2001年07月20日(金) 2日目
山小屋の朝は早い。・・・だぁぁ、誰だ、朝3時過ぎからビニール袋をごそごそ鳴らしている奴は!出てこい!朝食の具にするぞコラ。
全く大迷惑なんである。中高年の宿泊者が多いせいもあって、みんな朝が早い早い。まあ、山歩きってのは早立ち早着が原則なので、ちんたら寝ている奴が悪いという説もあるだろう。しかーし、しかしだ諸君。百歩譲って荷造りのごそごそした音は許したとしてもだ、その場で団体の点呼を取り始めるとはいい度胸しているじゃねぇかこの野郎。しかも、ヘッドライトを各自装着しているから、時々僕の顔に光が照らされたりなんかしてもう最悪。
こういうのを見るにつけ、団体登山客排斥すべき!という意見には賛成してしまうんだよな。集団で行動すると、他人の迷惑に目がいかなくなる。最近じゃ、ネット上で彼ら団体登山者の事を「珍登団」などと揶揄したりしているけど、ホントそうだと思う。「勝手に遭難しろ馬鹿」と悪口の一言も言いたくなるが、遭難されるとこっちも気分が悪いのでそれは禁句だ。
・・・とまあ、朝のすがすがしい風景の写真を提示しておきながら、不平不満たらたらなんである。写真右隅に富士山が見える。やあ、今日は快晴だ。
千枚小屋の朝食。
小屋の人が「ポケモンふりかけをお持ちの人は食堂にお越し下さーい」と呼んだので、食堂に向かった。昨日受付をしたときに渡されたポケモンふりかけ、朝食の順番を管理するためのものだったらしい。
朝食のお供にもなるし、ふりかけを整理券に使うとはなるほど賢いなと思ったが、食堂の入り口で小屋の人にしっかりと回収されてしまった。本当に単なる整理券としての位置づけだったらしい。
さて、朝食はこんな感じ。説明不要ですね。山の上でなぜに鮭が出てくるんよ、っていうツッコミは言いっこなし。鮭は水陸両用どこの宿でも安く朝食のメインディッシュにできる魔法の食材なんだから。
ちなみに、これで1000円。山小屋ってそんなもんです。下界の基準とは全然違う。ここでは、「1000円払ったんだから美味いものを食わせろ」というスタンスではなく、「1000円払うことによって、わざわざ食事を下界から持って上がらなくて済んだ」というスタンスでなければならない。
朝食を食べ終わったら、さっさと出陣だ。なにしろ、千枚小屋に泊まっている人たちのほとんどが悪沢岳に向かう一方通行。集団に巻き込まれたら、消費税反対牛歩戦術みたいにのろのろ歩きになってしまうので、それだけは避けなければ。
朝5時35分、千枚小屋出発。
小屋のすぐ脇のお花畑がきれいだ。花の名前は・・・えーと、わからん。
いいや、見なかったことにしよう。
小屋の裏手から一気に急登。昨日登り始めてからようやく骨のある登りといった感じ。
お花畑の中をかきわけながら進む。ここら辺一体は、高山植物がそれほど貴重なものに感じられないくらい、立派に成長している。
別に「命っ」ってポーズをきめているわけではなく、タダ単にバランスを崩しただけっす。ほっといてください。
登りはじめて30分。稜線が見えてきました。
すでに高度は2,700mを越えていて、そろそろ森林限界。むちゃしてナンボな精神で高度順応をはかった僅かな木だけが生えている。しかし、さすがに厳しい自然には耐えられないらしく、高い木は残っていない。
向こうに見える稜線には、もう木が生えていない。さあて、植物さえ遠慮する高地に行ってみましょうかね。これからが登山の醍醐味(だいごみ)って奴。
06:05千枚岳到着。標高2,880m。
千枚小屋がある山の山頂がここ。一気に展望が開けた。とりあえず360度全部が見渡せる。ああ、ようやく山に来たァーっという気になってきたぞ。
千枚岳から悪沢岳方面を見る。おや、山頂近辺にガスがかかっている・・・大丈夫かな。
ここからは縦走コースとなり、山の稜線に沿ってアップダウンを繰り返しつつ前進だ。
千枚岳から見えていた悪沢岳のガス地帯に突入。案の定、視界は非常に悪い。
周囲はハイマツ帯。兄貴は「こういうガスがかかっている時って雷鳥と遭遇しやすいんだけど・・・」というが、どうだろう。
あ!いた!
