順番待ちをしている間、客席を覗きに行く。このお店の場合、「覗きに行く」ということをしなければ客席が見えないくらい、でかい。180席あるという話をどこかで聞いたが、「世界一客席数の多いうどん屋」でギネス狙ってるんか?というくらいでかい。平日は観光客が少ないからガラガラなんじゃないか?と心配になるが、その空席を補って余りあるほど、休みの日は客が殺到するってことだ。実際、われわれは30分以上待つことになった。
「席に通される→メニューを前に悩む→注文する→待つ→食べる→一息つく→退店」
という一連のお作法は、相手がうどんだからせいぜい30分もありゃ十分だろ、と事前に仮定していた。だから、180席あるんなら、あっという間に順番は回ってくるぜ、と。
でも、結果的に30分待ったということは、われわれの前に180人も待ちがいたのか?・・・いや、そういうことはない。さすがにぎちぎちにお客さんに相席にさせるわけにはいかず、ある程度空席がちらほらしているのが実情だった。あと、百数十人を相手に上げ膳下げ全全て対応する店員さんがてんてこまい。いっそのこと、カラオケボックスにあるようなタッチパネル型オーダー機を各テーブルに配置した方が良いのでは?と思ってしまうくらいだ。なるほど、机上の空論と実際の客の流れは全然違うものなんだな。
あと、待たされじらされたお客さんは、客席に着くと何だか開放感と達成感を覚えちゃうらしく、ビールを飲んじゃってる人が結構いた。舞茸の天ぷらで一献。こうなると、30分じゃ一回転はしない。お客さん、なんだか座席に座った事が既得権益みたいになっちゃって、すっかりくつろいじゃってる。
そういう光景を見て、若干焦るおかでん。この後のスケジュール構成が気になっているのもあるが、あんまりこうやって待ち時間を作ってしまうと、Jenny(及びFish)に過剰な期待を与えてしまうのではないか、というのが心配だからだ。
人間の心理ってのは、「ここまで待たされたんだから」や「これだけ値段が高いんだから」と、それとは直接関係のない味に過剰な期待を抱く事がよくある。そんなわけで、Jennyに「ここの烏龍麺は旨いに違いない。すっごく楽しみ」とマイ・ハードルをあんまり高くされちゃうと、正直困る。うどんは確かに旨いが、おしっこ漏らすほどの感動を期待されたら、どんなうどんでもその期待に応えるのは無理だ。できるだけ、Jennyたちの気を逸らせつつ、順番を待つ。
席に通されて、お品書きを見る。
「基本うどん屋ですが、そばもあります。あ、お子様にはカレーもお勧め」なんて手広くはやらないのが水沢のうどん屋の特徴。このお店も、うどんで勝負。うどんも、かけうどんに相当するものはなかった。なんでも、温かいつゆに浸けていると麺が大変によく伸びてしまうかららしい。だから、ざるうどんがメニューに並ぶ。あとは、それにどんなサイドメニューを組み合わせますか、でメニューは決まる。
だから、我が一品のチョイスというのは非常に簡単に決まりそうなものだ。しかし、なかなかそうはいかないのが水沢うどんがくせ者たるゆえn。値段が一桁多いんですけどー、というメニューがずらり。セットメニューということで値段の高さが正当化されてはいるが、やっぱり1,000円越えのメニューがずらずらと並ぶと躊躇する。
このお店の「おすすめ」といううセットメニューは、1,680円。お店側としては自信があるんだろうが、おすすめされるこちらとしては「これくらいの値段でさえ食えない奴は貧乏人。カエレ」と店から言われているかのような卑屈な気分に。いや、冗談だけど。
さすがにこれだけ待って、うどん一枚を手繰ってさようなら、というお客さんはほとんどいない。見渡した限り、皆無だった。一応「ざる」が735円であるのだが、たとえこいつが旨かろうが、ものの数分でずるずるっと食べ終わってしまうと大変に損した気分になる。
