2003年04月29日(火) 3日目
最終日の朝を迎えた。
この日までに、4カ所の温泉地を巡り8つの湯船にざぶんと浸かってきた。残りはあと2名湯。すなわち、「奥州三高湯」の「白布温泉」と「高湯温泉」。今のところ、湯あたりの気配もなく体調は万全。さあ、最終日も事故のないように頑張っていこう。
おっと、その前に。忘れてはいけない、この宿の内湯にまだ浸かっていないんだった。朝起きてすぐ、内湯に向かった。
まだ新しい宿ということもあってか、お風呂は非常にきれいな作りだった。湯船は床に埋め込まれているタイプではなく、床の上に据え付けられているという温泉宿としてはやや珍しい形状。ヨイショと段差をのぼり、本日最初のお湯に着水・・・
うわっ!熱い!
完璧に油断していた。観光客相手の宿のお風呂だから、さぞや一般的な風呂の温度なのかと思っていたのだが大間違い。街中の共同浴場と比べればまだぬるい部類に入るのだが、それでも一般人からすれば熱すぎる湯温だ。
わっ、わっ、わっ!
予想外の温度に慌てふためいてしまい、湯船の中を逃げまどってしまった。
いや、びっくりした。さすがは飯坂温泉。観光客に迎合はしないぞ、っていうことか。いいぞ、そうこなくちゃ。気を取り直して、そろそろと湯船に身を沈める。
露天風呂は、内風呂の隣部屋に位置する場所に設置されていた。大抵、露天風呂というものは内風呂を経由してテラスのような場所に出たところにあるものだが、この宿は壁を隔てて横に並んだ位置関係にある。
でも、屋根・・というか、天井がしっかりとあるわけで、これを「露天」と呼んでいいのかどうかは激しく疑問。窓がない部屋に風呂を置いただけじゃん、と言ってしまえば元も子もない。
本当の露天風呂にしてしまうと、隣の宿の部屋から風呂場が見えてしまうだとかいろいろ問題が出てくる。だから、現実解としてこのような作りの「露天?風呂」も有りだと思う。
朝一発目、眠気を吹き飛ばす熱いお湯に浸かったあとに朝食を頂く。今日も皿数の多さは健在で、これだけおかずがあったらご飯何杯おかわりしなければイカンのだ、とちょっと暗鬱とした気分になる。
とかいいながら、手元にしっかりとおひつは引きつけておいて、いつでもおかわりができるようにスタンバイしているあたりが狡猾だ。
食後、チェックアウトを済ませて「鯖湖湯」に向かった。足の甲に火傷を負ったらしい兄貴が、「もうこれ以上の外湯巡りはギブ」と宣言したため、最後に鯖湖湯だけは行っておくことにしたのだった。
この鯖湖湯、昨日買い求めた入浴券が使えない。ここは観光客が多い事もあってか、独自の入浴券制度になっていて、入り口の自動券売機で券を購入することになる。値段は他と同様100円。ちぇっ、2枚入浴券が余ってしまった。念のために、番台さんに「この券使えません?」と聞いてみたが、「駄目です」とあっけなく断られてしまった。
鯖湖湯は、脱衣所と風呂場に間仕切りがない構造になっていて、広々としていた。もう熱さには覚悟ができて居るので、何食わぬ顔してお風呂に浸かる。
くぅぅ、やっぱり熱い。宿の内湯も熱いと思ったが、それ以上に熱い。
っていうか、「鯖湖湯は観光客が多いからぬるめの温度設定」って話を聞いていたんだけど、全然違うではないか。他の共同浴場と同様に熱い。恐らく、まだ朝ということもあって観光客が押し掛けてきておらず、温度を下げる措置をとっていないのだろう。湯の注ぎ口からじゃばじゃばと容赦なく注いでいるのは源泉そのものであり、すなわちぬるくしようと思えば水で埋めるしかないわけだが・・・あー、注水用のホースがあんなところに。水を足す気が全然ないな、さては。
今日もいつもと同じ光景が展開されていた。地元のオッチャンが一見さんを捕まえている。
「飯坂温泉、どうだい?」
「いやぁ、熱いっすねえ」
