これは天災ではない、人災だ【西穂高岳】

↑これより登山道

13:51
3分ほど遊歩道を歩いたところで、「↑これより登山道」と書かれた看板に行き当たった。一般観光客はここまでよ、という合図だ。

この看板周辺には、「あらー、ここまでなの?案外何もないわねえ」なんて言って立ち止まっている観光客が何名かたむろしていた。確かに、ロープウェイ乗って大げさにここまでやってきて、山の中腹にあるものといえばちょっとした遊歩道と展望台だけ。いや、その展望たるや登ってきた甲斐があるってモンだが、ちょっとばかり時間を持て余してしまうのは事実。

「どうしようかしら。もう少し奥まで行ってみる?」
「この靴で行けるかしら」

何やら無謀な相談を始めている。やめとけ。

「ねえお兄さん」

はい?僕ですか?他人事として素通りしようとしていた僕であったが、登山の格好をしていたので呼び止められてしまった。

「この奥って何があるんですか?」

なんとも答えにくい質問だなあ。

「ええと、西穂山荘って山小屋がここから徒歩1時間くらいのところにあります。その先、徒歩3時間で西穂高岳ですが」

「えー。1時間は無理よねえ」
「そうよねえ」

そりゃそうだ。

「ここから先、5分とかそれくらいで、何か見て面白いものとかないですかねえ?」

いや、そりゃ僕知りません。ガイドじゃないですから。僕も初めてなんスよ、この山。もー。

「特にないと思いますよ。ひたすら登山道でしょう。一番眺めが良いのは、ロープウェイ乗り場の展望台だと思いますので、そこで景色を楽しんだ方が良いんじゃないですか?」

「やっぱそうよー、あそこに戻るしかないのよー」
「どうする?戻るぅ?」
「戻ろっか」

こうして、観光客は引き上げていったようだ。無駄に遭難する人を減らすことに貢献。

本格的な登山道に突入

13:53
さあ本格的な登山道に突入だ。笹が茂った道を進んでいく。最初はなだらかな道。

謎の建造物

13:57
所々木道があったりする。よく整備された道だ。

途中、コンクリートブロックで作られた建物があった。避難小屋・・・にしては場所がロープウェイ乗り場に近すぎるし、違うようだ。営林署のものだろうか。

こんな写真を撮影しても何にもならないのだが、ついつい撮影。いや、何だか不思議な感じがしたので。

こういう建造物を見ると、ついつい中には白骨死体が転がっているんじゃないか、なんてオカルトな発想をしてしまうのは僕だけだろうか。

また山小屋が見えた

14:01
また山小屋が見えた。近そうに見えるんだけどなあ。でも、こうやって見晴らし良く山小屋が見える、ということは、ここから標高を下げるという事に他ならない。山小屋まで一直線に登りだったら、木々が邪魔をして行き先が見えることはない。

あー、位置エネルギーが無駄になるのかあ。

いや、でもその位置エネルギー、ロープウェイで人工的に稼いできたものじゃん。愚痴を言わないでちゃんと自分の脚で稼ぎなさいって。

ひたすら登りが続く

14:15
うーわーあー

いったん下ったと思ったら、あとはぐいぐいとひたすら登りが続く。結構な斜度がある。しかも、ひたすらジグザグに登っていく感じであり、なかなかしんどい。

登って、平坦な道がちょっとあって、また登りがあって、という道だったら、平坦な道のところで息抜きができるのだが、こういうひたすらな登りだとどこで力を抜いて良いかの判断が難しく、疲れやすい。ましてや、絶妙なタイミングで先を行く人を追い越したりすることになり、その追い越しの際に120%の力を使っちゃったりしてますます疲弊。

いかんな、やっぱり体力が落ちている。今年に入ってからは仕事が忙しく、全然鍛えていなかったからなあ。

「さっきまでビールを飲んだくれていたからだ」とは絶対に認めない自分。

なだらかな道になった

おっと、なだらかな道になってきたぞ。きつい登りはもう終わりっぽい。

西穂山荘

じゃーん。西穂山荘が目の前に現れたーッ。いやあ、あっけないといえばあっけないもんだな。山の下で飲んだビールの酔いが覚める前に着いちゃった、くらいの勢いだ。途中急登があったものの、登った感に乏しいのは事実。

