「自分で好きなモン取る仕組みだから」
と、コダマ青年は壁面にあるカウンターを指さす。何から何までホテル的だ。
さすがに豊富な品そろえとはいかず、下からアルコールランプで熱せられているオムレツだとかウィンナーといった「ホテル朝食の定番」はない。パン2種類と、フレークと、果物、ゆで玉子程度。あとはコーヒーと牛乳、オレンジジュース、豆乳。
でも、お一人様「住居」にこのサービスがついているのだから凄すぎる。賄い付き・・・というのはちょっと大げさだが、なんともぜいたくだ。
スタッフが一名、ここには常駐していて料理や皿の補充を常に行っていた。人件費かかっているなあ。ホテル併設のサービスアパートメントだからこそ、できるのかもしれない。
ただ、さすがに「調理」されているものは一つもなかった。リンゴが置いてあるのだが、まるごと一個だ。丸かじりするか、自分で皮を剥くかしなければならない。その他、加熱されたものもなし。あくまでも「朝食も、簡単ではありますが用意してあります。よろしければどうぞ」というスタンスに留めているのだろう。
実際、コダマ青年は「あまりここでは朝は食べない」と言っていた。何をもったいないことを、と最初聞いた時には思ったが、365日ずっとこのメニューだとたしかにうんざりだ。
朝食。
温かい豆乳が用意されているところが、いかにも中国っぽい。甘みがやや強めで、それがかえっておいしい。
パンの味は、まあ、こんなものかな程度。たしかにこれを毎日食べ続けるのはしんどい。
「外に行ったら、粥屋なんてのがあっていろいろ食べられるんじゃないか?」
と聞いてみたら、
「いやー、食べるとすればコンビニのおにぎりか、マックかって感じだなあ。屋台は止めた方がいい、危なすぎる」
と言う。そうなのか。外食で粥=中国の正しい朝食スタイル、というイメージがあったので、上海でもそういうものなんだろうと思っていたのだが。
そういえば、上海滞在中、粥屋というのはほとんど見かけなかった。もちろん、探せばあちこちにあるのだとは思うが、日本人が想像するほど「粥食べまくり」な人種ではないのかもしれない。
コダマ青年、ここでも屋台を否定する。一体何があるというのだろう。上海に着く前から、「屋台なんぞ風情があっていいねえ」というおかでんに対し、「止めた方が」とコダマ青年は一貫して窘める立場だった。
おや。
コダマ青年が新聞をどこかから持ってきたな、と思ったら、それは日本経済新聞だった。凄いなこのアパート。外国の新聞まで取り寄せているのか。
でもどうせ昨日の日付だろ・・・と思ったら、あれれれ、ちゃんと今日付のものだ。早いな、今じゃほとんどタイムラグなく外国にも配信されているのか。
そのせいで、紙質は当然違うし(上海の方がむしろ良さそうだった)、紙の余白が非常に大きく取られていた。
それにしても、こうやってコダマ青年は日本の情報をちゃんと把握していたとは。得意げに、「最近の日本は・・・」と昨晩彼に語っていたが、全くの無意味だったというわけだ。うわ、恥ずかしいなお前。
しかもコダマ青年の部屋のTVでは、NHK-BSがちゃんと映るのだった。活字も動画も、両方とも日本と変わらない環境。あとはネットがあるし、日本にいるのと何ら変わりないのだった。
「でもネットって、中国当局から相当検閲があるでしょう?」
と聞いてみたが、特に実害がでるほどのものはないという回答だった。へー。
今日の午前中は浦東(pǔ dōng =プードン)地区を散策する予定。
浦東は、上海が紹介される際に必ず写真ででてくる場所。高層ビル群があって、変な丸いタワーがあって、というあそこだ。あの一帯だけ、全力でシムシティをやっている状態。何も上海全体がああいう町なのではないのでご安心を。東京全部が浅草だったり、東京全部が新宿ではないのと一緒だ。
地下鉄駅にて、コダマ青年はなにやら有人券売窓口に行っていた。聞くと、チャージをしてもらっていたらしい。あれ?チャージは有人か。
地下鉄の路線図を見ると、結構あれこれできているのが分かる。環状線があるし、東西に延びるやつ、南北に延びるやつ、とひとまず鉄道建設の王道を進んでいる。これらの整備はこの10年そこそこで急速に行われたものなので、感心する。将来的には、今の倍以上の距離を開通させようという計画があるのだから、まだまだ上海は元気だ。そりゃそうだ、2,000万人以上が住んでいるのだから、理論的には地下鉄および地上の鉄道は東京以上に複雑怪奇に仕上がるはずだ。
