検疫で少々手間取ったあと、預けておいた荷物を受け取る。そうか、上海虹橋空港の場合、空港コードは「SHA」なんだな。それにしても、このバッグ一つまるごと、コダマ青年向けの荷物ぎっしりというのは何とも壮絶だ。あらためて呆れる。
ターンテーブルから荷物を受け取ったらそのまま到着ロビーに出られると思ったのだが、出口のところになんとX線検査機が据え付けてあった。ここでもう一度荷物を通せ、というのだった。おい、日本の空港より厳重ではないか。誰だ、「空港では荷物チェックなんてないから大丈夫大丈夫」と言ってた奴は。誰だ、といってもコダマ青年しかいないのだが。さすがにこれには冷や汗が出た。
日本出国時にX線検査は一回受けているので、特に問題は無いはずだ。しかし、ここは中国。外国人を国内に入れる立場としては、水際作戦で怪しいものを食い止めようと必死なはずだ。「行ってらっしゃいませー」という立場の日本とは違う。は虫類のような目で鞄の中を凝視されそうで怖い。
中国は大国になったとはいえ、まだ言論統制や武力鎮圧が当たり前のようにある国だ。天安門事件がそうであったように、権力者からすりゃ「ヤル時はヤル」で、戦車でもなんでも使って人をひき殺すくらいは余裕だ。そういう国なので、観光客としては「なんとか穏便に」当たり障りのない行動が求められる。・・・いや、考えすぎなんだけどね。でも言葉が通じない国だし、万が一があったらややこしくなる。
しかも嫌なことに、ここに到着するまでの間に中国国内への持ち込み制限品についての追加情報を得たのだった。書籍やDVDなどで、国家にたてつく内容のものは没収するんだそうで。出たな、ここでも言論統制か。やばいな、この鞄の中にはDVDも書籍も入っているんですが。
もちろん、本は「三国志」だし、DVDは北アルプスの自然だし、何らやましいことはない。しかし、「ちょっと中身を確認するから別室に来い」なんてなると面倒すぎる。お願いだから見つかって欲しくない。「三国志」くらいなら相手も理解してくれるだろうが、「実際の史実と異なる、歴史歪曲された三国志ではないか?」とか、「このDVDは巧妙にパッケージを偽装したポルノ映像ではないのか?」とか疑われだしたらきりがない。勘弁してくれ。
さんざんドキドキしたが、結局X線検査で引っかかることなく、通過することができた。一体検査官は何をチェックしていたのだろう?謎だ。
到着ロビーに出て、まず左右をきょろきょろする。お手洗いに行って、その後両替しないと。
その際、真っ先に目に入ったのが食品サンプルがずらりと並ぶレストラン。そこには「レストラン シャロン」と日本語で書いてあった。ありゃ。上海にやってきて真っ先に見たのが日本語か。しかもシャロンとは。これ、岡山空港にもある洋食レストランだよな。こんなところに出張っているとは。
羽田便が就航してからできたのだろうか?でも、「上海で中華料理は飽きた。日本食が恋しい」という人向けに出発ロビーにあるなら兎も角、「さあこれから中華を食べるぜ」と意気込んでいる人だらけの到着ロビーに日本のレストランってどういうことだ。
結構お客さんは入っているので繁盛しているようだが、そのお客さんのほとんどは中国人のようだった。どうですか、好吃(ハオチー)ですか?・・・といっても、ステーキとかスパゲティを出す店なので、和食レストランではないんだけど。
食品サンプルを見ると、ステーキやハンバーグといった鉄板料理の他にも、カレーチャーハンがあったりうな重があったり石焼きビビンバがあったり天ぷらうどんがあったり、まあ色とりどりですわ。石焼きビビンバが紛れ込んでしまっているのは、多分この当たりの人にとっては朝鮮料理と日本料理の区別があまりついていないのだろう。いやまあ、それを言ったらミックスグリル定食なんてそもそも日本料理ではないんだけど。
スパゲティのサンプルの脇にはタバスコの瓶と粉チーズを置いているあたり芸が細かい。ついでに天ぷらうどんの脇にはS&Bの七味唐辛子が。食品サンプルで調味料まで展示しているのは初めて見た。
なお、ステーキの横にはなぜか日本酒の徳利とお猪口が。変な組合せだ。このステーキのお値段、110元ということだから、1元14.5円とすると(以降、このレートで計算します)なんと1,595円。高ぇ!日本で食べても結構高いが、中国物価で考えると目の玉飛び出る金額だ。誰が食べるんだ、これ。日本人の金銭感覚からいったら、1万円は優に超える価格だろう。上海は中国国内でも裕福な土地で、給与も物価も高いとは聞くが、それでもこれは凄すぎる。
