地獄と山のマリアージュ【阿蘇山・九重連山】

海抜1,280m

11:28
所用時間8分で火口東駅に到着した。乗り合わせていた人たちは「観光に来ましたー」という風情で、山に登るぞという格好をしているのはおかでんただ一人だった。

火口東駅に着くと、そこは標高1,280m地点。高岳が1,592.4mあることから、ロープウェイを使ったとはいえまだ310m標高差が残っている事になる。

注意!強いガスが・・・

11:28
ここにも電光掲示が。「注意!強いガスが・・・」と表示されている。火口西は閉鎖、東口でも注意喚起。生きている火山にこれから足を踏み入れるのだな、という事がよくわかる。

穢れを落としてから山に入ろう

11:28
人間は、阿蘇山のことをガスが出るからといって恐れているだけではない。神聖な場所としても捉えている。

そのため、駅出口には祭壇が祀られてあり、こんな事が書かれてあった。

これから先は阿蘇の火の神の聖域です。下界の汚れをこの場で清めてからご登山してください。

こっちは山歩きでどろんこ覚悟だったのだが、まず山に入る前に汚れを清めろというのか。手順が逆だが、神聖な場所にはいるならそりゃまあそうだろうな。

で、体をバタバタしてよごれを落とせばいいんですか?

・・・あ、塩が盛られている。ひょっとして、「よごれ」ではなくて「けがれ」を清めてくれと言っているのか。

ええと。

いざお清めの塩を手にしたは良いが、どうやって清めれば良いのかわからない。とりあえず、お葬式から帰ってきた時みたいに肩越しに背後に塩を蒔いたが、これで良かったのだろうか。わからない。

火山ガス注意報

11:29

駅から火口までは整備された遊歩道が続いているのだが、その入り口にのっけから物騒な事が書いてあった。

火山ガス注意報
現在火口付近は大変強いガス(SO2・二酸化硫黄)が流れていますので、ぜん息、気管支疾患、心臓障害の方は火口見物を禁止します。

暫定的に張り出したものではなく、がっちりとした看板を作っているあたりに強い意志を感じる。「ガス、収まりましたー。もう大丈夫ですー」なんて事はまずありえん、ということだ。

しかも、「火口見物を禁止します。」と一刀両断しているあたりも危険度合いを感じさせる。「火口見物には十分ご注意ください」ではないのだ。やっちゃいかんのだ。

むーう、おかでんは小児ぜんそくを患っていた時期があったからなあ。寒の地獄にたどり着く前に阿蘇山地獄で行き倒れ、なんてのは嫌だぞ。まあ、ぜん息は完治しているから問題ないけど。

さあ登山開始

11:30
さあ登山開始だ。

帰りはロープウェイではなく歩いて山麓駅まで戻ろうと考えが変わった。

ロープウェイに乗っているとき、架線下の登山道を歩く中年夫婦の姿があったからだ。おお、歩いてるなと。同乗していた人が「歩いてどれくらいなんですか?」と車掌さんに聞いていたが、「そうですね、50分くらいです。でも、下りは結構きついですよ?駅に到着して火口まで歩いて膝ががくがくするようだったら、ロープウェイ使って下りた方が良いです、下りは膝に来ますから」なんてやりとりをしていた。

あの中年(というより高年に近い)夫婦が歩いて下ってるんだ、なぜまだ「オッサン盛り」の自分が楽してロープウェイで下りないといかんのだ。ダメだろ、そんなんじゃ・・・と思った訳ね。意地ですよ、あんまり意味はないけど。

となると、ロープウェイで下山するよりも余計に時間を見ておかないといけない。寒の地獄温泉を満喫することを考えると、あまりゆっくりはしてられないぞ。なにせ、温泉宿は「チェックインから夕食までの間の時間」が一番ぜいたくで優雅なひとときだからな。それ、行け。

遊歩道

11:31
丁寧に舗装された遊歩道が山腹を伝ってじりじりと標高をあげていく。目指すは火口の縁だ。写真では大したことがない斜面に見えるが、実際登ってみると一汗かける斜度がある。「何だこれくらい余裕だ」と山歩きらしからぬハイペースで歩いてしまうから、という理由もあるだろう。

普段運動をしない人にとっては、この遊歩道の往復だけで息が上がることだろう。

その遊歩道の脇には、いたるところにトーチカ・・・じゃないな、シェルターがあった。いつ火山爆発しても良いように配慮してある、ということだ。そんなに危ないんか、ここは。

普通、「そろそろ爆発したいなボク」と阿蘇さんが産気づいたら、それなりの予兆があるわけで、その時点で界隈は立ち入り禁止になるはずだ。ロープウェイだって当然運休だ。ということは、このシェルターは「いきなり何の前触れもなく爆発しちゃいました」用ということか。怖いな。

中岳

11:35
まず最初の目的地であり、高岳の前衛峰となる中岳が見えてきた。標高1,506m。

登り始める時、「登山の心得」などのありきたりな注意喚起掲示板の中に

中岳火口からは、有毒な二酸化硫黄ガス(SO2)が発生しています。
・ぜん息、気管支疾患、心臓障害者、体調不良等の方は火口周辺には近寄らないでください。
・硫黄臭の強い時は火口から遠ざかってください。
(以下略)

と書いてあって焦った。えっ、中岳って火口から少し離れているのに、そこにも火口がまた別にあるの?何、僕ってこれから火口に突入するルートをとるわけ?

