11:53
天皇の間記念公園から車ですぐのところに、「塩原温泉ビジターセンター」がある。僕は旅行先では、極力「道の駅」と「ビジターセンター」には立ち寄りたいと思っているので、今回ももちろん立ち寄ることにした。道中だし。
もう、「観光ではない、通りすがりだ」と言い訳するのも面倒になってきた。観光でいいよ。ああ観光だとも。
とはいえ、「ビジターセンター」というのはもっぱらその周辺の自然を紹介する施設だ。森に住む動植物を写真や剥製・標本で展示し、大地の豊かな恵みを教えてくれる。
・・・とはいえ、「ビジターセンター」が「観光案内所」ではない、ということに気がついたのはつい最近のことだ。どこのビジターセンターに行っても、色気のない、自然博物館みたいな展示しかやっていないのでおっかしいなあと思っていたのだけど、そりゃそうだ、ここは環境省が管轄している施設だからだ。
ゆったりとした敷地に建物が建っていて、天気が良ければこのあたりを散策するだけでも気分がリフレッシュされるだろう。
ビジターセンター内部。
塩原温泉11湯が紹介されていた。
それぞれ泉質が違うので、面白い。特に今晩泊まる予定の「新湯」はまだ噴煙を上げている山肌のすぐ脇にある温泉なので、硫黄を含んだ白濁湯だ。
「温泉は白濁した硫黄泉が好き~」というのは、馬鹿の一つ覚えみたいでイヤなのだが、実際そういうのが気持ちいいのは間違いない。
11湯。ごくり。コイツらを全部巡る旅というのは・・・
一瞬、スタンプラリー感覚で全湯制覇なんて言葉が頭をよぎったが、やめた。少なくとも今回はダメだ。
今回は?じゃあ、いずれはやろうってことですか兄貴!
いやいやいや、やらないぞ?
それより先に、ずっと暖めてきた「別府温泉完全制覇」の方が先だ。別府は共同浴場の数が猛烈に多く、その数100を越えるという。GWや夏休みを使って、ひたすら風呂に入りまくる旅というのをやってみたいものだ。
12:03
さあ、ここからが塩原温泉の中心地だ。
国道400号は、このあたりはバイパス的位置づけになっていて、山側を通っている。しかし、集落があるのはもっと谷沿いのほうで、そっちの方が風情がありそうなので敢えて旧道に向かう。
温泉街は裏道こそ楽しい。
僕が温泉滞在記を書くとき大抵触れていると思うが、温泉街の裏道は「うかつさ」があって味わい深い。宿の表側は奇麗にしてあっても、裏側は洗濯物が干してあったり、錆びた柱が剥き出しになっていたり。でもむしろそういうのが生活感を感じ、面白いと思う。
川を渡る。
このあたりが「塩釜温泉」と呼ばれるエリア。
塩原温泉の中心地とほぼ繋がっていて、このあたりはどこからどこまでが何温泉と呼ぶのか、よそものにはわかりにくい。
12:04
「塩原バレーライン」と呼ばれる道を西へと向かう。
案内看板が見える。「畑下旅館街入口 50m先左へ下る」と書いてある。
もう次の「畑下温泉」が近づいてきた。
畑下温泉とは、川が大きく蛇行していて、まるで半島のようにせり出したエリアのことを指すらしい。塩原バレーラインから逸れる形で、このエリアを通る道があるので素通りしてみることにした。
「えー、本当にこの道を入るんですか?」
困惑する助手席の同行者。ハンドルを握る僕も、「これは道を間違えたか?」と思うような、ローカルな道だった。
慣れない土地で間違った道に入ってしまうと、焦る。その焦りが、思わぬ事故を起こしてしまうことがあるのであまりやってはいけないことだ。前から車がやってきて、すれ違えないものだから慌ててUターンしようとして壁にぶつける、といったことは十分にありえる。
温泉街、といっても、地味な旅館が何軒かひっそりと建っているだけのエリアだった。
正面の建物も旅館っぽいけど、営業しているのかどうかわからない。Googleマップを見ると、「旅館紅葉荘清琴楼」となっていた。やっぱり旅館らしい。
ちなみに「清琴楼」は写真左側にある宿で(写真では写っていない)、渡り廊下を通じて第二別館、そしてこの紅葉荘へとテリトリーを拡大しているようだ。増改築・合併のたまものだろうか。
それはそうと、Googleマップで清琴楼を見ると、ご丁寧に建物の内部情報まで確認することができる。厨房どころか「盛り付け場」の場所までわかるし、205号室は階段の隣の部屋だからちょっと部屋の作りがいびつですね、なんてことまで分かる。何のメリットがあるんだ、これ。面白いけど。
温泉街といえば廃墟はつきものだけど、これは・・・廃墟と呼んでいいのか、なんなのか。
12:08
車一台ギリギリ通れる道をすり抜け、畑下温泉街は脱出。ふたたび塩原バレーラインに戻る。
「いいかい、いかにも温泉街!っていう風情があったらすかさず激写するんだよ?」
助手席のカツに声をかけるが、カツはカメラを構えたまま困惑している。
「どういうのを撮ればいいんでしょう?」
「どういうのって、言われてもねえ・・・」
確かに、目の前に広がる町は、これぞ温泉街!といった雰囲気ではない。特に盛り上がりがないまま、ぼちぼち宿や商店が並んでいる。観光客向けに盛り上がっている雰囲気は、特に感じられない。
「えーと」
お願いしておいてなんだが、自分でもこれ!という希望を伝えられなかった。
苦し紛れに撮影された写真がこれ。
このあたりは「門前温泉」と呼ばれているエリア。すぐ近くに「妙雲寺」というお寺があるので、それが名前の由来だろう。
橋を渡ったあたりで急に宿らしい建物が増えてきた。
「おお!これだ、こういうのが温泉街っていうやつだ!」
適当にわめいて、シャッターを促す。
しかし、建物が立ち並んでいるだけで、風情とかそういうものはまだ感じられない。
「えーと」
「うーん」
「あー」
特にフォトジェニックな撮影ポイントはなく、塩原温泉郷の中核となる「古町温泉」は素通りしてしまったっぽい。
どうもこの地は、一部の大型旅館が温泉客をごっそりと抱え込んでしまい、温泉街を宿泊客が散策して楽しむ・・・という文化ではないようだ。飲食店や土産物屋もあることはあるようだけど、「点」に留まっていて「線」にはなっていないような印象だった。
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