雷鳥発見。国の天然記念物、雷鳥だ。らいてうと書いて雷鳥と読む。あ、違った、逆か。
初めて見た雷鳥の姿に、激しく興奮。周りの登山者もアドレナリン噴出させまくりで、写真を撮りまくっていた。
雷鳥はなぜ「雷の鳥」と名付けられているのかご存じか。雷鳥が下界まで降りてきて飛ぶのが見かけられた後は、必ず雷が発生するという。そういう事から雷様の使いとして、雷鳥と名付けられたらしい。その結果昔からこの鳥は捕獲されず丁寧に扱われてきた過去を持つ。
今では人間を恐れない数少ない鳥になった。・・・いや、公園のハトと一緒にしちゃいかんぞ・・・。完全に野生の鳥にもかかわらず、こうして人間が近くにいるにもかかわらず平気でひょこひょこと歩いているんだから感動ものだ。
よく見ると、二匹の雛がいた。
どうやら、大きい雷鳥は母鳥だったらしい。
寒い山の上で生活するためか、親どころか雛までが丸々としている。
雷鳥を見て、「この鳥を鍋にしたら美味いだろうか」なんて不埒な事を考えてはいけない。
悪沢岳山頂直下にくると、ガスで何も見えなくなってしまった。視界は100mあるか無いかといったところ。
こういう写真を、山に登らない人に見せると「雨男だねえおかでん君は。いつもガスったり雨降ったりしてるじゃないの」なんて言われるが、それは違うぞ素人諸君。山の上ってのはこういうもんなのです。
と、とりあえず申し開きをしておこう。そうでないと、「おかでん=雨男」ということでアウトドアイベントにお誘いがかからなくなってしまう危機の予感。
それ、もう少しで山頂だ。
急に岩場になったので、岩の間をすり抜けながら高度を重ねていく。
はーい、到着。荒川東岳、通称名悪沢岳。標高3,141m。
これだけ凶悪な名前の山もなかなかあるまい。毒が流れ出してきたりしそうだが、そんな事は全くない。
見よ、山頂には真新しい、周りに不釣り合いな標識が。うーん、写真を撮るにははっきり、くっきりして塩梅が良いんだけど、風情という点ではややマイナス。
ガスのため視界はゼロ。まあ、山だからしょうがないでしょう。
ちなみにこの悪沢岳、日本の山では標高第6位。
1位:富士山 3,776m
2位:北岳(南アルプス) 3,192m
3位:奥穂高岳(北アルプス) 3,190m
4位:間ノ岳(南アルプス) 3,189m
5位:槍ヶ岳(北アルプス) 3,180m
6位:悪沢岳(南アルプス) 3,141m
実は、槍ヶ岳の次に高い山だったんですな。その割には知名度が圧倒的に低いという、悲しい存在であることよ。安心しろ悪沢岳、今こうやってPRしてやっとるからな。
さすが南アルプスという事だろうか、高度3,000mということで植物はほとんど生えてはイカン場所のはずなのに、高山植物がこれでもかこれでもかと咲き乱れている。見よ、このすごさを。
様々なお花が競い合って咲いているその光景はまさに絶景。まるで誰かが庭園にしようとして植えたかのようだ。
1時間半ほどお花畑と岩稜地帯を歩いていくと、霧の中にぼんやりと人口建造物が姿を現した。荒川中岳避難小屋だ。
避難小屋といっても、薄暗くて狭くて臭い無人の小屋ではなく、ハイシーズンには小屋番も入っているらしい。ただし、「避難小屋」の名前のとおり、素泊まりのみ。以前は食事付きサービスもあったらしいが、水をボッカするしかなかったらしく断念してしまったらしい。レトルト食品程度なら販売しているというが、基本的には水、食料持参の上でここには宿泊ですな。定員20名、素泊まり3,500円。
おお、なんだか観光ガイドみたいになってしまった。
避難小屋からちょっと先に行ったら、荒川中岳。山頂踏破という充実感がいまいち無いのは、思わず避難小屋の前で休憩してしまったからだろうか。
