密輸商人おかでんの上海貿易顛末【上海1】

このコーナー、「へべれけ紀行」の山登り関連で時々登場していた「コダマ青年」。彼は会社の同期であり、同じ職場に配属された戦友だった。お互い酒好きということもあり、昔はよく飲み歩いたものだ。ワカモノで山について話が通じる人というのは周囲にまず居なかったので、彼の存在は重宝した。

そんな彼だが、社内公募により部署を移り、さらに昨年からは会社も移り、なんとそのまま上海に赴任してしまった。きっと、国内ではデカからの追跡に耐えられなくなり、国外逃亡したのだろう。銭形のとっつぁんに頼んで、ICPOの出動をぜひとも要請したい。

冗談は兎も角、海外勤務を狙っての転職だったため、本人からすると狙い通りなのだろう。が、中国大陸か。しかしアンタTOEICしこしこ受験していたのに、アルファベットではない漢字の国とは。欢迎光临。

「え、でも中国語どうすんの?」

と、その話を初めて聞いた際に目を白黒させていたおかでんだったが、彼は案外けろりとしていて

「まあなんとかなるでしょ。仕事相手は日本企業の現地法人がメインだから、日本語がだいたい通じるし」

なんて言っていた。いや、でもよ、勤務時間中はそれで済んだとしても、それ以外の時間どうするのよ。ひたすら「ニーハオ」と「シエシエ」って言って生活するわけにもいくまい。食事一つとっても難儀するだろうに。毎日小籠包でも食べるか。あ、でも「小籠包」って「ショウロンポウ」とはよまないんだよな。「シャオロンパオ」なんだよな。ダメじゃん。「ビーフン」は台灣語だし、餃子を「コーテル」と呼ぶのは餃子の王将だけで中国じゃ通じないし。

餓死するぞ。

呆れつつも、夢だった海外勤務を実現させた彼を喜んで見送ったのだった。

それから、いつ訃報が中国から届くかとワクワクして待っていたのだが、いつまで経っても餓死した、とか中国人と意見が合わず刺された、という話は入ってこない。逆に、「秋になったら上海蟹のシーズンだからぜひ遊びにおいで」と、こっちが大陸にお呼ばれされるありさま。案外、なんとかなるもんだな。奴、むしろ余裕ぶっこいてるじゃないか。

彼の近況を時折メールで読むと、なにやら羽振りがよさそうだ。「上海蟹は食べ飽きた」とかなんとか言っとる。こら、高級食材様に対してなんてことを言うんだ。

なんでも、彼は営業職なので顧客を接待することが多く、秋の宴席では上海蟹は定番なんだという。また、日本から視察や観光に訪れた関係者をもてなすのも、上海蟹はガチだという。確かに、「食べたことはないけどどうやら美味いらしい、高級らしい」というのを日本人は知っている。上海に来た客にはこれさえ出しときゃ、まあなんとかなるでしょ、という食材なんだろう。

その上海蟹に惹かれて、おかでんは昨年(2008年)秋にいったんは具体的に訪中計画を立てていた。最近じゃ、ANAが羽田-上海便を運行しているので、その気になりゃ国内旅行感覚で行くことができる。だから、重い腰さえ上げればすぐに行ける場所だ。20,000マイル(閑散期は17,000マイル)あればサーチャージ等の諸経費だけで行けるし。

しかし、旬の上海蟹目当てのけしからん輩が日本には多いらしく、まんまとチケット確保に失敗。正規料金を払って席を確保すると189,000円にもなるので、あっけなく断念した。上海路線はビジネス利用が多いらしく、航空会社としては結構いいお値段を設定している。台北よりも近いはずなのに、台北便の運賃の3倍近いというのはどういうことだ。

魚介3

今年のGW、彼が一時帰国した際に杯を酌み交わす機会を得た。1年半ぶりくらいの再会。うまい魚を出す近所の店に案内したら、非常に喜んでいた。

「あっちじゃ、淡水魚が多いんだよ」
「え、上海って海沿いだろ」
「でも、淡水魚を食べる文化が強いみたいで。宴席の時って、必ずメインになる料理がテーブルの中央に鎮座しなくちゃいけないんだけど、よくデカい淡水魚が出てくる」
「メインが淡水魚?」
「あとは、北京ダックというのも多いな。大皿料理を並べる文化の国だから、メイン料理に華がないと宴会が締まらないんだわ。いい加減北京ダックは食べ飽きた」

なんともぜいたくな話だ。しかし、そんな彼が今こうして注文しまくっているのは、なぜか貝類ばかりだ。なんで?もっと美味い魚、あるぞ。

「いやさぁ、あっちじゃ貝なんて食べられないから」
「貝くらいあるだろ」
「あっても、食べたらやばいって。貝って、海底の栄養分を吸収し凝縮するんだぞ?」
「・・・ああ、海が汚染されていちゃ、貝なんて食べられないって事か」

魚介5
魚介6
魚介4

ぜいたくをしているようだが、日本では当然、というレベルのことでさえ四苦八苦しているから、外国駐在者の話を聞くと面白い。

なお、彼は1年以上中国に住んでいる事もあって、中国に対しての愛着が湧いている。だから、おかでんが会話の中で中国さんの悪口を言ったら怒られるんじゃないかと最初は若干躊躇した。彼は、

