2003年08月02日(土) 1日目
朝6時。昨晩のラーメンのダメージをやや残しつつ、車に乗り込む。昨日までは「前夜祭」、今日からが祭りの本番だ。何で前夜祭終了でぐったりしてしまっている?
そんな自分自身に腹が立つとともに、「それもまたおかでん」と納得してしまっている自分がいる。まあ、毎度のことだ。特に睡眠不足や体調不良は無いので、今日からの強行軍は問題無しだ。
さて、あらためておさらいすると、これから向かう百名山は北から「蔵王山」「西吾妻山」「安達太良山」「磐梯山」の4座。これを1泊2日で登ってきてしまおうという企画だ。
この山をどの順番で登るかというのをこの時点で決めかねていた。・・・既に東北自動車道に乗っているというのに。順当に考えれば、一番遠い蔵王から攻めていって、徐々に南下した方が良い。しかし、一番最後に蔵王をとっておいて、最後あの乳白色のお湯にザブンと浸かるというのも魅力だ。
ええと、ここからあれこれ優柔不断で検討した経緯を書き出すとキリがないので、省略。結局、今回は「蔵王山(山形県)」→「西吾妻山(山形/福島県)」→(裏磐梯のキャンプ場で泊)→「磐梯山(福島県)」→「安達太良山(福島県)」→帰京 というルートをとることにした。
まずは、東北自動車道を白石ICまで北上し、そこから蔵王を目指す。
蔵王が見えてきた。
いや、さりげなく蔵王は東京から遠い。現在午前10時過ぎ。早くも、お昼が近くなってきている。この時点で山を一つも登っていないんだもんなあ、いくら今回は「楽な山セレクション」とはいえ、本当にこんなのでいいのだろうか。
蔵王だけ、じゃないんだぜ今日は?あともう一つ、西吾妻山があるというのに。
それにしても、蔵王は楽な山だ。この光景をみればよく分かる。左のピークから、右のピークに移動するだけで登頂完了。標高差は約120m。これを1時間半程度で往復するのが標準的なコースタイムだ。もちろん、この山の裏側には蔵王温泉スキー場が広がっていて、その麓から登るとなると半日がかりの登山になるのだが・・・まあ、今回は趣旨が違うって事で、楽させてもらいますわぁ。
本当は、お気楽登山ということなので山に登る前に一発、「遠刈田温泉」に浸かっていこうかとも思ったのだがさすがにそれはやめておいた。
今日のノルマである2座踏破を終わった後、時間が余っていたら好きなだけ最寄りの温泉に浸かることにしよう。
宮城県と山形県を結ぶ蔵王エコーラインから、刈田岳山頂に向かう有料道路「蔵王ハイライン」に入る。普通車520円。ううむ、たった数キロのつづら折れ道にしては高い。
10時20分、刈田岳の駐車場に到着。さあ、これから4つの山を我が物顔でのし歩いてやるぞ、と気合いが入る・・・いや、あんまり入っていないような・・・。
なにしろ、山頂まで1時間もかからない位置だ。2日間トータルでみると結構な山歩きになるかもしれないけど、山一つ一つでみたら、どうも気合いが入らないのは事実。今回は、山に登っている最中が愉快、というよりも「次の山に移動しながら、タイムスケジュールを練り直している」という時間の方が楽しいのかもしれない。
でも!さすがに昨日の美ヶ原と違い、服装は少しマトモになりましたー。愛用のミレーのザックのかわりに、ユニクロで買った安物リュックを背負っている(しかも、先日ビール工場見学に行った時に「団体用目印」として貼らされた白いシールがそのまま)のはともかくとして、Gパンではなく、ちゃんとした山用のズボンを装着しております。山登るなら、まず足下から固めなくちゃ。
・・・って、おい!
相変わらずサンダルじゃないか!ばかもん!
すいませーん。すぐに履き替えますー。
今日は登山靴を持参するつもりだったのだが、うっかり忘れてしまい昨日同様トレッキングシューズでの突撃となる。本格的な山に入るとタウンユースのトレッキングシューズは滑りやすくてイヤなのだが(前例:蓼科山登山の項参照)、仕方がない。だって、出発の際の駐車場で気付いたんだもん。・・・いっぺん家に帰れよ、その時点で気付いたのは。
相変わらず、山をナメている。
刈田岳の駐車場。まだ早い時間なのに、結構な車の量だ。ここに来たって、蔵王のお釜を見るだけしかやることはない。オカマ見たさにこれだけ車が集まったってことだ。オカマ、凄いぞ。
・・・オカマオカマ言うなって。
駐車場からレストハウスに向かう道は、両脇から道路を塞ぐ形で焼きトウモロコシ屋が2軒営業をしていた。駐車場に車を停めた人は、焼きトウモロコシ屋の隙間を「すいませんね、ちょっとお邪魔しますよ」といいながら通過していく形になる。そのとき、モロに焼けた醤油の臭いがぷーんと漂うわけであり、トウモロコシマニアならずともトウモロコシファンだったら、まず間違いなく「ああっ」と足下がガクガクしてしまうだろう。
でも、こんな駐車場で誰が買うんだよトウモロコシなんて。山形名物玉こんにゃくでも食べるんならまだしも・・・って、おい!買ってる人結構いるよ!
トウモロコシ屋の戦略、大成功だ。
蔵王のお釜は、駐車場から徒歩1分ですぐに見えてくる。蔵王最大の名物だというのに、このあっけない登場はやや拍子抜けだ。大抵、敵のボスキャラというのは最後の最後に出てくるべきものだ。それがこんなに最初から出てきてしまうのだから、「ひょっとしたら、こいつは雑魚キャラ?」なんて勘ぐってしまうくらいだ。
いや、お釜を勘ぐっても始まらない。今回の企画趣旨は「できるだけ山頂に近いところまで、楽をする」という事なのだから、ボスキャラがいきなり出てきても当然至極の事だ。
山頂方面には、えらく立派に整備された道が延びていた。ゆるやかな登り道だ。
山頂あたりは、ガスがかかっているようだ。この辺りは非常に霧が立ちこめやすい場所らしい。
お釜を別方面から。
日によって水の色が変わるらしいのだが、今日はモスグリーン。
あの湖面にゴムボートを浮かべて終日読書、なんてやったらすごく愉快だろうなあ、と夢想するが、湖周辺の崖を見ると湖面に降りるためにはロープを使っての垂直降下しかなさそうなので却下。
だいたい、ああいう光景があると大抵どっかの無謀な人が道無き道を這って、すぐ近くまで接近しているものだ。しかし、このお釜に関してはそういうチャレンジャーは一人もいなかったし、そういう人が通った道あとも残っていない。よっぽど危険なのか、よっぽど魅力薄なのか。
整備された道も、歩き始めて10分もすれば「もう整備するのに飽きました」とばかりに、普通の山肌になってしまった。やはり、山頂に登ろうとする人は変人で、大抵の人はお釜を眺めてウワァきれいだよ!と写真を撮って帰る、って事か。
整備されているといえば、10mおきくらいに木の棒が突き刺さっている。枯れ木かとも思ったが、規則正しく並んでいるので、意図的に突き刺した事がわかる。
・・・冬になったら、ここで大回転でもするのか?
