2001年09月23日(日) 2日目
[行程]
07:00雷鳥沢ヒュッテ→08:32一ノ越→09:25雄山[参拝]→11:13真砂岳11:28→12:13北峰[昼食]12:56→13:45剱沢小屋→14:10剣山荘(泊)
朝起きてみたら、同室の兄ちゃんがなにやらごそごそやっている。「眼鏡がない、メガネが!どこにいっちゃったんだろう?」知るか、そんなの。
隣のオッチャンに「兄ちゃん、また無くしたの?」と呆れられていた。「また」って何だ?「いやあ、昨晩はすぐに見つかったんですけどねえ、今日はちょっと・・・」だって。おい、たった半日前にも同じ場所でメガネなくしたんか、おのれは!
それを見ていた兄貴(こっちは血のつながっている方)が、露骨にイヤな顔をする。
兄貴 「あの人、夜中にけろけろ吐いてたぞ。酒飲み過ぎなんだよ。山に来て吐くまで飲むなっての」
おかでん 「えっ、そうだったんだ。全然気づかなかったよ」
兄貴 「便所行って吐くならともかく、部屋で吐くなと。それ以前に吐くまで飲むなと。しかも、メガネ無くしてるんだからどうしようもないよな」
おかでん 「あー、そういえばあの人、昨晩談話室でウィスキーラッパ飲みしながら漫画読んでたなあ・・・」
吐くまで飲んでしまう山小屋、それが室堂の山小屋。山中奥深いところにある小屋だったら、絶対にそんなむちゃはしないはずなのだが。
結局、部屋の同居人の助言を受けつつメガネを探し、大騒ぎした結果ベッドの隙間に落ちていた事が判明。やれやれ。
朝食は06:00からだったので、まずは朝風呂。うむ、山に登る人間としてはこれ以上ないぜいたくなり。
朝食メニューは、切り干し大根、味付け海苔、かまぼこ、生玉子、壷漬け、ご飯、おみそ汁。写真では立派な朝食に見えるけど、よく見てみるとメインディッシュたる料理の核が一つも無かったりする。まあ、ご飯を効率よくたくさん食べろ、って事だろうか。炭水化物を摂取して、パワーを導き出せ、と。
AM07:00雷鳥沢ヒュッテ出発。
東側は立山連峰があるため、この時間であってもまだ室堂は薄暗い。
これから立山に突撃だ。
途中、道を微妙に間違えてしまい、川を渡渉しなければならなくなってしまった。岩肌は、水没しているところは一様に苔で滑る滑る。
ずるっ。
思わず滑ってしまい、下半身ずぶぬれになってしまった。9月下旬の、標高2000mの水は大変冷とうございました。ううう。
おかでん 「くそ、まさかあそこまで滑るとは思わなかった。あともう少しでカメラ水没させるところだったよ」
兄貴 「おいちょっと待て、水のペットボトルが無いぞ?川に落としたんじゃないのか?」
おかでん 「え?・・・あー、本当だ、川に落ちてる!しゃあないなあ、もう一度拾いにいくしか・・・」
兄貴 「カメラ預かっとくよ」
おかでん 「よろしく」
・・・ずるっ。、またすべった。今度は、川底に尻餅をつく大失態。ますますびしょ濡れだ。
兄貴 「はははは!やっぱり!はははは!大丈夫か?」
おかでん 「俺の心配はいい!いいから、早くこの瞬間を写真で撮れ!撮ってくれ!」
とまあ、ほうほうのていで川からペットボトルをひっつかみ、逃げ出している写真が上のやつ。
おかでん 「どうだ、いい写真が撮れたか?」
兄貴 「まあまあ」
おかでん 「ダメだよ、こけた!と思ったらすぐにシャッターを切らなくちゃ」
逆に兄貴に説教をくらわすおかでんであった。
遠目で見ると、まだ紅葉は始まっていないように見えたが、歩いてみるとほら、結構色づいている。秋は「すぐそこ」なんではなく、「既に始まっている」のであった。
