駅舎内に入る。
ふと思ったのだが、入場券って買う必要あったのだろうか?
こういう無人駅の場合、自動券売機そのものが無いのだが、入場は無料で良いのだろうか。キセル、とは違うが、不法侵入のような気がするが、大丈夫だろうか?
それは兎も角、まずはJenny達をのりば案内の前へ連れて行く。
「普通、ホームというのは一箇所にあるものだが、この駅の場合は二箇所に別れているのですよ」
とガイドさんよろしく解説をする。何でそうなるのか、というのは先ほどカーナビの地図で説明済み。何度も言うが、単にトンネルに連れて行くだけだったら「階段歩いておしまい」だ。なんじゃこりゃあ、感を出すためにも、地上にあるホームもきっちり紹介しないと。
で、水上方面は地上にある普通のホームで・・・
と二人を上り線ホームに連れて行く。とはいっても、上野って何?越後湯沢って何?なJennyなので、「太平洋側」と「日本海側」と言葉を置き換えないといけない。それでも、日本海というのが具体的に理解できているかどうか。日本人だって、台湾における「台灣海峡」と「東シナ海」と「太平洋」をきっちり説明せえ、言われてちゃんと言える人が何割いることか。
まずは何の変哲もない上りホームを見る三人。「で?」という不思議そうな顔をする二人だが、まあ待て、これは前座だ。これからが本番。
「で、反対側の日本海側に行く電車のホームは、こっちにあるんですよ」
と今来た道を戻り、改札口の左手に向かう。
そこには、コンクリートブロックで作られた渡り廊下が。
「おお?」と既にこの時点で二人、何だか異次元の世界に来ました感をキャッチしているようだ。良かった、ここで反応してくれれば、この後は大変にやりやすい。というか、勝利を確信してもよかろう。
ただ、もうこの時点で台湾勢はお互いの写真を撮り始めた。いやいやいや、まだ早い。ここで記念撮影しても、大したことないですよ。
で、これ。
これが土合駅名物の地下ホームに通じる階段。
ひたすら無骨に、コンクリートとステンレスの手すりと、蛍光灯。以上。後は潜れ潜れ、ひたすら潜れ。
何しろ潜った先、ホームがほとんど見えない。アフリカに住む視力3.0くらいはある人でないと見えない。さすがにこれには台湾勢2名、声を上げて喜んでくれた。
はっはっは、喜んでいられるのは今のうちだ。下るのはまだしも、帰りは上りだぞ。ひたすら登るぞ。泣いても許して貰えないぞ。諦めるなら今のうちだ。
女性達はわーわー言いながら、写真を撮りまくりながら、降下を開始する。
喜んでもらえて何よりだが、どうやら彼女たちのロジックとしては、「フォトジェニックな場所であれば単純に喜ぶ」という方程式があるようだ。それは「高い」「低い」「深い」「美しい」、なんでも良い。自分が写真に収まる際、カッチョエエ背景でさえあれば良い、ということだ。結局はナルシストなわけだ。逆に、しみじみとイイ風景(でも写真撮影にはあまり向かない)というところだと、あまり興味を持たないかもしれない。
そんなこんなで道半ば。振り返ると、地上が相当遠くになってしまった。ここから「もういいや」と引き返しても、これだけ歩かないといけない。もう、引くに引けない場所だ。
階段の脇には、急斜面のミカン畑で収穫物や資材を運搬するために使われる、ミニモノレール用と思われる一本レールが敷設されていた。こんなの、昔からあったっけ?覚えていない。恐らく、ホームの補修をやったり、線路のメンテナンス時の資材運びで必要となるのだろう。まさか、階段をわっせわっせと男どもで運ぶわけにはいくまい。
観光客向けにエスカレーターを建設するという話があったのだが、コストを考えると大層馬鹿馬鹿しく、多分頓挫したはずだ。有料にするとしても、人を配置するとそれだけでコストがかかる。だいたい、もともとは谷川岳登山で利用する人が降りる駅であり、これしきの階段を上れない奴は山に行くんじゃねーよ、という論理がある。
日本一のモグラ駅。
462段の階段があるよー、と書いてある。それだけ下っても、ホームの場所は標高583mなのだから高い高い。地下鉄とは根本的に違う、ってことだ。山鉄だ。
地上と地下との標高差は70.7mということなので、見た目以上に大したことはない。
ようやく地下ホームに到着。
「ひゃー」なんて言っているが、いやいや、最大のカタルシスは地上に戻ってきた時に待っているのですよ。今これでようやく中間点であることを忘れてはいかん。
地下ホームだが、現在改築中らしく仮設ホームができていた。そのせいで、地下ならではの殺風景感が若干足りず、それはそれで残念であったよ。
とはいえ、ここまでの階段で十分楽しませてもらったので、全く問題なしだ。
Jennyは、ホームにあった業務用の電話ボックスを撮影していた。
何か珍しかったのだろうか?
