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江の島展望灯台には向かわず、そのまま石畳の道を進む。
この先に何があるのかよく知らないのだけど、行けるところまで行ってみよう。
あ、この道の突き当たりには「岩屋洞窟」があるって?へえ、そんな秘密基地みたいなのが江の島にあったのか。
ということは、この道はその岩屋洞窟に行きたい人が通る道、ということだろうか。
島のてっぺん付近、しかも江の島の付け根部分からはずいぶん遠い場所になる場所なのに、石畳の道の左右にはお店が並ぶ。まさか単なる民家ではあるまい。
営業していないお店も結構あるが、海水浴シーズンではないから開けていないからなのか、営業をやめてしまったのか、それとももともとお店じゃなかったのか。
いろいろ考えながら、小雨で濡れて風情ある道を歩くのは趣がある。
営業していたお店、「民宿 磯料理 海上亭」。
江の島のてっぺんに民宿があるのか!
海水浴客が泊まるのか、それとも釣り客なのか、または観光客なのか。
僕は全国各地いろいろ旅行をしてきたけど、こういうのを見るにつけ「まだまだ甘いなあ」と思う。「楽天トラベルとかじゃらんに載っているような宿しか、この世の宿ではない」という勘違いをしている。だから、こういう場所にある民宿にどんなお客さんが泊まるのか、想像したこともなかった。
自分の不明を大いに恥じたところで、気になるのは昼間の営業だ。昼間は磯料理屋として営業をしているようで、「江の島丼、さしみ、いせえび、アワビ、つぼやき」と染め抜かれたのれんがぶら下がっている。おっと、「生しらす有ります」の黒板も。
ここまでは車で資材を運ぶことができないので、車道があるところから人力で運び上げるしかない。山小屋みたいなものだ。昼間は食堂、夜は宿という営業スタイルでほぼ24時間営業なところも山小屋的。地味に大変なお仕事だと思う。頑張れ。
山二つ、という場所にやってきた。
江の島の南側が見える、数少ないビュースポット。
左右に崖があることから「山二つ」という名前になったらしい。
どこかでこの光景を見たことがある・・・と思ったら、ああそうだ、漫画版の「孤独のグルメ」で主人公の井之頭五郎がここを訪れていたっけ!
「孤独のグルメ」は俳優・松重豊によるドラマ版がとても有名だけど、あれはもはやギャグドラマに近い演出になっている。しかし、原作の漫画版(しかも第一巻)はものすごく渋く、オチがないけれど味わい深く100回読んでも飽きがこないスルメのような作品になっている。僕の愛読書の一つだ。
主人公・井之頭五郎はこの「山二つ」のところでこう回想している。
その頃 俺はカメラに少し興味を持っていて
確か崖の見える場所で彼女のモノクロ写真を撮ったんだな俺はカメラの露出に夢中だったけど
もしかしたらあの頃すでに彼女の心は
俺から離れつつあったのかもしれない
(孤独のグルメ「第9話神奈川県藤沢市江ノ島の江ノ島丼」より)
・・・ここで記念写真を撮るのはやめておこう。
なので、風景写真だけ撮影して、先に進む。
「山二つ」という地名のとおり、いったんここは石段を下り、そしてまた登り直すことになる。
山二つの一番低いところに、「中村屋羊羹店」があった。
あらためて「孤独のグルメの聖地」だと思えば、がぜんこの風景が盛り上がってくる。この漫画はとても写実的な背景画であり、実物を見ればすぐに「ああ、漫画に出てきたお店だ」とわかる。
この「女夫饅頭」もそう。
なるほど、茶色と白の二色饅頭なんだな。さすがに白黒の漫画なので、色あいまではわからなかった。
「孤独のグルメ」は熱狂的なファンが多いので、漫画版・ドラマ版問わず登場した土地・お店を「聖地巡礼」し、それをブログに載せているのをよく見かける。
今更僕が聖地巡礼記事を書くにはあまりに準備不足で油断していたし、他の人がすでにさんざんやっている。今回ここではあれこれ書くのはやめておこう。
ちなみに今回の旅の同伴者は「孤独のグルメ」を読んでいなかったため、僕一人が「おおおお」と喜んでいる状態。
俺は孤独のグルメの聖地巡礼に夢中だったけど
もしかしたらあの頃すでに彼女の心は
俺から離れつつあったのかもしれない
・・・おい、やめろやめろ。縁起が悪い。
女夫饅頭のお店を過ぎたら、ソフトクリームを売っているお店があった。
よくもまあここまで種類があるものだ!とびっくりさせられる。居酒屋のメニュー短冊みたいじゃないか。
しかも、単なる受け狙いなのか、それとも「たくさん種類を揃えようとしたらネタが切れた」からなのか、変なメニューがたくさんある。
しらす、くらげ、日本酒、どぶろく、もずく、とうふミルク、和からし、本わさび、トマト・・・。
「ずんだ味」でさえ「結構攻めてるなー!」と思えるのに、それが全くかすんでしまうその他のラインナップ。これはネタ切れだから変なメニューに迷い込んだんじゃない、確信犯だ。観光地向けメニュー編成、ということなのだろう。うまいものを、というよりも「面白いものを」という観光客向け。
おい、「そばソフトクリーム」ってものまであるぞ。一体どんな味なんだよ。
「ルチン・ビタミンC入り」って書いてあるけど、別にソフトクリームでルチンを摂取したいとは思わないぞ?
どこの怪しいメーカーがこんなメニュー展開をやっているんだ、と思ったら、「TOMIスジャータシルクアイス」と書いてあった。
それにしてもいくら江の島名物だからって、しらすがソフトクリームになるとは。
「しらすの食感が楽しめます」って言われても。
「食感も楽しく、ミネラル豊富!」って、こういうところで栄養について語られても困る。
怖い物見たさに、頼んでみることにした。しらすソフトを。
それにしても、これだけの大量のソフトクリームをどうやって提供しているのだろう?サーティーワンアイスクリームみたいに半球型のアイスではなく、ちゃんと「渦巻き型」のソフトクリームだ。
不思議に思って店内を眺めてみたら、肝心のソフトクリーム製造機は2台しかなかった。あれれ、どうするんだろう、と思ったら、店員さんは冷凍庫から何やら容器を探し出し、機械にガチャンとセットした。すると、その機械からしらすソフトがブリブリっと。
・・・擬音が汚いな。ええと、プリプリッと。あんまり変わらないか。
なるほど!「ネスプレッソ」方式、というわけだ。それぞれの味のカプセルを装着するだけで、違った味のソフトクリームを1台で抽出できるというわけか。賢いなぁ。
製法に感心している場合じゃない。
肝心の「しらすソフト」ができあがった。お値段350円。
観光地だと思えば安い?
当初イメージしていた、「バニラアイスクリームの上にしらすをパラパラとトッピングしたもの」とは違った。完全にバニラの中にしらすが練り込まれているものだった。
なので、しらすそのものがクリームの中からhalloとあいさつしてくることはない。でも、所々、黒いポツポツが見える。これがしらすの名残なのだろう。
食べてみたけど、しらすと言われればそういう気がしなくもないけれど、という味だった。味のベースとなる「塩ミルクアイス」の味がほとんどで、しらすっぽさは感じられなかった。
ちょっと残念だけど、だからといって本当にしらす味が強かったら、それはそれで気持ち悪いと思う。これくらいが「美味しく食べる」ためにはちょうど良いんだろう、と納得する。
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