山頂に到達したときの喜びってのは、やっぱりその直前の坂をひいひい言いながら登って、山頂着いて、「ああもう登らなくていいんだ」という安ど感ってのも大きいような。だから、直前で休憩してしまってはカタルシスが大いに損なわれてしまうんだろう。
ちなみに、標高3,083mって事で、さりげなく日本の山では標高第13位という高山であることを忘れちゃいかん。
さて、ここから進路を南にとって、赤石岳方面に向かう。岩肌がごつごつしたところを進むが、霧の中でこういう道だと結構迷いやすいので注意が必要。
道の先に、ぼんやりと何か看板が見える。本筋の道はそっちではないのに、なぜあんなところに看板が・・・と不審に思い、わざわざ看板のところまで行ってみることにした。
「ここは展望台 登山道路ではない」
わかっとるわい。わざわざそれを読ませるために呼び寄せるような事をすんな。余計道に迷うぞ。
道を下っていくと、そこは先ほど以上の大お花畑が広がっていた。もう、ただただ圧巻。
しかし、花の名前って何一つ知らないんだよなぁ・・・。
ええーっと、白いのがチングルマで、黄色いのがシナノキンバイでいいのかな? えーっと。
あ、これは知ってる。シャクナゲだ。花ではなくて葉っぱに特徴があるから、すぐに覚えられる。
お花畑の中を歩く青年おかでん。
うむ、荷物を背負っていてやや猫背に写っているというのは予想外だった。幻の珍獣ビッグフット、撮影される!みたいなシチュエーションではないか。
でも、おかでんはともかく登山道の左右を見て欲しい。本当にお花畑の中に登山道があって、そりゃもう素晴らしいんである。これだけの自然が残っているのは、ここらへんの山域が山深く、勝手に花を摘む馬鹿オバハンだとかゴミを捨てる若造とかがやってこないからだ。
不自由というのは、えてしてこういう「ご褒美」をくれる。
壮大なお花畑に感心しながらなおも下っていくと、荒川小屋が見えてきた。ここも東海フォレストが営業する、食事付きの山小屋だ。
よっぽどの健脚でないと、さわら島から1日で到着できない場所にある。
さあ、恒例となりましたお品書き紹介のコーナーat荒川小屋~。
ビール 600- ジュース(レモン、オレンジ) 400-
ポカリスエット 400- パック牛乳 400-
コーヒー(ホット) 300- ウーロン茶コップ 200-
缶ズメ(モモ、ミカン、パイン) 300-
酒(カップ)、焼酎(コップ) 400- おみそ汁 200-
荒川ワイン 500- フィルム35mm(24枚) 800-
荒川小屋オリヂナルバッチ(赤石岳、荒川岳) 各500-
カップヌードル、シーフードヌードル、カレーヌードルハシ・湯付 各500-荒川小屋特製
手作りカレー 1,000- 荒川具入りラーメン 700-
荒川丼(みそ汁つけもの付) 1,000- 水1L 100- 焼肉スタミナ 1,000-
山登らない人も、そろそろ「山の上物価」には慣れてきましたか?まあ、こんなもんですね。特に驚きはないです。カップヌードルに500円とは信じられない高値だけど、欲しい人はカネ払って買うということで。
あと、「荒川小屋特製」として、ここの山小屋はカレーが有名。山岳グルメ家志望のおかでんとしては(←今思いついた肩書き)ぜひ試食してみなければ。
朝9時半ということで、荒川小屋は一段落していた。朝、宿泊客を送り出してざっと片づけをしてマターリとしている雰囲気で申し訳なかったが、「すいませーん、食事できますかぁ」とちん入。直前まで荒川丼にしようかどうしようか悩んだが、やっぱり名物ということで手作りカレーをお願いすることにした。
小屋の主人は、厨房に向かって「若いお兄ちゃんだから大盛りにしてあげて」と腹ペコキッズ泣かせの気配りを見せてくれた。ナイス!