と勘ぐってみたが、この地は風が強いため、冬でも雪が積もらないらしい。風で全部吹き飛ばされるという。ではこれは一体?
不思議がっていたら、周囲が霧に包まれてきてようやく理解した。道しるべだ、これ。ガスがかかりやすい地なので、どこに道があるかわかるように棒を立てているというわけだ。なるほど、これは助かる。
おいおいおい、いくら棒があるとはいってもこの先、ガスで全く何も見えなくなっているんですけど。
只今ガスの中を通過中。
毎度おなじみ、やらせ写真を1枚。今回、唯一のやらせ写真なので、とりあえず掲載しておこう。
周囲に誰もいないことを確認のうえ、三脚をセットしてダダダっと10mほど後ろにさがる。振り向いて、何食わぬ顔をしてあるいているところでセルフタイマーGO!
最近、この「絶妙なタイミング」を体得しつつある自分がたまらなくイヤだ。
お?
まだ汗も本格的に出ていない状態なのに、何やら霧の向こうから人の話し声が聞こえてきた。どうやら、山頂が近づいてきたらしい。
歩いていくうちに、ぼんやりとほこららしきものが見えてきた。熊野神社だ。
えー、あれが山頂ですか?オカシいなあ、自分の背後にある丘の方が高く感じるのだけど。気のせいか?
周囲は木が生えておらず、だだっ広い場所になっていた。霧が晴れていれば開放感溢れる場所なのだろうが、霧で周囲が全く見えないのでいまいちワクワクしない。
熊野神社到着。
「ほこら」と呼ぶには立派すぎる社殿と、鳥居が立っていた。
そして、熊野神社の裏に山頂の標識があった。非常に広々とした山頂なので、ちょっと拍子抜けだ。ましてや、楽して登ったために登頂時間は約35分。ありがたみが全然感じられない。
うーん、これぞピークハントの醍醐味(だいごみ)。
開き直ってみる。
恐らく、晴れていたらこの山頂からずばーんと360度の展望が得られたはずで、見下ろすとスキー場が広がっているはず。きっと気持ちよかったはず。
と、「はず」という言葉を連発。何しろ、想像でモノを語るしかないのが現状。
イマイチ達成感はないのだが、山頂に到着したという事実には変わりがない。11:00、山頂にて記念撮影。
背景がガスで真っ白なため、合成写真のように見えるがご容赦。
11:06、山頂で何もやることがないため、岩に腰掛けることもせずに下山開始。普通、山頂についたら「いやー、到着したぁ!」と叫んで写真撮影をして、その後は岩にへたりこむものなのだが。
だって、全然疲れていないんですもの。
ま、そりゃそうだ。今日はあともう一つ西吾妻山に登らないといけないんだ、今ここでくたびれ果てていたら企画倒れになってしまう。
11:13、刈田岳からの縦走路に復帰。先ほどすれ違ったオッチャン達の登山集団が、「山頂が見えてきたぞぅぉー」と大きな声で後ろに続いている仲間に報告している声が聞こえてきた。よっぽどうれしかったようだ。・・・ああ、そうか。山頂に近づいたら、ああいう喜び方をしなくちゃいけないんだった。いかんね、「今日はあともうひとつ山に登らないと」という事が頭にあるものだから、山頂を喜ぶ事ができなくなっていた。
11:30刈田山駐車場到着。11:38出発。
出発までの間、カーナビとにらめっこをして 「安達太良山に行こうか、それとも西吾妻山に行こうか」と悩んだ。結局、予定通り西吾妻山に向かうことにして、山形県の南下を開始。
西吾妻山登頂後は、山の中腹にある「新高湯温泉」で一風呂浴びて、休暇村裏磐梯のキャンプサイトで宿泊・・・というのが本日のプランだ。いや、せっかくだから、空室があれば新高湯温泉で一泊っていうのもいいなあ、なんて考える。楽しくなってきたぞ。こんなに楽に山に登って温泉に浸かる事ができるのはありがたい限りだ。先ほどの蔵王山頂では「あれれ拍子抜け」感を感じたが、気にならなくなってきた。
山形の道は非常に整備されていて、まっすぐ突っ走る。高速道路なみだ。快調に進み、距離を稼いでいった。
途中、米沢市街を通り過ぎていく。
「米沢といえば米沢牛、なんですよねえ。せっかくだから食べていきたいところなんですが」
と独り言をぶつぶついいながら市内を走っていたところ、おおお、米沢牛のお店があるぞ。
「グルメワールド2003夏・開催中」なんて書いてある。ぜひお呼ばれしてみたいものですなあ。
しかも!
「米沢牛味の総本山」なんて書いてある。総本山ですか。ぜひ参詣してみたいものですなあ。
とか言っているうちに、素通りしてしまった。あらー。
さすがに、ステーキハウスみたいな場所で、一人で食事をしている図というのはあまり気持ちの良いモノではない。一人で食事をしていてサマになる場所とならない場所ってぇものがある。その点、先ほど通過した回転寿司屋ってのは正解だったかも・・・と軽く後悔。「陸のど真ん中にある米沢で海鮮の寿司もないだろう」と通過してしまったのだが、一人で食べるお店としては限りなくベストだったかもしれない。
米沢を過ぎると、あとはもう山に突入していき、白布温泉に向かうだけだ。飲食店は期待できない。うーん、今回はお気楽登山をしながら、山海の珍味を頂くという趣旨にするつもりだったのだが。
しかし、諦めた頃合いを見計らって、ところどころ街道筋に蕎麦屋があるのが悔しい。「あっ・・・?今、蕎麦屋があった!?」とびっくりしている間に通過してしまう。デカい看板が出ていたり、駐車場がバーンと街道沿いに用意されているような蕎麦屋ではないため、ついつい見落としてしまう。そういう悔しい思いを何度かやっているうちに、本当に白布湯元に到着してしまった。あらー、僕、昼食どこで食べればいいの?
