一階の一部スペースは、カーテンで仕切りができるようになっていた。
噂によると、女性専用スペースとして活用されることがあるらしい。カーテンがあるので、身だしなみを整える際に随分重宝するだろう。でも、この日実際に女性客がこのスペースを独占していたのかどうかは、確認が取れなかった。
「ちょっとごめんなさいね、噂の真相を確かめたくって」
とカーテンを開けたりなんかしたら、
「キャーおかでんさんのエチー」
と言われて、大変な事になるのは目に見えている。
おっと、こんな張り紙があったぞ。
「豆炭アンカ(¥500) 御利用になれます」
まだ10月なのに、と言いたいところだが、山の上であるここでは「もう10月」なんだろう。豆炭が欲しくなるくらい、夜は冷えるんだろうか?
今晩は裸足で寝ようと思っていたが、ソックス履いたまま寝ることにしよう。
ところで、この日の夜、アンカを頼んだ人はいたのだろうか?気になる。
6人用の個室に忍び込んでみた。一人あたりのスペースが雑魚寝部屋よりも若干広くなっているのかな?でも、「若干」程度であり、個室にしたからといって快適性が極端に良くなるわけではない。ましてや、「畳敷きの部屋で、ポットとお茶のセットが用意されていて・・・」なんていう旅館風個室をイメージしては駄目。(北アルプスの山小屋ではそういうところが実際にあるから侮れない)
これに5,000円を払う価値があるかどうかは微妙なところ。でも、女性の団体だったら払っても良いのかもしれない。ブラジャーだって交換できるぞ、ここだったら。
青いビニールシートが敷かれているのは、ここにザックを置いてくださいという意味がある。くれぐれも布団の上にザックを置かないよう、山小屋から宿泊客全員に通達があった。ザックについた汗、砂が布団に移ったら大層面倒なことになるのだろう。
お湯(セルフサービスです) テルモス1本200円
と食堂の壁に張り紙がしてあった。山小屋ではお湯をこうやって販売している。この山小屋に限らず、結構あちこちの山小屋でもやっていることだ。おかでんはお湯(または温かいお茶)を買ったことはないのだが、ご年配の女性を中心に根強い人気があるようだ。
しかしこの宿、お湯が必要な方は「夕食後の19:00~19:30にしか御用意できません。」とつれない対応なのだった。「朝は無理です。」と大きな字で書いてある。でも、前日夜にお湯を貰っても、さすがのテルモスでも翌朝は冷えてしまっている。お湯を買う意味が無いような気がするのだが・・・。
そういう不満を踏まえて、「なぜなら?」と理由もちゃんと書いてあった。
この宿、お湯を作るのは薪ストーブを使っているのだという。なので、朝忙しい時に悠長に薪ストーブを専有するわけにはいかず、よってお湯を沸かす事ができないんだって。そんなわけでお湯は比較的厨房に余裕がある夜のうちに、ということになっているのだった。おしまい。
14:55
外に出てみた。この南御室小屋にはテント場が併設されていて、既に多くのテンター(今勝手に作った造語)たちが荒々しくテント設営に従事していた。
テント場は山小屋から10分離れたところあります、トイレと水場は山小屋のものを使ってください・・・なんていう罰ゲームに近いテント場もあるけど、ここは平地だし、山小屋にも水場にもトイレにも近いし、快適。あと、この先にある薬師岳小屋にはテント場が無いので、テントを担いで来た人はここに泊まらざるをえないという事情もある。
この日は混雑が予想されており、山小屋の人は「できるだけ詰めてテントを張ってください」とお願いしていた。
14:55
トイレは山小屋内にはなく、少しだけ離れたところにある。水場との位置関係もあるだろうし、防臭の観点からも距離を開けたのだろう。
おかでんはこのトイレを使わなかったので、特にコメントなし。
女性専用のトイレもいくつか用意されてあった。
14:56
個室トイレとは別に、男性用小用トイレも用意されていた。これはとても便利だった。さっと用をたすことができるからだ。
山に登る際、男性という性別は圧倒的に有利、というのをつくづく感じさせる。逆に女性は登山中もよおした際に結構苦労する。
時々、なぜか登山道から結構離れたところから滑落して遭難、という女性がニュースになるが、「ああ、多分トイレに難儀した結果の滑落なんだろうな」と同情せざるをえない。
14:56
冬期用トイレ、というものもあったが、これはふたがされていて中身を覗くことはできなかった。
14:57
水場のすぐ脇にほったて小屋があるので、山小屋で使ういろいろな雑貨や食材の倉庫なのかと思っていたら。あらら、扉には「素泊室」と書いてあった。そうか、料金表に書いてあった「素泊4,000円」というのはここに泊まる、ということだったんだな。「寝具のみ5,000円」とは確かに扱いが違う。明らかに違う。さてこの小屋で泊まる人がどれだけいるのだろう?そもそも、中はどうなっているのだろう?