ナイスついでにビール600円なりを飲んでみる。うむ、これもナイス。
ちなみに、兄貴は「食べない」ということなので外に放置している。鬼だ。
さあて、待つことしばしやってきました荒川小屋特製手作りカレー。
えっ、これで1000円?高い!
・・・なんて言ってはいけないんだってば。これが山の上物価なんだから。
大体、何で荒川小屋のカレーが名物なのか、ご存じか。「手作り」だからなんだな。ちょっと待て、手作りでないカレーって一体なんだ。まさか・・・。そう、そのまさかで、食餌施設が整っていない山小屋は結構「夕食はレトルトカレー」っていうところがある。小屋としては、調理に手間がかからないので非常に楽だ。
そんな中、荒川小屋は「ちゃんとレトルトではないカレーを鍋でぐつぐつ煮て作って」いるところで非常に評価が高いわけだ。レトルトでないということは、お代わりもできるという事であり、それもまた登山者の好評を得ている理由の一つ。下界では些細なことかもしれないけど、そんな事が山ではうれしかったりする。
さて、その名物カレーですが、お味のほうは・・・いや、おいしかった!非常においしく頂きました。味そのものは普通ですね。名物だからってスパイスがいろいろ入っているとか奇をてらう事無く、ごくごく普通の粉っぽい学食カレー。でも、具がしっかりと遠慮無く入っているという事と、暖かい料理を食べているという事でもう大満足。言うこと無しです。
温かい料理って当たり前では・・・と言う無かれ。山小屋の食事は、短時間に大量の人数に提供しないといけないため、「できたて料理」の提供は無理。カツだろうが炒め物だろうが、冷めたものが出てきて当然。だから、このカレーのように「暖かい」料理を口にほおばると、何となくホロリと来てしまうというか。
栄養補充完了。荒川小屋の前で記念撮影して、さて次なる目標は赤石岳だ。
この荒川小屋も、1996年に立て替えられたとかで非常に新しくて快適だった。
ようやくガスが晴れてきた。
これですよ、これが高山縦走の醍醐味(だいごみ)!青い空、白い雲、そびえ立つ山、そして美味いビール。
。。。しかし、朝9時半から山の中でビールを飲むことになるとは思わなかったぞう。
真っ正面に見えるのは、小赤石の頂と呼ばれるピーク。
大聖寺平に向かう道。このあたりは風雨が強いからか、お花畑は無い。地面に張り付くような形で草が生えているだけだ。
大聖寺平から小赤石の頂(3,030m)を見上げたところ。空が、黒っぽいくらい青いのは高い山に来ている特徴。
ここから、この縦走中一番きつい登りに突入。
ふと上を見上げると、登山道ではないところに登山者が迷い込んでいた。相当山の上の方だ。しかし、途中でここが道ではないということに気づき、頭を抱えていた。ああ、可哀想に。
道なき道をトラバースして、正規ルートに戻るのが一番手っ取り早いんだけど、高山植物の上を歩くわけにもいかずしぶしぶ下山していた。せっかく急な坂を相当登っていたのに、全てが無駄になってしまった悲惨な人。
われわれはきっちりと登山道を踏み外さずに登る。あんな目には遭いたくない。
ようやく本日二番目の目的地、赤石岳が見えてきましたぞ。やれ、まだ距離はありそう。
やれ、疲れた。もういやだ。
写真を撮る枚数が増えているということは、「写真を撮影するふりをして休憩している」というわけで。
さっきから「小赤石岳の頂」ばっかり撮影してら。
ちなみに、この写真に写っているのがピーク地点。地蔵岳のようにオベリスク状の岩が空に向かってそびえていた。
一足先に到着しマターリしていた兄。
おお、あれが赤石岳・・・ではなく、「小赤石岳」。
山の名前で「小」が付くやつは、大抵「本物の山頂かと思って登ってみたら、そのさらに奥に本物があって激しくがっかり」させられるピークの事だ。
確かに、地図をもっていない人があの山を見れば「わあ、もうすぐ赤石岳山頂だわん」とうれしくなってもしょうがない。
・・・っていうか、地図持たないで山に登るな。
でもいるんだよなあ、そういう登山者。特に団体の人。「○○まで何時間くらいかかります?」なんて聞いてくる人がいるけど、まず地図を読めと。
振り返ると、すっかり晴れた荒川岳がよく見えた。右側のピークが悪沢岳、右側で雲がかかっているところに荒川中岳、前岳がある。
左下の緑の中に、小さく赤い屋根と青い屋根の荒川小屋が見える。(わかるかな?)
