さて、生ビールのジョッキを見たことでがぜん盛り上がって参りました。冷池山荘名物の生ビール。
勝手におかでんは「本日は生ビール祭りの日です」と宣言してしまった。
ま、いいじゃないか。
よく居酒屋なんかで、「生ビール祭り開催中」なんて夏のシーズン、ポスターが貼ってあるけどそれと一緒だ。祭りを開催するのはいいけど、値段は一緒だし量も一緒だし、どこがどう祭りなんだコラ、という内容だったりするわけで。
2階の奥に、喫茶室「ブロッケン」がある。そこで生ビールを提供してくれるらしい。
「2階に喫茶室って珍しいな。通りすがりの人お断り、って事なんだろうか?」
「かもしれんな。2階じゃ、さすがに通りすがりの登山客はやってこれないからな」
「ビール飲みたい、って人もいるだろうに。ひょっとして、あんまり積極的に軽食ビジネスはやりたくない?」
「あり得るな、それ。荷揚げコストがかかる割には大して儲からないから、通行人には売らない。宿泊客のみのサービスで」
「うーん、それにしても、喫茶室って普通は食堂を営業時間外に開放する形だと思うんだけど、わざわざ別の部屋を作るってどういう事だろうね」
喫茶室に入ってみる。もうビールが待ちきれない、というほどの欲求は無いのだけど、まあお約束ですよこれは。
喫茶メニュー。
コーヒーや紅茶が500円、ビールが900円といったところ。
ラーメンやカレーは700円。微妙なお値段だ。カウンタ奥の設備を見ると、本格的な調理ができる環境にはなっていなかった。恐らく、サッポロ一番やレトルトカレーの提供になるのだろう。
ビール、900円。
燕山荘が、大ジョッキ1000円で中ジョッキ800円だったことを考えれば、やや高いが許容範囲といったところか。ま、缶ビールではなくてジョッキ生が飲めるのだ、もう文句など何もございませんです。
いや待て。生ビールを注文したところ、従業員さんはゴソゴソと段ボールの中をあさり、そこからジョッキを取り出した。
・・・段ボールの中からジョッキ?
恐らく、改築したばかりなので食器の整理もできていないのかも知れない。いや、そうはいっても、海の日三連休の間にお客さんはたくさんやって来たはずだ。ということは、適当なジョッキ保管場所がないので、段ボールに仕舞ったという事だろうか。
まあそんなのはどうでもいい。しかし、取り出したジョッキを水道水で軽くゆすいでいるのには少々面食らった。衛生面に気を遣っていて素敵デスネ、と褒めたいところだが、ビールを注ぐ前にジョッキをぬらすなんて御法度もいいところだ。おい、そんなことをやっていたらクリーミーな泡が立たないぞ!
ハラハラしながら従業員さんの手つきを眺めていたが、従業員さんは慣れた手つきでビールを注ぎ始めた。
・・・ほーら、泡がすごく大きいじゃないか。あんな泡だと、すぐにぷちぷちとはじめてしまい、泡無しビールになっちゃうんだよ。生ビールで泡無しじゃ、全然ダメダメだよ。
と、がっかりしていたら、ジョッキをビールサーバの横に置いてしばらく間を空ける。
「?」
ビールはまだか、と待っているこっちを無視して、しばらく放置している。何をやってるんだろうと思ったら、しばらくしてまたビールをつぎ足した。これを繰り返すこと3回ほど。
「驚いたぜ兄貴!この店、『キリンシティ』でやってるみたいに、ビールを時間かけて、分けて注ぎ入れてるぞ。あれをやると、泡が細かくなるんだよ。プロの技だぞ」
「へー?そうなのか?」
心配はしていたが、きっちりと泡を作り上げてくれた。水不足とはいえ、きっちりとジョッキの洗浄はやっていたようだ。いいね、なかなか。
では、予備の食料として兄貴が持ってきていた魚肉ソーセージを肴に、ビールを頂くことにしましょうか。
では、いただきますー。窓の外は荒天で何も見えやしないけど、この大自然に乾杯だ。
ぐぐぐぐっ。
・・・
・・・?
