2003年04月28日(月) 2日目
2日目朝。
外が明るくなって目が覚める、というよりも川の音が気になって目が覚めた。
最初のうちは、ああ清らかでいいですなぁ、なんて呑気に川の音を聞いていたのだが、徐々にうっとおしくなってくる。がらりと障子を開けて外を見ると、なるほどうるさいわけだ、目の前に突堤があって、そこで水音が豪快に出ているのだった。
普段は川の音と無縁な生活を送っているので、こういう音に対してはそれほど耐性が無いようだ。後で兄貴も、「川の音がうるさくてしょうがなかった」とぼやいていた。
旅館屋上にある貸し切り露天風呂。貸し切りできる風呂は2つあって、その両方ともが樽型の風呂になっている。いくら屋上といっても、周囲の建物から全く見えないわけでもない。だから、よしずを壁にたてかけて、視線に配慮している。
それでも、非常に開放的だ。これは、旅館の位置が鳴子温泉の外れに位置することも関係するだろう。
逆方向から写すと、こんな状態になる。
早朝、一人で入るのはとても気持ちがいい。
顔が非常に小さく見えるが、これは単に遠近法の関係と思われる。この樽が非常に大きいというわけではない。
でも、4人は十分はいる事ができるサイズの湯船であり、結構くつろげる。この手の樽湯って、大抵一人入ればいっぱいいっぱいになるものなのだが、ここのはゆったりとしている。
風呂からの眺め。さすがにここまでばっちり見ようと思ったら、立ち上がらないと駄目。真ん中に見える背の高い建物あたりが、温泉街の中心部にあたる。あの下に滝乃湯がある。
建物の中で、広いガラス張りの部分が見える。恐らく、あそこが展望風呂にでもなっているのだろう。いやん、丸見え。慌てて前を隠す。
・・・冗談です。1km近くあるので、何がどうなってるんだか、見えるわけがない。双眼鏡でも持ち出せば別だが。
でも、とりあえずあっちに向かって手を振ってみる。
意味がなかった。むなしい。
部屋に戻ると、兄貴がまだ寝ていた。
川の音が気になってしょうがないのか、掛け布団を頭まですっぽりかぶせている。
まだ時間は7時前。もう少し寝かせておこうか。
まだ朝の7時。朝食は8時からなのに、なぜこんなに早起きをしているのかというと、一枚のビラが部屋に置いてあったからだ。
「鳴子のおんせん朝市」
朝市、と聞くとがぜん旅情が掻き立てられた。そりゃ、行っておかなくちゃもったいなかろう。午前10時までやってるんだから、慌てなくてもいいじゃん、と思うが、やっぱり朝早く行ってこその朝市。早起きというハードルを乗り越えてこそ、朝市を満喫できるってもんだ。大体、「限定○個」のような貴重なものがあったらどうするんだ。早くいかなくちゃ。
・・・そんなものはたぶん扱っていないと思うが。
そもそも、朝市って何だ。朝採れたばかりの農産物、海産物を持ってきて売るというのがそもそもの主旨だと思うが、ここでは何を売ってくれるのか?朝作りたてのこけし、か?
行く途中、道路の片隅に足湯があることを発見。
とりあえず、足をつけてみる。
なるほど。
以上。
先ほど、貸し切り露天風呂でお湯を満喫したばかりなので「足湯?足だけなんてケチ臭いこと言っちゃあいけねぇや」なんて強気。
JR鳴子駅前に到着。昨日、宿を手配した場所だ。
壁には各旅館の看板がずらりと並んでいる。1泊2食つき15,000円から。バス・トイレ付き、個室露天有りの部屋もあります・・・なんて書いてあるわけではない。それぞれの旅館がひっぱってきている源泉の泉質が書かれているのだった。これはなかなか壮観。
多くの旅館がナトリウム泉及びその亜流な泉質のようだ。無色透明の場所も多いが、白濁していたり硫化水素臭がしたりといろいろバリエーションがある模様。
一つの源泉を大切に分け合っている温泉地とは大違いだ。さすが、奥州三大名湯・・・
と、ようやく本来の旅の主旨を振り返る事ができた。ここで強引に「さすが、奥州三大名湯」とこじつける事ぁないんだが、そうでもしないとどんどんベクトルがずれていきそうなので、そういう事にしておく。
駐車場には朝市の気配が無かったので不思議に思ったら、駐車場の建物の屋上で開催されていた。なるほど、のぼりが立っている。
現地に急行してみると・・・あらら。お客さん、少なぁ。平日月曜日朝、しかも観光地の朝ということもあって人がまばら。どちらかと言えば、店を出しているお店の人の方が多いときたもんだ。しかも、こっちは旅館の浴衣を着て下駄をカラコロならしてそんな場に飛び込んだものだから、店の人たちから熱いまなざしを送られる状態に。うわぁ、気まずいなあ。