小赤石岳山頂ということで。
「小」という名称で、偽物扱いされてしまっている不遇のピークだけど、標高は3,081mと立派なものだ。
でも、すぐ後ろに赤石岳があるからねえ・・・。どうしても通過点にしか、ならない。
雲が自分の視点と同じ高さにある。
ここまで雲が晴れてくれれば、言うことなしだ。ようやく、今この季節が夏だという事を思い出させてくれた。長袖の上着を着ていたが、暑くて脱ぐことにした。
小赤石岳から、赤石岳。日当たりがいいはずなのに、ところどころ雪渓が残っていた。
真っ正面のピークが、赤石岳。さあて、あともう少し。
視線を赤石岳からやや右にそらすと、これも日本百名山の一つ、聖岳が見えた。
ぽっこりピラミッドのように盛り上がっている山が聖岳。
富士山登場~。
やっぱり、富士山が見えると得した気分になります。筑波山からでも北アルプスからでも見えるという、山屋からすると全然珍しくない山なんだけど。
どこかちょっとした展望台に行ったときに富士山が見えたら、山登りをしない人は「わあ、凄い凄い!富士山が見える!珍しい!」と大はしゃぎするけど、僕なんかは珍しく無いからしらーっとしている。
でも、槍ヶ岳が見えた日にゃ、「おお!槍が見える!凄い!やっぱ槍だよなあ」と熱狂。一般人と山屋の興奮する対象はどうもズレているようでして・・・。
到着~。
日本百名山赤石岳。標高3,120m。日本の山では第7位の標高・・・ってことは、さっきの悪沢岳の次に高い山ってことになる。
ここには、立派な標識のほかに昔からあるらしい標識があったので、そっちで撮影してみました。風情がある・・・つもりだったんだけど、どう見てもだんご三兄弟だな、これだと。
赤石岳山頂直下。あ、あそこに何か人工建造物がぽつんと・・・。
まるで、竜巻でとばされてしまったオズの魔法使いのドロシーちゃんの家みたいに唐突にある。赤石岳避難小屋だ。
ここも、先ほどの荒川中岳避難小屋同様、素泊まり、水持参が基本。
あ、ここにも雷鳥がいた!