また、ちょっとしたショックだったのが、漢字のお品書きが全然読めない事だった。繁体字の国・台灣だったらまだ何とか雰囲気が分かるのだが、簡体字の国・中国では全然訳がわからない。例えば「天ぷらうどん」は「天麸罗切面」だって。理解できないので、英語訳と実物を見比べてようやく納得するありさま。「中国だったら筆談で何とかなる」という話をよく聞くが、程度問題だな。日本人が思っている以上に中国語、漢字を省略しすぎだ。まるで記号のようになってしまっている。
さあそんなあなたにプラクティス・ワン。ATMでお金をおろしましょう。
毎度の事だが、おかでんは空港の銀行で現金の両替をしない。必ずクレジットカードで海外キャッシングだ。借金して利子つけられた方が、両替手数料よりもはるかに安いからだ。あと、現地のATMを触るのが楽しい、というのもある。日本とはちょっと違った手順だったりして、お国柄を知ることができる。
出国ロビーにちょうど1台ATMがあったので、そこでお金をおろすことにする。ええと、中国・・・・中国・・・ナントカ銀行。漢字が読めない。
カードを挿入すると、なにやらこちらを挑発するような漢字だらけのメッセージが出てきた。ええと・・・さっぱり理解できん。パスワードを他人に教えるな、とかカードの取り忘れに注意、なんて書いてあるようだ。まあいいや、ここで「Exit」を選ぶわけにもいかんので、Continueを選択。
すると、パスワードを入れろ、という画面が出てきた。何をしたいのか聞く前に、真っ先にパスワードを聞くのだな。ちょっと変わっている。
「手助けが必要なら、xxxx番まで電話してくれ」と文末に書いてあるが、電話すると中国語(しかも、上海語で言われそうな予感)でいろいろ言われてますます混乱するのでそれはぜひご勘弁願いたい。
次の画面は謎。「査询」というボタンと「取款」というボタンが出てきた。それぞれ英語訳はついているのだが、残念すぎる偏差値しかないおかでんにとっては英語も理解できなかった。まあ、どっちか間違えた方を選んだら爆発するというびっくりどっきりメカではないとおもうので、「査询」を選んでみる。
なにやら通信中らしい。「操作在進行中」という文字とともにしばし待っていると・・・
ありゃ。「可用余額」が出てきたぞ。CNY-3466,49って出ている。何だこれ。ええと、恐らくこのクレジットカードの海外キャッシング限度額が表示されたっぽい。違う違う、残高照会をしたいのではない。帰れ帰れ。
日本円が「JPY」なのに対して、中国元って「CNY」なんだな。中国滞在中、コンビニやスーパーに行くたびに、値札のところに「¥」マークがつけられていて非常に頭がこんがらがった。
再度仕切り直し。先ほどの「査询」がいかんかったらしい。「取款」を選択し、やり直す。その後、「お前のアカウントタイプは何だ?」と聞いてきたので、「クレジットアカウントだ」ボタンを押す。もう、漢字から読み解くのは諦めた。ダメだこりゃあ。英語頼み。
ようやく金額入力画面がでてきた。正解だったらしい。100元と入力する。「100元以下のお札にも対応してるよ!」と言っているようだが、よくわからんのでとりあえず100元。日本円にして1,450円。今晩コダマ青年と合流したら結構な金額が懐に転がり込んでくるが、まあ念のため100元程度はお守り代わりに持っておくとよかろう。
若干苦労しながらも、出てきました100元紙幣。ピン札で清々しい。異国の地で現地通貨を手にした際、ボロボロだったら相当ガッカリして損した気分になるが、ピン札だととても好印象だ。ぜひ嫁入り修行のお月謝にでも使いたいが、ここは中国、外国通貨だ。使い切ってナンボだ。
現金を手にしてほっとしていたのだが、画面で何かまだ聞いているので「イエース」と適当に答えたら、レシートが出てきた。あ、こりゃどうも。
そしてその後、ただいまの交易結果発表~、といった感じで100元交易しましたぜ、という表示が出てきた。なんだか微妙に日本と表示順が違うのが面白い。
ATMから振り返ると、そこは「工作人员通道」という入口があった。CAの人など、空港関係者が入っていく。工作員がいっぱいいる!凄い、さすが中国、と思ったが、中国語で「工作」というのは「働く」という意味なので、「職員通用口」程度の意味しかないようだ。ちぇっ、残念。