普通だったら、ジョッキの半分くらいまで飲んでしまい、同行者から「お前ペース早すぎ」なんて言われるもんだ。しかし、今回は一口二口、飲んだ時点でジョッキから口を離してしまった。
やっぱり、雨の中歩き通したから、ビールがうまく感じられないなあ。
「楽しくないビール」にちょっとがっかりしながら、気を取り直してもう一度ビールを飲んでみた。
やっぱり、まずい。
・・・いや、違うぞこれは・・・?
このビール、ジョッキには一番搾りって書いてあるけど・・・どこかで記憶があるなあ・・・何か、妙に懐かしい味だ。というか、イヤな思い出と共にインプットされた味のような気がする・・・。
「おい兄貴、このビール変だと思わないか?」
「そうか?全然わからんが」
兄貴は、そもそもお酒はあまり飲まない。今回も、おかでんのように「灼ける思いで山小屋着いたらビールビール」というつもりはさらさらなく、アホな弟が山のぼっている最中ずっとビールという単語を口走っていたので、まあそれだったらご相伴しましょうか、程度のシチュエーションだ。
ビールに対して思い入れが少ない分、味の違いに気づいていないようだ。
微妙な味の違いなのか?しかし、この味は・・・
しばらく悩んでいて、ようやく思い出した。
あ、このビール、賞味期限切れの味だ、と。
以前、御用納めか何かの際に調達したビールが職場の片隅に転がっていたので、残業していた連中で飲んだ事がある。それがまさしく賞味期限切れのものだった。おかでんは事情を知らずに騙されて飲んだのだが、すぐに味がおかしいと分かった。その味と全く一緒でやんの、この生ビール。
「あー」
思わず声を上げてしまった。
「おい、兄貴分かったぞ。これ、賞味期限切れの味がする。うわぁ、どうりでまずいわけだ」
「えっ?賞味期限切れ?」
あわてて兄貴が味を確認する。
「うーん、言われてみれば味が変な気がするかもしれないな。ちょっと後味が酸っぱい」
古くなったビールの特徴として、一口目の味が重く感じられる。しかし、後味は物足りなく、スカっと抜けてしまう。そして、若干酸っぱく感じる。
しばらくして、兄貴が
「うわぁ、お前に言われてから、ホントにまずく感じられてきたぞ」
と呻いた。結局こういうのって、知らずに飲んでいれば幸せなんだよな。
「まだ営業開始直後だからな、昨年の余りを持ってきたんじゃないか?」
まあ、さすがに賞味期限切れを使っていることはないだろう。この辺りは確認したわけではないので迂闊に断定はできない。きっと、樽の運搬方法や保管、またはビールサーバーの清掃に問題があって、味が予想外に劣化してしまったのだろう。
理由はどうあれ、結局1杯ジョッキをカラにするのが精いっぱいだった。これ以上飲みたいとは思わない。もういいや。ごちそうさま。
「山の上でビールが飲めるだけで幸せと思え、ぜいたくボケしやがって」という意見もあるだろう。いや、ホント今回痛感しましたよ。自分自身、山の上にもかかわらずビアホール並の美味なるビールを想像して飲んでいたな、と。そんな対比をする時点でもう場所をわきまえていない。ここは、標高2,400m。物資運搬はヘリコプター頼みだ。下界と同じものが出ない、なんていって腹を立てる方が悪い。
とはいっても、やっぱりがっかりしてしまったのは事実で。悔しいので、他のお客さんで生ビールを買う人が居ないかと待ちかまえてみた。
「うひゃー、やっぱり生ビール最高だよなあ」
なんて、いっぱいあおった直後に絶賛する人が出てきたら面白いな、と思っていたのだが、時間帯が悪かったらしく誰もやってこなかった。残念。
1階のロビーでは、 オッチャンらが缶ビールを飲みながら談笑していた。
あ、いいなあ。缶ビール、美味そうだな。でも、わざわざ下界から持って上がった人間の特権だよな。
物欲しげにその様子をうかがっていたのだが、ある特徴に気がついた。みんな、一番搾りのロング缶を飲んでる、と。
一番搾りは人気商品とはいえ、みんながみんなそればっかり山に持って入ったとは考えにくい。では、一体これは・・・?
