2002年03月24日(日) 2日目

おかでん 「だああっ。山小屋に例外は無いのか!?こんな都会に近い山だっつーのにお前ら朝からどこへ行く!まだ5時半だっつーのに・・・」
朝5時過ぎからのガサガサゴソゴソコンサートは、朝6時になるとピークを迎え、とてもじゃないけど眠っていられる状態ではなかった。われわれは、今日は奥多摩に下山するだけなので朝寝できると思っていたのだが、これではどうしようもない。まあ、いいや。起きるとしようか。
おかでん 「兄貴・・・あっ!」
そこには、凍てついた状態の兄貴が静かに横たわっていたのであったとうそを言ってみる。
兄 「さ、寒い・・・豆炭、役に立たずだったな」
おかでん 「いかに肩と布団との間に隙間を空けないようにするかで必死だったよ、ちょっと隙間ができればすぐに冷気が入ってくるんだから」

朝6時半頃、 のんびりと食堂へ。
おかでん 「・・・あれれっ、僕らともう一組以外は、全部食べ終わっていなくなってるじゃないか!」
食堂は、われわれのテーブルにお膳があるだけで、あとはがらーん。。。
おかでん 「食事は朝6時以降随時いつでも、って昨日言ってたよな」
兄 「言ってた。でも、この様子だとほとんどみんな朝6時ちょうどに食べ始めたって事なんだろうな」
おかでん 「そんなに朝早く食べて、どこに行こうってんだ?夜逃げか?」
兄 「もう夜は明けてるぞ」
おかでん 「ううむ、ますます謎だ」
この日の朝食は、鮭、生卵、乗り、漬け物、ご飯、おみそ汁。それにしても、本当によく山小屋の朝食では鮭にお目にかかる。ひょっとしたら、鮭は産卵の為に海から川に遡上して・・・ってのは真っ赤なうそであり、事実は高い山の中に棲んでいる生き物なのかも知れない。

みんな何か急がなくちゃいけない理由なんてあるんだっけ、なんて首をひねりつつ、かといってわれわれは急ぐ理由なんてなーんもないのでまったりとしながら出発の準備。
まずはここから山頂へ、30分ちょっとの登頂。
さすがにここからは雪の国へようこそ、状態なので兄貴もアイゼンを装着。

兄 「うわー、さすがに雪が多くなってきたぞ」
おかでん 「一面雪になったな、部分部分だけじゃなくって」
兄 「気を付けろ、滑るなよ」
おかでん 「大丈夫だ」
兄 「めり込むなよ」
おかでん 「大丈夫だってば」
しかし、登山道はガチガチに凍り付いていて、4本爪アイゼン程度では歯が立たず遭えなくスリップしてみたり、登山道を離れて道無き道をばく進しようとすると傾斜がきつくてまたもやスリップしてみたり。もう散々な目にあってしまった。

コースタイム30分のところを40分近くかけて、ようやく山頂に到着。雲取山、2017mの別世界にとうちゃーく。AM07:30。
正面には富士山が「おや、ようこそいらっしゃいました」とたおやかに微笑んで出迎えてくれた。

おかでん 「とりあえずの儀式をやっとくか。ホレ兄貴、三角点の上に乗り賜え」
兄 「こうか」
おかでん 「そうだ。よし、写真撮影・・・と」
兄 「確かにこういう写真は山で撮ることあるけど。山のてっぺんでさらに高いところに自分の身を置こう、って」
おかでん 「なんだ、歯切れ悪いな」
兄 「ほら、奥にある山座同定板の方が、位置は高いんだけど」
おかでん 「あれっ!」

おかでん 「困るんだよなあ、こういうことしてくれちゃ。せっかくの三角点のありがたみが減るんだよなあ。全く。あ、兄貴、この角度でよろしく」
兄 「結局そこで写真を撮るんじゃないか!」
おかでん 「いやなに、せっかくだから」
兄 「せっかくだから、なんてコトバをよく使うようになると年寄りの証拠だぞ」
おかでん 「むむむ。反論できないのが辛い」
バックにそびえるのは奥秩父主脈。飛竜山方面。

