ほくほく線の出発時刻が迫っていたので、我々は慌てた。
もちろん、酒飲んでデカいおにぎりを食べてチンタラしていたわけではない。そこは分別ある大人なので、ちゃんと電車の時刻をわかった上でくつろいでいた。しかし下に恐ろしきは観光客の多さよ。びっくりするくらい、人が多い。土曜日昼なのに。
それはぽん酒館をうろうろするだけならまだ良かったが、お会計のときに痛感させられた。ぽん酒館のレジ前に長蛇の列ができている。そしてそれはなかなか前に進まず、じりじりと時間ばっかりが過ぎていくのだった。
それもそのはず、皆様ド観光客なので、ここぞとばかりにあれこれとお買い求めてらっしゃる。一人あたりの買い物かごはぎっしりだ。しかもスーパーマーケットではないので、買った商品は店員さんが袋詰めをしてくれる。要冷凍冷蔵品だったら、保冷剤をつけてラッピングもしてくれる。そんなわけで、処理能力がとても低いのだった。
やばい!このままだと電車に乗り遅れる!
さすがに焦る。
我々が乗ろうとしている電車は13:24直江津行き。ここを逃すと、次の電車は17:04となってしまう。これだと「松之山温泉でまったり」という野望が潰えるし、その他いろいろ予定が狂ってしまう。そもそも宿の送迎車はまつだい駅に14:30お出迎え、という話だったし。
走れ!走れ!
全員が、まさに今日こそが「のっとれ!松代城」本番だといわんばかりに越後湯沢駅を走る。
この越後湯沢駅、山奥にあるとは思えないほどデカいんだよな。憎らしいほど走る羽目に。
一足先にホームに男性陣到着。遅れてくる女性陣を、電車脇で待つ。
もし女性陣が電車の発車に間に合わなかった場合ってどうすればいいんだ?
(1)女性陣を置いて、男性陣だけでまつだいに向かう
(2)乗車を諦め、数時間越後湯沢駅で待機
・・・(2)だろうな、さすがに。(1)は鬼畜すぎる。ということは、電車に乗った状態で、「出入り口から身を乗り出しつつ女性陣を待つ」というのは駄目だ。
遅れながらも女性陣到着。
あまりに焦ったあまりに、発車ベルが鳴る前に全員間に合ってしまった。それでも走っているときはヒヤヒヤもんだ。この駅で電車が出発する際に、発車ベルが鳴るのか?それともいきなりプシューっと扉が閉まって出発してしまうのか?というのがよくわからなかったからだ。全員が乗り込み完了するまで油断はできなかった。
「良かった!間に合った!」
なんていって、走るスピードを緩めたところで「プシュー」では、目も当てられない。
「さっきまでお酒飲んでたのに!」
もうへろへろだ、と今年で齢50を迎えるおやびんがあえぐ。
お酒を飲んだ上に米1合ぺろり、だ。そしてその直後に全力疾走なのだから、過酷だ。
この4名のうち最年少が僕なのだが、肝心の「若造」おかでんがお酒を飲んでいないのだからずるい話だ。すいません。
電車に乗り込んでしばらくしたら、ゴトンという音とともに電車は動き始めた。さあ、気分を入れ替えて「のっとれ!松代城」モードになろう。
酒は美味い。コメも美味い。それは認めよう。でもそれもこれも、「のっとれ!」に参加することに伴い付随するものだ。酒とコメに溺れていたら、松代城にたどり着けないぞ!
