地獄と山のマリアージュ【阿蘇山・九重連山】

自炊棟

露天風呂に向かう途中に、自炊棟があった。一般客が宿泊する本館・別館とは別棟になっている。

自炊棟廊下

長屋風になっており、この時期暑いからかどの部屋も扉を全開にしていた。さすがに中は覗かなかったが、熊本の地でも湯治文化があることに感心した。様子を伺う限り、ご年配の方ばかりが泊まっているようであり、「安く宿代を浮かせよう」と考えているワカモノが泊まっている気配は無かった。

さて肝心の露天岩風呂。脱衣所が一風変わっていて、蔵のような作りになっている。山の斜面下段に湯船がある男性は建物に入ってすぐのところが脱衣所。山の斜面上段に湯船がある女性は蔵風の建物を二階に昇り、そこから連絡通路のような橋を渡って女性脱衣所及び湯船にたどり着く。

・・・蔵内の女性専用階段の時点で、思いっきり男性脱衣所丸見えなんですけど。湯船に行く前の段階で仇討ちされている。連絡通路でも仇討ちされているし。

ご本尊である「仇討ちの湯」だが、女性側から見えるということは逆もまた真なり。男性側からも見えておかしくない。スケベ根性はまったく無いが、「一体どこから仇討ちされているんだろう?」と気になって崖を眺めてみた。結局、のぼせるまで眺めたが、正体つかめず。この分からなさっぷりこそが、仇討ちの真骨頂なのだろう。

まあどうせ見えない女性風呂などどうでも良い。こちらとしては男性用の湯船を写真撮影したい。しかし、一人オッチャンがででーんと構えていて、なかなか風呂から上がってくれなくて弱った。風呂からあがるかなーと思ったら、脱衣所からたばこを持ってきて一服したり、湯船のへりで夕涼みをしゃれこんでみたり。こうなったら我慢比べだ。どっちが先にのぼせてギブアップするかだ。こっちもムキになって耐えた。

死闘30分、ようやくオッチャンが風呂から出て行ってくれたので心おきなく「露天岩風呂」の写真撮影。我慢していた甲斐があった。

しかし、翌日写真データの整理をPCで行っていたら、アプリケーションのバグで露天岩風呂及び脱衣所関連の写真がすっぽりと消えてしまった。ひでぇ。これが本当の仇討ちだったのか!あまりの仕打ちに布団の中でゴロゴロとのたうちまわった。

地獄温泉の敷地は広い

「すずめの湯」がこの地獄温泉では有名だという。泥湯ということで、湯船の底をすくえば泥が出てきて、肌に塗ると良いとかなんとか。

「すずめの湯」は本館入り口から出て山を下ったところに位置しているので、混雑具合は大体把握していた。

結論:すげー混んでる。却下。

日帰り入浴の人たちも、まずはすずめの湯を目指すようだ。宿泊客だって同じ行動心理だ。僕だってそうしたい。しかし、湯船の写真が撮れないのはとても惜しいことなので、後回しにすることにした。こういう時のために、食事時間を遅くしているのだよキミィ。お風呂が一番混むのは夕食前。逆にお風呂が一番空くのは夕食時間開始時。

そんなわけで、裏をかくというほどのことではないが、離れたところにある「新湯」を目指す事にした。

デフォルメされて描かれている館内地図とは大違いで、結構歩く。だんだん不安になってきた。なんだか周辺に「青少年自然の家」的なログハウス群なんぞが見えてきたし。道、合ってるのか?

新湯

いい加減不安になってきた頃・・・といっても、徒歩3分かそこらだけど・・・、ようやく新湯が見えてきた。なんでこんな辺鄙なところにお湯が、と思うが、お湯は人間の都合なんてお構いなしだから仕方がない。

新湯ののれん

「新湯」というネーミングからすると、その他3カ所のお湯とは別の源泉なのかもしれない。

新湯の湯船

新湯の湯船。青白いお湯だ。

単純酸性温泉、という泉質に相当するそうで。PHは2.6だからなかなか強い酸性泉だ。

お湯は当然掛け流し、45分で湯船のお湯が入れ替わる計算になると効能書には書かれていた。親切に書いてるなあ。

以上解説終わり

のぼせるおかでん

新湯、最終的には4つのお湯の中で一番好みだった。

しかし、対仇討ち戦線で相当のぼせていたのであまりお湯に浸かれなかったのが残念。ホースから水を出して、のぼせた体をクールダウンするありさま。

のんびりと、湯船の縁で暮れゆく夕日を眺めながら体を冷却すればいいじゃないか・・・と思うが、何せここは蚊が多かった。蚊が大群となって押し寄せてくるので、常に動き続けていないと刺される。