(世の中には、正味20分弱の滞在時間で数万円を支払うという寿司屋なんぞも銀座にはあるので、そういうのも有りなんだろうが、別世界の話だわな)
結局、ほとんどのお客さんは舞茸の天ぷらがついているセットメニューを注文していたようだ。安いやつだと1,260円。あとはいろいろ小皿がついたりすると、それに応じてお値段もこれまたよい塩梅に熟成が進みます。うへえ。実際、水沢のうどん屋ではこの舞茸の天ぷらを名物とするところが多く(というか、全店舗提供してるんじゃないか?)、これがまた結構旨いんだわ。悔しいけど天ぷらを頼まずにはおれんのですよ。
ただ、この1,260円のセットだと、巨大舞茸天ぷらが2個ついてくる。Jennyたち女性にはちょっと重たいかもしれない。もともとそんなに食が太くない人たちだし、日本の食にそれほど耐性がないので、いきなりげんこつ大の天ぷら食え!というのはよくない。
そこで、Jennyたちにはざるうどん単品を選んでもらい、おかでんは舞茸天ぷら3個(と小鉢1皿)がセットになっているメニューを選んだ。舞茸天ぷらはシェアだ。
広い店内なので、店員さんを呼び止めるのも大変。呼び止めて注文をした後も、そわそわしてしまう。何とも落ち着かない店内だ。このお店でくつろぐことを目的に来店する人はもともといないだろうが、もしそういう人がいるなら、このお店、いや水沢うどんは性に合わないだろうから止めたほうがよろし。
「あれ?あのお客さん、僕たちよりも後から注文したんじゃなかったっけ?もう料理来てるぞ」
なんて、疑心暗鬼になりながら料理の到着を待つ。ひょっとしたら注文を忘れられているのではないか、なんて心配しながら。
何かの精神修練か、と思いながら待っているとやってきましたようどんうどんうどん。
写真左は、「桜」セット。大ざる、舞茸天ぷら3個、小鉢(この日は切り干し大根)の構成。これで1,575円。舞茸の天ぷらがみっちりと、大きいのがうれしい。まさに「かじりつく」サイズ。天ぷら屋でも蕎麦屋でも、スーパーのお総菜売り場でも、こういうデカさで舞茸を提供することはあまりないので、このデカさはごちそうだ。やっぱり実物を見て思ったが、女の子は一人一個で十分だわ、これ。我が選択に一寸の狂いなし。・・・ということにしておこう。
うどんの脇に、豆乳のような白い液体が入っている蕎麦猪口(この場合、うどん猪口と言うのか?)がある。これは、ごまだれ。ごまだれをつゆとして選ぶと、通常のつゆより105円高くなる。ちなみに数量限定。これは、Fishが「味は二種類あったほうがいい」と選んだもの。
うどん、悔しいけどうまいんだよなあ。「これだけ高いンだから旨くて当然」と言ってしまえばおしまいなんだが、旨いのは旨いと認めないとな。むっちり感がとてもヤラシイ感じで、たまらん。「もっちり」でも「麺のコシが・・・」でもないぞ、「むっちり」だぞ。その方がエロい表現でしょ?つまりは、そういう食感のうどんということだ。けしからん、大変にけしからん。
ただ、つゆがそれに負けているというかなんというか。うどん圧勝の前に、つゆがひねくれてやる気を失ってしまっているような感じ。頑張れ、つゆ。
蕎麦を手繰る感覚でずるずるっとうどんを食べてしまったので、あっという間にざるがカラになってしまった。女性陣は今まさにお食事中。間がもたなくなって、なんか変な事をしているわたくし。
言うまでもないことだが、麺を「ずるずるっ」とすすりあげる文化なんぞ、日本にしかない。台湾でも、麺線というどろどろに溶けたそうめんというか春雨みたいな麺を食べる際、ずぞぞぞと音が出てしまうことはあるが、それは結果論。「手繰る」という手技は台湾の人は習得していない。
