重力がいざなうのです【奥多摩トレックリング2】

白丸ダム

しばらくダウンヒルを楽しんでいるうちに、白丸ダムに到着した。

なんだか今日一日、漕いではストップ、ストップしては漕いでいる感じではあるけど、白丸ダムはぜひ立ち寄りたい「穴場スポット」。ここは外せない。

外観のさりげなさと、中の非日常感のギャップがたまらん。秘密基地好きな男なら悶絶ものだ。女性がこれを見てワクワクするのかどうかは、しらん。

というわけで、白丸ダムの駐車場に自転車を停めた我々の前には、何の変哲もない建物が建っている。

とはいっても、この中に何があるのかというのは、既に参加者全員事前情報として知っているので、今更衝撃を受けたりはしないのだが。

白丸ダム説明

前回の奥多摩サイクリングの記事でも紹介したので今更なのだが、この建物そのものがダムというわけではない。当たり前だ。で、ここから地下にもぐっていけば、魚道がある。ダムによって川の遡上を邪魔されてしまう鮎とかの魚が、ダムを迂回して川の上流にいけるようにしてある優しい世界だ。

普通そんなものは一般人に公開していないものだが、ここなら見ることができる。

いや、見たからといって大して面白いものじゃない。単なる水路だから。でもここのすごいのは、その魚道まで地下深くもぐる際に、螺旋階段があるということだ。これがゲームの中の世界か?と疑うくらいの非日常空間でスゲー。今回ここに立ち寄ったのも、同行者たちを「スゲー!」と驚かせたかったからだ。自分はもう今更驚かなくても、他人が驚く光景を見るだけで大満足できる、そんなスゲー場所。それが白丸ダムの魚道。

螺旋階段

魚道は、ダムの下流から上流に向けてなだらかに作られている。魚が無理なく遡上できるようにするためだ。途中でへこたれてしまい、「もうダメ、わしこれ以上上流いくの辞めるわー」ってなってもらったら困る。そんなわけで、地上から随分深くまでもぐった先に魚道はある。渓谷の谷底にあるわけだから。

螺旋階段の入口は、ごく普通の見た目だ。ここから先、吸い込まれるような穴が開いているとはなかなか想像ができない。巨大な味噌樽か醤油樽です、現在醗酵の最中なんですよーって言われたらなるほどそうか、と思ってしまう。

螺旋階段1

で、中を覗き込めばこれだもんな。アンモナイトとかの化石を思い出させる、不思議な世界。こんなものがさりげなく奥多摩にあるというのは、実物を見ても信じられない。

こういうぐるぐる螺旋階段は、灯台でよく見かける。しかしあれはものすごく細い塔の中に作られており、こうやって「ぐるぐる」を俯瞰することはできない。僕に限らず、その場に居合わせた全員があっけにとられて上からしばらくこの様子を見下ろしていた。

「AKIRAの世界みたいだ」

誰かがそう言った。確かにそうだ。28号(アキラ)を冷凍保存した地下秘密基地のようだ。

「見てみろ、この慌て振りを。。。怖いのだ。。。怖くてたまらずに覆い隠したのだ。。。恥も尊厳も忘れ、築きあげて来た文明も科学もかなぐり捨てて。。。。自ら開けた恐怖の穴を慌てて塞いだのだ。。。。」

AKIRAの作品内で、大佐がつぶやいた言葉を思わず反芻する。
でも実際は、この下にあるのは鮎がウキウキしながら川を遡上する魚道なんだけどな。

螺旋階段2

階段を下る。サイクリングの企画とは到底思えないなあ、とこの光景を見ながら思ったがそれは内緒だ。

螺旋階段3

魚道がある地底まで到達してから、上を見上げる。見よこの見事な螺旋。「自分のDNAもこのような螺旋を描いているのだろうか」とか考えてみたりみなかったり。いや嘘です、さすがにこれを見てそんなことを感じていたら頭がおかしい。

魚道

人が多くてバタバタしてりゃ、俗っぽくて楽しくない空間だと思う。でも、このように我々以外誰もいないので、神秘性というか秘密基地っぽさが際立って、こりゃあもうワクワクがとまらないっすよモウ。

地底にある魚道を観察する。結構急な流れだけど、それでもここをさかのぼって行く魚がいるというのだから驚きだ。そこまでして上流に行きたいと思わせる本能って一体なんなの?と思う。

鮭は川で生まれ海で育ち、そして散乱のために川に戻ってくる。でも、中には海には行かない「引きこもり」な鮭の仲間も存在する(マスの一種)。魚だって、海に行ったり川をのぼったり、めんどくせーことするのがイヤなのがいるんだよな。そりゃそうだよな。

でも、頑張って川をのぼってくる魚もいるわけで、そんなバカ真面目な魚を応援しようというのがこの魚道だ。がんばれがんばれ。でも、我々がじっと観察した限り、そんなに都合よく目の前を魚が通過することはなかったけど。

魚道を見る人たち

全員必死になって魚を探す。みんなの姿勢を見れば、必死に探している様がよくわかると思う。もう、サイクリングしにきたんだか何しにきたんだか、さっぱりわからん。

魚道脇を歩く1

上流に向かって魚道がまっすぐ伸びている。このあたりは、段々畑状態に細かく水が仕切られていて、少しずつ高い位置に魚が上がっていけるように作られていた。

魚道脇を歩く2

そのまっすぐに伸びた魚道を上から見たらこんな感じ。蜘蛛の巣があったりするし、コンクリートの武骨な建造物なので「さわやか!清涼!」という感じの場所ではない。だから、「お魚たちと一緒に泳ぎたい!」なんてバカなことは考えないように。というか、そもそもおぼれる。

白丸ダム本体1

魚道を出たところが、白丸ダム。さっきの螺旋階段まで引き返して、階段を登りやがれ、と言われたら相当にイヤだけど、ダムの上流側に出るのでその点楽だ。

ダムといっても大きな水門といった風情で、ダム湖そのものもそんなに大きいわけではない。

手前からダムの対岸に向けて、荷物運搬用の工事用モノレールが敷設されている。いいなー、あれ乗りたいなー、楽しそうだ。よく、山の斜面に作られたみかん畑であるよな、これ。

白丸ダム本体2

「しょぼいダムだぜ」とバカにしていたら、下流側から見たらあんがいちゃんとしていた。小河内ダムでは見られなかった、「ダムの突堤から放水しちゃいます!」が見られたので随分お得感UP。いいねこれ。

渓谷

しかしなんでこんなさりげないところにダムが?と思うわけだが、よくよく見るとこのあたり一帯もれっきとした渓谷なんだな。急峻な崖に囲まれている、というほどではないけど、谷だ。東京都にもこういうのがあるんだなと今更ながら感心。

こういうディスカバー・トウキョウができるのも、トレックリングの楽しさだ。ドライブだとなかなかこうはいかない。素通りしておしまいだ。

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