足下は、じゃりじゃりの霜柱。秋なんてもんじゃない、一部冬じゃないかこれでは。
誰も踏んでいない霜柱を意識的に選んで、ぐりぐりと踏みつつ歩く。そういえば、都会暮らしに慣れてしまって、霜柱なんて滅多に見なくなったなあ・・・。
変な道を通ったため、やや大回りして精神的ダメージを受けつつ、室堂から通じている登山道に合流。
・・・うわあ、何だこの人の多さは。
さすがにサンダルとかミニスカートといったナメた格好の輩はいなかったけど、もう登山道上から下まで観光客、観光客、観光客。「登山客」と呼ぶにはもうこの人数は多すぎる。ここが観光地であるというのを再認識だ。さっきまで紅葉や霜柱といった自然を楽しんでいたので、このギャップに一気に憂鬱になる。
しかも、この人たちは大抵団体旅行客であり、即ち20人、30人と隊列を組んでいるわけであり、そんな徒党を組むということはほとんどの人が登山慣れしていない人であり、結論をずばり言うとチンタラ歩いてんじゃねーよコラ、というわけである。
こういう集団と併走するわけにもいかないので、抜くとなったら一気に加速しなくてはならない。数十メートルの長さにまでなっている隊列を追い越す事数度、大した傾斜でもない登山道なのに疲れてしまった。オーバーペースだ。
お願いですから、山に登るときは少人数にしてください・・・。自然環境へのインパクトも考えて、「国立公園内の山に登るときは、10人以上の集団登山は禁じる」とか条例で決めてくれれば、僕ら少人数登山野郎にとってはずいぶんと楽なんですけど。
一ノ越到着。ここは、立山雄山の直下にある峠となっていて、黒部湖と室堂の境界でもある。
南側をはるか望むと・・・すごい絶景。山好きならたまらない光景だった。写ルンですのため、何がなんだかわからない写真になっているけど、この写真では「北アルプス」と呼ばれている山々が一望になっている。笠ヶ岳、槍ヶ岳、黒部五郎岳、水晶岳、大天井岳、燕岳・・・うむ、山に興味が無い人からすると「だから何?」と言われてしまいそうなラインナップだが。
一ノ越から室堂方面。ぞくぞくと人が登ってきている。室堂からここまでは、標準コースタイムで1時間。初心者でも大丈夫だ。そして、ここから雄山までさらに1時間。遮るものがない360度の絶景が楽しめるので、体を動かすのが面倒な人でも登るだけの価値があると思う。
さて、ここからが本格的な山登り。つづら折りの岩場道をいっきに登る。さっきまでの、しっかりと作られた歩道はもうそこには存在しない。
しかし・・・うわあ、危ない!岩場での歩き方を知らない人がひぃひぃいいながら登っているので、時々「がらがらがら」と落石をやらかしてやがる。しかも、疲れたーとか言って登山道の真ん中で休憩しやがるので、そいつを避けるために登山道を踏み外し、またもや石を転がしているという笑えない事象も多発。いずれ、ここで人が大けがするな。断言してもいい。いや、既に何件も実績があるか?
なんでそんな山の素人さんが、昇天しそうになりながら山に登るのかというと、雄山の山頂には神社があるんですな。立山雄山神社。文句なしのジャスト山頂に祠がある。よくもまあこんなところに・・・と呆れるが、山岳宗教ってのはえてしてそういうものなのだろう。標高、3,015m。晴れていればいいけど、台風が来たりしたら祠、黒部湖に落ちてしまうんじゃないかと心配になってしまう。
とりあえず、山頂の祠を参拝することにした。
その前に、入口で記念撮影・・・おいこら、指が写りこんでるぞ!