結局、きまずさ半分、お土産ほしさ半分で饅頭を買った。何て名前の饅頭だったか、今となっては覚えていない。
引き上げようとしたら、デンスケとマイクを持った若い女性がすり寄ってきた。こ、これ以上気まずい思いはさせないでくれと逃走。「あの、すいません」と背後から声をかけられても、聞こえない振りをした。しかし、よせばいいのに兄貴が「おい、呼ばれてるぞ」と呼び止めやがる。仕方なしに何やらインタビューに答える羽目になってしまった。
聞けば、地元の有線放送の収録らしい。「どこから来たのか」「なぜ鳴子に来たのか」「鳴子はどうか」という3つについて質問しますから、よろしくお願いしますぅ、とぺこりとおじぎをされてしまった。仕方がない、こちとら勤務先の社内広報番組で2年間キャスターをやっていた身だ、見事にそのお題に答えてやろうじゃないか。
「どこからいらっしゃったんですか?」
「東京からです。」
「どうして鳴子に来よう、と思ったんですか?」
「鳴子は『奥州三大名湯』と呼ばれているって事をつい最近知ったんです。で、ぜひ一度その名湯を体験してみたいと思って、お邪魔させてもらってます」
「その鳴子ですが、如何でしょうか?」
「いや、さすがは奥州三大名湯ですね。お湯は非常に気持ちいいし、とてもリラックスさせてもらっています」
「どうもありがとうございましたぁ」
どうだ、この模範回答のような見事な回答は。我ながら感動してしまった。横にいた兄貴も「よく答えたな、これは放送確定だな」などと寸評を入れてくる。
しかし、他人事のつもりだった兄貴なのだが、
「では、こちらの方にも同じくインタビューを・・・」とマイクを向けられて、「ああっ、いいです、いいです。僕はいいです」と叫んで逃げ出してしまった。
宿への帰り道、一本裏道を歩いてみる。
前方になにやら黄色い、周囲から浮きまくった建物が見えてきたので何事かと思ったら、ここが鳴子温泉のもう一つの共同浴場・「早稲田桟敷湯」だった。
何でも、早稲田の学生がこの温泉を掘り当てたらしい。その縁かどうかは知らないが、浴場の建物も早稲田の教授がデザインしたものらしい。
うーん、温泉風情ってコトバ、ご存じなのだろうか。どう見ても、これは場に馴染んでいないぞ。旅情も全くくすぐられない。こんな近代的アートな建物は、都市部にでも作ってればいい。
・・・と思ったのが、非常に保守的発想なんだろうか、僕ぁ。
早稲田桟敷湯の脇にあった、温泉の配分器?らしきもの。
一つの桶から、6つの口が出ていてそこからパイプであちこちへと配給されているようだ。パイプの太さが均一ではないのは、高いお金を支払って、より多くの温泉配給権を獲得した旅館なのだろうか。
温泉は空気に触れると酸化し、劣化するからできるだけ空気に触れない方が良い・・・という事を聞いたことがあるが、ここは空気ふれまくり。大丈夫なのだろうか。
帰り道の途中に発見した風景一こま。
「私は防火水槽です」
うそをつけ、お前は単なるタイヤだろう。その横にあるマンホールの事を指しているんだとすれば、
「脇のマンホールは、防火水槽に繋がっています」と表記しないとうそだ。
宿に戻ったら、ちょうど朝ご飯の時間だった。
恒例ですね、宿の気合いが入りすぎて、おかずの量が多すぎ。そして、これまた恒例だが、そのおかずをご飯とともにぱくぱく食べるのでご飯がいくらあっても足りない。
あー、朝から食べ過ぎた・・・。
さて、今日の一発目は、鳴子温泉のさらに奥にある鬼首(おにこうべ)温泉郷だ。ここも、鳴子温泉同様に複数の温泉が集中している。湯量が豊富なのだろう。
ここの名物は間欠泉。行ってみたのだが、入場料を取る事が判明したので近づくのはやめにした。そのかわり、駐車場の脇から遊歩道が渓谷沿いに延びていたので、そちらを散策することにした。
この奥には、道沿いにあちこちで温泉がわき出ている光景を見ることができるらしい。
遊歩道に入ってすぐのところにあった看板。
「熱湯です手や足を入れないでください!」
・・・すっかり干上がっているんですけど。
どうやら、昔は奥の洞窟のような穴からお湯がわき出ていたらしい。手や足を入れられないくらいの熱湯が目の前を流れていたというのだから豪快だ。
しかし、温泉はナマモノと言うが、そのとおりここの源泉は枯れてしまった模様。・・・天変地異の前触れか?