ここでも入念に荷物のX線検査をしていたので、ちょっとした行列ができていた。そうか、そりゃっそうだよな、空港関係者とはいえ、全員が検査対象だよな。
100元札をゲットしたが、このまま公共交通機関に乗るわけにはいかない。日本で一万円札を握りしめてバスに乗るのと一緒だ。お釣りが出ない。そもそも、中国のバスではお釣りが出るという概念がないので(これは多くの国がそうであり、お釣りが出る日本のバスはスゲーらしい)、運賃ジャストを手にしていないと相当悔しい思いをすることになる。一体、バス会社はどうやって乗客数の管理なんぞをやってるんだ。運賃箱に入るお金がいい加減(上にぶれる)なので、正確な乗客数なんてつかめないだろうに。ザルだな。
そんなわけで、売店でお茶でも買っておくことにした。上海では当然水道水は飲めない。飲み物は購入するのが原則だ。今すぐ飲みたいとは思わないが、買っておいて損はあるまい。
売店に言ってみると、本が平積みになって売られていた。何の気無しに見てみると、結構目立つところに「渡边淳一最新力作」という帯がついた単行本が。日本人ぽい名前だな、と思ったらタイトルが「愛的流放地」だって。おい、これ、渡辺淳一の「愛の流刑地」じゃないか。
この小説は、日本経済新聞朝刊に2006年まで毎日連載されていたもので、内容はとにかくエロい。というか、渡辺淳一御大お得意の不倫もので、しまいには不倫相手の女性を愛するが故に首絞めて殺しちゃう、みたいな話。朝刊、しかも日本を代表する経済誌で連載するにはあんまりな内容のものだった。私ですか?「怪しからん」といいつつも、毎日愛読してました。
渡辺センセイを否定する気はないし、立派な小説家だとは思うが、こういうドギツい小説が海を渡って上海で売られているというのは一体中国人はどうなっとるんだ。ポルノ規制は相当厳しい国だろうから、この小説で劣情を催しているのだろうか。
書籍コーナーで動揺しつつも、ドリンクコーナーにたどり着く。
ざっと棚を眺めると、おや、キリンビバレッジが相当頑張っているぞ。午後の紅茶(現地名:午后红茶)が結構売れ筋のようで、いろいろ取りそろえていた。その他にも、お茶やボトルドウォーターなど各種。意外だった。近くの杭州にはワハハという巨大な地元飲料メーカーがあるのに、キリン大健闘。
あと、なにげにカゴメの野菜ジュース類も何種類かうられていた。
ちなみに、キリンのボトルドウォーターの500mlペットボトルが4元(58円)だったが、同容量のエビアンは15元(217.5円)だった。なんじゃこの値段は。超高級飲料になっとる。恐らく、フランスから輸入する際に結構な関税がかけられていると思われる。こればっかりはどうしようもない。
その他ドリンクは大体4元から5元の間くらいに収まっていた。まだ「上海物価」というのをよくわかっていないので、これが高いのか安いのかは不明。
良く見ると、下段の方はずらっと同一メーカーのものが並んでいる事に気がついた。「康师傅」というロゴがある。何それ?知らない。気になったので帰国後調べてみたら、なんとこれ、台灣メーカー。恐るべし台灣。道理で、商品名に「鮮の毎日」みたいな、台湾人が好きそうな「一部日本語を取り入れました」というのがあると思った。
この飲料コーナーをざっと見て感心したのが、炭酸飲料や甘いジュース類がほとんど置いていなかった、ということだ。何処の国もそうだが、発展途上においては「甘い=美味い」という嗜好になる。甘さ控えめになるのは、その国が成熟してきた証拠とも言えるのだが、この売店を見る限り見事にそういう感じだった。空港売店だからだろうか。空港を利用する人=中国ではそれなりにハイソ=健康に気をつけてます=お茶とかローカロリードリンクが売れる、という公式はあるのかもしれない。
おかでんはキリンの「茶舞」という見慣れないお茶を購入してみることにした。緑茶と白茶のブレンドらしいのだが、白ラベルの商品と緑ラベルの商品、二種類がある。白ラベルには「低糖」の文字が。おっとあぶねぇ、上海でも砂糖入りのお茶というのが存在するんだな。こっちの方はお茶の本場だから、砂糖入りなんて邪道な飲み方なんかできるかよ、というスタンスだと思っていたのだが。なんでこんなに砂糖茶大好きなの、世界の皆様。