「毒入り餃子事件で中国製が問題になったけど、お前ら(日本人)だってうなぎの産地偽装やっとるじゃないか、そっちの方が陰湿だわ、とこっち(上海の職場)じゃ話題になった」

と言っていたので、ますますだ。

しかし実際のところは、中国に取り込まれた訳でもなく、かといって日本に肩入れするわけでもなく、両方を冷静に見ることができる視点を持つようになっていた。さすがは駐在員だと感心。

大盛りのラーメンを食べるコダマ青年

魚と貝を堪能し、酒を飲んで、

「どうだ、日本を満喫したろう。日本の鮮魚を上海で食べるとなると難しいからな」

と言いつつお店を後にしたら、彼が

「いや、まだ日本でないと食べられないものがある」

と言いだし、そのままタクシーに連行されてしまった。何処へ行くのかと思ったら、なんと「ラーメン二郎」と似たラーメンを出すお店(ラーメン富士丸)。

酒飲んだ後だというのにこの手のラーメン(当然相当なボリュームがある)を食べるのは相当キツいのだが、彼はこれが心残りだったようだ。きっと、彼が上海の地で不慮の死を遂げるような事が今後あったとしたら、「死ぬまでにもう一度二郎を食べたかった・・・」と言い残すかもしれない。

それにしても食べすぎだ。

二郎の脂でテカテカになった顔で二人ともご機嫌に解散。その際、「サプリを買っておいてくれないか」とのリクエストを彼から受けた。

彼とは飲み友達、山仲間であると同時に、サプリメント共同調達者でもある。「胃袋至上主義宣言」の中で、「アメリカ製の巨大なサプリ粒を喉に詰まらせて死にかけた」という記事を書いているが、随分昔からおかでんはアメリカからサプリを個人輸入している。その際、コダマ青年も引きずり込み、今に至る。国際配送、しかも航空便になるので送料が馬鹿にならない。だから、どうせサプリを買うなら仲間と一緒に購入した方が送料が割り勘になって都合いい。そういう論理だ。

彼もおかでんも酒飲みの宿命として、肝機能をなんとかもう少しイイカンジにしたいという願望がある。そのため、肝臓がらみでNAC(Nアセチルシステイン)やミルクシスル(西洋弟切草)などのサプリが必要なのだった。システインを日本製・ハイチオールCで摂取するとなると相当お高くつくが、アメリカから輸入すればアホみたいに安く手に入る。星条旗の国の人たちは、ジャンクフードをたくさん食べた分「サプリ飲んだから健康面ではプラマイゼロ」くらいに考えているのだろう。いや、もしかすると「プラマイゼロどころかプラス」くらいに考えているかもしれん。そんなわけで、あっちのサプリは日本よりもはるかに種類が多く、先進的だ。

彼が上海に戻った後も、メールで「サプリ購入相談と共同購入」はおかでん物産にて続行され、あれやこれやとアメリカに発注してきた。

※個人輸入は関税法との兼ね合いがあります。商売・転売目的でまとめ買いをしてはいけないとか、ある条件になると10%の関税がかかるとか、禁輸商品などもあるのでご注意ください。

その結果、一週間もしないうちに段ボール4箱にも及ぶ大量のサプリがアメリカから届いたのだが、なにしろ一人暮らしの6畳一間暮らし。邪魔ったらありゃしない。コダマ青年は「お盆には一時帰国するからその時にでも」と言っていたが、それまで待ってられん。まさかサプリをベランダに野ざらしにするわけにもいかないし、うっとうしいので「もういい、俺様自らが上海に送り届けてやる」と力強く宣言しちまった。

コダマ青年から、「上海にくるなら5月いっぱいまでがおすすめだよ。夏はもの凄く暑いから、止めた方がいい」と言われていたので、バタバタと日程を決めて6月上旬に行く事に決めた。

先方が「今週末は肝臓を労りたいので酒は控える。せっかくおかでんが来るなら酒が飲めるようにしたいので、もう少し待ってくれ」とか「端午節はドラゴンボートレースに出るからダメ」などという話があり、調整した結果だ。

こっちとしては「海外旅行」だけど気楽なモンだ。上海という大都会なので、コンビニもあるし生活用具が足りなくなっても困ることはない。往復はマイレージ使ってほぼ無料で移動。しかも羽田空港発だから楽ちん。現地の宿は、コダマ青年の家を使わせてくれることになっている。宿の手配、不要。宿代、不要。なんならリュックサック一つで行ってもいいくらいだ。

コダマ青年はサービスアパートメントに住んでいるという。なんのこっちゃわからん概念だったのだが、調べてみると「家具やら何やら全部備え付けになっている部屋」の事を意味しているっぽい。多分。しかも、余裕でおかでんが泊まる事ができる広さのようだし、何ならもう一人とか連れてくるならエクストラベッド入れるよ?なんて言ってる。しみったれた日本の一人暮らしとは訳が違う家に住んでいるらしい。さすが駐在員。麻布だとかああいう超一等地に住んでいる、欧米人の日本駐在員がリッチなのと一緒だな。

サプリ代については、銀行振り込みにしてもらうことにしてあった。他にもいろいろ日本で「救援物資」の買い出しをして上海に持ち込む事になるだろうから、その費用も含めての精算だ。最近はネット銀行なんて当たり前なので、世界どこにいても銀行振り込みは余裕だ。