しばらくして、ようやく謎が解けた。受付で、缶ビール売ってるじゃん。
よーしよーし、では夕食時にリベンジマッチだ。ビールのカタキはビールで討つ。それでないと男じゃない。
ちなみに、一番搾りのラベルはきっちりと確認しておいた。缶の上部に金色の帯が入っているものは、2004年に入ってからリニューアルしたものだ。だから、まだ新しいビールであることは間違いない。これだったら、安心して飲める。逆に、金帯が入っていない一番搾りが売られていたら、絶対に買うことは無かっただろう。
今度は山小屋の外を探検してみることにした。
入り口すぐ脇に、「タクシーのご用命」なんて看板がでていた。便利なご時世になったもんだ。登山口まで下りてきたら、そこにタクシーが待ちかまえているというワケだ。どうやら、タクシーを申し込んだ時点で「予約金」を徴収されるらしい。その予約金が、山小屋にとって仲介手数料となる模様。うまいビジネスだ。
小屋の片隅に、給水所があった。種池山荘のように、ビールも売ってまっせ、という造りにはなっていない。単なる水引換所だ。
ここに、先ほど貰った「水1リットル券」を持参して、水を補給。この荒天で、これ以上水はいらないような気がしたが、あるに越したことはない。
なにしろ、山小屋の洗面所も、「歯を磨くときは持参の水を使ってくれ」と指定されているくらいだ。水を所持していないと、何かと不自由。
水引換所の脇にあった、水たまり。
こ、これがひょっとして冷池なのだろうか。
ひょっとしてというか、きっとそうなのだろう。さすがに水不足とはいえ、ここの水を使っているということはなさそうだった。
本当に冷たいのかどうか、興味があったがこの雨の中確認するのも面倒でバカバカしかったので、眺めるだけにしておいた。
案内表示。
どうも汚れが目立つな、と思ったら、以前書いてあった字を一度消して、書き直しをしたらしい。
この表示だと、本日入山した扇沢出合まで5時間の道のり、とされていた。しかし、消された文字をなんとか解読してみると、昔はこのルートは4時間30の行程だった模様。
ルートが変更になって、30分相当時間が余計にかかるようになったという話は聞いたことがない。恐らく、最近の登山者の体力にあわせて、コースタイムを延長したのだろう。
衰弱化していく登山者。これは日本人の平均基礎体力が落ちているという理由よりも、むしろ老年者の登山が増えているからという事なのだろう。
しばらく外に居たら、段々とガスが晴れてきた。
正面は、冷乗越がある丘。
180度ぐるりんと回頭してみたところ。
恐らく、こっち方面に鹿島槍ヶ岳があるはずなのだが、ガスで何も見えない。
しばらく粘ったが、どうしても山頂を拝むことはできなかった。
ここ、冷池山荘にはテント場がある。今日はどれくらいテントが張れれているか、視察に行って来ようと思い立った。
山小屋入り口にあった案内板によると、テント場まで8分だという。
8分も歩くのか?それ、「冷池山荘併設」と呼ぶにはちょと無理がある距離だぞ。
山小屋の裏手に、解体済みの山小屋の残骸が取り残されていた。
階段が設置されていて、「トイレ」と書かれている。山小屋内のトイレには、外からでもアプローチできるようになっているわけだ。
しかし、紛らわしいのは、解体物の中に便器がちょこんと置いてある事だ。状況が理解できていない人だったら、「わ。トイレで用を足したかったんだけど、ひょっとしてこの野ざらしの便器を使え、って言ってるのか?」とパニックになるかもしれない。
テント場方面に歩いていく。登山靴ではなく、ゴムサンダルなので歩きにくい。
・・・おいおい、いくら8分といってもちょっとコレは面倒だぞ。この先、小高い丘があるのだが、そこまでのどこにもテント場らしき開けた場所がない。どうやら、丘を越えた向こう側らしい。
め、面倒だ。やーめた。視察は明日でもいいや。
諦めて、くるりときびすを返したところ。信州側は切り立った崖になっていて、落っこちると100mくらいは下にほぼ垂直落下だ。