というわけで、緑ラベルの方を買う。こちらには「无糖」と書かれていた。・・・「无」って何?多分「無」のことだと思うが、なぜこんな簡体字になってしまったのか謎だ。ええい、このまま買っちゃえ。変な味つけになっていたらその時は「良い旅の思い出」にしておこう。
レジにいたおばちゃんは、制服の胸に名札をつけていたのだが、名前・・・ではなかった。3桁の番号が書かれているだけだ。面倒だから番号で従業員を管理しているらしい。ひょっとしたら、中国の人って「漢字一文字の名字」が多くて「徐さん」と呼んだら「はい私です」「私もです」ってなってややこしいので、数字にしちゃえ、という発想かもしれん。この売店に限らず、あちこちのお店で「番号札」を胸につけているのを目撃したので、中国では珍しくない光景らしい。でも日本人にはすごく珍しい。
珍しいというか驚いたのが、お茶の支払いを100元札で出したら、おばちゃん、大層面倒くさそうな顔をし、イヤでたまらない表情のまま札を揉んだり折ったり透かしてみたりし始めた。おい、せっかくのピン札に何をする。
偽札かどうかをチェックしようとしているのは分かるんだが、そんなに胡散臭そうにやらんでもよかろうに。「人を見たら泥棒と思え」の世界だ。日本における接客の美意識では、絶対にあってはならないパターンが今目の前に。すげえ、中国。
結局、偽札ではないと信じて貰えたので、これまた嫌そうな顔をしながらお釣りを渡してくれた。4元のお茶を買ったので、お釣りは96元。お釣りを受け取ってこれまた衝撃を受けた。お札、ボッロぉ。なんですかこの「鼻をかんだ後の紙を干して再利用しました」みたいなしわくちゃな紙切れは。ぺろんぺろんの薄っぺらい紙だし、何度も水に浸けては乾かしたかのようなありさま。せっかくお札に印刷されている毛沢東同士(どの紙幣も、全て毛沢東同士が独占。中国国民のハートをわしづかみ中)だが、なんだか可哀想になってきた。親愛なる御方なら、もう少し丁寧に扱ってやれよ。そもそも、こんな紙幣を自動販売機なんぞに突っ込んだら、中で千切れて紙幣詰まりを起こしそうなのだが大丈夫か。
こんなお札が「当たり前」として流通しているのだ、そりゃ100元紙幣のピン札が来たらまずは疑ってしかるべきなんだろう。とはいっても、100元って日本円でたかが1,450円だぜ。そんな紙幣に慎重になるなんて。
この件を後ほどコダマ青年に話したら、「いや、100元紙幣って中国では一番の高額紙幣だから。」と言われてびっくり。あ、そうだったんですか。それは知らなかった。
彼は続けてこういった。
「上海だと物価が高くて、100元くらいはすぐに消えてなくなるけど、ほら、中国って広いじゃん。内陸部で貧しい地域に行くと、1元2元で生活しているようなところがいっぱいあるのよ。そういう人からしたら、少々のリスクを負ってでも100元の偽札が作れたら、そりゃうはうはなわけで」
なるほどそれはごもっともだ。でも、それを聞いて、どこぞの日本の政党が言っている「東アジア共同体」の一貫としての「ユーロみたいな地域共通通貨」ってのは無理だろ、と思った。1万円札に相当する東アジア通貨なんて出回ってみろ、途端に偽札だらけになる。物価水準をある程度均さないと、現時点では話にならん。
ターミナルから外に出る。
なんて言うかな、いかにも中国風。これは建物の中も外もそうなのだが、無機質でだだっ広くて、飾り気があまりない。自分が想像していたものと同じ光景で、逆に驚いた。空港くらいはもう少しあれこれいじっていると思ったのだが。
空港の前にはバス乗り場がある。少し歩けばタクシー乗り場もある。ここ虹橋空港には、鉄道が通っていない。現在地下鉄の工事中だが、数キロ手前のところまでしか開通していない。最初は街並み見学も兼ねてそこまで歩いていこうかとも思ったが、コダマ青年との合流時間に間に合わなかったら相手に悪いので、やめておいた。
コダマ青年からは、「タクシーで(コダマ青年の)会社前まで来れば早いし確実だ」と言われていたが、個人的にはバスに乗りたかった。タクシーだと快走しすぎて、あっという間についてしまう。バスでトロトロ走った方が、いろいろ風景を楽しめて良さそうだ。
ただ、コダマ青年は「スリに遭うかも知れないから、タクシーの方が安全だぞ」と忠告してきた。そんなに治安、悪いんか?