お湯に唇ぎりぎりのところまで浸かり、蚊に攻め込まれる面積を最小限にしてみたけどダメ。蚊は強酸性の湯気などものともせず、水面すれすれまでやってくる。これにはさすがに悲鳴を上げて新湯から逃げ出すしかなかった。

のぼせていたという理由もあるが、蚊が耳元でクーンと鳴動しながら飛来してくるのに耐えられず、脱出。

すずめの湯遠景

蚊から逃げ出したおかでんは、しばらく冷却期間をとった後に次なる湯船、すずめの湯に向かった。

本館から下ったところにあるすずめの湯。右側の建物が半露天になっている混浴泥風呂。左側の建物は男女別の内湯になっている。なにがスズメなのか今のところさっぱりわからない。

幸い、日が暮れてきて日帰り客は帰路につきつつある。そして宿泊客は夕食タイムに突入だ。絶好のタイミーング。今こそ写真を撮るチャンスだ。

すずめの湯内湯

すずめの湯内湯。

先ほどの新湯が青白いお湯だったのに対し、こちらは乳白色。光の加減で見え方が違う・・・というわけではないと思う。泉質には詳しくないのでよくわからないけど。

総木材造りの建物が非常に好感。湯屋の天井が高く、内湯だけど開放感があるのも良し。

なぜか浴室内に長椅子

なぜか浴室内に長椅子が置いてあった。のぼせたらここで涼め、ということだろうか。でも、この浴室は不思議な作りになっていて、逆L字型になっている。入り口入ってすぐのところに脱衣所と湯船があって、折れ曲がったところに謎のスペースと長椅子。

あっ。

涼め=雀=すずめの湯

・・・まさかねえ。ひらがなで「すずめ」だからって、「涼め」じゃあるまい。

あつめの湯

露天の方に移ってみる。

あつめの湯、ぬるめの湯と二つに分かれていて、まずはあつめの湯へ。なにしろ、ぬるめの湯の方にはカップルが入浴中。ぬるめのお湯がアツアツだ。うわ、イタいジョークだな、こりゃ。

あと、あつめの湯にもオッチャンが一人入っている。

写真の撮影範囲が非常に狭いのは、そういう理由があってのことだ。大人の事情だ、わかれ。

さすがに、ぬるめの湯の方角とは逆方面に自分が陣取っているとはいえ、カップル入浴中にカメラを持ち出すのはまずい。その気が無くても盗撮目的と思われてしまう。ここはカップルが退場するまでじっと我慢だ。湯船の撮影は、つねに忍耐力が求められる。

ただ、幸いなことにカップルの女性の方が熱さ耐性に優れていないようで、あっけなくお二方湯船から退場。しめた、いまが好機。同じ湯船にいるおっちゃんからできるだけ離れて、撮影。

湧出地点

謎だったのが、あつめの湯の背後にある配管だった。

お湯がじゃばじゃばとそのまま地面に放流されている。何だろう、これは。

露天は床下湧出ということだったが、ひょっとしたらこの仕組みで人工的に床下湧出を作り出しているのではないか?と勘ぐってしまった。

でもまさか、地面に吸い込まれたお湯が地中を伝わって湯船にわき出るなんて事は考えにくいので、違うと思うが・・・。ではなぜこの配管を湯船に延ばさないで、湯船直前のところで地面に放流しているのかはわからない。

ぬるめの湯

こちら、ぬるめの湯。

んー、あつめの湯と温度違うかな。あまり大きく違う事はないような気がする。やっぱりさっきのカップルがアツアツにしたなさては。

いや、多分冬になるとよくわかると思うんだ。今は夏だし、既にのぼせているし。恐らく、あつめの湯より低い位置にあるので、お湯は源泉→あつめの湯→ぬるめの湯と流れているんだと思うがどうか。

