この宿の横を車で通り過ぎた記憶がある。

いよいよおかでん、温泉療養の本筋を忘れ、混浴で鼻の下を伸ばすに至ったか!けしからん!・・・ということはない。混浴なんて全くどうでもよい。今回の場合、有名だけどまだ未訪の温泉宿に泊まることができるということ、そしてそこが湯治宿で格安だということ、さらには交通の便が良いということが決め手となった。

東京からわざわざ岩手まで行っておきながら「交通の便が良い」というのは言い過ぎだが、それでも比較的便利が良いのは間違いがない。新花巻駅まで東北新幹線、そこから在来線で花巻駅、そして路線バスというルートになる。「体調が悪いと称して温泉旅行に行きやがってよ」という世間からの冷たい目(を意識してしまう自分)にとってさすがにこれ以上遠方は無理だった。道義的に。

この「大沢温泉」というのは一軒宿なのだが、どうやら建物は3つに分類されているらしい。素泊まりが原則の「自炊部(現在は『湯治屋』と改称)」、一泊二食付きの「菊水館」、そしてワンランク上な宿の「山水閣」。もちろん今回僕が狙うは「自炊部」ということになる。

一軒宿なので、自炊にすると食事のことが心配だ。しかし、この自炊部には外来も利用できる食堂「やはぎ」が併設されており、そこでは一品料理から定食までいろいろな食事を食べることができるらしい。なので、僕は「素泊まり+食堂利用」というハイブリッド型宿泊パターンを採用することにした。

折角の湯治宿なのだから、自炊にチャレンジするのも面白い。しかし、そう決めた瞬間に「食料は何を持参しようか?現地で何が買えるのだろう?鍋は?食器は?やるなら面白い料理を作ろうかな?」なんてあれこれ考え出すに決まってる。やめろやめろ、余計な事を考えるのはよせ。おとなしく食堂に頼ることにしよう。

食堂ったって、メニューが数品しかない・・・といったことはない。さすが湯治宿併設の食堂だけある、何泊しても飽きが来ないようなメニュー構成になっていて、唸らされた(大沢温泉のホームページにメニューが掲載されている)。思わず、「初日の夜はこれを食べれば、二日目はこういう構成にできるな・・・」と早くも腹算用を始める始末。だーかーらー、やめろって、あれこれ計算するのは。行き当たりばったりでいけよ。

大沢温泉は一軒宿なので、前回(四万温泉)のように「温泉街探検」といった余計な下心を出したり古い館内を探検して興奮するなんてことはない・・・はずだ。ただし、大きな宿だし湯船はあっちこっちにあるので、館内探検だけはやっぱりせざるをえないけど。しかしせめて、飯くらいは邪念を捨てておとなしく喰おうぜ。「いつどのタイミングでどの料理を食べるのがベストか?」と今のうちからあれこれ作戦を立てるのはやめとけ。

こういうのでザワザワしている時点で、やはりまだメンタルが本調子ではないようだ。まあ、だからこそひと月に一回はこうして温泉療養をし、「あれこれ考えすぎない自分」を取り戻すわけだ。なんだ、温泉療養する甲斐があるじゃないか。良かったなお前。

当時、「やっちゃいけない」と自分を戒めていたにもかかわらず、あれこれ思案しまくっていた証拠が残っている。それは、申し込む宿のプランをどれにするか・・・という検討だ。

宿のプランって、なんでこうもわかりにくいんでしょうか?

そっくりな名前で、微妙に値段が違うもの。
値段が同じなのに、プラン名が違って、でも内容が一緒に見えるもの。

紛らわしいものがいっぱいだ。他のプランと何がどう違うのか、明確に○×表で表して欲しいものだ。「Aプラン アメニティ×、内風呂×、室内トイレ○」みたいな。

というわけで、作ってしまいました比較表。バカだなー。

大沢温泉プラン比較表

2015年2月に大沢温泉の自炊部に宿泊しようと思った際、5つのプランが用意されていた。

  • ネット限定  【湯治スタンダードプラン 冬の陣】  4,166円
  • ネット限定!!! 【ビジネスプラン 朝食付】 3,703円
  • 自炊ベテランの方なら…【夕食:やはぎ定食に布団付】 4,722円
  • ネット限定!【夕食のおともに!水車そばプラン】 3,796円
  • 自炊デビューの方ぁ!!【夕食:ひっつみ定食に布団付】 3,611円