山頂直下の鳥居脇に、参拝料をお支払いするほったて小屋があった。ここで、500円をお支払いする。高いといってはいけません、何しろ標高3000mの神社なんだから。維持するだけでも馬鹿にならんはず。ああありがたや・・・と自分自身に言い聞かせてみる。
500円と引き替えに、きっぷと、シールと、ザックにつけることができるお札(鈴付き)をもらう。
祠の手前で、しばし待たされる。数十人単位での入れ替え制になっているらしい。そりゃそうだ、狭い山頂、来る人来る人全員詰め込んだら、誰かが負け出て黒部湖に落ちる。
祠から振り返ったところ。手前の建物が社務所。稜線をずずずいと進んでいくと、薬師岳、黒部五郎岳、笠ヶ岳・・・と並んで見える。
さて、待つこと数分でわれわれの番になった。何で待たされるのかと思ったら、驚いたことにここには神主さんが居て祝詞をあげてくれるのだった。なるほど、道理で時間がかかるわけだ。
狭い山頂に押し込められるだけ押し込めて、全員着席。足下は、ちゃんと玉砂利になっているので直に座ってもあまり痛くはない。
神主 「この玉砂利、記念といってお持ち帰りになるのはやめてくださいね。わざわざ麓から持って上がったものですんで・・・」
なるほど。
2-3分程度、簡単な祝詞があげられた。みんな、山のてっぺんとは思えない神妙な顔つきで聞き入っていた。
普通、山のてっぺんだと達成感でニコニコしているものなんだが。このギャップが面白い。
祠のすぐ横が、山頂の印があった。とりあえず記念撮影。二人の間に見えるのが、明日の目的地である剱岳だ。
おかでんが手にしているのが、鈴つきのお札。荷札みたいに針金がついていて、これを縒ってザックにつければ山中の安全間違いなし、というわけだ。
しかし、ちりんちりん鳴る鈴をぶら下げて悦に入ってる登山屋って大抵がDQNだと信じて疑わないので、ザックにくくりつけるのはやめておいた。
山に静寂を求めに来ているのに、ラジオを流していたり鈴をちりちり鳴らしているのは迷惑。で、面白いのがそういう「音が出るツール」をつけているのはほぼ100%が中高年・・・主に高年の方・・・だという事実。若い奴はまずそのようなものはつけない。
間違えてはいかんのが、雄山神社が立山の最高峰ではないという罠。実は、隣の大汝山のほうが12mほど標高が高い。
しかし、観光客にしてみればそんな差はどうでもいいわけで、眺めが劇的に変化するわけでもないのでほとんどが神社参拝で今来た道を引き返す。
ようやく静けさが返ってきた。これぞ登山の醍醐味(だいごみ)。
直下の室堂を見下ろしたところ。正面の大日岳・奥大日岳と立山に挟まれた高原で、まるでゆりかごのようだ。大きい池が「ミクリガ池」、そのすぐ脇の小さい池が「ミドリガ池」。
いにしえの立山講の人たちは、この光景を見て何を思ったのだろう。
反対側はおなじみ黒部湖。水が青々としていて、まるで何か毒でも流れ込んでいるのではないかと心配になる。
それにしても急峻な谷だ。ここをダム銀座にしたのは大正解だと、地形を見て思う。
あまりの大パノラマにうれしくなってしまい、360度ぐるり一周写真を撮ってみたんだけど・・・やっぱり写ルンですだとダメだな、できあがった写真を見たら、何がなんだかさっぱりわかりゃしねぇ。
こちらは、大汝山から北東方面の山々。「後立山連峰」と呼ばれる山脈で、五竜岳、唐松岳、白馬鑓ヶ岳、杓子岳、白馬岳・・・と続いている。
・・・のだけど、今こうやって写ルンです写真を見ても、荒い映像のためどれがどれだけわからぬ。すまん。
北西を見ると、日本海がよく見えた。富山湾からはるか能登半島までばっちり。
高山のてっぺんから海が見えるシチュエーションってのは島国日本にもかかわらず案外ないもので、こうやって海が見えた!というのはもの凄くお得感が高い。らっきぃ♪
360度の大パノラマをみるべく、首をぐりぐり回しているのもいい加減疲れたので先に進むことにした。
真っ正面に剱岳を臨みつつ、前進。
途中富士ノ折立(標高2999m)、真砂岳(標高2861m)、別山(標高2874m)を通過したが、いちいち説明していたらますますこのコーナーが登山ヲタっぽくなるので却下。
立山連峰の稜線から、やや突き出した位置にある北峰に到着。12:13。
ここでお昼ご飯の大休止を摂ることにした。ここまでくれば、後はもう本日のお宿である剣山荘に向かうだけだ。
