碓氷峠を走る。下手な運転なので、体が振り回される後部座席に座っていたJennyには申し訳ないのだが許して。
Jennyは「さすが『頭文字D』の舞台となった碓氷峠!」とか「おかでんサン映画の主人公になれる!」とか調子のいいことを言ってくれたが、さすがにそれは褒め殺しに近い。
おかでんは何度もこの道を通った事があるのだが、車道のすぐ近くに鉄道の橋梁があるポイントが結構あることは知らなかった。運転に気を取られていて、脇を見る余裕が無かったからだろう。今回は同行者が居ることもあって、「あっ、橋が見えた!」という発見報告がある都度車を停め、橋を見にぞろぞろと車を降りることを繰り返した。
ただ車を安全なところに駐車しないと、後ろから来た車にずどん、というのが当たり前のようにあり得る視界の悪さ。中間は広いけど出口は極端に狭い、クリアできるラインは一本しかない。
長野県という看板が出てきたら碓氷峠は終わり。ここから、さっきまでの道は何だったのかと思うくらい、一気に平坦な土地になる。しかも、開けた街並みなので、女性陣二人は「ふあー」と歓声を上げていた。
確かに、日本であっても、「峠を越えた先は平地」というのはあまり例がない。普通、峠のてっぺんまで登ったら、そこから同じような下りが待っているものだ。峠とは「乗り越えていく」ものだから。それがここ軽井沢では、なにか別ステージになっているのだった。
軽井沢は日本を代表する避暑地だ、と説明したのだが、多分Jennyからすると夏に訪れたとしても「避暑、どころか寒い」と感じると思う。長袖必須だろう。台湾の人は、日本人が思う以上に寒さに弱い。在日歴が長くなっているFishでさえ、毎年冬になると風邪をこじらせ一カ月くらい調子が悪いし、「冬は空気が乾燥して困る」と、保湿クリームを多用している。日本に生まれ育ったおかでんからすると「えー?乾燥しているかぁ?」というレベルなのだが、高温多湿育ちの人からすると「日本の冬はパサパサ」らしい。
台湾にも、埔里や梨山といった避暑地はあるが、緯度が日本と違いすぎる。「避暑」のレベルが異次元だ。
それは兎も角、軽井沢というのは台湾ではそれほど馴染みはない場所のようだ。台湾発の、台湾人向け日本ツアーの企画書をいくつも見る機会があるが、軽井沢に立ち寄っても「アウトレットモール」目的だ。軽井沢って、街歩きが楽しいわけだが、さすがに弾丸特急的な大人数ツアー旅行にはそぐわないのだろう。そんなわけで、「軽井沢!」と台湾勢に説明してもいまいちワクワクしてくれないのだが、街並みが明らかに金持ちそうだし、ブライダルショップがあったり、オサレ系の店が並ぶので「何だか違う空間」と気がついたようだ。Jennyは後部座席からあれこれ街の風景を撮影していた。
軽井沢を楽しむなら、レンタサイクルでも調達して半日くらい教会見たり店を巡ったりするのがよろしいが、さすがに時間が無い。パス。そろそろ日が傾いてきたので、焦って参りましたよ。次の目的地、白糸の滝へ行く。
駐車場から白糸の滝に向かう途中、岩魚を売る屋台が出ていた。中国語の歓迎表記もあったので、案外中国語圏の人もこの地に来ているようだ。風光明媚な場所なので当然といえば当然だが、ちょっと意外。ここに立ち寄った後、一体どこへ行くんだ。善光寺にでも行くか?
鮎には過敏に反応する台湾勢だが、岩魚には全く興味がないらしく、ほぼスルー。この扱いの差は一体何?