山の北側・・・雲取山荘側が雪と氷に閉ざされた冬の世界なのに対して、これから僕らが向かおうとしている南側・・・奥多摩方面は、ほとんど雪が残っていなかった。開放的な光景も手伝って、まさに小春日和。同じ山でこうも違うか、という感じ。
山頂で出会った、奥多摩からやってきた登山客から
「ここから先って、アイゼンがいるって聞いたんですけど本当ですかぁ?」
と疑心暗鬼の声で質問されたりなんかもした。どうやら、奥多摩側の光景を見てきたので、とてもじゃないが「アイゼン必須」の情報を信用できないらしい。
おかでん 「ああ、ここからすぐ下りのところで、もうガチガチに凍ってますよ。アイゼン無しだと、下るの無理だと思いますよ。尻で滑って降りるのも愉快ですけど、さすがにそれは危険だと思います」
それを聞いた登山客達、「やっぱりー」なんて顔を見合わせながら、あわててザックからアイゼンを取り出していた。
あと、アイゼンを持ってきていなかったらしい若者登山パーティーは、それでも雲取山荘方面への下山が諦められないらしく、まるでサルのように木を掴み掴み降りていった。大丈夫だろうか。
でも、上には上がいて、己をパチンコの玉に見立てたのかターゲットとする木のところまですとーんと滑って行って、木にしがみついてストップ、また次の木に向けて滑って・・・という強者もいた。芸達者だなあ。滑落しないようにお気を付けて。

写真に写っているのは、山頂直下にある町営の避難小屋。山頂のすぐそばにあるという立地条件の良さと、清潔さとで避難小屋にもかかわらず大人気らしい。シーズンになると、避難小屋から人が溢れるほど宿泊客がいるという。避難小屋に避難しようにも避難できないという悲劇。

ここから先は、ずっと石尾根と呼ばれる東京都と山梨県の県境に位置する尾根を下っていくことになる。
尾根筋は、防火帯に設定されているということで木々が伐採され、えらく開放的で気持ちがいい。
兄 「いや、今はいいけどな、夏は死ぬぞこんなに日当たりがいいと」
おかでん 「しかし、なんでここだけ防火帯があるんだろう?」
兄 「奥多摩湖とか、東京都民の水がめが近いからかな?」
おかでん 「ひょっとしたら、ここらへんには放射能だとか有害物質とかをこっそり埋めた事があって、それ以降植物が生えなくなってしまった・・・という事実を隠ぺいしている、とか」
兄 「こんな山奥にどうやってそんなもの運ぶんだよ、ヘリコプターか?」

石尾根上から山頂方面を振り返ったところ。
避難小屋がちらりと見える。

防火帯の中をぽくりぽくりと歩く。
おかでん 「むごい。あまりにもむごすぎる・・・ここの土地は既に死んでいる」
兄 「だから違うってば」


おかでん 「おわ、あまりにもさりげなく山小屋発見だ」
兄 「ええと。町営奥多摩小屋か。みんな出払った後なんだろうな、えらく静かだ」
おかでん 「注意書きがあるぞ?ええと、ここは自炊小屋です・・・食事は自分で用意してくれ・・・お土産とか欲しかったら雲取小屋に行ってくれ・・・あはは、なんか面白いなあ、この看板」
兄 「きっと、『えぇ?食事ないんですかぁ!?』なんて詰め寄られたりする事もあったんだろうね、だからわざわざ入口の目立つところにこんな看板を出しているんだろう」
おかでん 「うむむ、アワレなり。ちなみに素泊まり3,500円なり」

兄 「ヘリポートだ」
おかでん 「ほらー!」
兄 「何がほらー!だよ、全然関係ないだろうが」
奥に見える山のてっぺんが、雲取山山頂。

兄 「いい加減尾根道歩きも飽きてきた」
おかでん 「ずーっと似たような道だもんな」

おかでん 「どーですかお客さーん、感じが変わってきましたよ」
兄 「いや、どうですかって聞かれても普通の登山道だろう。特に何も」
おかでん 「まあ、そこを何とか・・・」

おかでん 「可愛いもんだな、北側斜面だったらがちがちに凍っているべきところなのに」
兄 「ぬかるみ、だな」
おかでん 「鼻で笑っちゃうのは、人間として間違ってますか。でも、笑わずにはいられません。へへん、ぬかるんでるんじゃねーよ」
兄 「つまらん見栄だ・・・」
おかでん 「でも、このぬかるみを馬鹿にしちゃいけない。さっきMTBで登ってきていた人、MTBがぬかるみにはまってしまうので手押しに切り替えていたな」
兄 「馬鹿にしたいのか、褒めたいのかどっちだよ」
おかでん 「いや、どっちでもいいんですけどね」