いよいよ剱岳が真っ正面、何も遮るものがない状態で見えるようになってきた。日本の山の中で、奥穂高連峰と並び称される難度の高い山。そこには「カニのタテバイ」「カニのヨコバイ」と呼ばれる鎖場があり、素人にはお勧めできないルートとして有名だ。
「タテバイ」は岩場に打ち込まれているボルトを足場にして、垂直に崖を数十メートル登らなければならない。登りルートにある。
「ヨコバイ」は、これまた垂直の壁を数十メートル、壁に張り付くような形で水平移動しなければならない。その後、数十メートルに及ぶ梯子を降りる。こちらは下りルートにある。
いずれにせよ、足腰に自信が無い人やチキンハートな人には無理なコースであり、それ故に山屋の間では「一度は攻めてみたい山」として憧れの対象になっているのである。また、その「憧れ」の結果身の程知らずなオバチャン登山屋がよせばいいのに突撃してしまい、タテバイ途中で動けなくなって「すいませーん、先行ってくださーい」と後続の人に声をかけるんだけど、お前がいるから追い抜きできんのじゃゴルァという非常に見苦しい光景も頻発していると聞く。もちろん毎年必ず数名が岩から滑落し、山頂に登るのではなく天に昇ってしまうという事件も起きる。
明治40年に日本陸軍の陸地測量部ご一行様が登頂するまでは、どうやって登ればいいのやらと首をひねっていたくらいの険しい山。それは、便利になった今でも変わらない。遠くから見ても、そのずっしりとしたげんこつのような山の気配に圧倒されてしまう。全身これ岩という感じで、人間風に名前をつけるとしたら「岩男」と付けたい。というかそれしか思い浮かばない。間違っても「タケシ」とか「ミノル」といった名前ではない。
さあて、お昼ご飯にしましょうかね。
山中でのキャンプだから、至ってシンプル。チキンラーメンで勝負だ。お湯を沸かして、麺にかけるだけでできあがり。なに、乾燥ネギとか乾燥椎茸とかそういうのはいらねぇ。とりあえず軽量小型化最優先。
山だと、汗をかいているせいもあってラーメンが無性にうまいんである。今回だって、伝統のチキンラーメンと剱岳を見上げるこの絶景ビューポイント。まずかろうはずが・・・ぎゃ、まずい。まずいではないか。
っつーか、スープに泡が浮いているんですけどー。どうやら、出発前にお椀を洗ったのだけど、洗剤が無かったのでハンドソープを使ったのが仇になったらしい。粘性の高いハンドソープだったので、ゆすぎ足りなかった模様。ああー。
おかでん 「身も心も洗われるってのはこのことだな、まさか洗剤くさいラーメンを食うハメになるとは・・・」
兄貴 「ん?こっちは特にそんな事はないけど?おっさんのだけか?」
おかでん 「はいはい、どーせ僕は汚れまくってますよ、身も心も!ごちそうさま!」
兄貴 「皿をきれいにするんで、残りのお湯をいれるぞ。ゆすいだあと全部飲めよ、捨てると環境に悪いから」
おかでん 「げえーっ」
ワンゲル上がりの兄貴は、こういうとき容赦しません。鬼です。
げふ。口から泡を吹きそうな気分・・・。明日「カニのタテバイ」に挑戦するからって、今からカニの真似事してどうすんのよ。
昼食後、本日の目的地である剣山荘に向かった。ここ別山の標高は2,880mで、明日目指す剱岳との標高差は118mしかない(剱岳は2,998m)。しかし、この山のヤラシイところは、山頂に到着するためにいくつものピークを乗り越えていかないといけない事で、登山基地の剣山荘まで400m下らないといけない。非常にがっかり感が強いんである。
剱岳を真っ正面に見ながら、急な坂を下る。下った先の平地が三田平と呼ばれるところで、剱沢キャンプ場と剱沢小屋がある。(画面右端の赤い建物が剱沢小屋)
本日の目的地・剣山荘は剱沢小屋からさらに進んだところにあり、写真だと画面中央やや左の赤い「何か」がそれ。写ルンですの写真だとほとんど埋もれてしまっているけど、登山道がその上を通っているので何とか識別できる。
剱沢小屋。剱沢上部に位置するからか、山小屋にしては水が豊富にあるらしくシャワーが使えるという。
暇そうにしている、早着の人たちがテラスで缶ビールを飲んでいた。こっちに手を振っている。一緒に飲みませんか?というお誘いだろうか?ううむ、惹かれる。
剱沢小屋からさらに進むこと30分、本日のお宿・剣山荘が見えてきた。