吹き出る温泉発見。
「間欠泉」なんてもったいぶったことはしねぇ、いつでも吹き出してやるぜ!とばかりに、ぶしゅーっと音を立てながら噴水状態で温泉が天高く舞っていた。
これは絶景なり、と写真に収めてみたのだが、いざ写真を見てみると湯気ばかり写っていて「吹き出ている躍動感」が全く感じられない仕上がりになってしまった。
これがデジカメの限界、なのか・・・?
それとも、噴水温泉は夢か、幻だったのか・・・?
温泉が出ていますねぇ、という光景はちょっと離れたところから眺めるものだとばかり思っていたのだが、木道をびしゃびしゃと濡らしながら温泉がわき出ている場所がいくつも登場してきた。
よく、温泉やわき水というのは「こんこんと湧き出る」という形容表現をするが、ここの源泉の場合、「どばどば湧き出る」といった形容が正しい気がする。時々湧き出る水の力は強弱がつくが、常に全開、壊れた蛇口状態になっていた。
ああ、もったいない。
このお湯はどこへ行くの・・・というと、目の前を流れる川に注ぎ込まれて、普通の川の水として海へと消えていく。
一週間に一度程度温泉を補給して、後は循環と加水で乗り切っている「自称:温泉」の施設が見たら、あまりのうらやましさに悶絶失神間違いなしだ。
しかし、ここの源泉群がまったく放置され、引き湯のパイプが温泉施設に延びていないところをみると「この程度じゃ、大したことないよ」と言うことなのだろう。よっぽど湯量豊富ということだ。
川沿いに、このように木道が延びている。終点まで歩いても特に何かがあるわけではないのだが、木道周辺に源泉があちこちに沸いているので、楽しい。
終点まで行ったら、また駐車場まで今来た道を引き返す事になる。
これだけ見ると、「地獄谷」というネーミングはいかにも大げさな印象をうけるが、あちこちから「どうだ」「これでもか」と温泉が湧き出ている様は、昔の人からすると地獄を想起されたのかもしれない。
木道の終着地点ちかくにあった、源泉のひとつ。
1分周期くらいで、岩の上から温泉がしぶきをあげて沸き返る。ひとしきり暴れ終わって満足したら、今度は岩の横の穴から「じゃー」と、お湯が下に流れ落ちる。その繰り返し。何か、ゼンマイ仕掛けのおもちゃを見ているようで楽しい。
ひととおり地獄谷を満喫したあとは、鬼首ならでは・・・ということで地熱発電所に行ってみることにした。
地熱で発電をしよう、ってぇんだからスケールがデカい。石油を燃やします、とかいうのとは訳が違う。
地熱発電所は、えっらく山奥の辺鄙なところにあった。周りは草木が枯れ、荒涼とした谷間になっている。温泉ガスのせいだろうか。車だから一走りすればすぐに発電所に到着するが、とぼとぼと歩かされたら「この世の地獄」を連想するに違いない。このあたりの地名は、「〇〇地獄」となっているところがいくつもある。すごい場所だ。
鬼首地熱発電所PR館なる施設があるというので、中に入らせてもらう。
発電所で、敷地内に無断侵入することが許されているのは非常に珍しい。遠慮無くずかずかと敷地内を闊歩。
とはいっても、人の気配が全くない。周りの殺風景さと相まって、なんだか映画のセットの中を歩いているようだ。
PR館をありがたく見学させてもらったが、このような人気のない場所ゆえに、当然無人施設だし施設そのものが非常に狭かった。でも、そこそこお金をかけているのはどの発電所とも一緒。
地熱発電所、と聞いて真っ先に連想する、「とっくりみたいな形をした建物(写真後部)」は、ラジエータのファンに相当する部分であるということを初めて知った。そうか、発電炉なのかと思っていたが。
科学のお勉強はこれまで。本題の「温泉巡り」を復活させないと。1日半、すでに経過して全日程の半分を消費してしまったにもかかわらず、まだ6湯中鳴子しか訪問できていない。これからピッチを上げていかないと。
山形に入り蔵王温泉を目指す。銀山温泉や秋の宮温泉といった魅力的な温泉が気になったが、今回は「奥州三大名湯+奥州三大高湯めぐり」なので、また今度。
鬼首から直接山越えのルートがあったのだが、山が雪にすっぽり覆われていたのでやめておいた。鳴子まで戻って、そこから山形入り。蔵王まで約1時間強。