地下鉄の自動改札。
無骨なステンレス仕上げの、四角い箱。こういうところの工業デザインは、明らかに日本の方がセンスがある。というか、日本人は実用性だけでは納得できない、無駄な美意識が備わっている。明らかにコスト増大要素であり、国際競争力はこのご時世劣るだろう。でもそんな日本人の感性が好きだ。美意識のために、日本がガラパゴス化して滅亡してもいいんじゃないかとさえ思えてくる。
日本の自動改札機は、ICカードをかざす部分に絶妙な傾斜をつけてあり、「タッチ&ゴー」が極限までスムーズにいくようになっている。しかし、こちらの自動改札機は、ただ単に平面で、フリスビーのような、フライパンのような「もっこり」があるだけだ。
それもそのはず、日本と中国では電波法が違うので、中国の方が電波が強い。日本だと、まさに「タッチ」しないと認識しないのに対し、中国だと少々離れていてもICカードが認識できてしまう。故に、セカンドバッグなどをこのもっこりの上に乗せ、それで通過していく人が大勢いた。あー、楽だなあそれは。日本じゃ、財布ごしのタッチでさえNGな場合があるのに。
地下鉄2号線の「東昌路」站で下車。
地上に上がると、そこはいわゆる「上海の顔」となる高層ビル群が展開されていた。
小学校の頃読んだ、「未来の都会」の絵本そのまんまだ。ビルは全て高くそびえ立ち、そして形がどれも独創的だ。効率重視のマッチ箱的外観のものは一つたりともない。
パリコレの服を見て、「こんなの実用的じゃねーよ」と思う事があるが、ここでは「実用的とは到底思えない」ビルが、ファッションショーよろしくたくさん並んでいるのだった。上海の勢いをそのまま表した感じ。
ただ、これはこの後上海をあれこれ見て回った事を総合してみて思うのだが、上海って危険すぎる。子供が豪華なおもちゃを手にして、うれしくなってブンブン振り回している印象を強く受けた。経済発展のスピードと、民度(というと上から目線で傲慢だが、要は市民の社会帰属意識)とが釣り合っていない印象を受ける。この国がいずれ世界最強の国になるだろうから、余計に不安になる。頼むから、穏便に、ゆるやかに発展していって欲しいものだ。発展そのものは妬まないし、ご自由にどうぞというスタンスなんで。
この写真は、站から地上に出てそれなりに歩いたところで撮影したものだが、なんだか町全体がくすんでいる。最初は、雲が低くたれ込めているのかと思ったが、地面間近のものまで見通しが悪く、どうもそうではないようだ。
霧でもないようなので、つまるところ「空気が悪い」という事らしい。光化学スモッグなのか、工事中の粉塵なのかまでは不明だが、この見通しの悪さたるや尋常ではない。せいぜい2kmくらいしか離れていない、巨大ビルでさえ霞んであまり見えないくらいだ。
この見通しの悪さは、最終日、空港から飛行機で飛び立ち、上海市から東シナ海にでるまでずっと続いた。ここに住んでいると、相当鼻毛が伸びることになるだろう。
なんでこんな上海の一等地に、バカスカ新築高層ビルを建てる土地があるんだ、と呆れる。にょきにょきと雨後の竹の子状態でビルが生えているが、まだ飽きたらずにあちこちで絶好調工事中。このあたり、ビルで埋め尽くす気満々だ。
当然再開発が入る前は民家がたくさんあっただろう。川沿いの立地だし、人が住むには最適だから。でも、それらをほうきで掃くように出て行ってもらったのだろう。そういうことができるのは、強い行政権力がある国ならではだ。ある意味うらやましい。日本だと、反対住民の説得だけで数十年がかりだ。
さて、てっきりおかでんは、丸いピンポン球みたいなのが途中についている、変なタワーに昇るのかと思ったが、コダマ青年は「このビルに行く」と違ったビルを指さす。なんですかこれは。
上海にしては珍しく、表面に凹凸がないシンプルなビル・・・かと思ったが、ああ、違う違う、上層階にいくに従って、どんどん小刀のように片面が細くなっていってる。しかも、最上階がドギーバッグの取っ手状態になっていて、ビルに空洞がある!何てアホなんだこのビルは。
聞くと、これが今一番高いビルなんだと言う。へー。知らなかった。おかでんが持っている地球の歩き方には、載っていない。つい最近できたらしい。
上海の場合、頻繁にこういう事がある。上海に限らず中国の都市部はどこでもそうなのだろうが、もの凄く急激に発展しているため、数年前のガイドブックでは使いものにならないのだった。