白糸の滝。
説明不要ですね。富士山山麓にも同名の滝があり、紛らわしい。知名度としては富士山の方が上かもしれない。
Jenny達は、白糸の滝手前の滝(写真上)で感激しちゃって、そこで写真撮影会を開始しはじめた。待て待て、白糸の滝はもっと奥(写真下)だ。
白糸の滝の解説ボード。
日本語表記の他、英語、朝鮮語、中国語(簡体字)、中国語(繁体字)の表記があった。
「ほらほら、繁体字で書かれているぞ」
と二人を招き、読んでもらう。こういう解説がちゃんと母語で書かれているのは、案内する立場の日本人としてもありがたい。
肝心の日本人(今回はおかでん)が間違った知識で解説してしまうと、通訳(今回はFish)が要約し、独自の解釈をしたものを通訳→外国人(今回はJenny)は何のこちゃわからんという構図になりそうだ。昔のテープ録音のように、ダビングする度にみるみる劣化する。その点、母語で書かれていれば直接本人に伝わるので間違いがない。
こういう情報があってこそ、観光地の有り難みが増すってもんだ。
こういう木も、台湾では見かけないのだろう。珍しかったらしい、写真を撮っていた。
何を被写体にするかというのを見ているだけでも、文化の違いを知ることができて面白い。
白糸の滝を見た後、鬼押し出し園に行く。
浅間山から噴き出した溶岩が固まって、ごろんごろんの岩肌が広がっている場所だ。
今日もおかでんの時間見込みの甘さが祟って、この時点で空が薄暗くなってきた。
「鬼押し出し園に行くか、それとも万座温泉を経由して草津白根山へ行くか?」と聞いてみたところ、後者の方が良いと言われたので、園内には入るのを諦めた。道路脇で記念撮影をして撤収。
万座温泉。毎度思うのだが、あの有料道路はどうにかならんのか?片道に1,000円以上取る私設有料道路って他に例があるか?冬になると、ここしか万座に通じるルートがなくなるので、コクド丸もうけ。
そういうきな臭い話はともかく、万座温泉入口にある、名物「空吹き」でいったん下車。写真なんぞを撮る。あと、この周囲一体は硫黄の臭いが充満しているので、その異空間ぶりもJennyにお楽しみ頂く。
あー。草津志賀道路に出た時点で、日が暮れた。
草津白根山。
有料駐車場なのに、ゲートに人がいない。どうしたんだろう、と思ったら既に帰ったらしい。非常にあっさりとしている。
駐車場閉鎖まではしないらしい。おかげで、500円だかする駐車場代を払わないで済んだ。
広々とした空間と、高い樹木がない、やや殺風景な景色。これはなかなか台湾にはないでしょう?どうぞ写真を撮ってやってくださいませ。
徒歩で15分弱くらいだろうか、駐車場から道を登っていった先に、草津白根山山頂がある。お釜部分には、青白い湖面が広がっている。
ちょうど日暮れ時で、普段は多い観光客が少なかったこと、そして霧が出てきたこともあってちょっと幻想的。到着時間が遅くなった事は想定外だったが、結果的には良い演出になったと思う。Jennyは「おおぅ」と言いながら、カメラを構えて前へ出たり後ろに下がったり、うろうろしつつ写真を撮っていた。
なにせ、お釜を撮影し、同時に人も一緒に撮ろうとすると結構大変だ。どのあたりのポジションで撮影すれば良いのか、いろいろ試行錯誤しているようだった。
彼女とは、英語経由のカタコトの意志疎通しかできないので、「写真を熱心に撮っているか否か」で彼女の関心度合いを計るしかない。その点、ここに連れてきたのは正解だったようだ。
「温泉みたいだね!中に入ったら気持ちいいのかなあ?」
などとFishが言っているが、あの水は日本を代表するレベルの強酸性なのでやめとけ。水虫持ちならともかく。
ちなみに、この近くの山腹には「毒水」というい地名があるし、ここから草津へと下っていく道の途中には「有毒ガスが発生しているので駐停車絶対しちゃダメ」っていう看板がいくつも出ている箇所がある。危険なのですよ。
何枚も同じような写真を延々と撮り続けているのを、今更ながら呆れて見ているしかない。写真を見比べても、どれも一緒に見える。若干アングルが変わったりポーズが変わってはいるけど、「記念撮影」という点ではどれも同じだ。
見栄えが良い奴一枚だけ残して、後は消してしまおうとしたら「消さないで~」と懇願された。じゃあどうするのよこんな金太郎飴な写真を、と思うのだが、「自分が写っている写真がたくさんある」事がうれしいらしい。よくわからん。それは女心ってやつをおかでんが単に理解していないだけなのか、国民性の違いなのかは不明。未熟なもので。
空が暗くなってきた。あんまり長居したらまずいので、下山を開始する。
すると、東の空からお月様が登ってきていた。「中秋の名月!」とFishが叫ぶ。そうか、そういえば今日は中秋の名月の日だったっけ。ちょうど満月だ。
「バーベキューだねー」
と、FishとJennyはお互い顔を見合わせあって笑っている。何を言っているんだ?中秋の名月といえば古来から白玉団子を頂くのが慣わしだろ。