ここは、剱岳登山の最前線基地になり、山頂まで4時間半で往復できる場所として人気が高い。
人気が高いということは、即ち混雑するというわけで、山小屋で混雑するということは、寝床のスペースが基本的人権を満たさないサイズになるわけだ。折しも、今日は3連休の2日目。ううむ、混雑は必至だ。
14時10分、剣山荘到着。時間としては早すぎるのだけど、じゃあこれから剱岳を往復してきますか、という時間があるわけでもなし。もうこれ以上身動きはつかないんである。しゃーない、まったりと時間を過ごすべえか。
写真は、剣山荘の入口から中を覗いたところ。8畳一間の部屋がずらりと並んでいる。山小屋の王道・通路にそって両側に雑魚寝タイプの小屋ではなかった。こんな辺鄙なところにある小屋なのに、しっかりしている。建物は二階建て。収容人数は200名ということなので、そこそこ規模は大きい。
われわれに指示された部屋は、既に4名の先客が居た。即ち、合計6名。この時間にして一部屋に6名もいるということは、夕方になると一体どれだけの人数になることやら・・・。
さすがに気の早い人は、布団を敷いて自分の居場所を確保している。しかし、兄貴から「どれだけ人が入ってくるかわからないので、寝場所確保は夜になってから公平にしましょう」という提案がなされ、われわれは布団を敷くのを先送りした。大丈夫だろうか。後になって部屋に戻ってみたら、寝る場所が無い!なんて事があったらたまらんが。
山小屋のお約束といえば、小屋の入口で行われるジュース、ビールの販売。ここは水が豊富らしく、ジュースを冷やすための水槽に水がじゃばじゃば流しっぱなしになっていた。流水の音につられて、たった今剱岳から下山してきた男達は面白いようにジュースやビールを買い求めていた。
しかし、困ったことに「水が流れている」のを水道の蛇口と勘違いしている輩が多く、手を洗う行為が後を絶ちゃしねぇ。飲み物缶が沈められている水槽なのに、汚水を流し込む事の非常識さを分かってない馬鹿ばっか。こうゆう配慮ができない奴らが「山、最高!大自然を満喫!」とかいいながらゴミを平気で捨てたりするんだろう。アッチ行ってなさい。
写真は、まさに今手を洗っているところの犯行現場。
不愉快になりつつも、ビールを買い求めた。まあ、お約束ですから。もちろん、口をつける部分は丹念にタオルでぬぐうのは忘れない。
さすがに山小屋物価らしくなってまいりました、500mlの缶ビールのお値段は700円。昨日の雷鳥沢ヒュッテと比べて、200円値上がりという事になりまーす。
併せて注文したおでんも着実に値上がりしていて、こちらが800円。ううむ、昨日より300円の値上がり也。でも、ネタが7品入っていて800円だから、コンビニでおでんを買ったと思えばそれほど高額ではない。・・・と思うことにしよう。冷静になればなるほど、オデンと缶ビールのセットで1500円というのは、ちょっと・・・。
何で二日連続でオデンを食べているのか自分でも不思議だが、当初行く予定だった穂高連峰登山のプラニングで、「涸沢で生ビールを飲みつつおでんを食べ、穂高の雄大さを満喫する(1時間休憩)」というのが組み込まれていたんだっけ。その期待感があまりに高かったので、行き先が立山・剱岳と変更になった今でもおでんを食べたくてしょうがなかったのだろう。
ぐいーーーっ。ぷはぁ。
いやぁ、標高3,000mを越える山々を縦走してきた後のビールはうまいやねー。そして、まだ15時にもなっていないという時間で、後はもうやること無いっていう開放感もまたビールのうまさに拍車をかけてくれる。
小屋前の広場には、たった今山から下りてきた人が休息をとっていたり、僕らのように小屋泊まりの人が暇を持て余して外に出てきたりと、なにやらにぎやかだ。
下山してきた人の装備はまちまちで、普通の登山スタイルの人に混ざって、ヘルメットやザイル、ピッケルをザックにくくりつけている人も結構多かった。おお、さすがは剱岳だ。立山と違って、「山始めたばっかりなんですけどー」とか「とりあえず体力が続くところまで行ってみようかと、ふと思い立ったんです」みたいな人は一人もいない。いい意味で緊張感のある空間。これはこれでとても気持ちよい。