よって、日本のうどんを食べる際は、慎重に箸に巻き付け、それでも長い麺の扱いに困って、しょうがないので一気に猪口にどぶんと移動願って、そこから少しずつビーバーのように麺をかじるという食べ方をする。何とものんびりした食べ方。
多分、台湾人からいわせれば、日本人の食べ方は汚いんだと思う。いやまあ、そうかもしれん。その点は日本人であるおかでんも否定はできんが、でもそれがいい。
女性陣はウフフとかキャハハなどと言い合いながら、うどんを食べ、ごまだれと醤油だれを交換し、またウフフと笑い、食べていた。巨大かき揚げに至っては、これはどうやって食べれば良いのか?猪口に入らないぞ、と思案してみたり。
台湾も麺をよく食べる国ではあるが、日本のそばやうどんのように「味がしない麺を、辛っらいつゆに浸けて味を中和させ、すすり上げる」という食べ方は全く理解の及ばないところだ。そもそも、台湾人は塩分耐性が低く、日本の「つゆ」は濃すぎると感じる。あと、単調な味故に飽きが来るのも早いようだ。そのことをよくわかっているので、敢えてFishはごまだれとしょうゆだれの両方をチョイスしたのだろう。
なおFishだが、以前山梨でほうとうを食べた際に「もうほうとうはいいや」と「ほうとう卒業宣言」をしていた。煮立った味噌の濃厚さと塩気にげっそりしてしまったらしい。
教訓。外国からくる人に「これが日本のスープだ!」とお味噌汁を振る舞う際は要注意。日本人って、自分たちが思っている以上に塩っ気の強いものばかり食べているので、塩分感覚が麻痺している。
お店を後にしたのは、14時を回った頃だった。
この後、伊香保温泉に行き、榛名湖まで行って、ようやく本日のお宿である法師温泉を目指すことになる。
伊香保温泉は石段の町で有名。そこで、二人を石段の一番下のところで降ろし、おかでんは車で先回りして上で待っている事にした。
「なんで?3人一緒に行って戻ってくればいいじゃない」
とFishに言われたが、いや、宿のチェックイン時間が頭にちらついちゃって、そういう事やってられんのよ。時間を最大限有効活用するために、車を先回りさせたい。
「だったら上から歩いたほうが、階段を登らなくて済むんじゃない?」
ええい黙れ黙れ、伊香保の石段は下から歩いた方が楽しいのですよ。最後には源泉があるし。上からだと、重力に引かれてそのままテテテーと降りてしまい、周囲の風景を楽しむ間もない。ふうふういいながらでも、下から歩いた方が絶対に楽しい。それ、君たち歩きたまえ。頑張れ、腹ごなしだと思って。
車を回り込ましておいたおかでんと、女子二人は石段の上部で合流。
後でその間に撮影した写真を見せてもらったのだが、いやまあ、なんというか、台湾ですなあ。多分、写真の構図やら、写る際のポーズやらを総合的に見れば、「あ、これ日本人が撮影したものじゃないでしょ?」と分かる。それくらい、微妙とはいえ違いがある。
話はやや逸れるが。
台湾では、結婚する際にコスプレしまくりの分厚い結婚記念写真集を新郎新婦で作るのが一般的と聞く。一日がかり(もしくはそれ以上の日数)で、観光名所をあちこち移動し、そこでいろいろなドレスや民族衣装を着て、舞台のワンシーンかのような恥ずかしいポーズをビシッと決め、写真に収まる。で、「離婚の際のゴタゴタ時には、鈍器として武器になる」くらいの極厚なアルバムに仕上げるのだった。興味がある人はネット検索してみれば良いが、とにかく日本人の感覚からすると「何かの悪ふざけ」の域に達しているくらい、その写真はすごい。気合いが入っているものになると、霧けむる明け方の湖の上に手こぎボート一艘、そこに新郎新婦がドレスとスーツ姿でいて、二人肩を寄せ合っている・・・というのを望遠で撮影、とか。このショットを撮るためにどれだけ苦労してるんだ。
そういう民族性なので、日常における写真撮影においても、カメラを向けられたら大げさなポーズをとるのは当然だし、撮影場所も何だか凝っているのであった。