・・・と思ったら、コダマ青年から「わりぃ、口座に日本円がほとんど無かった」との通知。

な、なんだってー。

彼の場合、日本企業に勤めているとはいえ、海外勤務なので米ドルで給与が支払われる。で、現地では当然人民元を使っているので、日本円が出てくる幕が無いのだった。つまり、われわれ日本人が海外渡航する際に現地通貨に両替するように、彼の場合日本に帰国する際、日本円に両替をしているのだった。なるほど、大いに納得だ。しかも、日本円で預金するよりも、中国で人民元を預金した方が利率が良いときたもんだ。日本円が日本の銀行にあるだけ、無駄なお金というわけだ。

とはいえ、月々の給料が「丸ごと外貨預金に投資されている」のと等しく、RMB高・USD基準安の局面が続けばじわじわとお給料が減っていく事になる。よかったねえ、会社の給与計算がUSD基準で。これがZWD(ジンバブエドル)だったりしたら、ほとんど給料がゼロになっているところだった。

結局、「おかでんが現地滞在中の諸経費は全部コダマ青年持ち」ということでこの件は解決した。つまり、おかでんは今回の上海行きについて、財布をすっからかんに近い状態で乗り込んでも良い、ということだ。食事代も、マッサージ代も、交通費も全ておまかせ。「おいチミ、ちょっとあの小吃を食べたいので買って来たまえ」と屋台の商品を指さし、使いっ走りさせてもいいくらいだ。

せいぜい必要なのは、初日にコダマ青年と合流するまでの公共交通機関(日本円にしてせいぜい数十円)を用意しておけばよろしい。なんだか自分が随分金持ちになった気がする。気のせいだけど。

日程が決まったところで、コダマ青年から「日本から持ち込んで欲しい救援物資」一覧が送られてきた。

・柿の種(亀田製菓のやつ)
・本(タイトルは別途指定)
・酢
・醤油

・・・おい、ちょっと待て。柿の種と本は理解できる。しかし、「酢と醤油」って何だ。そりゃ、中国の醤油も酢も日本のものとは異なるが、上海には日本食材を売っている店くらいあるだろ。

「いや、そこで買うと高いから」

そんな問題か。まあいいや。何か拘りがあるなら要望に応じるぞ。高級な醤油なんていくらでもあるからな。

「キッコーマンとかの濃口の普通ので良いです」

あ、そうですか。あんまりそこには拘りはないようだ。

しかし、酢と醤油か・・・。一体何をする気だ。スシパーティーでも自宅でやる気だろうか。酢って、一人暮らし・外食中心の人間が使う機会はあまりないと思うんだが。自宅でなますを作って食べるのが実は好きです、なんてカミングアウトされたら、完全に惚れる。ついでに、「酢で台所まわりを拭くと、奇麗になるし殺菌にもなるんです」なんて言われたら、結婚を申し入れるだろう。そんな発言は彼からは一切無かったが。

旅行まではしばらく時間の余裕があったのだが、ただでさえ気分的にバタバタする国外旅行に加え、いろいろなお使いを頼まれているので落ち着かない。サプリメントに次いでまた家に荷物が増えるが、とっととリクエストされた品物は調達しておくことにした。

指示通り酢と醤油を購入したのだが、さすが液体。重さとデカさに泣いた。よっぽど、いやがらせで「お弁当に入れる、魚の形をした醤油差し」とか「りんご酢」にしようかと思ったが、やめた。宿泊場所をお世話になる人にその仕打ちじゃ、冗談じゃなくてさすがに失礼だ。

あと、柿の種というのも悩ましいオーダーだ。これ、扱いがぞんざいだと粉々に割れる。運搬時には気をつけないと。割れ物注意、な荷物になりそうだ。

それに追い打ちをかけるように、コダマ青年から「もし可能ならば袋入りのラーメンも・・・」と追加オーダーが来て、コダマ青年がかぐや姫の生まれ変わりだと確信した。

求婚してきた男性に対して、無理難題の解決を結婚条件にしてことごとく退けたかぐや姫。袋入りラーメンを持参せよ、とは相当ハードル高いぞ。かさばるだけじゃなく、割れやすい。まだ「ヤマザキ春のパン祭りで白い皿をゲットして上海まで持ってこい」の方が気が楽だ。ラーメン、手荷物にするしかなさそうだ。手荷物でラーメンって。保安検査場で、手荷物検査されたらラーメンが出てきた、となると職員びっくりするだろうな。「これ、機内でお食べになる予定ですか?」って聞かれそうだ。

もちろんコダマ青年は「能不能(できますか?)」という聞き方をしており、無理してまで持ってこなくても良いというスタンスだ。しかし、リクエストされたら日本在住者としてガッツが湧いてくるのよね。なんとしてでも被災地にこれを送り届けないと、というい気持ちになる。被災してないけど。これが向こうに届けば、子供達の笑顔が戻るかもしれない、と考えると武者震いする。コダマ青年に子供はいないけど。

しかし、かぐや姫はさらにこちらの斜め上から空爆してきた。「買ってきて欲しい文庫本だけど、北方健三の三国志を何冊か」という。北方健三が三国志なんて執筆していたことすら知らなかったのだが、「三国志」と聞いて嫌な予感が。あれ、どうひっくり返っても長編になるストーリーだよな。何冊になるんだろう。amazonで調べてみたら、文庫本で全13巻セットだった。すげぇ。冊数だけでいったら、吉川英治の三国志を越えているではないか。今度は割れ物ではないけど、スゲー重くてかさばる気配。