母鳥を中心に、雛が5-6匹があちこち走り回っている。母鳥はそんなやんちゃな雛を見守っているが、雛は知ったこっちゃねぇとどんどん活動の場を広げていって・・・
「ぐげーッ!」
ほら、母鳥にオコラれた。あわてて戻ってくる雛。
今日のお昼ご飯は・・・って待て待て待て、さっき荒川小屋でカレー食ったではないか。
いや、あれはあくまでもおやつでしてネ、こっちが本物のお昼ご飯。千枚小屋で用意して貰っていたお弁当。ちらし寿司の上に鮎の甘露煮。
酸っぱいので腐りにくいし、疲れていても食べやすい。しかもパックいっぱいにご飯が入っているのでボリュームもそこそこある。アクセントの甘露煮も良。これで汗で失った塩分はばっちり補充。おにぎりなんかよりはるかにうれしいメニューだ。やっぱり、箸を使って食べるという行為は深い満足感を与えてくれる。
・・・んだけど、やっぱりご飯が水分多く、もっちゃりしておりました。仕方がないんだけど。
45分ほど赤石岳山頂でゆっくりと時間を過ごした後、今晩のお宿である赤石小屋に向かうことにした。
いったん、さっき登った道を折り返し、途中から脇道に入る。降下地点の岩には、赤いペンキで目印がついている。
結構ここにザックをデポしている人が多かった。身軽になって、赤石岳山頂をピストンする人たちのものだ。われわれは山頂でお昼ご飯を食べたため、重い荷物は全部山頂まで担ぎ上げたけど。
さらば縦走ルートよ、ということで縦走路から西(伊那方面)を省みる。うむ、山、山、山だなあ・・・。
高山植物大会Part2。もう、花の名前を調べる気力すらわきません。適当に図鑑でも読んで調べてくらはい。
いやいや・・・さっきのお花畑以上に花の種類があるですぞ。一体何種類のお花が咲いているのやら。
こんな花が、登山道からそれた奥にあるのではなくって、本当の道ばたに咲いているのだから素敵だ。植物には全然興味のない僕でさえ、こうして写真を撮りまくったくらいだ。
あ、この花は知ってた。クルマユリだ。
登山道は、赤石岳直下のカールに潜っていく形になっている。昔はここを氷河がゆっくりと岩肌を削っていったんですな。ちょうどスプーンでごっそりえぐったような形に山が形成されている。
ちなみに、冬山の場合は、このカールは雪崩るおそれがあるため、頭上の稜線を通ることになる。通称「ラクダの背」。・・・なるほど。
はるか先の稜線上に、赤い「何か」が見える。あれが本日のお宿、赤石小屋だ。
カールはお花でいっぱいでした。
まるで天国のように、それはそれは美しい光景でした。
といっても、天国に行った事はないんでよくわからんのですが。
さすがに7月にもなると、息も絶え絶えな雪渓さんがいらっしゃいました。真ん中でぱりっとまっぷたつ。ああー。
雪渓直下の雪解け水で顔を洗う。
冷たい!
しかし、「7月」で雪解け水を楽しめるんだから愉快だ。
急な下り坂にやや披露。一息いれる。
雪解け水のせせらぎが心地よい。
振り向くと、そこは雄大な赤石カール。
周りを山に取り囲まれる様は、沢のようだ。でも、V字形に山肌がけずれていないため、なんとなくのんびりした光景になる。とても気持ちの良い空間。
富士見平と呼ばれる地点に到着。
一体、日本に「富士見」という地名はどれだけあるのだろう・・・。
ここでは、名前の通り富士山を眺めちゃいけない。やっぱり、雄大な赤石岳を楽しまないと。ちょうど真っ正面に赤石岳がそびえていて、もうなんともはやこの風景を眺めつつビールを飲りたいッ!という感じなんである。
左側のピークが赤石岳、右側のピークが小赤石岳。さっきのカールは、左側の雪渓が残っているところ。
とにかく360度眺めがいいんだからお得としかいいようがない。普通、下山を開始するとみるみる視界が悪くなってしまうものだけど、ここは違う。何でも見てくださーい、と山のほうからすり寄ってきているという感じだ。
悪沢岳、千枚岳も思いっきり視姦してやった。どうだ。
進行方向を見下ろすと、さっきまではずいぶんと小さく見えた赤石小屋が、くっきろとその姿を見せてきた。「どさくさにまぎれて」という表現がぴったりな感じで、山の中にぽつんと存在している。
あのあたりはもう樹林帯だ。そろそろ、高山特有の開放感とはお別れ。
ハイマツが地面に張り付いている富士見平を後にする。雲が多いが、天気は いたって良い。うむうむ。
到着、赤石小屋。
14時過ぎに到着してしまった。もっと山の上でゆっくりしておけば良かった・・・。
正面が宿泊棟、左側がお手洗い。写真には写っていないが、右側の茂みの中に幕営地がある。
山小屋の前には、早く到着した人たちがめいめいくつろぎながら、ビールを飲んでいた。こういう光景をみるにつけ、山に登る奴はアル中なんじゃなかろうかと思ったりもするが、人のことは言えない。