13:15天元台高原ロープウェイ・湯元駅に到着。
白布温泉の山側に位置する場所で、周囲は硫黄臭い。2時間近いドライブお疲れさまでした、ではまずお茶で喉を潤してからこれからのルートについて考えましょう・・・
え?13:20にロープウェイが出発するって?只今改札やってますのでお急ぎください、だって?
あわわ。時間がないぞ。これを逃すと、次は20分後だ。あわてて、往復チケット2700円を購入し、とりあえずロープウェイに飛び乗った。
ロープウェイ只今運航中。
見下ろすと、山の中腹に何やら建物が見える。あれが、新高湯温泉だろう。
一体どうやってあそこにたどり着くんだ?車道があるって聞いていたが、あんな険しい山のどこにそんなものが?
ロープウェイの乗客が、みんな指さしたりしながら「あれは凄いねえ」と感心することしきり。
秘湯だなあ、これは。
※写真だと、それほど傾斜がきつくない山に見えるが、実際は結構急です。
約7分で天元台に到着。天元台から見下ろすと、下の湯元がはるかに小さく見える。
これだけの距離と高度を、労せずして稼がせてくれるのだからありがたい限りだ。今回のお気楽登山にとって、まさにふさわしい文明の勝利だ!がはは。
---いや、お前が胸を張って自慢することじゃないってば。
天元台は、ロープウェイで登ってきた山の急斜面とはうってかわって、なだらかな丘陵地帯になっていた。高いところに登ったらそこは開放感溢れる場所、というのは非常にありがたいキモチになってくる。
ああ、思い出すなあ昨年の会津駒ヶ岳。
とはいっても、この天元台は完全に人工的に整備された場所だった。天元台にはスキー場が広がっていた。そりゃあ開放的なわけだ。
振り返ると、ペンション村らしき一角がある。おや、ということはあそこまで車が出入りできたのか。ひょっとして、ロープウェイ代って無意味だったかもしれない。
はるか彼方に、吾妻連峰とおぼしき山がぼんやりと見える。あそこまで行かないといけないのか!おい、大丈夫か本当に。
いやいやご安心ください、ここからスキー用リフトを乗り継いでいくのですから。まだまだ、これでもか!これでもか!と文明の利器を使って山頂までの道をショートカットしていきますからねぇ。ここでもう一度高笑い。がはは。
・・・いや、笑っておいて、「自分の財力って凄い!」とか「俺って自然を超越したぜ!」なんて勘違いな事を思いこんでおかないと、やっぱり罪悪感ありまくりなんよ、山を楽して登ってるって事で。
リフトは随時出発しているので、ここで少し安心した。そんなに急がなくてもよかろう、とりあえず一息いれるついでに昼飯にでもするか。
と、ちょうどおあつらえ向きに目の前に「レストハウス吾妻」なる建物が現れた。むむむ、でも「スキーゲレンデのお食事どころは大抵が高くてまずい」という法則は夏真っ盛りのいまでも真理なのではないのか?ここで食べるのは勝ち負けで言ったら負けではないのか?非常に逡巡してしまった。
「ああ、米沢牛食べればよかったか?蔵王で玉こんにゃく食べてほうが良かったかも?」
と若干後悔せずにはいられなかったが、何せ回りは何もない。近くにホテルのレストランもあるようだが、こっちはレストラン故におしゃれーなメニューしかおいてなくそのいずれも値段が高い、って事になったら悲しい。全て1000円以上のお品書きで、お店の人が「ご注文は何になさいますか?」と聞いてきても何を選べばいいのか途方に暮れてしまい、声が出ないなんて事になったらどうしよう。
はい、庶民的なレストハウス吾妻で決まり。
決定打としては、入り口脇に生ビールのポスターが貼ってあったからだったりする。人間、案外単純なものだ。
注文の品。カレーライスと生ビール。しめて1,200円。
おい!結局1000円超えているじゃないか。「ゲレンデの飯はまずくて高い」という先ほどの法則のうち、「高い」というのはてめぇでビールをつけるという余計な行為をしてるからだろう。
いや、でもですよ聞いてくださいよ、僕ぁもう既に山を一つ登り終えているんですよ。ビールいっぱいくらい飲んだって、別にいいじゃないですか報酬ですよ自分に対しての。
ええいうるさいうるさい。
ここでビールを飲むことのぜひを議論しても始まらぬ。問答無用じゃ、それ。ぐびり。
うううむ、美味いなあ。相変わらずビールは美味い。これから登る山を見上げつつ飲むというのは初の試みだが、「やぁこれから大変だな」とあまり気持ちが良いものではない。だから、山の事はさっぱり忘れて。
それ、ぐびりぐびり。
あああ。
「ビール大」と書いてあったので、ちょっとだけ期待はしたのだが案の定実際のサイズは中ジョッキ。ジョッキのサイズほどこちらの期待を裏切るものはない。
ゲレンデをバックに、カレーライスを頂くおかでん。
写真に納まった瞬間は、「開放的なところで食事をしている、非日常的で他人がうらやむような食事光景」をゲットできたと堅く信じていた。
しかし、写真のように猫背でカレーを食べているので、どうも冴えないんである。学食で食べている光景に、合成写真で背景を貼り付けたようにしか見えない。
では、肝心のカレーのお味はどうだったかというと。
まあ、何も言うことはないです。久々に食べた、ああいう粉っぽいカレー。スパイスのかけらも感じられない、昔っぽいカレー。ちょっと感動してしまった。
値段については、全般的にやっぱ高いねぇ。一番安いメニューがそばで450円。サイドメニューで玉こんにゃくが100円ってのがあったけど、さすがに昼飯にするには物足りないし。
「玉こんにゃく、下山してきたときには食べてみたいと思います」と、そのとき録音したICレコーダーにはこうコメントしていた。
13:42、食事を終えてリフトに乗る。登りリフトを使っている人は全くおらず、どんどんハイカーが山の上から降りてきていた。小学生が多い。林間学校か何かだろうか?