ビールを飲みながら兄貴と人の流れをチェック。これ以上宿泊客増えるなヨ光線を360度に振りまきつつ、「ああ、あの人達出発したぞ。宿泊しないんだ・・・」とか「うげ、向こうから1名接近中。時間的には今日ここに泊まる事間違いなしだ」と一喜一憂。
この山小屋は、特に山小屋ガイド等に紹介はされていないが風呂がある。15時30分から16時50分までの限定ということだ。スピーカーからアナウンスの声がする。「旅館や民宿の温泉とは違いますので、3-4分の行水程度でお願いします」・・・だそうな。
混むのはイヤなので、一番風呂ゲトズサー。まあ、アナウンスの通りで、風呂場に5人も入ればいっぱいいっぱいな状態。我も我もと押し掛けてくるので、なんか寒い季節に行水修行するお坊さんみたいな状態に。汗を流して、軽く風呂に浸かって、はいさようなら。体を洗うなんてとんでもない。
ご丁寧に男子と女子に風呂はわかれていたので、女子風呂のほうは若干ゆったりしていた模様。
後になって、忘れ物に気づいて風呂場に取りに戻ったが、あまりの汗くささに卒倒しそうになった。剣道部部室の臭さを3倍に濃縮しました、って感じ。
入浴開始時間から、たったの15分後なのに。
徐々に日が暮れてきた。谷間に位置するので、16時を過ぎれば徐々に薄暗くなってくる。もうそろそろ、新たな宿泊客は来ないだろう。結局、心配していた大混雑は避ける事ができた模様。
時折、小屋のオッチャンのアナウンスが流れてくる。
「朝は水が凍るので、前日までに水筒に詰めておくこと」
「明日山に登る人は、荷物を小屋に置いておいても良いが、必ずザックにパッキンして部屋の前に置くこと。ちゃんと整理していないと、ゴミと間違えて処分することがあります。3年前、13万8000円の荷物が灰になった事があります」
・・・
先ほどから、何やら香ばしい臭いがする。夕食の調理だろう。
兄貴 「おい、この臭いは・・・今晩も豚カツじゃないか?」
おかでん 「ホントだ、この臭いは豚カツだ。間違いない」
兄貴 「うわー。悪くはないんだけど、二日連続はちょっとなあ。チキンカツに期待だな、せめて」
おかでん 「どっちにせよ、カツは確定って事か」
夕食の時間になった。うむ、やはり豚カツだった!山小屋ってのはよっぽど豚カツが好きなんだろうか。それとも、登山客が豚カツを欲しているのだろうか。
フライものをお皿の中央に据えると、メインディッシュとして成立するので調理する側としては楽なのだろう。ボリューム感もあるし、見た目も良い。しかし、コロッケや海老フライだとちょっと華が足りないので、ならば「床面積を取る」豚カツに白羽の矢が立てられた、って事だろうか。
ちなみに今晩の献立は、豚カツ、キャベツ千切り、オレンジ、わらび、鯖、たくわん、小鉢としてがんもどきとにんじんの煮物、そしてご飯とみそ汁。
二日連続で豚カツを食べるというのも芸がないので、入口の売店で赤ワインを買ってきた。「大」と「小」があったので、迷わず「大!」と注文。2000円なり。え、2000円っすか・・・。
出てきたワインは、サントリーのレゼルブ。「大」とはあくまでも相対比較だったらしく、ハーフボトルだった。うーむ、これで2000円なのか。2000円しちゃうのか。
でも、定価300円のロング缶缶ビールが700円で売られている(定価の2.3倍)なのだから、ワインだって同様の価格になってしかるべきだろう。ってぇ事は、こういう僻地では高いものを買えば買うほど、定価ベースのものよりも高額になってしまうわけか。よって、お得感が著しく欠ける。
豚カツを食べながら赤ワインを飲んだが、うむむ、あんまりおいしくなかったな。教訓。山小屋でワインは飲むな。ディナーでワインって優雅な感じだけど、少なくとも山小屋でそれを求めちゃイカンってこっちゃ。
部屋に戻って、同室の人たちといろいろ情報交換した。結局、8畳一間で6名ということで、二日連続幸せな安眠を貪れそうだ。しかし、同室の人の話によると、昨晩はこの部屋に14名が泊まったということで、なかなかな修羅場だったという。よ、良かった今日宿泊して。
消灯21時。余った布団を束にして敷いて、ちょっと高い位置で寝た。こうすることで、隣に寝る人が自分の領地に侵入してきたり、夜中トイレに行くときに誤って足を踏まれてしまうという事故が減る。生活の知恵だな。おやすみなさい。
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