ちなみに、写真に写っている、右側のビル。これは地球の歩き方にも載っているもので、金茂大厦88層観光庁というもの。その名の通り、88階建て。おいちょっと待て、これから行こうとしているのは88階建てよりも高いのか。
この建物の通用門、というかテナント入居者用入口の横を歩いていると、VIPが乗っているらしき車がやってきた。サングラスをかけてスーツを着たSPがしっかり護衛しながら車を誘導している。
その写真を撮影しようとしたら、コダマ青年から
「写真は止めた方がいい。このあたりは警備がすごく厳しいので、捕まえられてカメラを没収されるかもしれない」
と言われたのでやめた。そんなに厳しいのか。驚きだ。
ビルを回り込んだところに、最上階の展望階行き観光客用ゲートがあった。
ええと、ビルの名前は「上海環球金融中心」というんだな。タマが二つ続いている名前で、何だか変わっている。別名「上海ヒルズ」なんだそうで。あれ?ということは、森ビルが作ったのか。えらい奇抜なもん、森ビルは作ったモンだ。
やたらと大勢の人に出迎えられ、やたらと無駄にドアの開閉をする人がいて、やたらとたくさんあるチケット売り場に行く。チケット売り場、何かのテーマパークのようだ。「たかがビルの最上階に行く」だけなのに、何とも大げさだ。
しかも、チケットを買ったあと、まさにディズニーランド的に「狭いところにぐねぐね道を造り、行列を効率よく押し込む」部屋に通された。ここにもたくさんの従業員が。大げさな。
しかし、実際のところ、11億人の国民がいる中国のことだ。観光地ともなればこれくらいの対策はしておかないと、収拾がつかなくなるのだろう。われわれは早い時間に行ったからそれほどの混雑はなかったが、実際は相当な状態になるらしい。
チケットは150元(約2,175円)。たけぇ。中国の一般庶民ではどう考えても無理なお値段だ。
こういうビルって、高いことは重要だよなー。テナント料だけじゃなくて、こういった観光収入だけでも相当利益が確保できるんだから。多分、お隣の金茂ビルは、このビルができちゃったおかげで観光収入はがた落ちだろう。当てが外れて困っているかもしれない。
日本語のフロアガイドがあったので、貰った。用意周到だな。
変な日本語でつづられているということもなく、全くよどみのない完璧な日本語。
読むと、下層階はセミナーなどが開ける会議室やホールがあり、上層階はパークハイアット上海が入居しているそうだ。
飲食テナントを見ると、ここがどこの国だかわからなくなる。ミスタードーナツ、ローソン、スターバックス、サルバトーレクオモ・・・。さすが森ビル。
リーフレットの表紙は、各国の高層ビル/タワーとの高さ比較になっていた。
日本代表がなぜか東京タワー(333m)なのは納得がいかんが、このビルが開業しているものとしては今んところ世界一位というのはさすがだ。ちなみに高さは492m。
2年前に行った、台北の「台北101」は509mで、やはり上海環球金融中心と比べるとひく・・・あれ?高いぞ。
何で?と思ってよく絵を見たら、509mというのはビルのてっぺんの、避雷針(電波塔?)まで含んだものだった。それに対してこのビルは、ビルのてっぺんそのものが地上100階の展望台。展望台の高さ、という点では世界一なのだろう。
2010年1月には、ドバイの「ブルジュ・ドバイ」が824.5mで開業するし、他にはドバイに1,400m級のビル建築まで計画されている。一体どうなってんだ地球。いずれ、バベルの塔みたいに神の怒りを買いそうな気がする。このご時世、無駄に高いビルを建てるということはテロの標的に立候補しているようなものだと思うんだが。
だいたい、1,400mもの高さのビルって、エレベーターが100基あっても足りないだろ?フロア移動は大丈夫なのだろうか?
行列スペースでとぐろをまいて並んだ後、エレベーターに搭乗できる人数分だけ、隣の部屋に通され、またそこで待機する。そこでまた待機。本当にディズニーのアトラクション待ちみたいだ。
で、乗ったエレベーターは、途中で激しく上下する「タワー・オブ・テラー」だった・・・ら本当にディズニーだが、さすがに400m以上の落差がある「タワー・オブ・テラー」は勘弁してくれ。確実におしっこ漏らす。
行き先は100階、なのかとおもったらなぜかその手前の94階。まさかそこからロープを使ってよじ登れ、とでも言うのか?