鳴子が「三大名湯」ならば、蔵王は「三大高湯」に名を連ねる温泉。PHが1.3と、非常に強い酸性の温泉だ。秋田県の玉川温泉がPH1.2で日本最高、そして第二位がここ蔵王温泉。確か第三位は草津温泉だったと思う。タオルが、2日もあればボロボロになるので要注意だ。間違って目に温泉が入った日にゃあ・・・想像しただけで恐ろしい。暖めた塩酸みたいなものだ。
ここは、3つの共同浴場と、観光客向けの日帰り温泉施設が2つある。今回は、「上湯共同浴場」にお湯を頂くことにした。駐車場に車を停め、温泉街にてくてくと歩いていく。
・・・しまった。カメラを持ってくるのを忘れた。
ということで、大変申し訳ないが、写真は今年3月頭に撮影したものを代用しております。雪が残っているのは、スキーシーズンの写真だから。
中の写真。
・・・湯気で何がなんだか、さっぱりわからない。これも、寒い3月に撮影したためによりいっそう湯気が立ってしまったからだ。
お湯は非常に熱い。男湯と女湯を隔てている壁からお湯が出ているのだが、流入口から一直線の地帯はより一層湯温が高く、浸かるときは極力湯船の端に陣取らないといけない。それでも非常に熱いため、2-3分もしたら湯船から脱出せざるを得ない。
出たり入ったりを何度か繰り返す。この温度に慣れれば、これくらい熱くないと物足りないねぇなんて事になるのだろうが、ちょっと一般人からすると熱すぎる。でも、熱すぎるお湯が供給される温泉って事は非常にありがたいものだ。「いやあ、蔵王っていいねえ」と言いながら、2湯目を満喫。
蔵王の温泉に浸かったあと、お昼ご飯を食べることにした。蔵王名物といえば、なぜかジンギスカン。ジンギスカンといえば圧倒的に北海道という印象があるが、日本には突発的にジンギスカンが名物な場所というのが各地に点在している。蔵王も、その一つ。
温泉に浸かってジンギスカン食べちゃ、これ以上は無いくらい体が元気になりそうな気がする。蔵王の街をうろうろして、ジンギスカンをやっているお店を発見して入ってみた。
スキーシーズン外で、夏山シーズンでもない。GWの蔵王は、ちょうど中途半端な季節なのかもしれない。町並みと同様、お店はがらんとしていた。
早速、ジンギスカンを2人前注文する。確か、一人前1,800円くらいだったかな。
「・・・結構高いな?」「ううむ」「食べ放題か?」「そんなことは何処にも書いていないぞ、希望的推測が過ぎるんじゃないかそれは」
しかし、店に入ったからには仕方がない。覚悟を決めて食べる事にした。
兄貴は、しきりに「肉が少ないなあ、これは」とぼやいていた。
覚悟を決めてジンギスカンを食べる、ということは、違った方面にも覚悟がついてしまうようでして。
しばらく鉄板と格闘していたのだが、ついに我慢ができなくなってしまった。
ちゃらん。
ポケットから車のキーを取り出し、兄貴に渡す。
「・・・そういうことか?」
「ああ、そういうことだ。後は頼む」
さすが兄弟、これだけの言葉で主旨は通じるのであった。
兄貴の快い了解を、ジトッとした視線で受け止めつつお店の人に一言。
「すいませーん、生ビール、一つ頂けますかぁ?」
ジンギスカン食べるのに、ビール無しってわけにはいかないじゃないですか。僕、間違ってますか。
さて、ハンドルを兄貴に託し、車は第三の温泉地・秋保温泉に向かった。山形県とはこれでおさらば、またもや宮城県にとんぼ返りだ。
思った以上に時間がかかっているので、蔵王から高速に乗って移動だ。おかげで随分と時間短縮ができた。
秋保温泉は、鳴子温泉に続く「奥州三大名湯」の2番目ということになる。仙台市内にあるということもあり、江戸時代は伊達藩の御用達温泉に位置づけられていたらしい。
現在は写真のような巨大旅館が建ち並ぶゴージャスな温泉地となっている。それぞれの宿は相当立派だし、宿泊料金を調べてみると見た目に相当するだけのお値段だ。
一部では、「団体客を当て込んだ巨大旅館の造りは時代遅れ。現在の少人数での旅行に対してきめ細やかなサービスを目指していかないと秋保温泉は衰退する」なんて意見も出ているようだ。うーん?