まあ、山小屋に到着してしまえば、特に何もすることはないのでお酒飲むしかないという理由もある。
おお、この山小屋も入り口脇にビールジュースてんこ盛りの水槽があるではないか。どぉれ、後で買い占めしてやるか。うひひ。
小屋の入り口で受付をする。ここも東海フォレストの管轄なので、千枚小屋と料金は同じ。
「受付」の表札の下に、「酔っぱらいお断り」という注意書きの紙が貼り付けてあった。その割には、すぐ脇に清酒の瓶を並べて販売しているというのが謎。
この山小屋、食事メニューで「素麺」800円也があった。素麺は、ゆでるのに水を必要とするし、ゆであがった麺をさらすための水が必要。すなわち、水が豊富にないと提供できない料理なんである。水はどうやら豊富にあるらしい。
寝る場所の作りは、千枚小屋とほぼ同じ。この山小屋も清潔な作りだった。やはり数年前に改築したらしい。百名山ブームで山小屋はいつも混んでいてうっとおしい、という話は良く聞くが、そのかわり老朽化した山小屋は改築してもらえるわけだから痛し痒しだ。
今回も、びちっと区分けされた寝床を指定された。やっぱり、一人あたり1/2畳であることには変わりない。しかし、幸いなことに今回も壁際のポジションだった。両脇を見知らぬ人に取り囲まれるるより、一方は壁のほうがどんなに心が安まることか。
ほっとしていたら、寝床の中央付近にいたデブなおばちゃんから「あんたたち壁際なんでしょ?変わってくれない?」といきなり話しかけられた。何の事かよく分からなかったが、持病か何かの理由があるのかと思って「はぁ、別にいいですけど」と答えた。すると、横にいた兄貴がすかさず「指定された場所以外に移るのって、小屋の主人に許可とってます?」と鋭い指摘。するとおばちゃん、「断られたのよ!移動しちゃダメだって」なんて言ってる。おいおい、やっちゃいかんことをやれと言ってるのかこのオバハンは。僕は「じゃダメでしょう、どうしてもっていうんだったら僕はOKですから、ご主人に許可を取ってきてください。あと、僕ら二人で一組ですから、そっちも二人一組で移動してきてくれないと困りますよ」と言ったら、不満たらたらな顔で鼻を鳴らしてそっぽを向いてしまった。
後で、兄貴に「ありゃ体調が悪いんでもなんでもないよ、単にはじっこの方が楽だからだよ。あんな我が儘な奴の事なんか聞かなくていいぞ?」と言われた。なんでぇ、自分が楽したいからだったのか。あまりに露骨なお願いだったので、てっきり何か深い理由でもあるのかとおもった。ばっかばかしい。気を配った僕があともう少しで馬鹿を見るところだった。
まだ15時にもなっていない。
夕食は17時から。やることはない。ならば、僕らも小屋の前のベンチでビールを飲みましょうかね。
目の前の赤石岳が、あまりに雄大。ビールはこういう光景を愛でつつ飲むと非常に美味い。
ぐいーっ。ああ、いいねえ。いつもながら、いいねえ。
隣のベンチでは、イカクンやら柿の種やらを持ち出して、ワンカップ大関で宴会をやっているグループがいる。そのさらに隣には、遅い昼食を食べようとしてガスでお湯を沸かしている人がいる。
それぞれがそれぞれの時間を過ごす。呆れるくらいに時間はゆっくりとすぎていく。
さっき、「素麺がメニューにあるから水は豊富なんだろう」とコメントしていたが、実はそうではなかったようだ。
今日も山小屋到着早々、昨日同様汗拭きセクシーショットをお見舞いしようと思ったのだが、なんと水が15時まで出ないという。節水するためなのか、それとも発電機は夕方にならないと動かさないので、ポンプで水をくみ上げることができないのか。
ちなみに水場はここから徒歩5分、山を下ったところにある。この小屋は、水場からホースをひっぱってポンプでくみ上げしている模様。
15時になったので、早速水浴び。
「常に蛇口をひねっていないと、すぐに水が止まる」節水型蛇口なため、一人で水を浴びるのは大変。「て、手伝ってくれ!」という兄の懇願を聞き流しながら、カメラでその光景を撮影するのであった。
感心するくらい、次から次へと人がやってくる。そのほとんどがさわら島から登ってきた人たちだ。今日の早い時間にさわら島に到着して、そこからここまで登ってきたのだろう。
みんな、受付を済ませるための行列を作りながら赤石岳を指さしまくっていた。知らない人がその光景を見れば、すわUFO出現か?という印象すら抱く。
気の早いキャンプ野郎たちは、まだ16時なのに夕食の準備をはじめていた。ジュウーッという音と共に、肉が焼けるいい臭いがあたりを包み込む。おや、どこぞのテントは今日は焼き肉だな?