バスは何台も停まっているのだが、行き先表示のところには肝心の行き先が表示されておらず、路線番号が記載されている。どの路線番号がどこ行きなのか、理解していないといけない。なお、行き先表示のところに「空調」と書かれているが、これは「エアコン付いてますよー」という意味。今時エアコンがついていないバスなんてあるのか、と思い上海滞在中ずっと「空調」と書かれていないバスを探したが、結局一台も発見できなかった。
自分が乗ろうとしているバスを探す。あった、えーと。えーと。簡体字で何だかさぱりわからんが、これ。日本語で書くと「機場専線」だが、中国では「机场专线」だって。ちなみに「机场」ってのは空港の事ね。空港直通便ですよ、ということで、地下鉄2号線と接続する静安寺站までノンストップで運行される便。これだとスリにあうこともないだろうし、乗り過ごしも無いだろうから安心。4元(58円)。今手にしているペットボトルのお茶と同額。
バスに乗り込む。
運賃箱が無いので、どうしたもんかと思って着席していたら、女性の車掌さんが乗り込んできて一人一人から運賃を回収していた。おかげで、ちゃんと5元紙幣を出して1元のお釣りを貰うことができた。あと、何かお守りみたいな乗車券が。検札済み、ということでビリっとやぶってしまう運用方法がいい加減。
車掌さんはICカードリーダも持ち歩いていて、多くの人はタッチアンドゴーならぬタッチアンドシットダウンしていた。Suicaのようなカードが上海にもあるんだな。
空港用のバスなので、大きな荷物を置くことができる荷物棚は車内に備え付けられていた。「スリにあってはいかん」と、荷物を睨み付ける。
それにしてもボロいバスだ。シートがとにかくボロい。写真を見ればわかるが、前列右側のシート、何もしていないのにリクライニングしとる。いや、リクライニングというのは正しい表現ではないな、固定できていない。おいしっかりしろ。
車内には他にもいくつもこのような怪しいシートがあり、そういう意味でも乗り心地は悪い。移動中のガタガタ音も大きい。一体どこ製のバスなんだ、と思ったら、韓国の大宇製だった。ただ、この状況がメーカーのせいなのか、メンテナンスをしていないバス会社のせいなのかまでは不明。
高速道路のような高架道路を走る。
道中、防音壁の向こうにマンションが見える。おや、と思ったのが、ここ上海の地におけるマンションにはベランダという概念があるのだな、ということだ。香港のマンションにはベランダが皆無だったので、こちらの人はベランダという概念がないのかと思っていた。
しかし、建物をいくつも見ていると、ベランダがないマンションもあり、特にベランダの存在が必須というわけではないようだ。
それを考えると、日本のマンションってほぼ当たり前のようにベランダがついているから凄い。高層タワー型マンションのような制約が無い限りは、ベランダはあって当然。
・・・ところでこれ、防音壁なんだろうか。転落防止用のフェンスかもしれん。防音効果はほとんど期待できないようだが、大丈夫か。
こちらの高層マンションにもベランダはついているのだが、パラボラアンテナがついている家庭が何軒か。中にはベランダのほとんどを覆う巨大サイズのアンテナの家もあり、強度上大丈夫なのかと心配になる。それ以上に、一体何を傍受しているんだか気になる。
この写真だけで3つのアンテナが確認できるが、そのいずれもが向いている方向がバラバラ。あれはマンションに偽装した、諜報組織の建物に違いない。全世界の通信を傍受しているのだろう、きっと。
なお、ベランダには後付けでガラスをはめ込んで全天候型テラスにしてしまっている家が結構多かった。日本人の感覚だと、せっかくの風通しがもったいない、と思うが、こちらの人はそうは思わないようだ。
ちなみに日本では建築基準法だかなんだかの規制で、ベランダをガラス張りにするのは禁止されている。地震が起きて落下したらどうするんだ、ということ。
マンション中心の景観から、だんだんと商業ビルが見えてきはじめましたよと。
それにしても何だあれ。
テトリスで作戦失敗し、いびつな形で積み上がってゲームオーバー寸前、みたいなビルが建っている。しかも鏡張りのような外観。
これも風水を考えて作られているのか、それともデザイン重視しまくったぜヒャッハー、という事なのか。日本じゃぜったい建築許可が下りないぞ、これは。
こういう破天荒なデザインのビルが建つ、ということはそれだけ上海が発展している証拠だ。カネがないとこういうビルは造れない。今の日本じゃもう無理だ。
しかし、そういう奇抜なビルであっても、それを作るためのしくみというのは昔ながら、というか中国ならでは。木で足場を組んで作業しとります。香港でも見かけたが、相変わらず木なんだな。スチール製の足場の方が確実だと思うんだが、慣れ親しんだ工法はそう簡単には変わらないのだろうか。
昔は、「この足場に使われた木材が割り箸になって日本に輸出されているんだ」という話を聞いたものだが、あれは本当だったのだろうか。単なる都市伝説の類?