それは冗談だとしても、エレベーターの階表示が面白い。B2、2、3、94、95だって。
94階に到着したら、エレベーターホールの頭上には円盤形の電光掲示と「SKY ARENA94」の文字が。なんだかここは攻殻機動隊チックだ。
さあ、じゃあその94階を満喫しようではないか、と足を踏み出したら、いやいやこのままエスカレーターで上に行けという。なにやらややこしいな、100階かと思ったら94階だったり、94階だと思ったらエスカレーターに乗れとか。
ああそうか、100階の展望フロアがビルのてっぺんである以上、エレベーターを動かす動力部は100階以下に設置しないといけないのだった。そのため、エレベーターが実質動けるのはこのフロアまで、ということなのだろう。見栄え重視すると、こういう面倒なことになる。
ところで、94階から上にあがるエスカレーター手前では検札があった。何で?
「オレら、100階まで上がるチケットを買ったけど、94階までのチケットとか別にあるわけよ」
とコダマ青年が言う。ああ、そうなのか。だから検札なのか。でも、少々のお金をケチって、94階でもういいやという人っているんだろうか?94階に来るのだって、100元くらいはするんだろうから、もう一踏ん張りしてもよろしかろうに。
実際問題、このフロアでもう資金が底をつきました、ここで勘弁、という人は皆無だった。そりゃそうだ。
エスカレーターで3フロア分あがる。97階。
そこは、「スカイウォーク97」と呼ばれている。日本語解説によると、
まるで空にかかる橋「スカイウォーク97」。ガラスシーリングを開放すれば、空との一体感があなたをつつみこみます。
というそうだ。たしかに、ウォークという名前の通り、細長い陸橋のようになっている空間だ。切れ上がったビルのデザインなので、てっぺんのこの辺りはビルが細くなっているというわけだ。完全に、観光収入を計算に入れたビル設計だ。こんな狭いスペース、オフィスに使うのは無理だ。せいぜい、ホテル併設の最上階レストラン&バーくらいか。でも、水回りをここまで引っ張り揚げるの、大変そうだな・・・。
実際は、「スカイウォーク」というより、「スカイウェイト」と呼ぶのが正しい空間だった。100階にあがるエレベーターを待つ人が行列を作っており、そのためウォークできないのだった。せいぜい、牛歩戦術だ。
考えてみると面白いものだ。97階から100階に上がる、たった3フロア分のエレベーターより、地下2階から97階に上がってくるエレベーターの方が、輸送能力が高いとは。
「ウェイト」している間、コダマ青年が「上を見てみ?」と言う。見上げてみると、ガラス張りの天井の上には、陸橋のようなものがあった。あれが、これから向かう100階のスカイウォーク100だという。凄すぎてアホすぎる。なんちゅービルを造っているんだ、上海は。
なんで「スカイウェイト」になっているのかと思ったら、100階に通じるエレベーターがやけに小さいのだった。せいぜい、マンションのエレベーターレベル。
「なんだこれ、設計ミスだろ。これじゃあ混雑して当然だ」
と思ったが、多分それは百も承知だけど、鉛筆のように先が細いビルなので、最上階へは大きなエレベーターを据えつけられなかったのだろう。春節や国慶節など、観光客が集中する時期になると、このあたりは大変な混雑になりそうだ。トイレは確実に、最初のエレベーターに乗る前に済ませておかないと。
「97階から100階まで、せいぜい3フロアなんだから階段でいいじゃん」と思うが、運営側からしたら、階段で将棋倒しになってけが人発生、とかの方がよっぽど面倒だろうから、大人しくエレベーターに乗ってくれという心境だろう。また、「おっかさんが死ぬまでに一度、親孝行で高層ビルのてっぺんに連れていってあげたかった」という方向けでもあるのかもしれん。
スカイウォーク100に到着。
ここは上下左右ガラス張りになっていて、上でも下でも何でも見てくれ、やましいことなんて何一つないんだよ刑事さん!という状態になっている。
みんな、カメラを上に向けたり下に向けたり横に向けたり、忙しそうに記念撮影をしていた。
床までガラス張りではるが、さすがに足組となる鉄骨が張り巡らされているので恐怖感はない。一応、高所恐怖症の人も大丈夫・・・だと思う。
ただそれじゃつまらんので、ところどころに「ビューポイント」が設けられていた。覗き穴だ。ここから石を落としたり矢を放つなら、日本の天守閣みたいでイイカンジではある。ただし、ニンジャでもここまで登ってくるのは無理なので、全く意味はない。