考えてみれば、もう2時近いんだもんな。裏山じゃないんだから、「今から山に登ってきまーす」という奴なんていないよな。しかも、2,000m級の山にこれから登るってアンタ。
おっそいリフトにイライラしながら、ようやくゴールかと思いきや。
おや、乗り換えがあるのか。
遠くはるか先に、これから登るであろう山が見える。でも、あれは目指す西吾妻山ではない。あのもっと奥にあるわけで・・・うわぁ、これは随分と遠いぞ。
歩くより楽とはいえ、いい加減ウンザリだなあとリフトを乗り換え乗り換え、3本目のリフトに乗る。
そこで、何の気無しに登山ガイドブックをリュックから取り出して読んでいて、事態は急変したのだった。
以下、その時に収録したICレコーダーの声をそのまま掲載。
只今14時2分、3本目のリフトに乗っているところなのですが。まずいことになってきましたねぇ。
このリフトを降りればようやく登山開始となるのですが、歩き始めてからリフト乗り場に戻ってくるまで、標準コースタイムで2時間20分かかることが判明しました。このリフトが、登山口に到着するのが・・・恐らく・・・ええと、14時10分くらい。で、最終リフトが出発するのが16時ちょうど。ということで、1時間50分の間で2時間20分の行程を歩ききらないといけないということになります。つまり、一般人よりも30分早く歩かないといけない。・・・できるのか、本当にそんなことが。
4時間、5時間歩く中で30分の時間短縮だったら可能だと思うんですけど、今回はもともとの時間が短いですから相当難易度高いです。もし戻って来られなかったら、当然リフトは無くなってしまっていますので歩いて下山しないといけなくなります。日が暮れてしまいますね、これだと。それはいくらなんでもマズイので、途中無理だと思ったら引き返す覚悟で進んでいかないといけないでしょう。これは本当に危険です。
「標準コースタイムで2時間20分かかることが判明しました」と今更言っている時点でどうかしている。本当はそんなこと、事前に用意周到に計画されていてしかるべきだったのに、「1度に4つの山に登る」という事から一つ一つの山に対する調査が完全に不足していたわけだ。
もちろん、それくらいの時間がかかる事は事前にわかっていたのだが、ゴンドラ+リフトの時間(これがトータルで40分以上かかった)を全く考慮していなかったのが計算間違いのもとだった。
これで、一気に「下山後は新高湯温泉で汗を流そう」とかいう悠長な気持ちは吹っ飛んでしまった。もう、ひたすら山頂を目指し、そして一気に山を駆け下りるしかない。失敗すれば、山中ビバークか、プチ遭難になってしまう。
リフトの遅さにより一層腹を立てながら、まるで短距離走でスタートの構えをしているときのようにドキドキして登山口への到着を待った。足が地面に着いたら、即座にダッシュだ。これは、走るしかない。
14時15分、こちらの想定よりも5分遅れるという最悪の事態の中、リフトは登山口に到着した。
登山口にある地図で、もう一度これからのルートを確認すべきだったのだが、写真撮影だけしてそのまま素通り。じっくりと読む暇など、あるわけがない。
ただ、あらためて右下に赤字で「登山リフト運行時間PM4:00まで」と書かれていたのは確認した。
・・・この軽率さが、悲劇を上塗りにするとはこの時点ではまだわかっていない。
早歩きのペースで、登っていく。息が相当上がるが、休むわけにもいかない。1分どころか、1秒でも惜しい。先ほど登った蔵王とは全然状況が異なってきた。あの頃の気楽さは一体どこに行ったのだろう。
10分ちょっとで、かもしか展望台と呼ばれる開けた場所に出てきた。これで稜線に出たことになる。
はるか彼方に、なだらかな山が見える。そうか、あそこに行かなければいけないのか。標高差はともかく、水平距離が相当ありそうだ、本当に間に合うのか。
ここからは木道歩きとなる。ガスっていて展望はあまり開けていないが、開放的な気分にさせられる・・・はずだ。こちらは、そんなものを見ている余裕などない。ただひたすら、前に進むだけだ。
この瞬間、本当に百名山ピークハンターになり下がってしまった。
道はよく整備されていて歩きやすいのだが、こっちは無我夢中。ひたすら休まずに歩く。
眼前に何やら岩がある。
梵天岩と呼ばれる場所らしい。
14時55分。ここで初めて大休止をとります。
・・・どこだ、ここ?
・・・ん?梵天岩か。あ、いや、天狗岩かな。で、あと15分で西吾妻山山頂。うーわぁ、もうリフト乗り場まで戻ってられない状況です。
で、西吾妻山から自力で白布温泉まで下山した場合、標準コースタイムが3時間10分。日没になってますな、しかも、谷に降りていくのだから、もう真っ暗になっている可能性大。
でも、山頂に登ってからリフト乗り場に戻るのはちょっと厳しい。リフト乗り場まで戻っておきながら、リフト終了していたら泣くに泣けない。もう、しょうがない、自力下山を考慮しながら先に進むしかないでしょう。リフト惜しさに、ここで引き返すわけにはいかないんで。
岩場を乗り越えていくと、またそこには木道が続く。山頂はまだか、まだなのか。
15時・・・(がたがたっ)ぐはぁっ、びっくりしたぁ。木道が壊れてました。ええと、15時8分。西吾妻小屋に到着しました。
ここ30分くらい、人の姿を全くみかけなかったのですが、ここで集団の登山客を発見。ちょっとほっとしましたね。でも、これからリフト乗り場に戻るのは時間的に無理なはずなので、白布温泉の方まで歩いて降りるのかもしれません。
絶対に追いついてやる。
えーと。あっけなく着いちゃいました。あれ?