見せてもらった写真は、冒頭部分は伊香保関所跡にある「顔の部分だけくりぬいた、町娘のボードに自分の顔をはめて撮影」という定番からスタートするのだが、だんだん「観光客が通らないような裏道で、脇の石垣に片手をついた状態で首をかしげてポーズ」とか、スカートをちょっと持ち上げて「ごきげんよう」なポーズとってるとか、そんなのばっかり。比較文化論の論文が書けそうな素材だ。
そんな二人をピックアップした後、山の上にある伊香保の源泉が湧き出ているところを見て、飲泉所で「まずい!」と言いながら源泉を飲んで、赤い橋の上で記念撮影して。伊香保観光はこれにて完了。
赤い橋は台湾人的にもワクワクさせられるものがあったらしく、我々は記念撮影ができるように橋が空くのを順番待ちした。日本人でも、この橋を見れば記念撮影をしたくなるものだが、台湾の人からするとなおさら、らしい。なんかこういうのが「日本的旅情」なんだという。
まだ緑色で、色づいていないもみじと私を一緒に撮ってーと言われた。ほー、そういうのもイイもんなのですか。勉強になるなあ。
この後、榛名山を登り、山上湖である榛名湖に向かう。
榛名湖はそれはそれで風光明媚なところだが、どうしても外国からの賓客を連れて行かねばならんほどの場所ではない。特に、宿のチェックイン時間が気になっている現状においてはなおさらだ。このまま伊香保温泉から宿に直行しても良いくらいだ。
でも、敢えて榛名湖に向かったのは、道中が漫画「頭文字D」の舞台となった「秋名」だからだ。ドリフト野郎どもの話なので、女性、しかも外国の人にとっては馴染みはないと思われがち。しかし、台湾の超有名ミュージシャン「周杰倫(ジェイ・チョウ)」が実写映画版で主人公・琢海役を演じたので、中華圏ではこの作品の知名度が高い。そんなわけで、「あの『頭文字D』の舞台がここだよ」と説明すると、案外喜んでもらえる。
ただ、漫画を読んで内容に精通しているわけではないので、「ここが五連ヘアピンで」とか「溝落としをした場所はここで」なんて説明しても通じないんだが。そもそも、「ドリフトって何?」ってところから説明しないとダメだったっぽい。
Jennyからは「おかでんサン、運転上手ですネー」とお世辞の言葉を頂く。「よーしならばガムテープデスマッチだ」と、右手をステアリングに縛り付けようかと思ったが、それはやめとけ。本当に死ぬぞ。
今回、車を運転する立場としては、何が何でも安全運転をしなければならない。もちろんいつだってそうなのだが、今回は何しろ乗っている人が台湾人だ。万が一事故が起きて怪我したり、最悪死亡したら、どうやって台湾に連絡をつければ良いのだ?言葉通じないし、そもそも連絡先知らないし。
だから、「インベタのさらにイン」などは狙わず、ひたすらチキンな運転っぷりでクライムヒルをするおかでんだった。どっちにせよ、1,300ccの車なので、馬力不足で大して坂道じゃスピードでないんだけど。
榛名湖。
案外Jennyには喜んで貰えた。ニコンのデジ一と、パナソニックのコンデジを使い分けながら、あれこれ撮影しまくり。
台湾人の日本旅行には定番があって、迪士尼樂園(ディズニーランド)と並んで「箱根海盗船」というのがある。要するに、箱根芦ノ湖の海賊船に乗るのが、何だかイイらしい。なぜかはよくわからない。まあ、日本人が台北に行ったら、鼎泰豊(ディンタイフォン)で現地物価から考えたらアホみたいに高い小籠包を食べるというのと一緒なんだろう。いったん「定番の観光地」として認知されると、それはしばらく観光客にとっては不動の地位となる。
で、多分Jennyは既に箱根には行っているだろうから、それと比べて見劣りするんじゃないか・・・とおかでんは若干心配していたのだが、そこまで気にする必要はなかったようだ。
やっぱりね、山の上の湖って、テンション上がりますよ。何でだろう?