これもコダマ青年は「荷物になるし重いし、持ってこられる冊数だけでいいから」と言う。待てお嬢さん、僕はだね、0%か100%かでしか気が済まない人間なんだ。無理してでも全巻買って持っていくぜ。

だめ押しで、「文藝春秋」というリクエストもあったのだが、これはまあ荷物の隅にでも、緩衝材代わりに突っ込んでおけば良かろう。分厚い雑誌だが、何とかなると思う。

しかし、早めに文藝春秋を買って荷造りしておいたのだが、上海行き数日前になって最新号を書店にて発見。頭を抱えてしまった。しまった、月刊誌は早く買ったらいけなかったか。しかも、最新号では「中国を信じられない100の理由」という特集が組まれている。これはぜひ彼の元に届けなければ。

結局、文藝春秋は二冊になった。地味にこういうところでますます荷物が増える。

彼とのやりとりは、大ざっぱなところはメールでやりとりし、後は電話で行った。

時差1時間なので、電話はかけやすい。海外旅行で、現地の間と直接電話で事前協議するのは初めての体験だ。駐在員の友達がいると何かと便利だ。

もうあんまり外国といっても「はるか彼方の地」というイメージはなくなったな。

3カ月ちょっと前に台湾に行き、無計画+周囲の皆様のご厚意に翻弄されっぱなしでヘロヘロになったおかでん。しかし今回は、コダマ青年がコーディネーターとなってあれこれこちらのリクエストを聞き、それに沿って事前にプランを組んでくれるのでありがたい。この辺りは日本人の几帳面さ、なんだろう。おかげで、ある程度のところまでは出国前に意識のすりあわせができた。

こちらは、これまでにコダマ青年から聞かされていた「上海生活のお奨めポイント」と、購入した「地球の歩き方」を参照にあれこれ提示する。それにコダマ青年が肉付けをしたり、日程調整したり、時には却下もした。

ある程度の段階で、彼から食事に関する素案が送られてきた。

今思ってる食事プランはこんな感じ。

◆朝食
・マンションで軽食は提供しているのでそれにするか朝マックとか。
さすがにローカル屋台はこの季節あぶないのでやめたほうが吉。

◆昼食
・ローカル中華
・南京西路付近の屋台街(B級グルメだけど美味)

◆夕食
・ザリガニ
・四川料理
・湖南料理
・火鍋
・焼肉
・和食

まず、「マンションで朝食を提供している」って何だそれ。賄い付きなのか。ホテル住まいか、社員寮みたいなものなのか。想像もつかん。そういえば、数日前のメールには

こちら、すでに夏です。アパートのプールもオープンして久しいし。

という記述もあった。「アパート」という言葉の横に、「プール」というブルジョアジー溢れる言葉があるこのアンバランスさよ。彼が住む「アパート」ってすごいぞ。日本におけるアパートの定義って、「木造の集合住宅」を指すが、それとは大違いであることは間違いない。メイドや執事くらいはいてもおかしくない。やあ、すごい世界だな。

とはいえ、そんな「朝起きたらご飯はある」状態にも関わらず、「朝マック」という何とも冴えない提案が後に続くのが謎。マック以下の食事しか出ない、ということなのか。うーむ、怪しい。現地で確認しないと。とはいえ、マンション住人のための朝飯だろうに、友人なる人物が勝手に食べちゃって良いのだろうか。

屋台、というのはおかでんからのリクエストだった。台湾のイメージが強かったのと、中国の人って仕事に行く途中で粥とか食べてるんでしょ?揚げパンみたいな奴のっけて・・・という印象があったので、「朝は屋台もいいねえ」という発想。

しかし、彼が反対したとおり、結局上海滞在中に屋台で食事をする機会はなかった。理由などについては後ほど。

夕食に関しての提案だが、実は上海ではザリガニをよく食べるのだと聞いた。山盛りのザリガニをバリバリと食べて酒を飲むと良い塩梅なのだそうで。それは日本ではなかなか体験できないので魅力。

あと、彼は「案外韓国風の焼肉が美味い」とも言っていた。ホルモンをばしばし焼いて、焼酎飲むと最高だと。で、帰りがけにマッサージ受けてタクシーで帰っても3,000円いかないから安いもんよ、と。いいなあ。極楽浄土じゃないか。クモの糸を辿ってでもそんな世界に行ってみたいものだ。ところで、内臓肉って部位名がややこしいわけで、日本人でも日本語になっている部位名を覚え切れていない。現地で苦労するんじゃないか?と聞いたら、「いや全然。専らシマチョウばっかり食べてるから」だそうで。

その他、最近上海では急速に辛い料理が普及しており、四川料理、火鍋、そして湖南料理の人気が高いという。湖南料理?