プラン名を見ると、「ははーん、食堂での食事が付くかつかないか、だけの違いかな?」と思うわけだが、計算してみるとどうもそうではないようだ。ちなみにこの中で一番安いのが3,611円(税別)で、一番高いのが4,722円。この中で一番安いのは「湯治スタンダードプラン」かと思いきや、実は「ひっつみ定食に布団付」のプランだった。えっ?飯無しの方が飯アリよりも高い、という現象が起きているわけだ。

何で?というと、それはここが湯治宿だからだ。

この宿は非常にわかりやすく明朗会計な料金表を持っている。その気になれば、部屋だけ、でもOKな宿だ(楽天トラベルやじゃらんにはそんなプランは表示されないけど)。で、必要な人は、そこからお泊りセットをバラ売りでチャリンチャリンと課金されていく。

掛布団 200円
敷布団 200円
シーツ 70円
まくら 10円
毛布 200円
ゆかた 200円
丹前 150円
こたつ 300円
暖房 600円
タオル歯ブラシ 278円
朝食 620円

ざっとこんな感じ。布団さえもレンタルすることになる。冬だからといって、気を利かせてこたつが部屋にあります、なんてことはない。必要なら、借りろ。

ガチな湯治宿なメニュー構成で、オラワクワクしてきたど!

長逗留する「プロの湯治家」たちは、自宅から布団やら暖房やら家財道具一式を持ち込んで本格的に寝泊まりする。その分安く付くからだ。しかし僕はというと、まさか東京から寝袋持参で大沢温泉に行くのはイヤだ。ちゃんと布団は借りたいし、厳冬期なのだからこたつも暖房も必須だ。服はジャージでもいいけど、折角の温泉なんだからゆかたも丹前も欲しい。・・・あれれ?オプションメニューのほとんどが必要なんじゃないか、ということに気がつく。贅沢な生活に慣れ腐りやがってこのブタ野郎め。思わず自らに毒づく。

で、先ほどの「よくわからない料金プランの値段の差」は、それぞれのプランごとに上記オプション品のうちどれが含まれているかが違うからだ。「ひっつみ定食が食べられるのに、一番安い!」といって飛びついたら、部屋には暖房もこたつもなくて極寒、という目に遭う。で、個別にレンタルすることになって、結局トータルのお支払いでは他のプランよりも高かった!なんてことになる。

面白いもので、布団や暖房の値段を積み上げていけばどのプランも等しいお値段になるかというと、そうではない。プランを全部分解してみたら、丸裸状態の「部屋だけ」の値段でさえも差があることに気がついた。その差、400円程度。・・・これを計算するのに小一時間かけた。なにやってるんだおい。時給分もっと他のことやれ。

ちなみに丸裸の部屋単体で一番安かったのは2,053円だった。生活用品と食料を自宅からトラックなどで運び込む覚悟があれば、一泊このお値段で温泉三昧ができる。一週間泊まっても、14,000円ちょっとだ。まあ・・・ローン支払い済みの持ち家ならともかく、賃貸暮らしの僕にとってはちょっと湯治生活ってのは無理だな。いくら安くても、「家賃の二重払い」っていう感じがして躊躇してしまう。

結局、「ネット限定【湯治スタンダードプラン冬の陣】」というプランを選んでみた。税込4,500円(入湯税別)。実はこのプラン、試算してみると「ビジネスプラン朝食付」よりも割高であることがわかっている。部屋単体の料金だと、200円弱ほど「冬の陣」が割高だ。

しかし高い方を選んだのは、ビジネスプランだと暖房、こたつが別オプションだったからだ。当日チェックイン時にレンタルの手続きして、その後にこれらをえっちらおっちら部屋に運び込んで、というのはだるい。既に部屋に据え付けてある方がいい。その点「湯治スタンダードプラン冬の陣」は、装備品に関してはフルスペックであり、少々高くてもお任せでいいんじゃないか、という気になった。

ぐったりだよ、旅行前から。もう疲れた。ああ早く大沢温泉で癒やされたい。

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