自信ないので問いかける文体になったが、誰に聞いてるんだアンタ。

さてこのぬるめの湯、田園地帯風景のようになっている。仕切りがなければ大浴場なのだが、あえて鉄道の枕木みたいな仕切りを作って狭くしている。群雄割拠の陣取り合戦ごっこでもやれというのだろうか。「この領土はオレ様が貰った!」みたいな。

あ、わかった。こういう狭い浴槽だから、「狭い=小さい=すずめ」と繋がるわけだな。だからすずめの湯、というネーミングなわけか。ガッテンしていただけましたでしょうか、と聞かれたら「がってん!がってん!」とボタンを連打する状況。

効能書き

ぬるめの湯の柱には、まるでペンション村の入り口にある「おらのペンションはこっちだ!」と方向指示看板がでているかのような状態になっていた。

何事かと思えば、効能書き。こんな形で効能を列挙しているのは初めて見た。読みにくいぞ、おい。

「慢性金属中毒症」なんぞにも効くそうだ。・・・どんな病気なんだ、それと思って調べてみたら、あるのね実際に。マンガン中毒とかヒ素中毒とかカドミウム中毒とか。ということは、イタイタイ病や水俣病の患者さんもここにくれば少しは快方に向かうのだろうか?

あと、興味深かったのは「手術後早期回復」というのが効能として挙げられていたことだった。温泉に浸かるということは体を痛めつけることに等しく、逆にそれで体の抵抗力をつけ自浄努力しましょうというものだと思う。しかし、体力が弱り切っている手術後に温泉っていいのかオイ。これは意外だった。

リューマチの事をリューマチスと呼称しているのも気になるが、あまりにも「突っ込んで欲し」そうな感じで正面にででーんと記されていたので、あえてスルーしとく。

食事処に向かう

ちょうど時刻になったので、夕食を頂きにあがる。寒くもないのに手をすりすりして、「さて楽しみですな」とお食事処に向かう。

馬鹿者。

いきなり何を言うか、というとだ、これからの食事は地獄だ。地獄鍋コースを食するのだ。コースということは地獄が束になってやってくるということだ。そんなにやけていてはいかん。

一口、一飲みが地獄との闘いだ、それだけは忘れるな。

はーい。

いやー楽しみだなあ。

全然判っていない。いやだって、温泉宿の夕食ほどわくわくする娯楽ってなかなか無いと思うんですよ僕は。都会の高級フレンチレストランで食事をするより、貧相であっても温泉宿で食事をとる方がおかでん的好みと合致するな。もちろん、ビールを忘れてはならんが。

食事処の曲水庵

木造造りの大きな離れ、そこに食事処の曲水庵はあった。ここは建物と繋がっているものの、土間になっているため、本館からやってくるときは下駄に履き替えないといけない。

下駄をからころ言わせて「頼もう!」と力強く仲居さんに宣告する。

差し出した夕食券には「猪」というスタンプが押されていたので、仲居さんは「あれ?」という顔を一瞬した。猪鍋コースの場合は部屋食になるからだ。

仲居さんの疑問を即座に、断定的に解決して差し上げる。

「地獄を見たくて、後になって変更しました。自分のような者は地獄が似合ってます」

そういえば、地獄温泉というネーミングにもかかわらず、いままで入浴した3箇所5つのお風呂はどれも極楽でしたな。地獄の神髄をまだ見ていない。いい加減正体を明かせこの野郎。

きっと、「地獄鍋」というからには真っ赤な汁がぐつぐつと煮えていて、激辛なんだろう・・・と妄想したが、激辛キムチ鍋みたいなものが出てくるとは思えない。さすがに万人受けしないものは出さないだろう。では何が出てくるのか。地獄鍋、とはその名の通りhellという意味であると同時に、宿の名前を冠した誉れ高いネーミングでもある。謎だ。

囲炉裏があるテーブル

最大4名まで座ることができるテーブルには、囲炉裏が切ってあった。その囲炉裏は飾りではなく、ちゃんと赤々と炭が焚かれている。おおお、いいねえ。これだけでも来た甲斐があったというもんだ。山登るのをやめて、ここで温泉と食に溺れてもいい、とこの段階で思ってしまったくらいだ。

料理が全く出てきていないのに落城するの、早っ。

ちゃんと「おかでん様」と紙の札がテーブルにあった。後出しじゃんけん的な料理変更だったので、帳場とお食事処とで連携がうまくいってるか心配だったが気にすることは無かったようだ。

そこまでしてオレ様を地獄に落としたいか。ああ落とすがいいさ。

炭火にあぶられて地獄。いいなあ。何を炙ってくれるのかな。鮎やイワナかな。

地獄鍋

ややや。なにか囲炉裏の上に鎮座してるものがあるぞ、と遠目では判っていたが、近づいてみると全くもって謎の物体が出てきた。

これが地獄鍋の威力なのか。

・・・待て、威力はまだどれだけあるのかわからないので、びびるのは早すぎだ。落ち着け。

見たことがない鍋・・・鍋?

