2001年09月24日(月) 3日目
[行程]
05:55剣山荘→08:10剱岳山頂08:40→10:05一服剱10:12→11:35静御前小屋11:57→12:40雷鳥平→13:20みくりが池ヒュッテ[入浴、昼食]14:30→15:00室堂(トロリーバス)→15:10大観峰15:20(ロープウェー)→15:27黒部平15:40(ケーブルカー)→15:47黒部湖16:05(関電トロリー)→16:21扇沢17:00(川中島バス)→18:40長野
朝5時の北アルプス。
どうよ、この朝焼け。こういう絶景と出会えるのは山ならでは。都会じゃとてもこうはいかない。この風景さえ見ることができれば、僕はもう他に何にもいらないよ・・・とココロにも無いことを言ってみるテスト。
後立山連峰の先から日が昇る事になる。
朝食は朝5時半からだ。5時半時点で配膳が終わっているということは、山小屋の従業員は4時過ぎから作業をしている事になる。全くご苦労様だ。ホント、寝る暇がない。
剱岳の狭い登山道に登山客が押し寄せると、あれよあれよという間に行列ができるラーメン屋・・・ではなく行列ができる登山道になってしまう。酷いときは、一つの岩場の前に30分、1時間もの行列ができるという。だから、朝食を摂らずにお弁当にしてもらい、そそくさと出陣していく人も多かった。剣山荘に泊まっている人の大半が今日これから剱岳に登るワケであり、即ち朝食を食べた後にみんな一斉に登り始めるわけであり、即ち山道大渋滞必至、というわけだ。
「それもこれも、身の程知らずのジジイババアがへろへろになりながら山に登りやがるからだ、けっ、けっ」と毒づきたくもなるが、「じゃあ、少しでも渋滞緩和のためにお前は登るな」と言われたらイヤなので敢えてこれ以上は言わない。われわれは、朝食後すぐに出発できるように朝起きてすぐに身支度荷造りをしておいた。これで、朝食を食べてから身繕いをする人より一足早く山に取り付ける。
こういうセコさも、山では重要。
さて、肝心の朝食だが、まさか朝食まで豚カツだったら大笑いだったが、さすがにそういう事はなかった。
ウィンナ、スクランブルエッグ、ゼリー、キャベツ千切り、海苔、漬け物、ご飯とみそ汁。
おお!炒め物が2品もあるではないか。これはお得感が高い・・・と嬉々として食べてしまった。山に入ると、清貧の思想が自然と身に付きます。しかし、ちなみにこの朝食のお値段は1000円な訳であり、実は清貧どころか相当なリッチなブレックファーストなんである。
朝5時55分、剣山荘を出発。
さあて、これからあの岩山に取り付きますぞ。
標準コースタイム2時間半で山頂。それだけ聞くと近そうだけど、さてさて。
まず、剣山荘の背後にある山によじ登ること15分。稜線に出た。さっきまでは谷底だったので視界が遮られていたが、一気にここで見晴らしがきくようになった。
稜線に出たら、朝日がぱつーんと照りつけてきたので、あわてて上着を脱ぐ兄貴。
さあ、山頂までもう少し・・・
ではないんだな、これが。目の前にあるのが「一服剱」で、最初の目的地点。「まあ待てや、ここが山頂ではないけどマターリせいや」と地名が物語っている。くそ、こんなところでマターリしてられるかよ。
肝心の剱岳は、すっかり姿を隠してしまった。ついつい、目の前の山が剱岳だったらいいなあ、という希望的観測を抱き、その都度がっかりさせられてしまう。登山地図を見ながら登っているので、わかっているはずなんだが。
やあ、ようやく山頂だ。あともう少し・・・
えっ、違うの?
