きき酒コーナーには、「日本酒に合うお塩」として90種類もの塩が置いてあった。赤いキャップの食卓塩または青いキャップのアジシオ、せいぜい「伯方の塩」くらいしか馴染みがない庶民代表おかでんとしては、こういうのを見るとどぎまぎしてしまう。つい、傍らにいるよこさんに「ゲランドの塩なんて僕は好みなんだけどさァ・・・ああ、こういうお店じゃ置いてないか、やっぱり」なんて変に通ぶってみせる。誰も得をしないのに。
酒を飲みもしないのに塩をなめても、ただ単に塩辛いだけだ。血圧が上がりそうなので、さすがにこれをなめまくるのはやめておこう。
越後地酒の人気ランキングが黒板に書かれてあった。利き酒コーナーの人気順なので特殊な事例ではあるものの、面白い統計だ。一位の「越後鶴亀」というのは失礼ながら聞いたことがない銘柄。最近人気が高くなっているのだろうか。
一報、プレミアムが付く清酒、として一時は本醸造酒でさえも一升1万円を遙かに超えていたという「越乃寒梅」だが、現在では9位という位置でまったりとしてらっしゃる。一昔前は、「おおおっ!あの『越乃寒梅』がここでは試飲できるの!?ラッキーじゃん!」と我先に飛びついたものだけど。まあ、そういう状況が特殊すぎたと言える。
ちなみに話が脱線するが、そんな時代に僕が苦労して越乃寒梅をゲットして実家に手土産で持って帰ったら、家族中から「薄い」「物足りない」と大不評となり大層がっかりした経験がある。広島のお酒はこってりとろりとして甘く、新潟のお酒とは対極にあるからだ。広島の人から言わせると、越後の酒は「水みたいで物足りない」ということになる。
「ぽん酒館といったら、『爆弾おにぎり』っすよー」
「何それ?」
「あれーっ?知らないんすか?意外。有名ですよ、ここの爆弾おにぎりって。ほら」
よこさんに教えられて、初めてその存在を知った。確かに、誇らしげに「名物」とポスターには書かれている。さすが米どころ越後。米なんて情け容赦なくガンガン使ってやるぜ、というわけだ。米が乏しくて蕎麦を食ってた長野県民垂涎。
で、その爆弾おにぎりなのだが、1個350円とお高い分ぎゅうぎゅうに米が詰まっている。さらに、米4合をこれでもかと押し込めた、「大爆おにぎり」というのがあって、これが2,000円だという。うーむ、4合か。さすがの僕でさえ、ネタとはいえ買うのがはばかられた。
「今晩の夜食にどうですか、隊長」
とか横でなにやら声が聞こえるが、勘弁してくれ、これを持ち歩くだけでもかさばるし、重たい。だいたい、これがそのままストンと胃袋に入ったら・・・と想像するだに怖い。胃袋、おにぎりで満たされるぞ。
ぽん酒館では、お漬け物が多数売られていた。日本人は漬け物が好きなんだろうし、保存が利くから各地で作られたし、土産物として売りやすいしで良い事ずくめなのだろう。僕も、昔はついついSAとか各地の土産物屋で漬け物を買ったものだ。で、一人暮らしで漬け物一袋は完全にオーバースペックで、もてあまして、結局うやむやになって捨てる、ということがあった。なので今では買っていない。酒飲み、特にビール飲みにとって「ご飯」はほとんど無縁な食べ物だったため、漬け物も必然的に食べる機会がなかったからだ。これが清酒飲みだったなら、酒肴として漬け物を食べるという選択肢もあったのだろうが。
で、このお店の場合、お皿にもりもりと漬け物各種が盛りつけられ、「ご遠慮せずご試食ください」という札が付けられてあった。
「おお、ご遠慮せず、と書いてあるぞ!」
人の視線と顔色ばかりを気にして育ってきたおかでん40歳、「ご遠慮なく」とか「今日は無礼講」などと言われたらがぜん張り切ってしまう悲しい性(さが)。それでも、お漬け物ってそんなに「ご遠慮せず」食べられるものじゃない。口の中が塩っ辛くなってきて、味覚がご遠慮しはじめてしまう。
「爆弾おにぎり、買ってこようか・・・。それを食べて中和しつつ、この漬け物をひたすら。で、よこさんは利き酒コーナーで酒を汲んできて、ここで」
「試食品で酒飲んでたら、さすがに怒られると思いますよ」
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