山小屋に戻ってきてみると、何やらでかいドラム缶を発見した。ホースが取り付けられている。
どうやら、屋根に降った雨を集める、天水収集タンクのようだ。なかなか大変だ。
山の上は相変わらず曇っていたが、下界はすっかりと晴れ渡った。山小屋から大谷原の方向を眺めたところ。
この山小屋の食事は、夕食17時、朝食5時となっていた。受付脇に設置されていたホワイトボードだと、夕食は3回/朝食は2回の表示域が用意されていた。今回は宿泊客が少ないので、両方とも1回で済んでいるが、混雑しているときは30分か45分刻みで、入れ替わり制にしているのだろう。
17時ちょっと過ぎ、館内に夕食の準備ができたとのアナウンスが流れた。では、食堂に向かおうか。
さあ、大変お待たせをばいたしました。夕食のお時間ですよー。
おお?品数が相当あるぞ、これは。小鉢が二品もついている。ひー、ふー、みー、と数えてみたら、おかず10品+デザート1品+御飯とみそ汁、という構成だった。冷凍品が大半とはいえ、ここまであれこれと並んでいるのは珍しい。
「まるで、朝食バイキングみたいだな」
「どういう意味だ?」
「いやね、バイキングでいろいろ料理が並んでいたら、ついついたくさんの種類をお皿に盛っちゃうじゃない。あの状態によく似てるなって思った」
ご飯は、圧力釜で炊かれているようだ。べたつかず、芯もなく、丁度良い感じで炊きあがっていた。兄貴もこれには満足。
食堂は、宿泊客が一同に会する場だ。どんな客層なのかを知る上では一番手頃な場所だ。
単独行の人が全体の半分くらいで、あとは少人数の団体と、夫婦といった感じ。どうも、われわれ兄弟が最年少のようだった。二人とも30代なのに、それでも最年少という現実。年齢層高いなあ。
でも、この年齢層の高さが、山小屋を快適にさせていく原動力なんだろうな。根性で寝泊まりする小屋は、中高年には向かない。
・体力はあまりない
・お金はある
・暇はそこそこある
という世代を相手に商売しないといけないので、山小屋も変わっていかないといけないのだろう。
もちろん、ビールは調達済みなんである。ロング缶をぐいーっとあおる。
うう、いいよいいよいいよォ。
今日初めて飲むビールのような新鮮な感動を覚えつつ、ぐいっとあおる。よく冷えていたし、とにかく美味い。
おかずがいろいろあるので、ビールのつまみには困らない。周りで食事をしている人たちは、ほとんど食堂でお酒を飲んでいなかったが、おかでんだけぐいぐいとビールをあおった。
・・・ああ、カラになっちゃった。すいません、もう一本買い足してきますわ。
席がお隣だった人とデジカメ談義をしていたら、隣のテーブルのオッチャンが
「天気が悪くて景色がきれいに撮れなかったって?だったらほれ、これを撮ればいい。わかりゃしないから」
と、壁に飾ってあった朝焼けの写真パネルを指さす。
「いや、こんなの撮影しても」
と、そのきっついギャグに辟易として抵抗したのだが、
「いいから、とりあえず撮っておきなよ」
としつこいので、撮影はしておいた。
できあがりが、ご覧の通り。ほらー。なーんも面白くないし、きれいでもない写真になっちまったじゃんかー。
2本もビールを飲みながら食事をしていたせいで、一番最後に食堂を出る事になってしまった。
ロビーに戻ると、テレビが放映されていた。さすが、新しい山小屋だけあって、壁掛けの液晶テレビだった。時代だなあ。
NHKの天気予報を見る。北陸地方が大雨で酷いことになっているようだ。明日も、山の上は雨でダメっっぽそう。
夕食後、といってもまだ18時にもなっていない時間だ。外は明るいし、やることはない。山小屋は東を向いていて、夕日を眺める事もままならない。
外をぶらぶらと歩いていたら、何やら香ばしい臭いがしてきた。・・・にんにくだな、これは。何事かと思ったら、開け放たれた給水所の窓から臭いが放出されていた。どうやら、賄い料理を作っているらしい。