おかでん 「やー。ついに人口建造物が見えてきた。道・・・でいいんだよね、あれは」
兄 「幻でなければ」
おかでん 「ついにわれわれの長かった旅も終わろうとしているのであった」
兄 「もうまとめに入るの?早くないか?」

おかでん 「民家・・・ではないような。なんでこんなところに廃墟が?」
兄 「看板があったような形跡があるし、昔の山小屋なのかもしれないな。もしくは、茶屋?」
おかでん 「こんなところに茶屋か。登りはじめてすぐの場所にそんなもの作ってどうするんだろう。まったりしすぎちゃって、山登る気力が無くなりそうな予感」
兄 「だから潰れたんじゃ?」
おかでん 「あっ、なるほど」
登山口までの間しばらく、この手の廃墟が数件あった。昔はひょっとしたらこの道は目抜き通りだったのかもしれない。

おかでん 「いやー、降りてきましたー。鴨沢」
兄 「バスの便を一つ早めよう、なんていうから相当なペースで降りてきたぞ?おかげで何がなんだか、さっぱり記憶に残っていないような気がする」

おかでん 「何しろ、山小屋から4時間でここまで降りてきてしまったもんな。ちと早すぎたか。まあ、バスの時間まではまだしばらくある。まったりとここで時間を過ごそうではないか」
兄 「おい、あれは何だ?」
おかでん 「え?・・・あああっ、バスが来てる!あ、乗ります!乗ります!」

兄 「つくづく計画性がないというか何というか」
おかでん 「JR時刻表に載っていた時刻と違ってた。これは予想外だった。っていうか予想できんよ、こんなの。まあ、最後は『絶妙の接続時間』だったって事で勘弁しちくれや。おかげで、温泉にもゆっくり入れるこったし」
奥多摩駅から徒歩10分。「もえぎの湯」という日帰り立ち寄り温泉にわれわれは向かっていた。下山後のお楽しみと言えば、やはり温泉、そしてビール。これしかないでしょう。っていうか、それが目的で山に登っているという説もある。
おかでん 「入場料700円なり」
兄 「あ、飲み食いしたお金の精算ってのは最後にフロントでやる形なんだな。その都度払いじゃなくって」
おかでん 「最近増えてきたよな、このタイプ。小銭を持ち歩かなくて便利だけど・・・」
兄 「店側としては、ついつい余計なものまで買ってしまった・・・という事を期待しているんだろうな」
おかでん 「いや、実際はあとでどかんと請求されるのが精神的に憂鬱なので、自然と財布のヒモが堅くなってしまうという逆のパターンだったりする」

兄 「温泉どうだった?」
おかでん 「カルキ臭かった。以上」
兄 「まあねえ。確かにそんなとこかね」
おかでん 「でも帰りの電車の中で汗をべたつかせて、周囲の人から『あらあの人汗くさいわ』としかめっ面されるのはもの凄くイヤ。だから、汗を流す事ができただけでも極楽気分」
兄 「それに加えてお前の場合はビールがあるもんな」
おかでん 「おや、気づきました?」
兄 「目立ちまくってるよ、ビールが」

おかでん 「おおおおおおおぅ」
兄 「どうだ、美味いか」
おかでん 「危ない。あともう少しで尻が浮くところだった」
兄 「尻が浮く?」
おかでん 「ビールの最初の一杯、何でか上半身が前方に引っ張られるような感覚ってないか?引っ張られて、尻が浮きそうになる」
兄 「初めて聞いたぞ、そんな表現する奴」

おかでん 「わー、カレーかー。いいなーいいなー」
兄 「お前は食べないのか?」
おかでん 「いやね、甘露煮だの山菜だのを酒のつまみにしてしまったのでね、ここでこれ以上市場物価よりはるかに高い料理を食べるのは財政上厳しいのですよ」
兄 「じゃあビールなんて飲まなければいいのに」
おかでん 「いまだにそんなことを言うのか。もうそこら辺の心理状況ってのは理解してもらえてるものだとばかり思っていたのに。まあ、しゃーない、ちょっくらオーダーしてくるんで」
数分後・・・
おかでん 「ただいま」
兄 「ありゃ、またビールか!」
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