さてこのビューポイントだが、「おー」と真上から覗いては全く意味がない。というのは、上から見ると、単に97階が見えるだけだからだ。絶妙に下を見ようとすると、斜めから見下ろす必要がある。だから、ご丁寧に「Stand Here」と、数歩下がったところから見ろという案内がある。お言葉に甘えて、そこから覗いてみる。
うーん。
やっぱり自分のところのビルが視界を遮ってしまい、あまり「空中散歩」している感じにはならない。あと、覗き窓が狭すぎて、高所恐怖症の人は近寄れません!危ない!という感じはしない。まあ、だからこそ、むしろ誰でも楽しめる高所なのかもしれん。
下を見るのはイマイチだが、順当に窓から眼下を見下ろすとこれがもう、冗談のような世界が広がっているのだった。
50階建てくらいはあろうかというビルがわらわらと当たり前のように林立している。それらが全部小さく見えるというのに呆れる。
これだけ高層ビルが建っているものの、まだまだ開発できる土地には余裕があって、あちこちで建設の真っ最中だ。じきにこの辺り一帯、ビルの重みに耐えかねて水没するんじゃないか?「雨後のたけのこ」という言葉があるが、それが「高層ビル」にも当てはまるということを異国の地・上海で思い知らされた。
「見ろ、人がむしけらのようだ」と言いたいところだが、さすがにこの高さだと、もう人なんて見ることができない。虫けらの方が大きいくらいだ。せいぜい、バスくらいの大きさがあって、ようやく蛆虫レベル。スケールが違いすぎだ。
正面に見える、丸い玉がついたタワー、あれが上海の象徴的建物。コダマ青年曰く「ドンファンミンジュ」と言うらしい。名前は初めて知った。何であんなでっかい玉をタワーの途中に突き刺したのかね。団子三兄弟状態。
ただ、そのタワーまでせいぜい1キロキロ程度しかないのに、ほとんど霞んで見えないという超絶劣悪空気。コダマ青年は「工事現場からでる砂ぼこりじゃないか?」と言っていたが、多分光化学スモッグだわ、これ。何しろ、100階まで上がっても、全く視界が回復していない。砂ぼこりだったら、もっと地面に近い方が霞むはずだし、こんなに360度まんべんなく霞まないと思う。
これでもかと高層ビルが建っている、黄浦江(川の名前)あたりに背を向け、ビルの西側を見てみるとそこには赤い屋根の低層アパートが電子基板のようにわらわらと並んで建っていた。日本における、昔の公務員住宅みたいだ。世界の最先端ビジネス街が広がっているすぐ脇に、こういうマンションが並んでいるのが、なんとも不思議な光景だ。ここに住んでいれば、職住隣接だな。
ただ、さすがに一戸建ての家とか、小さなアパートなんぞは見渡す限り見あたらなかった。そういえば、上海滞在中、住居用の一軒家って一つも見かけなかった。集合住宅に住むというのが中国では当たり前なのかもしれない。何しろ、基本的には共産主義国家だから。
赤い屋根の低層マンション(低層、といっても7~8階建て)の脇には、機動隊が持っている盾のような形をした、でかいマンションがいくつも建っていた。その盾マンションの一帯は緑地化されていて、なにやら中にはプールらしきものも見える。
コダマ青年に聞くと、上海の富裕層はああいうマンションに住むそうだ。ゲートシティになっていて、敷地入口にはゲートがあって警備員常駐。部外者は当然立ち入り禁止。中にはスーパーもあるし、保育園やらフィットネスジムやらなんやら、いろいろな生活施設が整っているとのこと。すげえな。
敷地が相当デカいので、敷地から外に出るだけでも車が必要になりそうなくらいだ。でもこういうところに住む金持ちって、お抱え運転手くらいは余裕でいそうだな。なにせ上海は人件費が安いから。
全てにおいてスケールが違う。おい、この国を仕切っているのは「共産党」だよな?何がどう「共産」なんだ?
高層ビルの展望台で写真をとるのは、大抵の人が苦労する。
屋外の景色と、屋内の人物とでは明るさがあまりに違いすぎるからだ。人物に絞りを合わせると屋外が真っ白になる。逆に、屋外に絞りをあわせると人物が真っ暗になる。
そんなわけで、皆様一様に最初は窓側で写真を撮ろうとするのだが、じきに諦めるのだった。ましてや上海のこの曇天、あまり「記念」になるものが映らない。
その人たちの救いが、このパネル。「高度474m 」。(ビルでは)世界最高の展望台ですよ、というものだ。皆、競い合ってここで写真を撮っていた。われわれも、ここで一枚。気をつけないと、こういう時に「じゃあ次は私が」というタイミングが日本人と中国人とでは違う。中国人のパワーに圧倒されていると、いつまで経っても写真が撮れない。時には強引に割り込まないとダメ。
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