3時15分。歩き始めて1時間で山頂に着きました。あー、リフトぎりぎり間に合うかなー、って時間なんですけど、どうしようかな。
じゃあ、写真撮って、大至急、戻りますかぁ。
はははは。
では、大至急、リフト乗り場に戻ります。
ということで、やや拍子抜けの状態で山頂に到着したのであった。なだらかな山だけあって、山頂の展望はゼロ。そこに標識があるから、それとわかるだけの場所だった。お弁当を広げるような広場があるわけでもなく、ただ単に登山道の途中にある、といった感じだ。
「これでリフトに乗れれば、俺ってサイコー」という意味もこめて、ガッツポーズで記念撮影。終了後、そのままそそくさと撤収開始だ。あと、残り時間45分。行きで1時間だったわけだから、さらに3/4に時間を短縮しなくてはいけない。ゆっくりとしている余裕なんて、ない。
山頂滞在時間、わずか30秒。み、みじけぇー。過去最短記録を樹立。
下山を開始しながら、今回の山登りについて総括のコメント。
いやね、今回に関しては全く計画性が無かったってところがあって、所用時間やら何やら全然調べていなかったというのが慌てた原因の一つかな。何しろ、ぼんやりとコースレイアウトを覚えているくらいだったもんなあ。でも、紛らわしいルートは無いコースなので、まあ特に問題はなかったわけだけど。
それにしても、山頂が非常にあっけなかった。最後、きつい登りがあるわけでもなく。こっちとしては、「いいよもう自力で下山するよ、畜生」って思ってたので、少々きつかろうが覚悟は決めていたんだけど。なんだか、肩すかしをくらうような感じで山頂に着いてしまったので、正直困ったね。ま、その結果こうしてリフト乗り場に撤収しているわけだ。
何しろ、「山のぼりをやっている俺」というタイトルで写真を撮影しようと、自分に向けたカメラのシャッターを切った瞬間に「あれ?山頂の標識だ」だもんな。まさに唐突。(この写真がまさにその瞬間)
さあて、これからのルート、45分で戻れますかって話だけど、どうかな?平行移動が多いルートだし、正直厳しい。無理かも。いや、帰りますよ。帰らないといけないんだから。万が一間に合わなかったら、スキー場を転がり落ちて帰る。しょうがない。さあ、ペースをあげていかないと。
はぁ、はぁ。ええ、天狗岩まで戻ってきました。はぁ、はぁ。15時27分。いやー、コースタイム通りで考えたら、どう考えてもアウトなんですが。あと30分でリフト乗り場まで戻れるかなあ。正直、厳しくなってきました。はぁ、はぁ。
快調に、しかし悲壮感を漂わせながら、必死になって歩いていたそのとき、とんでもないことが起きた。
えー、異常事態発生。
3時35分・・・36分。西吾妻山山頂に戻ってきてしまいました。
・・・今、すごく体がふるえています。
どこで道を間違えたのかわからないけど・・・ああ、本当だ、これ、間違いない。ぐるっと一周しちゃった。
・・・え?どこで間違えたんだ?
まったく分かりません。途中で分岐があったようには見えなかったし。
ええ?・・・ええ?何だ、これ。気持ち悪い。
何と、山頂に戻ってきてしまっていたのだった。最初、山道脇に「西吾妻山」という標識があるのを発見した時は、「はは、こういう紛らわしい看板を出しちゃ、まずいだろー」と思って通り過ぎようとした。しかし、ふと「え?でも行きの時にはこういう看板は無かったぞ」と気づき、周りを見渡してみたら・・・さっき、記念撮影をした場所と全く一緒なのだった。なぜ、ここに?全く理解ができなかった。混乱してしまった。自分は天狗岩まで退却していたし、そのままリフト乗り場方面に向かっていたはずだった。しかし、なぜか山頂に戻ってきている。ワープしたとしか考えられない。恐ろしくて絶叫してしまいそうだ。
もう確実に言えるのは、リフトが間に合わないって事です。やはり自力で下山するしかないので、白布温泉まで歩いて降ります。
もう、急いだところでどうしようもない。謎の山頂で、リュックからガイドブックを取り出してルートの確認をとることにした。そう、今まではダッシュで登っていたため、ルートをまともに確認しながら歩くことすらしていなかったのだった。
えー、状況がつかめました。天狗岩のところで分岐があったんですねぇ。実は、天狗岩から今こっちに迷い込んできてしまったルートが正しいルートで、最初山頂に登るのに使った西吾妻小屋経由のルートってのは大回りだったんですな。知らなかった・・・。やっぱ、昭文社のちゃんとした地図を持参し忘れたってのが痛いなあ。簡単なガイドブックの地図だから、推奨ルートを太線で書いて、あとのルートが見えにくくなってる。まさか分岐があるとは思っていなかった。
うーわぁ。20分・・・25分、無駄にしました。うわぁ。いやぁ、妙に登るからオカシいなとは思ったんだよねえ。うわ。結局、ぐるりと一周回ってしまった、って事なんですね。で、天狗岩の広い岩場のところで、あそこで分岐があって、片方のペンキ(岩に塗られている、登山道を示すペンキ)の方に釣られてしまったって事なんでしょうね。周りを見渡す余裕が全く無かった。ぐるりと回りこんでしまった。
うん。道理で、天狗岩から登るなぁ、って思ったんだよ。随分と登るんだよ。
あーあ。リフト、無理でした。
この時間からあと3時間かけての下山だからねぇ・・・最低でも6時半。
あー。リフト乗れるんだったら、乗っている最中に携帯電話で新高湯温泉に連絡して、空き室があれば宿泊なーんて事も考えていたんだけどなあ。下山で6時半か。
当初予定していた、猪苗代のキャンプ場に向かったら8時前。キャンプ場も使えませんね。
ということで、野宿!もしくは、車中泊、決定!と。
うーわーあ。でも、その前にちゃんと無事に下山しましょう。日没が迫ってるし。いや、ひどい目にあった。
えー、15時42分。うつむき加減で歩いていたら、眉間を思いっきり倒木の折れた枝の先で突いてしまいました。負傷です。眉間負傷。今のところ流血は確認されず。うう、痛い。
また、西吾妻小屋をお見かけするとは思ってもおりませんでした。くそ。
西吾妻小屋から、リフト乗り場とは逆方向に向かって進んでおります。こちらの登山道、湿地帯があったりしてなかなか風光明媚なんですが、笹が深い場所がいくつかあって、どうもあまり歩かれていない道のようです。
あと、石がゴロゴロしていて、しかもそれが滑りやすいので歩きにくいことこの上ないです。今回登山靴を履いて来なかったので、少々滑ることを前提にぐいぐいと前に出ることができません。非常に危ないです、本当に滑ります。
ちょっと日没になると怖いですねえ。あと日没までは・・・2時間足らず。急がないといけないんだけど、足場がこんな状態なので急げません!コースタイム通りか、それよりも若干短いくらいの時間でしかいけなさそうな感じです。
16時ちょうど。
さらに事態がまずくなりました。ほんっとに悪い方、悪い方に向かっています。