巨大旅館の中に、忘れられていたかのように共同浴場があった。狭い道に入ったところにあり、ちょっとだけわかりにくい場所にある。
秋保温泉は立派な旅館が建ち並んでいる温泉地なのであまり共同浴場がありそうな印象がないのだが、きっちりと存在していた。
中に入ってみると、地元のオッチャンたちが持参の石けんで体を洗っていた。こじんまりとした浴槽は、4人が入るともういっぱい。今日は平日の昼間だというのに、5-6名ものオッチャンですし詰め状態になっていた。
源泉から引っ張ってきたお湯はひっきりなしに流れ込んでいて、これが熱い。源泉の温度は58度あるという。そりゃ熱いわけだ。流入口から逃げたいところだが、テトリスの最下層に位置するブロックのように、周りをオッチャンで取り囲まれてしまっているために身動きがつかない。目の前のオッチャンがのぼせて湯から上がるのをじっと我慢しなければならない。
肝心のお湯だが、ナトリウム-カルシウム-塩化物泉ということで特に特徴はなかった。しかし、非常にさっぱりと入ることができるお湯で、ジンギスカン後には最適だったと思う。入湯料300円というのも良。
今日はあわよくば高湯温泉まで行こうかとも思っていたのだが、そこまで時間にあまりがなかったため、断念。秋保温泉を満喫したあとは、そのまま本日の宿泊予定地である飯坂温泉に向かうことにした。奥州三大名湯の3番目だ。
途中、せっかくだからとSUGOサーキットを覗いてきたのだが、レースが開催されていないサーキットというのは非常に閑散としているし、中に入れないしでがらんとしたゲート前で記念撮影をしただけでSUGOSUGOと引き上げた。
東北自動車道で福島飯坂ICまで南下し、そこから下道で飯坂温泉まですぐそこだ。行政区分としては、「福島市」にこの温泉は位置する。何となく、名湯っていうのは山奥とかの辺鄙な場所にある印象があるので、「●●市」にある、と言われるとちょっと困惑する。先ほどの秋保温泉もそうだ(秋保温泉は仙台市)。しかし、それはあくまでも偏見であって、市街地近くに名湯があれば、これほど素晴らしい事はない。
飯坂温泉に近づくと、街路沿いに「宿泊案内所」という看板を掲げた建物がちらほらと見えてくるようになった。しかし、兄弟そろって「イヤ、待て。駅前にきっと観光協会が運営する案内所があるはずだ。今ここで案内所に入ると、ハズレくじをひくかもしれない」と戒めあい、素通りしていった。
しばらく進むうちに、「この先最後の宿泊案内所」という看板が掲げられている案内所があった。「えー、まだ駅についていないぞ?これ、うそだろう?」「きっとうそだよ、駅前の一等地に案内所がないわけないじゃないか」と信じずにそのまま直進。
あれれ・・・本当に駅前にやってきても、案内所なんてどこにも存在しなかった。いきなり駅の前が旅館だったりして、一般的な駅前としての光景とはちょっと違っていた。
「いかん、あの看板本当だった!」と慌ててさっきの案内所に戻る羽目に。
その案内所では、若いおねーさんがいろいろ相談に乗ってくれて、結局街はずれの旅館に宿泊することにした。
「よかった、ちゃんとした案内所だったな」
「最初はどうかなと思ったんだけど、おねーさんが出てきたので安心したっていうのはある」
過去に、案内所でハズレくじひかされた事があるので、こういうところでは非常に慎重になる。
飯坂温泉は、外湯が9つ存在する。今回は、可能な限りその外湯を巡っていくつもりだ。
その点、街はずれの旅館は外湯巡りに非常に不利な立地条件となるのだが、「新しい旅館」だということで敢えて選んでみた。
飯坂温泉の外湯巡りマップのような地図を案内所でもらった際に、おねーさんに「お奨めの外湯ってあります?」と聞いてみた。
「そうですねぇ・・・観光客は皆さん、この鯖湖湯に行かれますね。他の場所は観光客が来ることを想定していないので、お湯が熱いですよ。街の中心から外れるほど、熱くなるんじゃないですか」と言っていた。ちなみに鯖湖湯は月曜日定休ということで、今日は入れない模様。
宿は、案内通りまだ新しくて清潔感のある造りだった。