バスは狭い通路に入り、何かの建物に吸い込まれていった。何事かと思ったら、そこが終着点。一応、「バスターミナ
ル」という事になっているらしい。
バスターミナルといえば、各方面行きのバス乗り場がずらりと並んでいる場所を想像するが、そうではなかった。単なる車寄せみたいな場所。なんでも、虹橋空港行きと浦東空港行きの直行バスはここから発着しているそうだ。
そんな重要なバスターミナルなら、上海駅前とか繁華街ど真ん中近くに作るべきだとは思うが、ここは少しだけ繁華街から外れた場所。あんまり中心地に深入りすると、車の身動きがつかなくなるからなのかもしれない。
「一体何だここは」
と建物から出てみると、そこには建物これ全て流線型、といった感じの大型ビルがあった。というか、その建物の脇から自分がはいずり出てきたわけで。
「久百城市広場」と書かれている。複合商業施設の名前らしい。
曲面だらけの建物は、さぞやデザインと建築が面倒だったと思う。作っている最中に整合性がとれなくなって、「あれ?ここはどうすれば・・・」なんて事になったと思う。しかしその甲斐あってか、インパクトがある上に近代的なイメージを見る人に与え、好印象な建物だ。
入口には「久光」という看板がでている。サロンパスでも売っていそうな名前だが、後でコダマ青年に聞いたら百貨店の名前なんだそうだ。香港そごうによる中国大陸でのブランド名であり、日本のそごうからすると孫にあたる存在らしい。日本式の百貨店形式を取り入れ、いわゆる「デパ地下」などの流儀を取り入れているそうだ。今考えれば滞在中に「上海のデパ地下事情」というのを見てくればよかったのだが、時間の都合上省略。
ここは「静安寺」という。日程打ち合わせの国際電話で、おかでんが「せいあんじ」と日本語読みしたら、コダマ青年は「せいあんじ・・・?」と一瞬考え込み、「ああ、ジンアンスーのことか」と納得していた。ピンインだと「jìng ān sì」となる。ああ、コダマ青年すっかり中国に染まったのね、と思った瞬間。それにしても「寺」の事を中国語では「スー」と発音するのか。台湾のアイドル、ビビアン・スーって、ひょっとしたら「寺さん」なのか?・・・と思って、後で調べたけど違った。当たり前だ。
地下鉄2号線の「静安寺」站が久光百貨店直結である。ここから地下鉄に乗って、コダマ青年のオフィスがある「人民広場」まで行く予定。
ただ、その前にせっかくだから静安寺を拝観してみようと思う。コダマ青年にその話をした際、「えー。見るほどのモンじゃないと思うがねぇ」と言われたのが気になるが、だからこそ今のうちに見ておこう。明日からはコダマ青年に観光案内をお願いしているので、「コダマ青年的に張り合いのない観光スポット」は単独行動している今だからこそ行っておきたい。
その目指す静安寺は、まるまるした建物・久光百貨店の隣にちょこんとあった。
いや、ちょこん、というのはおかしいな。規模は久光の比じゃないくらい小さいのだが、なんだかとても偉そうな建物だ。
台灣の道教やら仏教やらがチャンポンになったお寺のような極彩色・電光掲示板なお寺ではなく、黄土色、赤茶色をベースとした地味な作り。そうか、あの派手派手寺院は台灣独特の文化なのか。どうしてこうなった。
特徴的なのが屋根で、熱でトタン板が反り返ったかのように、ひさしの先が上を向いている。そのため、曲線的な建築デザインとなっており日本のものとは異なる。
門の脇には高い石柱が立ち、その上には四匹の金色の獅子があたりを恫喝している。邪気を払っているんだと思うが、なんだか中国っぽくないデザイン。
相当な古刹だそうで、古くは247年(三国志の時代)に創建されたんだそうだ。さすが中国、次元が違う。まだ日本だと卑弥呼すら出てきていない。1216年にこの地にお引っ越しして今に至る。空海が遣唐使でやってきたとき、このお寺を訪問したというくらいだから由緒正しいのだろう。
・・・なのに、今じゃ完全に回りを高層ビルが取り囲み、目の前は上海の目抜き通りである「南京西路」で車がバンバン走っている状態。参拝客目当ての「門前町」が発展していたはずなのに、どこへ行った?