「水場」という標識があったので、おかしいという事に気付きました。そもそも、稜線の反対側・・・白布温泉とは逆サイドの山の南腹を歩いている時点でおかしいなとは思っていたんですけど。しかも、本来であれば一気に高度を下げていく道なのに、さっきから平行移動ばっか。
いやー、この道、西大嶺に向かってます。要するに、白布峠に向かって歩いていることになります。
※筆者注:「西大嶺」は、グランデコスキー場が南麓に広がっている山、といえばある程度イメージできる人がいるかもしれません。(関東/東北地方の人限定)
えー。非常にまずいです。白布峠から、白布温泉までおりるまでに・・・どれくらいかかるんだろ。たぶん結構あります。とりあえず車道に降り、最低限の身の安全を確保できるという点では悪くないんですが・・・白布峠に到着するまでに2時間くらいを要するはずだし(手持ちのガイドブックには、このコースについてはふれられていなかった)、そこから車を駐車している白布温泉まで2時間くらい歩かないといけないだろうし。
ということで、今が4時くらいだから、到着は8時くらいになるのか!いやーホントかよ。真っ暗だぞ。
16時5分。西大嶺ののぼりです。ううー。何だよ、この登りは。
地面が赤茶けてきました。西吾妻山とは地質が変わってきたようです。
はぁ、はぁ。
なんでここで登り道があるかなー。本当は下る一方だったはずなのに。って、俺が道間違えたからか。てへっ。
・・・くそ。何が「てへっ」だ。自分に腹が立ってきた。
何やら人の話し声が聞こえます。
16時10分。ああ、小高い丘の上に人の姿が見える。
どうやら、西大嶺に到着した模様です。何にせよ、人がいるってことはほっとします。自分が取り残されたわけじゃないんだ、大丈夫だ、って気になります。
西大嶺から先は、道が単調な一本道のはずなので、このまままっすぐ行きます。まあ、地図を確認するまでもないでしょう。あとは、白布峠へ一直線で降りるだけ。
西大嶺の山頂には人がいるし、西大嶺という山そのものには全く興味がないし疲れるのもイヤなので、ピークは素通りしてそのまま白布峠に向かうことにします。
しばらく進んでいるうちに、「いや、やっぱり地図を確認して置いた方がいい。今日は地図を見ていないためにやらかしたミスが2回もあるのだから」と思い直し、西大嶺から1分ほど歩いたところで立ち止まり、地図を確認してみた。
すると。
危ない!西大嶺を中心に、道が枝分かれしていました。四叉路になっているじゃないか!この直進ルート、そのままいけば早稲沢に行ってしまいます。早稲沢っていったら、裏磐梯のどんづまり・・・白布峠を下りきったところじゃないですか。こんなところにたどり着いてしまったら、駐車場に戻ることができなくなる!やばい!
非常に危ないので、一度西大嶺に登り直します。
16時15分。折り返して西大嶺に登りました。只今山頂。危ないところでした。あっちの道を進んでいたら、早稲沢に抜けてしまうか、それともグランデコに行ってしまうところでした。
こっちに戻ってきたとき、ここにいた団体のリーダーらしき人が「ああ、戻ってきた戻ってきた。大丈夫だ」と仲間に声をかけていたのがちらりと聞こえました。やはり、単独行で早稲沢に降りるのは危険だとその人達も思っていたのかも知れません。
白布峠への登山道は、西大嶺を登り切った奥にありました。
しかし、この道、やぶが深くて、日が暮れてしまったらきっと気付かなかったと思います。
危ない。ほんっとに危ない。
典型的な、遭難するぞパターンです、これ。
気を付けて下山します。地図で確認しました、今度こそ本当に分岐無しです、白布峠まで一直線です。
先ほど、団体客を追い越しました。西吾妻小屋前にいた人たちです。どうやら、白布峠に送迎のバスでも止めている模様です。
この人達が西大嶺にいたからこそ、素通りしないで戻って来れたわけで。もし休憩していなかったら、西大嶺という存在に気付かず、そのまま巻き道を通って早稲沢の方に下山していた可能性が高いです。今回は、本当に運が良かったといえます。
地図はしっかり読まなくちゃ・・・。
っていうか、ちゃんとした登山地図を忘れてしまった時点でお前はもう駄目じゃ。
岩がもっのすごく滑ります。
タウンユースのトレッキングシューズなので、登山靴より滑りやすいのは仕方がないとしても、それにしてもひどすぎです。
岩がしめっている上にこけがついているし、さらに泥まで付着している。しかも、シューズにも泥が目詰まりをおこしているので、二重に滑りやすい。
おまけに、笹が覆い茂っているのでところどころ道がわかりにくいときたもんで、もう不愉快きわまりない状態。なんなんだ、この道は。
えー、16時54分。時間はそれほど経っていないんですけど、ものすごく歩いた気分になりますわ。
クソほど役にたたねぇ登山ガイド本と、クソほど役にたたないトレッキングシューズ。最低だな。すべってすべってしょうがないよ。体力的な消耗も著しいけど、精神的に大分参ってきた。なんなんだ、ちくしょう。ああ、かったりぃ。ああああ、かったりぃ。
17時10分。
えー、全然下山の目処がつかないんですけど。
濡れた石の数が減ってきて、だんだんとしめった土にかわりつつあるような気がする。大分歩きやすくなったのは唯一の救いってところですかね。
でも、先ほどまでかすかに聞こえていた、白布峠を通り過ぎる車の騒音が全く聞こえなくなりました。遠ざかっているっていう事は・・・ないよな、さすがに。
西大嶺から歩き始めて1時間もまだ経っていないから、最低でもあともう1時間は歩かないといけないのかなあ・・・。
17時16分。馬場谷地湿地というところに着きました。
まだ白布峠まで2.6kmもあるのかー。げっそり。
おかしいと思ったんだよな、標高1510mの小ピークがあるはずなのに、登り返しが無かったもんな。
地図が曖昧な奴なので、今自分がどこにいるのかさえさっぱりわからん。そうか、今ようやく馬場谷池か。もう白布峠が近いのかと思っていたのに・・・。
白布峠が標高1,400m。だから、標高差でいったらここから100mちょっとしか無いはずなのにね、その割には結構疲れる道のりだぞ、これは。
あと、今気付いたのだけど、白布峠から白布温泉まで標高差が600m。標高差600mってアンタ、一体どれだけ時間がかかるのやら。登山道ならともかく、車道だからなあ・・・。
うわあああっ。
今、足首まで潜りましたよぉ?泥が。
・・・うっわ、靴下までやられた。
湿地帯のそばなので、ここら辺一体がぬかるんでいたんだ。
馬場谷池湿地。高山植物が咲き乱れていた。
というのを遠くから眺める。この湿地帯があるために、登山道はわざわざ大回りとなる。
湿地帯を回り込んだところに、先ほどと同じような湿地帯に関する注意書きの看板があった。