「いや、台湾だとみんな外に出てバーベキューやるんだよ」
とFishは平然という。うそだろ?バーベキューかよ。そりゃまあ、日本人が花見と称して公園にシート敷いて酒盛りするのと一緒っちゃあ一緒だが。
本気で冗談だと思って、帰宅後に台湾の月見について調べてみたが、本当にバーベキューをやる文化が根付いていて笑った。お月見シーズンになると、スーパーにはバーベキュー用の機材や食材が山積みされるんだと。
えー、でも、月ってのは静かに愛でてこそ風情ってもんが・・・と言いたかったが、繰り返しになるが日本でも桜見ないで酒飲んでるだろと。人の事は言えない。
気を取り直して、「バーベキューって何を焼くの?」と聞いてみる。いわゆる日本のバーベキューとはちょっと違っていそうだ。
「何でも焼くよ」
「いや、そうじゃなくって。その何でも、ってのが国によって違うから聞いてるわけで」
「蝦!」
「えび?・・・ああまあそうか、台湾はエビ釣り専用の釣り堀がたくさんあるし、好きなんだろう。でも、バーベキューの具材で一発目に出てくるのがエビとは、いかにも台湾らしいな。他には?」
「何だろう?何でも入れるよ」
「日本でよくやるように、ピーマンとか玉ねぎとか」
「んー、それはあんまり入れないかな」
「じゃあ、何入れるんだよ。トウモロコシの輪切り?」
「あ、それ入れる」
「ちょっと待て。単にアナタが好きなものを列挙しているだけではないか?」
考えてみれば、日本でもバーベキュー食材にルールがないように、台湾だって何を焼いたって構わない。まさか月餅を焼く馬鹿はいないだろうから、あとは適当だ。好みの食材を買って焼けばよいのだから、こういう質問を日本人からされても困るのかもしれない。
なお、味つけは沙茶醤(さーちゃーじゃん)をよく使うんだそうで。おう、これもエビ風味ではないか。本当にエビが好きだな。
なお、後で知ったのだが、台湾では中秋の名月(中秋節)の事を「烤肉節(バーベキューの日)」とも呼ぶ事があるそうで。大変にバーベキューが好きな国民性らしい。しかし、この文化は中国大陸側には存在せず、一醤油メーカーが「中秋節にはBBQ」というのを定着させたことに由来するそうで。宣伝というのは文化になる。凄いことだ。
すっかり暗くなった中を、草津温泉まで下っていく。
本当は、その途中の荒涼とした山腹、うねる道路、有毒ガスで危険という看板、時々ある展望台などをJennyに見せたかったのだが、日が暮れてしまったので仕方がない。あと1時間早ければ。でも、これだけ予定を今日は詰め込んだので、これ以上の時間短縮は無理だ。計画段階でむちゃしちゃったようだ。
温泉街の外れに車を停め、湯畑を目指す。ライトアップされた湯畑は、夜訪れても観光客を満足させる風景になっている。この施策はグッジョブとしか言いようがない。おかげで、Jennyも「この池や滝全てが温泉?スゲー」みたいなことを言って興奮していた。
ここで、浴衣に下駄姿の宿泊客がカラコロ言わせながら街を歩いていたら「これぞ日本的」とJennyは喜んだだろうが、さすがにそういう人は居なかった。湯畑周辺は、日帰り客だらけでごった返していた。
宮城県の鳴子温泉が、下駄履きを温泉街あげて推奨していて、下駄で温泉街の店にやってきたらいろいろ特典つけます、なんてキャンペーンをやっていたが、あれは良い着眼点だと思う。
「どうだ、これが日本を代表する名泉だ」と胸を張りたいところだが、Jennyが住む台北市には「北投温泉」というこれまた凄い温泉があるのであまり「どうだどうだ」と威張れないのが残念。北投温泉はphが1.4と、草津(万代鉱源泉)と同等。
Fishは、「温泉玉子が食べたい!」とさっきからずっと言っている。以前、西の河原に向かう道沿いにある「草津ガラス館」前で温泉玉子を食べ、大層おいしかったと主張してらっしゃる。ええと、あれ?今朝も温泉玉子を食べたような気が。好きですなあ。
それはそれで結構なのだが、草津ガラス館に行こうとすると、どうしても面倒な関所を突破しないといけない。それは、温泉饅頭を無料で道行く人に配っている店、2軒だ。傍目は慈善行為のように見えるが、饅頭を受け取ったらその勢いで湯飲みを渡され、「店でゆっくり飲み食いして行きなさい」と連行され、そのあとお土産用に饅頭を買うべしと諭されるハメになる。饅頭受け取りを断ったり、購入を渋ると露骨に嫌な顔をするし、他の温泉饅頭屋の悪口を言うのでおかでんはあの店は嫌いだ。Jenny様御一行にあの店は立ち寄らせたくないので、先に別の饅頭屋に行くことにした。草津の中でも一定の評価がある、湯畑正面の「ちちや」。
ばら売りもしていて、茶饅頭が80円、白饅頭が100円。軽食として最適だ。Jennyはやたら気に入ったようで、バラを買った後に2箱もお買い上げしていた。そんなに大量に買って、一体どうしたんだろう?台湾の友達に配って歩いたのだろうか?