湖南料理というのは、コダマ青年にその名前を聞くまでは知らなかった。もちろん、湖南地方の料理という意味なのだが、これがまた相当に辛いらしい。毛沢東の出身地でもあり、毛沢東が愛した料理というのは聞こえがいいが、「湖南人とケンカをしない方がいい。彼らは怒りっぽい」というのが中国ではよく言われるらしい。四川が「麻辣(しびれ、と辛さ)」とすれば、湖南は「酸辣(酸味と、辛み)」という事になるそうだ。サンラータンみたいなものを想像すればよいのだろうか。これまた興味深い。日本で湖南料理を出す店は非常に限られているので、ぜひ上海で食したいところだ。

あと、気になる食事のキーワードとして「蘇州麺」とか「生小煎」などをコダマ青年側に伝えておいた。

上海へは金曜日に入り、月曜日に出国する予定となっている。

金曜日はコダマ青年が休みをとれなかったため、夕刻に正式に合流することにした。コダマ青年が「オフィスビルの一階まで来てくれれば、荷物は預かっておくよ」というので、いったん昼過ぎに荷物を彼に預け、夕方あらためて「やあどうもどうも」とごあいさつという段取りにした。

仕事中の彼に迷惑をかけたくなかったので、荷物については自己解決するつもりだった。しかし、上海ってどこにもコインロッカーが存在しないのだった。ネットで調べてみたが、現地の方のレポートで「地下鉄駅などにそのようなものはない」というのが回答だった。荷物、どうするんだろ。ロッカーだとバールか何かで壊されるかもしれんやんけ、という事で信用していないのだろうか。

ただ、デパートやスーパーにはロッカーがあるという情報も掴んだ。窃盗(万引き)防止のために、手荷物は全て入口にある暗証番号付きロッカーに預けた上で入場する決まりだそうだ。しかし、どこのお店にそのロッカーが確実にあるのかは不明だったし、スーツケースが入るほどのサイズがあるのかさえも情報が無かった。結局荷物についてはコダマ青年のオフィスで一時預かってもらうことにした。

現地での連絡だが、携帯電話での通話だと今や国境はない。意識せずに通話できるわけだが、「SMSでも大丈夫だから、そちらでもどうぞ。日本語OK」と言われて驚いた。中国も「全角文字」という概念がある国なのだが、ひらがなも送信できるのか。しかも、彼が持っているのは中国の電話会社のもの。普通、SMSってキャリア間またぎはできないと思っていたのだが、可能なのか?

疑心暗鬼になって、実際に送信してみた。すると本当に送受信ができる。すごいや。しかし、後でdocomoからの請求明細を見たら、SMS一通送るのに50円かかっていた。アイタタタ。利用に関しては国境を意識しなくても良くなったが、料金は相変わらずだ。数文字のテスト送信SMSで50円に祖先の霊もが草葉の陰で泣いた。

「地球の歩き方」で、行きたいところを予習しておく。

といっても、上海というのは単なる町だ。日本で「東京に行きます」というのと一緒で、滝がありますとか温泉がありますとか、自然がありますといった事はなにもない。ひたすら、ビルだらけ。しかも、アヘン戦争以降に発展した町なので、歴史も浅い。東京で言う「浅草」のような歴史・文化的建造物が乏しいので、旅行としてのメリハリが全然ない。

分厚い「地球の歩き方」ではあったが、読んでいても全然ピンとこなくて参った。デパートやブランドショップがひしめいているので、ショッピング好きの女子にはたまらんのだろうが、買物に興味が全くないおかでんにとっては豚に真珠だ。こりゃー、観光は適当にして、食事とマッサージ主体かなあ、という予感がする。上海はマッサージの本場でもなんでもないが、人件費が安い中国において、マッサージもまた格安だ。そういえば、以前上海に行ったことがある奴(アワレみ隊のジーニアス)が、「上海は何もないぞ。一度いったらもう十分、ってところだぞ」と言っていたっけ。

ただ、ビルだらけといってもそのビルがアホみたいに林立している。何しろ上海市の人口は1,300万人を超えており、これは東京都の人口よりも多い。「23区」じゃないですぜ、「都」よりも多いんだからすごい。しかも、これは戸籍を持っている人の数で、農村部などから流入してきた戸籍無しな人まであわせると、一説によると2,000万人を超えてるんじゃないかという話がある。さすが中国、13億人国家だけあって規模が違いすぎるぜ。三国志で、「100万人の軍勢が・・・」などという表現があって大げさな、と思ったものだが、あながちうそじゃないかもしれん。この国ならそれくらいやりかねん。

渡航直前、コダマ青年と電話にて滞在中の予定について打ち合わせをしていたのだが、コダマ青年から「よく調べてるなあ」と苦笑いされた。いや、よく調べるもなにも、地球の歩き方をぺらぺらめくっているだけで大体行く場所って絞られてしまうから話が早いのだった。

歴史好きの人なら、孫文や蒋介石ゆかりの史跡とか、寺院なんぞを見ればよいのだろうが、いやー、孫文ってほとんど知らないし。辛亥革命を起こしました、中華民国作りました、という人くらいしか知らぬ。そんな思い入れのない人のゆかりの地に行ってもつまらん。

コダマ青年と話していて、地名について時々「ん?それは何?」と話が合わない事があった。例えば、「静安寺」をおかでんは「せいあんじ」とよみ、コダマ青年は中国語読みで「ジンアンスー(jing an si)」と読むので、お互いが「え?」となる。既にコダマ青年は「静安寺」を「せいあんじ」と日本語読みすること自体忘れかかっているくらい、中国に馴染んでしまっていたのだった。