ちなみに、当然だがこの地下ホームでは携帯電話の電波は入らない。そういう点では、唯一のライフラインと言える。
・・・あれ。FOMAは受信するぞ。さすがdocomo。こんなところまで電波が入るようにしているとは・・・。山の上とか離島とか、日本の極地に行く時信頼できる携帯キャリアは、docomoの一人勝ち状態だ。
「こんな地下にホームがあるなんて」「地上のホームは使えなかったのだろうか?」
という話をみんなでしていたのだが、何よりも凄いのはこの地下ホームにはお手洗いがあるということだった。一体ここで排泄されたものはどこへ消えていくんだろう?まさか、地上までポンプアップしているわけではあるまい。地下深くの割れ目に流し込んでいるのだろうか?しかし、微生物が活動しにくい環境なので、いつまで経っても排泄物が分解されないような・・・。
いろいろ気になる事を各自が抱えつつ、後日の宿題としつつ、今きた道を戻る。
「日本一のモグラ駅」と名乗っているが、その他にも「ひたすらまっすぐの階段」でも日本一なんじゃあるまいか。ホント、不気味なくらい真っ直ぐだ。もちろん、踊り場はあるのだが、こんな真っ直ぐな坑道は見たことがない。漫画の中だと、AKIRAが冷凍保存されている地下秘密基地くらいか・・・。
階段を登ることは、決して「不当に疲れさせる嫌がらせ」ではないようだ。少なくとも、土合駅にやってきた人に関しては、そうだ。
ひたすら登るという行為がこのご時世大変珍しく、それが非日常感を醸しているのだった。むしろ、ひたすら階段を登る事が楽しい。はるか遠くに見える、地上の明かりを見上げつつ歩く歩く。
これは女性陣2名も同じようで、キリの良い数字の階段ではご丁寧に写真を撮影していた。旅の企画に困っている旅行代理店の皆様。階段一つでも十分ネタになるし、喜んで貰えるんスよ。
最後の段を上り切ったところで、「やったあ」とジャンプする写真を撮影。疲労感と相まって良い記念になったと思う。(写真は、すまんがジャンピングおかでんだ。むさ苦しくてすまん)
ただ、この階段をのぼってもまだ先があるよーとJRはニヤニヤしながらご忠告。
「まだ改札まで143mあるし、階段は二箇所で24段あるぜ」と、非常に細かい事を言ってくる。そんなん誤差の範囲なのだが、わざわざ言うところが茶目っ気があって面白い。
「ぬか喜びしやがって。まだあるぞざまぁ」って感じが、寧ろうれしい。
敵(とも)よ、また戦おうではないか。
水上から関越道に乗り、藤岡JCT経由で上信越道へ。次の目的地は、横川で釜飯を食べる事だ。わっせ、わっせ。大移動。
途中、富岡ICの横を通り、「富岡製糸場」なんて文字が見えたので、Jenny混乱。一体何がどうなっているのか、と。おかでんは運転の最中なので、Fishに説明を一任したが、Fish自体がもともと読図を大変に苦手としており、加えて日本の地理に不慣れであり、うまく伝わったかどうかは不明。日本には「富岡製糸場」がいくつもあると勘違いされたかもしれん。違う違う、一箇所しかないです。今回は時間の都合と行き先をデフラグかけたら、こういう「同じ場所を二度通る」っていう事態が起きるわけで。
横川に行くため、松井田妙義ICで高速道路を離脱する。本当は、下仁田で下りて妙義山散策としゃれこみたかったのだが、時間の都合で却下。
おかでんの悪い癖で、あれこれ詰め込みすぎだ。既に昼時なのに、この後は
釜飯食べる → 碓氷峠(旧道)を走る → 軽井沢 → 白糸の滝 → 鬼押出し園 → 万座温泉 → 草津白根山 → 草津温泉 → 温暖的家(要するに東京の自宅。台湾の旅行ツアーでは、必ず行程表の最後にこの「温暖的家」という表記が入る)