恐らく、「はい都市計画の邪魔なので退いた退いた」とあっけなく一掃されたっぽい。お寺そのものは残すからいいじゃん、という発想だろう。中国って、歴史は長いけど王朝が変わる度に文化をスクラップ&ビルドし続けてきたからな。文化大革命でこのお寺が壊されなかっただけでも良しとせにゃならんか。
そんなわけで、歴史あるお寺なのに外壁部分にはテナントが入ってるー。日本人の感覚からしたら、やりすぎだと思うが、多分こっちの人からすれば「テナント収入が見込めるから良いではないか」くらいにしか思っていないんだろう。いや、確かにそうなんスけどね。
入口の門の脇に小さな穴が空いていて、そこがチケット売り場らしい。拝観料、10元。案外高い。どうしようか、としばらく躊躇していたら、なんか知らないお婆ちゃんに話しかけられた。
もちろんしゃべっているのは中国語、しかも上海語だ。何を言っているか、全く理解できない。にこにこしながら話しているので、悪人ではないようだが・・・これには困った。
「いや僕中国語しゃべられないんで。中国語でしゃべられてもわからないッスよ」
と日本語で制止したが、日本語を向こうが理解してりゃこんな事にはならん。向こうは全く言葉を停めず、ひたすらなにやらジェスチャーも入れつつしゃべり続けた。何がしたいんだ、アンタ。
途中から鞄に入っているしわくちゃの名刺を取り出し、何かそれについても語るんだが、その名刺の意味すらわからん。この人の名刺なのか、もらい物の名刺なのか。中国人の女性名なんて知らないので、その名刺が女性のものなのかどうかすらわからん。
「いやもうわからないんで、ちょっと勘弁してもらえますか」
ひたすら広東語でしゃべるババアと、ひたすら困惑して日本語で制止したり、しょうがないので相づちを打っているオッサンおかでん。変な構図だ。
しばらくしたら、20歳そこそこと思われるワカモノ2名がやってきた。
「ニポン人ですか?」
「はい、そうです。日本語できるんですか?」
「少し。少しだけね」
これはありがたい。助け船到来。お願いですから救助してください。しかし、彼らは
「旅行ですか?」
「いつ上海に来たんですか?」
なんて質問しかしてこなくて、結局「上海語でまくし立てるババアと、習ったばかりの日本語を実戦投入したくてたまらんだけの学生」の板ばさみになるというハメになってしまった。
ババアは、さんざん話した挙げ句、小さなおみくじのような赤いお札を鞄から取り出して渡してくれた。
「これ、くれるんですか?」
まあ、くれるというなら貰うが、あんまりうれしくはない。どうやら、ジェスチャーから推測するに、手や足など、痛いところ・調子が悪いところに霊験あらたかなお札のようだ。中国の人は、こういう御利益のある札を通行人に配る篤志家が多いのか?