あまりの美味そうな臭いに卒倒しそうになりつつ、我慢。
ビール飲んで、風景愛でて、やってくる人たちをウオッチして。それでも時間が余るんです。
しゃーないので兄貴は一眠り。僕はここで寝ると夜が目がさえてしまうので、ガマンガマン。
ちなみに兄貴が寝ている姿だけど、これですでに1.5人分のスペースを占領しとります。それくらい、山小屋は狭いんですぞ。
お待たせしましたー。17時、下界ではまだ今晩のおかずはどうしようかしら?なんて考えはじめたころの時間にもかかわらず、山では夕食時間なんである。
今日の夕食はご覧の通り。
白身魚フライ、海老フライ、シュウマイ、スパゲティ、キャベツ千切り、サクランボ、小豆、ご飯、みそ汁、柴漬け。
懸案されたご飯は、昨日ほどではなくまあ及第点でした。
冷凍食品を山に持ち込むことができるようになって、山小屋の食事はこのように立派な体裁を整える事ができるようになった。山の上で揚げ物を食べられるなんて、正直薄気味悪い。
この小屋の売りは、食堂は赤石岳方向を向いていて、窓から赤石の絶景が見られます!という事。
・・・後で、いろいろ調べててそのことに気づいた。窓際に座っていないと、あんまりよく見えないです。何しろ、目の前にそびえている山だから。
食後、歯を磨く人たち。
そうそう、歯はきっちりと磨こうね。今晩のように、押しくらまんじゅう状態で寝る事になったら、隣の人の口が臭いという状態は非常に憂鬱だから。
といいながら、僕自身もしっかりと歯を磨く。もちろん、山だから歯磨き粉は使っちゃいけない。
まだ日が暮れない。ううむ。
小屋の裏手にテラスのような場所があったので、そこでしばらくの間暮れゆく赤石岳を愛でた。
さすがに気温が低くなってきたので、ビールを追加して飲む気にはなれない。
とはいっても、せっかくウィスキーを担いで登ってきたので、飲んでみることにする。もちろん、水はさっき汲んできた「南アルプスの天然水」だ。サントリーの商品じゃなくって、正真正銘の天然水。
実は大して好きでもないウィスキーをちびちびやりながら消灯時間まで過ごす。早く寝てしまってもいいのだけど、夜中に目が冴えてしまったときの絶望感は考えただけでもいやなので、ぎりぎりまで起きていることにする。
向こうでは、「場所変わってくれ」と言ってきたオバハンが大声で回りの人に自分の登山自慢を延々と語っていた。今まで登った山の中で一番よかった山はどこだ、とか疲れた山はどうだ、とか。他人の山自慢ってのは端から聞いていると非常に聞き苦しく、不愉快なものだということを彼女は気づいていないらしい。しまいには、
「あたしが山に登るのは花を見たいから登るの。それだけ。花が無い季節に山に登っている人達って、何が楽しくって登ってるんでしょうね?」
とのたまい、小屋内にいる大半の山屋を敵に回す大活躍。
消灯時間になっても不愉快マシンガントークはとどまるところを知らず、しまいに「うるさい、黙れ」と誰かにどなりつけられ、ようやく静かになった。
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