なお、台湾では日本のように「○○に行ってきました」と旅行のお土産を職場で配る事はない。というか、そういう文化は日本独特なものだ。公私混同は、世界のスタンダードではない。
温泉神社の石段から湯畑を見下ろす。
明るい。
草津に来て、湯畑を奇麗に写真で撮りたかったらここがお奨め。しかし、人物と一緒に写るのは非常に難しい。
多くの観光客は、湯畑下流の滝のところで写真を撮っているが、撮影直後に大抵カメラマンは微妙な顔をする。あんまり理想の写真が撮れていないようだ。滝(?らしきもの)と人物が写っているだけであり、何が何だかわからん写真だからだ。
せっかく草津まで来たのだから、共同浴場でお湯を使わせて頂く事にする。
まだこの時点では、草津の共同浴場を全部巡った企画「草津二十番勝負」をやっていなかったので、おかでんは共同浴場について疎かった。なので、ベタではあるが、湯畑脇にある「白旗の湯」のお世話になった。
ここは白旗源泉を使っておりお湯は良いと思うんだが、なにせ人が多すぎる。温泉の成分よりも、人間から出たダシ汁の方が多いんじゃないかというありさまであり、泉質の割には気持ちよく入浴できないお風呂だ。
Jennyはどういう心境でこの風呂に入ったのだろうか?やたらと肌がピリピリするし、風呂に入り慣れていない人からしたら「熱湯風呂」といっても過言ではない湯温だし、「熱いよぅ」と泣きじゃくる子供と、それをあやす親みたいな修羅場が頻繁に展開されるし。なんでこんな事せにゃならんの、くらいに思っていたかも知れない。「これも日本文化の実体験。我慢我慢」かな?
強酸性温泉なので、肌が溶けて一時的に「すべすべお肌」になる。そのあたりのピーリング効果について、Fishから説明があったのなら、モチベーション高く熱湯に浸かっていられたと思うんだが。
まあ、1時間もお風呂から出てこなかったので、多分満喫したんだと思う。
まだFishが「温泉玉子!」と言ってる。
しかし、既に草津温泉のメインストリートである西の河原通りは、お店が閉まり始めている時間。温泉玉子を売っているとは思えないんだが・・・。
あれ。売ってた。
夜の8時近いのに、まだ温泉玉子のニーズってあるんですか。恐れ入った。
謹んで3個、温泉玉子をお買い上げ。カップとスプーン、そしてタレがついてくる。うっかりするとトゥルンと一口で飲み込んでしまうので、適当にスプーンで崩しながら、談笑しつつ食べよう。
なお、温泉玉子だが、別に「これぞ日本文化」というわけではない。台湾にだって、日本と全く一緒のスタイルの温泉玉子は存在する。では台湾人はメチャ温泉玉子スキーかというと、必ずしもそうではないようだ。「鉄蛋」と呼ばれる、醤油で煮込んだあと固くなるまで乾燥させた玉子も人気。「鉄」という漢字から見ても分かるとおり、それくらい固いってこっちゃ。
何だかJennyは大満足してくれたようなので、ボロが出ないうちに総退却。
このまま家に送り届けてミッションクリアだ。
夕食はどうしようかと思ったが、草津で食べるにはいまいちピンと来なかったので、ずるるずると帰路を進んでいった結果高速道路のSAで食べる事になった。最後の晩餐が一番質素。ま、こういうところでファストフード的な日本の食事を体験するのも楽しいでしょ。きっと。
写真上はFishが頼んだもの。かけうどんのようだ。えーと、昨日のお昼、水沢でうどんを食べましたよね。またうどんスか。温泉玉子も重複したし、何かトランプの神経衰弱でもやっているのかね、と聞きたくなる組合せ。
しかも、うどんなのになぜかお盆の上にはスプーンが。何に使うのかと思ったら、よく女性がラーメンを食べる際にレンゲを使うようにして、うどんを食べていた。なるほどその発想はなかった。
写真下は今回のメインゲストであるJennyの注文。うは、カレーライスだ。今度はインドな料理ですか。もちろん、日本風カレーなのでこれも日本食といえば日本食なんだが。
台湾にカレー文化がやってきたのは比較的歴史が浅いそうで、日本を経由してのものだ。だから、日本式カレーには抵抗感はないらしい。
二人の注文した品を見て分かるとおり、台湾の人って基本は質素だと思う。金が無いから、ではなく、もともと質素なんだとおかでんは推測している。その割には、投資話になると途端にやる気満々になり、お金に執着心が強いからよく分からない。
転じておかでんの食事。
中華丼に豚汁つけちゃいましたー。うわ、ぜいたく。何で「日常の延長線上」として台湾からのゲストを案内する役の人間が、「せっかくの旅行だから」ってぜいたくしちゃってるのよ。しかも中華丼って。
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