山小屋の表側

この山小屋は西穂高岳から焼岳に向かう稜線上に建っているのだが、入口は上高地側(東側)を向いている。なので、ロープウェー側から見えていたそのお姿は後ろ、ということになる。小屋の脇を回り込んで、表に向かう。

この山小屋は年中無休で営業している。ロープウェーでアプローチできるということもあり、ちょっとガッツリとした冬山登山の入門編として(変な日本語)良いベースキャンプになるようだ。

テント場

稜線上の小屋といえば、場所が狭いために張り付くように建っていることが多いが、ここはゆったりとしている。稜線の幅が広い。なので、テント場も小屋の目の前に用意されていた。場所によっては、テン場は小屋から相当離れた場所にあったりするものだが、ここは間近で便利。ビールを買ったり、水を補給したり、トイレに行くにしても便利。

ただし、人気は高く、もう既にほとんど場所がない過密状態に。人口密度の高さでいったら、往年の軍艦島を彷彿とさせるんじゃあるまいか。

西穂山荘正面

西穂山荘正面。大きな三角屋根の下に、三階建てで構成されていることがわかる。かなり大きな規模の山小屋だ。「本来1階分の高さしかないのに、かいこ棚状態に二段ベッドにして場所を確保しました」というのとはちょっと違うと期待したい。

小屋の前には、ベンチも完備。快適に過ごせそうな場所でワクワクさせられるぜ。

西穂山荘前

14:37
西穂山荘の表札の前で記念撮影。

まだ全然余裕。

「穂」ののぎへんがなんだかちょっとバランス悪し。うっかりして別の字を書きかけて、「あっ、いかん、ここはのぎへんを書かなくちゃいけないんだ」と慌てて取り繕った、そんな感じ。

・・・というどうでも良い事に目がいく。余裕が成せる技だ。

西穂山荘のフロント

14:38
早速チェックインをする。

中もウッディな感じの建物で、きれい。それほど人は多くないような印象を受ける。土曜日泊なので、山小屋名物、そしてこのへべれけ紀行でもおなじみの「なれ寿司状態で肩を寄せ合って寝る」ありさまになるのかと思ったが、どうやら今この受付を見る限りそんな感じではなさそう。ほっと一安心。やっぱり9月に入ると登山はシーズンから外れるからねぇ。

本日は布団1枚に2名様

14:39
受付の黒板。夕食は3回転、45分刻みで総入れ替えとするようだ。朝食は2回転。

・・・あれ。黒板の下に、こんな一行が。

「本日は布団1枚に2名様」

おおおっと、油断していた。空いている、と思ったのに、宿の長年の経験と勘からすると今日の混雑状況は「布団1枚に2名」というわけか。とほほ・・・。まあ、山小屋の宿泊であることを考えれば、これでもまだマシな方と言えるわけで、「2名で済んで良かったじゃん。」という理解をするしかない。

そうかぁ、2名かぁ。

いくら自分自身を納得させても、そうはいってもやっぱりすぐ隣に知らないオッチャンが居て、いびきの音に悩まされながら眠れぬ夜を過ごすのはイヤだ。「しまったなあ、せっかく月曜日に会社の休みを取っていたんだから、明日の夜を西穂山荘泊にすれば良かった・・・」と今頃になって後悔。3連休確保したのに、何が哀しくて人が最も混む土曜日夜に山小屋泊を設定してるんだか。

例えば今日、平湯温泉あたりでまったりと温泉三昧を楽しみ、翌日焼岳に登頂してそのまま縦走、西穂山荘泊。3日目に西穂高岳登頂して下山・・・ほら、これが一番スマートじゃん。うわ、頭わりぃ。これは計画ミスと言わざるを得ないぞ。こんなことだと、後で自分自身を厳しく罰しないといかんな。仕方ない、「肝臓を酷使する」という方法で自分を罰しよう。うん、それが良い。もうこうなったら毒食らわば皿まで、だ。