通された部屋の畳がまだ新しい。
・・・何か奇妙な部屋の作りだな、と思ったら、旅館でありがちな「窓側にソファが2脚置いてあって、障子で仕切れるようになっている」構造になっていない。窓側まで全部畳だ。これはちょっと意外だったが、そのかわりに部屋が広く感じられて良い作りだと思った。
窓から顔を出してみると、川が流れていた。ちょうどこの旅館は川沿いに建っている事になる。全室リバービュー、というわけだ。
何やら川向こうからワイヤーのようなものが引っ張られているのが見える。建物が倒れそうだから支えているのだろうか?いや、どうやらこれは源泉を引っ張ってきているようだ。隣の旅館も、同じようにパイプが川の上に延びていた。
「ありゃ、また今晩も川の音がうるさいのか。つくづく川には縁があるな」
兄貴がちょっとだけがっかりした顔で言う。
この旅館は一風変わっていて、お茶請けとしてリンゴがまる1個、用意されていた。これを自分で剥いて食べろ、という事らしい。ヘタな茶菓子よりははるかに良いサービスだ。だが、到着早々のお客にリンゴの皮を剥かせるというのはちょっと不思議な接客でもある。
あと、何やら弁当箱のようなものがお茶請けとして用意されていたので、かぱっと開けてみたら・・・
漬物が入っていた。
すごく不思議なサービスだ。面白くてとても良いと思うが、ここら辺では一般的なお茶請けなのだろうか?
夕食まであまり時間が無かったが、仲居さんにお願いして時間を遅らせてもらい、われわれは外湯巡りに出発することにした。
飯坂の街を歩く。この街は温泉街のようで、そうではないようで不思議な街だ。住宅地とぐちゃぐちゃに入り乱れている。また、中心地となるべき飯坂駅から各旅館への導線となる道路がはっきりとしていない。入り組んだ作りになっている。
どうやら、ここの街の人たちは温泉関連で生計を立てている人と、福島市街地に働きに出ている人とに別れているようだ。
だから、観光地に来たんだなぁ、という感慨が50%くらいのエキサイティングさでストップしてしまうため、非常に煮え切らない気分になる。
しかし、それではもったいないので、自分を奮い立たせるためにも「温泉に来たからには下駄履きで浴衣」を実践。
この後、外湯巡りで何キロも歩き回ったため、足の皮がむけてしまった。慣れないことはするもんじゃないですな。
飯坂で目立ったのは、廃墟だった。
本当にあちこちに廃墟がある。営業中の旅館と廃墟の旅館の数どっちが多い?と聞かれたら、一瞬回答に困るくらい、廃墟が多かった。駅前すぐにも廃墟があるくらいなので、取り壊そうという気はあまり無いらしい。その結果、観光客にとっての飯坂という街の印象を非常に悪くしているということに気付いていないのだろうか。
普通、その建物が使われなくなったら後釜がやってきて、さら地にして新しい建物を建て直すはずだ。それが成されていないということは、後釜が存在しないということなのだろうか。立て直すくらいだったら、中心地から少々離れてもいいから、自前で建物を建てた方が良いという判断なのだろうか。
・・・と、「だろうか。」を連発してしまったが、それくらい違和感ありまくりの光景だった。熱海も、廃墟となった温泉旅館が点在しているがそれと似た雰囲気を感じた。
9つある外湯のうち、何処に行こうかと議論した結果、「一番観光地化していないであろう、遠い場所」にすることにした。
たどり着いたのは、十綱湯(とつなのゆ)。思いっきり中心地から外れたところを選んでしまったので、道に迷ってしまったくらいだ。手元にある簡単なマップでは探し当てられなかった。
外観は、コンクリートそのもの。沖縄でこのようなシンプルな建物をよく見かけたっけ。そこに男湯と女湯の入り口がある。温泉風情、なんてものはどこにもない。あるのはただ、日常生活に密着した風呂場、ということか。
番台で100円玉を渡して入ろうとしたら、オッチャンが「これでは駄目だ」と言う。「え?でも100円ですよね?」というと、「券が無いと入れない」と答えた。ますます訳が分からない。どこかに自動券売機でもあったのだろうか。