5時29分。白布峠2.1kmの地点までやってきました。ここは、たぶん1,510m地点だと思います。大分喉が渇いてきたのですが、これから先の事を考えると浪費できません。白布峠に自動販売機があればいいのですが、万が一無かった場合、そこから車道歩きを2時間くらいやらなければならないので水は貴重です。我慢しておきます。
・・・いや、ピークはまだだったようです。まだ登りの階段がある。
赤く染まる太陽を見ながら歩く。
17時54分。白布峠まであと1kmの標識がありました。
西に沈んでいく太陽が真っ正面に見えます。何とか日没までには車道に降りることができそうです。
さすがに水分補給をストップしたので、汗が止まりました。汗が塩になって、顔にまとわりつきます。それから、口が乾燥してきました。口の粘膜が粘りけを失ってきています。
塩分については、昨日しこたま食べたラーメン一杯分くらいは排出したんじゃないでしょうか。だから、ちょうど良かったってことか。ははは。(乾いた笑い)
18時5分。ようやく開けたところに出てきました。疲れた。
ここから300mほど進んだところが、白布峠のようです。ここは遊歩道のように整備されていますね。まだ、峠そのものは見えてこないのですが、車の騒音がほぼ標高差が無い状態で聞こえてきます。
何とか日没前に文明社会に戻ってきたということですね。これで、遭難とかビバークとかそういう最悪の事態は防げた、って事でもありますね。
ただ、ここから車を停めている場所まで2時間以上かかるはずなので、本当に一息つけるのは20時をまわった頃になってから。もうこうなると、新高湯温泉に泊まるとかどーのこーの言ってる場合じゃなく、飯はコンビニ弁当で我慢しなさいって事になるし、寝るところだって車中泊確定ときたもんだ。はぁ。道の駅裏磐梯にでも行って、駐車場で寝るかな。
18時13分。白布峠に降りてきました。いや、大変お疲れさまでした。
峠の駐車場には、団体客のものとおぼしきバスが停まっていますね。もうすぐ日没なんだけど、ちゃんと下山できるんだろうか。きっと、まだ20分~30分くらい遅れて到着のはずなので、ちょっと気がかりです。
まあ、他人を心配する以前に自分を心配しろって事で。
自販機。
やっぱりありませんでした。こういう人気のないところに自販機を置くと、壊されてしまうからでしょうか。飲み物、確保できず!ううむ。白布温泉まであと何キロあるかわからないですが、残された水で我慢していきます。
標高差、600m。しかも、車道。・・・車道の方が歩きやすいかな?さっきの滑る岩よりはるかにマシか。さて、何時間かかるかなと。ははは。
白布峠からとぼとぼと歩いて下山を開始する。この道は車で何度か通ったことがあるが、温泉から峠まで車でも15分くらいはかかったような気がする。歩いたら一体どれだけ時間がかかるのだろう。
標識で、10%の斜度があるよ、という警告がでていた。
ということは、600mの標高差を下るためには、6kmの水平距離が必要なわけであり、実際の道のりはもっと長いということだ。
うわぁ・・・。本当に2時間かかるよ、これは。
諦めて、歩く。できるだけ距離を短くするよう、アウトインアウトのコース取りで歩く。
えーと。今、天元台の入り口のところまでやってきました。只今の時間、18時56分。
大分ショートカットさせていただきました。いやぁ、持つべきものは友・・・じゃないや、登山客。結局、ヒッチハイクではないんですが、車に乗せてくれる善意の人がいたので、そのご好意に甘えちゃいました。
ありがたいことです。すっごく、ありがたいことです。
いやぁ、いやいやいや。はぁー。
・・・
いやぁ、恐ろしい!何が恐ろしいって、車に乗せて貰って・・・あのオッチャン、車の運転が比較的ゆっくりだったとはいえ、10分以上・・・恐らく15分近くはかかってここまで降りてきましたよ。あれは歩けない!とてもじゃないが、歩けない!いやぁ、歩かなくてよかったぁ。ほら、もう既に外暗いもん。車に乗せてくれる人がいなかったら、今頃相変わらず白布峠のくねくね道を歩いているよ?まだ半分も歩いていないくらいのところで。
道にサルがいたもんなー。弱っているこっちの姿を見て、襲ってきたかもしれんし。
あんな道を歩いちゃ、いかん。絶対駄目。
只今、ロープウェー乗り場そばにある駐車場に向かっているところです。とりあえず着替えたい!気持ち悪い。その後、寝る場所を考えなくては。
ああ、そして明日のプランも考え直さないと。ちょっと筋肉痛になりつつあるんで。
19時5分。疲労困憊しながら車のところまで帰還。
最後、車を降ろしてもらったところから駐車場までそこそこ距離があったのと坂があったので、あらためて疲労がどっと出てきてしまった。
見るからにぐったりしてしまっているおかでん。
汚れてしまったズボン。
これが、「お気楽に百名山登りしちゃろう」「ピークさえ踏めればあとはどーでもいいんよ、わし」という登山後に見えるだろうか。
死闘。
まさにそんな感じだ。
正直、今回は危なかった。装備が貧弱すぎた。ヘッドライト、防寒具、非常用食料といった山での基本となる装備は一切車の中に置き去りにし、山に持って上がったのはチーかま2本と水だけというありさま。これで万が一日が暮れてしまったら、身動きがつかなくなっていた。
無事、生きて帰って来られた。
今回ばかりは、本当にそう思った。無事で良かった、と。山をナメると、このようにとんでもないしっぺ返しがくるということだ。
汗と泥でデロデロになってしまったので、風呂に入らないわけにはいかない。幸い、ここは白布温泉。よし、早速風呂に・・・
と思ったのだが、宿の外来入浴って大体17時くらいで終わってしまうものだ。共同浴場や日帰り入浴施設があるならともかく、ここ白布温泉にそのような便利なものはない。結局、別の場所を探す羽目になった。
・・・米沢市街にあるスーパー銭湯でも探すか。
地図を調べた結果、米沢郊外に「小野川温泉」という場所があり、そこに立ち寄り湯がありそうだった。こんなところにある温泉で、20時とか21時までやっているような立ち寄り湯って果たしてあるのだろうか?非常に疑わしい。しかし、そこしか候補が見あたらないので、とりあえず車を走らせてみた。
途中の道は、ハイビームにした上にフォグランプをつけないと暗くて何がなんだかわからないような田舎道だった。こんなところに温泉なんてあるのかよ、と疑っていたら・・・あれれ、温泉街が突如出現したぞ。
一軒宿か、せいぜい数軒の宿しかない小さい温泉地かと思っていたのだが、とんでもない。結構な数の宿があるようで、しかも街中に浴衣を着た宿泊客が歩き回っている!何だ、この浴衣人間の数は。
驚き呆れつつ、町の中心地に「いかにも!」な風情の共同浴場を発見。車を脇に駐車した。
ここの共同浴場は、「尼湯」と呼ぶらしい。
しかし、「小野小町の開湯」って一体なんだ。小野小町、わざわざこんなところまで遠征してたのか。何しに来た?坂上田村麻呂みたいに蝦夷征伐に来たか?