一泊2食で8,800円

14:40
山小屋宿泊料金を写真撮影しておいた。端から見ると変な宿泊客だろう。カウンターに向かってカメラを向けてほくそ笑んでいる。

一泊2食で8,800円。お弁当つけると+800円。

これで布団1枚2名様、というのは非常に理不尽だが、「理不尽」と思うのは下界の物価と価値観に依るものだ。テントと食料を背負って登ってこずにすんだ、というだけでも数千円分の価値がある。黙って従わないと。

山小屋フロントの注意書き

14:40
宿の受付で、「夕食時間は5時、5時45分、6時半とありますが、5時からで宜しいですか?」と聞かれた。どうやら僕は比較的早く山小屋に到着したらしい。第一巡目の食事を提案された。ただ、さすがに17時の夕食はちょっとイヤだ。最近平日は忙しくて、夕食を食べるのが24時とか25時の事がザラなことを考えると、一体17時の食事とはお昼ご飯なのかおやつなのかなんだかさっぱりわからない。体がびっくりしてしまいそうだ。

「えと、じゃあ5時45分からにして欲しいんですが」

せっかくなのでお願いしてみたところ、

「あのー、到着順に夕食の順番をお願いしていまして、5時からでお願いしたいんですが」

と困った顔で言われてしまった。だったら最初から確認しないでくれよ。まあ、でもそりゃそうだよな、食事時間をお客都合でいじられたら、山小屋側も人数管理が面倒だ。

朝食時間は選択が可能だったので、早い5時半からの回をお願いした。

岳沢ルート 利用登山者へ

14:40
こんな注意書きもあった。

岳沢ルート 利用登山者へ

岳沢ヒュッテは雪害により全壊しました
敷地内立入禁止
宿泊、販売、休憩、水補給、トイレ仕様できません
今年度は営業できません

そういえば岳沢ヒュッテ、今年春の雪崩が山小屋を直撃し、全壊しただけでなく社長がお亡くなりになるという事故があったんだっけ・・・。自然の猛威だ。

寝室

14:44
受付とお会計を済ませたら、従業員さんが部屋まで案内してくれた。親切で感心する。さすがに「荷物をお持ちしましょうか」なんて事は言わないが。

ただ、その感心が「なるほど」という納得に切り替わったのは、いざ部屋に到着してからだ。そこには、既に部屋一面に並べられた布団と枕。2,3秒ほど従業員さん、「えーと」などと思案していたが、「じゃああの真ん中に寝てください」と指示された。寝場所争いにならないように、従業員さんが場所を指定する、というわけだ。

部屋は8畳程度の広さ。布団がびっしりなので、畳の枚数は数えられなかった。部屋の入口のところだけ、布団は跳ね上げてあって畳が見えていた。玄関状になっていて良い配置だ。部屋の入口ギリギリまで布団があって人が寝ていたら、部屋の出入りに不自由する。

まだ部屋には誰もいない。一番乗り。えーと、いまこの枕配置を見る限り、布団2枚で3名になりそうな気配。ちょっとは人道的だ。

試しに寝てみる

14:48
試しに寝てみる。

うーむ。足元には毛布が積まれているので、足が引っかかる。せめて毛布くらいは一人一人前を、ということなのか、結構山積みだ。この山積みのせいで、足の行き場が無い。故に、狭い。

あと、布団と布団の狭間にいるので、背中に段差を感じてあまり寝心地が良いものではない。「ぴっちりと布団を並べた」んじゃなくて、微妙に布団同士が折り重なっているらしい。ということは、見た目上「布団2枚で3名分」といっても、実は「布団1.9枚で3名」だったりするわけで、ちょっとイヤンな感じ。

部屋の窓から空を眺める

14:49
まあいいや、なるようになれと諦めて、部屋の窓から空を眺める。

雲が出てきたが、良い天気だ。ああ、気持ちいいなあ。

洗面台

14:49
もう少し気持ちよくなるために、体の汗を拭くことにした。洗面所に出かけ、濡れタオルで体を拭く。さっぱりした。

まずはこうやって体をお清めするのだ。

まずは、って、その後何があるんだ?・・・いやまあ、いろいろあるじゃあないですか、これから。ははは。

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