今度はここ、「前剱」という場所。標高2,813m。まだまだ山頂は先。
何で何度もがっかりするのかというと、この登山道は登ったり下りたりが激しいったらありゃしない。一服剱に着いたー、と思ったら、せっかく稼いだ位置エネルギーを無駄にするような急下降を頂戴し、いやーまた登り直しなのかヨとげんなりしながら急な坂をあえぎつつ登り切ると、今度もまたすとんと鞍部へ駆け下りる。しかも、ご丁寧に鎖が無いと下りられないような崖っぷちのところをアップダウンするものだから、結構疲労するし前歩いている人が鎖場を通過するまで順番待ちだし。
しかも、毎度訪れる小ピークのために目指す山頂が目視できず、一体いつまで続くのやらとやや精神的に疲労してしまうというのもある。なるほど、こりゃコースタイム以上にしんどい山だわ。
まいったまいったと言いながら進んでいくと、ようやく剱岳のご本尊が見えてきた。まさかあれも偽ピークですよと言われたら、その場で絶望のあまり滑落してしまいそうだけど、地図を何度も確認してそんなはずはないと核心。なんとか谷底に落ちなくて済んだ。
しかし、目の前にまたコル(鞍部)が見える・・・また、せっかく稼いだ標高を無駄にするのかよー。
岩場と戯れているうちに岸壁が愛おしくなってしまい、登山者はみんな岩に抱きつくようにしてじりじりと進む。平たい足場なんてどこにもない、一歩足を踏み外すとさよーならー、の登山道。・・・っていうか、これは道とは呼ばないぞ。
鎖が打ち込んであって、歩くための補助として使う。下手くそな人ほど、この鎖をぐいっとつかんで、綱引きのように引っ張るがそれは間違い。鎖に体重をかけるとかえって危険であり、補助以上の役割を期待してはいけない。
って事で、鎖があるから楽、というわけでは決して無く、単に道しるべとして機能しているだけという説もあり。
おかでんの場合、兄貴から「鎖に頼ってはいかん」ときつく指導を受けているので、えっちらおっちら体のバランスをとりながらじりじりと進んだが、他のオッチャンやオバチャンが恥も外聞もなく鎖をグワシと掴んで、ずずずっと前進している様を横目でみるにつけ「けっ、素人め」と馬鹿にする気持ち半分と、「ああ、楽そうでいいなあ」という羨望の気持ち半分が混在していたりする。
剱岳はめっぽう谷が深い。
この山では、谷の事を「窓(たん、と発音する)」と呼ぶ。「一の窓」「二の窓」「三の窓」・・・という地名がつけられている。
場所によっては、あまりに谷が深すぎて、厳冬期でもなかなか雪が積もらない谷底があるらしい。「春になっても雪が溶けない谷」というのはよくあるが、「谷が深すぎて雪が積もらない」ってなんじゃそりゃー。
岩場と戯れている最中。
平蔵のコル到着。人工的に石組みした後が残っていた。恐らく、昔はここに避難小屋があったのだろう。
さあて、いよいよ山頂直下まで侵攻してきましたぞ。目の前に見える岩場のてっぺんが剱岳山頂。しかし、ここからがこのルートの本題って事になる。
カニのタテバイ、カニのヨコバイだ。
ちょうど真っ正面の岩場が、まさしく日本登山ルート上最高難易度(ただし、一般登山者向けのルートに限る)として燦然と輝くカニ道楽の舞台となる。
ここからは、どこにカニさんが潜んでいるかは伺いしることができないが・・・いや、あった!真っ正面の、張り出した岩筋に人がはりついてる!
でたー。これが、名高い「カニのタテバイ」。
垂直30-40mくらいある岩場をよじ登らなければならない。頼りになるのは、所々に打ち込んであるボルトと、鎖だ。もちろん、滑れば一巻の終わり。この写真をとっているところだって、傾斜がそこそこある場所で、さらにその下は雪渓も残る谷となっている。落ちたら、死ぬ。
普通だったらこんなところに登山道は造らない。しかし、わざわざボルト打ち込んだり鎖張ったりしてでもここに登山道を造ったということは、他はもっと難所だったに違いない。ここでも、他から見れば簡単に登れる場所なのだろう。恐るべし剱岳。
オバチャンが尻込みしていたので、先に行かせてもらった。オバチャンは「若い人の動きを参考にさせてもらうわぁ」なんて言ってたけど、まずボルトに足をのっける第一歩を、右足にするべきか左足にするべきか議論が白熱している模様。
カニのタテバイ頂上から見下ろしたところ。おかでんがえっちらおっちら登ってます。
カニのタテバイを越えたらゴール、というわけではなく、単に鋭くとがった山の稜線を乗り越えただけに過ぎない。まだまだ登りは続く。
8時15分、山頂到着。標高2998m。剣山荘からの歩行時間は2時間20分。危惧していた鎖場渋滞はそれほどひどくなく、比較的順調に進めたんじゃないかなと。
風景は、昨日立山で見たものとあんまり変わりなし。ただ、今日もびっくりするくらいの好天で、360度全方位見放題状態だった。
目の前に見えるギザギザの稜線は、八つ峰という。冬季、この稜線沿いに登るっつーのが最強のアルピニストらしいのだが、夏に見てもぞっとする。遭難と紙一重。