「たどり着かなくってもいいぞー」
という声が聞こえてきそうだ。黙れ黙れ酔っ払いども。オレは一滴も飲んでないんだ、たどり着くぞこんちくしょう。
でも、僕は酒が飲めないからこそ、「酒を飲んで陽気になっている人」を見るのが好きだ。むしろもっと飲めと勧めるくらいだ。今回もそう。
窓の外を見ると、越後の山々と、一面の銀世界。気が付いたら我々はすっかり雪国に踏み込んでいた。
秋にはこのあたり一面が金色の稲穂で埋め尽くされているのだろう。冬の間は、ひたすら平らで白い。精神が不安定な人が、この「ひたすら白」を眺め続けたら、だんだん参ってくるかもしれない。都会に住み、テレビやネットに曝され続けていると、こういうモノトーンで情報量が少ない世界というのが癒しでもあるし、恐怖でもある。
ほくほく線はコトコトと音を立てて進む。本日北陸新幹線が開業となったことはめでたいことだが、それと引き換えにほくほく線特急「はくたか」はなくなってしまった。越後湯沢のほくほく線ダイヤがスカスカなのは、特急がごっそり消滅したからでもある。
で、そのはくたかはしれっと北陸新幹線の列車名に転用されている。名前だけは生き続けたけど、ほくほく線特急は消滅した。「ド」が付くといっていいほど田舎を突っ走るローカル路線ほくほく線は、越後湯沢と福井・金沢を結ぶ特急はくたかで生計を立てているに等しかった。しかし、そのドル箱が消えてしまったので、あとは貯金を切り崩しながら営業を続けていくしかない。しかし、こうなることはあらかじめわかっていたことなので、ほくほく線を運営する北越急行はちゃんと内部留保があるのだという。
よかった、ほくほく線がなくなったら、「のっとれ!」に参加するとなると本当に一大事だ。
席が空いたので座る二人。しばらくすると二人そろってうつらうつらとしはじめた。
そりゃそうか、電車の中は暖かいし、お酒が入ってるし、おなかいっぱいだし。
のんびりとした時間が過ぎていく。
電車、とさっきから繰り返し書いているが、ほくほく線は電化されているので「電車」で間違いない。こんなローカル路線なのにディーゼルではないのか!と驚くが、直江津以東はJRの北陸本線を走ることになるので、電化は必須だったようだ。維持費用が大変だとは思うが・・・。
車内は、さほど混んでいない。明日はのっとれ!戦士が500名近く終結することを考えると、拍子抜けするような状態だ。やはり、現地に前泊してまでのっとれ!に挑む人は少ないらしい。せいぜい、越後湯沢に前泊なのだろう。
まつだい駅周辺の観光案内。おっと、明日のっとる予定の松代城もちゃんと紹介されていたぞ。
標高384mの城山山頂にそびえ、町内を一望できる町のシンボル。
天守閣には展望台があり、松代の町並みや魚沼の連なりまで視界360度の眺望を楽しむことができます。町の歴史を図解入りで展示しています。
●駅から車で3分+徒歩5分 2km
説明が足りないな、「毎年冬になると『冬将軍』に城を奪われ、越後に春が来ないという悲劇が繰り返される。そのため、3月に城をのっとり、冬将軍を追い出す勇者が現れる」という記述を足さないと。
まつだい駅に到着。無人駅なので静かだ。下車する人の数もさほど多くない。
下車した瞬間にきん、とほほに突き刺さる冷気と乾燥した空気。東京都も越後湯沢とも違う、リアル雪国がここにあった。さみーさみー、早く温泉に浸かろうぜモウ。
今日宿泊する松之山温泉の宿は、無料で送迎車をまつだい駅まで出してくれる。そのため、タクシーを手配しなくて良い分お金が浮くが(3,000円強)、「会場を下見してから宿に向かう」といったフリーダムな行動はできなかった。予約時に「車のお出迎えはちょっと遅い時間にできますか?」と聞いてみたのだけど、電車が到着する時間である14:30一択、だった。個々のお客さんにあわせて送迎なんて、とてもじゃないがやってられないのでごもっともだ。
ちなみにほくほく線はこの日から大幅にダイヤが変わっており、その影響で僕らも混乱した。webなどで見ていた時刻表と、実際の時刻表が異なっていたからだ。今回の旅行計画を立てたのは2ヶ月近くも前であり、web上ではまだダイヤ改正後の時刻が出ておらず、それで惑わされたというわけだ。事前に宿から連絡が入り、「ダイヤ改正がこの日からありますけど大丈夫ですか?」と確認をとってくれたので助かった。
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