「熱い?・・・え?これが?・・・熱いぃ??・・・ははははははは。これが、はははは、こ、これがははははあ、熱いだってぇ?ははは。ええ、こんなの全然熱くないよ、ぬるい方だよはははは。ぬるくて風邪ひいちゃうよ、これだと。鯖湖湯は他の風呂と比べてぬるいんだから。ああ、そう?これで熱いと思った?」
捕まってしまった観光客の人、ご愁傷様です。でも、こういうやりとりを楽しむのが飯坂温泉の過ごし方。
さて、車はまたもや山形県にトンボ返りで、目指すは白布温泉だ。飯坂温泉から米沢に向い、そこから南下して白布温泉へ。1時間もかからない。
白布温泉は、西吾妻山の中腹に位置する温泉だ。「東屋」「中屋」「西屋」という3軒の茅葺き屋根の温泉宿が有名だが、「中屋」は数年前に焼失してしまい、今は基礎部分が残っているだけになっている。再建の予定はないのだろうか。
われわれとしては、「東屋」もしくは「西屋」のお湯を頂戴したかったのだが、日帰り入浴は午後からのようだった。仕方なく、白布温泉のはずれに位置する「かんぽの宿米沢」に向かった。ここだったら、確か10時から入浴できたはずだ。
フロントでお金を払って、風呂場へ。兄貴は、先ほどの鯖湖湯でさらに足の火傷を悪化させてしまったらしく、入湯を拒絶。ロビーで新聞でも読んでおくわぁ、といって風呂場には同行しなかった。
風呂場の入り口には、「天然温泉」と書かれたのれんが下げられていた。うーむ、なんだか、俗っぽいな。昨日、一昨日と浸かってきたお風呂とは違う、俗っぽさ。
そもそも、今このご時世で「天然温泉」という表現を使う時点で逆に胡散臭くなるって事に温泉事業を営んでいる人は気付いているのだろうか。都心のスーパー銭湯でさえ「天然温泉」を名乗るくらいだから、こういう表現を安易に使うのは逆に安っぽくなるということを理解しないといけないと思う。
風呂場入り口の「天然温泉」ののれんにやや違和感を覚えたわけだが、浴室に入ってみて「おおお・・・」とより一層違和感を感じてしまった。
いや、ごく普通の風呂場です、何らオカシいところはないです。
でも、昨日一昨日と結構シブめのお風呂を頂戴してきたので、こういう近代設備の風呂場に遭遇すると、何か落ち着かない気がしたのだ。ほら、ジャグジーがあるぞ!?
いやあ、ジャグジーで温泉っていうのも案外乙なものかもしれない。では、せっかくなのでジャグジーで。
ううむ、気持ちよい。ものすごく俗っぽいけどな。一気にスーパー銭湯に訪れている気分になってしまった。
お湯は、ジャグジーと普通のお風呂との仕切り部分にある塔のような場所から、じゃばーと出ていた。両方の湯船に同時に注ぐことはできないらしく、片方にじゃーと流して、一息ついて、今度は逆のほうにじゃーと流す、を繰り返していた。何やらけなげだ。
後になって知ったのだが、ジャグジーのほうは単純泉、大きな湯船のほうはカルシウム硫酸塩泉だったらしい。しまった、違いが全然わからずに入湯していた。
こういう情報を事前に知っていれば、「なんとなく単純泉よりもカルシウム硫酸塩泉のほうが効き目有りそう(完璧な偏見)」とかいって、大きな湯船にずっと浸かっていたかもしれない。
このほか、小さな露天風呂が外にあったが、眺めはイマイチよくなくて開放感がないので、あまり魅力的ではなかった。
浴室入り口にあった注意書き。
浴槽内にタオルを入れるな、というのはレジオネラ菌の増殖を防ぐための保健所の指導。だから、混浴露天風呂であっても「バスタオル等の着用は絶対禁止!」と張り紙を出して、訪れた女性客を思いっきり引かせまくっている温泉もあると聞く。
まあ、ここまではよくある話だが、下にテプラで貼り付けられた文章がこれ。
「保健所の指導により、浴槽の塩素減菌を実施しています。この温泉は飲用できません」
あれれ、ここの温泉って循環湯だったのか。てっきりオーバーフロー型なのかと思っていた。