8時半ころになると、狭い山頂にはがぜん人が増えてきた。この写真を見ると、どっかの公園での花見大会と何ら代わりがない。オッチャンが多いし。ただし、ワンカップ大関を持っていないというのが唯一最大の間違い。
みんな、ほうほうの体で山頂に登ってきて、とりあえず三角点にタッチしたり足をのっけて、山頂到着を確認していた。
8時35分、下山開始。
こんな感じで下山していきまーす、という感じ。この稜線沿いでずーっと下りていくことになる。目指す室堂は・・・室堂は・・・あー、はるか遠くにかすかに見えた。
カニのヨコバイ。
今度は、数十メートルに渡って、岸壁を水平移動しなくてはならない。もちろん、足場なんて用意されちゃいないので、足をそろりそろりと動かしながら次のステップを見極めないと。
カニのヨコバイが終わってほっとしようとしたら、今度は数十メートルに及ぶ鉄梯子による垂直移動が待っている。手すりがついているはしごでは当然ないので、これはこれで危ない。
こんな山に登っていると、公園のアスレチックが子供だましに見えてくる・・・って、あれは子供用の遊具だから別にいいのか。
10時5分、一服剱まで退却。
眼下に剣山荘が見える。
やあ、これでもう一安心・・・というわけではなく、ここからまた標高2700mの山を一つ越えなくてはならないからうんざりだ。越えた先が、ようやく室堂。
2,400m(剣山荘)→2,700m(剱御前小屋)→2,100m(雷鳥平)。このアップダウンでもうへろへろ。特に、剣山荘から剱御前小屋までの間は、比較的大きな岩がごろごろ転がっており、その上を大股で飛び越えなくてはならず、ますます疲労度倍増。
キャンプ場があった雷鳥平まで下りてきたときは、相当疲労困憊してしまった。道理で、初日夕方、雷鳥沢ヒュッテから見えた剱岳帰りの登山客がトボトボと歩いていたわけだ。今度は自分の番だ。
しかし、目指す室堂は雷鳥沢からさらに標高が150mほど高い位置にあるということをうっかり忘れていた。最後、地獄谷からの延々と続く登りで疲れのあまり座り込みたくなった・・・のだが、周囲は日帰り観光客がうろうろ。みんな長い上り坂に疲れ果て、「ちょっと休もう・・・」と休んでいる。こういう光景を見てしまうと、がぜん見栄を張りたくなってしまう。「けっ、軟弱者め。鍛えていないからそんなところで休んでるんだよバーカ」とクールに登り続けた。
・・・つもりだったが、表情は結構ゆがんでいたと思われる。うむ、あんまりクールではなかったかも、なんである。
長い坂を上り詰めた先には、「みくりが池温泉」という山小屋があった。ここでは日帰り温泉もやっているので、とりあえず何はともあれひとっ風呂浴びることにした。600円。
室堂から近い事もあって、「芋を洗う」という表現を地で行く大混雑だった。湯は白濁。眼下の地獄谷から温泉を引っ張っているという。標高2,300mにある温泉ということで、日本最高地点の温泉って事らしい。(ってぇ事は、一昨日の雷鳥沢ヒュッテは、日本第二位の標高温泉って事か)
なかなかいいお湯でした。っていうか、日焼けした肌が痛すぎて、何がなんだか、もう。
しかし、「いいお湯」っつーのは、それだけで終わるんではないんですな。そう、アフター風呂って奴でさぁ。それも併せて、温泉の醍醐味(だいごみ)。うひゃあ、生ビール売ってますやん。
そそくさと生ビール一杯600円をぐいぐい頂く。がうー。今日は早朝から剱岳登って、厳しい道を登ったり下りたりして、そして日本最高地の温泉に入って。これでまずいはずがない。よし、兄貴が風呂から上がってくるまでにもういっぱい頂くことにしよう。ぐいぐいぐいぐいぐい。ぷはあ。うまい。よし、二杯目だ。
兄貴 「お待たせ・・・あ、もう飲んでるのか」
おかでん 「いや、今飲み始めたところ。これ一杯目」
兄貴 「うそ付け。なんだ、この横にある空いたジョッキは」
おかでん 「あ、しまった片づけてなかったよ・・・」
しかしだ、山に来て、600円で生中ジョッキが楽しめるとはねえ。シアワセ、シアワセ。幸せついでに、ビアソーセージ500円なりを買い求めて、ぽりぽり楽しんだ。
奥のテーブルでなにやら歓声が聞こえる。振り向くと、生ビールをピッチャーで頼んだワカモノ達が、ピッチャーが到着したのがうれしくって思わず声を上げてしまったらしい。あ、そんなメニューがあったのか。パーティーサイズビール、2000円なり。1.8リットルのピッチャー。思わず、自分が手にしているジョッキをしげしげと眺め、今度は遠くのピッチャーを眺め、今度は兄貴の顔を見たが兄貴は「ダメだぞ、僕はいらないからな」と一言ぴしゃり。おかでんが何を言いたいのか、態度で察知したらしい。さすがは兄弟だ。
15時15分の臨時バスで、室堂から退却。また乗り換え地獄の始まりだ。さらば、室堂。さらば、高地の楽園。さらば、愛しのパーティーサイズビール。
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