他にも、「南京東路」の事を彼は「ナンジンドンルー(nan jing dong lu)」と呼んだりして、しばらくは混乱した。そのくせ、「人民広場」は「じんみんひろば」だったり、「中山公園」は「なかやまこうえん」だったり、彼の地名読みは日本語と中国語のチャンポンだった。漢字の異国に住んでいると、こうなるのか。

荷造り

出国日前日、荷物の最終パッキングに取りかかる。

いつも海外旅行に使っているキャリーバッグにまずは虎の子の救援物資一式を詰めてみる・・・と、それだけで鞄がいっぱいになってしまって呆れた。もともと小さめのバッグだとはいえ、これはひどい。コダマ青年専用荷物入れ、じゃないか。

酢と醤油、三国志全集、サプリのボトル類。見直してみればかさばるものばかりだ。おい、僕の荷物はどうすれば良いの。

しょうがないので、リュックサックを用意し、そこに身の回りの品を入れることにした。ただし、こちらには割れ物注意の袋ラーメンが入るので、あまり詰め込むわけにはいかない。コダマ青年のところには洗濯機があるし、なんならランドリーサービスもサービスアパートメントで承っているということなので、衣類はほとんど持っていかないことにした。こりゃ、毎日洗濯しないと着る服が無いぞ。こんな海外旅行は初めてだ。

他にも、コダマ青年へのお土産も兼ねて、こちらから「ジャパニーズフード」をあれこれ買い込んであったのだが、あまりに収納スペースがないので諦めた。味つけ海苔、ごはんですよ、お茶漬けの素、炊き込みご飯の素などいろいろ買ってあったのだが。これは自家消費用に回そう。一応、バッグの隙間に、緩衝材代わりとしてインスタントみそ汁の素は突っ込んでおいた。

あと、コダマ青年が「上海はビルばっかりで、山なんて全然ないんだわ。しかも暑いし。北アルプスなんか行きてぇなあ」とぼやいていたので、北アルプスの映像が存分に入ったDVDを贈呈することにした。DVDだったら薄くて持って行きやすい。

それにしても密輸商人だよなあ、これ。

いろいろなモノを詰め込んでいるが、海外旅行ですー、というにしてはなにやら怪しい内容だ。上海で入国時に捕まったらどうしよう。ちょっと心配だ。

コダマ青年には事前に念押しをしてあった。「サプリを中国国内に持ち込むのはいいけど、ちゃんとそっちの国の関税法を調べておいてくれよ。違法なものを持ち込んだ、とか関税がかかる、とかややこしくなったら困るぞ。中国語であれこれ言われても僕、対応できんからな」と。

しかしコダマ青年は平然と、「大丈夫、俺いつも空港利用しているけど、鞄の中身を開けられたことないから」という。ホントかよ。

酢と醤油は何とかあちらさんにも理解して貰えると思うんだが、サプリは大丈夫かなあ。量は結構あるし、ラベルは英語なので麻薬と勘違いされたら非常に困る。システインとかシルマリンとかタウリンと書かれたボトルを中国の人が理解できるとは思えない。「お前ちょっとこっちこい」と言われたらややこしい事になりそうだ。なにせ相手は中国さんだ。超大国になったとはいえ、まだまだ「?」な部分がある国。警察(=国家権力)にたてつくと偉い目にあう。しかも、麻薬持ち込みと認定されたら、死刑もある国だからな。触らぬ神に祟りなし、なんだが・・・。何で僕、こんな高リスクな事やってるの?

2009年06月12日(金) 1日目

羽田空港エスカレーター

出発当日、羽田空港を目指す。

前日夜は、蒲田に住む友達の家に前泊した。朝9時40分発の便なので、前泊する必要は無かったのだが、せっかく蒲田に住んでいるなら泊まってみようと急に思い立った。海外旅行、ということでテンションが高かったのかもしれん。

しかし慣れない他人の家の床で寝たため、一睡もできなかった。よく、「昨晩は全然眠れなかったよ」と人は言うが、実際はうつらうつらを含めて案外寝ているものだ。しかし、この日に関して言うと本当に一睡もできなかったからたまらん。興奮して眠れなかった、遠足前の小学生の心境ならまだ無邪気だが、そんな事は毛頭無いのに眠れないというのはなんとも理不尽だ。睡眠不足でフラフラになりながら、羽田空港を目指す。8時過ぎということもあって、駅は通勤ラッシュ。そうか、今日は平日だったっけ。サラリーマンの皆様に踏みつぶされそうになりながら、なんとか電車に乗り込む。

羽田空港国際線ターミナルを利用するのはおかでんにとっては初めてだ。2009年6月時点では、韓国・金浦空港便と上海・虹橋空港便しか運行していない、地味なターミナル。上海虹橋便ができたのも最近なので、それまでは「韓流ブームな人たちが韓国に行くのに御用達」な場所、という印象があった。

日本が国際線専用の成田、国内線専用の羽田と別れているように、上海にも国際線専用の浦東(pu dong)空港と、国内線専用の虹橋(hong qiao)空港がある。一地方都市の癖に二つも空港を持つとは生意気な。あ、いや、別に生意気ではないが、すげぇな。

で、羽田から出るのは、上海の国内線空港である虹橋行きとなる。羽田が都心から近く、成田が都心から遠いのと同じで、上海では虹橋が中心地に近く、浦東は遠い。ただし、浦東空港からはマグレブ(要するにリニアモーターカーの事)に乗れるので、鉄道好きならぜひそちらをどうぞ。時速435kmがアナタを待っている。速すぎるが故に、ほんの一瞬で終点に着いてしまうけど。