しばらく外から眺めていたが、にんにくとジャガイモとニンジンを炒めた料理を作っていたようだ。
うーん、水が少なくても調理できる食材と料理だ。やっぱりこういうところでも節水しているのだろうか。
やることがないからといって、早々に布団に入るわけにもいかない。喫茶ブロッケンで本を読んで過ごすことにした。
ブロッケンは、真夏だというのにストーブががんがんに利いていた。やや、暑い。
消灯時間が20時15分なので、20時近くまでブロッケンに滞在した。
寝る前に外に出てみた。ガスは相変わらずで、下界は晴れているけど鹿島槍山頂は伺う事ができなかった。
外から山小屋を写してみる。あまりきれいには写らなかった。
小屋入り口のすぐ脇に張ってあったもの。
「ザックを捜しています」と書いてある。なるほど、ザックをどこかに落としたのか。それにしては大げさだな・・・よっぽど何か大切な物が入っていたんだろうか、と、小屋に出入りする都度気にはなっていた。
しかし、他人のザックなど興味はないので、詳細を読まずに素通りしていた。今回、暇だったので中身を読んでみることにした。
昨年(2003年)12月29日、鹿島槍ヶ岳南峰付近にて55歳の会社員が遭難しました。本人は3カ月後に発見されましたが、背負っていたはずのザックが見つかっていません。中にはデジカメ等が入っているはずです。
山中でザックを発見された方は、下記までご連絡をお願いいたします。
あー、救助された本人が「どうしてもあのザックに入っていたデジカメの写真が必要なんだ」と言ってるのかな。そんなに貴重な写真を撮っていたのか。
と、ぱっと見た時は思ったのだが・・・え?「本人は3カ月後に発見されました」って・・・うわぁ、それってご遺体で、って事か!
ご冥福をお祈りします。
20時を過ぎると、みな静かになってしまった。非常にお行儀がよい。酒宴やって騒いでいる人や、自分の山遍歴を延々と語る人もいない。
消灯時間はまだなのに、廊下はご覧の通り誰も歩いていない状態。部屋に入りきらなかったザックが廊下に並べられているだけだ。
いくら、布団同士がくっつかないくらいのスペースが確保されているとはいえ、ザックを枕元に置くほどのゆとりは無かったらしい。結局、置き場のない荷物は廊下へ。
自分の布団に戻った。この山小屋、20時15分の消灯時間になったら、全ての電気が消えてしまうという。発電機そのものを停めるらしい。そのため、夜中にトイレに行くのも自前のヘッドライトなどを使う必要がある。消灯に遅れては大変。早めに用は済ませておかないと。
枕を取り出してみたが、結構小振りな形だ。
「えらく小さいな。まあ、これで用は足りるけど」
「でもよ、大きめ枕ってのもイヤだぞ。オッチャンとかが抱き枕のように抱きしめて寝たりしそうで」
なぜか枕のサイズが気になっている様子の兄貴だったが、しばらくしてハタと気づいたようだった。
「枕を二つ並べて見ろよ」
言われたとおり、枕を二つ、布団の上に並べてみた。すると、ちょうど1枚の布団の上に枕が二個、きれいに並んだ。
「あー、なるほど」
「そういうことだな。要するに、お客さんが多いときは、布団1枚で二人で寝てくれよ、というわけだ」
なるほど。
しかし今日は布団1枚で一人なんである。
枕2個を積み上げて、堂々と寝る兄貴。
明日は今日より長丁場だ。早立ちできるように、いまのうちに荷物をパッキングしておく。
ザックの奥にしまってあった、明日用のパンが見事につぶれていた。
メロンパンがつぶれて、メロンクッキーになりはてていた。あーあ。
とかいってるうちに、いきなりばっさりと電気が落ちた。
「おい!いきなり電気が落とされたぞ、何の前触れもなく!」
暗闇の中で兄貴の声が聞こえたが、その姿は漆黒の中で、既に確認できなかった。
ま、いいや。
明日も頑張ろう。おやすみなさい。
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