という予定になっている。むちゃ苦茶だ。途中土産物屋に立ち寄りが無いだけで、「観光地を短時間でハシゴする格安ツアー」と何ら変わりない。個人でここまでやるのは大層貧乏くさい、と我ながら思う。でも決めちゃったもんは仕方がない。
おぎのやドライブイン到着。
峠の釜飯を食べることにする。「釜飯。以上!」という、潔すぎる料理を台湾人が好むかどうかは正直疑問。「味がずっと同じでつまらない」と思うかもしれない。あと、釜飯の上に載っている杏については日本人間でさえ賛否両論あるけど、台湾人からしたら「ご飯の上に甘い杏って馬鹿じゃね?」と思うかもしれん。国際問題ですよこれは。大げさだけど。
実際問題としては、わさび漬けの方が口に合わないと思う・・・。実際、台湾勢は漬物にはほとんど箸を伸ばさなかった。「塩辛いものでご飯が進んじゃってモウ」という発想がないから、漬物なんて食べないのだった。
とはいえ、釜飯の「お釜」には二人とも大喜びだった。多分、あの料理が普通の経木の弁当箱に入っていたらイマイチな反応だったと思うが、お釜は珍しかったようだ。持って帰る、とうれしそうに蓋ごと紐で縛っていた。Fishに至っては、食べきれなくて若干残したものを、それごと持って帰っていた。おい、ちゃんと紐縛っておけよ。途中で蓋がずれたら、カバンの中がえらいことになるぞ。
二人には、「お釜を持ち帰った際の注意事項」をレクチャーしておく。誰しもが、釜飯を食べたら一度はお持ち帰りする。しかし、結局は捨てられるという悲しい運命を辿るのはほぼ100%の確率だ。だから、ちゃんとレクチャーしておかないと。
(1)植木鉢として使うのは無理→水が抜けないので、根っこが腐ります。やめとけ。
(2)米を炊く→ちょうど一合炊けます。しかし、火に掛ける事を前提にしていないので、釜の表面が濡れているとぱきっと割れます。
以上を踏まえると、ちょっと重いけど風情がある(?)お茶碗として使うのが良いかと。
と、いうことで。結論から言うと、あんまり使い道がないってこった。
なんなら、「釜飯流家元」を名乗って全く新しい茶道を作っていただいても構わぬ。
さて、このドライブインをざっと見ていると、実はこの先にある碓井峠の鉄道橋などが富岡製糸場とセットで世界遺産の暫定リスト対象になっていることが分かった。(この連載では、富岡製糸場に行った際に知ったかのごとく記述があるが、実際に認識したのはここ)。ちょうど良かった、これはJennyにも楽しんでもらえそうだ。
碓氷峠は、新道と旧道があり、旧道は「頭文字D」の舞台になるくらいのクネクネ道だ。新道はバイパスになっており、さすがに新しいだけあってゆるゆると登っていく。なにせ、横川と軽井沢の間は断崖絶壁状態の段差になっており、そこを登るのは一苦労だ。昔は新道は有料道路だったが、今では無料化されている。
旧道は時々落石で通行止めになっていたりするので、事前に情報を収集しておいた方がよろし。われわれはその旧道に入る。
途中、町のお祭りだったのか、大きな山車が挽かれていた。Jenny大喜び。やっぱり、こういう「日本の伝統文化」っていうのが一番喜ばれるんだなーと思った。ガイジンさんをお招きするなら、お祭りの時期に合わせると良いかも。盆踊りなんて見ると、きっと喜ぶはず。
これは予想外なところでポイントゲット。