確認してみればよかったのだが、この後ビールを飲んじゃったのでうっかり忘れてしまった。もったいない。
15:04
素泊室の近くに水場があった。こんこんと沸いている水。お金はかからないので、自由にどうぞ。
おかでんは自宅から持ち込んだミネラルウォーターがまだ残っていたので、ここでは一切補給しなかった。水道水だったら、躊躇なくペットボトルの中身を捨てて入れ替えるのだけど。
14:53
さて、大変長らくお待たせしました。といっても、山小屋に到着してからまだ30分も経っていないんですけど。
ビールのお時間ですよ!
山小屋に早着したら何をやるって、そりゃもう山の景色を愛でながらのビールに決まっているじゃないですか。さあ、ビール買うぞぅ。今日はお昼ご飯食べながらのビールが無かったので、さぞやおいしかろうて。
不肖おかでん、そろそろシフトチェンジ気味。登山途中のお昼のビールはやめようと考えております。足下がふらついて怪我したらまずいから。もう、そういう「安全面」を考えた登山と飲酒をしなくちゃいけない年頃になってきているわけですよ、残念だけど。昔は「むちゃしてナンボ」なんて言ってたんだけどなー。でも、年相応のむちゃはしたいといまだに思っています。
ビールなんだけど、今回は下界からの持ち込みはなし。冷えたビールを山小屋で買おうと思っていたからだ。しかしこの小屋、昼間は節電のため電気が通っていなかった。よって、当然のごとくビールは常温保存なのだった。これはちょっと想定外だったが、まあよい、ビールはどのような状態であっても等しく愛おしいものなのだよ。
「ビールください!」
にこやかに受付に声をかけると、「どれにしますか?」と聞かれた。何のことかと思ったら、この小屋にはキリン、アサヒ、サッポロの3種類が用意されているのだという。なんとぜいたくなことよ。大体どこの小屋でも1銘柄しか取り扱っていないと思うが、ここは3倍の選択肢。ちなみにお値段は600円ということで、当然納得の山価格。これは仕方がない。
どうせビール1本で納得するはずがないので、自分なりにどの銘柄から順番に飲むか計画を立てる。そんなわけで、まず先鋒としてサッポロ黒ラベルをチョイスだ。
なお、この小屋では缶チューハイ、ワンカップ、清酒(上善如水)、焼酎(さつま白波)、甲州ワイン(赤・白)もラインナップされていた。度がきついのがお好みなら、お好みのものをどうぞ。つまみは売ってたっけな?確認できなかったので、多分取り扱いはなさそうだ。
15:03
つまみの代わりとしてか、おでんが売られていた。800円。
竹輪、ゴボ巻、三角さつま揚、たまご、コンニャク、大根、昆布。
コッヘル持参だと50円引き、というのが面白い。
以前、剱岳・立山に登った時はおでんを山小屋で買って食べていたものだが、今ではあんまりそういう気にならない。何であのときはおでん買ったんだろう?「山に行けばおでん」という刷り込みがその当時、何かあったんだと思う。
15:00
幸い、小屋の前にはテーブルと長いすが結構並んでいた。こういう設備があると今回のおかでんのように時間を持てあましている人にとって、大変にありがたい。
ではさっそくビールを開栓。ぷしゅ。
おっとっと、標高が高いので、泡が吹き出てくる。泡を一生懸命すすりながら、たぎるビールのエナジーを吸収する。そして、泡が落ち着いてきたところで、あらためてごきゅ、と。
うーむ、ええのう。
今日一日、成し遂げたという達成感。そして、怪我せずに目的地に到達できたという安ど感。さらに、明日もまた頑張らないといけないぞという高揚感。その全てを包含してくれるのが、お疲れさまビールなのだった。うまいにゃあ、もう。
15:10