JennyとFishがタッグマッチのレスラーのように交互に入れ替わりながら、写真を撮りまくっている。「二人一緒に撮影するよ」と言って、おかでんがカメラマン役を買って出ると、その後は「おかでんサンも一緒に」となって、今度はおかでんを交えた撮影会が始まる。「そろそろ終わり!」と言わないでそのまま様子を見ていたら、一体どこまでこの撮影会が続くのか、大変に興味がある。
車に戻り、本日最後の行き先であり、今回の旅行の最大の目玉・法師温泉を目指す。
カーナビの到着予定時刻を見ると、「16:56着」と表示されていた。ちょっとがっかり。もう少し早く到着したかった・・・。
いや、17時前の着だったら本来十分なはずだ。しかし、それでもがっかりしてしまうのは、「温泉宿は夕食までの時間が最大のぜいたく」だという考えがあるからだ。館内を探検したり、風呂にゆっくり入ったり、今晩の夕食に茶碗蒸しが付くのだろうか、とか陶板焼きよりも鍋の方がいいなあ、なんて考える事ができるのは、チェックインが早い人のみに与えられる特権だ。できれば16時には到着したかった。
このカーナビは、時速30km平均で車が走行することを前提に到着予定時間を計算している。だから、信号が少なくて制限速度40kmに設定されている道路を走っていれば、もう少し早く到着することは可能。でも、微々たるものだ。
こうなる事を想定して、奥の手を用意していたが、出すしかあるまい。
それは、裏道を通るという作戦。本来、榛名湖から法師温泉に行く場合は、中之条経由で猿ヶ京を通り、法師温泉に行くルートをとる。カーナビもそうしろと指示している。しかし、これはちょっとした大回りなのも事実。
そこで、だ。よーくロードマップを読んでいると、中之条の北、四万温泉から細い道路が法師温泉手前に伸びている事実を発見した。これを活用しちゃれ、というわけだ。ちょっと道がクネクネしすぎているのが気になるが、大回りするよりこっちの方が早そうだ。
結論:作戦大失敗。
四万温泉からの入口時点で、すでにやばい雰囲気満点。ナビゲーターをお願いしていたFishに「本当にここだろうか?」と何度も確認してしまったくらい、ガタガタの砂利道林道だった。そうかー、舗装されていないのかー。
既に作戦失敗を悟っていたが、今更折り返すわけにもいかぬ。ええい、と突っ込んだら、ますますもの凄い砂利道。これ、4WDの車じゃないと入っちゃいかん道だろ。
轍にはまったら車を擦るので、真っ直ぐの道でも車を左右に揺すりながら、時速10km程度で走る。なんたる惨めな気分なことよ。
カーナビからは、10秒おきくらいに「ぴろろん。Uターンです」と言ってくる。ええい黙れナビ子。お前、こういう時だけはどや顔でしゃしゃり出てくるよな。
あんまり焦っている状態をJennyに知られるのはまずいと、一生懸命自制はしていたのだが、多分バレバレだったと思う。余裕かまして、「こんな道を進まないと行けないような秘湯なんだよ。凄いでしょう?」とうそついてりゃ良かった。
深くえぐれた砂利道、巨大な落石、そしてトーナメント表のように枝分かれする道。
「森林公園」という場所に着いたので、やれやれ、下界だと思ったらまだまだ砂利道が続く。これがまた精神的にこたえる。
ようやく舗装道があるところまで出てきたら、そこは奥平温泉だった。想定では、法師温泉すぐ手前まで到達しているはずだったのに、相当手前に出てきてしまった。全然ショートカットになっていない。激しく落胆。
Jennyが「楽しかったから良かった」とフォローしてくれた。