碓氷峠は以前、「アプト式」と言われる鉄道が走っていた。あまりに坂が厳しくて、列車がレールの上で空回りしてしまうため、2本のレールの他に、歯車がガッチリ噛むように3本目のギザギザレール(+車両にはそのレール用の歯車)がついているという力業だ。その当時のトンネルや陸橋などがまだ現存しており、一部が遊歩道になっている。
有名なのが「めがね橋」であり、旧碓氷峠の代名詞。その手前で二人を降ろし、「さあここからめがね橋まで歩いてらっしゃい」と見送る。
「一緒に行かないの?」とFishに聞かれたが、いやいや、タイムキーパー役おかでんとしては既に尻に火がついている状態。ただ、焦っているところを二人に見せるわけにはいかないので、さも余裕かましている振りをしつつ、「車を先回りさせておくよ。後で反対側から歩いてくるので、合流しよう」
「でも道がよくわからないんだけど、どうすればそのめがね橋に行けるの?」
「鉄道だぜ?分岐なんて無いから安心しなさい。真っ直ぐ歩けばめがね橋だ」
石が組み上げられた、しかも単線のトンネルというのは神秘的だ。
何かこの先に、違う世界が広がっているのではないか、という気にさせる。宮崎駿は、自身の映画「千と千尋の神隠し」「崖の上のポニョ」でトンネルを通るということを重要なターニングポイントとして描いているが、なるほどよく分かる。「トンネルの箇所は、女性の胎内から外に出る事を暗示している」など諸説あるけど。
トンネルから出ると谷になり、陸橋の上を歩くことになる。その繰り返し。陸橋を歩いている時は、よく探せば近くの谷筋に新しい橋を見つける事ができる。これも既に廃線となったが、信越本線が通っていた路線。長野新幹線の開業とともに、バス路線に振り替えられてしまい今は橋だけが残っている。こういうのを探すのも味がある。
・・・といっても、これをJenny様御一行が撮影している時は、おかでんはまだめがね橋のたもとで駐車スペース探しをしていたところだったんだが。
めがね橋の手前で二人と合流。
「ここがめがね橋だよ」と伝えたら、「どこが?」と聞く。待て待て、橋の上がメガネなのではない。橋から下りて、初めてメガネなのですよ。もうしばらくメガネはお取り置き。
というわけで、めがね橋の上を歩くことは可能だが、歩いたからといって何かエクセレントなものがあるわけではない。橋というものは、横ないし下から眺めるもんですな。
橋の上で写真を撮りまくったり、落書き帳を発見したのでJennyが一筆記念にしたためたりした後、めがね橋の下へ。
「オー」
Jenny、うれしくなって写真撮りまくり。ただこれが案外難しい。近くで撮ると迫力があるのだが、全体像がよくわからない。ある程度勇気をもって後ろに下がって撮影したほうが、この橋は奇麗に写真に収まるようだ。だから、「橋と一緒に記念撮影」というのは案外難しい。
なお、碓氷峠は見通しがきかないカーブがずっと続く道なので、車道で写真を撮影したりするのは自殺行為。やめとけ。
橋を形作っているのは、レンガ。
よくぞまあ、レンガでこういう橋が造れたものだ。作っている最中、「あれ?なんだかこっちの方が傾いている気がするんでスけど」「やべえ」なんて事が起こりそうなのだが、うまいことやったもんだ。
その功績を称えてレンガの写真を撮ろうと近づいたのだが、手の届く範囲のレンガは落書きが酷い。いや、「書く」ではなくてキズ付けているから、もっとたちが悪い。外国の方を御案内している日本人として、非常に恥ずかしい思いをした。こういう馬鹿なマネはよせ。落書きしたかったら、家で無防備に寝ている家族の額に「肉」と書いたりして、それで満足しなさい。
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