山小屋周辺は紅葉が見頃だった。真っ赤に染まった葉っぱが、まるでビールで色づいたおかでんのほっぺたのようだ。・・・という事を顔色一つ変えずに考えるおかでんは変態だと思う。
標高2,440m、10月6日、今が紅葉のシーズン。
15:38
こんな看板があった。
FOMA御利用になれます 但し、山小屋発電中のみ
どうやら、山小屋にてドコモのアンテナを用意しているらしい。先ほど登山途中に「au可(小屋付近は圏外です)」という看板を見かけたが、このあたりは電波が入ったり入らなかったり、大変だ。でも一つ言えるのは、ソフトバンクの電波は問答無用で入らない、ということだ。やっぱり2012年時点においては、登山をする人はソフトバンク携帯はまだまだ不向きだ。その点ドコモは最強。
15:54
そういえば本日の歩数を確認していなかった。
確認してみたら、22,262歩だった。うん、まあまあな歩数。もっと歩いているかな、と思ったんだが、こんなものか。
15:59
テント場が混んできだした。先ほどまでは比較的テントとテントの間に空白があったのだが、随分と埋まってきた。今この時間あたりが一番テント場がざわついているっぽい。テント設営中の人、早々にテントをこしらえて、仮眠中の人、そして早くも夕食を作り始めている人。
16:04
まだまだ夕食まで時間がある。もう一本ビール貰っちゃおうかな。
二本目は一番絞りで。
下界からチップスターを持ち込んでいたので、これをつまみながら飲む事にしよう。
景色を見るのはもうそろそろ飽きてきたので、行きのスーパーあずさの車中で各席に置いてあったフリーペーパーを眺めることにする。おっと、ちょうど「秋の登山を楽しもう!!」という特集が組まれているぞ。まさに今、秋の登山を楽しんでいる最中でございます、僕。ん?なんだか不釣り合いな気がするのは気のせいか、と思ったら、この特集記事、サブタイトルが「注目のアウトドアブランドを着こなして」となっていた。あー、そりゃ駄目だ。おかでんとは無縁の世界ださようなら。
16:49
さすがにこの時間になってくると気温が下がってきた。ビールを飲んでいるせいもあり、若干体が震える。それでも我慢して小屋の中に入らないのは、小屋の中が人だらけだし、人の熱気で蒸すし、で居心地が悪いからだ。夕食時間になるまで外で粘るぜ。
さて、目の前には壊れた三脚が。どうしたもんかな、これ。
実は道中、岩場を登っている際に三脚の足を間違えて踏み抜いてしまったのだった。そのせいで脚が一本、ぽっきり折れてしまった。さすがに「二脚」になると自立ができないので、使い道がない。困ったな、せっかく明日はバキッときれいな風景をバックに記念撮影を撮りまくろうと思っていたのだけど。
でも折ってしまったんだから仕方が無い。こうなったら、三脚の脚を手で掴んで、セルフタイマーを使って「自分撮り」をするしかあるまい。
17:13
そろそろ寒さが限界になってきたのと、お時間の頃合いもよろしいようなので小屋に引き下がることにした。夕食は17時半からだが、えてして「早く準備ができたので、前倒しで夕食開始」なんて事があり得るからだ。特に今回のように、夕食が二回転するならその可能性は十分にある。
あと、夕食前にいったん自分の寝床を確認しておかないと。左右から不当に侵略されている可能性があるし。
そんなわけで、外の世界さようなら。テント場はもうぎゅうぎゅう状態。この人達仲が良いんじゃないか、というくらい密集してテントが張られていた。
オートキャンプ場だと、コールマンのテントだらけで、「団地」と比喩(揶揄とも言う)される状態になるのだが、さすが山だけあってメーカーはバラバラ、色もバラバラ。
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