一本道をどんどん山奥へと分け入っていく。ここから先にあるのは、法師温泉だけ。法師温泉のためにある道路。どこまで入っていくの?このままいったら、ブレア・ウィッチ・プロジェクトみたいに森から脱出できなくなるのでは、というくらいずんどこ入っていったところに、明かりが見えた。
法師温泉、着。到着時刻は17時19分。あああー、カーナビ推奨ルートの予定時刻よりも20分近く遅れた。がっかりしまくりのおかでん。温泉旅館の場合、基本的に「お夕食は18時からになっております」だ。今からチェックインして、建物や部屋を眺めてニヤニヤして、お茶なんぞ一服いただいて、お風呂入って・・・なんて、到底できない時間。すぐに夕食タイムだ。
惜しい。あまりに惜しい。おかでん痛恨のミス。
ただ、そのあたりの「日本の旅館事情」を知らないJennyは、ただただ「ザ・和風」な山奥の温泉宿を見て興奮して写真を撮っていた。そうか、そうだよな。過度におかでんががっかりすることはない。これでも十分喜んでくれている以上は、おかでんは「最高のおもてなし提供中」の振りをし続けないと。
木造建築の建物は、年季が入ると本当にいい味を出す。この宿もまたしかり。
玄関脇に赤い郵便ポストがあるところも、わざとらしいといえばそれまでだが憎いほどこちらのワクワク感をくすぐる演出。
そんなところを浴衣姿の宿泊客が下駄履きでぽくぽく歩く。これを見て興奮しない外国人はいるまい。Jenny大喜び。一緒になって、Fishも喜んでいる。
一方おかでんはというと、「畜生、一風呂あびてさっぱりしちゃって。到着が遅くなったことがこんなに悔しい事はない」とひたすら地団駄踏んでいるのだった。地団駄踏みつつそのまま前進してそのままフロントへGO。チェックインをば。
えーと、チェックインって日本語で訳すと何になるんだろう?と考えつつ。
フロント周りの、味わい。
いろいろ「和」のテイストがあって、楽しい。特に囲炉裏が切ってあって、そこでお茶が頂けるようになっているのはうれしい。
パネルを見ると、この建物は国から有形文化財に指定されているそうだ。へえー。
なお、ネタバレすると、チェックイン手続き後すぐに部屋に向かったので、これらの写真は翌朝撮影したもの。本当は、宿に入ってから夕食までの間、こういうのを愛でるのが楽しいんだけど、そこは今回は許して。ダートロード走破という予想外のアトラクションが入っちゃったので。
よく磨かれた廊下を、仲居さんに案内されながら歩く。
消化器がたくさん並んでいるのは、木造建築だし文化財だし、ということだからだろう。ずらりと売り物のように消化器が並んでいたが、実際この建物は火がつくとよく燃えそうだ。これくらいの数がなくちゃ話にならないのだろう。
建物は、来客数の増加に伴い魔改造を繰り返しました、という典型的な宿のつくり。なんだか大変にややこしい事になっている。この建物の探検だけで、ちょっとしたアトラクションだ。なにせ、川向こうにも建物があるし、道路向こうにも建物がある。都合、本館からは左右に一本ずつ陸橋が延びており、どういう順番で建物が増えて行ったのか推理するだけで楽しい。・・・このあたりは、多分女性には分かりにくい感覚だろうな。Jennyに説明するのはやめた。まずJennyにたどり着く前に、通訳のFish段階で「?」と理解できずに困ってしまうだろうから。
例えば、最初にできた建物であろう本館の部屋がなぜ16号室から始まっているの?とか、途中がっぽり欠番になっている部屋番号はどうしたの?とか、そういうのを考えるだけでビールが2杯は飲める。・・・あ、お二方ご理解できませんかそうですか。失礼しました。
われわれは「本館の20号室」をあてがわれたので、そこへ案内される。