登山地図で確認したが、鋭角に尖った山であり火口の穴は確認できなかった。なんだ、それ。

よくよく考えてみると、さっきからずっと「火口東駅」だの「火口西」だの言っていた、その火口そのものが中岳の火口なのだな。そうか、火口ってのは山頂にあるものという誤解を持っていたが、決してそうじゃないもんな。

雲が火山ガスに見える

11:36
もうすぐ火口の縁に到着しそうな気配。青空が正面に見えてきた。雲が多いけど。

・・・まさかこれ、火山ガスじゃないだろうな。

安心しろ、もしそうならとっくの昔に退避命令だ。ぜん息患者はダメといったレベルの話じゃない。

第一、第二火口方面

11:38
見晴台に出ると、火口が見えた。

右手を見やると第一、第二火口方面。

・・・あれは雲じゃないな。火山ガスだな。

そうか、あいつのせいでさっきは通行止めにさせられたのだな。

風の向きは東から西に向かって吹いているようであり、こちらには被害がない。逆の風向きだったら、火口西には行けただろうが登山そのものが中止になっていたところだった。なぜなら火口の東側に中岳、高岳があるからだ。

中岳火口南側、第四火口付近

11:41
中岳火口南側、第四火口付近。

写真の右端、ガスがかかっているあたりに火口西駅がある。当初目指していたところだ。

あー、ガスってますねえ。いや、ロープウェイ施設や駐車場は目視できるのでそれほど濃厚なガスではないようだ。でも、うかつに規制解除して急病人発生、じゃ運営会社側としてはたまったものじゃないので「全面規制」にしちゃったのだろう。

火口縁がぐるりと回り込んでいるが、本来はあそこを歩いてこっちに向かってくるはずだった。荒涼として面白かっただろうに、惜しい。

まあ、こっちはこっちで楽だから良いけど。

馬の背

11:42
写真左側、そびえているのが中岳。最終目的地の高岳はここから目視できない。

まず中岳にとりつくためには「馬の背」と呼ばれる両側に切り立った三角木馬状態の稜線を登っていかないといけない。

今まで文明の利器と道路に頼り切ってここまで来たので、大自然の中に一歩足を踏み入れるとなるとほんの少しだけ「よし、やるぞ」と気合いを入れる必要がある。

山肌は切り立っている

11:43
山肌は切り立っている。火山爆発でできた山なので、なだらかなめらかというわけにはいかないのだろう。

その岩肌は地層になっていて、赤、黒、黄土、灰色と分かれている。爆発して堆積物が沈積した時期や爆発した場所によって色が違うのだろう。

馬の背を歩いているところ

11:44
馬の背を歩き、まずは中岳にとりつく。

道がわかりにくい中岳

11:49
中岳にとりついたが、道が分かりにくい。

目印となる矢印はあるのだが、岩山であるが故に岩がゴロゴロしており発見にやや手間取る。というより、どこからでも登れてしまいそうだ。逆にそれだからこそ、目印はちゃんと目視確認していかないと道迷いを起こす。

この先行き止まり

11:55
時折、思い出したかのようにこんな立派な案内がある。環境省が作ったものらしい。「この先行き止まり」といっても、登山道が不明瞭なので「この先」が何を意味しているのかがあまりよくわからない。恐らくこの警告の背後のあたり一帯を指していると思うのだが、という推測しかできない。

よく見ると「この先行き止まり」の下に「Dead end」と書かれてあった。まあその通りの訳なわけだけど、死ぬぞ、と警鐘を鳴らしているようでちと怖い。

あちこちに歩けない場所がある

11:57
見ると、あちこちに「行止」「キケン」「×」というペンキが見える。迷いやすい上に岩場が急でキケンなのだろう。

実際、写真右側には先ほど歩いてきた馬の背が見えるわけだが、まっすぐその馬の背に向かう方向には無情にも「行止×」と白く記された岩が待ちかまえている。遠くを見て目標を捉えていてはダメで、目の前の案内表示に従っていかないと足を踏み外す。

立ち入り禁止になる場合もある

12:01
こんな看板もあった。


第一次規制発令中はこれより先の立ち入りを禁止します

「これより先」とは、おかでんが今まで歩いてきた道なわけであり、今まさに第一次規制が発令されたらおかでんは退路を断たれる事になるわけだ。

まあ、別の下山ルートがあるから「規制解除されるまで山の中でサバイバル」という事にはならないが。

足の形に岩が削り取られた跡

12:03
山頂直下、なにやら足の形に岩が削り取られた跡があった。

親切に、誰かが「ここを踏み場にして登れ」と作ったのだろうか。

もろい地表

12:04
いや、違うぞ。登っていくと地質が変わったので、振り向いてみるとそこは粘土の層みたいになっていた。厚さ10センチ程度。

ということは、先ほどの足跡はこの層が固まる前にここを登った人の足跡だったというわけだ。誰だ、そんな危険な時期に登った人は。

火山灰が降り注いで、まだ固まる前・・・ということは火山警報が解除される前のことだろう。火山研究をやっている人だろうか?

中岳登頂

12:04
謎は残ったが、12時4分、まずは中岳登頂。標高1,506m。

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