国際線ターミナルへは、羽田空港のターミナル間をぐるぐる巡回している無料連絡バスに乗って移動することになる。第一ターミナル→第二ターミナル→国際線ターミナル→第一・・・と回っていくので、第二ターミナルから乗った方が早い。

京急の改札を出ると、同じ電車に乗っていた人たちのほとんどが「↑出発ロビー」と書かれたエスカレーターへと向かっていく。しかし、おかでんは「↑到着ロビー」のエスカレーターだ。なんだかもの凄く違和感を感じる。ただ、確かに「ターミナル間連絡バス」の表記があるので、こちらで間違ってはいない。

バス乗り場案内
バス時刻表

普段、京急とモノレールで空港にアクセスしている身としては、空港のバス乗り場を利用したことがない。だから、どこにターミナル連絡バスが停まるのか、さっぱりわからない。

しかし心配無用、エスカレーターを上り目の前の扉から外に出たら、すぐそこが連絡バス乗り場になっていた。利便性を考慮してくれているのがうれしい。

時刻表を見ると、日中は3分~5分間隔で運行されているとのこと。結構な高頻度だ。国際線ターミナルへは歩いてでも行ける距離だと聞いているが、これだけ高頻度だと、歩いている横を何台もバスが追い越していくことになりそうだ。大人しくバスに乗るのが賢明。

巡回バスがやってきた

しばらく待っていると、前方から白いバスがやってきた。

オレンジ色のエアポートリムジンとは違うので、目立つ。あれが連絡バス。ちゃんと車いす対応になっている。そりゃそうだ、車いすの人はバスに乗れません、じゃあ国際線ターミナルに行くのが大変すぎる。代替公共交通機関は、他にはタクシーしかないのだから。

羽田空港国際線ターミナル

バスは急ぐでもなく、のんびりと進む。あんまり急加速急減速をすると、スーツケースが倒れたりするんじゃないかという配慮かもしれん。

ものの数分で、正面に驚愕の光景が見えてきた。

「International 国際線ターミナル」と書かれた建物。

・・・あれが?

大規模土木工事の現場事務所じゃないか、という感じさえ受けてしまう、地味な建物。壁が波打っているが、まさかトタン製じゃないだろうな?トタンは冗談としても、プレハブがもうちょいましになったような、シンプルすぎる建物だ。先ほどまで、巨大な第二ターミナルに居たので、このギャップにシビレた。

普通、空港ターミナルというのはメンツと意地と見栄のためにこれでもか、というくらい巨費を投じて作られる。絶対赤字だぞ、やめとけ、とシロウト目で見ても分かるのに、なぜか暴走する習性がある。

にもかかわらず、この国際線ターミナルの潔いまでのカネのかけてなさっぷり。ある意味凄い。現在新しい国際線ターミナルを建造中だとはいえ、まさか今使っているやつがこんなに地味とは思わなかった。正しいカネの使い方だと思う。見栄を張っても利用者にメリットなどないもんな。

それにしても・・・マニア心をくすぐる小ささだ。これが、羽田空港の正式名称「東京『国際』空港」の「国際」たるゆえんの場所とは。そもそも、おかでんでさえ国際線ターミナルがどこにあるか知らなかったくらいだ、地方在住の人は羽田空港から国際線が飛んでいることすら知らないかもしれない。

ターミナルの場所は、第二ターミナルの南ピアをさらに南に進んだところ。多摩川方面、といえばわかりやすいか。国際線ターミナルの必要性から、空港の隅っこの空き地に作ったんだな。さすがにパンク寸前状態の第一・第二ターミナルに国際線用の施設を作るのは無理だ。「搭乗はボーディングブリッジからではなく、バスで駐機場まで移動します」なんていうのは国際線として相当がっかりだ。それ以前に、あの建物の中のどこに税関や出入国審査場を作る場所がある?

海外に到着した時並のワクワク感でバスを降りる。廃墟マニアがそうであるように、おかでんはこういう怪しい建物を愛す。

羽田空港国際線ターミナル車寄せ

バスを降りたところは、タクシーの車寄せ。以上おしまい。うお、イカす。どんな地方空港でも(離島除く)、ターミナル前には各方面へ出るバスのバス停があり、眼前には広い駐車場が広がっているものだ。しかしここはそんなものはない。巡回バスが一時的に停まる場所と、タクシー。以上。自家用車での送迎をすることも可能だろうが、車を一時待機させるような場所はない。大人しく、国内線ターミナル近くにあるパーキングに停めて待ってろ、という事なんだろう。

こんな空港がメガロポリス東京にある、というのに驚きと興奮を隠せない。調布飛行場のターミナルとどっちが大きいかな。さすがにこっちの方が大きいか。

羽田空港国際線ターミナル地図

建物入り口に、国際線旅客ターミナルの地図がある。

これを見ておかないと、方向音痴の人は道に迷うかも知れない。狭い建物なのになぜ?というと、狭いが故にキュウキュウにいろんな施設を押し込んでいるからだ。しかも、複雑に。

1Fの地図の下にこの建物の入口が表示されており、おかでんは現在ここにいると思って欲しい。さて、中に入るとチェックインカウンターがあるわけだが、その小ささは素晴らしい。1F地図右上に到着客用のターンテーブルが描かれているが、そのサイズと見比べればいかに小さいか分かる(写真緑部分)。なお、この緑部分は到着ロビーも兼ねており、狭さに拍車がかかっている。

「地方空港の国際線ロビーなんてこんなものだ」と言われるかもしれないが、でも普通は国内線の建物の一部を国際線として使っており、「出発ロビーと到着ロビーが同居」なんていうのはあまり例が無いのではないか。

羽田空港国際線ターミナル地図その2

2Fに目を移すと、その変な形が目を引く。なんだ、これ。何だか細い通路があって、真ん中に中庭みたいな空間があるんですが。この通路、何?