広い廊下から脇道に逸れる形で、狭い廊下があってそこが20号室。というか、本館にある部屋(16号室~20号室)は右写真に写っているのが全て。本館という割には部屋数がめっぽう少ない。
Jennyはこのシチュエーションだけでも大満足のようだ。なんだか妙に狭い廊下、木の廊下、引き戸式になっている各部屋の入口。さっきから「オー」とかなんとか、感嘆の声をあげっぱなしだ。
Fishは、台湾から家族友人が来日すると、温泉に連れて行きたがる。Fish曰く、「日本文化が凝縮された場所だから」だそうだ。それは、建物の造りであり、湯船であり、畳の部屋であり、お膳にずらずら並ぶ会席料理だったり。あと、特に興奮しまくるのが浴衣を着ることだそうだ。「着崩れやすいし、なんだかイヤ」とは思わないんだな。
ただし、畳は良いと言うが、長時間はダメとも言っている。床にぺたんと座るという文化は台湾にはなく、足やお尻が痛くなるからだ。正座なんてもちろん得意ではないので、そのあたりはご案内する日本人は配慮をしなくちゃいかん。
引き戸を開けて中に案内してもらうと、まずはスリッパを脱ぐ「玄関」のようなスペースが。まあ当たり前か。
宿によってはこういう場所がなくて、廊下にスリッパ脱ぎ散らせ、というところもあるがあれはちょっとイヤだ。
部屋に入ってみて驚いたのは、この部屋が二間続きであったということだ。えええ、この宿ではスタンダードな料金プランだったはずなのに、何でこんな豪華な部屋になっちゃったの?と動揺するおかでん。前室みたいな部屋が4畳で、メインの居間が6畳。「あっ、すいません、ここ別のお客様の部屋でした」と後から別の従業員がやってくるんじゃないかと心配になるくらいだ。早く玄関の鍵をかけて、従業員さんが入ってこれないように籠城しなくちゃ。
広い部屋は嫌いじゃないが、一体前室に相当する4畳は何に使えば良いのだ。6畳の方で、くつろぐのも寝るのも完結しちゃいそうなんだが。貧乏性だからそういう発想しか出てこないのか?金持ちは、「よし、今晩はこの4畳で相撲を取ろう」とか、「あらヨガをやるのにちょうど良いスペースだわ」とか考えるのだろうか。
人間、誰しも宿の部屋に案内されたときは心拍数があがるものだ。しかし、おかでんは前にも後にも、これ以上心拍数が上がった事はない。ちょっと凄すぎだ。こんなところで、女性二人と一泊とは・・・と感慨深くなるが、手を出したら国際問題になるからやめとけ。
部屋を案内してくれた仲居さんの館内説明は全員上の空で聞いているありさま。周りが気になってしかたがない。で、写真を撮りたくてたまらん。
仲居さんにお引き取り願って、扉が閉まった瞬間から全員目の色変えて写真撮影大会の開始だ。まずはお茶でも一杯飲んでくつろいで、とか早速風呂に、なんてのは聖人君子以外無理だ。これだけフォトジェニックだと、台湾から来たJennyなんて大変だ。
Jennyは、自身はニコンのデジ一を持ち、Fishにパナのコンデジを持たせ(というかFishが自らカメラに手を伸ばした)、おかでんは富士フィルムのコンデジを持ち、三者三様で部屋中をウロウロしまくり、写真を撮りまくった。なるほど、都合10畳の二間だが、ウロウロすることを考えるとこれくらいの部屋の規模でちょうどよいのかもしれない。
しまいには、JennyとFishがお互いカメラを向け、お互いを撮影しているという「合わせ鏡」みたいな写真まで撮り出す始末。一体それになんの意味があるんだ。
この部屋、天井がとても高く開放感がある。太い梁がどっしりと壁を支えており、なんとも頼もしい。ただ、冬になると暖気が全部天井に抜け、相当冷え込みそうではある。窓が広くとってあることもあり、熱はどんどん逃げそうだし。良くも悪くも、夏には強いが冬には弱い日本家屋だ。