鍋らしきものはてっぺんにお湯が張られて湯気を出している。でもこれは鍋か?ほら、温泉宿の夕食で固形燃料を使った鍋ってよく出てくるじゃないですか。あれ、既にお膳がセットされた時点で具材が全部入っているのが一般的。そういうのを見慣れちゃっているので、この「単なるお湯」が全く理解できない。コレは何ですか。湯気製造器ですか。

もっとわからないのは、亀の甲羅みたいな鉄板がぐるりと鍋らしきものを取り囲むようにあるということだ。数えると5枚ある。これでたい焼きか二重焼きでも作れ、といわんばかりのデザインだ。しかも、平面に作られておらず、傾斜がつけられている。んんん?

なますの小鉢

普通、旅館料理というのはお膳にほぼ全ての料理がセットされているものだ。気が利いたところだと、天ぷらなど温かいものはできたてをもってきてくれるが、配膳自体はされている。

しかしここはどうだ。囲炉裏は大変に結構なのだが、目の前にあるUFO的な謎の鉄板と、そしてちょこんと置かれたなますの小鉢。

あのぅ、ひょっとして急なオーダー変更だったから間に合わなかったんでしょうか。

そんな馬鹿な。急な、って言ったって、食事時間2時間半も前には連絡している。

ということは、これから仲居さんがあれこれ給仕してくれるということなのだろうか。そりゃご丁寧にどうも。地獄ではなく天国のようなサービスではないか。

料理の山が、どんぶらこ

!!!

誇張でもなんでもなく、ぶったまげた。囲炉裏席の横に小川が流れているのには当然気がついていた。何か中途半端に風流っぽくしているけどあんまり小しゃれてはおらんな、とチラ見していた程度だった。しかし今や我が視線はその小川に釘付け。

木桶に乗った料理の山が、どんぶらこ、どんぶらこと上流から流れてくるではないか。なんて演出をするんだ、この宿は。

しかし回転寿司のように「料理が常に流れている」わけではない。仲居さんが「あのお客さんの処に料理を届けてね、GO!」と厨房に指示した時だけ料理が流れるようだ。さもなければ、「おかわりしよっと」と、より上流の人に料理を奪われる。

相手はさらさら流れる水流だ。取り損なって木桶が下流に行ってしまったり、焦ってしまい料理をこぼしたらそれこそ地獄だ。どういうものかと思ったら、これまたぶったまげたのだが自分の目の前で川底からぶしゅーと水が吹き出てきた。その「水の壁」で木桶、ストップ・・・しない。

仲居さんが苦笑いしながら、流されそうになっていた木桶から料理が盛られたお皿を取りあげた。「ちゃんと止まらない事があるんですよね、これ」だって。

ボタン

このままだと水が噴き出しっぱなしで桶が流れない。

仲居さんから「そこのボタンを押してください」と言われ、ふと傍らを見ると押しボタンがあった。仲居さん呼び出しボタンかと思ったら、「料理をお取りになった後はこのボタンを押して桶船を流してください」と書いてあった。

「ぽちっとな」と言いながら押してみると、ぷしゃーっとなってた水の壁が消えた。なるほどそういうことか。

ヘンなところで凝ってるな、この宿。

空になった桶が流れていく

無事水の壁が無くなった桶船は空身になってほっとした風情でまたもやどんぶらこ、どんぶらこと下流に流れていったのであった。

さようなら桶船。もう目にすることはないだろう。僕は料理に没頭するよ。

さあ、食材、謎の鉄板、既に据えられていたなます(おまけ)、と役者はそろった。どう地獄を味わせてもらえるのか、仲居さんに教えを請おうじゃないの。出でよマッドモンスター!

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