13:25
バス停から奥に向かう道は風情がある。いかにも温泉街といった雰囲気で、嬉しくなってくる。それと同時に、「さあ、じっくり腰を落ち着けるか」という覚悟の気持ちも湧いてくる。なにしろ、ここで2泊3日だ。1泊2日と気構えが全く違う。
土産物屋の店頭に置いてある、まげを結った女性の人形がこっちを見て「2泊といわず3泊でも4泊でもするがええ」と言っているようだ。やめてくれ、雨が降っても風が吹いてもずっと店頭にいるアンタとは違うんだ。そこまで長居はできん。住み込みでここで働くならまだしも。
木造の建物が味があって目を惹く。「おぐらや」と書いてある。お土産屋さんらしいのだが、カーテンが締めてあって中をうかがうことはできなかった。2泊3日の滞在中ずっとこの調子だったので、廃業してしまったのだろうか?
いや、「平日は客が少ないからやっていない」のかもしれないし、「冬の間は閉めている」のかもしれない。
平日の温泉は人が少なくて快適だ。しかし、人が少ない分、出迎えるお店の側も休んでいたりする。当たり前のことだ。
13:29
積善館が左手に見えたが、中には入らずに右折して積善館を後にする。チェックイン時間まであと30分。それまでにお昼ご飯を食べつつ、もう少しこのあたりを散策してみようと思う。
積善館本館の正面から伸びている道には、「落合通り」と名づけられているようだ。道幅は狭く、路地裏的な場所だ。しかし、ここにはお店がいくつか並び、四万温泉の中では一番温泉街っぽさを出している。
翌日、積善館のご主人から聞いた話だと、昔はこの道が四万温泉のメインルートだったそうだ。ここから山の上にいったん上がり、そこから山を伝いながら中之条に向かったという。
「今のバスルートの方が楽なのに!なんでわざわざ山の上まで登るの?面倒くせぇ」
と思うが、そりゃ護岸工事がちゃんとなされ、川沿いの崖を切り崩してコンクリートで固めた道路を作ったからだ。大きな石がゴロゴロしている川原を歩くというのはアスレチックに等しく、かなり疲れる。雨が降って増水したら、そもそも川原なんて歩けない。なので、道は山の上ということだ。
昔の人は、当たり前だけど電車もバスもなく徒歩でここまでやってきた。物見遊山感覚で温泉なんて悠長な話じゃない。病を患って、決死の覚悟でここまでたどり着いたのだろう。何日間もかけて。歩ける体力があるうちに湯治ができるならば幸運だけど、「やばい!体が動かねぇ」となってから湯治に行こうと思っても時既に遅しだ。見極め時が難しかったと思う。
その点僕はなんと生ぬるいことよ。「療養」なんて仰々しい言葉を使ってはいるものの、楽天トラベルのボタンポチっで予約完了、あとは電車でGOだ。悲壮感が足りない。「悲壮感のある顔つきのほうが平日休みの罪滅ぼしになるんじゃないか」と思ってみたり、「にこやかにしていないと、中年男性一人旅の自殺志望者と勘違いされる」と思ってみたり。世間体を気にしすぎだ。
落合通りにある商店。
四万温泉にスーパーは存在しないので、ちょっとした買い物ならここでどうぞ。
今現在僕の心配事としては、「積善館の宿メシがボリューム不足だったらどうしよう」ということだ。もし空腹に耐えかねたら、外に脱出しようと思う。しかし、そういうことをやってしまうと、娯楽的要素が強すぎる。もっとストイックにこの2泊3日を過ごしたいので、できれば宿メシで簡潔させたいところ。
13:30
お食事処も発見。いざとなったらこのお店かな、とめぼしをつけておく。
食品サンプルが置いてある。最近サンプルって見る機会が減ったなあ、としげしげと眺める。
ろう細工のサンプルではない。丼やお皿にはラップがかぶせてあるところを見ると、どうやら本物の料理を使っているのだろう。
こういうサンプルって何日おきに交換するのだろう?夏場ともなれば、1日もすれば変色し、場合によってはカビが生えてくると思う。
このお店は、餃子は注文が入ってから生地を延ばし、具を包んで焼くのだという。手間がかかっていてうまそう。
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