これはJennyが撮影したもの。
温泉宿に泊まる際は、偏執狂と化して館内の写真を撮りまくるおかでんだが、室内の照明を対象に撮影したことは一度も無かった。そんなおかでんさえ見落とすものに、Jennyは興味を持ったようだ。
そうか、なるほど。こういう提灯のような形をした照明って、案外台湾には無いのかもしれない。大体、フローリング中心になっている今の新築マンションでも、この手の照明は使われる事がない。珍しいっちゃあ珍しいのだろう。
一方のおかでんはこんな室内撮影をしている。
冷蔵庫の中まで写真を撮っているあたり、変態紳士の面目躍如。でもね、どういうものが中に入っているかってのは結構宿によって特色があって、案外面白いもんなんですわ。何の気無しのカップ酒でも、良く見ると地元の銘柄だったり。ちなみにこの宿はウイスキーやワインまで入っていたのには驚いた。
Jennyに、「日本の旅館の冷蔵庫は、朝になったらロックがかかって、自動的に何を飲んだかが帳場に伝わるようになっているんだよ」と説明したかったが、何せ肝心のおかでんが舞い上がっている状態。「すごいすごい」と自家発電型興奮中のため、Jennyにネタ提供できなかった。「遠隔操作できる冷蔵庫」ってのが台湾にもあるかどうかは知らないが、多分ないと思う。
おっと、値段もチェックしておかないと。先ほど、食事は朝夕ともに部屋食です、と聞いたので、酒飲みおかでんは値段が重要。
んー、ビール中瓶で820円。やっぱり相当高い。でも驚いちゃいけない、吟醸酒空けたら2,700円、ウイスキーは2,500円、ワインは2,100円だ。4桁価格の飲み物が冷蔵庫の中に入っているのなんて、初めて見た。一体どれだけブルジョアなんだ。宝石箱状態ではないか。
部屋食、というのも何だかうれし恥ずかしではあるよ。大広間での食事というのは風情があって良いものだが、部屋食も悪くはない。でも、1万円以下の宿でも部屋食を採用しているのは珍しくないので、一体部屋食における手間暇増大のコストはどう宿側ではカウントしているのか、よくわからない。
Jennyには直接聞かなかったのだが、部屋食にJennyは相当ワクワクしたと思う。いわゆる「ルームサービスでディナー」という事になるわけだが、なんだか凄いぜいたくしているような気分にさせてくれるだろう。
出窓があったのでがらっと何の気無しに開けてみたら、三人そろって「おおう」と声を上げてしまった。この辺り、日本人も台湾人も同じ。中国語だから「アイヤー」と言うだろう、なんていうのは偏見だ。でも、白人さんだったら「ジーザス」とか言うかもしれんが。(←偏見)
何が「おおう」かというと、窓を開けた先に湯屋が見えたからだ。ピラミッド型の高い屋根。湯気を抜くための作り。今われわれがいる場所が2階なので、それよりも高い屋根になる。決して風呂場が二階建てになっているわけではない。もう、ああいう湯屋を見ただけでこの宿の風呂については勝利を確信できる。
これがなんともまたフォトジェニックなんだわ、手前の屋根(こちらも湯屋)は草が若干生えていて、それがまた侘びの風景。
ここでまた、入れ替わり立ち替わりの写真撮影会。どれだけ女性陣が興奮していたかは写真の種類と枚数で直接説明したいが、掲載はできない。よって、オッサンおかでんが一人写っている写真でご勘弁を。すまない、ホモ以外は帰ってくれないか!
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