これがほくほく線。
「おお、機動隊の装甲車みたいにガラスに格子が入っている!」
と驚く。まさか過激派から角材でブン殴られるというわけではないだろうから、雪対策なのだろう。
二両編成のワンマンカー。
中はクロスシートだった。
ローカル路線なので、路線バスのように運転台の脇にお金を入れる場所があり、整理券番号とただいまの運賃が表示される電光掲示板が備わっている。
いちいちこういうのに旅情をかき立てられ、思わずソワソワしてしまう。「新幹線に乗った!」というだけでもソワソワもんだというのに、加えて雪景色、そしてワンマンカーのローカル路線だ。テツでなくてもアドレナリン出るわぁ。
でも、キョロキョロしているうちになにやら変なものに気がついた。
天井がつるんとしているのは、まあローカル路線だからそういうものなんだろう。都心の路線のように、吊り広告がびっしり、ということはなくて不思議ではない。しかし、そのつるんとした天井の両脇に、なにやら変な機械が等間隔で取り付けられている。これは一体なんだろう。
よこさんとしばらく議論をする。「音響設備ではないか」「夜になるとムーディーに光るのではないか」という話となったが、だとしたらすごすぎる。
その正解は、ホーム脇に設置されていた大看板に堂々と書いてあった。「ゆめぞら」という編成になっている電車の場合、天井にさまざまな映像を投影して乗客の皆様を楽しませるのだという。へええ、そんなことをやってるのか!ほくほく線、やるな!
「ローカル路線なんだから、廃れてくしかないんよ」という投げやり感がなく、出来ることを出来るうちからやっておく、というアイディア力はすごい。
しかし、こんなん昼間っからは出来ないし、かといってド田舎路線ゆえに夜にわざわざ乗車するお客さんなんてとても少ないはずだ。どうするの?と思って調べてみたら、ほくほく線には魚沼丘陵を突っ切るながーいトンネルがあるので、そのトンネル区間中に披露するのだという。なるほど、そういうことか!
で、我々が今乗っている電車がまさに「ゆめぞら」編成だったのだが、あいにく上映される便ではなかった。くだんの長いトンネルの中は、ひたすら薄暗く「・・・」と通り過ぎていった。
しっかし、ものすごい雪国であることよ。温暖化だのなんだの言われてもこれだもの。一面の銀世界、という言葉はよく聞くけど、僕が勝手に想像していたものと全く違った。僕が想像していたのは、遠くに雪を纏った山が見え、近くにも雪をかぶった木々があり、という構図なのだが、魚沼界隈さんパネエっす。山も木も見えない。天と地の境目もほとんどわからない。時折、道路脇の電柱が見えるくらい。
真っ白。
「うおおお」
と都会育ちの我々二人は興奮しカメラを取り出すが、周囲の地元民とおぼしきお客さんたちは微動だにせず、退屈そうにこの景色をぼんやりと眺めていた。そりゃそうだ、真っ白で見る物なんてなにもないんだし、これが日常なんだし。
「こんな雪の中、山のてっぺんを目指すって・・・明日本当に大丈夫か?」
今日何度目かになる、「明日大丈夫か説」を真剣に議論する二人。
「まあ、中止になったらなったで、温泉入ってうまいもん食ってそれでいいじゃないっすかーはっはっは」
必ず、議論の結論はそこに落ち着く。松之山温泉という名湯があって本当に良い。イベントがダメでも温泉は逃げないさ、という開き直りができるからだ。
13:20過ぎ、まつだい駅到着。1分たりとも遅延をしない頑丈な路線だ。数センチでも雪が積もったら、停電するやら電車が止まるやら大騒ぎになる都心の軟弱電車とは生まれも育ちも違う。
さすがにここで下車するお客さんは多かった。というか、大半のお客さんがここで下車した。ここから先は、より一層秘境と化す。
それにしても寒い。越後湯沢よりも、六日町よりも、一回り寒いということが下りた瞬間にわかる。ぴりり、と肌が痛い。
思わずフードをかぶった状態で、ホームにある温度計を確認したら、0度だった。13時過ぎでこの気温ということは、夜になると氷点下何度になるんだ?まあいいか、今晩は温泉に浸かってぬくぬくだぜ。寒さなんてむしろのぼせ上がるのを防止してくれる良いエアコンだぜ。・・・と思うことにしよう。
「ふむ。0度か。雪が緩んでいないな。ならば明日はなだれの心配もなさそうだ」
神妙な顔をして分析などしてみる。でも、それは高鳴る心を抑えるための言い訳にすぎない。
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