表面上お湯がオーバーフローしているので、非常に紛らわしい。注ぎ込まれているお湯の量と、溢れているお湯の量を注意して見比べないとわからない。今後はこういう温泉も増えてくるのだろうな。最近、やたらと「源泉100%、オーバーフロー」って言うようになってきたから。
脱衣所に張ってあった、FAQ。
なるほど、露天風呂に開放感がなかったのはこういう事だったのか。
納得はするけど、露天風呂としてイマイチであるという事実に対しての解答にはなっていない。
そこまで露天風呂スキーっているのかねえ?露天風呂があるか無いかで、宿の集客力が変わってくるっていう時代はまだ続いているのだろうか。
おかでん自身は、よっぽどな露天風呂でない限りは、あんまり露天に興味はない。
風呂からあがって、兄貴が待つロビーに向かう道。
・・・うーん、俗だな。
土産物屋が通路脇にあり、地元山形の名産品を売っている。あと、かんぽの宿独特の文化だと思うのだが、オバチャン向けの服やら何やらが売られていた。
奥州三高湯、二つ目クリア!という満足感がイマイチ感じられない、そんな雰囲気だった。
磐梯吾妻スカイラインを通り、最終目的地高湯温泉に向かう。
5月直前だというのに、道路脇はこのありさま。こういう光景は立山の室堂でしか見られないのかと思ったら、こんなところでもお目にかかれるとは。
高湯温泉は、磐梯吾妻スカイラインの入り口部分に位置する温泉だ。だから、このスカイラインのドライブをセットにするときっと有意義な時間が過ごせるのではないでしょうか。
・・・と旅ガイドみたいな事を言ってみる。
左の写真のように荒涼として草木が生えていない大地を車が走るわけで、日本の山=緑あおあお、という印象を大きく覆してくれる。もちろん、こういう場所は活火山がある日本のあちこちに存在はするのだが、こういう場所のまっただ中を車で走れるというのはそれほど多くないシチュエーションだろう。
高湯温泉に到着。奥州三高湯の最後を締めくくるのは、その名もずばり「高湯温泉」だった。そのまんまじゃん、と思うがまあそれはそれとして。
先ほどの荒涼とした浄土平を目の当たりにすると、「こりゃあきっと地中深くではグラグラお湯が煮えたぎっているに違いない、温泉だってさぞや濃厚な奴が出てくるんではないのか」という期待感に満ちあふれてくるのは自然の摂理。
そんなワクワク感を胸に抱き、磐梯吾妻スカイラインで山を下っていったところにあるのが、高湯温泉だ。
10軒の宿と1軒の共同浴場がある温泉地区だが、その全ての施設が源泉掛け流しのお湯を提供している。源泉は自噴しているらしく、そのお湯を山の斜面に沿って自然の高低差で勢いをつけ、各施設に供給しているらしい。
・・・ここらへんは、全て観光協会の受け売りなのだが、観光協会のサイトには「掛け流しでは引き湯する温泉の量と温度によって、浴槽の大きさは必然的に決定されます。よって高湯地区では、いわゆる温泉センターのような循環式巨大風呂を所有する施設はありません」と断り書きが書いてあるのが愉快だ。大きな施設を作って集客力UP!を狙っている温泉地が相変わらずある中で、こうやって開き直って「良いお湯を提供するために、大きな施設は作らないのです」と言えるのは信念があってこその事だ。
さて、今回は共同浴場ではなく、高湯温泉で有名な温泉宿「玉子湯」にお邪魔することにする。
玉子湯の駐車場は既にいっぱい、一体どこからこんなに人が現れたのだ?と目を疑うくらいの車と人だった 。郊外型スーパーの駐車場か、ここは。
どうやら、磐梯吾妻スカイラインの入り口に位置する立地条件も手伝い、観光客が非常に多く来訪するらしい。知らなかった・・・。実はこの企画を立ち上げるまでは、高湯温泉という名前すら知らなかったのだが、実は相当有名な温泉だったということか?