あれこれ聞いてみると、近くのクリーニング屋で入湯券を売っているからそこで買ってこい、という事らしい。「そんなルールがあったのか!」と観光客二人は驚きつつ、すごすごといったん退散。
風呂場から徒歩30秒のところにあったクリーニング屋に半信半疑でお邪魔してみた。すると、本当に入湯券を売っているではないか。
こっちは、宿の浴衣を着ていたのでお店の人に非常に珍しがられた。「へー、ここら辺までやってくる人ってあんまりいないのにねぇ」なんて。
とりあえず5枚、チケットを買っておいた。どこかの商店街のクーポン券のようだ。
これを持ってもう一度十綱湯に戻ったら、今度は素直に入れてもらえた。お邪魔します。
風呂場はカランが一切なく、浴槽をとりかこむようにしてみんなが体を洗っている。浴槽の真ん中にはT字形のパイプが突き出ていて、そこからお湯がひっきりなしに供給されていた。
何の気無しにかけ湯をしてみてびっくり。熱いなんてモンじゃない。熱湯じゃないですか、これは。隣の兄貴は、思わず「うわっ」と声を上げてしまっていた。
このお風呂は、地元の人たちのサロンとしての位置づけもあるため、部外者は一発で分かるようだ。ましてや、熱さにおっかなびっくりしている時点で部外者だな?と正体ばればれ。早速、オッチャンたちから「何?どっからきたの?」と聞かれまくった。そして、「え?熱い?あー、これで熱いんだ。いやね、今日はこれでもぬるい方でね、ちょっと物足りないくらいなんだよガハハハ」なんて言う。なんてぇ人たちだ。しかも、その発言に回りのオッチャン達が全員「そうだそうだ」と頷いている。「どれくらいの温度が普通なんですか?」と恐る恐る聞いてみたら、「そうだなあ、46度とか47度とかそれくらいじゃないかな」と平然と言うからまいった。
「今日はぬるい」という話だったが、湯温は恐らく44度から45度くらいあったはずだ。1分も浸かっていられない。のぼせる以前に、皮膚が耐えられない。オッチャンが「ほら、こっちに冷水のホース突っ込んでおいたからおいで」と言われて、若干温い場所に案内されて何とか耐えられた。
しかし、浸かっているうちにこのべらぼうな熱さが楽しくなってきた。トウガラシ入りの料理を食べて、テンションがあがるようなものだ。体中に突き刺すような刺激が、楽しい。「いやぁ、熱いお湯っていうのもいいですね、すごく気持ちよくなってきました」と隣のオッチャンに報告すると「そうだろー?やっぱお湯は熱くないと駄目だよ」とうれしがっていた。
非常にアットホームな雰囲気で、部外者のわれわれにも配慮をしてくれて、居心地の良い空間だった。あと、みんなが一様に「え、これで熱いの?ぬるいよ、今日は!」と熱さ自慢をするのが面白かった。
後からやってきた、ご年輩のオッチャンがお湯に手を突っ込むやいなや一言「・・・なんだ?今日は温いな」。周りのみんなが笑いながら「ほらー、やっぱりぬるいんだよ今日は」なんて喜んでいた。
のぼせてはいないんだけど、体は相当熱いという非常に奇妙な状況で、十綱湯を後にした。「どうもお邪魔しましたー」といいながら、風呂場から退却。ほんと、部外者がずかずかと割り込んできてすいませんでした、って感じだ。
「え?華滝から来たの?そりゃまたよりにもよってここから一番遠いところからやってきたねえ・・・この辺じゃ、観光客なんて滅多に来ないよ?」
なんて言われた。浴衣に宿の名前がプリントされているので、どこから来たかが一発でわかる。
住宅地の中を、歩く。やっぱり、この浴衣姿は周囲に不釣り合いだ。ちょっと恥ずかしくなる。
二番目として、「八幡湯」にお世話になることにした。ここも、コンクリート造りのシンプルな建物だ。企画化されているのだろうか?
飯坂のお湯は単純温泉で、無色透明無臭のお湯だ。温泉に浸かっているぞーっ、という実感はそれほどわかないのだが、猛烈に熱いのであらためて「普通のお風呂とは違う!」と言うことを身をもって思い知らされる。
ここでもやっぱり、さっきの十綱湯と同じシチュエーションが展開された。
「これくらい、まだぬるいほうでしょ?もっと熱くしようか?」
わわわっ!こっちに湯口を向けないでください!