これ、実物を見て納得したのだが、ボーディングブリッジのようなものだった。普通、空港ターミナルを作る時って、横長の巨大な建物を造り、そこから直角に近い角度でボーディングブリッジが延びるのが定番だ。しかし、それだと建物がデカくなるやんけ、カネかかるやんけ、と思ったのだろう。ターミナルは小さいけど、その分ボーディングブリッジはうんと延ばしてやればよかろう、という、なんともトンチの効いたことをやっていたのだった。

もうこうなると、「ボーディングブリッジ」というよりもむしろ「渡り廊下」だ。その証拠に、この「渡り廊下」は可動しない。搭乗口から飛行機までこれほどまで延々と歩かせる空港は、これまで見たことがない。

そのおかげで、B-747クラスでもちゃんと並んで駐機できるスペースを確保していた。頭は使いようようだな。

このターミナルの搭乗口は3つあるのだが、そのうち一つは渡り廊下を持っていないようなので、バスで駐機場に移動する便が使うのだろう。

そんなわけで、大層ややこしい建物の造りになっているのだった。免税品売店が散らばっているし、待合室も微妙に散らばっていて何だか変。でも、搭乗開始までの暇な時間、ターミナル内を探検するにはちょうど良いトリッキーさだ。

謎の空間
チェックインの仕方がわからない

建物の中に入る。

入って、思わず「うっ」と立ち止まってしまった。なんだこれ。訳がわからん。

今までおかでんが認識している「国際空港の出発ロビー」と全然違うからだ。

正面右にJALのカウンター、左にANAのカウンターがある。それは理解できるのだが、どういう導線を辿ればよいのかがよくわからない。

今まで使ってきた国内の国際線空港は成田、関空、福岡だが、そのいずれにおいても島形のカウンターになっていたのだが、ここは正面の壁にカウンターが張り付いている。国内線カウンターのようだ。

狭いロビーに人だかりができては困るために、仕切りをウネウネと作って行列を作らせるようにしてある。それがますます、何が何だか分かりにくくなっている。自動チェックイン機の位置や、荷物のX線検査機の位置などもこれまでの常識とは違うので、完全に戸惑ってしまった。ええと、どこから入ればいいんだ。

ひっひっふー。

ラマーズ法で一応事の収拾を図る。

4カ月前に海外に行ったばかりなのに、ここで動揺してどうする。落ち着け。

カウンター

あーここが国際線ターミナルだなあ、と思ったのは、両替所があったこと。これを見てようやく、「やっぱりここで場所は間違っていない」と確信したくらいだ。

でも、二箇所ある両替所の間に
挟まる形で、セブン銀行のATMがあるというのも何ともカオスな光景だった。

行ける国が限定

YOKOSO!JAPANの看板。「日・中・韓-交流への新時代」と書かれている。そうか、この空港はチャーター便を除けば、ソウル金浦空港と上海虹橋空港しか便がないんだったな。だから、こんな限定的な書き方をしても問題ないのだった。

でも、「交流への新時代」よりも「交流の新時代」の方が良くないか?まだ交流していないみたいに読めるぞ。

なおこの羽田空港だが、2009年10月からは北京首都空港、2010年からは台北松山空港便が就航するらしい。出発ロビー、パンクしないか心配。

保安検査場へ

チェックインカウンター前で途方に暮れていたおかでんだったが、しばらく様子を観察していてようやく状況を把握した。

行列用の仕切り入口のところに「CLUB ANA」「Economy」という衝立があって行く手を塞いでいたので、これは入ってはいかんのだと思いこんだのが困惑した原因。おい、だとしたら入口が無いじゃないか、と。この行列用通路の脇からそのままX線検査をスルーしてカウンター強行突撃でもよいのかどうか、思案してしまった。結果としては、その「衝立」は可動式の扉で、西部劇のバーの入口よろしく押せば開いた。こんな事せんでいいから、「エコノミークラスの方はこちらからお入りください」という看板でも出してくれりゃ、話は早いのに。

からくりが分かれば後は話が早い。e-チェックインを既に前日のうちに済ませておいたので、てきぱきと手続き完了。

そのまま手荷物検査と出国手続きとなるわけだが、これまた仕切りに従って歩いていく。自由を与えると、この狭いロビーがすぐにいっぱいになって大混乱になるので、自由は極力排除したユーザーフレンドリーな作り。

導線に従って進んでいくと、建物の隅の扉から奥へと向かっていくようになっていた。「お前ちょっとこっち来い」と万引き犯が店員さんに連行されるような場所だ。まあ、いたるところで国際線ターミナルらしくない事よ。

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