貰ってよいものやら困惑していたら、ババア、何だか雲行きが怪しい。どうやら寸志をよこせと言っているらしい。おい、物売りだったのかよ。がっかりだ。俺の15分間を返せ。
「カネ取るならいらん」
と突き返したら、またなにやら言う。少しのお金でもいいから、と言っているようだ。いや、1元(14.5円)たりともアンタに払う金はない。逆にお前の愚痴を全部拝聴してやったぞ、ということで有り金全部没収したいくらいだ。帰れ帰れ。
で、こういう時に限って先ほどの日本語青年たちは行方不明に。ババアのビジネスの邪魔はしない、というスタンスらしい。ちぇっ。
「もう用事があるんで、じゃあ」
と、静安寺から背を向けて後ろを振り向かず、地下鉄站の方に逃げた。しばらくババアは後についてまだ何か言っていたが、完全無視したらしばらくしたら諦めたようだ。
コダマ青年にその話を後でしたら、
「そういうのは一切相手にしないほうがいいよ。大きなスーツケース転がしていたらすぐに観光客だって分かるから、色々言い寄られる」
と言われた。そうだったのか・・・。
最初から物売りだと分かっていれば対応が違ったのだが、なにせ向こうは日本語を全くしゃべらないし理解しないんで何事かさっぱり状況把握ができなかったのだった。
おいばあちゃん、せめてカタコトの日本語くらいは覚えてから、日本人相手にモノを売りつけなよ。自分の言葉をしゃべるだけでモノが売れるほど、世の中甘くないだろ。
地下鉄站の階段からおそるおそる顔を出し、先ほどのババアが居なくなった事を確認してからすぐさま静安寺に入る。さっきまで入るかどうか思案していたが、お寺の中に入ってしまえばセーフゾーンだ。身の安全を10元で買おう。・・・いや、そのまま地下鉄に乗ってコダマ青年のオフィスに向かっても良かったのだが。
窓口で拝観料を払う。カラフルな入場チケットには「香花券」と書かれていた。お寺の境内に入る際の入場券を中国語ではこう呼ぶらしい。
中にはいると、外の喧噪とはがらりと雰囲気が変わった感じ。四方を建物と壁で覆っているので、別世界に来た気になる。なにしろ、すぐそばの道路の騒々しさたるや、尋常ではなかったから。車を運転している人は20秒に1回クラクションを鳴らさないと死刑、という法律でもあるのかというくらいみんなプープー鳴らしている。やかましいったらありゃしない。
入口脇にお線香が置いてあった。
地球の歩き方だと、10元の香花料には線香代含む、と書いてあったのだが、ここには「2元」の文字が。ええと、どういうことだこれは。
周囲をきょろきょろ見ると、広場の中でお線香を一束持った人が四方にお祈りを捧げている。どうやら、正しい参拝方法はやっぱりお線香が必要なようだ。
地球の歩き方を信じて、このお線香を持って行っちゃおうかと思ったが、さすがにやめておいた。線香無しで、四方を拝む。
現地の人は、一方向だけでも1分近く祈っている。何がそこにはあるんだ。日本だと、「ご神体」だとか「仏像」といった、拝む対象がはっきりしているのだが、ここでは無いのだろうか?どう見ても、お寺の先にある金ぴかに輝く高層ビルなんぞにお祈りを捧げているようだ。
本堂、というか正面のお堂に入ってみる。
歴史があるお寺だし、寄進があるだろうからさぞ立派な仏像があろう、と思ったのだが、全くそんなものはなし。というか、仏様そのものがご不在なんですが、どこへお散歩ですか?お昼ご飯中?
仏様が鎮座しているであろう中央には、鼎の絵が描かれた幕がぶら下げられていた。その前では、土下座して何度も謝罪している・・・いや、違った、お祈りしているお姉さんが。どうやら、これも信仰の対象らしい。
こちらの仏教では、頭を垂れるだけではなく、土下座をする文化のようだ。ちゃんと、土下座用の肉厚なクッションが用意されており、そこに膝をついて頭を下げる。あ、クッションがあるから「土下座」じゃないな。「クッション下座」だ。
日本の仏教は中国経由なのに、なぜ土下座が普及しなかったのだろう。畳の家だし、土下座しやすかったのに。屈辱、と感じたのだろうか。
一応おかでんも土下座してみる。しかし、鼎の絵にどういう効力があるのかわからないので、何をお願いしてよいのやら。一応旅の安全は祈願しておこう。何しろ、「上海の食べ物が口にあわなくておなかを壊した」というだけで、昨今のご時世じゃ大問題だ。帰国時に、検疫で新型インフルエンザを疑われて別室御案内になりそう。なので、完璧な体調で帰国したいところだ。
鼎の幕の両脇には、四天王のような仏様?の像があった。こちらも信仰対象のようで、やっぱり土下座クッション完備。
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