飯坂の人たちは、みんな一様に熱いお湯が大好きらしい。しかも、飯坂初心者を見つけては「え、熱い?これくらいぬるいよ!」という。
脱衣所には、こんな張り紙があって思わず笑ってしまった。
適温43度って、これでもちょっと一般人からすると熱すぎると思う。
特に笑えるのが、「観光客のみなさまへの親切・もてなし運動」という記述。ここで言う「親切・もてなし」とは、湯温を43度程度にまで下げましょう、ということなのだから。
熱湯コマーシャル状態の連戦だったわけだが、頭が冴えた感じがする。普通、お風呂にはいると湯上がりはぐったりするものだが、あまりに熱いお湯に入ると頭が冴えるのかもしれない。
旅館に向かって歩いていくと、何やらやぐらのようなものが見えた。
近づいてみると、鯖湖湯の貯湯漕だった。飯坂のランドマークみたいなものだ。
全てが木造であり、非常に立派だ。
飯坂温泉9つの外湯のうち、もっとも知名度が高い「鯖湖湯」。松尾芭蕉が浸かったとかなんとか、いろいろ歴史はあるようだ。
本日は定休日のため、中に入ることができない。明日の朝お邪魔することにする。
鯖湖湯の隣には、お湯掛け薬師様がまつられていた。温泉を頭からかけて、お祈りする。
この温泉で火傷しませんように・・・ナムナム。
宿に引き上げる時には、既に日が完全に落ちてしまった。十綱湯に行く際には気付かなかったが、道がネオンで明るい。
・・・が、このデザイン、相当年期が入っているっぽい。
ネオンが輝いている割には、温泉観光客目当ての店が軒を連ねているわけではなく、なんとも中途半端な印象を受ける。
宿への道をネオンに照らされながら延々と歩いた。ううむ、温泉街っていうのはある程度コンパクトにまとまっていないと、観光客のテンションがダレるなぁ。
宿に戻る途中発見したお店。
何やら特殊なデザインだ。あの輪っかの中に手を突っ込んだら、ぐいっと締め上げられて引きずり回されそうで怖い。
輪の中にあった看板。
どうやらこのお店は「飯坂温泉観光協会推せんの店」らしい。
推せんされるお店と、推せんされないお店があるのだろうか。
あと、推せんされたのは一体何十年前なのだろう。フォントやデザインを見るにつけ、年期を感じさせる。
そういえば、今って「洋酒」という言葉は徐々に死語になりつつあるなあ。
宿に戻ると、部屋食で既に配膳が終わっていた。
その割には、妙にお皿の間隔が開いているようなきがする・・・。ううむ。
おや、ご飯、お吸い物もないぞ。
フロントに電話してみたら、暖かいものは後出ししようということで待ちかまえていたらしい。さすがにご飯無しの夕食ってのはあり得ないか。
夕食後、適度にビールも頂いて一息ついたところで、だめ押しでもう一回外湯に出かけることにした。夜遅くまでやっているスーパー銭湯とは訳が違う。早く行かないと、終了してしまう。
今度は、飯坂温泉駅から橋を渡ってすぐのところにある「導専の湯」にお邪魔する。やっぱりここもコンクリート造りのシンプルな建物で、つい笑みがこぼれてしまった。
兄貴は、これまでの2軒の浴場にやられてしまい、「足の甲がひりひりする」と及び腰。どうやら、低温火傷を負ってしまったらしい。
ここの源泉もやはり湯温は高く、55度と効能書きには記してあった。情け容赦無くお湯が出てくるスプリンクラーのような口がこの湯船にも備え付けてあり、われわれのような初心者は口の向きから90度ずれた位置に座らないと熱くてやってられない。
しかし、このスプリンクラー野郎はくるくると回すことができ、地元の熱くなくちゃお風呂に入った気がしないっていう人たちが自分のところに熱湯を向けようとするため、人畜無害なわれわれが逃げまどう事になってしまった。
しかし、さすがに3軒目ということもあって、ちょっとだけはオドオドしなくてお湯を楽しむことができた。そうなってくるとある程度周囲を見渡す余裕が出てくる。あー、一人旅のバイカーらしき人が、さっそく地元の人につかまってるぞ。
「え?熱い?そんなことないよー、今日はこれでもぬるい方だよー、ねぇ?●●さん」
「そうだな、これはぬるいよ。物足りないくらいだよ」
捕まえられた一人旅のお兄さん、体を真っ赤にしながら「すごいですねえ」と感心ばかりしていた。
しかし、3軒とも、何処に行っても全く同じやりとりが展開されるんだな、この地域ってば。
結局、ゆで上がる前に皮膚が悲鳴をあげて、のぼせていない割には体がほてってしょうがない、という不思議な状態で宿に帰還。おやすみなさい。
明日は、飯坂温泉で鯖湖湯に浸り、その後山形県に戻って白布温泉→福島県に戻って高湯温泉でフィニッシュ。ふたつとも、「奥州三高湯」にあたるお湯。さあ、旅も終わりが見えてきたぞ。
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