宿のフロントは大忙し。宿の業務をしているのだか風呂場の番台さんなのだかわからないほど、日帰り入浴者の対応に追われていた。入湯料500円を支払って、宿の奥へ。
宿の裏手に出口があり、そこからつっかけを履いて外へでる。すぐ正面が、名物の玉子湯だ。茅葺き屋根の木造建築となっていた。昔はこの玉子湯、男湯と女湯の間をよしずだけで仕切っていて、事実上の混浴状態だったらしい。さすがに今はそういうおおらかな雰囲気は難しくなったのか、男女の境に戸板をはめ込み、その上によしずを張っていた。ううむ、向こうが見えない。
湯船は4人が入ればもういっぱいだよー、というくらい狭く、湯船から出るとすぐそこが脱衣所となっている。体を洗おうとかそういうのはあまりここでは期待できない。ただ、青白い硫黄泉の湯にどっぷりと浸かる、それだけだ。
肌触りが良いお湯の中で、湯ノ花と戯れることしばし。非常に心地良いのだが、狭い湯船でお互い譲り合いながらの湯浴みとなるので落ち着かないのは事実。しかも、目の前の出入り口から頻繁に人が出入りするし、中を覗き込んで、「ふーん?」と何やら感心しただけですぐに外に出てしまうような「冷やかし客」もいたりなんかする。玉子湯の建物のもつ雰囲気、お湯は最高。しかし、それを満喫するためには平日にお邪魔しないと駄目なんだろうなとため息混じりに実感。
後日、雪が積もる玉子湯の写真を見た。非常に幻想的だった。静かな冬に訪れるのが良いかも知れない。
玉子湯から谷沿いに少し下っていくと、女性専用の露天風呂がある。「なんで女性だけなんだよー」とか愚痴をいいながら、さらに下っていくと男女日替わりの露天風呂があった。結局、女性は露天風呂が2、男性は露天風呂が1という妙な数となっているわけだ。ひょっとすると、昔は男女日替わりの露天風呂が「両方とも混浴」だったのかもしれない。だから、混浴がイヤな女性は「女性専用露天で」という配慮?この辺りは、過去の経緯を知らないので何ともいえないが。
いずれも、脱衣所の屋根が茅葺きになっていたのが特徴的だった。何年かに一度葺き替えないといけないはずで大変だと思う。しかし、見た目が非常に良いので、これはこれで正解だろう。ただし、脱衣所の上にハチが巣を作っており、男性客はそのハチに刺されるのではないかとびくびくしながら、そそくさと服の脱着をしていた。あ、でも万が一さされたとしても、温泉に浸かればすぐに直る?・・・わけないよな。ハチの毒は酸性、そして高湯温泉も強酸性。
こちらの露天は、玉子湯で狭くてすいませんでした、と言わんばかりに広々とした湯船が用意されていた。狭苦しく仕切られた露天ではなく、非常に開放的なので非常に気持ちがよい。ついつい長湯してしまう。しかし・・・谷向こうに何やら遊歩道があるぞ。男湯が開放的なのはいいが、この遊歩道を歩けば当然女湯も開放的に見えてしまう事になるよな。ううむ。
男女別の露天風呂からさらに下り、玉子湯の敷地の末端までくるとそこは足湯が用意されていた。若い女性たちがカモシカのような脚を(ただしこの場合日本カモシカ)湯につけてぼんやりとしていた。
若い女性の姿をこの敷地内でよく見かけたが、多くの人は玉子湯の建物を見てビビり、中を覗き込んで「うーん」とかいって退散していた。ちょっと抵抗があるのだろうか。
ばかもん、あれが温泉の風情だ!なんて言ってやりたいところだが、たぶん通じないだろうな。
玉子湯で、玉子のような肌になるつもりだったがさすがに時間不足でそこまでは行かず。しかし、目標通り「奥州三大名湯+奥州三高湯を2泊3日で全て巡る」は達成。とりあえずおめでとうございます、ありがとうございます。
「さあ、帰りは福島で名物でも食っていこうぜ」とナビの兄貴に水を向けたところ、ガイドブックをめくっていた兄貴が「ええと、特に名物は近くになさそうなんですけど」の一言。「ええ?それじゃ、もったいないから何か探せ、何か」「何かって何だよ」
なんて言い合っているうちに、東北自動車道のICに到着してしまい、そのまま一路東京へと帰還する羽目になってしまった。
結局お昼ご飯は、あだたらSAのレストランで長崎皿うどんを食べた。東北に来て長崎かよ!と苦笑してしまったが、このボリューム感にとりあえず満足したので、まあよしとしよう。
今回、メジャーな温泉ばかりをねらい打ちして訪問したわけだが、東北にはまだまだ魅力的な温泉がいっぱいある。いずれ、それらの温泉を一つずつ訪問していきたいものだ。
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