裏切りの山、裏切りのビール【鹿島槍ヶ岳】

2004年07月20日(日) 2日目

冷池山荘→鹿島槍南峰→(来た道を戻る)→扇沢

朝4時過ぎ。

「雨だ、雨」

という声で目が覚めた。

「雨が降ってるんだよ、こりゃダメだ」

そのオッチャンは、他人が知らなくて自分が知っている情報を伝達するのがうれしいらしい。ここにいる全員がガッカリする情報だというのに、うれしそうに言う。

「昨晩、夜中の1時過ぎくらいだったかなあ、外に出たら槍、見えたんだよ。あのときは晴れてたんだけどな。今は雨。こりゃダメだなあ」

なんて言ってる。そうか、今日はやっぱり雨か。

兄貴が、

「雨雨うるさいな、何度も言わなくてもわかるって言うのに」

と愚痴をこぼす。どうやら、昨晩同室の人間のゴソゴソした動きが気になって、熟睡できなかったらしい。そのため、やや不機嫌。電動ひげそりでひげを剃っている、近くのオッチャンに対しても

「山に来てひげなんて剃らなくてもいいだろうに」

と嫌みをつぶやいていた。朝から、天気も人も荒天ですなぁ。

外に出てみると、確かにどうにもならないガスだった。朝もや、なんていうレベルではない。これは明らかに雨雲のなかにすっぽりと入ってますネ僕達。

風がどぅ、と吹いて、小雨がその都度体に降りかかる。大粒の雨ではないのが幸いだが、いずれにせよこんな状態で山に登ったって楽しいはずがない。

さて、どうしたものか。

朝5時になって、朝食のアナウンスがあったので食堂に向かった。

朝ご飯はこんな感じ。オムレツがメインディッシュだ。朝食のキングオブキングである鮭が出てこなかったのは素直にうれしい。あと、大根おろしが小鉢で添えられていたのがちょっと驚きだった。ありそうでない一品だな、山小屋で。ありがたく頂戴する。

小屋泊まりの人の多くは、「どうしたもんかなあ」とか言いながらロビーでテレビを見たり、のんびりとしていた。

すぐに出立するぞ!と気合いが入っている人は少ない。まあ、この天気だ。好転するならするで待った方がいいだろうし、ダメっぽそうなら諦めて下山した方がいい。

風にあおられて稜線から転落、なんていうのが一番の貧乏くじだ。

しかし、われわれ兄弟は「とりあえず鹿島槍南峰までは行こう」という決断をした。兄貴はやや消極的だったが、「まあ、南峰までだったら」と妥協してくれた。鹿島槍は双耳峰なので、両方登ってこそナンボなのだが、まあこの天気じゃしゃーない。とりあえず標高が高くて、冷池から近い南峰に登頂できれば十分妥協できる範囲だ。

「あれ、この人たちやっぱり出発しちゃうのぉ?」というロビーでたむろしている人々の視線を背中に感じながら、靴ひもを結ぶ。今日は雨だから、長ズボンにスパッツを履いた方がいいのだろうが・・・面倒だからいいや。今日も兄弟そろって半ズボン。やる気があるんだか、無いのだかわからん格好だ。

5時36分、出発。

冷池山荘、とっても快適な山小屋でした。生ビールという点で唯一減点があったものの、それ以外は素晴らしかった。従業員さんの対応も気持ちよかったし、施設は快適だし(新しい、というだけではない)、食事はおいしかったし。お世話になりました。

早速の強風なんである。黒部側から強い風が吹き付けてくる。

「うぉぬあぁぁ」

と思わず声を上げてしまうが、そんな声もすぐに風の音にかき消されてしまった。

こうなると、ちょっと前を歩く兄貴とも会話が成立しない。お互い、もくもくと歩く。

6分ほど歩いた丘の上に、開けた場所があった。どうやらここがテン場に指定されているらしい。地面の岩が取り除かれ、テントが張れるようになっていた。

しかし、さすがにこの天気じゃ、テントを張るガッツマンはほとんど居ないらしい。テン場のはずれに1帳だけ、一人用テントが張ってあった。

風でぐいぐい揺れている。中の人、昨晩はちゃんと眠る事ができたんだろうか。いや、ひょっとしたら、「あれ?昨晩テントを張った場所から10mほど移動しているような気が・・・」なんて状態だったりして。

恐らく、この唯一のファイティングキャンパー以外は、テントを持参していても山小屋に待避していたに違いない。ははーん、昨日自炊部屋で焼肉大会をやっとったのはそういう人たちだな?

さすがにこの花の名前は覚えたぞ。

シナノキンバイ。

・・・いや、そんなに「どうだ!」と自信満々に言われても困るんですけど。小学生の算数ドリルを、大学生が解いて自慢しているのと一緒。

登山道が信濃側になると、一息つくことができる。こうも稜線を隔てて天気が変わるのか。

高山植物が咲き乱れる緑の中を進んでいく。

高山植物。

「・・・おい、名前はどうした。また自信満々に名乗ってみせろよ」
「あ、いや、そのですね、よくわからんのですよ。面倒なので調べるのも、ちょっと」

すぐに化けの皮がはがれてしまった。

途中、小さな池があったりする。

勝手に、「冷池2」と名付けてみた。

晴れていればものすごく気持ちよい登山道なんだろうけどねえ・・・

お花が風で揺れてます。そよそよ、と揺れているのではなく、ブンブンと揺れております。そんな僕もユラユラ上半身が揺れております。

呑気な山歩きはここまで。

歩き始めて30分ほどで、両側が切り立った稜線歩きに変わってきた。

さらに進むと、今度は山を黒部側に回り込んで、つづら折れの上り道となった。

浮き石があちこちにあるので、ちょっと慎重になる。

文章が淡白だな、だって?いや、このシチュエーションでどんなオモロい事書け、って言うのよ。お互い無言なんだから。

じゃ、ご期待に添う形で・・・

「はいどうもー」
「僕らおかでん兄弟、まあこれからますます頑張っていかないといけないな、と思ってるワケなんですけどもね」
「はい」
「頑張る、といえば山!」
「山!」
「君、山登ったことあります?」
「いやー、今まさに登ってる最中なんですけども」

ありもしない会話をでっちあげてはいかん。大体、こんな会話をしながら山に登っているヤツなんて見たことがない。

つづら折れを登った先に、黄色い標識を発見した。

布引山山頂だろうか?

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