・・・後になって調べてみたら、小野小町の父が出羽の郡司として赴任していたという史実があるようだ。そのころ京にすんでいた小野小町が、尼に扮して出羽の父に会いに向かって・・・という事らしい。
何処までが本当か知らぬ。まあ、小野小町がここまでやってきたとはとても思えないのだが、面白い話だ。
そういえば、地名の「小野川温泉」というのも、「小野小町」から由来しているのだな。
小野小町で飽きたらず、この温泉は伊達政宗の由来もあったりするから、歴史好きにはたまらない・・・か?
さてこの尼湯、入浴券をお店で購入しておかなければならないらしい。
そんなこと言ったって、一体どこで売ってるのよとあたりを見渡すと・・・ああ、あった。目の前にある酒屋が入浴券販売店だった。
200円を払うと、この入浴券を発行してくれた。タイムスタンプが押される。
さあ、これで晴れて尼湯に入浴することができるぞ。
尼湯は、扉を開けて中に入るとすぐそこが脱衣所になっていて、その先が仕切りなく風呂場になっていた。
あれ?番台さんはいないのか。では、この入浴券は・・・?と思って、周りを見渡す。
おお、なるほど。脱衣籠(というか、脱衣へぎ)の前に、「券刺し場」なるテプラが貼ってある。ここに入浴券を突き刺せ、ということらしい。
即ち、ここに入浴券が突き刺さっていない人は無銭入浴ですよー、という算段だ。
泉質は、含硫化水素ナトリウム・カルシウム-塩化物泉だそうで。長い!
非常に高温なため、常に流れ込んでくるお湯にあわせて水も流し込まれている。ほぼ同量の水で割ってはじめて適温になるようだ。ああ、汗を流してすっきりした。
なぜこの温泉地は、みんな浴衣をきて外を歩き回っているのか不思議だったのだが、ようやく理由が分かった。
別に今日納涼花火大会をやっていたわけでも何でもなく、この温泉地では「温泉めぐり」をやっていたからだった。
九州の黒川温泉でやるようになって有名になった制度だが、いくらかお金を払って手形を発行してもらえば他の旅館の風呂に入る事ができる、というものだ。
だからだろう、各旅館の入り口には「○○の湯」という暖簾が下がっている。たとえば、「高砂屋」という旅館の場合、「高砂の湯」という塩梅だ。このおかげで、最初この地に足を踏み入れたとき、「あれっ?こんなにたくさん共同浴場があるのか?」と勘違いしてしまったほどだ。
この小野川温泉には共通フォーマットがあるようで、どの旅館にも写真のような「当館の温泉はこんな感じでっせ」という紹介がある。
「露天風呂」があるかないか、というのは確かに重要な情報だが、「男湯」「女湯」は当然どこにでもあるような気がするのだが・・・。
清掃中で片方使えません、という時のために、こういう仕組みになっているのかもしれない。
さて、お風呂に入ってさっぱりしたところで、食事を見繕いに米沢市街に向かった。もうこの時点で20時半になっていて、牛丼でも何でもいいっす、という気分だった。まだ寝場所すら決まっていないのだ、これ以上余計な事に時間をかけたくない。
昼間、「米沢牛!」とか「玉こんにゃく!」と言っていたのがうそのようだ。ああ、自分だって信じられんさ。何しろ、予定していなかった白布峠に下山しちまったんだからな。
結局、「元気寿司」にて食事をとることにした。昼飯時に、「あ・・・回転寿司いいかも」と思ったのが頭にひっかかっていたからだ。
山に囲まれた地・米沢で寿司を食べるこたぁないだろ、と思うのだが、疲労困憊している体にはあっさりした料理がいちばん。寿司で結構じゃないか。
と自分を慰めつつ、寿司を頂く。今日も一日お疲れさまでした、と冷えたビールのグラスを傾けつつ
・・・ああ、車なんだよなあ。ビール飲みたいんだけどなあ。飲めないじゃん。
悔しいので、最後は「ウニ!」「大トロ!」とこの店で一番高い奴を立て続けに頼んで、腹いせをしてやった。しかし、繰り返して言うが、ここは海産物の産地でない土地柄だ。しかも、回転寿司だ。一番高いメニューを食べたからって、自慢してはいかん。
はーい。
22時半、白布峠をタイヤのスキール音高らかに駆け下りて、道の駅裏磐梯にやってきた。
道中、道の脇にあるキャンプ場でテントを張って談笑しているキャンパーを、羨ましげに眺めつつ。
今晩の宿は、ここだ。
車のシートをリクライニングさせ、寝床を作る。山歩き2連発で疲れた体を癒すにはちと不十分だが、仕方がない。明日も朝が早いので、早く寝ないと。
23時、就寝。
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